ハナミズキ 2014-07-29 20:56:35 |
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一応、助けてくれてるとは思いたいものの、なんか腑に落ちない助けられかただ。
「はぃはぃ、どーせ私はチビでぶすでサダコですよーだ」
二人の助け方は対照的で、マメは自虐に持っていき、サイは私をボロクソに言い、相手のテンションを下げるというやり方をしていた。
どちらもありがたいんですが、サイから見たら私は、そんなイメージなんだろうかと少し不安にもなった。
そんなある日、まだ私とマメしかきていない早い時間にこう言った。
「サナ、最近テツがやたらとサナにちょっかい出すでしょ?
でね、テツが来たらサナ、ここに居ない方がいいんじゃない?
なんかあったらあたしも嫌だしさー
んで、考えたんだけどね、あんたたち3人で部屋作っても、テツのやつ目ざといから行くと思うんよ
でね、スカイプって知ってる?
そこもチャットみたいなとこだから、そこに非難してな」
そう助言してくれて、スカイプのやり方をチャットを通しながら誘導してくれた。
スカイプを避難部屋にしたはいいけど、サイにはどうやって連絡をすればいいのか、主さんに相談をしてみた。
すると、マメとサイはいとこ同士なので、ケー番やメアドを知っているから、マメから連絡してもらう事で解決をした。
でも結局その日、サイが来る事はなかった。
サイも大学生だし、忙しいんだろうな、と呑気に構えていたが、それから数日、サイが姿を現すことはなかった。
マメに聞いても、色々あるんじゃね?程度で何も教えてくれないし、心配している様子もない。
逆に、私に元気がないとホスト張りに優しく慰めてくれる。
普通なら暴言を吐く俺様なサイより、優しいマメの方に好意を抱くところなんだろうけど、なぜかマメのみんな平等に的な優しさには興味がなかった。
俺様だけど、口が悪いけど、さりげない優しさ、そんなサイに心ひかれていってしまったのだ。
チャットからスカイプに避難する際に、ありもしない用事を作ったりするのにも限界がきた。
しかたがないので、夜10時以降は勉強のために落ちるという事にした。
事情を知ってるお姉様方は
「はーい、勉強がんばりぃ~」
とエールを送ってくれる。
スカイプに移ってから1週間後、やっとサイが姿を現した。
私は嬉しさのあまり
「ひさしぶり~、私というものがありながら、どこで浮気してたのかな(笑)」
ちょっと大胆な発言をしてみた。
「ナイスバディーな女の子が離してくれなくてよ、まいったわ」
――― ・・・・・えっ ―――
「ちょwwwwまじで?!」
「まじまじw
俺は帰りたいのに帰してくれなくってよ・・・」
私はちょっと拗ねた感じに
「どーせ私は貧乳でチビで可愛くないですよーだ・・・・」
「あー、あれだ。無いよりはあった方がいいだろw」
「いや・・・そこは「そんな事ないよ」って言うところじゃないのかね?サイくん!」
いじられはするものの、やっぱり嬉しい。
7月に入り、夏休みになったある日、あまりにも暇すぎるマメが3人で英語禁止チャットをしようと言い出した。
面白そうだとやってみたけど、チャットのため書く時に確認をしながら書くので、なかなか敗者が決まらない。
するとマメが、さらに、
「こうなったら、チャット辞めて通話にしないか?」
「えっ?通話って?」
「サナ知んないの?これ通話も無料でできんだよ。
イヤホンとマイクある?」
「一応持ってる。動画見るのに買ったやつがマイク付だったから」
「ならやろうぜwwww」
――― ええええええええええええぇぇぇぇ・・・?まじですか・・・ ―――
いままで文字だけだったので、少しくらい恥ずかしくても大胆な事がいえた。
でも・・・電話となると・・・妙に気恥ずかしい。
恥ずかしいけど、サイの声も気になる。
どんな声をしてるんだろうかとか、勝手に声優のようなカッコイイ声を想像してみたり・・・妄想が止まる事をしらない。
やばいです!
勝手に顔がにやけてきます!!
