ハナミズキ 2014-07-29 20:56:35 |
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オフ会の当日、マメがサイを迎えにやってきた。
―――― ピンポーン ――――
何度鳴らしても、誰も出てこない。
もしかして・・・マメは悪い予感がした。
その時後ろから
「あらマメちゃん。サイに用事?」
「あっ、おばさん!サイは?」
「サイなら、昨日の夜に発作が出てね、そのまま病院に入院よ」
今回の発作は、比較的軽いものだったらしく、近所の病院に入居したらしい。
病院に行くと、意外と元気そうなサイが居た。
サナに会ってくる事に伴い、シャメを撮ってくるように言われた。
シャメが無理そうならプリクラでも良いと・・・。
ほんとは、どんだけ行きたかったんだよ・・・・お前・・・。
こいつら亮思いのくせにまどろっこしいよな・・・まったく。
男の俺から見ても、サイはイケメンだ。
一緒に歩けばよく逆ナンされるし、サナだってサイを見れば絶対に惚れるに決まってる。
あー・・・でも、サナって、サダコでニキビちゃんだっけか・・・・。
こりゃダメかな・・・?
とりあえず、今日は楽しみますか!
待ち合わせの場所に到着すると、意外にも人が多かった。
前日に教え合っていた服装を頼りに、サダコ・・もとい!サナを捜索開始である。
入り口の横の壁にもたれかかるようにしてうつむいて立っている女の子が居る。
服装からしてサナだろう。
うん。髪の毛も長いし間違いない。
「あのー・・・待ち合わせですか?」
女の子がマメの声に反応して顔をあげた。
―――― ニキビじゃなーい!?・・・間違ったか・・・ ――――
目がクリンと大きく、美人というより可愛い感じの子だった。
「もしかして、マメ?」
「やっぱりサナか!」
実際のサナは、他人にもの凄く気の使う子だった。
でも短気で強気だ。
・・・うん。いつものチャットのサナだ・・・。
歌い終わってからサナの買い物に付き合い、軽く食べてる最中に思い出した。
写真!!!サイに頼まれてたんだっけ・・・。
「シャメとっても良い?」
「ヤダ!」
―――― あっ、やっぱりそうっすよね・・・ ――――
「じゃさ、プリ撮ろう?今日の記念にさ」
「プリなら・・・」
―――― よっしゃあーーー!これで任務完了だ!! ――――
そのプリをサイに渡すと
「へぇー、こんな顔してたんだ」
「かわいいだろ」
俺はにやにやしながら、サイの顔を見ていた。
サイも心なしか微笑んでいる。
検査だけで、すぐ帰れるはずだったサイだったが、入院中も数回軽い発作が起こり、結局2週間も入院する事になってしまった。
そして8月30日にようやく退院する事ができたのだった。
やっと退院できた俺は、夜なかなか寝れなかった。
浅い眠りに入ったのは、朝方近くの事。
目が覚めると同時に、パソコンのスイッチを入れてみる。
居た。サナだ。
「いるか?」
「いるよ」
いつもなら「この浮気者!」の第一声があるはずなのに、今日はない。
「元気だったか?」
「元気だったに決まってんじゃん」
ほら、やっぱりおかしい。
いつもは「元気すぎて3キロも痩せたから安心して!」などと、軽口を叩いてくるはずなのに・・・おかしい。
かまを掛け、問い詰めてみると、今朝、両親が喧嘩をし、離婚するといっていた事や、誕生日なのに誰にも祝ってもらえない事などで、自分はこの世に居なくても良い存在なんじゃないかと思っている事など、かなり思いつめてる様子だ。
だから、気休めでも良いから何かをしてあげたくなった。
何か欲しい物があるらしい。
・・・・俺の顔が見たいだと?!
