矢谷啓 2014-05-13 19:43:45 |
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笑が言うなら、自信持てるかな。これでちょっと嫌なことが笑のおかげで良いことになった
(心を許している相手にまっすぐ素直に感心されれば、こちらもそれを受け入れやすく、過去に気にしていた些細なことも相手に言われると良い物に変換されていく気がして。「鏡で見てみなよ。絶対、子どもって分かるからさ」少し真剣な面持ちになったような相手を無表情からやや不思議そうな顔で相手を見つめて。「掃除とゴミ出しは夫の仕事だからね」と冗談を重ねていくが続く、相手の真剣な雰囲気にこちらも俄に表情を変えると相手から少し身を離し真剣に、しかし優しい眼差しで見つめ「うん、聞くよ。ゆっくりでいいからね」と相手の冷たい手に自分の手を重ねて傍に居ることを伝え
うん、きっと話せるから…今なら。
(温かい相手の手をしっかり握りながら話し出して…自分は母子家庭だった、母にはその当時付き合っていた年下のはたからみれば好青年という愛人が居た。兄しか構わない母と違い、その好青年は自分のことを可愛がってくれ、兄と比べることもしなかったことが何よりも嬉しかったことを覚えている。しかし、時間が経つごとにその人は横暴になっていき、母に暴力を奮うようになり、更には兄にも当たり散らした。その頃から母と兄を嫌いだった自分はざまあみろ、と捻くれたことを思ってしまい、自分に被害が無いことに安堵した。そんな時、学校帰りに自分を狂わせることが起きる。その好青年が自分のことを金で売っていた、しかも自分の同級生に。しかもその同級生というのが同じクラスのタチの悪い苛めっ子。いじめなんてものが可愛らしく見えるぐらい悲惨で屈辱的、何せ同性に犯されたのだから。その日を境に自分の中の何かが壊れ、金稼ぎの為に体を売った。ある日は道行くサラリーマン、ある日は女子生徒。自分がどうなろうと関係なかった。そんなバカみたいな癖がついたままどうしようもない大人になってしまった。「…ね、オレはこんなに汚いんだよ。…キスしたのって啓が初めてだった。啓以外の人は体が拒否してた…こんなにこんなに大好きで愛してるのに、オレはもう汚れきってる。」そんな風に呟けば相手の顔を見るのが怖くて視線を下にしたまま、「…こんなオレでも愛してくれるの…」と問いかけて
(愛されるべき人に愛されず、信じていた人に裏切られ相手はどんな気持ちで他人に身を売っていたのだろう。売る何て言葉を使いたくない。自暴自棄になった彼はきっと自分が無表情になった以上に空っぽで、闇よりも深い何もない空間でもがき苦しんでいたに違いない。むしろ苦しいほうが楽と感じていたのではないか、なにもない無になりたいのになれなくて。自分だったら唯一信じていた人にそんな裏切られ方をされたら耐えられないし、まして同姓に犯されるなど考えたくもない。しかし相手の過去はこれからの自分たちのことで、受け入れなければならない。相手の気持ちを完全に理解してやることは不可能だが、自分の気持ちは決して変わることがなくて「…汚くない。笑は精一杯生きたんだよ。方法を少し間違えただけで…必要なんて言いたくないけど、笑がそのときそうすることで今、ここにいて俺と出会えたなら、きっと全てが悪いわけじゃない。笑は汚くなんてない。俺は過去の笑も愛してる。今も未来もずっと愛してるから」心が痛むとやはり言葉が上手く紡げない。どんなことがあろうと生きた相手はとても輝いてみえて、自分にはない強さすら感じる。屈辱的な行為を強いた奴らは許せないが、そいつらに屈せず今自分の目の前にいる相手は汚くなんかなく…握った手を優しく握り直せばそのまま相手を自分の腕の中に閉じこめてそっと抱きしめ背中を撫で「生きてくれてありがとう。頑張ったね。もういいんだよ、俺が笑を守るから」頑張ったなんて陳腐な言葉で言いたくなかったが、今はそれしか言えなくて優しく優しく撫でてやることしかできずに