たぶん、いま声を出すとしたら、もの凄く素っ頓狂な3オクターブくらい高い声を出してしまう自信はある。
どーしよぅ・・・・。
着信の音が鳴った。
おそるおそる通話ボタンを押してみる。
――― ゴクリ ―――
生つばを飲む音が相手に聞こえそうなくらいに緊張している。
イヤホンの向こうから
「もしもーし。おれおれ!」
マメの声が聞こえてきた。
なぜマメだと分かったのかというと、話してる相手の名前付きサムネが点滅するからだ。
マメの声は想像通り、少し少年っぽさを感じさせる、優しい声だった。
「おれおれ詐欺は間に合ってるんで切るぞ」
サイの声だ。
少し重低音気味のハスキーボイス。
イヤホンから直接流れるその声を聴いた瞬間、全身が雷に打たれたかのように痺れた。
私がもっとも好きな声質だったからだ。
「サナー?おーい。聞こえてるかー?」
マメの呼びかけにハッとし我に返った。
「う・・うん。聞こえてるよ」
「へえ~、サナって可愛い声してるな」
マメがやたらと褒めてくる。
なんかむずがゆい。
「さっさとやろうぜ」
華麗にスルーしてくるサイ。
まるで私の声なんかには興味が無いといった感じだ。
ちょっとムカついたので、ゲームをしながらいたずらを仕掛けてみる事にした。
「それじゃあ今から英語禁止ゲームするからな
和製英語もNGだから」
なぜか張り切っているマメ。
「ねぇ、なんか嬉しそうじゃない?」
「そっか?気のせいきのせい」
「ふん。こいつはこんなくだらない事するの好きだからな」
「そういうサイは、こういう遊び苦手だよな」
笑いながら、鬼の首を取ったかのように歓喜の声を上げている。
「バカか?いつまでも苦手だと思うなよ」
あぁ・・いい声。
やっぱりこんな声、好きだな・・・なんて思ってると
「なぁ、昨日の晩御飯、なに食べた?」
「うちはねー、昨日は素麺だった」
「素麺か、暑かったもんな
暑い時はやっぱ冷麺にかぎるよな
サイんとこはなんだったんだ?」
サイは少し間を空けて
「食ってねぇ」
「「はぁ?!」」
本当に食べていなかったわけではない、ただ、食べたものをどう日本語で言えばいいのかが分からなかったのだ。
メニューはハンバーグとサラダ。
これをどう日本語変換で言ったらいいのか分からなかったのである。
「食べてないって・・・いくら食欲がなくても少しくらい食べないとダメだよ!
夏ばてしちゃうよ!?
何か食べようよ~、身体壊したらどうすんの!?」
少しきつい口調でたしなめるサナだった。
ここでサイが反撃に出た。
引っかかりやすいのはサナだと瞬時に判断したのだろう。
「どうせその素麺も親が作ってくれたんだろ」
「素麺くらい自分で作れるわよ!」
「女はみんなそう言うんだよな
私、料理が得意なの、ってな」
「はぁ?料理くらいできるわよ
バカにしないでくれる?」
サイの思惑にピンときたマメも、便乗して煽ってきた。
「あぁ・・たしかにw」
「だろ?作れるって言ったって、どうせ味噌汁や目玉焼きくらいなもんじゃね?」
鼻で笑うようにサナを煽るサイ。
「もぅ!二人ともバカにして!
だてにうち、両親共働きじゃないのよ
料理くらい小学校からやってるわよ!」
「へぇー。じゃあ、何が作れるか言ってみろよ」
サナは、少し自慢げに得意料理を言った。
「カレーでしょ、ハンバーグでしょ
あっ、最近は肉じゃがも上手に作れるようになったんだからね!」
もし顔が見えたのなら、鼻の穴を思いっきり膨らませたドヤ顔が見れそうな勢いだった。
「はい!言った~。
それ禁止用語な、それも2個」
ハッと我に返り、しまった!!と思ったが後のまつりである。
やられた。
うまく煽られ乗せられてしまった。
後悔しても後悔しきれない。
どうにかして仕返しをしたいサナ。
そこでさっき思いついた悪戯を決行する事にした。
「なんかさ、ずっと同じ体制だから肩凝っちゃった」
二人はババ臭いだの年寄りだのいじってきたが、突然イヤホンから
「・・・うっ・・あっ・・いっ・・あぁ・・・」
なやましげなサナの声が漏れてきた。
しばらく続く沈黙、その最中にも更に
「んん・・・いっ・・はぁ・・きもちぃ・・・」
二人の耳はその声にくぎ付けになり、いらぬ妄想まで脳内に飛び交う。
「おい・・・お前いったいなにしてんだ」
恐る恐るサイが尋ねてきた。
「・・・ん?なにって?アレに決まってるじゃない」
「アレ?」
マメの声が、明らかに動揺をしている。
「そうよ。アレよ、ア・レ」
いま自分に出来る限りの艶っぽい声を出し、二人の自爆を誘う。
「・・・あれって、まさか」
「そのまさかだけど、やっちゃダメなの?
