ぬし。 2014-01-16 23:06:21 |
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…さ、む……寂し…い…。
(柔らかな布団に心地良く誘われる眠気と酷く安らかな思いの中に先程話をしていた時までは傍にいたはずの彼が居ない、という一抹の不安だけが浮き彫りになったようにまざまざと感じられ次第に悲しみを帯びたような歪んだ表情へと変わっていけばそんな中聞こえた相手の声に眠たいのを堪えうっすらと瞼を持ち上げ。寝起き独特の僅かに涙の膜がはったようなぼやけた視界の中体は動かさないまま視線だけを動かして相手を探そうとするものの不明瞭な視界では相手がうまく認識出来ず、髪に触れた相手の手に自分の手を重ねるようにして弱々しい力で微かに握るようにすると表情を取り繕うこともなく素直に寂しさを表しながら掠れたようなか細い声で囁いて。)
智尋…?
(目を開ける相手を見れば触れていた事で起こしてしまっただろうかと咄嗟に手を離そうとした刹那、重ねられた上で弱々しく握られれば半ば驚いたように相手を見遣り。その表情は酷く寂しげなもので、発せられる掠れたような声を何とか聞き取れば眉を下げて心配そうに相手を見詰め。もっと近くに居てあげなければ、と相手の手を軽く握ると徐に上体を倒し覆い被さるような姿勢になり、片手を相手の頬に添えゆっくりと額を合わせて。そのまま目を閉じると「大丈夫、俺が近くに居るから」と言い聞かせるような穏やかな口調で告げ、目を開けると額を離すも至近距離のまま相手を見詰めると笑みを浮かべて髪に指を通し)
…うそつき。
(覚醒するかしないか、眠りとの微妙な境界線をさ迷う中漸く感じ取れた相手が自分をあやすように囁き掛けてくれているのが分かり髪に触れる相手の手に微かに頭を動かし擦り寄るような仕草を見せると寂しげな雰囲気を仄かに残したままふっと口許を緩めて笑み、呟きを漏らして。未だ至近距離にいた相手の首にゆらりと覚束ない動きで両腕を引っ掛けるとそのまま自分の方に抱き寄せるように引き、近付けた相手の頭に軽く擦り寄ってからその耳元に唇を寄せると「…お前は、いつだって遠いよ…昔、も……今だって、遠い…。」と囁き掛け。昔からずっと想ってきた身としては相手は酷く遠い存在で、彼が言う"近くに"が物理的な意味での言葉とも理解できない今その言葉はじくじくと失恋の痛みを抉るような響きにしかならず絡めた腕を解放しないまま相手の体に触れられる限りぴったりとくっつけば瞳を覆っていた涙の膜が悲しみの意をもってじわりと溜まり始めて。)
嘘じゃな…っ?!
(頭を撫でる手に擦り寄る相手の表情には笑みこそ窺えるものの寂しげなものである事には変わらず、心配そうに見詰めるも不意に呟かれた言葉に驚いたようで目を見開き。嘘も何も現に自分は今此処に居るのだから、と相手の言葉の意味がわからず取り敢えず否定を口にしようとした刹那、首に回される腕に更なる驚きから言葉を失い引き寄せられると状況を飲み込みきれず瞠目するばかりで。耳元でぽつりぽつりと聞こえる弱々しい声を聞き漏らさないよう意識を集中させればその声色から益々相手の言葉の意味は掴めないままで、返答に思い悩んでいるがその最中さえ首に回った腕に緩む気配は無く。故にその表情を見る事はできないが長年の付き合いによる直感と言うものか、想像はできる気がして無言で隣に横たわると相手の体に腕を回し)
…ごめん…夏樹、ごめん…な…ーー。
(夢か現実か判断が儘ならないレベルに混濁した意識の中でも相手の動揺は察知出来たらしい、例えどんな状態であろうと彼を困らせてしまうのは本望ではないのかそんな相手の様子に気持ちが暗くなり視線を落とすと唇をゆるゆると結んで。一層悲しみが濃くなりかけた時、不意にベッドの自分の隣が沈んだような微弱な感覚と共にそのまま体に腕をまわされたのを感じるとシャンプーの香りに紛れて微かにする彼の匂いでその腕が相手だと認識し。実際、現実ではあるのだが意識の混濁により夢であろうと認識する中でも自分に優しくしてくれる彼にきゅう、と胸が痛むと同時に息が少しだけ苦しくなる程の強い嬉しさを感じればもぞもぞと相手の体に自分自身を収めてしまうようにと身を寄せ。温かな相手の体温に包まれる幸福感に頬を緩めながらもその反面でこんなことまで彼に気を遣わせてしまっていることへの申し訳なさも感じており。顔を布団と彼の胸板に埋めたままぐもった声で何度か謝罪を口にすると相手の匂いに、体温に包まれる安心感からか次第に再び意識を眠りの方へ傾けて。)
ん、大丈夫だから。