普段なら断る所だが、俺には少し後ろめたい事がある。
この間のオフ会に、行くと言って行かなかった事。
いや、行かなかったんじゃない、行けなかったんだが・・・。
マメと二人で映ってるプリを、俺がもらってしまった事。
―――― やっぱ、相手の顔だけ見るのって、男らしくないよな ――――
だから承諾をした。
カメラで顔を映す事に・・・。
1回だけ。
この1回だけだ。
これ以上は出来ない。
これ以上他人と深く関わってはいけない。
俺は・・・・。
俺には・・・・。
だが、しかし、悲しそうな、寂しそうな声を出すサナを突き放す事が出来なかった。
これ以上関わるとお互いに辛くなるのは分かっている。
分かってはいるけど、この気持ちは止められない。
結局、最後には冷たく突き放し、泣かせる事になるのも分かっている。
どうすればいいのか、今の俺には・・・分からない・・・。
お疲れさまでした。
第2部完了です。
次は最終章になります。
ここまで読んでいただいた方
ありがとうございました。
ネタバレになりそうなので、コメを頂いても返事が出来ない場合が多々ありました。
申し訳ありません。
コメを頂き、大変心強かったです。
ありがとうございました。
はい。
短編の小説のつもりだったので、そんなに長い内容は練ってませんでした。
途中で挫折しそうで・・・。
最終章も、いま下書きしてるところなので、もう少し日にちがかかるかと思います。
来週中にはあげたいと思います。
夏休みが終わると、またいつもの日常が戻ってくる。
家を出て行ってしまった母は、いまだ戻ってきてはいない。
父も相変わらず女の人の所に居るようだ。
生活をするに必要なお金は、光熱費などの雑費等を引き落とす為の通帳に、生活費として余分にお金が入っているので、そのお金を使って生活していた。
節約すればお小遣いもできる。
不自由はない。
そう、母達が出て行く前から、こんな生活が続いていたので、今更である。
卒業まであと1年半もあるか、それとも1年半しかないのか、微妙な時期だ。
私からすれば、あと1年半もある。
将来の夢も希望もなく、何をすればいいのか、どうすればいいのか、いまだ分からない。
ある友達は、働くのが嫌だから進学するという。
また、ある友達は、メイクが好きだから美容関係の専門学校に行くという。
私は?
働くのは別に嫌ではない。
むしろ逆に、早く就職をして自立したいくらいだ。
でも、どんな職に就けばいいのかが分からない。
夏休みが終わったあたりから、マメが来なくなった。
本格的に受験勉強をするらしい。
今からやって間に合うのかが少々疑問である。
サイとマメがいつ来ても分かるようにと、私はスカイプを常に立ち上げていた。
立ち上げながらも、たまにチャットルームに行きみんなと話をする。
みんなと話していると、自分は1人じゃないんだと思えるからだ。
いくら親しく話してはいても、家庭の事情などは一切話してはいなかった。
チャットルームでは明るく、何の悩みも無さそうなサナを演じていたのだ。
夜9時頃、サイがインをしてきた。
「よっ!」
「お久しぶり~!今度はどこの女と浮気してきたのかな?w」
「今回の相手はな、激ナイスバディーなおばちゃんだったな」
「・・・おばちゃん。。。どんだけ守備範囲広いのよ~」
「ん?世話好きで、至れり尽くせりだったぞw」
サイはしばらく姿を見せないと思っていると、いろんな女の人の所に泊まり歩いているらしい。
歳も、20代前半から50代までさまざまなようで、どの人も皆、サイの世話をやきたがり、家にはなかなか帰してはくれないそうだ。
なんでそんな人たちに捕まるのか不思議だった。
捕まっても付いて行かなければいいのにとさえ思う。
「嫌なら行かなければいいのに・・・。」
「なんかさ、気が付いたら彼女たちに捕まってんだよな」
「なにそれ・・・。」
「まっ。みんな美人だし、ナイスバディーだし、俺的には文句はないな」
「・・・・・・・・。」
サイって、夢遊病の気でもあるのかな・・・?