(拒絶されるかと、追い出されるかと思っていた。自分の生き方は正常ではなく異常でもう関わるのはやめようと思われても仕方ないと思ってたし、嫌われるのを覚悟していた。だけど、やはり相手の優しさにすがりついてしまう自分が居たのは確かで相手が自分を拒否することなんて信じたくなかった。自分のことを汚していったのは紛れもなく自分自身で、その行為の生々しさや寂寞、何度体を重ねても埋まらない喪失感は残ってしまった。ついこの間までずっと喪失感とその過去は自分について回る。今と過去はちがうが、全く離れているわけではない。必ず何かで繋がっていて忘れることなんて叶わない。相手が自分に変わらない愛情を見せてくれたことに安堵の表情を見せては「ごめんね、ありがとう…あの頃に啓と出逢いたかったな…愛してる…オレも啓のこと愛してるよ」と呟いては学生の時に出逢いたかったというその願いが叶うことはないとわかっているがきっと相手だってそう思ってくれているはずだと。こんな重い事実、きっと誰も聞いてくれないだろう。でも相手は聞いてくれた。嫌な顔一つせずに、ただ繰り返される話に耳を傾けてくれてことでさえ自分にはとても連れしくて。「…オレを愛してくれてありがとう、どんなオレでも信じてくれてありがとう。ずっと側に居て、お願いだからどこにも行かないで」抱きしめられ、相手の背中に腕を回せば相手の服をぎゅっと掴んで皺を作ってしまい。生きてくれてありがとう、こんな言葉を言ってくれるのはきっと目の前にいる彼だけだろう。だからこそ言葉の一つ一つや表情が一々嬉しくて愛しくてたまらない。あぁ好きだ。今更ながらにそんなことを思って
(相手の心の闇が自分と出会って甘い言葉を囁きあったからといってすぐに晴れるわけではないだろう。この世に生を受けてから愛を感じず周囲から受けた傷は大きく深すぎて、その代償はあまりにも大きく彼を何度も闇に突き落として。もしかしたら一生快晴になることはないかもしれない。それでもこれから長い時間をかけて心の空に雲があっても星々で輝かせ虹で色づかせ、光で満ちあふれさせればいい。消えない傷や忘れられない過去があっても構わなくて、ただその時は「俺はいつも笑のそばにいるから。嫌なことを思い出したら俺にその過去を愛させてほしい。出会ってなかった分も全部愛したい」でも、ごめんと言いかけて言葉を飲み込む。過去の自分が彼女と愛を奏でていた頃、彼は生き地獄という名の絶望の中にいた。恐らく愛する彼女がいた自分が彼を見たら偏見こそはしなかったが今と全く同じようには手をさしのべることはできなかっただろう。友人として上辺の言葉しか言えなかったのではないか、むしろ彼女しか見ることができなかったかもしれない。過去の彼を愛せるのは今だから言えることで…自分の酷く醜い様を知ったら信じてくれている彼を裏切ることになる。やはり彼女を忘れないと過去の自分も彼だけをみないといけないと的外れな考えをしてしまい、前向きな自分と後ろ向きな自分が交差する。でも今はまっすぐ自分を見てくれる彼に言えるはずもなく、相手を離したくなくて狂おしいほど愛していて、相手を安心させるために捧げる愛の言葉が憎たらしいのに止められなくて「当たり前だよ。いつの…どんな笑も俺にとって大切な存在だから。…そばに居る。笑がまた迷っても俺が見つけて離さない」本心からの言葉のはずなのに罪悪感が捨てきれないのはまだ自分が弱いせいか。自分の全てを受け止めてくれると言った今の彼を信じているのに。そこまで考えては不安からか服を握りしめてくる相手に応えるように強く抱きしめ髪に口付けて、ごめんと言いたい気持ちを抑え「俺を好きでいてくれてありがとう」と耳元で甘く囁いて、一番不安な相手を安心させることに努めて