(相手の体が以前よりも小さく感じてしまうからだろうか、両手に包んだその感触は同時に弱々しささえ感じさせ。益々密着する互いの距離に胸元辺りにある相手の髪を片手で撫でてやるも微かに聞こえる謝罪の言葉に困惑したように彼を見詰め、今日は一体どうしたのだろうかと不安になりながらも微笑を浮かべて穏やかな声色でそう返し。こんなにも相手を儚く感じた事は無く、不意に腕の中の温もりを失ってしまうような喪失感にも似た心地に抱き締める腕に力を込めて更に強く抱きすくめ、知らず不安と困惑が入り混じる表情を浮かべ。然し相手の眠気を感じ取ると考えすぎかと体の力を抜き、再度彼の髪に指を通して)
…ッ、ん…や、すみ……。
(もうあと少しでも気を抜いてしまえばすぐに眠ってしまえる、そのくらい意識を揺らがせていた中笑みを含んだような声色で呟かれた"大丈夫"の一言に再びぎりぎりながらも僅かに意識を浮上させると彼のその一言に満足したのかくすりと小さく笑みを浮かべて。髪に触れた相手の指がくすぐったいとでもいうようにもそもそと小さく身動いでから最後に最早ほぼ言葉に成りえていないおやすみ、との言葉を呟くと瞼を伏せることで瞳の表面に溜まっていた涙をぽろりと頬を伝いこぼし。頬に残した涙の筋道を拭うこともなくそのまま今度こそ完全に寝入れば安心しきったような緩んだ笑みを浮かべたまま寝息を立て始めて。)
おやすみ。
(今にも寝入ってしまいそうな相手の様子を見詰めていれば、変化が顕れたその表情には笑顔が見られ。先程とは違い安らぎさえ感じさせる笑みに安堵して密かに息を吐くと、擽ったそうな動きにも構わず髪を撫で続けては辛うじて聞き取る事ができた言葉に同様に返し。然し相手の頬に涙が伝うのを見れば意識せずとも自らの表情は不安で曇り始め、白い肌に薄く残る滴の跡をバスローブの袖で優しく拭い。離れている間に何かあったのだろうか、等と勝手に想像しては益々不安を募らせるものの、直ぐ側で聞こえる寝息に自分までも眠気を誘われると微笑んで相手を見詰め。その穏やかな表情を見ると己の思案はどうしても杞憂のような気さえしてしまい、今は考える事を止め室内の電灯を手元のスイッチで消すと相手と同様に心地良い眠気に身を委ね)
ーーん…あさ、か…ッ!?
(再度眠りについた後は夜中に目を覚ましてしまうこともなく深い眠りで体を休めることが出来、空がまだ暗い時間帯ながら何時も起きている時頃になると習慣からか自然に目が覚めてしまいまだ少しだけ眠たい目をぱちぱちと瞬かせながら小さく唸り。体に染み付いた習慣とはいえ朝早くに目覚めるのが辛くない訳ではなく少しだけ不機嫌そうに眉を寄せたまま暫くして意識をはっきりさせればそこで漸くすぐ目前に相手の体があることをはた、と認識して。目前に広がるバスローブからはだけた胸板、という光景に柄にもなく奇声を出しかけるものの両手で口を押さえ堪えると、昨晩の朧気な記憶が徐々に蘇り始め。あれは夢ではなかったのか、と後悔と混乱で表情を青くしながらも状況を把握しようと頭を働かせ始めれば、頭を軽く片手で押さえつつ体に回された相手の腕をゆっくりと外しにかかり。)
(相手と同様に熟睡ではあったものの普段の起床時間が決まっている訳でも無く、大学の始まる時間帯によって様々である為に目を覚ます気配も無く寝息を立てており。然し腕の中で相手が動き回るのを感じると微かに眉を潜めて「ん…っ」と呻き声を漏らし、程無くして瞼をゆるゆると上げ。そこに相手の姿が目に入れば直ぐに昨夜の事が頭を過り、急に意識を覚醒させると朝の挨拶も無く何処か心配そうな面持ちでその表情を見詰め。然しどうやらその心配も無用だったようで、彼の表情に昨夜のような弱々しさが見られない事に気付けば安堵した様子で頬を緩ませ「おはよー…」と眠たげな声色で告げ)
…お、はよう…。…まだ大分早いぞ、お前はまだ寝てても大丈夫なんじゃねぇか?
(昨晩の自分の失態を思い出し頭を痛めていればこちらの動きで起こしてしまったのか、小さく声を漏らす相手にびくりと肩を震わすと妙な緊張感に身を固めたまま相手の動向を窺って。昨日の今日だということもあり失態を晒した自分を見て相手に引かれてしまうのでは、と正直心配だったが眠たげながらも頬を緩ませ挨拶をしてくれる相手を見て不安が杞憂のまま終わったと分かり安堵すれば、それでも少しだけ感じる居心地の悪さから若干固い声で挨拶を返して。相手の腕から抜け出したことでベッドヘッドの部分に背中を預けるようにして上体を起こすとバスローブを軽く整え、まだ日も上らぬ時間であることもあり寝癖のついた相手の茶髪を優しく撫でながら呟くとくすりと小さく笑みを浮かべて。)
んー…。智尋もう起きるんだろ…?