この頃のサイは、インをしてきても2・3時間もすればすぐに落ちてしまう。
短い時は30分ほどしか居ない時さえある。
たとえ短い時間だとしても、ほぼ毎日来てくれているので、それだけで嬉しいとさえ思ってしまう。
でもたまに、2・3日とか1週間とか姿を現せないときもあった。
そう言う時は必ず、どこかのナイスバディーな人と楽しく過ごしていると言う。
どうせなら私の所に来ればいいのにとさえ思う。
ナイスバディーじゃないけど、1人暮らしのようなもんだし、何も問題はないはずだ。
でもこれは、決して言ってはいけない一言のような気がしてたサナだった。
10月に入り、サイに進学について聞いてみた。
「サイはどうして今の学校に行こうと決めたの?」
「ん~、やりたい事のためかな」
「やりたい事って?」
「それは秘密だ!」
「教えてよ!ケチ!」
「おまえ、やりたい事はないのか?」
「分からないの・・・」
「そっか。そのうち見つかるさ。焦るなよ」
それ以上サイは、何も言えなかった。
サナの人生はサナの物で、自分が口を出す権利がないと考えたのだろう。
これから何十年も続くであろうサナの人生は、自分で決めさせないといけない。
人に決められて後悔するよりは、自分で決めて後悔した方がまだましだ。
そう、サナのためにも、サイはそれ以上何も語らなかった。
久しぶりにマメが、受験勉強の息抜きにと、30分ほどスカイプの方にやってきてくれた。
「勉強がんばってる?」
「もちろん!絶対に尽きたい職業があるからね」
「どんな仕事なの?」
「聞きたい?高いよ?w」
「お金取るんかぃ!?www」
冗談交じりに話し出した。
マメのなりたい職業とは医者らしい。
ある人とむかし、約束したそうだ。
将来医者になってその人の病気を治してやると。
その為に猛勉強をし、いまの学校に入ったそうだ。
それに、高校に入ってから首席を譲った事がないとも言う。
普段のマメからは想像もつかないけれど、そんなに早くから目標を見つけたマメは、本当に凄いと改めて尊敬をした。
それと同時に、マメが言っていた『ある人』の事が気になっていた。
『ある人』とはいったい誰なのだろうか。
友達か、あるいは家族か、それとも彼女・・・?
それは、ないないw
そう勝手に決め付けているサナであった。
『ある人』かぁ~。
『ある人』って言うのはどのくらい親しい人の事を言うのかな。
親しくなければ、その人のためにその人のために医者になろうなんて思わないよね。
私にも、そんな『あの人』のような人が現れるのだろうか。
そこまで親しくなれ、親身になれる人なんて、私には居ただろうか。
いいえ、居なかった。
どこか上辺だけの浅い付き合いしかしてこなかったような気がする。
友達?
友達ってなんだろう。
学校が同じだから友達?
クラスが同じだから友達?
メル友も友達?
学校が同じだから、顔を知っているから友達なのか?
ううん。
顔と名前は知っていても、それ以上は知らない。
だから違う。
なら、同じクラスの子はみんな友達?
それも違う。
たまにはなす事はあるけれど、その人自身の事や悩み事などは話さない。
メル友は?
・・・これは論外?
あって、顔も本名も何もかも知らないし、会った事もないんだもの。
文章上では友達の振りをしてるけど、本心は語っていないよね。
えっ?
って事は、マメもサイも友達じゃないって事?
あ・・・マメには1回だけだけど会ったよね。
これは友達になるのかな?
じゃあ、サイは?
カメラ越しにしか会った事がない・・・。
つまり・・・友達ではないと?
でも・・・でも・・・。
サイには、いろんな悩み事や相談事を話したし、上辺だけの付き合いじゃなかったはず。
いつも本心で話していたし、友達と思ってもいいのかな?
いつも学校で一緒に居る友達は?
友達だけど友達じゃない・・・。
なんか違う気がする。
髪形を変えたとき、明らかに似合っていなかったのに
「可愛いーw
似合ってるよーw」
なんて、心にもない事を言ってたっけ・・・。
そう言えば、ダイエットしようかなって言っていた友達に
「えー!ぜんぜん太ってないじゃん!痩せる必要なんてないしww
無理なダイエットなんかしたら、身体壊しちゃうよ!?」
とも言ってたよね。
あの子はどう見ても55Kgオーバーだと思うのに・・・。
あっ!そうか!!
あの子の隣に居ると、自分が細く見えるから痩せて欲しくなかったのかも!
