矢谷啓 2014-05-13 19:43:45 |
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…吐き気した、もうこの女の話はやめよう?そいつ、保健室出禁ね。
(今度から校内の色んな女子を観察して少しでも怪しい行動があれば出禁にしよう、そんな幼い考えが胸を掠めて。無様な人間の死ほど醜いものはない、相手もきっとそう思っているのだろう。違うとしても死の捉え方は人それぞれなのでいいのだが、似ている点が多々あるのだからこれももしかしたら、なんて。首筋に伝う相手の舌に全身が跳ねては「それ、くすぐったい…」と僅かに震える声で言う。「え?そうかな…多分それはないと思うけど…何か話聞いてると純粋で一途っていういかにも女の子らしい人が思い浮かぶし…」相手の彼女のことだ、一度は自分に興味を持ってくれるかもしれないがすぐに相手のもとへ戻るだろう。根拠も理由もないが何だかそんな気がする。彼女の話をすることで彼女のことを無理に忘れようとしなくていい、そんな思いもある。それは自分と彼女が同じ、啓という人間を好きになったから。惹かれる所は違えどきっと相手と過ごす時間は幸せだったはずだから。「うん、お揃い。…認めません、断じて認めません。」同じように笑いながら言っては子供っぽいことなんて認めない、の一点張り。自分だって一応成人をしたのだから認めたくない気持ちは多少なりともある訳で。「啓が泣いて崇めるぐらいキス上手くなりたいからね」と零しながら相手の口付けを受け入れて
退学の間違いだよ。…保健室施錠して笑としてみたい
(保健室出禁なんて軽罪すぎると言い換えた後、女の話は切り捨ててどこぞのドラマか漫画のワンシーンのようなスリルが欲を駆り立てる行為もいいのではないかと。性欲は疎いにしてもそう言った禁断の恋だとかばれるかもしれないギリギリの一線は興奮しゾクゾクすると子どもじみたことを考えては自分自身に呆れて内心笑いか零れ。「気持ちいい?」全身震える体を下から上へとさするように撫で上げ耳元に熱い吐息を吹きかけては再び首筋に口付け服で隠れるギリギリの所に軽く歯を当て吸うことで紅い華を咲かせて。相手の彼女の印象を聞いては「笑は何でも分かるんだね。でも彼女は俺の好きなものはみんな好きって言ってくれたから二人で笑のこと愛しちゃうかもなー」本当に一途でまっすぐで全てが輝いていて彼女が笑うだけで幸せで…。相手に出会う前は彼女の悲しい顔ばかりが頭に浮かんだが今は笑顔を思い出すことができる。彼女も自分も救って幸せにしてくれる相手が物凄く寛大な人に見えてくれば、相手を彼女と取り合う幼い3人が思い浮かび。「じゃ、俺だけの楽しみにしようかな。心の中で子どもっぽい、可愛いなー愛してるって」相手が嫌だと感じても子どもっぽいと思ってしまうのは変えられない。思うのは自由という判断に至り、相手がそれに当たる表情をしたら内心子どもっぽいと思った後に何度も愛を奏でて。内心毒突いてばかりいたが相手の前だと切なかったり、温かかったりこんなにも感情豊かになれて自分が相手色に色づいていくようでくすぐったい。「わー、はやく泣きたいな」棒読みで期待していないような口ぶりでからかえば再び首筋を赤く色付かせ。
はは、いいね、やってみようか?
(もう女の事は無かったかのように後に振られた話に笑いながら答えて。自分もそれなりにスリルのあるものは好きだし、何より相手がしたいというならいいだろうと承諾し、仕事の最中に思い出しては一人口角をあげてしまうかもしれないが。バレるかバレないかの行為はどれほど緊張感とスリルがあるのだろうか。「…ん、聞かないで…」恥ずかしくて顔を赤くすると視線を逸らしながら述べ、首筋に甘い痛みを感じると何をしたんだろうと考えてしまう。暫く考えた末にやっと理解しては「見つかってバレちゃったら啓のせいだからね」なんて言うと相手に独占されてるようで嬉しくなる。撫でられた体がひどく熱くなっていくのがわかって、なんだか自分じゃないみたいだ。「何でもはわからないけど…なんか、オレが二人の子供みたくなっちゃうね」自分のことを子供と認めたわけではない、ただの例えとして自分のことを子供に例えてみると案外しっくりきてしまうことに内心驚いてしまう。まさかとは思っていたが相手の言うことはごもっともだったのかもしれない。「あ、愛してるは言ってよ!」愛してるという言葉はちゃんと相手から聞きたいし自分も言いたい。ここ数日で何回も述べてくれる相手からしてみればもう飽きた言葉かもしれないが、自分にとっては相手が放つどんな言葉も全部嬉しくて、それも今までちゃんと愛されたことがないからこのように思えるのだ。「棒読みで余裕こいてると本当に泣かせるからね」と口角をあげながら言うと首筋に咲く紅い花に幸せを感じて
俺はいいよ、でも笑、声おさえられるの?
(悪戯にクスと小さく笑うのは隠れた欲求からで、壊れるほど愛したいという陰った強欲。男同士は経験ないが痛くて負担が大きいのは相手の方なのは何となく理解できて、もし本当にしたときに自分が強欲を制御できるかは保証できなくて。先程まで躊躇いがあったが、スリルや妖艶な相手の姿を想像しては背筋がゾクゾクするのを感じる。それを首筋に甘噛したことでみせる相手の反応がより一層駆り立てて「そしたらみんなが俺たちを避けて、2人だけになれる」元々異常な二人で端から見ると傷の舐め合いのような狂った関係。理解されるはずがないし、されたいとも思わないためいっそのこと正々堂々と見せつけてやって蔑む周囲の目を排除するくらい愛し合えばいい。きっとこんな狂気も今なら相手も同じだと思えるくらい信じていて愛していて。次ぐ相手の子どもの発言に全身が震えるのが分かり、それを押さえるように自分の腕を強く抱き締めるが溢れる感情は抑えきれず無意気に涙が零れる。それは悲しみではなく嬉しさからで、かつて温かい家庭を夢見た自分と彼女を相手はどこまでも愛し、認め包み込んでくれて「えみ…笑、ありがとう。俺たちを愛してくれて、生まれてきてくれてありがとう、愛してる」止めどなく流れる涙に戸惑う暇もなくただ相手を抱き締めてこの世に生を受け自分と出会ってくれたことに感謝して。今まで自分の中でカゾクは殆ど意味の持たない言葉だったが今の彼の言葉で確かに色付いた意味のある言葉になって行く気がして。そんな家族愛までくれる相手をどこまでも「愛してる、笑、愛してる」震える声で何度も、言ってと言われたからではなく自分の意思で“愛してる”と何度も何度も飽きることなく言っては口付けを重ねて。「ごめん…もう泣いちゃったよ」悪戯な言葉に今は嫌味を返せそうになく相手には敵わないと泣きながら微笑んで
え?声洩れないようにキスしててよ。
(声を抑えられる自信はないが、余裕げな顔でそう述べてみる。実際その場になったら幸せ過ぎて泣いてしまうかもしれない、痛みなんて感じないほど相手が幸福感で満たしてくれる確信はあってそれを言いはしないがただ相手を信じているのは本当のこと、だから自分のことも信じてくれてると。「オレは元々生徒に人気無かったけど、啓は女子に人気だからそうした方がいいかもね」先程の話もあり、相手が気付いてないだけで相当な女子生徒から人気なのではないだろうか。しかし、今自分達なら狂おしいほどの愛情と二人にしか理解出来ない信頼感や絆と呼べるものがある。愛してるなんて言葉じゃ足りない、小説で使われるこの言葉に共感してしまうほど相手を愛してるのだ、狂気でもなんでもいい、相手が自分さえ見てくれればそれでいい。泣いている、相手が泣いてる。哀しいの、辛いの、何処か痛いの、そう問い掛けたくても声が出なくて、それでも何故か温かい波であることは理解できる。それはきっと自分が何かを言ったことが相手に影響を与えたのだろうと感じると嬉しくて涙が出そうになるが、今は相手を癒すことが最優先。「啓…オレも愛してる。オレを愛してくれてありがとう、オレに愛を教えてくれてありがとう。大好き、愛してる」こんな時に限って何もいいことが言えない。いつも言えてないのだろうけど、それなりに相手を落ち着かせたくて何かを伝えたいのにそれは愛の言葉に全部変わってしまって。家族なんて昔から自分には存在しない架空のもので、兄も母も自分を見捨てた父もあの母の彼氏も、全部そうゆう役柄で自分の人生の為の出演者という感覚しかなかった。だけど相手と出会ってから、無理なことはわかってるが、家族になりたい、なんて思ってしまって。「うん、愛してるよ。愛してる…ずっと…泣いてもいいんだよ、オレが支えるから…ねぇ、オレと、家族になろう?」堪えられずに発した言葉と一緒に笑顔を零し、相手は迷惑なのかもしれない、だなんてマイナスなことを考えてしまい。
いいけど呼吸出来なくなるよ
(相手の余裕な笑みが欲望を駆り立て激しく息の吐く暇もないくらい乱したいと思わせる。彼女ともそんな風にしたことはなくいつも優しく甘く穏やかで焦れったいくらいゆっくりで。でも今の自分は彼女がいた頃とは少し違っていて無性に相手を激しく求めたくなる時があり今だってこんな会話をしていたらいつ理性が無くなってもおかしくないのに。「人気なのかな…それってあまり嬉しくない。最近、笑のせいで無表情つくるの疲れるんだよね」相手の笑顔だって女子生徒をいちころに出来るくらいの威力を持っている気がするが口に出したくないため心中にとどめ、かわりに最近授業中まで相手のことを考えてにやけてしまいそうになる自分がいて、無意識に表情が軟らかくなっているせいかここ一週間、目敏い女子が“何かあったの?”なんておばさんみたいなことを聞いてくるわけで。これも全て相手が自分をどうしようもなく依存させるのがいけないのだと、開き直ってみて。「大丈夫。幸せなだけだから。こんな風に幸せで泣けるのも笑のおかげだよ」相手の真っ直ぐで純粋な一言一言が心に響き緩んだ涙腺を更に刺激して涙が溢れてくる。ようやく泣いて居るんだと実感が湧けば情けなくて恥ずかしくて嬉しくて、これじゃどっちが“男”か分からないと複雑な笑顔は零れる。続く言葉は願ってもない言葉、でもだとしたら相手は自分にとってどんな存在なのだろう「支えるのは俺も同じだよ。笑も好きなだけ泣いていい。…じゃあ、笑は俺の子どもで弟で妻だね。一人3役。絶対楽しいよ」ドラマや小説でしか見たことのない温かい一家団欒を想像しては自然と笑いが零れ、幸せってこういうことだったと相手と過ごし始めてから何度目になるか分からない実感をして
いいよ、啓に呼吸止めてもらえるなら。オレを啓で満たして欲しい。
(言ってしまった後に今のは重いかもいれない、なんて柄にもなく焦ってしまう自分がいた。嫌われるのも離れていかれるのも怖い、今が幸せすぎるから、居なくなられると辛さが増す、依存すればするほど相手を求めて苦しくなるのはわかっているのに、止められなくて。でも自分が言ったように相手にこの呼吸を止まられるのも悪い黄はしないし、相手で満たして欲しいのも事実。苦しくてもいい、相手となら。「啓のことはオレが知ってれば十分なのに…えー、それってオレのせい?幸せならムリして無表情作らなくてもいいのに…」確かに以前と比べると表情が柔らかくなってきた相手、女子生徒が狙うのも無理はないが、相手の良さを知っていいのは自分だけであって、他人なんて入ってこなくていい。自分の前ではたくさん色んな表情を見せて欲しいが、生徒の前ではいやだ。先程自分が述べた言葉を撤回する、「…オレの前では無表情じゃなくていいよ」と。「オレは何もしてないよ?ただ、啓がオレの言葉を純粋に受け入れてくれたからだよ」自分のおかげと言われるのは嬉しいことだ。だけど謙遜してしまうのは性格がもともと素直じゃ無いから、つまりただの照れ隠し。「支え合いだね、啓。…そしたら啓は、オレのお父さんでお兄ちゃんで夫だね」そんな風に笑っては妻と呼ばれたことに違和感など感じなかったように相手のことを"夫"と呼んで
でも笑が呼吸止まるくらいキスしたら俺も同じってことだよね。…それにまた
(絞めちゃうかも、と黒い己がほくそ笑めば震える手を隠すようにもう片方の手で押さえ込み自然な微笑みを取り繕って。汚れるなら美しいままで死を終える、そんな文学小説を読んだことがあるがその時は学生で彼女もいたため理解に苦しんだが今なら何となくそれが分かるし、心の奥底でそれを望んでいる己もいる。小説の中の主人公は浮気をし老いていく彼女を良しとせず自分の中の美しく純粋な彼女を守るため自らの手で殺めその後自殺した。老いは仕方ないにしても浮気されたり誰かに汚されたりすることがあったらその主人公のように同じことをやりかねない。実際、先刻危うかった…もうあんな背筋の凍るような思いはしたくないし、相手に辛い思いをさせたくない。「そうだね。俺のことは笑だけが知っていれば十分。俺は笑の前でしか笑わない、それでもいいと思ってる」他人からどんなに自分が冷徹人間だの機械人間だの言われようと相手だけが自分の変化する表情を知っていてくれれば幸せで生きている実感が湧く、この笑顔も全て相手だけに捧げたい。「笑の言葉じゃなきゃこんな素直に受け入れられないよ。笑のおかげ」相手が謙遜し照れているのかもと察すれば再び、笑のおかげを強調して言えば唇に触れるだけの口付けをして。「なんだか頼りないお父さんでヘタレな兄で甘えたな夫だけどね。釣り合わない男だよ。笑に出会えて本当に奇跡」冗談っぽく言えば本当に父のように守りたく、兄のように手本になりたいと思って。今愛をたっぷり注いでるから夫はクリアしてるよななんて思ったり。
…いいの、啓の為なら死んでもいいって思ってるから…オレ、啓に自分のことあげられるしね、だから貰ってね?