誰かにやってもらうのが一番気持ちいいけど
いま1人だし・・・自分でするしかないから」
「ダメって事はないけど・・いまする?そんな事」
「だってぇ~、我慢できなくなって・・・」
「いや、だからそれは・・・」
完全に何かと勘違いしてるマメだった。
「マメなら優しいから上手そうだよね(力加減が)」
「ま・・まぁな」
「でも、サイも意外とこういう事得意そうなんだけど?」
「俺か?まぁな、なんだよ、やって欲しいのかよ」
「・・・うん、やって欲しい(肩揉みをね)」
「朝まで寝かせないぜ?その覚悟はあるのか?」
サイまでもが完璧に勘違いをしてるようだ。
「朝までは・・遠慮しとくw
5分か10分でいいよ」
「はぁ?そんなんで終わったら男じゃないだろ」
「でもぉ~、朝までなんてぇ~、サイが疲れちゃうよ?」
「そんくらいで疲れるわけねぇだろ」
そろそろネタばらしをしようと
「でもさ、いくらなんでも朝まで揉んでもらうのはちょっと心苦しいかな」
「「揉む?!」」
「うん、そう。
さっき言ったじゃん
肩凝ったって」
「「・・・・・・・・・・・・・・・。」」
「なんだと思ってたのよwww」
爆笑しながら悪戯っぽく聞いてみた。
「てっきり1人でオナってると思ったぜ」
「オナってるって?」
「1人Hの事だよ!」
なかば切れ気味のサイだった。
「はい!言った~wwww」
「さな、てめぇはめたな!?」
私はケタケタ笑いながら
「さっきの仕返しで~す♪
ほんと、どスケベ、変態だわねwww」
微かにサイと思われる舌打ちの音が聞こえてきた。
「・・・・・ちっ」
その後、調子を崩したのか、サイはボロボロと禁止用語を連発し
サナ:5回
マメ:8回
サイ:13回
で、サイがNG対象に輝いた。
マメが嬉しそうに
「よ~し!じゃ、いつもの罰ゲームな」
「なにこれw罰ゲームなんてあったの?
あるなら最初に言ってよ~w」
勝者の余裕である。
検討の結果、罰ゲームは、丁度スカイプ中だという事もあり、カメラで自分の身体の一部を映す事になった。
サイもしぶしぶ承諾をし、首から下を映す事に。
「時間は10秒だからな」
「分かってるってw」
初めて見るサイの身体の一部。
興奮しないわけがない。
わくわくドキドキしながらその姿が現れるのを、いまか今かと待ちわびる。
映った!
