... 2014-07-16 19:12:49 |
通報 |
─鮫島に何を伝えきに来たかはわかりませんけど、モノによっちゃ俺、そう簡単に鮫島をそっちに行かせるつもりないんで。もしも、またやり直しだとか、好きだとかなんだとか抜かそうと考えているなら帰ってください。
(ああ、やっぱり。彼女の言葉を聞く前からわかっていた。それでも改めて聞いてしまうと、苦しい。彼女は彼に何のようかはわからない。ただ、元気かどうかの確認。またもや今までの礼。答えは復縁以外にも沢山あるのだ。それでも彼を連れていく様な真似はしてほしくない。それ以外の事ならば、今回は諦めて彼女の所へ彼を行かせようと己の中で決めたのだ。本当は嫌だ。でも、仕方がないのだ。そこばっかりは割りきろう。そして伸ばされた手、己が行く方が早いか握られる事無く彼女の目前にて立ち止まり、しっかりと見詰めて上記を紡ぐ)
(伸ばした手は空を掴み、その瞬間、彼が口火を切った。紡がれる内容に瞠目し、彼の背後で驚き隠せず、言葉を失う。それは彼女も同じで、小動物のような丸い目を見開き、固まってしまい)
『……そんな……私は……、っ……』
(突然の彼の言葉は、彼女の胸に辛辣に刺さって、声音は震えて更に小さくなり、身を縮こませるように俯いて。そんな彼女の様子に男は居た堪れず、僅かに眉根を寄せると、彼の肩を掴んで此方へ向かせ)
——久城! やめろって。……塔子は、そんなこと言わないから。
(彼女を庇うためではなく、あくまで彼を止めるため、治めるために目を見て告げる。言葉の切れ間に一度彼女を見遣れば、身を硬くして胸元で握った両手が微かに震えている。それを視界に捉えると、また彼へと視線を戻し、続きを紡いで。「……取り敢えず、場所を変えよう。塔子、いい?」と、彼の肩口から手を離すと、彼女へ声を掛けて)
─ッ。
(彼女の様子を気にも止めず見遣る。突如、後ろから伸びてくる手。自然と彼の方へ身を向けては、其の様子に胸が痛む。こんな事で一々反応してしまう自分が酷く情けないと思った。彼女はそう言わない、彼はそう告げた。己にはこれ以上口出しする術がないと思った。眉間に皺寄せながらバツが悪そうに軽く舌打ちをする。彼が己を治めるつもりでやっている、なんて思考まで至らなかったのだろう。彼女を庇う様に見えるそれは、己の心中で深く抉られた痛みを伴う。これ以上の長居は駄目だ。これ以上ここに居たら、自分だけでなく彼まで傷つけてしまいそうな気がした。何より嫌われてしまうだろう。痛みを堪えるかの如く唇噛み締め僅かに顔逸らせば目を伏せ)
─帰る.......、勝手に入って悪かったな。あとはお二人サンでご勝手に。
(そして、低く掠れた声色で言い放つ。離れた手を見据える事もなく、また彼を視界に捉える事なく横切って足早に歩き出す。彼らから直ぐに視界が外れる様、近くの角にて曲がりら自然と先程の事が脳裏で再び流される。目の前で小動物の様に縮まる彼女の姿を思い出すと、ッチと再び舌打ちをする。まるで己が悪い様に思えてくるその仕草。いや、悪いんだろう。心の何処かでちゃんとわかっている。反省をしていない訳でない。彼女が女性でなければ、胸ぐらを掴んでいたかもしれない程己の心は正常ではなかった。結局、あの時と同じような行為をしでかそうとしていたのだ。)─畜生、....くそ、っ.....。
(路地裏に入り込み壁へドンと片手拳を当てれば、俯いて表情を歪める。そしてふつふつと沸き上がるもう一つの感情は、怒りではなく嫉妬であった。彼は彼女の名前を下で呼んでいた。恋仲となればそれは当たり前の事なのはわかっている。今までさして名前呼びに関し、意識することはなかった。今となってはこのざまだ。些細な事で気にしている己が馬鹿らしい。自嘲気味な笑みははっと漏らすも、表情は酷く歪んでいるばかりで)─。
