ハナミズキ 2014-08-06 15:25:24 |
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その頃サラとブライアンは夕食を食べていた。
「サラ、このシチューうまいな」
「うまいじゃなくて、美味しいでしょ?」
「いいだろ・・・そんな細かい事」
「チエッ・・」と言いながら、二人は楽しく会話をしながら食べていた。
食事が終わり、後片付けも終わると、サラはお風呂に入りに行った。
服を脱ぎ、シャワーを浴びながら身体を洗おうとした時、石鹸が無い事に気づく。
脱衣所のドアを開け
「ブライア~ン、石鹸ちょうだ~い」
居間に居るブライアンに聞こえるような大きな声で叫んだ。
ブライアンは言われたとおりに持っていったが、一糸まとわぬサラの姿を目にして、思わず顔が引きつる。
石鹸を渡しながら
「おまえなぁ・・・・俺だって一応男なんだぞ?
恥じらいってものがないのかよ・・・・ハァ・・・」
そう言うとすぐさまサラから目を逸らし、後ろを向いた。
「何言ってるのよ。
ついこの間まで一緒にお風呂に入っていたくせに」
「ついこの間じゃねぇよ!10年も前だ!10年!!」
そう、ブライアンは今年で17歳になっていた。
「10年なんて昨日と一緒じゃない・・・」
「・・・サラには昨日みたいに短くても、俺たちに取ったら結構過去の事なのよ・・・。
たのむよ・・・」
数万年、数千万年生きてきたサラにとっての10年は、まさに昨日の出来事だ。
しかし、普通の人間や魔族にとれば、それなりに長い年月なのだ。
間隔のずれである。
そしてブライアンも、サラの見た目年齢に近づいてきていた。
それでもサラは未だに、ブライアンを子共扱いをする事があり、先ほどのように平気であられもない姿で現れる。
カミナリが苦手なサラは、夜中にカミナリが鳴り出すと、ブライアンのベッドに潜り込み一緒に寝るなど、年頃の少年になったブライアンには少々戸惑いを隠せない。
いつ頃からだろうか、ブライアンがサラを1人の異性として気になるようになったのは。
初めのうちは優しいお姉さんとしか見ていなかったのが、5年経ち、10年経ち、15年が過ぎても歳を取らず、全く見た目が変わらないサラを不思議に思っていた。
父である王様も、サラには敬語を使って話していたので、いったいサラは何者なんだろうと思う時もあったが、いつも一緒に居るサラは優しく、聡明で世の中のすべてを知っている、尊敬に値する人物だった。
そんなサラに憧れ、崇拝もしていたが、いつもは何者にも屈せず、何者にも臆せずしっかりとした人物なのに、カミナリだけは苦手で、カミナリが鳴り出すと、他の誰でもないブライアンだけにしがみついてくる。
そんなサラを愛おしく思い、この人を守らねばと思うようになっていった。
だが、いつ頃からこの感情が芽生えたのかは定かではない。
翌朝、城からの使いが王様の手紙を持ってやってきた。
城の内情は手が取るように解っているサラは、その手紙にさっと目を通した後、ブライアンと共に城に向かった。
城門をくぐると、みながブライアンの事をジロジロと見てくる。
それもそのはずだ。
この城にいるダニエル王子と同じ顔なのだから。
サラサラと風になびく錦糸のような金の色に輝く髪、凛々しい眉毛、切れ長でグリーンの瞳に鼻筋も高く、キスをされたらとろけてしまいそうな艶やかな唇。
違うところといえば雰囲気だけだろうか。
ダニエルは物静かな優等生タイプで、ブライアンは、サラに鍛えられたせいか、少し野性味のあふれる硬派なイメージだ。
この二人が並ぶと圧巻だ。
特に女官たちは遠くからブライアンの姿を見ただけで、キャーキャーと言って騒いでいた。
それだけ存在が目立つのだ。
王様の手紙に寄れば、時期は早いが城に戻ってきて欲しいとのことだった。
サラは城に戻る条件として、ブライアンの身の安全のために同じ部屋で寝起きする事を提言した。