(震える手をあの冷たい手で握っては相手を落ち着かせる為にそう述べる。言ってることは嘘ではなく、本当に思ってること、寿命や病気、他殺なんかで死ぬよりは相手に見送って貰った方がいい。自分の胸元にあるせいぜい1.2kgの重りは相手の為に存在し、動いているので求められないのなら止まるしかない。握りしめた手を自分の首元にかけると「だからね、いつでも絞めていい。」と。人間は否定されることが一番怖いと感じるのだから否定何てしないし、やめろとも言わないで、ただ絞めていい、と。「…オレもだからね。オレ、人に求めるものは自分もやるよ。まぁ、オレは人前では貼り付けた笑い方しかできないから。」心を許した相手にしか笑うことは出来ない。自分が笑うとダメなのだ、人を不幸にする、そのくせ名前は“笑”だなんて何を考えてるんだあの人は、そのようなことをいつだか兄が言っていた、それが大きな原因の一つだろう。「照れる、から…」なんて呟いては触れるだけの口付けに少しだけ驚いたように声を洩らして。「そしたらオレはどうなるんだよ。なんか馬鹿げた息子で?アホな弟で?間抜けな奥さん?になっちゃんよ」と全部において疑問形で語尾をあげると案外あってるかもしれない、なんて自分であげた例えに頷いてしまい
俺も、笑のためなら…笑のために死にたい。…えみが欲しい
(自分のために死を受け入れるという相手の言葉は心に染み幸せを感じるのに、手を握られ、必死で止めようとするのに自分の中の狂気が再びうずきはじめる。握られた手が相手の首元に移動していくのを止めろと叫びたいのに呼吸が乱れて声にならず短い息が空気を切るだけで。絞めることを肯定する言葉には全身が凍り付き吐き気がするのに、自分でない己がその言葉を待っていたかのようにほくそ笑む。「えみ、駄目だよ。そんなこと、言ったら。また、止められなくなる」歯切れの悪い震えた声は徐々に低くなり瞳からは光が失われていくが口元には薄らと笑みが浮かんでおり、冷たい首元にかけられた震える手が心の何かと葛藤するようにピクリと跳ねる。さっきまで相手が苦しむことも自分の手で痛めつけることも望んでいなく、純粋に明るく笑顔の絶えない未来を思い描いていたはずなのに、相手が己を認めただけでいとも簡単に狂気が露わになる。「笑、おれを愛して…おれだけを見て」無機質な声で耳元に冷たく囁き相手を堅い床に押さえつけながら優しく深く唇に口付け自然ともう片方の手も相手の首元に伸びていけば親指を喉元にゆっくりと沈めていく。「えみ、気持ちいい」あの平らな口調で問いかけると答える間を与えず再び唇を奪い相手の口内をねっとりと犯していく。表情は冷ややかさと穏やかさが相まってどこか落ち着きがあるが首元の手は以前と震えが止まらずそれ以上力を入れることを拒んでいるようで。普通なら嬉しくて幸せなはずの照れた相手の仕草も、楽しかったはずの話題も純粋に受け取れず「大丈夫、おれが笑の全部を愛して上げる。馬鹿でアホで間抜けな笑も、おれ以外何も考えられなくなってそのまま死にたくなるくらい愛してあげる。えみ、おれのこと好き?」クスリと不敵に笑うと震えが収まりつつある手で艶めかしく相手の髪を撫で、再び首元にある手に僅かに力がこもりそのまま呼吸することを制するように口付け、堅い床に相手を押し付けることを厭わず幾度もそれを繰り返して
…うん、あげる。あげるよ、啓…
(呼吸が乱れてきた相手を落ち着かせる為に、何か伝えたほうがいいのだろうか、なんて考える。が、結局の所何も言えずに相手の様子が急変するのを見ているだけになってしまう。どうして、なんて今更過ぎて言葉も出てこない。こんな風にしてしまったのは自分だ。ネクロフィリア、その言葉が思い浮かぶ。自分もその部類に入るのだが、まさか相手が、そんなわけないと自分に言い聞かせるがもうそれにしか思えない。でも嫌いになんてならないし、拒絶も否定もしない。どちらも狂っているのだから。「啓しか見てないよ、啓しか居ない。啓しか愛せないよ」本当にそうなのだ。狂っている自分を愛せるのは相手だけだし、認めてくれるのも存在価値を見出してくれるのも相手。っから今更拒絶なんてしないしされたくもない、する理由がない。固い床と触れ合った背中が痛い、それでも今心が痛いのは相手。自分にしか相手を愛することなんて出来ない、そう思ってる。だから求められれば自分の精一杯で返すしどうにかしたいなんて思ってるのは本当だ。触れた唇は優しいのにどうして、こんなにも無機質な相手だけがこの空間で浮いているような気がするんだろう。指が自分の首に食い込むと相手の問いかけに応じるように首を縦に振る。こういう時は否定せずに肯定するのがいい方法だと思っている、しかも相手の手が震えているのだからよっぽどだ。好きかなんて問われれば今更そんな質問を、と思ってしまう。好きにきまっている、「好き、愛してる…」と呼吸がままならなくて掠れた声で述べると本当に自分達は狂っているなんて再確認してしまう。酸素を求めてわずかに痙攣する体に、自分の意思とは違って正直だなぁなんて感心してしまう。ひゅう、と苦しげな息が漏れるのが自分でもわかる、心は全然苦しくなんてないのに。先程以上に掠れた声で相手の名前を呼んでは白さを通り越してあおじろくなった顔が笑顔を作って
(死体愛好家なんてのは小説や文学でその言葉の意味を知っている程度と思っていたが、彼女の冷たい体と抱き締めた感触が脳裏から離れなくなって、時折またその体を抱き締めたいと感じるあたり自分はその類に含まれるのかもしれない。純粋で綺麗な彼女が自ら崩壊と消滅を選択し赤で染まり冷たくなった体を見た時の絶望感は今でも忘れることができない。暫くしたらまた目を覚ますかも知れないと硬直していく体を抱き締めて何度も名前を呼んだがその声は空虚に響き、彼女の死を見せつけられただけで。しかしそれと同時に彼女の死顔が苦しみから解放され穏やかにも見えて、また自分ももう彼女の苦痛に歪む表情も自傷する行為も見なくて済む、もう失う恐怖に怯えることもないのだと酷く安心して。自分が未遂をしたのは、彼女との永遠を望んだのか、彼女を救えなかった自分への戒めか、再び何かを喪失する恐怖からの逃走か、今となっては分からない。無意識に彼女と相手を重ねて失うことの恐怖に怯えているのかもしれない。ただ、こんな狂った己を受け止めてくれるのは間違いなく相手だけで、彼女には到底無理だったことだろう。そんな己を唯一受け止めてくれる相手を苦しめているのは紛れもなく自分で心の中で止めろと叫ぶのに震える手にこもる力は更に増していき、爪が食い込んでいく。相手の体が空気を求めて震え、喉が鳴る様を恐怖と快感の狭間でどこか人事のように見ては口角が上って。「笑、苦しいの」優しく問いかけては血の気の失った笑顔を「綺麗だよ、笑」と無機質な声で囁いてゆっくりと首元から手を引き解放するが息を吸うことを制するように深く覆うように口付けて
(息が出来ない、苦しい、なのにこの苦しみを与えているのが相手だからかその苦しささえも愛おしく感じる。感覚が麻痺していく、手足に力が入らない、所謂酸欠に陥りそうになりながらも愛してるだなんて感じてしまうのだからやはり自分は壊れ切っているのだろう。こんな歪んだ愛を誰が理解してくれるのか、居るわけもなく理解されたいとも思わず、ただ青白い顔に生理的な涙が伝うわけでもなく瞳に溜まっては水の膜をつくりいつ零れても可笑しくない。こんなに体は酸素を求めているのに自分は相手しか求めていなくて。どうして苦しいのに温かくて愛しくてこんなにも壊れてしまいそうな感覚になるんだろう。相手に壊されるのなら構わない。死を悟った時の人間、死を語るときの人間はどうしてこうも美しいのだろう。爪が食い込んで刺すような痛みが広がる。手を放されて空気が入ってくるはずなのに相手に口を塞がれる。愛しいその口付けに溺れそうになる。だけど体は正直でやはり酸素を求めて震えている。
(もう苦しむ相手を見たくなくて心の中で何度も相手の名を呼ぶのに強欲と狂気が支配して体が自分の意識から離れて操られるような感覚。でも確かにそこに自分も居て、相手を失う恐怖からの解放の快感を求めていて。「笑、おれのために泣いてくれないの」瞳に溜まる涙を舌先で拭い眼球を舐め上げるようにし瞼に口付けて。またピクリと震え始める手が相手の首元の肉に爪が食い込む感触をまるで快楽とするように指を押し付けたまま僅かに上にずらす。解放した首元は血で少し滲んでいてそれを己がつけたと思うだけで独占欲が高揚し、酸欠で震える体を強く床に押さえつけながら空気を吸うのを許すように唇を離す。そして赤く爪の後が残る首筋に甘噛みして、虚ろな瞳でぼんやりと相手を捉えるがその瞳の裏には相手はいなく、愛という皮を被った狂気と欲にまみれていて。しかしそれは相手を失うことに怯え、狂おしいほど愛しているのにそれを受け入れられない弱い下衆な人間でしかなく、それを自覚しているのにそんな醜い己でさえも愛し受け入れる相手に甘え、そこから更に快感を得ようと貪るように、また相手から幻滅され拒絶されることを恐れるように何度も角度を変えて口付けて「笑もおれのことも壊してくれる?」冷ややかながら相手の同調を強く求める声色で再び首元に手を添えながら問いかけて
いっ…