(自分はきっと幸せで、でも何故か泣きたくて。それは相手が本当の愛情を教えてくれて、自分という存在を否定しないでくれたから。この世界は残酷で何故かしっかりと強者が弱者を支配してる、何処よりも馬鹿げている。昔の自分は恐らく弱者だったのだろう。あの下らない苛めっ子の言うことに従って、それしか生き延びる術が見つからなかった。「…うん、ありがとう…でも、オレのことも頼って欲しい。啓が辛かったらしっかり受け止めたい。」そんな風に言っては何故か涙が出てきてしまう。相手が未だに彼女のことを忘れられていなくて、今この状況でも心の何処かでは自分が死なせてしまったと思っている彼女のことをちゃんと心で想っていることを知っているから。今は忘れなくてもいいと言ったのにきっと相手は忘れられない自分を責めてしまうことだろう。そんな相手は見たくもないし、自分のその言葉が相手を追い詰めてしまうだなんて考えたくもない。「ありがとう…」呟いて笑ってはやはり涙がとめどなく溢れる。自分以上に相手は辛い訳で話を聞くことだって気力と精神をすり減らすことを自分は知っている。「好きだから傷付けたくないし、好きだから守りたい…我儘だよね、オレって…」切なげに言っては自然と相手を抱き締める腕に力が入る。もう失う物は無かったのに相手という大切な存在が出来て守るべきもの、失いたくないものを手に入れた。命に代えても、そう思える相手にやっと出会えた。こんな気持ちは初めてでだからこそ不安になってしまうことが多くある。自分は弱いから、そんな括りにしたくはないが結局はそうなわけで。「此方こそ…好きでいてくれてありがとう…」と
笑の涙、きれいだね。大好きだよ
(不安と辛さからくるものよりも自分を思ってくれて感情が溢れてしまっていると思ってしまうあたり自分は完全に相手に溺れている。自分と相手はどこか違うがとても似ていて、お互いの弱い部分も知っているからこそ不安になり、愛し合えて。溢れる涙が愛おしくて、自分もこんなに綺麗に泣けたらなんて思えば、彼の頭に手を回し髪を掻き上げ引き寄せて、光の雫を啄むように口付ける。そして何度も綺麗と囁いて。「俺のことそんなに思ってくれてるなら、それは我儘じゃないよ。…たとえそれを我儘と呼んでも俺は笑の我儘なら嬉しいしいくらだって聞きたい」(頼ってほしいと言われてほんの少し救われた気がして、変わりに生み出される感情は過去、彼を傷付けた者たちへの憎悪。過去の相手も愛したいあまり忘れかけていた、相手を闇へ引きずり落とした罪人たちへの憎しみ。今、伸う伸うと生き、同じ空気を吸っていると思っただけで吐き気がする。人の苦痛と不幸を願うなんてそんな下種な人間に成り下がって相手を想いたくない。醜い感情は彼を過去に縛り付け、自分自身、罪人以下に落ちぶれるのと同じことなのに、彼を苦しめた者たちへの厭悪と憎悪は捨てきれず殺意すら沸いてくる。こうなることは彼も望んでいないはずなのに黒くどろどろしたものが自分を支配して瞳から光が失われ奥底に眠っていた狂気が牙を剥くような感覚。自分の周りだけ酷く冷たい空気にさらされていくような気さえして。憎悪にまみれた自分がまっすぐな愛を向けてくれる相手を汚したくない、それならば一層のこと綺麗なままで。そう自分じゃない己が思った瞬間、相手の体を優しく押し倒し唇を奪って一度身を離しては虚ろな瞳で彼を捉え、彼の細い首に力こそ入れないがふわりと手をかけて「笑…愛してる」以前の無表情で無機質な声色で告げれば気持ちに反して首にかける震える手に僅かに力がこもっていき
泣いてる所はあんまり見せたくないんだけどね…