想像通り細身で、座っているためかTシャツしか映らなかった。
その時、「にゃ~」という鳴き声が聞こえたかと思うと、ドタッ、ガコッ、と音とともに、画面が揺れた。
――― ・・・・・・・・・あ。 ―――
サイの家の猫が、机の上に乗り、ノートパソコンの画面に足を引っ掛け、カメラの位置をずらしてしまったようだ。
それを直す時、カメラにサイの顔が一瞬映った。
前髪は少し長めで、横の髪も耳に少しかかっている。
髪は染めておらず、さらさらとしていた。
一瞬だったけど、目鼻立ちの整ったイケメンだった。
まずい。
所詮チャット、文字だけの繋がりのはずが、その境界線を越えてしまう。
そんな予感がした。
楽しく、本音で語り合える人が欲しかった。
束縛をせず、束縛もされず、そんな気楽な付き合いがしたかった。
でも、文字の世界だけと言っても、その文章内で人の人格等は多少なりとも現れる。
顔ではなく、姿でもない。
その人の人柄に好感を持つ、それがチャットだと思っていた。
だから、内面に優しさを持つサイにひかれたのだ。
だけど、いま、この瞬間、あろう事か私はサイに一目ぼれをしてしまった・・・。
「それじゃ、今から英語禁止ゲームしようぜ」
あまりの暇さに、いとこのマメが俺の苦手とするゲームを振ってきた。
実際、俺も暇だったし、ちょっとサナをからかってやろうという思いで、その提案にのった。
案の定サナは面白いようにひっかかってくれた。
「カレーでしょ?
ハンバーグでしょ?
最近は肉じゃがも上手に作れるようになったんだからね!」
ちょっと拗ねて怒った感じで言う、サナの声はいつ聞いても可愛らしく耳障りが良い。
ずっと聞いていたいほどだ。
と、突然イヤホンから
「・・・あっ・・いつっ・・・ん」
ドキリとした。
――― ??!!ちょっと待て!何やってんだあいつはいったい ―――
声にならない声で言う。
なんとも悩ましい声に聞き入ってしまったが、この声を聞いているのが自分だけではないと言う事に気が付き
「おい・・・いったい何をやってるんだ?」
恐る恐る聞いてみた。
あろう事か1人でアレをしてると言う。
アレとはやっぱりアレの事なんだろうか。
俺の心臓が早鐘のように鳴り出した。
やばい。
この動機を沈めなければ。
だが、一度想像してしまった妄想は、脳裏に焼きついてしまっていた。
一応、平静を保ちながらもゲームを続行するも、惨敗だ。
やっぱりというか、当然のように、マメが罰ゲームを要求してきた。
まぁ、身体の一部くらいならいいか・・。
渋々承諾をし、制限時間も10秒と決めた。
念を押し、覚悟を決めてカメラのスイッチを入れる。
そこに飼い猫が俺の部屋に、足音も立てずに入ってき、俺の背後でいきなり鳴いた。
「にゃぁ~」
緊張していたのもあり、その鳴き声にびっくりし、俺の心臓に激痛が走る。
――― どっくん ピキッ・・ ―――
痛い。
顔が激痛で歪む。
ネコが俺を飛び越えて、机の上にあがり、パソコンの画面に足を引っ掛け倒してしまった。
まずい。
いま顔を映されたらバレる。
そう思い、激痛に耐えながら平静を装いパソコンの画面を直し、素早くスイッチを切った。
その変化をマメが察したのか
「サイ、大丈夫か?」
「・・・・ああ」
かろうじて出る短い返事。
「ちょっと便所」
トイレと偽り通話のスイッチを切り、呼吸を整える。
顔が映らなくて良かった。
もし映っていたなら、酷い顔色をしていただろう。
それから少し経った頃、夜中に発作を起こしてしまい、病院に運ばれた。
二日ほどの様子見で、家に帰る事ができた。
だが、数日経つと、また発作が俺を襲う。
その度に病院と家との往復で、どちらが自分の家なの分からない状態になっていた。
頻繁に入退院を繰り返す俺のために、マメが家から携帯をこっそり持ってきてくれた。
「夜中にベッド抜け出してチャットに来いよ」
「ああ・・ありがとうな。
サナには俺の病気の事は言うなよ」
「分かってるって!」
「お前は口が軽いからな・・・」
「言わないよ・・・言うわけないだろ
もし言ったら・・・あいつ、きっと泣く」
二人は顔を見合わせながら苦笑いをした。
「今日も雨だよ・・・
明日は晴れないかな」
「こっちは月が出てるからきっと晴れるよw」
「こっちも月が出てるな」
マメを励ますつもりで言った、何気ない一言だった。
まさか、自分の家がある県全体が雨だとは知らず、おまけに、月が出ているのは、いま入院してるこの病院周辺の地域だけだという事を、サイはこの時まだ、知らなかったのだ。
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