(ようやく出た言葉は食い込んだ爪が傷をつけたことで零れたなんだか妖艶に聞こえる声。引き裂かれる痛みはまるで挿入されている感覚に似ていて体が熱くなる。相手から与えられる痛みに愛しさを感じ、決してマゾではないがこの痛みは何だか好きだ。眼球を舐められると背筋がびく、と反応してしまう。オキュロメディス、つまり眼球愛好家のしそうな行為と一致している気がする。やっと入ってきた酸素に懐かしさを感じては咳き込みながら呼吸をする。今度は生理的な涙がとめどなく溢れて来て何故か息苦しい。暗闇のような瞳に自分は映って居ないのだろうか。捨てないで、行かないで。依存してしまった心は相手を求めて揺らぐ、愛してる、そう呟いてはまた笑って。甘噛みによって洩れた甘い声に聴覚を刺激されると同時に狂おしい愛情に支配されていく自分と相手が世間一般からどんどん遠ざかっていくことを理解してはやっと二人になれた、なんて。「うん、嫌って言うほどの愛情で壊してあげるよ」首に添えられた手に自分の冷たい手を添えては「好きなだけ壊してよ」と笑いながら述べて
痛い?気持ちいい?おれを感じてくれてるんだね、もっとおれを感じて
(首筋にさらに爪が食い込むことでもれる相手の甘い声に欲が満たされ全身震えるが、手の震えだけは何かを抑制し恐怖に犯されたように小刻みで。熱い吐息を吹きかけながら己の欲を注ぎ込むように耳元を舐め上げ、螺子が外れ壊れた人形のように狂った言葉を口にする。「おれは笑の心の闇も愛せる。彼女を妬む気持ちも、おれ達を邪魔する奴をぐちゃぐちゃに殺したい気持ちも…全部。おれは笑の狂ったところがみたい。もっと壊れてよ」甘い自分とは違うのだと言うように床に抑えつける手の爪を立て肩を強く握りこみ更に深く沈み込ませるように体重をかける。そして、耳元から再び瞼に、そして口元に舌を通わせ下唇を甘噛みして。「笑はどっちのおれが好き?…選んでよ」第三の選択を禁ずるように二択を強いれば己を選べというように再び首元に置かれた手に力がこもっていく、しかしそれに反して瞳からは一筋の涙が零れ、虚ろな瞳で相手を捉えようとする自分がいて
(知っている、相手は本当は自分のことを失うのが怖いことに、彼女と重ねて再び悲劇を繰り返してしまうかもしれないと怯えてることに。だから否定もしないし拒絶もしない、する理由がないから。相手は自分を愛してくれていて、自分も相手を愛してる、求めてる。首筋に食い込む爪の痛さだけが妙に現実的で意識を手放しそうになる自分を引き止めてくれて。心の闇も愛せるという相手に何か言いたいのに息を吸っても入ってこなくてひゅうひゅうと苦しげな呼吸し化出来ない。首に添えられた手に力がこもっていくと泣いてる相手と目が合ってしまう。酸素が行き届いてなくて感覚がない重たい腕を持ち上げると相手の涙を拭って、泣かないでとでも言うように眉根を寄せてみせる。全然好きだ、愛してる、どちらかを選ぶなんて出来ない、そう言っては相手は起こるだろう。でもこんな問い、答えなんて決まっているようなものじゃないか。自分が答えられないとわかってて問い掛けたのだろうか、相手は掛けたのかもしれない。でも流れる涙の意味が知りたくて涙を拭った手で頬を撫でて。その手はいつも以上に冷たく正気がなくて
笑…(相手を目が合い力無い冷たい手で涙を拭われて、自我が徐々に戻り始め瞳に光が戻ると相手をまっすぐに見つめ愛おしい名前をポツリと呟く。先程のように取り乱したり、謝ったりすることはもうなく、ただ首元から徐々に震える手の力を抜いていく。心の中は罪悪感と自分への戒めですぐにでも殺してやりたいくらいだったが、それは何の意味もなさず相手も自分も苦しめるだけだと知っていて、ただ狂気に満ちた己に何度も呆れることなく愛を向けてくれる相手に此方も応えなければならないと思って。「苦しかったね。俺の苦しみを受け止めてくれてありがとう」瞳には涙はもうなく、微笑みもないが苦しみは相手が傷を負うことでもう自分には無くて、自分は苦しくないのだと伝えて。そして自分たちの先の明るい未来を壊し介入してくる奴はたとえそれが己であろうと原型を留めない死体にして排除しなければならないと考える一方、両方を愛してくれる相手のために自分自身が己を認めなければならないと察していて。まだ不安定な自分はいつか相手を本当に殺めるか、自ら死に逃げてしまうか分からない。それでも「ずっと一緒にいたい。そばに居て欲しい」落ち着きのある声で狂気に満ちた自分に縛り付ける残酷で醜い言葉を呟いては堅い床から酷く冷え切った死体のような相手をすくい上げるように、まだ小刻みに震える手で優しく抱き寄せて「笑、どっちの俺が好き?」と今度は威圧的がない甘く優しい声で問いかけて、相手の髪の匂いを嗅ぐように頬をすり寄せて「まだ…生きてる」と安心と落胆のどちらとも取れる声色で空虚に呟いては「愛してる」ともはや自分の弱さを蔑んでいるかもしれない相手にとって意味のなす言葉なのかは分からないが愛することを止められず。
(やっと瞳に光が戻った相手に安堵の表情を浮かべてはやっと満足に呼吸が出来る状態になった、なんて死にたい、殺されてもいいと思っていたのに生にすがってバカみたいだ、なんて考えて。自分が相手を壊しているのかもしれない、もう相手の側に居てはいけないのだろうか。考えただけで涙があふれていく、もう相手は泣いてはいないのに。ふと自分の首に手を当てると血がついて、その傷をつけた時の切なげな相手の顔を思い出すと苦しくて辛くて自分は結局何も出来ないのだと改めて無力さを知る。「苦しくなかったよ、啓だったから」泣きながら笑って言う、辛くなんてなかった、このまま死んでしまってもいい、本当にそう思っていたのだ。相手の苦しみが消えるのなら、相手が苦しみから解放されるのなら自分をいくら利用しても傷付けてもいい。どんな相手も愛している。「うん、ずっと一緒に居よう。側に居させて、啓の側に」抱きしめてくれる相手は温かいのにどうして自分はこんなに冷たいのだろう。いつか生徒にも母にも言われたように死んでるみたいな自分が憎い。「全部啓だから…どっちも啓なんだよ、だからオレはどんな啓も愛してるし、啓の苦しみは受け止める」なんて述べては「生きてるよ、ごめんね…」と。相手が自分が生きてることに落胆したように聞こえて謝ってしまって、それでも「愛してる」と何度も何度も伝えて
(ずっと一緒に、というがそれはどんな形を想像して相手は言っているのだろう。幸せに満ちあふれた純粋な未来か狂気に満ちあふれた永遠の幸せか。どちらも受け入れてくれるなんて自分には重たすぎて、愛が溢れてこぼれ落ちていくような感覚。相手の愛が大きすぎて自分が酷く陳腐に感じ、依存し合っていると思ったが思い上がりだったとさえ思えてきて。こんな陳腐な人間が相手のような人間と釣り合うとは思えないと女々しくも考えてしまい、相手への愛情は変わらないはずなのに不安ばかりが脹れあがる。「俺…今自分に呆れてる。笑に申し訳なくて。多分また笑との間に距離を置こうとしてる。笑を愛してるから」距離を置きたいなんて微塵も思っていない。できることなら片時も離れたくないのにそう言うのは壊れた己でさえも受け止めてしまう相手の愛が、相手を失うことに繋がるからで。もういっそのこと永遠に壊れたままの自分のほうが良いのではないかと思えてくる。「笑…今の俺のままだと笑の愛は苦しいよ」気付けば相手を遠ざける冷酷な言葉を泣きそうな笑顔で呟いていて。自分の気持ちは相手から離れていないはずなのに酷く距離を感じるのは何故だろう。「…謝らないで。笑が生きてないと俺も生きれない」愛の言葉は本心からなのに安っぽく浮いてしまうのは狂気が足りないからだろうかと考えてしまう。首筋に残る傷を指で優しくなぞりながら「ごめんね、笑は何も悪くないんだ」と何度も呟かれる“愛してる”に応えることができなくて
(距離を置こうとしてる、愛が苦しい、そうかこれが拒絶なのか。一方通行の愛なんて重いだけで相手を苦しめる、分かっていたのにどうしてこんなに胸が痛くて苦しくなるんだろう。一度幸せに触れてしまったから、以前の自分になるのが怖い、でも闇の中から前の自分が手招きしてるような気がして気付いたらポケットに忍ばせていたカッターを握っていた。相手が要らないと言うのなら、相手がもう自分を必要としないのなら。居なくなってしまえ、こんな自分なんて。光の失われた虚ろな目でカッターの刃を出すと狂ったように何度も何度も手首を切りつける。手首だけじゃ足りなくて、相手が付けた傷をなぞるように首に刃をあてては抉るように切る。手首からも首からも血が止まらなくて涙が出てきて血塗れのカッターをしまっては「…ごめんね…」なんて。生きててごめんなさい、貴方しか愛せなくてごめんなさい、**なくてごめんなさい。その謝罪には数々の意味があったが言えたことはちっぽけな謝罪の言葉。やっぱり自分なんて居ない方が良かった、自分なんかと出会わなければ相手が壊れることもなかった。好きな相手を破滅に導いたのは紛れもない自分だ。「…ごめんね、愛してる」そんな風に笑ってはふらふらと立ち上がって先程リンゴを剥いた包丁を握って自分に向けて