(返ってくる同様の言葉に若干の緊張が含まれていたのには意識がはっきりと覚醒していないせいもあってか気付かなかったらしく、唯満足げに頬を緩めては眠たさから目を細めて天井を見詰めており。然し頭を撫でられるとその心地良さに目を閉じ、つい再度うとうとと微睡んでしまいそうで自然と耳に入って来る相手の声により何とか意識を繋ぎ止め、返答を考えているのか小さく唸り。まだ寝てても良いと思うと甘んじたくもなるのだが、起きた時に相手が居なくなっている事で感じる喪失感は好きではなく、徐に寝返りを打って横を向くと相手の腰に腕を回し抱き着くような体勢になり目を閉じたまま問い掛けて)
ッ、…まあ、家帰って着替えないと仕事行けないからな…。
(寝起きの相手は寝癖がついているからかまだとろんと眠たげな目をしているからか何処と無く何時もより幼く見えて可愛らしく、その様子に薄く笑みを浮かべながら暫くそのまま頭を撫でていれば腰に回ってきた腕に不意を突かれたかのように固まってしまい。この程度の接触は起き抜けの所謂一夜を明かした後、というような状況であろうと大体他の行きずりの男達との交流で慣れていたつもりだった。しかしやはりその相手が彼となると話は全く別らしい、甘えるような意味合いであろうそれを一瞬不純な妄想に変換してしまった自分に激しく後悔し苦々しく表情を歪めながらももごもごと歯切れの悪い言葉で返事を口にして。取り敢えず未だ微睡んでいる彼の頭に片手を置いたままベッド脇のチェストにあった内線で「…朝食お願いします、珈琲と牛乳で一つずつ。」とフロントに朝食サービスを頼むと、抱きついたままの彼をどうしようか、少しだけ困ったような笑みで相手を見つめながら軽く頬を掻いて。)
じゃあ起きる…。
(返ってきた言葉は大方予想通りのもので、相手の腰に腕を回したまま温もりを感じつつ独り言のように呟き。然し無論すんなり起きられる筈も無く、ましてやはっきりしない意識の中で遠く聞こえる相手の声すら心地良いものに聞こえてしまえば、起きる気になれないのは当然の事で。暫くそのまま浅い眠りに浸っているような感覚でいるも、そろそろ起きなければ相手が仕事に遅れてしまう可能性もあり、もそもそと気怠げな緩慢な所作にて体をゆっくりと起こすと大きく欠伸を溢し。それによって目尻に溜まった涙をぐいっと手で拭っても尚残る眠気に眉を寄せつつ、隣に座っている相手の肩に頭を乗せると重たい瞼を無理矢理開きぼんやりと正面の壁を見詰めて)
…そっか。朝飯今呼んだから、それまでにはちゃんと目覚ませよ。
(仕事のことを話に出した途端動きこそ緩慢ながらも目を覚まそうと体を起こし始めた相手に彼なりの気遣いのようなものを感じ、微笑ましさから口許を緩めると肩に寄りかかる相手の頭をぽんぽんと軽く撫で。柔らかな口調で先程前もって頼んでおいた朝食のことをそっと伝えると早速その朝食が届いたのか廊下の方から安っぽい電子音のチャイムが鳴り、そちらにちらりと視線を送ってから相手の方を見ると「…飯届いたみたいだから取ってくるな。お前はゆっくりで良いから、寝ぼけたまんま立ち上がったりすんなよ?」と軽く声を掛けてから相手の頭をそっと退かし。ベッドヘッドから上の壁部分に頭が当たっても痛くないようにと相手の頭と壁の間に枕を挟ませてからゆっくりとベッドから立ち上がると、寝乱れたバスローブの合わせを直してからぺたぺたと早足でドアの方に歩いていって。)
もう覚めたー…。
(相手に撫でられるとどうしても気が緩んでしまい、それまで何とか開けていた瞼を再び閉じると頬を緩ませ。鼓膜を心地良く震わせる声色に目を閉じたまま間延びした声で告げるも、不意に室内の静寂を破る電子音に快適な微睡みから覚めては微かに眉を寄せつつ薄ら目を開けて。相手の言葉に寝惚け眼を伏せながら「んー…」と唸るような返答をして小さく頷くと、頭を退かされた感覚の後に後頭部に触れたのは予想に反し柔らかなもので。見れば枕が挟まれており、変わらない相手の優しさを甘受していられることに笑みを溢してはドアの方へと向かって行く後ろ姿を眺め。頭を浮かせるとベッドの上に落ちる枕は気にせず体を起こして床に両足を付けるも、先程の忠告を思い出すと立ち上がるのは止めて足を床の上に投げ出し何と無く爪先をひょこひょこと動かしながらぼんやりと足元に視線を向けて)
ーーお前ほんとに大丈夫か?…飯は来たけど、まだ眠いんなら寝直したって…。
(自分に合わせて眠い目を開き起きようとする様はいじらしく可愛らしいものがあるが、朝食片手に戻った先でベッドから足を投げ出したままぼんやりする相手を見ていると何だか無理に起こしてしまい可哀想な気もしてきて。ベッド脇のチェストに相手の朝食を置き、片手に自分の朝食を残したまま寝癖まみれの茶髪をぐりぐりと髪を掻き回すように撫でながら少しだけ心配そうな声色で呟くとゆっくりとした足取りでベッドから少し離れたところに置かれたソファとテーブルの辺りまで歩いていき。朝食をテーブルに、自らはソファに腰掛けてからそっと足を組み珈琲のカップを手にすれば少しだけ熱いのが苦手な猫舌気味なのか念入りに息を吹き掛け冷ましてから何も入れないブラックのままの珈琲を口にして。)
大丈夫大丈夫。
(暫くぼんやりしていれば少しずつ意識が覚醒してきたのか、相手が朝食を手に戻ってきたのに気付き其方に視線を向けようとするも、不意に頭を撫でられると髪が乱れるのも気にせず嬉しそうに目を細め。相手の心配そうな声が聞こえるなりへらっと笑って大丈夫だと伝え、チェストに置かれた朝食を一瞥して「ありがとー」と軽い口調で礼を述べ。ソファに座り珈琲を飲む様子を目で追えば徐に立ち上がり朝食を手に相手の隣に座り、手を合わせて「頂きまーす」と一言口にしては牛乳を飲み干し朝食に手を付けて)
…これ食ったら俺はもう出るから。お前はどうする、10時までは此処に居ても大丈夫だぞ?