いままでそのような前例がなかったものの、伝説の魔女がそう言うならと納得をさせた。
しかし、いくら同じ部屋だからと言っても、同じベッドで寝るわけではない。
部屋の中に、一つの扉で繋がっている、もう一つの方の部屋を使うと言う事だ。
当然この部屋全体には、サラの魔法により完璧な防護壁が施されており、この部屋に入れるのはサラとブライアンのみとなっている。
他の者が無断で入ろうとしたものなら、防護壁の餌食になり、その場に気を失って倒れるほどの電流が身体を貫通し、倒れる仕掛けになっている。
魔法で破壊しようとしても、放った魔法の魔力がそのまま自分に帰ってきてしまい、これまた大怪我を追うということになる。
ブライアンがどこに行くにも、その傍らにはいつも必ずサラが付いており、ミズモラの暗殺計画がなかなか実行される事は出来なかった。
ミズモラは、その隙を作るために、旅の楽団を呼び寄せる事を考えていた。
―――― つづく ―――――
二人が城に戻ってから1週間がたった。
出される食事の中には時折毒が入っている事があるが、そういう時はサラが分からないように魔法をかけて取り除く。
剣術の練習の時も、事故に見せかけわざと切り殺そうとするが、いままで剣術の練習相手だったサラと比べると、物足りなさを感じるブライアンだった。
練習が終わりサラと二人城の庭を散策してみる。
敵が狙って気安い場所や位置。
進入可能そうな抜け道。
それらを確認していたのだ。
すると、建物の影からカートが現れた。
並んで歩く二人の姿は恋人同士に見える。
しかし、ブライアンの世話を焼いている姿は、ブライアンの下女にも見える。
だが、最も目を引くのはサラのその容姿だった。
大地を思わせる栗色で、ふわふわして長い髪。
空と海を合わせたかのような、澄んだグリーンの大きな瞳。
真っ赤に熟れたさくらんぼ色の、少しぷっくりとした美味しそうな唇。
ブライアンと話している時は、少女のような顔をし、辺りを見回し何かを考えている時は大人の顔をする。
そんな不思議な少女に興味を抱き、二人の関係が気になったカートは、探りを入れるためにやってきた。
「これはこれは時期王様、ご機嫌麗しく申し上げます」
嫌味たっぷりに挨拶をしてきた。
後ろに控えている護衛の臣下も、不敵な笑みを浮かべていた。
幼い頃からサラに、感情をむやみに出してはいけない、相手に己の心のうちを悟られてはいけないと、厳しく躾けられていたので、ブライアンは無表情で
「何か御用ですか」
女性はもちろん、男も悩殺しそうな笑顔で答えた。
「いえ、ただ姿を拝見したものですからね、ご挨拶までにと。
・・・ところで、あなたの後ろで控えてるその女性とは、いったいどんなご関係なんです?」
「彼女ですか?彼女は私にとって一番大事な人ですよ。
ですから、彼女に何かしたら、命はないものと思ってください」
笑顔を浮かべながら言ってはいるものの、目が笑っていなかった。
その鋭い目つきは、今にも殺されるのではないかと言うほどに殺気に満ちていたのだ。
しかし、魔力に頼りすぎていたカートは、空気を読むとか、相手の心情を読み取る事が出来ない愚か者だったので、そのまま嫌味を言い続ける。
「ほぅ、大事な人ですか。
では、もし彼女が他の男に心を奪われた場合はどうしますか?」
そう言いながらカートはサラの顎に手をかけ、クイッっと上を向かせた。
それを見たブライアンは、いきなりカートの胸ぐらを掴み、
「その汚い手を離せ!!」
と、殴りかかろうとした。
「ブライアン!!」
サラが大きな声を出して止めに入る。
はっ!と我に返るブライアンに、サラからその行為をとがめる為のゲンコツを頭上に貰った。
「いってぇ~・・・なにすんだよ~・・・」
「何回言ったら分かるの!?
落ち着いて相手をよく見て考えなさいっていつも言ってるでしょ!?
あんたはどうして私のことが絡むとそう自制心を無くすの?