(彼女が答えるよりも先に、聞こえたのは彼の声。いつもより低く、掠れたその声。すぐに振り返るも、既に彼は背を向け歩き出してしまっていて。己の態度に怒ったのか、彼の様子が気掛かりで、今すぐ追い掛けたい衝動に駆られるが、彼女を置いていくわけにもいかず。「ちょっ——、久城!」と、その場で名を呼ぶが、彼は立ち止まらず、角にて姿を消してしまう。——何でこうなる。顔を顰め、溜息を吐き)
『……直。ごめんなさい……お友だち……。私も、今日は帰るね……。だから、あの子のところへ行ってあげて?』
(少し間を置いたからだろうか、彼に問い詰められた時よりは、幾分声量が戻って。しかし、まだ控えめではある彼女の声。振り返り、見遣るその表情は、先程も垣間見た儚げなそれと同じで。また、瞳が揺れてしまう)
でも、そんな状態で大丈夫……? それに、話って——
『——大丈夫。私も、ちょっと勝手過ぎた……ごめんなさい。話は……やっぱり、また今度にするね。——ほら、早く行ってあげて? 私のせいで怒らせちゃってごめんなさい。そう、あの子に伝えて?』
(今までの雰囲気を少しでも払拭するように、努めて徐々に普通の声色へ戻していき。最後は口許に弧を描き、眉尻を下げて小さく微笑む。その仕草が何ともいじらしい。刹那、郷愁に駆られるも、今、男が気に掛かるのは——)
……わかった。こっちこそ、ごめん。あいつが変なこと言って。塔子がそんなの言う訳ないって、俺、わかってるから。
『……っ、直…私——』
(「じゃあ、行くね」彼女が何かを言い掛けると同時、男はそう言って別れを告げると、背を向け走り出した。その背を黙って見つめる彼女。それは、ガラス越しに店内の彼を探した、あの時の切なそうな眼差しと同じで。『直……』男の名を呟く。振り返ることなく、その姿は曲がり角へ消えて——)
(店からすぐの曲がり角、確かここを曲がった筈だ。しかし、辺りを見回しても彼の姿はなく。結構な早足で歩いていたから、もしかしたら、もう大分先へ行ってしまったのかもしれない。でも、まだそんなに経っていないし……と、相反する推測が、更に男を焦らせる。周りを見渡しながら歩を進めては、人の目も気にせず、「久城!」と相手の名を呼ぶそこは、ちょうど路地裏の前。しかし、まさか路地裏に彼が居るとは思考が及ばず、その場で右左と彼を探しては、見つからぬ姿に「……くそっ」と唇を噛んで)
...っ、...。
(ドス、と再び鈍い音と共に壁を殴る。もう何度目だろうか。この感情を痛みで和らがせるかの如く、数度叩きつけられる壁には僅かな血シミ。最後の一振りをした所で力無く拳作った右手を下ろすと同時、壁に額を当て寄りかかる形になり俯く。右手は軽傷であり微かにジンジンと柔い痛みの余韻が残る程度。幾分擦りきれ変色しているくらいである。彼と彼女は今きっと二人きりで大切な話とやらをしている事であろう。彼が“塔子”と呼ぶ女性はいかにも優しそうで可憐な人だった。そして、何より─似合っている。あんな人こそが彼に似つかわしい存在なのだと嫌でも感じてしまう。勝てるわけがない。彼はきっとああいう可憐で優しく、守りたくなるような女性が好みなのだろう。だとしたら、己は叶う術がない。そもそも男だ。まずそこからだ。それを許せたとして、彼女の様な身柄ではない。其のまま壁に背を向けた時だった)
──鮫...島....?