(あまりにぽやぽやと危なっかしい相手に少々心配していたが朝食に手をつけ始めた相手を見て漸くその心配も解消され、安堵のため仄かに頬を緩ませながら息をひとつついてから珈琲カップをトレイに置くと自分も朝食のトーストを手に取りそのままさくさくと小さな音を立てて口に含んでいき。半分程度朝食を食べたあたりで唇の回りについたサラダのドレッシングを舐め取ってから不意に相手に話し掛け始めるとテーブルに置いた自分の腕時計にちらりと視線を送ってから言葉を続けて。時間を確認したことで少しだけ何時もの予定よりもゆっくり朝食を取っていたことを認識するとあまり予定を狂わせたくないのか先程までより少々急ぎめに口に残りの朝食を含んでいくと最後に少しだけ残しておいた珈琲を飲み干し朝食を終わらせて。)
ん、俺も出る!!
(それなりの節約生活のお陰か豪華とは言えずもこんなに品目の多い朝食は久し振りで、無言のまま黙々と食べ進めており。然し不意に相手に声を掛けられれば食べ物を口に運ぶ傍らで話を聞き、ふと目に入った相手のものと思しき腕時計を見遣れば想像より早く時間は経過していたようで。どうせ大学は午前から、相手より後に出ると言っても然程ゆっくりはしていられないのだから同じ時間帯に出た方が無難だと考え、口に含んでいたものを飲み下すとその胸を伝え。元より相手より食べるペースが速かったからかそう時間も掛からずに完食すると、先程と同様に手を合わせて「ごちそーさまでしたっ」と一言口にしては立ち上がり。食欲が満たされたからか、やけに活動が活発になっており、立ち上がると先日着ていた服を持ってきてバスローブを脱ぎ)
…夏樹は、昨日俺が話したこと忘れてない、よな。…俺の、性癖とか…そういうの、ちゃんと覚えてるか?
(朝食を食べ終わるとすぐ自分が見ているだのといったことなど関係なしに着替え始める相手に昨晩まではその無自覚に対する呆れや諦めなどの感情しかなかったが、一晩明けて冷静に考えてみると自分の置かれた状況をまるで理解しようとしない彼に多少理不尽だと自覚しているものの微かな苛立ちを感じ始めていて。一先ず自分も着替えるべく昨日の衣服を手に相手に背を向けるようにしてバスローブに手を掛けると胸のうちにこもった感情の成果、少しだけきつさのある口調で声を掛けて。)
ん、覚えてるよ?
(下着を身に付けズボンを履き、Tシャツに腕を通して頭から被ろうと両手を上げた際に不意に問い掛けられればその唐突さに一瞬きょとんとして。然し直ぐに問いの意味を理解すれば相手の刺のある口調には気付いていないのか気にしていないのか、何を今更と言わんばかりに当然の如く頷いて。疑問形の返答を口にしながらTシャツを着てその上からパーカーを羽織りながら“何故そんな事を聞くのか”と思案する脳内には相手の性癖ならば自分に好意を向けられる可能性もあると言う事に気付いていないらしく、あわよくば既に想い人か恋人でも居ると言われても驚かない程で。一先ず身支度を終えると相手に視線を向け「なんで?」と問い掛けて)
…ならさ、ちょっとは警戒しろよ。
(下着は昨晩の風呂上がりに既に身に付けていたためそのままに、履き慣れたジーンズとシャツを身に付けながら彼の声を聞いていれば恐らく警戒なんて意識が端からないような、余りにも素直すぎる返答にどうにも己の思いが伝わらない歯痒さから僅かに顔を歪め。ため息混じりにぽつりと一言呟くと苛立たしげにがしがしと頭を掻きながら相手の元へ歩み寄っていき、警戒心がないのを良いことにそのまま相手の足を軽い蹴りで払うと倒れるままに後ろにあったベッドに押し倒し。倒れる中握った相手の手首を布団にやんわりと押し付けながら困ったような、しかし何処と無く悲しみを含んだような表情で「…ゲイってのは、男見るとこういうことしたくなんの。…だからさ、ちょっとは警戒心持ってくれよ。裸とかぽんぽん見せたり、簡単に同じベッド入ったり…幼馴染みだっていっても、不用心過ぎるぞ?」と囁き掛けて。)
警戒って…ーっ!?