そんなんじゃ、いつまで経っても私が側にいないといけないでしょ・・・。
あなたはもっと心を鍛えなさい!
返事は?!」
「・・・はい。」
そのやり取りを見ていたカートと臣下は、口をあんぐりと開けて見ているだけだった。
そんなカートに対し、サラは大きなため息を一つ付くと
「・・・・カート、私があなたの事を好きになる事は一生無いので、どうぞご安心くださいな」
満面の笑みを浮かべながら、その手を払いのけた。
後ろにいた護衛官が、サラを取り押さえようとしたが、それも軽く払いのけられる。
そんな二人を尻目に、サラとブライアンはその場を後にした。
歩きながらブライアンは、少し意地悪っぽく
「なぁ、じゃあ俺の事を好きになる可能性ってあるのか?」
「何言ってるのよ、ブライアン、あなたのことは大好きよ?
知らなかったの?」
「いや、知ってたけど・・・」
サラが自分のことが好きだろうと言うことは、知っていた。
知ってはいたが、まさかさらっと「大好き」と言われるとは思ってもいなかったのだ。
サラは、なに?変な子。と言うような顔つきでブライアンを見つめている。
――― そう言う意味の好きじゃなくて、違う意味での「好き」って事だったんだけどな ―――
ブライアンは少しがっくりと肩を落とし、笑い合いながら二人は見詰め合っていた。
ますます二人の関係が分からなくなってきたカートは、ブライアンが片思いをしているサラを、自分の物にするべく計画を練りだした。
ブライアンが王宮の歴史を勉強している間は、サラにとっては自由時間だ。
一人の時は城内のあちこちを歩きまわり、防護壁の結界のチェックをしながら、弱まっている場所は修復などをして回っていた。
そこにカートが1人でやってきた。
「きさま、こんな所で何をしてる」
「見て分からない?この城の結界のチェックをしてるのよ」
「そんな事は警備隊の仕事だろ!?なぜお前がする」
「暇だからよ」
ざっくりと言い放った。
自分はこの大陸の王妃の息子であり、王位継承第三位の王子なのだ。
その自分に、こびへつらう事のない女が珍しかったということもあり、なぜかサラの事が気になって仕方がなかった。
「おまえ、魔族なんだよな」
「あなたバカ?魔族じゃなかったら結界の場所さえ分からないじゃない・・・」
「なっ・・そうじゃなくってだな・・・」
「はっきり言いなさいよ!男でしょ!?」
「だぁ~!もういい!こっちこいよ!」
他人の作った結界を張り直すほどの力があるのに、なぜ魔力の使えない者といつも一緒にいるのか、なぜブライアンだけに優しい笑顔を見せるのか、不思議でしょうがなかった。
その笑顔を自分にも向けて欲しいとさえ思っていた。
言いたい事がうまく言えないカートは、サラの手を引きコンクリートとブロックが無造作に置かれている広い庭に来た。
きょとんとした顔のサラに対し
「俺の魔力見せてやるよ」
得意げな顔で言った。
カートの魔力などサラはとっくに知っていた。
知ってはいたが、少し暇だったので、」カートの遊びに少し付き合ってあげることにし、近くにあった椅子に腰をかけた。
カートは、呪文を唱えコンクリートの壁を爆破した。
この魔法は上級魔法で、魔力の強いものしか扱えない業だ。
この魔法を見せる事によって、サラが自分に興味を持ってくれるのではないかと思っていた。
「どうだ」
ドヤ顔で自信満々のカート。
「うん。すごいね。」
まるで棒読みのような返事をするサラ。
いままでならキャーキャー言われ、尊敬に満ちた目で見られたり、少しでもカートに気に入られようと擦り寄ってくる人ばかりだったため、あまりにもそっけないサラの返事に、少々意地になってしまった。
爆破がダメなら浮遊術、浮遊術がダメなら水術、火術など、ありとあらゆる魔法を見せ付けたが、相変らず
「すごい、すごい」
と棒読み状態であった。
そこにブライアンがサラを探してやってきた。
ブライアンの姿を見て驚いたのはカートだ。
カート達がいま居るこの空間は、カートの結界魔法により、完全な異空間となっていたからだ。
つまり、外界からはカート以外または、カートの許可を貰ったものしか入る事のできない異次元空間となっていた。
そこになんの許可もなしにすんなり入ってきたのである。
驚くなという方が無理だろう。
「ブライアン、お前どうやってここまで入ってきた」
「はぁ?普通にサラの気配を追って歩いてたら来たが」
「ばかな。この周りには決壊が羽ってあるんだぞ!?」
「結界?そんなもんなかったが」
カートは慌てて結界のポイントに向かったが、そこには確かに結界が張ってあった。
なぜブライアンは結界に引っかからずにここまで来れたのだろうか。
いったいブライアンは何者なんだと思い始めた。
だが、うぬぼれの強いカートは、またしても強気の態度にでる。
「ブライアンの魔力をぜひ一度拝見したいな。
次の魔王になるくらいなんだから、素晴らしい魔力を持っているんだろうな」
「あー・・・俺、魔力使えないんだわ。ワルイ」
「はぁ?!魔力も使えないようなやつが魔王とか笑わせるなよな!
