陽。悠。 2014-04-24 14:34:17 |
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「ね、聞いてる?」耳元で甲高い声がし俺は我に返った。
「あ、悪い。ちょっと...考え事してた」
[始まり]
俺には、彼女が居る。別にすげぇ好きって訳でも、嫌いって訳でもないけど...ノリで付き合うようになって半年くらい。でも、そろそろそんな関係にも飽きていた、なんか、詰まんねぇ...そんな事を考えていた矢先に、
突然コクられた。
いや、正直焦った。 なんでって?
相手が自分が教える生徒、しかも...男だったから。
その生徒は、普段は大人しくて控えめ、顔も何処か中性的で、可愛らしい普通な生徒。
そんな生徒が、真剣な顔で
「先生、僕...先生が好きです。」
だなんて、目を潤ませながら俺を見つめて言いやがる。
もちろん、俺をからかってんのかとも思ったが、どうやらそれも違うらしい。
俺も、最近飽きて来てたから、試しに此奴と遊んで見ようと、悪戯心に火が付き、心良く了承した。
とは言うものの、この隣の女はどうすっかな-と考えている所に、先程の、甲高い声の場面に戻るわけだ...。
「あのさ、そろそろ...別れねぇ? 正直お前と居ても詰まんね-。つか、飽きた。」
「え、? な、何言ってんの? 本気?」
俺の言葉に目を見開き問い掛ける、当然の反応だな。まぁ、別に嫌いじゃねぇけど好きでもねぇし、
此奴を振るのは、然程難しくなかった。
まぁ、大体見当は付くだろうが、平手打ちをくらい。
割りとあっさりと別れた。
さぁて...この代償は、彼奴に償って貰わなきゃな-。
可愛い、可愛い、生徒くん。
次の日、
俺はその生徒を呼び出した。
名前は藤本 颯太。 改めて見ると男子にしては色白で髪の毛もサラサラ。男だって事以外では、諸に俺のタイプだった。
「なぁ、藤本...俺の事好きなんだよな?」
「っ...は、はい。好きです。」
「何処が好きか言ってみ?」
「えと、顔と声と...後は何かわかんないけど、ずっと、ずっと好きだったんです。」
「ずっと? いつから?」
「兄貴の家庭訪問に来た時だから、3年前から」
この言葉を聞いた後、俺は少し後悔した。
そんなに想いを募らせていた奴を、遊び半分で 此奴の告白を受けてしまった事を。
しかし、俺も男だ少し本気で向き合ってみますか-。
なんて、らしくないことを思わせる。
此奴の魅力って...何なんだよ!!
調子くるうわ。
「藤本、ちょっとこっち来い...」
己の近くに呼ぶと、彼の腕をそっと掴み抱き寄せてみた。その体は男の癖に何処か華奢で、緊張しているのか微かに震え、強張って居る。
「怖いか?」
優しい声色で問い掛けると
「......う、うん。違う、嬉しい。僕、ずっとこうして欲しかったんだ。先生に。嬉しい、好き...先生」
俺は腕の中で微かに震えながらも、正直に一生懸命に気持ちを伝える此奴がやけに可愛く、愛おしく思えた。
純粋で汚れのない此奴を俺の色に染めてしまいたい。
そう思うと、少し力強く抱き締め。
「なら、お前はもう俺の者な...」
と優しくそっと唇を重ねた。
多分、此奴にとってのファーストキス。
俺にとっても男としたファーストだった。
「..なぁ、結婚式ていつだっけ?」
日曜日の朝、好きな人の腕の中で目を覚ますこの瞬間が何よりも好きだ。同じベッドで向かい合って額を合わせる。それだけで幸せだったのに、いつから欲深くなったのか。
「あ-、再来週かな?」
へらりと笑う顔は何時もと同じで、やっぱり好きなんだと思い知らされた。もうこうしてこの腕の中で目覚めることも無くなるのかと思えば、目尻が熱くなってきた。
「空、あのね..」
「いいよ、聞きたくない。今までありがとうな」
話を切り出す相手の言葉を遮り腕からすり抜けてベッドを出る。これ以上一緒にいたら泣いてしまいそうだ。そんなみっともない姿を見せたくはない。
"恋人"と、呼んでいいのかさえ曖昧な関係だった。肉体関係はなかった。ただ名前を呼び合ってキスして抱き合うだけで幸せだと思っていたから。だけどわかってしまった、己はどうしようもないくらい相手のことが好きになっていたのだ。
「..姉さんを、よろしくな。義兄さん」
後ろからの声に振り向くこともなく遥の家を出る。
今から距離を置かないと辛くなるだけだ。と言っても、諦めれることはないから、これから苦しみ続けるのか。
自嘲気味に笑っては家路を急いだ。
再来週は、好きな人と姉さんの結婚式だ。
「...るか、遥!」
「っえ? あ、ごめん、何?」
「もう、ずっと上の空じゃない」
美咲さんの言葉に苦笑して誤魔化すことしかできない。あの日から空とは会ってない、正確に言えば避けられてる。それもそうだ、あの日最後にみた空の顔は泣きそうだった。
俺は空が好きだった、というか現在進行形で愛してる。それと同時に、彼奴には"普通の幸せ"をつかんでほしい。普通が何なのかと言われれば難しいが、俺と空は男同士。その分失うものも多いと思ったら、俺は空に何かを失わせることが出来なかった。
「ね、やっぱドレスはこれ」
純白のドレスに身を包み、嬉しそうに笑う美咲さんはとても綺麗だ。だが、その中にも空を探してしまう。
『私と空は、笑った顔がそっくりなの』
かつての美咲さんの言葉を思い出し納得した。俺が"好きだ"と言えば、決まって嬉しそうに笑っていた。どうして手放したんだろう。
「...ん、とても綺麗だよ」
ごめんね美咲さん、こんな俺を許して。
勿論美咲さんのことは嫌いじゃない。でも、少しでも空のそばにいたいんだ、貴女のその気持ちを利用してまで。
ドレス姿の美咲さんを抱き締める。
ーーごめん、愛してるよ。空
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