(相手にどれほど残酷で惨い言葉を浴びせたのかもう後悔なんて言葉では足りなかった。自ら何度もカッターで深く抉るように切り付けて、血まみれになり彼は今、命を絶とうとしている。生にしがみつく行為でも、苦しみから逃れるためでも、自分の存在を確認するためでもなく、戻ることの出来ない闇に落ちようとしていて。こんな時まで脳裏に浮かぶのは彼女の姿、そして失ったときの絶望。失うことがどれほど辛いのか知っていたはずなのに今、自分は自ら相手を突き放し、間接的に殺めようとしていて。弱く人間離れした狂った自分を受け止め愛で包んでくれるのは相手だけで、生きることに絶望した相手を守ることが出来るのは自分だけなのに、相手の愛の深さに甘えていた自分が憎くて。今喪失感と苦痛に喘いでいるのは相手に、愛している、そばに居て欲しいと伝えなければいけないのに恐怖が支配して乾ききった声しか出なくて。自分は彼女が死んだときから少しも成長していないことを思い知らされ、また救えずあの真っ暗で何もない世界が待っているんだと震える。何もない、それがどんなに楽なことか。気が付けばまた狂気に満ちた己になっていて震えは完全に収まり包丁を自分に向ける相手の背後に回ると包丁を持つ手に自分の片手を重ねて「えみ、やっぱり笑の全てを愛することが出来るのはおれだけだよ、笑、愛してるよ、壊したいくらいに。この傷もこの血も。ねえ…自分を切り刻む笑、綺麗だったよ。おれにも教えてよ。その痛みを」耳元で妖艶に囁きながら空いている手で血の流れる手首の傷を抉るように爪を立て、首筋から溢れ出る血を舐め上げると狂おしく相手を求める声で愛してる、と何度も囁く。そして包丁を持つ手を重ねられた手で強く押さえ込み力尽くで背後にいる自分の脇腹に刃先が当たるようにすればそのままゆっくりと肉に刃先を僅かに食い込ませて「…ッえみも力、入れて、?おれはこんなにも笑を愛してる、一緒に死んだっていい。ずっと一緒にいたいんだ」口から出る言葉は乱雑で混沌としているが迷いは一切なくただ狂気溢れる愛を一心に向けていて、互いの血で満ちる快感を望むように包丁を持つ手に力を入れていき
(拒絶されることには慣れていた。昔から浴びせられた"なんであんたはお兄ちゃんみたいになれないの"という母の言葉も、"初山は可笑しいから""あいつに関わったら可笑しくなるから"幼いが為の無知が他人をどこまで傷付けるか知らないクラスメートの言葉も自分にとっては意味もなく通りぬけるだけだったのに、相手が放った「笑の愛は苦しいよ」が何度も何度も頭の中で繰り返される。相手に対する怒りなんてものはなく、ただ自分が依存しすぎたことに苛々してはもう居なくなればいいのに、と自分の存在を否定して。愛してる、愛しているのだ。ただ純粋に相手のことだけを必要としていて、大好きでずっと側に居たくて、側に居させて欲しくて。何だか意識が朦朧とする、相手が何を言っているのかよくわからんくて反応が出来ない。時折聞こえるノイズがかかったように聞こえる声、手首に食い込む相手の爪が自分を壊していく。痛い、痛い、でもその痛みでさえも愛しい。首筋に這う相手の歌に身体は素直に反応して、唾液が傷口に入って沁みるその針を刺すような痛みに「ッ…」と声にならない声を出して。ようやくまともに聞き取れた相手の声に「…啓、愛してる…愛して、オレのこと…啓が求めるならいくらでも壊れるから、人形でいいから…」と言っては自分のわき腹に深く食い込むようにして力を入れる。こんなときにも相手の負担を軽減しようとする余裕はちゃんとある。死をもって、この愛情は永遠になる。どうせなら、もっと沢山の相手の表情を見たかったな。そんな後悔が一度でも頭をよぎると"まだ**ない"なんて生にすがりついてしまう。結局、自分は弱いのだ。「…啓、啓…」涙声で相手の名前を呼んで
(どちらの自分も相手のことを愛している。笑顔で満ちあふれた明るい家庭のような甘く光り輝く愛を思い描く自分は相手の明るい幸せを願っている。しかし酷く臆病で互いが求め合うことで傷付き、失うことを恐れ、もう一人の己を否定し、また相手に己を受容されることを危機としている。一方でもう一人は臆病な自分を切り捨て快感と狂気に身を任せることで互いが求めるもの全てを受け入れて、傷付け痛みを与えることも互いを繋ぎ止める幸福と感じ、完璧な2人の世界である永遠の愛さえも厭わない。記憶は共同しているため二重人格とは少し違うがどちらもしっかりと共存していて。そして今表に出る己は相手の苦痛に歪む表情に酷く快感を覚え、意識を朦朧とさせる表情でさえも愛おしく、更なる欲を満たすため首筋に歯を立てて。まるで相手に生きていることを実感させるように、それでいて死を追い立てるように苦痛を与えて。「笑のその顔、すごく綺麗。このまま人形にしてたっぷり可愛がってあげようか。それとも壊れかけのまま抱いてほしい?」肉体に刺さる異物の所為か声は徐々に弱々しくなるものの妖艶に囁きながら熱い吐息を吹きかけて。包丁に力が加わったことで脇腹の肉が裂け今までに感じたことのない鈍痛がし、そこから全身を駆けめぐるように痛みが支配して脳内を麻痺させていく。手首を握る手に力がこもり生暖かい血が爪に入ってくる感触に溺れそうになる。このまま2人だけの世界に…と心の中の自分が覚悟を決めた時、あの愛おしい声で自分の名前を呼ぶ声がして、自分はなんて弱いのかその涙声だけで、離れたくない、ずっと一緒に明るい幸せを築きたいと願う自分が返ろうとして。「笑…愛してる」と甘く囁きながら、相手の体温が同化していくのを感じ、このまま包丁を引き抜けば、もっと一緒になれるのかと2つの人格の狭間で相手との幸せの共存を願って
(相手の中に二人の彼が居ることはもう十分に理解している。どちらの彼も愛している、相手に代わりはないのだから嫌いになる理由がない。「俺」と「おれ」が存在して、愛されたいのに愛が怖い相手と痛みを共有することさえ愛としている彼が複雑に絡み合っている。世界は残酷で、そんな狂った愛でさえも受け入れることの出来る自分を作り出してしまった。それはきっと自分が育った環境や今まで触れ合ってきた人が関係していて、それがなければこの狂った愛を受けいれることなど出来なかっただろう。歯や爪が傷に入り込んでくる度に喘ぎ声にも似たそれが洩れて欲望を高ぶらせていく。痛い、この痛みは愛情だ。壊れた自分を愛せるのは相手だけだ。「啓…痛い、だけど凄く気持ちいい…」と妖艶な笑みを零しながら言っては脇腹から流れる血を掬いとり、舐める。自分のか相手のかわからないその血の味に浸りながら手首の痛みに慣れ始めた身体が震えて。涙が出そうになうのに出ないのはこの鈍い痛みがやえに現実的で自分を引き止めているから。「ねぇ、啓…オレ、啓と生きたい。側に居たい。啓にとって愛が苦しくても側に居たいよ…我侭かもしれないけど…」肩で息をしながら言っては何度か咳をした後に膝から床に崩れ落ちては脇腹から手首から首筋から流れる血が血色が悪く、青白くなった自分の肌を伝う感覚が心地よくて。この血でさえも相手は愛してくれる、汚れきった自分も、過去の自分も、これからも。相手に依存してしまった自分が酷く弱いことを再確認しては「愛してる、愛してる…」とひたすらに呟いて
(もし相手の過去に汚れて腐った獣たちが関与していなければ今の彼いなかったかもしれない。残酷な過去が無ければ自分と己を受け入れる彼は存在せず、こうして愛を奏で合うこともなくただ平凡な日常が過ぎていっていたかもしれない。過去の醜悪を良しとする訳ではないが今こうして相手と時を共にして依存しあえるのも過去があるからで。数奇な運命と言うがこういうことなのだろうかとぼんやり思ったりして。相手から発せられる艶やかな声に欲情が掻き立てられ、首筋から垂れる血を舐めとり吸い上げると口内で唾液と混じり合わせわざと水音を立てながら耳元に唇を寄せ耳朶に甘噛みすると生暖かい液を冷たい首筋に滴らせて。「足りない…もっとおれに笑を見せて、おれにも痛みをわけて」妖艶に脇腹の血液を舐め取る様を満足げに見ては自らも脇腹に食い込ませていた包丁で手首を切りさき震える相手の口元に噛むことを要求するように押し付けて。もう自ら傷付けないそんな約束を破ってしまったことに涙する自分はそこにはいなくて。それでも崩れ落ちる相手の言葉が不安定な自分を何とか呼び覚まして「大丈夫、笑。今、笑と生きてる。そばにいる。笑がくれる愛の苦しみが愛おしい。我が侭じゃないよ、俺がそばにいたいんだ」床に座り込む相手を支えるように自分も崩れ落ち、互いの生暖かい血が冷えた体温に酷く映え、浮くように感じて。それでも自分より傷付く相手の出血量は彼を急速に死に近づけるようで自分も同じ場所に行きたいと床に落ちる血に濡れた包丁で首筋を傷つけ手の届かぬところへ投げると、強く相手を抱き締めて「笑、俺たちまだ生きてるよ…。ねえまだ生きたい。ずっと同じを感じてたい。…笑、狂っててもいい。生きようよ…」弱い自分が相手を強く求め甘い言葉で生を囁く。自分を傷付ける行動と生きようとする言葉は矛盾しているのに相手との共存が実感でき溢れ出る血が混ざり合うことが至福に思え「愛してる」と抱き締めながら確かに自分が薄らと笑んでいて。
(艶かしい水音に聴覚を刺激されながらもまだ肩でする呼吸と時折洩れる甘い声は続いていて。こんなになってまで愛したいというのは罪だろうか。自分が過去に受けた傷なんて痛くない、ただ思い出した時に吐き気がするだけで何ともない。なのに相手自身が相手を傷付けることが深く心に突き刺さる。 止めて、約束したのに、お願いこれ以上、自自身を壊さないで。言いたいことはたくさんあるのに伝えられずにいて。口元に当てられた相手の腕、やらなければもっと傷付けてしまうかもしれない、体とは違い温かい舌先で相手の傷を舐め、吸い上げては歯を立てる。口内が鈍い鉄の味で侵食され、それが相手の血だなんてなんとも愛しいのだろう。取り憑かれたように血を舐めとっては口を離して、「啓の血、美味しかったよ」と笑って。「生きたい…」一緒に生きたい、初めてそんな風に思える人と出逢えた。自分はこのまま愛に触れないで終わっていくのだと思っていた、幼い心についた傷跡はまだ消えそうにない。兄の死をあっけないと笑ってた自分がこんなになってまで生にしがみつき、死を恐怖としている、しかし、相手の手で終わるのなら死など怖くないのだが。「…生きたい…啓、重くてごめん…辛くさせてごめん。啓と生きたいよ」なんて子供のように泣きじゃくりながら言う、嗚咽混じりに告げたその言葉がどこまで相手に届くかわからないが、それでも伝えたいのは愛してるということ。しっかりと腕を回して力の入らない腕で相手をだきしめて