そう言うことか・・・。
だから似合わなくても似合うって言ったり、可愛いよ、なんて言うのか・・・。
女って・・・・恐いね。
そんな事を考えながら、いままでの短いような、長かったような、自分の人生を振り返ってみれば、いつも周りに合わせ、自分を殺し、本音で向き合った人は居なかったんじゃないのかとさえ思えてきた。
両親にだってそうだ。
母親にはいつも家に居てほしかった。
「ただいま」と言ったら「おかえり」と言って欲しかった。
学校での出来事や、相談事を話したかった。
でも、話そうとすると
「いま忙しいから後でね」
と、必ずと言っていいほど言われる。
あとでね、と言っておいて、話を聞いてくれた事なんてほんの数回だけ。
いつも忙しそうにしていたっけ。
熱を出して私が寝込んでいても、「もう大きいんだから一人でも大丈夫よね」と言い、仕事に行ってしまった母。
「うん」と入ったけれど、本当はあの時、側にいて欲しかった。
父だってそうだ。
私が「おはよう」と言っても「ああ」としか言わない。
ご飯を食べる時も、食べ終わった時も、なにも言わない。
いつも無言で食べるだけ・・・。
私の家には、会話らしい会話が存在しないのだ。
リビングに居ると息苦しい。
だから食事以外は自分の部屋に居る事が多くなる。
部屋に居てもやる事がないので、勉強をするしかなかった。
そのおかげで学年上位には、いつも食い込んでいた。
良いのか悪いのか・・・・。
サナが将来についてぼんやり考えていると、ふと、前に疑問に思った事を思い出した。
あの時サイは何処にいたのだろう。
月が見えていたのは、この街の近隣周辺だけだったはず。
友達の家や女の人の家から、わざわざチャットをしにネットには繋がないだろう。
私なら繋がない。
外出していたとしても、やるなら家に帰ってからじゃないのかな?
じゃあ何処から?
時間的に夜の9時頃だったはずだし、そんな時間にいったい何処から?
近隣にある建物は、深夜11時まで営業しているデパートと、宿泊が可能なスポーツセンターにゲーセン・カラオケ・居酒屋・飲み屋に・・・あと、救急外来のある病院くらいしかない。
これらの何処かからかやっていた事になる。
・・・・・あっ!
月が見える場所・・・ここがポイントだ。
デパートは・・・見えないよね。
スポーツセンターは・・・見える。
ゲーセン・・・見えない。
カラオケ・・・見えない。
居酒屋・・・見えるかもしれない。
飲み屋・・・見えない。
病院・・・見える。
一つずつ消去法で考えてみた。
見える場所は、スポーツセンターと居酒屋と、病院、この3つだ。
スポーツセンターに泊まっていたとしたら、月は見えている。
居酒屋も、小部屋に窓があったとしたら、月は見えている。
病院はもちろん見えるだろう。
でも、サイに一番縁が無さそうな所は病院だよね。
将来の事について考えていたのに、いつの間にか横道に逸れてしまっていた。
秋風も強くなり、寒くなりだした11月頃に、サイが突然旅に出ると言い出した。
だからもうチャットには来ないと。
昔からの夢に、本格的に取り掛かるので、チャットをする暇がなくなるという。
行き詰まったり、疲れた時は着て欲しいと言ったけれど、余計な事は考えたくないから、無理だと言われた。
私は泣いた。
サイまで居なくなってしまう悲しさと寂しさが、押さえ切れなくなり泣いた。
もう、これっきり会えないのなら、いっそいま、この思いを伝えようかと思った。
「サイ・・・あのね
サイの事が好き・・・。
大好きなの・・・だから・・」
その言葉は最後まで言わせてはもらえなかった。
「あー、悪い。
俺そー言うのダメなんだわ。
遊びならいいんだけどさ、好きだとか愛してるとかってウザイだけなんだよな。
んで、俺ルールで、その禁句ワードを言った時点で終了な。
そー言う事だから、もう来ねーわ。
じゃーな」
そういい残すと、サイは消えていった。
それ以来2度とサイの姿を見る事はなかった。
私は泣いた。
涙で自分が溺れてしまうかというほど泣いた。
友達だと思って信頼していた自分が腹立たしい・・・・。
忘れたいのに、忘れられないのも悔しい・・・。
泣いて泣いて、泣き暮らす日々が続き、やはり自分は誰からも愛されない子なのだと痛感したのだった。