(己の名を呼ぶ声。それは路地裏を出る前の辺りだ。其処から幾分距離がある所にて立つ己。しかし、彼の姿はしっかりと視界に捉えており、彼も此方へ視線向ければ気づくであろう位置。小さな声で無意識に名を呼んでしまうも、視線を伏せては息を潜める。話があるんじゃなかったのか。話が終わるにしても早すぎる。そんな様々な思考が巡る中、自然と彼に会わせる顔がないという意識も出てきた。近くにあるごみ箱にて歩みより、彼の死角の位置に入ろうとゴミ箱の前で身を潜める。彼から見た此方は当然ゴミ箱だけだ。呼ぶ声に返事もせず、彼が行くのを待機─しようと試みるも、突如後ろから白黒の猫が『─ニャー!!!!』己の背中へと飛び掛かる。立てていた爪が服をも越え肌へと当たると「──いっ.....!!!!いってっ!!!!おいこら!!!!」と反射的に身動いた結果、目前のゴミ箱へと倒れ込む形になり幾分大きな音を立て、倒れる箱と散るゴミ。そして床に両手着きながらも倒れ込んでいる己の姿。その上へひょいっと飛び越え行くのは猫。その前には虫が飛んでいた。どうやら己の背中辺りにまで来たのを運悪く当たってしまったのだろう。彼を通りすぎる猫を視線で追いつつ)って、ぇ....、
(やはり、もっと先に行ってしまったのかもしれない。この場を諦め、向こうの通りを探そうと足を踏み出した瞬間)
――――!
(突然、大きな物音が響き渡り、思わず振り返る。路地裏から勢いよく箱が倒れ、散乱するゴミ――と、そこへ倒れ込む彼の姿。――居た。男は双眸を見開き、すぐに彼へと駆け寄って)
久城っ――! 大丈夫か!?
(足元を通り過ぎる猫に気付かぬ程、意識は彼に集中し、最短距離で駆け付けると即座に膝を折って、抱き起こす。「大丈夫? 立てる?」と、至極心配そうに見つめ、彼を支えながら共に立ち上がろうと。それが叶えば、横倒しになったゴミ箱や散らばる屑等よりも先に、倒れ込んだ際に付いたであろう彼の髪や服の埃等をまず払って)
……怪我してない? 大丈夫?
(とにかく彼が心配で、「大丈夫?」と繰り返し口を出てしまい)
─これくらい、平気だっての。....、...ども。
(なんという失態。即座に此方を気づく彼を視界に捉えた後、目を伏せる。彼に支えられ埃などを払って貰うまま共に立ち上がる。しかし、直ぐに彼の胸元を片手で軽く押し自ら離れ立つのと同時に告げて。半歩下がって視線をやや斜め下へ向ければ「あの人とは話出来たのかよ...?」とまず気になった事をそのまま問う。確かに早すぎるが、彼女を優先した彼だ。だから彼女を置いて己を追い掛ける事はしないだろう、とは予測しているが実際はわからない。でも、矢張彼の瞳が揺らいだのが忘れられない。彼女を本当に想っている、いや、想っていた証拠なのだろう。そう思うとまた胸がきゅと痛くなり、僅かに眉寄せて)
(共に立ち上がることが叶えば、足を挫いてはいないようで内心ホッとする。しかし、衣服の埃などを払っていると、彼は己を払うように距離を取って。やはり、まだ怒っているのだろうか。役目のなくなった手を傍らへ下ろし)
……いや。お前のこと気になったし。塔子も帰ったよ。久城に、自分のせいで怒らせてごめんって、伝えてほしいって言ってたよ。
