とみ♪ 2014-07-07 20:38:17 |
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『ねー、祐紀ぃー』
中学2年、冬。
退屈な授業が続く中、
あたし、みゆは隣の席のやつに呼びかけた。
「ん~?」
『暇』
「アホ」
そう言って、あたしのことをアホ呼ばわりしたのは小3からずっと同じクラスの祐紀【ユウキ】。
いわゆる、あたしの悪友。
『アホって何さっ。あたしはアンタよりはバカじゃないしっ…』
「そこ!今は授業中だぞ!静かにしなさい!!」
『あ…はーい』
途端にクラス中がクスクスと笑い出す。
祐紀も一緒に笑ってるし。
なんであたしだけ…!!
「やっぱアホ」
『覚えといてよ』
「知らね」
そう言って、祐紀はくすりと笑った。
『……』
そんな祐紀の笑った顔を見て、何も言えなくなるあたし。
やっぱ、惚れた弱みってやつか…。
あたしが祐紀のことを好きになったのは、いつのことだろう…。
そんなことなんて、いちいち覚えていなかった。
ただ小学校3年の時に同じクラスになって
たまたま最初の頃席が近かったあたしたちは、
すぐに気が合い、仲良くなった。
そしていつの間にか
その想いは恋心へ…。
だけど知ってる…
祐紀はあたしのこと、ただの友達としか思ってないことを…。
今あたしが祐紀に告白すれば、きっとこの関係は崩れてしまうだろう。
そしたらもう、あたしは祐紀の隣にいることは出来ないんだ。
そんなの…嫌だよ…。
いつかきっと…
祐紀はあたしのこと、一人の女の子として見てくれるときがくるかな?
ううん…絶対にそうさせて見せるんだから…。
だからその日まで
あたしは祐紀の親友という位置にいるんだ。
想っていれば
いつかきっと、報われる日はくるよね…。
あたしはそう信じていた。
『今日は木曜日だね!部活休みっしょ?』
「おう」
バスケ部に入っている祐紀。
1週間の大半は部活に追われる日々を送ってて、休みなんてほとんどない。
木曜は唯一の部活休み日だった。
『じゃぁ、チャリ乗っけて』
「はいはい」
そしてこれは、お決まりのこととなっていた。
公立中学のあたしの学校は、もちろんチャリ通なんて禁止。
だけど2年の冬にもなると、そんなことを守ってる人のほうが少なくなってきていて、
いわゆる優等生グループのコたち以外は、隠れてチャリ通する人ばかりだった。
「お前もいい加減、自分でチャリ乗ってこいよ」
『えー…だって、先生に見つかったら嫌じゃん。
祐紀の後ろだったら、あたしだけ逃げればいいし』
「お前なー…」
なんて言ってるけど、ホントは違うよ…?
あたしは祐紀の後ろに乗りたいだけだもん。
ただ単に、祐紀にくっつくきっかけがほしいだけ…。
『さぁ、出発してくれたまえ!』
「……はぁ…」
あたしたちは隠してある自転車置き場まで行くと、
いつものように、ニケツして帰った。
「みゆってさー」
『ん~?』
ニケツをしながら、
いつもの道を走っていると
祐紀が問いかけてきた。
「好きなやつとかいんの?」
ドキッ…
その言葉を聞いた瞬間、あたしの心臓が高鳴った。
『なんで~?』
あたしはなるべく平静を装って、問い返した。
祐紀…少しはあたしのこと、気にしてくれてんのかな…?
そんな淡い期待を込めて…。
「だってお前さ、告られても全然OKしねぇじゃん」
『……』
だって、そんなの当たり前だよ。
あたしは祐紀のことが好きなんだから…。
「だから、ずっと好きなやつとかいんのかなぁって」
祐紀はあたしの想いを知らずに、笑ってそう言い返す。
『そぉゆう祐紀こそはどうなの?』
「俺?俺は今、部活一筋だし。
まぁ、彼女が欲しいとかは思うかなー」
だったら、あたしがなってあげるのに…
そんな想いを押し殺しながら、
『アンタには一生無理でしょ』
「んだと!!」
『ひゃっ!急に加速しないでよっ!!』
「バーカ」
あたしたちはいつもの冗談を交し合った。
これがあたしと祐紀のちょうどいい距離。
これ以上近づいてはいけない。
これ以上離れてもいけない。
―親友―
そんな位置、
ホントは欲しくなんかなかった。
「みゆ~」
『わっ!ビックリしたぁ…』
朝、学校に行くと、突然愛【アイ】に声をかけられた。
愛は幼稚園からずっと一緒の幼馴染で、かなり心許してる存在。
だけど中学になってから、ギャル化していった愛とは、ここ最近あんまり話していなかった。
「ちょっと相談あるんだけど…いい?」
『ん?いいよ』
愛があたしに相談するのは、すごく久し振りのことだった。
昔はしょっちゅうあたしに弱音を吐いてたけど、最近はつるまなくなってきたからな…。
だから結構マジなことだと思って、あたしは愛に連れられて、学校の屋上へと向かった。
『どしたの?』
「えっとさ~…」
『うん』
愛は周りをキョロキョロして、誰もいなことを確認する。
そして、少し顔を赤らめながら、小さな声であたしに言った。
「みゆって、祐紀くんと仲いいよね?」
『うん…』
「祐紀くんって…今彼女とかいるの…?」
一瞬にして分かってしまった。
愛が何を言いたいのかを…。
ああ…
どうしてよりによって、愛なんだろう…。
『いない…と思うよ。なんで?』
ホントは聞かなくたって分かってる。
愛は…
「愛…祐紀くんのこと、好きっぽいんだよね…。
この前、バスケしてるとこ見て一目惚れしちゃった…」
『……』
そう言って、顔を真っ赤にして言う愛は、女のあたしから見ても可愛いと思った。
愛は昔からモテる…。
よく女のコの間では嫌うコもいたけど、それはただのひがみ。
少しワガママで自分勝手なところもあるけど、それがより男の心を惹きつけてんだ。
「この前、たまたま体育館に寄っていったらさ、祐紀くんが一人自主トレしてて…
一生懸命練習する姿がカッコよかったんだぁ…。
んで、あとから祐紀くんのことたどってってみたら、みゆと仲がいいのが分かって…」
『……』
そうだよ…。
あたしと祐紀はずっと仲がよかったの。
愛とは違うんだよ…。
「んでさ、もうすぐバレンタインじゃん?