おれが傷付くのが怖い?いやなの?…えみ、それはわがままだよ。同じこと、してるのに
(自傷したことで相手の表情が悲しげになったのと見れば言葉足らずな物言いで我が侭、と冷たく切なげな声色でいう。相手が己を認めることでいつか本当に壊して殺してしまうのではないかと恐怖に怯える自分の気持ちと同じなのだと「おれは笑のためだったらいくらでも傷付いて良いんだよ。この痛みさえも愛おしいから」腕の傷を伝う相手の舌の感触に満足げに笑み、時折吸い上げられ歯が当たり感じる痛みにゾクゾクとするがまだ足りないと言うように相手の腰に手を回す。そのまま自分の脇腹の傷まで手を伸ばし、傷を抉るように握り込んでは表情を苦痛に歪ませるでもなく優しく艶やかに子どもをあやすように相手の髪を撫でつつ付け「いい子だよ、笑。もっとおれを感じて」髪に口付けを落としながら相手を愛せる幸せを噛み締めるように抱き締める腕に力が入る、とは言っても実際はほんの僅かしか変わらず互いの体力が着実に奪われていくのを感じそれさえも愛おしく。「…俺も笑と生きたい。でもまだ笑の愛してくれるおれは好きになれない。俺は弱いからおれのせいで笑が傷付いて壊れていくところを見たくないんだ。でもね、おれなら笑にごめんなんて言わせない。重たくないしまだまだ足りないくらいだよ。全部受け止めたいんだ。…辛いのは笑がいれば幸せになるから。だから笑と生きたい」こんな狂った人格を求めてくれるのは目の前の愛おしい子どものように泣きじゃくる相手だけ。優しく好きなだけ泣いてもいいのだと抱き寄せると、いつもは冷たく感じる相手の体が自分と同じで、温めて上げられなくて悔しいのに同じで嬉しい。相手から愛が痛いほど伝わってきて、まだ口内に残る鉄の味のまま深く口付けると、やっぱり相手の口の中も同じ味がしてどうしようもなく嬉しくて「愛してる」と何度も奏でて
ごめ、ん…なさい…
(我儘だと言われれば親に怒られた子供のように震える声で謝って、辛く苦しい自分の気持ちを打破するように相手の傷口を噛んで。これが得策だとは思えないが、これが自分達の愛の証ならそれでいい、こんな行為でさえ吐き気がするほど愛しいのだから。腰に回された相手の腕がいつもと違い酷く冷たく、そんなものにまで反応を示す自分の体が恨めしい。幼い顔が涙で溺れ、自分の頬を伝う涙は確かに自分自身のものなのに何故か他人の物のような気がする。オレの為に傷付かないで、なんて言えるはずもなく、飲み込んだその言葉を忘れるように口淫のようなその行為を続けて。何度も艶かしくそれを繰り返しては「啓、そろそろ血…止めないと…」と小さく呟いて。共に生きたいのにこんな所で死んでは元も子もない。居なくなってしまえば、ここで果ててしまえば、相手を想うことすら出来なくなってしまうのだ。そんなものは嫌で、自分はずっと相手を想っていたい。いつか相手自身の手でこの身が果てるその時まで相手と愛を紡いでいきたい、と言葉にするのは億劫だが、そう考えている。しかし、幸せと辛さは隣り合わせ、だからこそ幸せに怯え、辛さに恐怖を感じてしまうのも事実。でも相手とならそんな辛さも乗り越え、共有出来る気がするのだ。これが共依存なのかはわからない。ただ相手が苦しいと自分も苦しくて泣きたくなる。相手が嬉しいと自分まで笑顔になる。よく、2人なら辛さは半分幸せは2倍、なんて言葉をドラマや小説で見聞きするがそんなのは幻想だと思ってた。なのに相手となると本当にその通りなのだ。「啓、オレ…壊されてもいい…だから啓の側に居たいよ…オレはどんな啓も愛してる…啓が嫌いでも、いつかは啓自身が好きになれるように頑張るよ。だから…ずっと側に居て、オレを側に居させて…愛してる、どんな啓も啓に変わりない…」と泣きながら言ったからどれほど伝わったかわからないが何度も愛してると
やだ。おれは優しくないから許さない。
(相手の謝罪を拒絶した瞬間、胸がチクリと痛んだ気がしたが、相手に腕を噛まれる快感でそれもすぐに消える。愛する人がたとえ自分のためでも痛み傷付くことがどれほど辛いことか、恐らく相手は痛いほど身をもって知っているだろうがそれを更に知らしめてやりたくて。「笑の涙はきれいだね」こんな汚れた弱い人間の為に泣いてくれているのだろうかと、その透明な雫が確かに相手のものだと自覚させるように腕に感じる相手のねっとりとした熱に溺れながら、きれいだと囁いて。止血しようと言われれば「なんで?…こんなに気持ちいいのに」欲と死に執着している己は一瞬相手の発言に拒絶された感覚を覚え冷酷な声色と空虚な瞳で相手を捉えるが相手の首筋の流血や手首の傷、脇腹に滲む血をゆっくりと見直すと段々と状況を認識してきたのか「・・笑、死なないで」と掠れた声で呟き、狂気に満ちた瞳が段々と落ち着きを取り戻していって。お互い弱い部分がそれぞれあって、それを補い合わなければ生きていけない状態。二人で居てやっと存在できる、二人で一つ、そんな軽い言葉が適している気がする。「強くなれるように頑張るね…。笑、おれが酷いこと言うかも知れないけど愛してるのは絶対だから。だから俺の知らないところで壊れないで…。ごめんね、面倒なやつだよね。でも、こんな俺を愛してくれてありがとう」と再び抱き締め軽く口付けるが、いよいよお互いに止血しないとこの状況で終わりを迎えてしまうと気を奮い立たせ「待ってて…」相手を労り名残惜しむように一度身を離すと力の入らない体を無理矢理立たせ、軽い立ちくらみになりつつ救急箱と水を用意して保険医である相手に頼りたいところだが相手のほうが辛いだろうと朦朧とする意識の中、不器用な手つきで何とかしようと試みて
…ごめんなさい、ごめんなさい…
(何度も謝る自分が過去の己と重なった。幼少期、何も出来ずに、ただ毎日を某に振っていた自分に"お前は結局その程度だ"と兄に言われた時、幼いながらに拒絶を知り何度も何度も謝った。その時は兄に嫌われたくない一心で述べた謝罪が後々馬鹿馬鹿しく感じてきた。昔から自分は無力で役立たずの何も出来ない存在だったのだ。それでも相手だけは失いたくなくて、守りたくて、だけど何も出来ないことがこれほどまでに腹立たしく思ったのはこれが初めてではない。相手と居るとき、相手は自分に何でも与えてくれた。なのに自分は何も出来なくて、傷付けた。自分の手で、大切なものを失ってしまうのかもしれないと考えると怖くて、辛くて、身体の震えが止まらない。ダメだ、意識が遠退く。何も考えられない、相手が何を言っているのか理解できない。これは拒絶ではなく、ただ大量出血による陶酔にも似た感覚。その中で、冷ややかな相手の声と暗闇に包まれた瞳だけは現実的でそのせいでまだ意識を手放せない。「…死なないよ…啓、オレは啓のどんな言葉でも受け止めるよ。だから辛くない、そのときは辛くて苦しいかもしれないけど、大丈夫だから…オレも愛してるよ、啓」と言ってはなにやら相手が立ち上がり処置を施そうと不器用ながらに頑張っている光景が目に入る。「やるよ、貸して…」と言ってはまず相手からだ、とタオルで傷口を拭いてから消毒をしてガーゼを貼る。縫うほどの怪我でなくて良かった、でも一応病院にいったほうがいいのだろうか、と
謝るな、オレが弱かっただけだから。お前は無力じゃない。大切な人を守ってるんだから。
(恐らくだが相手の兄は周囲の重圧に耐えきれず、周りから期待されない弟である相手が自由に見え逃げることなどいくらでも出来るのに家に執着していると感じ許せず妬ましく感じていたのだろう。もし違う環境であれば仲の良い兄弟だったかも知れない。そうでなくても苦しみの中で本当は弟を愛したかったのではないか、自分たちがそうであったように、兄も周囲の重圧で変わってしまっただけで。相手は兄を蔑み嫌っているかもしれないが過去を少しでも明るくしたくて、愛を増やして欲しくて。そう思うと兄の口調は知らなかったがそれを真似るように優しく述べれば、相手の頭を優しく撫でて。もう謝らなくてもいいのだと何度も述べ「ごめんな」と幼く涙を流す相手の髪をあやすように撫でて。そうしていくうちに己も優しさの中に飲み込まれていけば狂気が消えていき、震える体を優しく抱き締める。そして自傷したことで相手を更に傷付けてしまい、失う恐怖が押し寄せて「笑、俺は生きてるよ。笑からたくさん幸せを貰ってる。もっとちょうだいよ。俺も上げるから、死なないで、生きて」何度も同じ言葉を繰り返してしまうのは相手だけではなく自分を安心させるためで、まだこの言葉が相手に伝えられ、相手が聞いてくれていることの安心感。本当は相手から処置したいのに手際よく傷にカーゼが貼られていって。自分が傷付けた相手の手首が痛々しい。見様見真似で処置しようとしても上手く出来ているのか分からなくて「…病院、行きたいけど、施設に入れられたりしないかな」意識は朦朧として、相手への想いでいっぱいなはずなのに何故か現実じみたことを言っていて。誰に異常者と思われても良いが、カウンセリング施設にぶち込まれて二人離ればなれと考えると胸が痛んで
啓、啓…愛してるよ、大好きだよ…