(下方へ視線を伏せる相手を見つめながら、先程までの慌てた声はしまって、落ち着いた声量で言葉を紡ぐ。自分を見てくれない相手に心が痛むが、無理にこちらへ向かせることはせず、そっと彼の頭へ手を置いて)
……巻き込んでごめん。
意味がわかんねぇ。
(彼女のその行為が更に己の中で腹立たしく思えた。彼に対してあんなに必死になっていたくせに。ッチと軽く舌打ちしながら上記を呟く。そして次いで述べられる言葉に、眉がぴくりと痙攣。巻き込んだ、というより己が邪魔をしたのだ。彼も彼女も人想いだ。だからこそお互い付き合っていけたのだろう。細長い溜息を漏らしながら、頭に乗る手を見据える。「俺が...俺が折角の再会を邪魔しただけだろ。お前もあの人も何なんだよ。お前だって、あの人にああ言われて揺らいだくせに。あの人だってあそこまでお前に会いたそうに、話したそうにしてたくせに結局はこれかよ。」それを言い終えるのと同時、彼の撫でる手首を掴み歩き出そうと一歩踏み出し目を伏せる。数秒の沈黙の後、漸く唇開いて下記を紡ぐ)─あの人の話なんて俺は知らないし、俺には関係のないことなんだと思う。お前はあの人がそんな事を言う人じゃないって共に過ごした相手だからこそお前にはわかるんだろうけど、俺にはあの人がお前を求めて...、...るように見える。...違うんなら違うでそれならそれでいい。....でも、もしもあの人がお前を好きと言ったなら...(告げた後にきゅと僅かに握る力を込めては、間の空いた空気は何処か緊張感を覚える雰囲気で。そんな中ゆっくり彼へ視線を向ければ、真剣な顔付きで「俺は全力で、鮫島を奪う。」と告げ彼の腕を握ったまま走りだし路地裏から抜け)─だから、とりあえず、あの人にもう一回会ってちゃんと話してこいっ
(先程の自分の行動を『邪魔』と言う相手。「そんなことない」と言おうとした瞬間、次ぐ言葉に、ぐ、と喉が詰まる。『揺らいだくせに』――気付かない振りをしていた自分の感情を、まるで見透かしたかのように彼は切り込む。優しく頭に置いた手が、ぴく、と硬直して。「……そんなことない」先程言い掛けた言葉をまた発しようとするが、どこか緊張して声が出ない。歪む眉間。すると、そんな男の心中を知ってか知らずか、彼に手首を攫われ、僅か体勢を崩し。数秒の沈黙。「久――」黙ってしまった相手の名を呼び掛けると同時、再び紡がれる言葉に続きは途切れて。今度は己が黙って彼の声を聞く。彼の言葉の選び方や、僅かに空く間などに、繊細な感情の起伏が読み取れるようで、ただ、黙って聞いていた。不意に、握る力が強まることに気付く。その拘束感と再び訪れる沈黙に、言葉が出てこない。すると、ゆっくりとこちらを見る彼。その真剣な表情に目が離せないでいると、告げられた言葉に、ドク、と心臓が跳ねて。同時、彼の引力のまま駆け出す)
……、……久城―――
(速くなる鼓動に息が詰まる。急に走り出したからか、それとも彼の言葉のせいか。過ぎる景色のように思考が追い付かず、だが、足は止めずに来た道を彼と駆け戻って)
(路地裏から店までは大した距離もなく、あっという間で。彼女の姿は――、まだあった。ちょうど店を離れて行こうかというその背中を男は呼び止める)
――塔子!