なら、魔力が扱える俺が魔王になってやるよ。安心しろ」
あははははは。と高笑いをした。
そしていきなり呪文を唱えだした。
木の葉が舞い、鋭い刃物となってブライアンめがけて飛んできた。
ブライアンの体に、刃物化した葉っぱが切り刻んでくる。
しかし、いくら切り刻まれても血の一滴さえ流れては来なかった。
もがき苦しむ様子もない。
不思議に思っていると、カートに急に激痛が走った。
身体を見てみると、血が大量に流れている。
あまりの痛さと出欠のため、カートはその場に倒れこんでしまう。
「・・・なぜ・・お・・れ・・が・・・・」
「あっ、ごめんなさ~い、言い忘れてたわ。
ブライアンには守りの術がかけられてるのよ」
守りの術とは、その術をかけられた本人が、物理的攻撃や、術的攻撃をされた場合、身体に受けた衝撃や怪我が、そのままそっくり術者または、攻撃をしたものに返ってしまうという防御の中でも最上級の術である。
「でもカートは凄い魔法使いなんでしょ?治癒の術でそれくらいの怪我なら治せるじゃない」
サラはあくまでも手を貸す気がないようだ。
「・・おれ・・は・・・つかえ・・・」
ゴフッっと大量の血を吐き気を失った。
「しかたがないわね・・・・」
サラは片手を天に向けて大きく伸ばし上げ、気を集中する。
すると、手の周りに光り輝く気が集まってきた。
その気はだんだん大きくなり、赤ん坊の頭ほどになる。
それを横たわっているカートの心臓めがけて押し込んだ。
押し込めると、カートの身体全体が金色の光に包まれ、包まれたかと思ったら、徐々に霧が晴れるかのように消えてなくなっていった。
霧がすべて消え去ると、カートが目を覚まし、心臓の激痛に悶絶していた。
「怪我はすべて治しといたわよ」
「っぅう・・・」
悶絶しながらも
「お前はいったい何者だ・・・」
サラは少しムッとしながら
「その前に言う事があるでしょ?」
「言う事など何もない」
枯れ葉を払いのけながらカートは立ち上がった。
礼儀をわきまえないものが大っ嫌いなサラは、ついいつもの調子で、子共の頃のブライアンを躾けていた時と同じ事をしてしまった。
ゴスッ!