(自分がやけに子供に見え、相手の諭すような話し方が少し兄と重なる。元から出来の良かった兄、母から大き過ぎる程の期待と愛情を受けて自分とは正反対で社交的。責任感や協調性も兼ね備えていて、その性格が故に自分の首を絞めてしまい、最後には死を選んだ。あっけないと感じた兄の死、学生だった自分は冷ややかな目で煙になる兄を見送った。肩書きも地位も、死んでしまえば意味を持たなくなる。自分のことを嫌い、目が合えば口論になり、諭すように自分の悪癖を叱る。父にも母にも叱られたことなどなかった、むしろ父は物心つく前にはもう居なくて、そんな環境の中で兄だけは自分を怒ったのだ。本当は頭を撫でながら何か一つでも褒めて欲しかったし認めて欲しかった。そんな兄と相手が同じに見えるが、根本的に違うものは相手が自分のことを愛してくれていること。「謝らないで…一緒に生きよう…オレ、啓が居ないとダメだよ…生きたい…」と言いながら相手の存在を確かめるように手を握って。脇腹の処置も終われば見様見真似でやる相手に任せてみようかと思って、「病院行ったら精神科送りだよ…何か適当な言い訳もないし…縫ったりするほど深いわけじゃないから…」と。床に散るどちらのものかわからない血も拭かなくては、相手と相手の彼女が愛し合った空間自分の淀んだ血なんかがあってはいけないのだから
俺も愛してる。笑が俺に笑顔をくれたように俺も笑を守るから
(幼い頃に戻ったような相手だがその涙は色々知りすぎていて子どもが純粋無垢に泣くのとは少し違う気がする。それでもこんな風に自分の目の前で泣いてくれるのは、自分が相手を守ってもいいのだと認められているようで嬉しくて。一人っ子であったため比べられることはなかったが親から受ける敵意と拒絶の重みは身をもって知っていて。そんなことで自分よりも辛い相手の痛みを理解できるとは思わないが辛さを分かち合うことで一人ではないと言うことを伝えたく。「ありがとう。笑のおかげで生きることが幸せって思える。笑の力なんだよ」握られた手を握り返しながらフと弱い自分は現実的でマイナス思考だが甘い言葉の包容力は己より上なのではないかと思ってしまう。一緒に生きていく上で、相手のあらゆる面の幸せを考えられる自分の方が好きだが、時折狂った愛が相手や自分を救うことになるのなら独占欲にまみれた人格も悪くないかと、どこか客観的に平静になっていく自分がいて。首と脇腹の止血をしカーゼを貼るが手首だけは僅かに血が滲んでおりそれ以上血が溢れないようにタオルを強めに抑えて「ごめんね。こんなの認めたくなくて二度としたくないのに…。止められないかもしれない。笑も俺が自分で傷を付けても止めないで。笑と一緒なら少しも辛くないから。笑も同じだよね?」自分の所為で相手が傷付くのが辛く、それを受け止めて貰うことは嬉しくもあり恐怖なのは双方同じで。上手く伝えられない方がもどかしい。「精神科に行って治るほどもんじゃないのにね。…笑と合えなくなったら何するか分からない…この傷もあるし学校なんか止めて二人でどこかに行きたい。ねえ、笑しばらくこうしてよ」精神科でどうにかなるほど自分たちの愛は軽くない。相手が精神科医と居ることを想像しただけで吐き気がする。もし離ればなれにでもなれば死さえ厭わない。相手を力の入らない手で抱き締めながら同じ体温を感じ頬に軽く唇を当てながら、互いの血が床に溶け込むことを望むようにこのままでいようと甘く囁いて
オレも啓を守りたい。…何か出来る自信はないけど…どうしても、守りたいんだ…
(涙を手で拭いながら述べるその言葉は決して嘘ではなく、本心から来るもので、相手を数々のことから守りたいと思うのはこれ以上傷付く相手を見たくないから。相手だって辛かったはずだ。家族に関わらず、友人、学校から拒絶されてたのではないのだろうか。自分と同じように、幼い頃から自分を否定されることを知り、それがどれほど残酷で人の性格を歪ませるかを悟っていたのではないのだろうか。それぞれ家族に見放され、友人や学校から迫害されてずっと孤独を生きてきた。そんな中で相手は彼女に出逢い、自分は相手と出逢った。相手と出逢えたのなら、自分のこんな下らなくて陳腐な人生も悪くないな、なんて考えてしまって。「オレは何も…啓のがオレに色々くれて、本当、感謝してる…ありがとう」先程の行為で自分と相手の体温がいつも以上に近く感じる。握った手が痛々しいほど可憐に見え、強く握れば折れてしまうんじゃないかとさえ思った。出血のしすぎで頭がクラクラして吐き気がするが、それを相手と共有してると思うとそんなものでさえ愛しく感じてしまって。一緒に生きる、と言葉で言うのは簡単だが、その裏には痛みも辛さも悲しみも幸せも全部共有すること。相手のために自分自身を捨ててもいいという覚悟がないと一緒に生きることは難しい。それほどの勇気と決意、愛情があるから一緒に生きよう、と自分は相手に言ったのだ。「…うん、わかった…オレも啓と一緒なら辛くないよ。啓に自分のことあげられる。全然怖くない。」相手のため、と言いながら自分を傷付る相手を止めるのはただ自分のエゴになってしまう。ならば同じ痛みを共有するほうが愛だろう。自分は相手の為なら傷付くのも世間から後ろ指指されるのも全く怖くなくて。「精神科のカウンセリングなんてマニュアル通りのことをいかにも心配してますって顔で言ってるだけなんだよ…オレだって啓と会えなくなったらって考えただけで吐き気がする、可笑しいのかな?…どっちにしろオレら二人とも学校に行ける状態じゃないし、行っても貧血に悩まされる…二人きりになりたいね…」精神科の偉そうな爺さん婆さんの話なんて耳をすり抜けるだけ、自分はそんな言葉に騙されるほどヤワではないし、相手に対する愛情は深い。会えないだなんて考えたくもない。考えただけで吐き気と悪寒がして情緒不安定になりそうで。相手の体温に身を委ねながら自分の感覚のない手を相手にまわして自分も抱き締めて。そして、まるで自分と相手の存在を確かめるよう口付けて
ありがとう。…笑に守られたい。守ってくれたら俺も笑のこと今よりもっと守れるから
(過去に自分を守りたいと愛で包み込んでくれる人は彼女くらいで、そんな彼女からも声に出して言われたことはなく思い上がりだが守っている感覚の方が強かった。しかし相手は狂乱に満ちた己も弱い自分を全て受け入れ守ってくれるという。それに応えない理由などない。酷い虐待を受け残った古傷も相手といる今なら愛せる気がして。相手と一緒なだけでこんなにも過去も今も色付くなんて不思議だ。「何も、なんて思わないで。俺は本当に笑に救われたんだ。なのに笑が何もしてないなんて思ってたら少し寂しいよ。笑が自信を持ってくれるときっとお互いにもっと幸せになれる。俺は俺しか笑を愛せないって思ってる。だから一緒に生きたいって思えるんだよ。笑もそう思って一緒に生きたいって言ってくれたんだよね」ただの謙遜だったかもしれないが自信を持ち自分の力でしか相手を救えないと自惚れるくらいが互いを更に引き合わせる気がして説明下手ながらその気持ちを相手に伝えて。「我侭でごめんね。でもお互いに我侭って思ってるなら、きっとそれは我侭じゃないのかも」相手が自分と同じようにエゴだとか我が侭と考えている気がして、二人で思い合うエゴならそれは思いやりで愛情なのではないかと思って。「可笑しいのかもね。だけど、それが俺らだよ。可笑しくても幸せだから。…どうしようね。一ヶ月ぐらい拉致られて監禁されてましたってことにしたら駄目かな」もう情緒不安定で狂っていることくらいお互い理解していて其れが自分たちの愛の形であることも分かっている。他人に何を言われようと自分たちは愛を奏で合えるし幸せでいられて。二人でいるにはどうしたらいいかなんて現実的なことを考えると、駆け落ちなんてドラマみたいな言葉が合う気がして。叶うことなら誰にも邪魔されず遠い異国で暮らしたいなんて。
…啓、守ってくれてありがとう。守らせてくれてありがとう。…愛してる。
(ずっと今まで生きてきて、こんなにも人を守りたいと、愛してると思ったことなんて一度もなくて自分でもこんな感情を抱く事が出来るんだ、誰かを純粋に想うことを許して貰えるんだ、なんて考えてしまう。ずっと誰かを愛することを恐れて自ら人を切り離して来た。結果、誰からも愛されることもなく愛することもせず、ただ傷付くことに慣れるようにただ時間を棒に振って、それは自分の生まれ育った環境と受けて来た暴力などが原因でもある。自分は可哀想なんかじゃない、相手の方が何倍も辛い思いをして来た。家族や友人から迫害され、そんな中で見つけた幸せと彼女を失ったなんて自分じゃ想像もつかないほど辛くて苦しいはずだ。だからこそ、彼女の代わりにはなれなくとも自分が生きている間は相手を守りたくて。「うん…オレしか啓を愛せないし、啓しかオレを愛せない…オレ、もう自分の中で啓の彼女と自分を比較するの止めるよ。でも啓は彼女のことを忘れなくていい、いつかオレで啓を満たしてあげるから…」相手に同調するように頷いては今ま自分の中で彼女と自分を比べていたことを告げる。でもそれはもう終わりにするのだ。自分の愛し方で相手を愛すれば、きっと相手が彼女のことを思い出に出来るかもしれないから。それが叶わなくても相手の記憶の隅にでも自分が残れたらそれでいいじゃないか、なんて考えて。「…我儘じゃなくてそれは何になるんだろう…愛情とか、かな…」我儘やエゴではないという相手の言葉にそう述べながら愛情だったらどんなに嬉しいことだろうと考えてしまえばもう我儘だのエゴだの考えていたこと全てが愛情なのかな、と思っては何故かストンと胸に落ちてくる。「オレらがルールでいい、だってオレの中はオレらとオレら以外に別れてるから…学校、辞めちゃえばいいのかな…でもそしたら啓を養えない…産休?」自分の世界は二つに分かれていて、それは自分達とそれ以外という簡易的なもの。だけどその間には愛情があるかないかという扉があって、相手しか入ることを許されていない世界で。そして女性にしか適応されない産休なんて言葉を使うが本人はいたって真面目そうで