(着替えている相手の背をじっと見詰めながら彼の言葉を待っていれば、溜め息と共に呟かれた一言は己の予想の範疇に全く無かったもので。驚いたように目を見開くも幾ら鈍感と言えどその動作から苛立ちが伝わってきて、何かしてしまっただろうかと困ったように眉を下げながら一体何を警戒すれば良いのかと問い掛けようとして。然し相手が此方に歩み寄ってきたかと思えば突然の足元への軽い衝撃と、それにより簡単にバランスを崩して反転する視界に驚きさえするが声を上げる暇さえ無く。気付けば体はベッドに沈んでおり、目の前には表情を歪めた相手、困惑と驚愕から瞳を揺らして彼を見詰めるが紡がれる言葉に眉を下げて。それはつまり、以前と同様の慣れ親しんだ行いを少しばかり自重しろと言う事なのだろうか。無論それは嫌だが自身の軽弾みな行動のせいで相手を悲しませたのかもしれない、そう思うと頷く他に術が無く。もしかすると昨晩の彼の様子は自分の行い故のものだったのかと思い始めると、後ろめたさと申し訳無さから顔を横に逸らし「…わかった。もうしない、から…ごめん」と謝罪を述べて)
…別に、今までの関係を全部切れってことじゃないから。ただ、な…これからは、少しは俺のことも含めてちょっとは他人を警戒して欲しいんだよ。…田舎と違って、都会には悪いこと考えてる奴なんて山ほどいるんだから。
(相手に警戒心を持って欲しかったのは紛れもない本心からのものであり、それを指摘したこと自体には後悔もしていない。しかし彼にこんな気負った表情をさせたかった訳ではなかったため暗くなった表情に胸を痛めるとゆっくりと相手の上から退き、ベッドの隣のスペースに腰を下ろしながら相手の頭に軽く手を乗せ。接触自体を拒んでいる訳ではない旨を相手を宥めるような出来るだけ優しい声色で説明すると、口許に薄く笑みを浮かべながら髪を鋤くようにして相手の頭を撫でて。これで伝えかたこそ少々間違ってしまった節はあるものの無防備過ぎる彼に警戒心という概念を持たせることが出来たかと思うとその点では満足しており安堵から息をつくと、ベッドから立ち上がって相手の前に立ち自分が押し倒してしまったことへの少々の罪悪感からか僅かに困ったように眉を寄せると相手を立ち上がらせるためにかおずおずと自分の手を差し出して。)
…悪いこと?
(相手に怖ず怖ずと視線を向けるとその表情をじっと見詰め、程無くして上から退け隣に座る相手を一瞥して。不意に頭に手を乗せられると目を細めて同様に体を起こすと、続けられる言葉に無言で耳を傾けて。幼馴染みである彼にも警戒心を持たなければならないのかと思うと何処と無く憂鬱になってしまうが、そもそも警戒とはどんな風にすれば良いのかがわからず。然し恐らくは気安く話し掛けたりしなければ良いのだろうとそんな単純な考えで。然し上京してきて相手の言う“悪いことを考えている奴”と言うものに遭遇した事が無く、具体的に何処までが悪くて何処までが悪くないのかと首を傾げ。少し考えると彼の言う事に従っていれば良いのだろうと納得し、「わかった」と小さく頷き。差し出された手を見るなり相手へと視線を移すと表情から先程の事に罪悪感を感じているのだろうかと思案して。然し自分の事を思っての行動だったのだろう、気にする事は無い、とばかりに笑みを浮かべて手を掴み立ち上がり)
…よし、じゃあ出るぞ。忘れ物なんてするなよ?
(立ち上がった相手の表情に少しだけ募っていた罪悪感が緩和されたような気がして薄く笑みを浮かべるとするりと相手に掴ませた手を解き、それからゆっくりとテーブルの傍まで歩いていきそこに置いていた腕時計を手に着けると相手に背を向けたまま声を掛け。ソファの背に掛けておいた携帯やら財布やらがポケットに突っ込まれているせいで少々重たい上着を手にしもそもそとそれを羽織って再び相手の元まで歩み寄っていくと、にっと軽く歯を見せながら少々からかうような悪戯っぽい口調で言葉を掛けて。)
しねーよ。
(漸く表情を緩ませた相手に安堵しつつその行動を目で追っているも、声を掛けられればその辺に放ってあった鞄を肩に掛けて上着を羽織り。昨日は鞄から何も出した記憶は無い、故に鞄さえ持てば忘れ物は無い筈だと思考を巡らせているも、此方に歩み寄ってきた相手に告げられた言葉は恰も己を子供扱いしているかのようなもので。確かに3歳年下ではあるが、社会人にもなればそれは大したことの無い差だと思え、更には自分は既に成人しているのだからもう子供じゃない、と躍起になっており、その考え方が既に幼いと言うことには全くもって気付いておらず。むっと眉を寄せて相手を見遣ると不服げな口調で告げ)
ーー…取り敢えず駅までは一緒だな。この道真っ直ぐ行けばすぐだ。