(振り向いた彼女は驚きに目を丸くして、その場に立ち尽くし、『……直……どうしたの……?』と男へ問い掛けながら、共に戻って来た友人を垣間見る。男の手首を掴む彼の手に気付けば、顔を上げて)
『……あなたが連れて来てくれたの? ……さっきはごめんなさい。私――』
――塔子。やっぱり、今、話聞かせて。ここに来たってことは、塔子もいろいろ考えた上で来たんだと思うから。……俺、ちゃんと聞くから。
(彼へ謝る言葉を遮って、落ち着いた声で男は告げた。思ったことをそのまま言葉にした嘘のない言葉。それは彼に対しての誠実さの表れでもあって。真っすぐに彼女を見つめる)
──っ。
(彼を引き連れながら走り出す。名を呼ばれた気がしたが返事をする事無く進むばかりで。何を考えるというまでには達する事無く、先程の店前まで来ていれば彼女の後ろ姿。彼が名を呼ぶと、ふりかえるその姿。お互いを名で呼ぶのがやっぱり羨ましい、なんてこんな時にも余計な事を思う。そして彼女が告げようとした言葉へ耳を傾けようとした途端、彼の言葉が重なる。ゆっくりと彼の手首を離してやれば、用のない手をそっと下ろし半歩下がる。あとは二人でそっとしておくべきか─と思考を巡らせて)
...じゃあ、俺は....、あとは二人で。
(二人の顔を交互に見やった後、己はもう帰ろうと上記を述べ「またな。」と彼らの有無を聞かずに歩き出し、先程の路地裏方面へと向かう)
....。
(本当の事を言えば、二人の話内容がとても気になる。でも、己がいたら今度こそ本当に邪魔だ。彼を彼女の元へ行かせたのも、自分の欲を抑え引き下がった事が腹立たしく思えたからだ。己は欲にいつも負ける。だからこそ、それをしてみせ尚且つ彼を揺らがす事が出来る彼女に負けた気がして腹が立った。悔しい。羨ましい。沢山の気持ちが溢れるばかり。路地裏を過ぎ暫く歩いていると、雑貨屋から女性四人程が出てくるのが見え。『よし、いきなりゴメンねっ。一人だと迷っちゃってさー。んじゃ、ここにて解散ね!みんなじゃあねー。』一人の女性が嬉しげに話す。そして幾度か会話を交わしたのち、みんながばらばらの方向へと歩き出す。そして一人の女性が此方を見る─、視線に気づき再びそたらへ向ければ姉の姿。『あれ、快?鮫島くんと一緒なんじゃなかったの?』なんて不思議そうにしつつ、此方に歩み寄る姉。言い返す言葉無く立ち止まり目を伏せ)
『…………うん。ありがとう』
(そう言って、彼女は小さく笑った。落ち着いた空気の中、するりと離れる彼の手に振り返れば、短い別れを告げ、その場を後にする彼。「久城ーー!」呼び掛けるも振り向かない。真摯に向き合う決心がついたのは彼のおかげだ。でも、まだ礼さえ言えていない。せめて、彼の背に告げようとした瞬間、『……あの、ありがとう!』先にそう言ったのは彼女の方で。少し驚いたように振り返り、そして、再び視線を戻す)
ーーありがとう。またな。
(そう礼を伝えて。姿が見えなくなるまで、その背中を見つめていた)
(店の前は人通りがあるからと、二人は場所を変え、すぐ近くの公園へ移動していた。道中、久し振りの再会に互いに緊張した様子で会話はなく。広場から少し離れたベンチまで来たところで、漸く彼女が『……座ろっか』と声を掛けて。共にベンチへと腰を下ろす。ーー沈黙。話があると言ったのは彼女だ。自分はそれを聞く、受け止めると言った。ならば急かさず待とうと、男はただ静かに黙って。遠くで子ども達の無邪気にはしゃぐ声が聞こえる。穏やかな午後。時折吹く風に揺れる葉音。それに混じって、小さく震える可憐な声)
『ーー直……私……』
(そっと隣へ視線を移す。小さな唇が微かに震えている。それをぎゅっと結ぶと、覚悟を決めたように彼女もこちらを見て。重なる視線)
『私たち……もう一度、やり直せないかな?』
(男は彼女を見つめたまま、双眸を見開いて。「え……?」一陣の風が二人の間をすり抜けていく)
─。
(束の間姉と帰る道へ歩き出していれば、隣で心配そうに己をちらちらと見る姉。一度心配するとしつこい彼女だ。暫く無言で歩いていたものの、漸く己から口を開いては「鮫島は元彼女さんと話してる。」と告げ、その言葉を聞き目見開く彼女。幾度かの会話を交わしながら目的地の家へ。扉を開け中に入れば早速己の部屋へと足を向ける)