サイの体調が最近余りよくない。
暑さのせいだろうか。
それでもサイは、最近受験勉強に集中する事にし、チャットに来なくなったマメの分も、少し無理を押して顔を出していた。
そして無理がたたったのか、軽い発作を頻繁に起こすようにもなっていた。
チャットをしている最中にも発作は来る。
発作が起こっている間は返事を返す事ができない。
会話の間隔が長くなる事もよくあった。
そういう時は、トイレに行っていたとか、飲み物を取りに行っていたとか、コンビニに行っていたなど、良い訳はさまざまだった。
昼食を食べている時に、いつもより激しい発作が起きた。
胸に激痛が走り、呼吸ができなくなる。
手に持っていた箸を落とし、食卓の椅子から転げ落ちた。
それを見ていたサイの母親が、慌ててサイの様子を確認し、救急車を呼んだ。
苦しんでいる息子を抱きかかえながら、背中を一心不乱にさすり、泣きじゃくっている。
軽い発作なら何回も経験しているが、意識がなくなるほどの発作は10年ぶりだったからだ。
あの時の悪夢が脳裏をよぎる。
あの時は、サイの心臓が1度止まったのだ。
医師の必死の救命措置により、なんとか息をぶり返し事なきを得たが、今回もまた、心臓が止まってしまうのではないかと、心配でならなかった。
救急隊員の的確な処置により、なんとか無事に病院に着き、しばらく入院する事となった。
検査をした結果、今度大きな発作を起こしたら、命の保証はできないと言われた。
度重なる発作により、サイの心臓がかなり弱くなってきているらしい。
元々サイは、20歳まで生きられないと宣告されていたのである。
その先刻の期日が、刻々と静かに擦り寄ってきていた。
心臓も安定して体調も少し戻ってきていた頃、サイの母親が医者のこう言われた。
「息子さんの心臓は、もう長くは持たないでしょう。
ですからこれからは、息子さんの好きなように過ごさせてあげてください。
もし何かあれば、直ぐに来てください」
それからのサイは、短期で入退院の繰り返しだった。
病室も個室をあてがわれ、パソコンも使っても良いと許可も出た。
そこからチャットをし、病気のことは一切隠していたのだった。
11月に入ったある日大きめの発作が怒った。
入院していたため命に別状はなかったものの、サイ自身ももうそろそろ限界を感じていた。
黙って姿を消すより、突き放して別れた方が後を引かず、サナも自分の事を忘れてくれるだろうと考えていた。
そして、新しい人生を歩んでくれるだろうと思っていた。
だからこそ冷たい言葉を吐いて突き放したのだ。
「あー、悪い。
俺そー言うのダメなんだわ。
遊びならいいんだけどさ、好きだとか愛してるとか、ウザイだけなんだよな。
んで、俺ルールで、その禁句ワードを言った時点で終了な。
そー言う事だから、もー来ねーわ。
じゃーな」
文字を打ち込みながらサイは泣いていた。
「ごめんな・・・ごめんなサナ」
そう呟きながら。
サイ自身もなんとなく感じていた。
自分には新しい年を越せないだろうという事を。
発作の間隔が短くなり、その大きさも徐々に大きくなっていく。
そのため、体力や食欲も落ち、身体は痩せ細っていった。
そして12月25日、クリスマスの日に、サイは天に召されたのだ。
サイに冷たく突き放されたあの日から、サナの時間は止まったままだった。
パソコンのスイッチさえ入れていない。
入れてしまえばサイのことを思い出し、つい姿を探してしまうと思っていたから。
春になり、サナは3年生になった。
宿題で提出するためのレポートに必要な資料を、ネットで探さなければいけない。
スイッチを入れると、マメからスカイプにメッセージが入っていた。
「大学受かったぞー!」
みるとマメがスカイプに居るではないか。
サナが居る事に気が付いたマメは、チャットを飛ばしてきた。
「元気にしてたかー?」
「身体だけは元気だよ!」
「なんだよ身体だけってwww」
「色々あってねー。
マメはサイから何も聞いてないの?」
「・・・サイ?」
しばらく沈黙が続いた後
「・・・何も聞いてないよ」
これだけ言うのが精一杯のマメだった。
真実を告げるべきかどうか、マメは迷っていた。
「マメ、サイって今ごろ勉強を頑張っているのかな?
病気とかしてないよね?