(子供扱いしたつもりはなかったが彼はそうは取れなかったのだろう、不満げに訴える彼に思わず幼さを感じくすりと小さく笑みを浮かべて。それなら良いというように軽く視線をそちらに投げ掛けてから相手を連れて他の客と鉢合わせたりしないようにそそくさとホテルを出ると外に出るなり吹き付けた朝の冷たい空気に思わずぶるりと身を震わせ。寒さを堪えるようにポケットに手を突っ込んだまま僅かに首をコートの襟に隠れるように縮こませ、寒さに対しての苦笑を浮かべながら相手の方を向き話し掛ければ人がまだ疎らな歩道をゆっくりとした歩調で進みはじめて。)
さっむ…。
(笑みを浮かべる相手には気付かず相も変わらずむっと唇を尖らせているが、部屋から出ると心成しか速く感じる相手の歩調に合わせて歩みを進め。ホテルから出るなり吐き出す息の白さに眉を寄せて呟き、この後大学へ行かなければならないと思うと言い様の無い倦怠感を感じ。ふと周囲に視線を向けてみればネオン等が消えているからだろうか、昨夜記憶していた景色とは大分違って見え興味深げに辺りを見回しており。ふと耳に入る相手の声に前方を見遣りつつ彼の自宅の場所をぼんやりと考えて。もし会社の近くに住んでいるなら己の家からもそう離れてはいないと言う事、気になると確認せずには居られず「なぁ、智尋ってどの辺住んでんの?」と問い掛けて)
…〇〇駅の近く。駅の傍に公園があってさ、そこから大して歩かない位のとこに住んでる。
(朝早いとは言えど通い慣れた自分にとっては何の思いも抱かないようなごく普通の景色で、だからこそ何故相手が興味深そうに辺りを見渡しているのかが分からず思わず首を傾げ。投げ掛けられた質問に自宅を特定されれば夜の、所謂男絡みのいざこざに相手を巻き込むことも起きてしまうのではと思い少しだけ考え込むように顎に軽く手を当てたまま沈黙し。しかし下手に誤魔化してしまえばまた相手に無用な心配を掛けかねないと判断すれば、軽く暈しがちながらもそれなりに特定できるような、大分ふんわりとしたニュアンスで自宅のおおよその位置を伝えて。)
んー…そうなんだ。
(返答を思い悩んでいるのだろうか、互いの間に流れる沈黙にじっと相手を見詰め。程無くして相手の自宅の位置についての説明を受けるが予想通り全くわからず、恐らくもっと詳細な説明を受けた所で結果は同じ、それどころか余計にわからなくなっていただろう。自分でもその事実は目に見えており、少し思案した所で頷いて見せるがその弛緩した笑みがわかっていないであろう事を物語っており。場所を聞いた所で行きたくなってしまうのは当然の事「今度遊びに行って良い!?」と目を輝かせ興奮気味に問い掛け)
だぁめ。さっき言ったばっかだろ、警戒心はどうした。
(相手の何とも曖昧な相槌から察するに正直なところ地理的なもの自体がよく分かっていないのだろう、それはそれで何だか相手らしいような気もして苦笑混じりながらも何処と無く感じる懐かしさのような感覚に息をつくと相手の方を見て。場所が分かっていなくてもきっと相手ならこんな回答の後はどうせ遊びに行きたいだのもしくは逆に遊びに来いだのと言い出すのだろう、そんな予想が正に的中してしまいいくら幼馴染みとはいえど分かりやすすぎる彼の安直な行動に少々の呆れを見せ。幼い子供をたしなめるかのような叱り方で彼の要求を突っぱねると「考えてみろ。そこそこ可愛い女の子がヤリチン野郎の家に遊びにいったら、どうなるかなんて目も当てられないだろ。お前はそれと同等のことしようとしてんの。」と例を挙げながら相手を納得させるべく説明を口にして。)
えっ、何で!?
(てっきり了承してくれるだろうと期待して聞いたのだが呆気なく拒否されると、その返答は全くもって予想外だったとばかりに目を見開き驚きを隠せないような表情で。家に行ったからと言って警戒心の欠如と言う事にはならないだろうと不服げに眉を寄せるが、続けられる相手の的確な例えによる説明に返す言葉が見付からず一度は黙り込み。然し理解はしても納得はできないらしく「やだ、行きたい!!」と駄々をこねる子供宛らに口を尖らせて言い張り)
(/長らく返信を滞らせてしまっていてすみませんでした。
これだけ大幅に返信が遅れてしまった理由を正直に話させて頂きますと、私生活云々という問題ではなく、所謂マンネリと言えばよいのでしょうか…今後の、というか次の場面までの行動が上手く思い付かなくなってしまって。
こんな不誠実な理由でそちら様をお待たせしてしまい、大変申し訳なく思っています。
もしも、もしも可能でしたらこの後の駅で別れるまでの部分をすっ飛ばさせて頂けたら…なんて思い、発言させて頂きました。要点として家への訪問を頑なに断った、連絡先を結局交換しなかった、というものを追加した上で、場面を飛ばさせては頂けないでしょうか?
無理は承知でのお願いです、どうかご検討宜しくお願いいたします。)
(/そうでしたか;;いえ、お気になさらず!!此方も先が見えなくなって飛ばしたい気持ちもありましたので…^^;仰って頂けて良かったです、では飛ばしましょうか!!場面はバーで再会するところからでも宜しいですかね?)
