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No.2
by エティエンヌ 2014-08-30 15:57:59
昨日までが、幸せでした#620
ガリガリガリガリ
ぶちっ
今日も指先のエナメルを歯で削る。
爪が裂け、肉が見え、中々のグロテスク状態。直視したくは無い。
いつのまにか癖になっていた。何かあると、すぐに爪を齧る。
そんな私を見かねたのか、隣の男子がマニキュアを塗ってくれた。臭いがきついので中庭で。
もう、二ヶ月になるだろう。彼との付き合いは。
週に一度、金曜日の放課後。
彼の手にかかれば、私の爪は見違えるほど美しい桜が咲いた。
「ねぇ、いつもありがとう」
「おう。でもお前の手、綺麗なんだから手入れしとけよ。」
今日もまた放課後彼に会いに行く。毎週の楽しみ。
自分でも正直なところ手入れも出来てきたが、こんな繋がりを断ち切るようなことはしたくなかった。
今日は夏というのに涼しい風が吹いている日だった。
「今日も綺麗になったな。」
「そりゃ、いつもやってくれるからだよ」
ほんの些細な会話。彼の息遣いが手に触れて、骨の髄まで震え上がる。
「このマニキュアお前にやるよ」
そう彼は言い、無理やり私の手にマニキュアを押し込んだ。
その彼の言葉は私の中では絶望を促す言葉でしか無かった。
このマニキュアを寄越すことは、もう彼と会えない。つまりは繋がりを断ち切られたということだ。
硬直した私を残して彼は背を向け去っていった。
最近なおった癖がまた出てきた。
根元から綺麗に割れ、桜も割れていた。
割れた爪、見える肉、これを彼が見たらどう思うのだろうか。
次の日、彼は何所にもいなかった。
担任は遠い所へ行ったと言っている。
これから始まろうとする夏休み。
私の中には虚しさしか残らなかった。
ガリガリガリガリ
・・・・ぶちっ、
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お題:「確かに恋だった」様