(困ったように笑いながら言っては泣けるようになったのは相手のおかげだと今更ながら感謝して。幼少期は泣くことが出来たんだろうけど、歳を重ねるたびに泣けなくなっていった。泣いたって何も変わらないことを幼いながらに知ったから。相手だってそうなのではないだろうか。彼女が自傷行為をする度に泣いて止めたのはそれ程までに愛していたからで、それ以外で自分の想いを伝える術が見つからなかったんじゃないかと。「でも我侭だと思ったら言ってね?あんまり啓に負担架けたくないしさ」そう述べると相手の異変に気付く。なんだろう、これは。瞳にあったはずの光が失われていくのをしっかりと自分の目で見てしまった。戻ってしまう、以前の相手に、誰とも心を通わせず、一人で彼女への後悔と闇を背負ったままの相手に。何かを言いたいのに言葉が出ない、今の自分が何を言ったところで相手は変わるのか、そんな疑問が沸いてしまう、助けたいのに。触れる唇は優しく温かいのに相手はいつもと違う。首にかけられた温かい手の温度に溺れそうになりながら、どうせなら相手の手が驚くほど冷たくてそんな優しい声で愛してるだなんて言ってくれなければ良かったのにと考えて。自分は殺される、自分の知っている愛しい相手の手で。一度、あのクラスメートに殺される程身体を玩ばれたことがあるが、それよりは何倍もマシだと思ったのはきっと目の前で自分の首を絞めるのが相手だから。「…愛してる」掠れた声でそう呟いては相手の手に自分の手を重ね、これから迎える自分の死を思って、ただ笑う、それと同時に自分の頬に伝う涙はなんだろう。
(頬を伝う涙を見て、我に返る。首にかけた手を離し相手から遠ざかるように身を勢いよく退いて。こんな涙を流させたくなかった。今、自分は何をしたのか、頭の中が真っ白になり、首を絞められていた相手が苦しいはずなのに急激に息苦しくなり全身が震えるのが分かった。「違うんだ…違う」絞り出した声は酷く掠れ、何し対する否定かも分からずに首を横に振る。愚かな自分を今すぐ殺してやりたくて、相手の首の冷たい感触がまだ残るその腕に爪を食い込ませるように強く握る。これから先ずっと彼との幸せな時間を願っていたはずなのに自ら彼を裏切り最悪なかたちで終わらせようとしていたなんて。傷付けないと決めたはずが自ら彼に一生消えない傷を負わせ、取り返しのつかない過ちをしたと悟ったとき喪失感が支配して。それでもなぜ、首を絞められても“愛してる”と言ってくれるのか…己の狂気に触れて拒絶して当たり前の恐怖を感じたはずの相手が、まるで己を受け入れるような愛の言葉を返すなんて、「駄目だよ…。もうこれ以上は」傷付けたくない。心のどこかでいつかこうなるんじゃないかと分かっていてだから人を遠ざけて来たはずなのに。謝っても許されることではないが今すぐにでも彼を抱きしめて愛してると言いたいのにそんな資格が自分にあるはずがなく、爪を更に肉に食い込ませ血を滲ませて「ごめんなさい…」とそれでもなお不遜に謝罪の言葉を述べる自分が憎々しくて
(急にたくさんの空気を吸い過ぎたせいか、何度か咳き込んでは震えている相手に近寄り、そっとその手を握る。自分自身の腕に爪を立てる相手を落ち着かせようと、「大丈夫。」と。きっと首を絞める相手だって怖かったはずで、酸素を求めて僅かに震える自分の身体より相手のほうが辛く、苦しい思いに駆られているんだろう。「啓、大丈夫。オレは生きてるよ」謝る相手に何を伝えたらいいかわからずに回転の悪い頭を振り絞って出た言葉はそんなもの。僅かに笑みを作りながらそれでもなお、愛してるよ、なんて何度も言ってみせる。上辺だけではなく、本当に愛しているのだ。これが相手の愛の形なら受け入れる、相手の憎悪の感情がそうさせたのなら自分にだって責任はるはずだ。血が滲む相手の腕に食い込んだ爪を優しく除けては「痛いから止めよう?ほら、見せて」と言って腕を引き、ポケットから絆創膏を出しては貼って。一応保険医だから絆創膏は持ち歩いてる、まさかこんなときに役にたつとは思わなかったが。何を言えばいいんだろう、わからなくて今はただ、相手の手を握ることしか出来ない自分に腹が立つが「…何もいえなくてごめんね、啓。愛してるよ。」とだけ述べては笑ってみせ
