匿名 2014-04-22 16:14:40 |
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退屈、それは平和の証明である。
祖母から来た手紙をぼんやりとした頭で読みながらそんな事を考えた。
俺は眉間に軽くシワを寄せると同時に溜め息をついて一言呟く。
「…いい加減にしてくんねぇかなあ…。」
朝7時27分現在、玄関外のポスト前。げんなりとしたまま朝を迎える俺であった。
序章 企み
ザワザワと人の話す声が騒がしい、今日の授業は担当講師に急な出張が入ったという事で自習になっている。授業を受けなくても1回分受けた事になるというラッキーチャンスを誰が逃したいと思うだろうか。だが結局は皆自習?勉強?知った事か!とばかりに私情な話しに花を咲かせまくっていた。
俺は端の机に腰を下ろして、そんな奴等をぼやーっと輪郭だけで捉えながら、嫌気の混じる溜め息を一つ吐いた。
「なあ、そんな態度とるなって!ホンット、ほんっとに頼むからさ!」
俺の右肩を掴んでガタガタと揺さぶりながら、溜め息の意味を勘違いした幼馴染が涙の訴えを呼びかける。俺は黒板の方を向いたまま今日の昼飯の事を薄く考えていた。
「な!聞いてる!?頼むからレポート写さして!!俺もう期限日ヤバイんだって!!」
今日はパンにしよう。視線を窓に移す。
「おい!?ちょっと陽介さん!!?」
ガタガタからバシバシに代わる俺の右肩への負荷。チッと舌打ちを一つ零して幼馴染の方を向く。
「あのなあ、俺前にも言ったけどレポートなんざ早めに取り掛かってりゃ終わるモンなんだって。なのに何お前の体たらく、学習能力何処に忘れてきたんだよ。死んだ母さんが泣くぜ?」
「別にお前の中でまだ絶賛生存中の俺の母さんが生きてても生きて無くてもどっちでも良いけど早くレポートくれよ」
無言でにこりと笑んでやると彼は机に突っ伏した。これは一度痛い目に遭った方が良いという俺の愛情である。
そんなやり取りの途中、俺の左肩をポンと叩く感触があった。誰だ、とふと見上げるとにこっと可愛らしい笑顔で微笑む女が居た。
「ようちゃん!ハム公!元気?」
「美鈴、あ、この右隣の奴は今丁度天に帰った。祈ってやってくれ。」
言葉を返すと美鈴は俺の左隣の席に腰掛けた。美鈴は俺とこの右隣との幼馴染である。小1からの付き合いで、昔から笑顔の可愛い奴だった。控えめであるけれど弱くはない。むしろ強い。男としてのプライドが霞む。
「うふふ、ハム公が可哀想だよ。」
くす、と控えめに笑う彼女の言葉になんだか慈悲心が湧き、突っ伏したままの幼馴染、うん可哀想だな、翔太に向かって声を掛ける。
因みに彼女の翔太へのあだ名『ハム公』と言うのは小4の頃彼女が買っていたゴールデンハムスターの毛色が、翔太の髪色に似ていたというイジメの延長戦である。
「翔太、しょうがないから美鈴に免じてレポートを写させてやる。大丈夫、冗談、違う。」
バッグからレポートを出して、にこ、と笑顔を向けてあくどい心がない事を示す。
顔を上げた翔太は感情が消えた顔をしており、紙の束を受け取ると、「お前ら悪魔みてぇだな…」とボソリと呟いていた。聞こえなかった事にしてやる。
「あ、チャイム。」
いつの間にか時間が経過していたようで、聞きなれたメロディが鳴り始めた。美鈴が声を出す。周りの奴等もガタガタと席につきながら、けれど話す事は止めぬままペンを出して附表を用意する。俺達も筆箱を用意して、今日此処に来た事を示す日付やらなんやらを書いて提出するため附表を書く。
「……はあ。」
性格上全く似合わない事をコイツ等にせねば、と、霧の向こうを確かめるような少しばかりの不安を背負って溜め息を吐いた。
序章 企み
「う、あー駄目だ。何だコレ、ん、ん?なあコレ、意味がわからな……は?え?何コイツ二股してるよ、ジョン二股してるよ。」
「ええい、クソ煩わしい。そこは別にどうでもいい。というかお前そもそも動詞とか理解してんのか」
「いや、そこは分かるわ流石に。つかもっと優しく教えてくんね…?」
「ふふ、ようちゃん、私にも教えて?」
学校からの帰りに図書館で勉強会をやろう、という美鈴の提案に乗り、今図書館の一番端にある丸いタイプのテーブルに座って、コソコソと小声で英語の特訓中である。
美鈴と翔太は英語があまり得意ではない。後回しに、後回しに、を繰り返して苦しくなってしまうタイプなのだ。(主に翔太が。)
なのでいつも試験前などは専ら俺の元に甘えて擦り寄ってくるというご都合な猫&犬なのだが、それでも一応情が無い訳ではないので、俺の方で猛勉強をして二人に教えて…という、サイクルが続いていたりする。
あれ?何かおかしくね?という事に気づいたのは割と最近だという事が非常に悔しい。
しかし今回翔太も美鈴も脅威的な粘りで戦っているので、何とか助けになってやりたい所なのだが。中々努力を反映しない結果が虚しい。というかもう本気で心配になって来た。
『紅茶とお菓子で歓迎するわ。』
ピク、と要点を纏めていたペンを持つ手が止まった。手紙の最後の一文がふと脳裏をよぎったのだ。
(そういやばあちゃん、英語が得意だったな。)
これを切り口にしてみようか。
(でもコイツ等は…)
ふ、と無意識に頭を横に振った。
あの時のあのばあちゃんの悪ふざけで、もう二人は俺とつるまなくなるだろうと覚悟した
でも二人は優しかったから、ボロボロになりながら俺を許した。
でも、俺は
俺は
「ようちゃん」
美鈴の呼びかけにハッと顔を上げると、翔太と美鈴が二人で俺を見つめる姿があった。
(…ヤバイ)
この、目。
「あ、確かこのフレーズの要点だったよな?これはパズルみたいなモンだから、」
「ちょっと待て、お前何隠してんだよ。」
翔太が俺から参考書を取り上げて睨みつける。
(………………)
冷や汗が額に伝う。
こんな時だけ敏感なのは、猫と犬の成せる技なのだろうか。
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