マメのとこになにか連絡とか来ないの?」
「・・・・・・・。」
何も言えなかった。
いや、嘘を言いたくなかったのだ。
二人で話していても、サナは時折サイの事を振ってくる。
どうしてるかな。元気にしてるかなと。
あれから4ヶ月、サナは未だにサイの事を忘れてはいなかったのだ。
あの日からサナの時計は止まったままだった。
その事実を感じ取ったマメは圧決心をした。
「サナ、今度の日曜に会わないか?」
サナはマメと会うことで、自分の気持ちを整理する事ができるかもしれないと思い、OKの返事をした。
前回と同じ場所で待ち合わせをし、前回と同じ世にカラオケに行く。
何曲か歌った後に、マメが神妙な顔をしながら話し出した。
「なぁサナ、サイの事なんだけどさ、まだ好きなのか?」
サナは何も言わずにただうなずいた。
「サイの事なんか忘れて、他に好きなやつ作れないのか?」
「・・・サイは・・私の初恋だったんだ・・忘れられないよ・・・」
「・・・そっか。。」
マメはその姿を見て、サナの止まっている時間を動かす決心をした。
「あのなサナ・・・お前に見せようかどうかずっと迷ってたんだけど・・これ・・」
そう言ってカバンから一通の手紙を取り出してサナに渡した。
その手紙を受け取り、差出人を見てサナは驚いた。
サイからの手紙だったのだ。
「それ、本当はサナには見せるなってサイに言われてたんだ。
でも、今のサナを見てたら、それが必要なのかもしれないって思ったから
俺の独断で持ってきた・・・」
サナはその手紙を読んでみた。
サナ、ごめんな。
あんな突き放すような付けたい言葉を言って、本当にごめんな。
本当は俺もサナの事が好きだった。
実は俺、サナの顔知ってたんだ。
マメと二人でプリ撮っただろ?
それな、俺が撮ってこいって言って撮ってきてもらったんだ。
そんでそのプリな、いま俺が持ってる。
悪いな、黙ってて。
短い間だったけど、俺はサナと知り合えて幸せだったよ。
ちょっと気が強いけど、裏表のないサナが好きだった。
自分を飾らないサナが大好きだった。
俺が何か意地悪な事を言うと、拗ねてみせるサナが愛おしかった。
こんな気持ちを俺にくれたサナが本当に大好きだった。
できればこの先、俺と一緒に人生を歩んで欲しいとさえ思ってたんだ。
でも俺は、サナの事を幸せにしてやる事ができないんだ。
俺だけ幸せな気持ちになってごめんな。
俺って謝ってばかりだな。
でもここに書いてある事は、すべて本当の事で、本当の気持ちなんだ。
俺、何でこんなこと書いてるんだろうな。
死ぬ前に、自分の本当の気持ちを、何かの形で遺して置きたかったのかも知れないな。
俺はきっと、来年という未来を迎えられないと思う。
自分の体の事は自分で分かるんだよな。
俺の心臓は、もう長くは持たないってね・・。
だから俺は、この気持ちをこの手紙に、永遠に封印するとしよう。
サナ
大好きだ
愛してる
サイ
サナは手紙を読みながら涙を流していた。
声を噛み殺しながら泣いている。
マメもまた、その姿を見ながら泣いていた。
そしてマメが言っていた『ある人』と言うのが、サイの事だったのだと分かったのだ。
目標も、希望も持てなかったサナだったが、将来サイのようは人を助ける手助けをしたいと思うようになった。
もし自分に、医学的知識が少しでもあったのなら、サイの様子にもいち早く気がついた事だろう。
そうすれば、もしかしたら、サイはいまもまだ、いや、これから先も、ずっとサナの側にいたかもしれない。
もう後悔はしたくない。
サイが好きだといってくれた自分を取り戻したい。
サナの時間はいま、動き出した。
それから数年後。
あの日の思いからサナは看護士になっていた。
どうしようもない暗闇の淵で、大切な人を亡くし、出口を見失い、途方にくれていたサナに、手を差し伸べてくれたのが、同じ大切な人を失ったマメだった。
二人は励ましあいながら、目標に向かって一歩ずつ歩んできた。
止まっていた時間は再び動き出し、いまはサイのように病気で苦しんでる人が1人でも減るようにと頑張っている。
医学は日々進歩をする。
二人はそれぞれに、誰かのために動き続けているのだ。
――― 完 ―――
次もとりあえず短編でいこうかと思います。
題名は『魔女と王子様』です。
ファンタジーになると思いますが、興味がおありでしたら是非お立ち寄りください。
※ こちらへのコメントはお控えください。
こちらはこれから下げて、深く眠らせていきます。
ハナミズキの別荘への経由地となります。
このトピックが上に上がりますと、何かとめんどくさい事になりそうですので
ひっそりと下げ進行でご案内申し上げます。
ハナミズキの別荘
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