(相手の咳き込む姿に自分どれほど残酷なことをしたのかを受け止めて息が詰まるが、相手に手を握られ、大丈夫、生きていると言われただけで呼吸が楽になる感覚がするがどうしても相手の優しさから作られる笑顔を見ることができず首を振り拒絶してしまう。相手は思い出したくない過去の闇に踏み入れてまで自分を頼ってくれて、今相手の不安を取り除くべきは自分のはずなのに逆の立場になっているこの不甲斐なさに唇を噛み締める。でもこれ以上は自分を追い込んだところで何の解決にもならなくて、相手が傷付いた時、同じように自分も苦しくて依存し合うのはもう痛いほどに、喜々とするほど身に染みているはずで。手当てされる腕をどこか人事のように眺めながら握られる冷たい感触だけが不思議とクリアに感じてもっと、もっとその冷たい体温を感じたいと貪欲になって「笑…抱きしめてもいい?」平坦な口調にならないように僅かに語尾を上げさせて言えば、相手の答えを待たずにまだ僅かに震える体で抱き寄せて「もうおれを受け入れないで…笑を失いたくない。でも、俺に笑をずっと愛させてほしい。愛してるって言わせて」次、またいつ気が触れるか分からない不安定な己は拒否して欲しい。いつか殴ってくれてと言ったように本当に殴り飛ばして欲しい。その上で自分に愛を奏でさせて欲しいなんて、これこそ本当の我儘を言えば抱きしめる腕に少し力を込めて
(自分はきっと何処かの薇が壊れている。首を絞められても怖くなかったのは相手だからだが、死に対しては何の恐怖もなく自分が今生きてるの呼吸という物を繰り返しているからであってそれを止めてしまえばいつでも自分という存在を消し去ることは出来る。それでもこの世界に留まりたいと思ったのは相手が居るからで、その相手を自分が拒絶するなんて無理な話。しかし相手が首を振るのは自分のこと拒絶しているのだろうか、だとしたら自分がこんな残酷な世界に留まっている意味はなんだろう。それでも相手を信じたくて抱き締められればしっかりと抱き返した。「オレは啓を拒絶しない…オレには啓しか居ないんだよ…だからオレのこと愛してよ、オレだって啓のこと愛してるんだから…」と述べながら再び涙が零れそうになるのをぐっと堪える。失いたくない、傷付けたくない、それなのにふとした瞬間に蘇る憎悪で自分を傷付けるなら構わない。自分なんていくら傷付いてもいい、相手さえ居れば。他には何も必要じゃない、肩書きも地位も権力でさえ、相手の目の前には足元にも及ばない存在。強く抱きしめられると心地良い気持ちになって「ねぇ、オレは啓の為に存在してるんだよ。啓が居るから生きていける。だからいくら傷付けてもいいよ。でも、啓が啓自身を傷付けるのは止めてね」相手の為なら何だって出来る、都合がいい人形でいい。それでも相手が必要としてくれるなら、自分は幾らでも壊れることが出来る
(相手のことを拒絶しているはずがない、狂気に満ちた自分を受け止めてくれるのは相手だけでそれは生死を共にしたいと思うほどで、それでも「拒んでほしいんだ。笑を傷付けるおれなんて俺じゃないから…。でも、ありがとう。俺の全てを受け止めてくれて。そんなの笑にしかできない。…ねえ笑、絶対あり得ないことだけど笑がこの世からいなくなったら俺も後を追ってもいい?」自分がどれほど残酷で狂気に満ちた言葉を発しているのか正直よく分からなかった。ただ自分が相手を殺めたら…とはどうしても口に出来ずに。相手のいない世界など自分も存在しないのと同じ。