....はぁ。
(溜息とほぼ同時だろうか、ベッドへ重く感じる体を沈めると、うつ伏せになった身のまま目を閉じる。嫌でも彼と彼女の事を考えてしまう。頭から離れないのは揺らいだあの瞳だった。もしも、もしも彼女が彼との復縁を望む話を持ち掛けていたなら、なんて思うと胸が痛くて仕方がない。彼を奪うといったって身柄だけじゃない。己が一番欲しいのは、心だ。きゅと無意識にシーツきゅと握る。あれから暫くし、トントンと扉叩く音。『入るからね、快。』どうやら姉だ。ゆっくりと身を起こし彼女を見据える。『今日、鮫島くんに会いに行ったら?』との一言)...は、...何で。
(男は言葉を失い、瞠目したまま彼女を見ていた。そんな彼を真っ直ぐに彼女は見ていた。だが、先に視線を外したのは彼女の方で)
『……ごめんなさい。こんなこと言える立場じゃないのは、わかってるの』
(目を伏せ、膝に置いた両手が、ぎゅっとスカートを握り締める。長い睫毛が繊細に震えている。それでも、溢れる想いを彼に伝えたくて、ゆっくりと、もう一度、真っ直ぐに彼を見上げた)
『……あの時は、直のために離れた方がいいと思った。……だけど、忘れられなかったの』
(彼女の言葉に、当時の記憶が走馬灯のように蘇り、胸が苦しくなる。それは彼女も同じなのだろうか。瞳に映る自分が薄ら涙に滲んでいて)
『……もう逃げたりしないから。直とまた……一緒にいさせてもらえないかな?』
(最後まで瞳を逸らさず彼女は言った。一粒の涙が零れ、頬を伝う。それを拭わずに、不安げに揺れる瞳から、ただ真っ直ぐに彼を見つめる真剣な眼差し)
………………塔子…………
(当時の記憶と、今、目の前にいる彼女が交錯し、頭がうまく回らない。この真剣な瞳から目を逸らせない。胸が苦しくて、言葉が出てこない。また沈黙が二人を包んで)
『だって、気になって仕方ないんでしょ。本当は。』
(彼女の言葉に目を伏せた。今日はもう会わない方が良い。しかし、気になるのは確かだ。眉を寄せながら躊躇する。再び口を開く姉。『ま、私だったら会いに行かないけどね。...尾行はしたとしても。』なんて冗談っぽくふっふっふっと笑う。「なんだそれ。ストーカーかよ。それこそ最悪だろ。」『もーっ、冗談だってば!...私はちゃんと待つけど、快はそうもいかないんでしょ?昔から、気になっちゃう事はすーぐ行動に出ちゃう方だもんねぇ。』会話を交わし合った結果。楽しげに頬緩ませていく彼女。はぁ、と溜息。結局彼に会いに行く事にってしまった。そして立ち上がろうとした所で『もしかして、そのままでいくつもり?』彼女の言葉に疑問符を浮かべる。このままなんじゃ?すると此方に近づき良からぬ事を考えている顔付きにこりと笑み浮かべる姉)....はい?
──。
(あれから数十分くらいだろうか。束の間、彼女の好みの服にへと着せ変えられる。まずなぜ姉が男物、いや己のサイズに合った服を持っているのかが謎だった。「てか、何で俺の服...」『あー、友達が彼氏の誕生日で、服プレゼントするって一緒に探してたらね、何となく快の分も買おうっかなーって。』ふふと小さく笑いながら語られる。正直言って姉のセンスは結構良い。将来はファッション系に就く事も考えても良いんじゃないかという程だ。黒チェック柄ズボン、ワンポイント性のワインレッドカットソーその上にダブルラインが入った黒色のボタンニットカーディガン。メンズ×カジュアルっぽさを漂わせているものだ。「これ、もしかして好きな人が着るならこんなのがいいなっていう奴じゃないよな?」『あ、バレた?...まぁまぁ、実験だよ実験ー。でも、似合ってるよ!大人っぽい!一目じゃ、快ってわかんないね。』まるで変装しているかの如く語る彼女に苦笑を浮かべ立ち上がる。暫くして家の外へ出て喫茶店の方へ早速足を進める。彼はマスターの事を伯父といっていた。もしかしたら彼の居場所を知っているかもしれない。と、そのうち後ろからトントンと肩を叩かれ振り返れば、息切らしながらワンピース性の可愛いらしい服着た姉。目丸くして問いかけて)ちょ、なんだよそれ、もしかして...来んの!?