(/返ロル遅くなってすみません!本体が久々に遠出しており返信出来ない状態にありました汗 笑ちゃん、ごめんね、許して←
俺も、愛してるよ笑。笑のおかげで嫌いな過去の自分も好きになれる気がする。
(自分の行き場を無くした憤りや哀しみを人に暴力や蔑みとして当たるのは簡単で、弱い人間が弱い人間にすることだ。世の中の至る所で日常的に行われているその行為は自分たちにも降りかかり愛情も正常な判断も全て奪っていって。過去に家族として過ごした両親が自分に虐待したのもその時は耐え難かったが今ならその時に付いた古傷も悪くないと思えて。それは醜く生き延びながら両親の弱さを受け入れることで彼らの狂気が少しでも軽減されていたのなら、あの無意味とも思える暴力に耐える時間も彼らを守る愛情と都合良く思える気がしたからで。そう思えるのも何もかも今、守り守ってくれる相手がいるおかげなのだ。「これ以上、笑の愛で満たされたら俺も彼女も笑になりそう」これ以上なんてない。どんなに愛され満ち足りていても愛は欲するし、受け止められる自信がある。ただ、過去の自分も彼女も全て認めてくれる相手が自分を愛してくれたら相手のことしか見えなくなり考えられなくなって相手と同化してしまいそうだと嬉しい冗談を言ってみたり。相手は記憶の隅の存在ではなく、今確かに中枢に存在し自分もそれに伴って生きている感覚で。続く相手の言葉が自分の思いと重なれば「同じ。俺も笑と同じふうに考えてた。我儘じゃなく愛情だって。もし今まで我儘と思っていたことが愛情ならすごく嬉しいね。伝えきれないよ」もし言葉通り我儘が愛情なのだとしたら、それこそ相手になってしまうのではないかと言うくらい我が侭という愛情で満ち溢れていて。先程まで相手を酷く傷付け自らを傷付けていたことは辛く吐き気すらする記憶になりそうだが、確かに愛情が存在し、どうしようもなく求め合って伝えきれない想いを伝えるための一種の方法なのだと思いたくて。それは今相手が言う“オレらがルール”という言葉がしっくり来て場に似つかわしくない微笑みすら零れて「養うって…俺は笑だけいれば十分だよ。元々俺たち飢え死一歩手前なんだから。……この際だからフランス国籍にして同姓結婚でもする?産休って…笑は俺の妻だけど、子どもでもあるし。……実は女でしたってカミングアウトでもするの」出血が酷く意識ははっきりしなく、傷も痛み、相手は自分以上に辛いはずなのに幸せについて考えると面白いように冗談が口から零れて。自分の単純さに“あーまだまだ人間だな”なんて思えば冷え切った力無い体を抱き寄せては唇を奪い「愛してる」と
(/大丈夫ですよ‼︎お忙しい中の返ロルありがとうございます‼︎
私は基本的に暇人(笑)なので笑
授業中もパコパコ携帯やってるタイプなので←
啓が啓自身を好きになれたら、オレも嬉しい
(相手の言葉に思わず笑顔になってしまう。自分達は平凡な道を歩いてきたわけではなく、人からしたら非凡でまるでドラマや漫画の中の世界でしか起こらないような道。更に相手は愛する彼女を失った。どちらも身内の死に触れている、何かを失っていて、失う恐怖を知っている。だからこそ、お互いがお互いを必要とし、依存してしまう。しかし確かにそこに愛情はあり、生半可な気持ちで紡いだわけではない、だからなんでも受け入れることが出来る。自分がそう思えるのはきっと、あの無責任な親と独裁政権を強いたクラスメート、思い出したくもないのもない母親の愛人のおかげとも言えよう。相手が過去の相手を好きになれるのなら自分だってそうだろう。自らの体を売っていた過去を相手は受け入れてくれた、自傷行為を繰り返すことも相手に依存してしまうことも認めてくれた。それが自分にとって支えになるし、自分自身を受け入れることに繋がっている、そう信じて疑わない。「オレになるの⁈じゃあ三人で一つだね」相手の冗談に笑いながら答えると相手も相手の彼女も自分になるのならそれでもいい。むしろ自分が相手になってもいいと思ってしまっているあたり相当惚れ込んでしまっているだろう。「我儘が愛情…もし、オレの我儘が啓を救えるのなら…あ、本当にもしの話だけど…そしたらそれは愛情になるよね」とやけに大人びたことを述べてはあの幼い顔が何やら真面目な印象を与えるような表情で彩って。本当にそう思っている、そういった顔で言うその言葉に要約された、だから啓も我儘を言っていいよ、は言えずに飲み込んだ。相手の我儘で傷付けられるのなら本望だし怖くなんてない。それも愛情なのだから、自分にとっては相手が与える痛みならそれすらも愛しく想える。「オレも啓だけ居ればいい、啓以外要らない…あはは、そうだね、飢え死に手前だもんねぇ…いいね、それ。フランス行こうか、オレ一生ついてくよ。…いや、女の子じゃないならそれは無理だな…」相手の冗談に笑いながら答えると奪われた唇に感じる相手の温かさに思わず微笑みを浮かべてしまえば自分の冷え切った体が相手に染まって行くのが心地よくて
(/本当すみません;不定休なもので返ロルがまばらになってしまって^^;
(相手の笑顔を見て、あーこの笑顔を見たかったんだ、と心から嬉しく思いこちらも微笑めば相手の両頬を両手で優しく包み込んで。相手が笑顔になれるなら何だってするつもりだが、それがもし自分も望むことで嬉しいことなら幸せこの上ない。一生をかけてこの笑顔を守ることを誓いつつ両頬に手を添えたままゆっくりと額を合わせ唇を奪う。まだ少し鉄の香りがして先程の惨事が脳裏を過ぎるが高揚する気持ちがそれすら幸せに変えていき。まだ己の犯す惨事を完全に認めることはできないが、“オレらがルール”に乗っ取れば愛情表現なのだと言える気がして。これからも相手と時間を共有することで、相手の辛く苦しみ絶望してきた過去を明るい色に染め変えて、ルール増やし、より絆を深めていきたい。「三人で一つ?…笑そんなこと言ったら俺また泣くから」どうやら自分は共にいる幸せに弱く涙もろいらしい。冗談で笑い合うつもりがうれし涙が再び零れそうになり、相手ではなかったら“ヘタレ男”と呆れられ捨てられかねないと。「当たり前だよ。ていうか今まで笑から言われたこと全部、愛情と思ってるから。」普段とどこか違う雰囲気で言われた言葉に当然だと頷き微かに微笑むも、相手の要約された心の内側の声が聞こえた気がして一度小さくゆっくり深呼吸しては相手のカーゼと包帯の巻かれた手を取りそっと包み込んで「……笑。本当の我儘言うけどさ、あと少しだけ、少しだけで良いから彼女の遺品取っておきたい。それでいつか一緒に燃やして欲しい」どの口が言えたものかと自分に悪態を付きながら包み込む手に視線を落とし返答を待って。続く冗談には「フランスって食料品の物価高そうだから職見つけないと本当に飢え死にするかもね。……ビザ発行とか語学勉強とか、笑となら出来そうだけど。…あれ、笑って女の子じゃなかったっけ?こんな可愛いのに」とやけに現実的で真面目な返答を返しつつ最後には再びおどけてみせ、奪った唇に角度を変えて口付けて一度話すと「ねえ、笑、今日一緒にお風呂入る?」ともう虐待の傷痕も何も隠すものはないように冗談のような本気を甘い声で囁いてみて
(/大丈夫ですよ!本当、お疲れの中辺ロルしていただけて嬉しいです!
(相手の温かい手が自分の頬に触れると、その温もりと出来るだけ長く触れ合っていたくて自分の冷たい手を重ねる。いつか死体みたいだと言われたその体温も相手と居る間だけは好きなれ、相手だからこそ昔浴びせられた罵声も悪口も許せる訳で。重なる唇が幸せで、手放したくなくて、こも時間がいつまでも続けばいいのになんて月並みな言葉だがそう思っているのは事実。相手が自分を受け入れてくれたように、自分も相手を受け入れて、過去も未来も全部愛したい。「泣いていいよ、オレの前では我慢しないで」こんな事言っても相手は奥歯を噛み締めて我慢してしまうんじゃないだろうか。彼女を亡くしてから、或いはそれよりもずっと前から泣くことを許せなかったのではないだろうか。だから今、泣きたいときに涙を堪えてしまう。自分の立てた仮説がどこまで正しいかはわからないが、何となく自分達は似ているから当たっているような自信もある。「はは、なら良かった。」相手がそう述べれば笑いながら何度も良かった、と繰り返す。自分の酷く傷だらけな手を包み込んでくれる相手の体温に溺れそうになりながらも聞き取った相手の我侭、否、彼女に対する想いを聞くと頷く、ただ笑顔で。「…うん。待ってるから、いつまでも…いつかなんて来なくてもいい、無理だけはしないで?本当に、もうさよなら出来るって思った時に一緒に彼女さんとお別れしようね」そう言って。「フランスの町並みとか好きだからそんな綺麗な場所で啓と飢え死できるならそれでもいいかな、なんてね。…あー、英語とかフランス語とかオレ出来るのかな…女の子じゃないよ!可愛くないし、ちゃんと男の子だよ」と笑いながら述べるとまた重ねられた唇に思わずほくそ笑んでしまう。続く言葉に「いいよ?オレの貧相な身体見たい?」と相手に隠し事なんてしないといった顔で
(/と、とんでもないです。こんな本体までヘタレな奴にお付き合いくださり感謝です!
お暇なとき時間があるとき気が向いたとき頂けるだけでも嬉しいです!