それくらい依存して弱くなってしまったのに心地良く感じるのは異常だが、今更で。「ありがとう。でも気持ちだけで充分だから…笑を傷付けるなんて耐えられない。自分を殺したくなる。だから笑を傷付けることがあったら止めてほしい。笑も…笑をまっすぐ愛する俺も失いたくないんだ」相手の言葉はなによりも嬉しい、でも自分は強情で譲れないものは譲れなくて、以前の言葉を繰り返し止めて欲しい、と懇願して。また、相手の強すぎる愛情と自分を受け入れてくれる器の広さが愛おしいしくそれに応えたいのに、今はそれが相手を失うことに繋がりそうで恐怖に感じてしまい
(どんな相手でも受け止めたい、そう思っていたがそれを相手が望まないのならただのエゴになんてなりたくなりし、「…わかった、でも啓のことを拒絶なんてしないからね?啓が自分で歯止め効かなくなったら止めるだけだから…うん、一緒に来てくれたら嬉しいな」例えばの話だが、一度誰かの死と直面したことのある自分達がすると何だか現実味があるように聞こえる。死は決して軽くない。だが身近にあって、離れている訳ではなく、いつも隣り合わせにある。相手が来てくれるというのなら、死ぬことなんて怖くない。元から生きることに執着などなかったのだから。狂気に満ちていても愛されているのならそれでいい、自分も狂ってるのだから。依存は怖くなんてない、自分を必要とする相手が居る、怖いことなんて何もない。「オレも啓を失うのは怖い。可笑しいでしょ、失うものなんてオレには無かったはずなのに、今はこんなに守りたいって感じてる。…好きになるって苦しいんだね…」苦笑しながら言っては相手のことをただ抱き締めながら自分の存在を確認するように相手に触れて。久しぶりに自分が地に足がついていない錯覚に陥ってしまった。それでも相手に触れることでこの存在を確かめることが出来る。「啓、啓…オレここに居るよね。啓も居るでしょ?」なんて幼子のように問いかけて
(相手の懐の深さと同調性に心の蟠りがほどけていくようだった。今までの連中は、彼女の後を追って未遂をしようとした自分を責めて、制そうとし時間が解決してくれるとしか言わなかった。確かに一理あるし正論なのかもしれないが、そんなもの自分たちには関係なくて。そして相手は後を追うことを許してくれる。そんな人が他にいるとは思えなくて何て幸せなんだろうと思いこの場に似つかわしくない微笑みが零れて。「俺が自分を見失っても笑が呼んでくれればきっと大丈夫。…俺たち死んでも一緒だね」自我を失うなんて二度と御免だが確証は出来なが相手が自分を求めてくれれば何でも解決できる気がして。人の後と追うのは弱い人間のすることかもしれないが、醜い自分でも願わくば死後も彼と共にありたいと願う。できれば老衰か、いつか朝目覚めようとしたら2人で亡くなっていたなんて夢みたいなことを願ったりして。「ごめんね、笑。甘えさせてくれてありがとう。笑の笑顔で…言葉で救われた。俺が守って引っ張っていかなきゃいけないのに。…一応人生の先輩なんだけどな。笑に教わることばかりだよ」まだ体が震えている気がしたがそれを押さえ込むと笑みを作ってみせるがぎこちなく苦笑になって。「ちゃんと居るよ。笑も俺も…愛し合ってる」相手の気持ちも同じはずだと決めつけのように言ってしまうが自信はあって、震える指先で相手の頬に手を伸ばし先程の冷たい口付けではなく、相手を求め愛情を込めて唇を奪うと、何かが吹っ切れたように激しく相手を求め何度も口付けするが相手を労るように見つめ、ごめんねとありがとう、そして愛してるの接吻を重ねていき