(どれくらい沈黙が続いただろうか。それは数分、いや数十秒だったかもしれない。だが、男にはとても長い時間に感じられた。……一組の若いカップルが腕を組んで、ベンチの前を通り過ぎる。楽しそうに弾む声。男は、すっと彼女から視線を外す)
…………きっと繰り返すよ。
(呟くように返す声。少し低いその声が胸に刺さって、彼女は堪えるように唇を強く結んだ。そして、自分で発した言葉が、男の心を締め付ける。顔には出さない。かと言って、これ以上、言葉も出ない)
『――直、明日時間ある?』
(突然の問い掛けに、微か双眸を見開く。「……いや、バイト」そのまま振り向かず、短く返す答え。嘘ではない。『じゃあ、他に空いてる日ある?』微か眉間に皺を寄せ、男は振り向き「塔子――『お願い。今すぐ答えは出さないで。……一日、私と過ごして、それから返事してほしいの。……すっごく、すっごくわがまま言ってるって、わかってる。あの時のことも、なかったことには出来ないって思ってる。でも、あれから本当にたくさん考えたの……だから、今の私を見て、返事はそれからにしてもらえないかな……?』――彼の言葉を遮り、真剣な声色で一心に伝えた。第三者が聞けば、何と自分勝手な言い分だと思われるだろう。そんなことは彼女も分かっている。それ以上に必死だったのだ。その想いを、真摯な眼差しを、正面からぶつけられた男の心は――揺れていた。あまりにも、あまりにも彼女の言動が真剣で、想いがひしひしと伝わってくる。男の胸に込み上げる――情)
…………来週なら、空いてる。
(ぽつりと呟く。その答えを聞き、双眸を見開く彼女。次の瞬間、嬉しさのあまり溢れ出す涙を、いけない、と慌てて拭い)
『ありがとう、直……本当にありがとう』
(目に涙を溜めては、ぽろぽろと溢しながら、小さな花が咲くように微笑んで。その笑顔に少しだけ、男は口許を緩めた)
(『来週の12時、このベンチで――』そう約束して、二人は別れた。緩慢な足取りを刻みながら、考えるのは彼女のこと。真剣な声、眼差し、涙、笑顔。頭の中をぐるぐると廻る残像と余韻。そして、その隙間に混じる付き合っていた当時のさまざまな思い出――と、別れたあの日。徐に足を止め、溜息を吐く。ゆっくりと瞬き、閉じる瞳。数秒の間。ふっと顔を上げると、踵を返し、どこかへと向かって――)
【サブキャラプロフ】
津田 千歳(つだ ちとせ) 41歳/175cm
性格:明るく楽観的。座右の銘は「明日は明日の風が吹く」。やる時はやる兄貴肌。ちょっと天然。
容姿:茶色味がかった髪は緩く癖付き、口角の上がった口許が特徴的。甥と少し目許が似ており、顔立ちは整っている。実年齢より若く見られることが多い。
備考:鮫島の伯父(母の兄)
(もしかして出番があるかも?と思い、ざっくり書いてみました^^ ご参考になれば!)