うん、笑の前だから泣く、笑の前でしか泣けない
(相手の我慢しないで良いの一言で止めどなく涙が溢れてきて、今まで泣いてはいけないと無意識に堪えていたがそんな簡単と思っていたことが今は難しい。相手も自分の前では押し殺していた涙を見せてくれて、そんな顔は自分以外の他人には見せたくない。自分だけが知っている相手には他の人には見せない自分の泣き顔を見せられる。むしろ相手無しには泣きたくても泣けないのではないかとすら思えて「笑がいないと俺、生きていけない。本当に笑に会えて良かった」良かったと繰り返し笑う相手を見るだけで今度はどうしようもなく笑顔が溢れ自分でも今どんな表情をしているのか分からないくらい幸せで。そして相手は弱い自分の我が侭を内心そうとは受け取っていなくても、何も言わずに我が侭として受け入れてくれてそれだけで心の重荷が軽くなり「ありがとう。なんか下手な精神科医にも同じようなこと言われたけど笑が言うと全然違うね。って言ったら笑が怒るか」上辺だけの言葉とは違い心にすとんと落ちてきて相手となら明るく笑顔で彼女と別れられる気がして。それは相手という大きな自分を包み込み守ってくれる存在、そして自分が愛を注ぎ守っても良い存在があると分かっているからで。「語学か…。それは俺がみっちり勉強すれば何とかなりそうだけど、笑とだけ通じ合えればそれでいいかな。他の人はテキトーでいいよ。……可愛い男の子、俺の大好きな笑」冗談と本気混じりに言葉を述べた後、一呼吸置いては静かな声色で囁くように言えば再度相手に口付けて。「笑が貧相と思ってても、俺は全部愛してるから。それにこれから嫌でも鍛わるでしょ」真顔で返した後に、実際鍛えらえるかは定かではないが冗談を言うと小さく笑い疲労仕切っている体を優しく包み込むと相手が上に成るようにゆっくり後ろに倒れて
(/いやいや、此方こそ騒がしい本体なのにお相手ありがとうございます‼︎
自分、今日から解放されて暇人なのでいつでもお返事出来ます‼︎
オレが何度でもその涙を拭いてあげるよ。
(相手と自分はやはり似ていて、泣くことや笑うことに抵抗があった。爆発しそうな感情、今にも崩れてしまいそうな精神のやり場を見つけることが出来なかった。だから自然と人と関わることを避けて自分と世界に大きな壁を作ってまで自分に踏み込ませることをさせたくなかった。だけど今目の前にいる相手は違くて、素直に感情を言葉に出せる。自分が今一番大切としていて、愛していて、信頼してる人。自分が居ないとい生きていけない、そんなことを言われたのは相手が初めてでどう反応したらいいかわからない、酷く月並みな言葉に頼るしかないが「…ありがとう、オレも啓が居ないとダメだよ」と言っては笑う、そして「オレと出会ってくれてありがとう」と。「精神科医と比べられたくないなぁ、オレのが啓のこと想ってるし大好きだし、彼女さんのことも大切だよ」精神科医と比べられたことにむすっとしたような顔をしては自分のが相手のことを好いていて愛しているということを述べてからまだ忘れなくていいというように彼女のことも大切に思っていると言って。相手が愛していた人のことを否定するなんて出来なくて、相手のことだからきっといい人を好きになったはずだから。だから自分も彼女が大切なんだ、と本当にそう感じている。「だってほら、教科教えてるわけじゃないしさ…なんか啓に頼ってばっかりだなぁ…そうだね、オレらだけ分かりあってればいいよね。…可愛くないよ…オレも啓が大好き…」冗談に可愛くないと返しては重ねられた唇に愛しさを感じて、頬を紅く色づかせ。「そうだね、鍛えられるもんね」自分が相手を押し倒しているような体制になってしまえば、相手の身体が疲れ切ってしまっていることはわかっているが「…啓」なんて声をかけてしまって
俺達、片時も離れられないかもね。実際、離れてても一緒だと思ってるけど
(此処まで相手に依存し相手がいないと自分を保てないとなると、もはや相手無しの自分は自分ではなく唯の抜け殻なのではと。しかし実際問題ずっとくっついている訳にもいかない為、心の中に共にあれば良いかと妥協するように付け足し述べて。「俺の精神異常直せるのは笑だけだもんね。一生の掛かり付け医みたいな」精神科と比べられ不服そうにする相手に短い笑いを零すと冗談を言いながら真面目な表情で相手の髪を撫でまっすぐに見つめながら言って。「笑に頼られる為に俺がいるんだから、それでいい。…うん、知ってる」相手が頼ってくれるなら何だって出来る気がして、他の誰よりも相手だからこそ頼りにされるのを嬉しく感じる。そして大好きと言われればどこか自信に満ちた表情で小さく笑むと愛しい相手の色付く頬に口付けて。自分の名前を呼ぶ相手が堪らなく愛おしく片手を相手の後頭部にくしゃりと回すと自分に引き寄せて唇を奪い深く口付ける。疲れた体はすぐに息が上がって胸が苦しくなるが、口付けに慣れている自分でもこんななら相手はもっと辛いだろうと。それなのに歯止めがきかず糸を引いて離したのも束の間、再び口付けに酔いしれて「笑…どうしよ。止められない」切羽詰まったような甘い声で言いながら相手の頬を優しく包み込むと、このままもっと甘い時を過ごしたいなんて。
離れたくない、ずっと一緒に居たい…どうしてもの時はずっと啓を思ってるよ?
(赤の他人が聞いたらどれほど迄に重々しい言葉に聞こえるのだろうか、考えるだけ無駄なので考えることをやめる、自分と相手に世界の常識やルールは通用しないのだから。いつでも相手を思っていたい、相手のことを考えるだけで幸せになるのだ。憎悪や嫌悪で感情を染めるの暇があるのなら相手のことを長く愛していたくて。「啓のことはオレだけが知ってれば十分だ。そうだね、ずっと寄り添うよ?オレ一応保険医だしね」相手の精神が異常だと言うのなら自分だって同じだ。そんな自分が相手を支えられるのかと不安になるが相手を支えられるのは自分しか居ないと意気込んで。「自分でやれることは出来るだけ頑張るからさ。…言わないと気が済まないんだよ」何でもかんでも相手に頼っていてはダメなのかもしれない、お互い負担にならないように頼り、支え合うのが理想だろう。変に大人ぶった考えをすればそう述べなから自信ありげに笑う相手に好きだと思うだけではなく伝えないと気が済まないと呟くと落とされた口付けに幸福感に満ち足りて。続けて深い口付けをされるとまだ慣れて居ない体はすぐに酸素を求めて、だけど相手と繋がっていたいだなんて考えてしまえば止まらないと言う相手に「…止めないで…啓を感じたい…欲しい…」なんて幼さが残る顔からは想像もできない相手を求める言葉を
笑の部屋で同棲しようか。…うん、俺のことだけ考えてて
(他人が重たいと思っても自分たちにはこの重みが心地よく、むしろもっと重たく、と求めてしまう。一緒に居るのなら直ぐにでも生活を共にしたい。彼女との思い出があるこの部屋も、相手と何処かで共に過ごせるなら薙ぎ払える気がして。「そうだね。笑だけに知っていて欲しい。…病気しても病院行かずに笑に見て貰おうかな。他の人には弱いところ見せたくない」自分だけが相手の事を知っていれば十分、その言葉を今は素直に受け止められる。いつの日だったか相手の幸せを考えた時、自分以外の理解者が相手には必要なのかもしれないと思った事もあって。自分以外の人間が相手を受け止め、相手も同じようにその人に笑顔を向け幸せならば、それは自分にとっても幸せで。もし心許せる友人が居たのなら自分に何があっても相手を悲しみから救い幸せの日々を与えてやれる。しかしそれは考える必要のないことだった。なんと言っても自分たちは生死を共にすると誓いあった仲なのだから。たとえ気の許せる人間がいたとしても相手がいない幸せなど偽りでしかないとすら思え。相手と死を共にすること、それが人生において最大にして最高の幸せ、なんて。そして欲しいと求められれば理性が飛びそうになるが何とか押さえ込んでは、力の入らない体を無理矢理起こし、それでも軽々と相手を抱きかかえると寝室に運んでその傷だらけの冷たく華奢な体を優しく横たわらせて。殆ど背丈は変わらないはずなのにその体は少し小さく見えて、その体と心で背負ってきた重みを思うと胸が苦しくなる。傷付いた手首に優しく触れながら覆い被さるようにすれば相手を見つめながら顔を近づけ「愛してる」と静かに口付けて
そうだね、余るほど部屋あるし…一人だと広過ぎるんだよね。啓のことしか考えられない…
(自分一人では広過ぎる自宅を思い出しては相手と彼女が愛を奏であったこと部屋を出ることに相手は大丈夫なのだろうかと心配になる。無理に忘れなくていい、忘れられそうなときに自然とそうしてくれればいい、相手が彼女を思い出に出来る時に一緒に暮らそう。だから今は相手の返事をただ待つだけで。「うん、だからオレのことも啓だけが知ってればいいんだよ?…よっぽどの重症の時は病院行かないとダメだよ?死に至る病だったら嫌だし…」相手が自分より先に永遠の眠りについてしまったら、冷たくなった相手の隣で自分は死を迎えるつもりだ。自分が今考えていることはまだ先の未来にあって欲しい死のこと。自分が先に眠ってしまった時に相手は以前言っていたように自分のことを追ってくれるはずだ、だから自分も相手を追う。生死を共にする約束は果たさなくてはならない、軽々しく誓ったわけでは無い。自分達にとってはどんなに小さな約束もとても大切な訳で。もし自分がこの世から退場したあと、相手に自分以上に大切な人が出来たとき(考えたくはないがもし、もしもの時)はその人の隣で笑っていてほしい。自分より数cm小さい相手に抱えられたことに少しばかり驚いてしまうが今感じる相手の体温を手放したく無くて大人しく身を任せて。愛してる、その言葉と一緒に落とされた口付けをまだ止めたく無くて相手の首に腕を回しては艶かしい声で相手の名前を呼び
とりあえず、この部屋から離れようと思う。それはずっと前から考えてたことだから。
…笑の部屋は広いから沢山家族増えても大丈夫そうだね
(相手の表情から心配を読み取ると安心させるように微かに微笑むと少し部屋を見回した後に相手の頭を優しく撫で、遺留品はまだ捨てられそうにないがこの部屋に囚われ続けるのは良くないと思っていて。次いで、沈んだ空気にならないようにと冗談を言うが、さも本気にしているように産めるはずのない男である相手のお腹当たりに優しく触れると愛おしそうに撫で「…大丈夫。笑の為に重たい病気になんてならないから。…でもまあ、すでに精神的にはかなり重傷だけどね」ごく自然と零れるようになった微笑みを相手向けながら、最後は小さく肩をすくめおどけてみせる。病気にならないなんて保証は出来ないが、苛々を誤魔化す為の煙草もやめるつもりだし、職を辞めるやめない関係無しに過労死しないよう睡眠と食事もちゃんと取るつもりでいて「笑の美味しい料理とサポートがあれば病気になんてならないよ」今後の二人の生活を思い描いては小さく笑んで内心、この精神的に重傷な病を治せるのは相手だけだと思っていて。ベッドと自分に挟まれ、首に手を回してくる相手は妖艶に見え、全てが可愛らしく愛おしく思え更なる深みに溺れそうになる。ベッドのシーツのしわを僅かに増やし、相手に身を寄せれば包帯が巻かれた首筋に顔をうずめては相手の匂いを楽しむよう鼻を近付け、露出している部分に口付けて。そのまま聴覚を刺激するよう耳元に息を吹きかけそっと唇を当てると愛おしい相手の名前を呼び返し
啓がそう言うならオレはそれでいいけど…無理だけはしないで欲しいからさ、何回も言うけど。
…うん、そうだね?オレ子供、結構好きだよ?
(相手がそう言っているのなら止める権利は自分にはなく、自分の家に来るのなら喜んで迎え入れる。もちろん彼女の遺留品、とは言いたくないが亡き彼女の思い出も一緒に。自分に出来ることはこんな些細な事でしかないがそれでも相手の負担にならないのなら相手に尽くしたい。その後に相手が取った行動につい笑ってしまい、自分のお腹の上にある相手の手に自分の手を添えて。昔は子供なんて泣けばいいと思っていて人に甘えるだけの無知な生き物でしかないと思っていたが今となっては相手との子供なら、なんてあり得ないことまで考えてしまっている。自分と相手が此処に居たという証が欲しい、なんて。「精神的にならオレだって同じだよ?まぁオレは精神科なんてマニュアル通りのバカみたいなアトラクションには頼るつもりはないけどね、啓が居ればいい」相手と居る間ならこんな歪んだ自分の性格もいいんじゃないかと思える、狂っていてもお互いが理解しあっていればそれだけで十分だ。相手と長い間一緒に生きる為にご飯もちゃんと食べよう、自傷行為も極力抑えよう。「じゃあ料理頑張るよ、オレ。あと、夜ご飯にゼリー食べるのも辞めるね?ちゃんとご飯食べるよ、啓と一緒に」と笑いながら述べては相手が居ることによって自分はここに存在価値を見出していけるのだ、と改めて認識する。めんどくさいと思っていた数々の行為が相手と一緒というだけで愛おしく、大切なものに思っていて。「ん…」零れるだけの声を洩らしながら直接耳にくる刺激や首筋に落とされる口付けに身体は素直に反応を示す。相手の髪を撫で上げるように触ると自分の頬が紅潮し、暑くなって行くのがわかって
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