(自分は死にちゃんと向き合ったことのない頭の悪い連中とは違う。人の死をちゃんと知ってるし、そのやるせなさや呆気なさを知っている。自分は兄の死だったから特に思うこともなくただ“笑くんだったっけ?泣きもしなければ笑いもしないのね”なんて親戚の叔母さんに言われてた記憶は残ってる。兄が白い煙と白骨になる寸前まで棺にしがみついて泣き叫ぶ母の姿も、それなりに覚えてはいるがぼんやりとしている。もし自分が死んでしまったら相手はあの時の母のようにするのだろうか、それとも受け入れられずに呆然としているのだろうか。どちらにしても後々相手もきてくれるのならそんなことは気にならない。「何回でも呼ぶよ、この手で何回でも引っ張り上げる。オレの手冷たいけど…うん、ずっと一緒だよ」まだ死ぬ訳ではないが、きっとこの約束を相手は守ってくれるはずだ。もし相手が死んでしまったら自分も相手を追いかけよう。「守り合うことって大切だと思うよ?今日はたまたまオレだっただけで、明日はもしかしたら啓かもしれない。じゃあ色々教えてもらおうかな、啓先輩に」無理して笑わなくていいのに、そう言ってあげられたら相手も自分も楽になるんだろうけど今はそのぎこちない笑いでさえ救われる気がするようで。「…愛してるよ、啓。ずっと啓だけ愛してる…」すがるように、泣きそうな声で言うと相手の口付けに幸せを感じて。鼻から抜けるような声を洩らしてしまえば何かが切れるような感覚、相手の首に腕を回してはもう離れたくないというように冷たい腕が僅かに震え
(相手の死に顔なんて想像もしたくないが、万が一相手に先に死なれたら遺体を誰も知らない場所に運んで誰にも気付かれることなくそこで静かに死を共にしたいと、よくきく小説のような安息の死を望んでいて。多分、涙は流れても泣き崩れることはない気がする。それはあくまで今の感情がそう思わせているだけで、明日には子どものように泣き腫らすと思うかもしれない。何にせよ相手の死は自分がこの世に存在することの意味を失うということで。後戻りできないくらい執着してしまうのは今まで感情を抑制いた反動かもしれないが相手が特別なことには変わりなく「その手が良い。俺は笑のこの手が大好きだから」相手の冷たい手を包み込むように撫でれば手の甲に唇を当て「…嫌なときに大人なんだから。…笑にも色々教えて貰うことありそうだけど」相手の言葉はごもっともであり、互いに助け合い守り合ってこそ存在できるのであって、先に言われてしまえば苦笑を零すしかなくいつのまにか震えもなくなっていて。次ぐ言葉は相手が進んでやったわけではないし、思い出したくないことかもしれないが、事実上の問題で経験があるのは相手のため言葉を濁しながら羞恥心もあり小声で呟いてみて。「俺も愛してるよ…ごめんね?今度は笑が甘えて欲しい」僅かに震える冷たい腕にはまだ自傷の傷跡が残っていて、手首を掴み口元に持ってくるとその痕を舌先でなぞり、徐々に手の甲から指の間へと艶めかしく通わせて、相手の全てを愛していると
(誰に看取れられなくてもいい、相手さえ居てくれればそれでいい。相手と出会う前は自分が死んでも変わらずに世界は回り続ける、まるで最初から自分なんて存在していなかったかのように日常が進んで行くんだと思ってた。しかし今は違くて、自分の死を感じて何かを思ってくれる相手が居る。他人からしてみればどうでもいいことのように思えるこの会話にこそ意味があって、一つ一つの言葉、表情が何よりも大切で。先に死を迎えるのはどちらかわからないが、相手だとしたら月並みな言葉だけど狂ったように泣くだろう。何処かに相手の幽体が居るのなら早く体に戻さないと、なんて考えて居るはずもない相手を探しては寂寞な感情に襲われてビニールテープを首に巻くか舌を噛み切るはずだ。「死んでるみたいだよね、でもちゃんと生きてるんだよ」甘い言葉を零す相手に苦笑しながらそう述べると以前生徒にそんなこと言われたな、なんて自分が口にした言葉を心の中で復唱してしまい。「だから、大人なんだってば…そうだね、色々教えないとどっちも痛い思いするからね?」相手の表情と小声になったのを見た限りあぁ、あのことか、と当たりを付けてはそう続けて。何から教えればいいかわからないが、相手が困ったら聞いてくるだろうという独断をして。「…愛してる…」このムードに流され自然と妖艶な笑みを見せては舌が伝う手を相手の後頭部に回して自分の方へ引き寄せると口付けて。未だに慣れない口付けに次はどうしたらいいんだろう、なんて考えてしまう自分がいて