その時に告ろうと思ってるの」
『……へぇー…』
あたしはもう、乾いた笑いしか出来なかった。
「だからみゆ…協力してくれる…?」
『……』
これはあたしへの試練なのかな…?
もしここで、あたしがちゃんと正直な気持ちを言っていれば、
少しはあたしの未来も変わってた?
だけど臆病なあたしは
『もちろんだよ…』
そうやって、笑うことしか出来なかった。
『祐紀ー?』
「あ?」
あたしは朝のHRが終わると、さっそく愛のために動いた。
『愛って覚えてる?』
「あい?」
祐紀と愛は、お互いに顔見知りのはずだった。
小学校だって同じで、あたしを通して顔くらいは知ってると思うから…。
『ほら、小学校の頃、あたしと一緒によくいた可愛いコ』
「あー…そういや、そんなコいたような気が…」
『今“可愛い”って言葉で思い出したでしょ』
「うっせ」
明らか、祐紀は「図星」というような顔をしていた。
やっぱ、愛って男から見ても可愛いんだな…。
『そのコが祐紀と話したがってるから、昼休み空けといてくんない?』
「え?俺とっ?」
『うん』
ちょっとあからさますぎるかなって思ったけど、
愛の場合、これくら大胆にしても怒らないコだ。
むしろ、やりすぎだろってくらい突き進むコだから、きっとこれからスゴいことになるんだろうな…。
「二人でっ?」
『いや、あたしも一緒に行くつもりだけど』
「よかった~」
『え?』
その言葉に、あたしは一瞬ドキッとした。
「だって、あんな可愛いコと二人なんて、緊張して何話して言いか分かんねぇもん」
『……』
そうやってまた、
祐紀はあたしをどん底へと突き落としていくんだね。
あたしはいつも、祐紀の一言一言で上がったり下がったりしてるんだよ?
何も知らないで…
ズルイよ…。
昼休み
給食を食べ終えたあたしたちは、愛との約束どおり屋上へと向かった。
屋上の扉を開けると、もうそこには愛の姿が…。
愛はあたしたちの姿を見つけるなり、途端に挙動不審になった。
『愛』
「え?」
『きょどりすぎ』
あたしはそんな愛が面白くて、ついからかってしまった。
だけどふと横を見ると、
「……」
祐紀もいつもとは様子が違う。
あたしといるときは、ズケズケと物事を言ってくるのに、
今はすごく緊張してるのが分かる。
『祐紀も緊張しすぎ』
「うっせ…」
二人の様子から、あたしは明らかお邪魔虫のようだった。
『二人とも黙ってないで、自己紹介でも始めたら?』
一向にらちのあかない二人に、
あたしはついにしびれを切らして、話を切り出した。
そしたら二人もやっと我に返って、少しずつ話し出す。
「あっ、愛です!みゆとは幼稚園から一緒で、仲良くさせてもらってます」
「祐紀です。どぉも」
おいおい…
お前らはベタなお見合いかよ…。
なんてことをあたしは思いながら、なんとか仲を取り持って話を続けさせた。
最初はぎこちなかった二人だったけど、
もともと明るい性格の二人だ。
二人はすぐに打ち解けあって、昼休みが終わるころには普段どおりの二人になっていた。
「じゃぁ、愛は次の時間移動だから、先行くね」
『うん、分かった』
「祐紀くん、バイバイ」
「おう」
そう言って、愛は先に屋上を出て行った。
屋上にはあたしたち二人だけ残されて、
あたしの心は、もう何を考えているんだか分からなくなっていた。
『愛…イイコでしょ』
「だな。モテる理由分かるわ」
そう言って、祐紀は微笑む。
なんだか…あたしのときとは違う笑顔のような気がした。
『惚れちゃいそうでしょ?』
あたしは堪えられなくなって冗談を言ったつもりなのに…
「……そうかもな」
そう言って、マジ顔になった祐紀の顔を見たら
すごくすごく泣きそうになった。
なんで…?
愛とは今日仲良くなったばかりでしょ?
それなのになんでそんなふうに思えるの…?
あたしは…
ずっと祐紀の近くにいるのに…。
「みゆ?」
突然何も言わなくなったあたしに、祐紀が不思議がって覗き込んできた
『何?』
「なんかあった?」
『別に何もないけど?』
時々、自分のポーカーフェイスが嫌になる。
どうしてあたしは素直に言葉に出すことも出来なければ
素直に顔に出すことも出来ないんだろう…。
『さぁて、5時間目始まっちゃうし行こっか!』
「だな」
あたしは祐紀に悟られる前に
逃げるようにして屋上を出た。
授業なんて全然受ける気なくて
先生の言葉が右の耳から左の耳へと流れていくばかりだった。
ただただずっと…
心の中がモヤモヤする…。
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