(/飛ばすことに同意して下さりありがとうございます!そうですね、別れたその日、久々の対面を果たしたバーからということになりますね。ではどちらから始めましょうか?後か先か、やり易い方を選んで下さいな^^)
えっ、なにそれ!そんな事すんの?男同士で!?すげー!!
(大学終了後、直ぐ様繁華街へと足を向けると迷う事無く昨夜のバーヘ向かい。それと言うのも相手と別れた後の講義中、突然連絡先を交換していなかった事を思い出しどうしようかと考えた結果此処に来る他に相手とコンタクトを取る方法が思い浮かばず。無論再度相手が来ると言う可能性は未知な上に仮に来たとして確実に怒られる気がするのだが、まずは行動をする事しか考えておらず。然し来たは良いが矢張り相手の姿は無く、帰ろうかと思っていた所に直ぐ様男性から声を掛けられ。話を聞けば悪い人間には見えず、とは言っても自分からすれば悪い人間等皆無に等しいのだが、兎に角此方が男目当てで来たわけでは無いと知ると驚きこそされたものの気さくに様々な話を始め。一瞬で食い付くと目を輝かせながらその話に耳を傾け、何やら生々しい話題にまで発展してしまうと純粋な驚きの連続で店内で一人オーバーなリアクションを見せては周りの人間を苦笑させている始末で)
(/以前決めた設定の通りですと、こんな感じで宜しいでしょうか…?相変わらず煩い奴ですが何卒宜しくお願い致します^^*)
ッ、…お、ま…何で…!
(朝別れてからすぐにそういえば相手と連絡先を交換していなかったことに気が付くものの今更どうにもならないと割り切りその内また会えるだろう程度に思いながら一日を過ごし。仕事が終わり自宅で着替えてから今日こそは良い男を捕まえようと内心意気込みながらバーへと足を踏み入れれば、真っ先に目に飛び込んだ朝別れたばかりの相手の姿に思わずその場で固まってしまい。絞り出すような声を漏らしながら徐々に冷静に頭を整理するとそこで漸く相手がひとりではなく、もう一人の男に何やら吹き込まれているような様子を察知し。途端に眉間にシワを寄せ不機嫌そうな表情になると大股でそちらに歩み寄っていき、そのままその男に加減もせずがつん、と足元に蹴りを入れるとどうやら知り合いなのか襟元を掴み上げながら「湊…お前こいつが俺の知り合いって知ってるだろ、何勝手に色々吹き込んでんだ。」と低い声で呟いて。)
(/そうですね、そんな感じで大丈夫です!いえいえ、夏樹くんらしくて良いと思いますよ^^こちらこそ、何だか出だしからガンつけまくってますが宜しくお願いします。)
あ、智尋…っ!?
(現在談笑している男性から相手が結構な頻度で此処に来るのを聞いたのだろう、扉が開く音がすると直ぐ様其方を振り返り。そこに漸く見付けた相手の姿に途端に頬を緩めるものの、驚いた様子から見るからに怒気を孕んだ態度で此方に歩み寄って来るのを見ると思わず頬を引きつらせ。無論相手の怒りは自分にのみ向けられていると思っている為にどんなお叱りを受けるのかと内心冷や冷やしていたものの、微かな衝撃と音に直ぐには状況が飲み込めず目を見開き。相手の怒りの矛先が自分ではなく男性の方に向けられていると気付いたのは目の前で相手がその男性の襟元を掴み見た事も無いような正に鬼の形相と言えよう表情で睨んでいるのを目の当たりにした時で、何故こんなにも彼に怒っているのかと半ば混乱気味ながら慌てて立ち上がり「いや、あの、ごめん…俺が悪いから、」と見るからに狼狽えながら眉を下げ謝罪を口にし)
お前も悪いに決まってるだろ、何フォローした風に出てきてんだボ ケ!お前も後できっちり説教してやるから今は引っ込んでろ!