サラの鋭い右ストレートがカートの鳩尾にクリーンヒットしたのだ。
と、同時に
「まずは『ごめんなさい』それから『ありがとう』でしょ?!」
再び悶絶するカートだった。
サラの後ろに立っていたブライアンが、サラの横に立ち
「サラ、君の力は強すぎるんだから、そのうち死人が出るかもな」
大人気ないぞサラ・・・というような顔をしてブライアンは言った。
「失礼ね、十分手加減はしてあげたわよ」
「「手加減してこれなのか!?」」
ブライアンとカートは、同時にそう思った。
思っただけで口には出せなかった。
その後の惨劇が脳裏をよぎったからだ。
一日も終わり、部屋に帰るとサラは
「今日改めて思ったんだけど・・・」
ソファーに腰をかけ、くつろいでいるブライアンの横に座り、真剣な表情で話しかけてきた。
「なに?」
「あなたの魔力の封印を解こうかと思うの」
「えっ?!」
まだまだ先の事だと思っていたブライアンは驚きを隠せなかった。
「カートとの一軒の時、あなたずっと平常心を保っていたでしょ?
たぶん、もう大丈夫だと思うのよ。
少し早いかもしれないけど、平気でしょ?
魔法発動の間隔にも馴れていかなきゃだし。
いいわよね」
「サラがそれで良いと思うなら、俺はサラに従うだけだ」
その夜ブライアンの封印は解かれた。
「注意点が一つだけあるの。よく聞いてねブライアン」
ブライアンの顔が、心なしか少し大人びいて見えた。
「あなたの魔力は元々強大なの。
私ほどじゃないけど、たぶんこの世界のどの大陸の魔王よりも数倍は強いわ。
だからその魔力は、普通の魔族なら呪文を使って媒体し行使するのとは違って、あなたの場合
気を集中してイメージするだけで瞬時に発動してしまうのよ。
あなたが発動の感覚をつかむまで、私が側でサポートするけど、独りになった時は十分注意
してちょうだいね。
下手をすると、この城が丸ごと吹っ飛んで消えてしまう事になるから」
「・・・・わかった」
ブライアンはこれまで以上に注意する事を心に誓った。
今日はミズモラ大臣が特別に呼び寄せたという、旅の楽団の一行がやってくる日だ。
城内の中庭は、町の人々に解放され扉は大きく開かれている。
このイベントは、王様が王の座についたときから行われている催しだ。
一年の勤労のための感謝の印の催し物なのだ。
この日だけは、魔族、人間を問わず、みな平等に城内に入り楽しむ事ができる。
美しい音楽を聴き、それに会わせて踊る者、美味しい食べ物をお腹いっぱいほお張るの者。
それぞれにみなが楽しんでいた。
ほどなくして二回より眺めていた王様たちが、中庭へ降りてきた。
普段は遠くからしか、そのお姿が拝見できないのだが、この日だけは民の目の前に現れ、一人ひとりから話を聞く。
なにか足りないものはないか。
いま何が必要なのか。
何か問題は起こってはいないか。
など、直接国民から聞くのだ。
もちろん二人の王子も一緒にきて、それぞれ民から聞いている。
その民衆の中に、ミズモラ大臣が忍び込ませた刺客が紛れ込んでいた。
なにか願い事があるような振りをして、ブライアン王子に近づいてくる。
そして、隠し持っていたナイフでブライアンの腹を深く刺した。
魔力もなければ治癒力も無いとミズモラから聞いていたので、それならば魔法なんか使わずに、刃物で密かに殺そうと考え人ごみに紛れて刺したのだ。
しかし、刺した瞬間倒れたのは自分だった。
ブライアンに刺さったはずのナイフは跡形もなく消え去り、そこには腹から大量の血を流して倒れている男が1人いるだけだった。
暗殺計画がことごとく失敗するミズモラ大臣は、自らの手でブライアンを始末する事にした。
ミズモラ大臣は、極秘に話しがあるから1人で来て欲しいとブライアンを呼び出した。
呼び刺された場所は、城の奥深くにある深層の間だった。
ここには何十にも結界が張っており、最重要時効を決定する時の話し合いの場所となっている。
城内に紛れ込んでいる密偵にもこの結界は破れない。
なぜなら、この結果いを張ったのは伝説の魔女といわれるサラなのだから。
密偵どころか、この世界では誰もそれを打ち破る事ができないのだ。
ただ、自由に出入りできるのは、王族の血を引き継いだごく近い親族だけ。