....ったく...。もう勝手にしろよ。
(はぁ、と溜息漏らし再び歩き出す。隣へと歩く姉を横目に見据えた後、喫茶店へと向かう。幾度か会話を交わし何処か可笑しげに共に笑い、やがて人通りの多い道へと。あと幾つかの角を曲がればすぐ喫茶店だ。姉へ視線を向けようとした時、すれ違う人たちにちらちらとした視線。『わぁ、あのカップル芸能人みたい。...特にあの女の人すっごく美人~っ!』近くにて聞こえる人の声。とても居たたまれない気持ちを抱きつつ、隣の彼女へ視線向ければ潜めた声色で「あの...目立ってるんだけど...。しかも、何でカップルだと思われなきゃいけないんだよ...嫌なんだけど。」と告げ。それを聞き己の背中をばっしーんと叩きながら『失礼な!』という相手。そして目前から此方へと向かってくる男女カップル。二人の世界に入っているのか女の方は男の腕へとしがみつきベタベタオーラ。『もうたっちゃん大好きっ...かっこいいんだからぁっ』『みっちゃんも可愛いかんな?すっげえ可愛いし、俺のが大好き~』何とも馬鹿らしいカップルだ。はぁと溜め息つきそのまま視線外して行こうと思った所、隣の姉は眉をぴくつかせ嫌そうな顔。『はい?何あれ。馬鹿でしょ?ちょっと快、あたしたちも負けずにやるよ。』何を思ったのか此方の腕へとしがみつき、突如にっこりと笑みを浮かべ『今日のかっちゃんは“ここにいる男より”もすっごくかっこいいよ。鮫島くんくらい。』と目前のカップルに聞こえやすいように告げる。すると向こうのカップルの男女が此方を見る。女の顔に皺が寄り『たっちゃんはーっ、どのカップルの男よりもかっこいいもんねぇっ!』何たる対抗。しかし男の方は隣の姉に視線を向けたまま、見惚れているのだろう。それに気づいた女は立ち止まり男へビンタ。そのやり取りを己は見ずに横切ると、隣の姉は『ふっふっふっ....あたしたち勝ったな。』と一人愉快そうに告げ離れる彼女。「何がかっちゃんだよ、てか変なことすんなってば。」と呆れた様に呟きつつやがて喫茶店へ)
...あー、まだお客さんいるし、あの人も多分奥の方で働いてるのかもな。
(やがて喫茶店の前へと着き、ガラスから室内を覗き見ると彼の伯父の姿がなく、上記を呟く。はぁ、と溜め息漏らしては目伏せ)
『あれー? 直のお友だちくんじゃん? あいつとどっか行ったんじゃねーのか。いいねぇ~。デート?』
(間延びした軽い声が彼の背に向けられる。その主は、この喫茶店のマスターで。ビニール袋を手にぶら提げ、何かの買い出しか。もともと口角の上がった口許を更にニヤニヤと緩めながら、通りより歩いて来る。『お。彼女、美人だねー。どーもー』なんて、軟派な笑顔を姉に向けながら、ひらひらと手を振ったりして)
─あ。...どうも。いえ、この人は姉です。ええと、そのつもりだったんですけど、ちょっと色々ありまして...。
(突如後ろから聞こえる声に振り返れば、目を見開き苦笑を浮かべつつ、隣の姉を指差し紹介をば。隣の姉は軽く会釈し『どうも。快の言う通り姉です。そして残念ながら、快には彼女なんていません。彼氏でも良いので、最愛な人が出来たら良いなぁって思ってま「おい!余計な事言い過ぎ!」彼女のノリもどうかしているとツッコみ入れつつ、相手へ視線向き直せば、苦笑浮かべつつ申し訳ない気持ちで問うてみて)すみません、それでいきなりなんですが、鮫島がどこにいるかって知ってたりしますか?ちょっと用があるので...。知りたいんですけど。
(うおおおお、伯父さんのプロフありがとうございます!!どうやらすれ違ってしまったようで、かわしてしまいました!!
次回からはもしかしたら登場させるかもしれません!本当すてきなプロフありかとうございます^^)
トピック検索 |