とくめい。 2014-08-16 00:36:24 |
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__その日は異常に身体が怠かった。
部活中もロードワークをしただけで試合をした後のように多量の汗をかき、胸の辺りが痛んだ。
痛みはそれ程でもなかった為、気にせずに過ごしていた。
監督や先輩達には顔色が悪いといわれたけど。
最近は仕事続きだったし、疲れているのかもしれない。
前も、似たような症状が出た事があって過労による物だと診断された。
だから、大丈夫だって思ってた。
何故だか無性に彼女に会いたくなり、俺は部活終わりに東京へと向かった。
1時半掛けて着いたのは、“私立誠凛高校“というプレートが貼られている学校の校門前。
なるべく目立たないようにしながら彼女の姿を探す。
「…黄瀬くん?」
聞き慣れた声がし、そちらを向くと黒子っちが驚いたような顔をしながら立っていた。
「会いに来ちゃったッス」
へへ。と笑みを溢しつつ後ろ髪を触りながら言い、今すぐにでも抱き締めたいのを我慢する。
そうすると、黒子っちが俺の手を引き、早起きで歩き始めた。
少し慌てて後を付いて行く。
暫く歩き、公園の前でそっと手を離された。
「すみません、校門の所だと騒がしくなると思ったので 」
と肩につくぐらいに伸びた髪を耳に掛けながら申し訳なさそうに謝る。
学校の近くにはお年寄りが住んでいて、孫を迎えに校門前で待っている事があるから邪魔にならないようにするのと、俺への配慮なのだと思う。
「全然気にしてないッスよ、あのおばあちゃんと俺の為でしょ?」
その事に気付いている俺は笑顔で言った。
彼女の礼儀正しく気遣いの出来るけど、実は負けず嫌いな所に惹かれたのだろう。
「はい、」
コクリと頷き、控えめに返事をする彼女が可愛らしく見えてそっと華奢な身体を抱き寄せた。
「…黒子っち、好き。」
抱き締めたまま、互いの額と目線を合わせながら言う。
「私もです、黄瀬くん」
黒子っちは腕を俺の背中に回すと白い頬を紅く染め、ふわりと微笑みながら返してくれた。
微笑みかけそうとした時、激しい胸の痛みが走った。
ロードワークの時の倍の痛さで、まるで心臓を鷲掴みにされているような感覚があった。
痛みに耐えられず、そのまま膝から崩れ落ちる。
「く、ぅ…ッ、っあ…!」
掠れた声が喉から溢れ、胸をぎゅっと押さえてうずくまった。
「黄瀬…くん…? 黄瀬くん!どうしたんですか、ねえ!」
黒子っちが大きな目に一杯涙を溜めながら俺の身体を必死に揺すりながら呼び掛ける。
彼女の頬に触れようと伸ばした手は虚しくも空を切り、俺の意識はそこで途切れた──。
──瀬くん、黄瀬くんっ…
何処からか、声が聞こえて来て俺の意識は浮上した。
ゆっくりと目を開けると、黒子っちがひどくなきだしそうな顔で俺の名前を呼んでいた。
「…黒子っち……。」
喉から出た声は自分でも驚く程小さく、細かった。
「黄瀬くんっ…良かった、気が付いたんですね!」
彼女には届いたのか、泣き笑いしながら言葉を発しそのまま抱き締めて来た。
黒子っちに心配掛けるなんて…何やってんの、俺…。
自分に呆れつつ、抱き締め返す。
「黒子っち、心配掛けてごめん…」
「いえ…、目を覚ましてくれて良かったです」
謝罪をすると俺の顔を見ながら笑顔で言ってくれた。
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