写し人 2014-05-06 16:31:36 |
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「速報をお伝えいたします。」
まぶしい光を放つテレビの向こうからアナウンサーの声が聞こえる。
「今日未明に乗用車に乗った2名が対向車線から来た車と─」
肩ががたがたと震える。
父さん・・・母さん・・・
少年の遠い脳裏にはすべての元凶となったあの出来事が繊細に思い出されていた。
「陽太!早く起きなさい!」
シンとした寝室に母親の声が響き渡る。
「・・・」
ベッドの上でもぞもぞしているフリをするが、彼女は一向に部屋から出て行こうとしない。
それどころか気持ちよく眠っていた少年の布団を思いっきり引っぺがした。
「何すんだよ!!」
ベッドから転げ落ちた少年は母親に向かってどなりつける。
「もう中2なんだから一人で起きなさいよ」
わざわざうぜぇーんだよ。
声には出さないが、陽太は思いっきり叫ぶ。
ドスドスとわざと音を立てながら、部屋を出る。
「陽太。」
父親の声がした。
「今回の中間テストでの父さんとの約束は何だったか覚えているか。」
陽太は少し目を伏せた。
「あぁ。5教科すべてにおいて満点とればいいんだろ。楽勝だよ。そんなの」
少しでも、彼らと一緒に過ごす時間を削りたい陽太は起床から20分ほどで家を出た。
ドアを開けて
「行ってきます。」
と言おうか迷った。
しかし、言わないことにした。
そんな気分ではない。
それに、母親が「いってらっしゃい」とかいうだろう。
そう思っていた。
しかし、
「・・・」
期待した自分がバカだった。
無言で学校へと向かう。
あいつらは僕の成績にしか目がない。
入江 陽太(いりえ ひなた)。14歳は現在中学2年生。
両親のことが大嫌いだった。
小さい時から勉強勉強といわれ、何の愛情ももらって来なかった。
もちろんそれだけではない。
彼らは、あいつらは入江 陽太という人間。自分の息子には興味ない。
彼の頭脳だけがすべてだった。
陽太は何度も何度も家出や自殺。
彼らを殺すことを考えた。
しかし、できなかった。
それほどの勇気がなかったからなのかもしれない。
逆に、殺したいほど嫌いではないのかもしれない。
彼にはその答えが見いだせないでいた。
15分ほどで学校に着くと、しばらく席に座りボーっとしていた。
「おい、陽太。」
いつもの声がした。
「ちゃんと持ってきたか?」
5~6人ほどの男子が陽太の周りに集まる。
「あ、あぁ・・・」
自分でも情けないと思っていた。
しかし、自分ではどうすることもできなかった。
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