笑がそう思ったの、それとも誰かに言われたの…
(苦笑混じりに言われた“死んでるみたい”は聞き捨てならず、なぜそんなことを急に言い出すんだと不安になる。今までも彼に対して何度も冷たい手が好きだと言ってきたがそれだけでは癒えない何かが相手の心に引っかかっているのだろうか。彼や他人がなんと言おうと自分が愛でてやれるが、彼自身で思うのと他人が言うのでは相手の気持ちが変わってくるわけで。自分は他人が相手を傷付けることに弱いのか再び無機質な口調になるが自我ははっきりしているため相手の手を慈しむように撫でて。「だって…いや、うんごめん。
…どっちも。どっちがどっちだろう…?」仕草が子どもぽいと以前も言ったことを口にしかけるが相手は童顔であることを他人から何か言われているかもしれないと考え、嫌なことを思い出させてはいけないと口を閉じ、次ぐ会話は所謂人間くさい本能を刺激する話題で接吻はよくするがそれ以上のことはどうも苦手で羞恥からどもってしまい正直既に困惑気味で。先程まで生死について話していたことを考えるととんだ呆れ話だが。妖艶な笑みを向けてくる相手は本当に綺麗で一瞬目を奪われて、あっという間に唇が重なる。まだどこかぎこちないその口付けをリードするように舌先で相手の口を少し開けさせ口内に進入させるとねっとりと相手の舌を絡めわざと欲情を刺激するような音を立てれば、逃げられないように相手の後頭部に手を回して髪を掻き上げ、一度糸を僅かに引かせ離して。しかし立て続けに角度を変えて深い口付けをすれば今度は相手に委ねてみて
生徒に言われたんだよね、軽い冗談で言ったんだろうけど笑えないって思っちゃった。
(正直、生徒だけではなかったが言ってしまえば相手がまた自分を見失ってしまうのではないかと思い上記。実際生徒にも言われたことがある。いつだか保健室に来た時治療して居たら“うわ、先生手ぇ冷た。死んでるみたい”と言われたことがあってその生徒のことをネクロフィリアか何かかと思った気がする。でなければ人の事を死んでるみたいだなんてそうそう言わないだろう。あとは母親に言われただけの話で、幼少期に母と手を繋ぎたくて母の手に触れると“死んでるみたい”と吐き捨てるように言われ手を離されたことがあって。だからこそ今になって手を繋ぐことを求めてしまうのだが、母親の話はどうでもいいので別段様子が変わった訳でもなく相手の手を握って。「言いかけって狡くない?…だから、掘る方も掘られる方も痛いんだよってことだよ」保険医だからか、或いは経験者だからかわからないがその手の話はやけに詳しい。高校の保健授業に年に一度だけ招かれ話したのは性感染症の話だった気がする。そんなことを毎年毎年やっているうちに知識がついたのは嘘ではない。ただ前者の話も十分納得出来る訳で。聴覚を犯しているような水音にクラクラとしそうになる。糸が張るのを目で捉えてしまえば雰囲気に心が飲み込まれていきそうで僅かな理性を最大限に使って飲み込まれそうな心を確立させ。角度を変えて口付けされると何だか自分に任せている様子、震える舌を相手の口内に入れ、舌を絡め取り口内を侵していって。緊張と恥ずかしさで整理的な涙が薄く膜をり、僅かに赤い頬と幼い顔が妙なギャップを作っている
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