その部屋に入ると、ブライアンは結界が張られているのが分かった。
しかし、その結果いは、だれが作ったものなのかも、いつも一緒に居るブライアンには直ぐにわかった。
「極秘な話しとはいったいなんでしょうか」
にやりと不敵な笑みを浮かべ
「きさまには死んでもらうという、重要な極秘事項だ」
呪文を唱え風爆を放つ。
しかしブライアンは、ミズモラの方向へ大きく伸ばした右手だけで、その衝撃波を打ち消してしまった。
「きさま・・・今いったい何をした!!」
「なにも。ただ攻撃を防いだだけです」
「呪文を唱えずにか!?そんなバカな!」
今度は炎が渦巻きながらブライアンの身を包む。
しかしまた、直ぐに消し去ってしまい、ブライアンには焼けど一つつけられない。
「そんなバカな・・・・・」
防御するだけで反撃をしようとしないブライアン。
そこに、いつの間に入ってきたのか、サラがドアの前に立っていた。
サラは、ブライアンの魔力の使い方を見ていたのだった。
サラの存在に気が付いたミズモラは
「くっ・・・」
と不敵な笑みを浮かべ、攻撃の的をサラに変えて、光の玉をサラに向かって放った。
光の玉が放たれた方向を見ると、そこにはサラが立っていた。
ブライアンは瞬時に移動をして、サラを抱きかかえながら、その光の玉を打ち消し、左手の人差し指でミズモラを指し、
「ミズモラ大臣、俺にその刃を向けてくる間はまだ許そう。
だが、サラに向けたことは許さない。
今までの悪巧みを俺が何も知らないとでもお思いか?
全て知っていた。
知ってはいたが、カートの祖父だという事で見逃してやっていたのだ。
しかし今度ばかりは見逃すことはできぬな。
シネ・・・・ミズモラ」
その一言でミズモラの息は絶えたのだった。
呪文を使わず、魔法も使わずに、ただ気を集中させ、イメージするだけ。
サラが言っていたのはこの事だったのだと、ブライアンは始めて知った。
自分の感情一つで、ひと一人を簡単に殺せてしまう力。
その力が、ブライアンが生まれながらにして持っている力なのだ。
この力をコントロールし、正しい使い方をするのが、今後の課題となるだろう。
二人の王子たちは18歳になり、無事に成人の儀も終わった。
したがって、現王様がその位を退き、新たな王が誕生する事になる。
強大な力を持つブライアンが大陸の魔王となるはずだったのだが、ブライアンはそれを断った。
「力の封印は解けましたが、まだ力のコントロールがうまくできないときがあります。
ですから、いましばらくは、王の座はダニエルに預けようかと存じます」
慌てふためいたのはダニエルだった。
「兄上、何を言い出すんですか!」
「ダニエル、お前と俺はそっくりなんだし、黙ってたらわかりゃしないって」
いたずらっ子のような表情で、ダニエルと父親に言う。
サラはと言うと、「困った子ね・・・」と思っていた。
この国の決まり事ではあるが、全ての決断権はサラにあったため、この案が通ってしまうのもまた事実である。
サラが言うには、確かにブライアンはまだ力のコントロールが十分に仕切れていないと言う。
しかし、国後と吹き飛ばすほどは乱れてはいないらしい。
せいぜいこの城が壊れる程度だとか。
それでも万全を期するために、もう少し訓練期間が必要だとの事。
ダニエルは、王の職務につきながら訓練すればいいのではないかというが、王座に着きながらの訓練では時間がかかってしまうと言う。
したがって当分の間、魔力の戻ったダニエルが王座に着き、その間にブライアンとサラは城を出て諸国漫遊のたびに出掛けると言い出した。
国民の暮らしをその目で見て確かめるのもまた、王としての勤めであり、現状をよく見て分析し、その解決策を見出し、少しでもみなの暮らしがよくなるように、旅をしながら視察をすると言う事らしい。
ダニエルは ――― それって、ただの旅行じゃないのか・・・?
ブライアンのあの嬉しそうな顔・・・・。 ―――
そののち、ブライアンとサラの二人は、視察と言う名目の魔力コントロール修行の旅に出たのであった。
―――― 完 ――――
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