(男、湊と呼んだ彼の胸ぐらを掴んだまま勢いよく相手の方に顔を向けるとまるで湊を庇うようなタイミングで出てきた相手に苛ついたのか、ついつい湊にしたような強い怒鳴り口調で叱ってしまい。そんな中焦ったような笑顔のまま宥めるように男が割りいってくれば『まあまあまあ、喧嘩両成敗!仲良くしようぜ?』などと呑気な言葉を口にし。勿論そんな言葉に油を注がれたような思いで更に顔を険しくさせると「何が両成敗だ阿呆!殆どお前のせいだろうが!」などという言葉を封切りに二人の言い合いへと発展していき。というのも、湊という男自体自分のゲイ入門時からの顔見知りでありそのため勿論相手への恋心云々の相談も散々した男、そのため事情を知りながら彼に余計なことを吹き込んだ湊が許しがたいらしくそのまま一歩も引かないまま怒鳴り散らす自分とへらへらと調子の良い笑顔でいなす湊との言い合いが続いてしまい。)
っは、はい…。
(元の原因は相手の言った事を守らずこんな所に来てしまった自分にあるとわかっている為に怒鳴られても何も言えず、ビクッと肩を跳ねさせると大人しく傍らの椅子に座り二人の様子を眺めて。取り敢えず今の遣り取りから察するに二人は知り合いであるらしく、何だかその二人の仲を壊してしまったような気分になれば居たたまれず眉を下げては俯き気味で。相手から怒られる恐怖よりもその申し訳無さが勝っているのか、一人落ち込みながらもひたすらに黙り込んで二人が、と言うよりも相手が落ち着くまで待ちつつ言ってしまえば巻き込んでしまった上に本来自分に向けられるべき怒りをぶつけられてしまっているのであろう男性に何と謝れば良いかと益々申し訳無くなるばかりで)
ーー湊、酒持ってこい。いつものやつ大至急、遅くなったら金輪際お前の相手はしてやらないからな。
(その後暫くして、溜まり溜まった鬱憤を放出するかのように散々怒鳴り散らしたお蔭か少しすると漸く心境も落ち着いてきて、正直そろそろ怒りっぱなしなのにも疲れてきたのか大きなため息をついてからむすっとした表情で乱暴に相手の隣の椅子へと腰を下ろすと一旦怒りは収まったもののまだ不機嫌そうな様子のまま罰とばかりに友人に酒の注文をし。さっさと行けとばかりに手で彼を追い払ってからじろりと視線を相手に向けると次は彼への説教を始めるつもりなのか「…大方連絡先とか聞いてなかったから、とかいう理由で来たんだろ。…言っておくけど、それにしたって今回は無防備にも程があるからな。」などと漏らせば体の向きを変えて相手に向き直り、テーブルに頬杖をついて。)
…ごめん…。
(暫し店内に響く相手の怒声をじっと聞いているも、徐々に冷静さを取り戻したらしい相手が男性に酒の注文をするのをちらりと見遣って。然し直ぐに相手が隣の席へ不機嫌さを露にしたまま座ると向けられる視線に怯んでしまいビクッと肩を跳ねさせ、告げられる説教に項垂れると素直に謝り。だがそれ以外に会う手段が見付からなかったと言うのも事実で、恐らく相手はまた次に会った時でも良い等と呑気な事を考えていたのだろうがいつになるかも分からない時をただ何もせず待てと言われても無理な話で「だって…次いつ会えるかわかんないじゃん」と呟くように言い)
ーー…お前、ほんっと馬鹿だよな。
(一応悪いとは思いながらの行動ではあったのだろう、自分の言葉にびくつきながらしゅんとした態度で言葉を返してくる相手に再び深いため息をつき、それから自分のうなじをがしがしと乱暴に掻くとポケットから携帯を取りだし何やら操作を始め。「…今日、仕事の合間に母さん経由でお前んちの電話番号確認して…そっからおばさんにお前の携帯の番号とアドレス聞いた。…こういう方法は思い付かなかったのか?」するするとスマホの画面をタッチしていき自分の携帯番号を載せたメールを作成し、そのまま送信ボタンを数秒の沈黙の後に相手の携帯を鳴らしてやり。こちらもこちらで相手の連絡先を得るために奔走していたことを伝えるとさすがにそろそろ許してやる気になったのか、困ったような笑みを浮かべながら緩く首を傾げ尋ねて。)
…え、
(誰かに“馬鹿”と称されるのは今に始まった事では無く、特に上京してからと言うもの何度も聞いた言葉である為に強ち否定も出来ず、かと言って肯定もしたくなかったのか無言のままで。然し何やら携帯を操作し始めた相手を見遣ると続けられた言葉に目を大きく見開き、その様子はあからさまに思い付かなかったと言わんばかりで己の携帯が鳴ると直ぐ様取り出し受信メールの画面を開き。そこに表示される数字の羅列は恐らく相手の携帯の番号だろう、途端に嬉しそうに頬を緩めると唐突に相手に抱き着き思いの外手加減無しに抱き締め。連絡先が知れたのもそうだが、何より相手が己の連絡先を知る為に実家にまで連絡してくれたのが嬉しかったらしく「ありがとっ、家宝にする…っ」等と意味不明な事を告げ取り敢えず嬉しいのだと言う事を表現しているつもりのようで)
ッう、ぐ…っ!…取り敢えず保護位に留めとけ、こんな雑なメールを後世まで取っとかれても困る。
(取り敢えず連絡先を送ってやったことで多少落ち着いてくれるだろうと一息つきながら携帯を仕舞おうとした矢先にデジャヴ感のある衝撃に思わずぐもった声を漏らし。予想以上に喜んでくれたらしい相手の様子を見ていると、何だかんだと距離を図ろうとしてはいても恋情を寄せる相手のその様子が嬉しくない筈がなく、らしくもなく年端もいかない乙女よろしくほんのりと頬を染め口許を緩めてしまい。幸いにも抱き付いてきている彼に表情は見えていないはずなので口先だけ気取ったように冷静な体を繕えば、そろりと相手の背中に腕を回し肩に顔を埋めるように頬を寄せて。そうして暫しの間幸せな時間を噛み締めようと目を細めた時、いつのまにか酒を片手に戻ってきていたらしい友人がこちらを見てにやにやしながら隣の椅子に座っていることに気付きはっとすると、そんな友人の方にじとりとした視線を投げ掛けつつ軽く相手の肩を叩き「…そろそろ離れろ。そこの馬鹿紹介してやるから、一旦座れ。」との言葉で相手を制して。)
わかった、保護しとくー。
(相手の漏らす何処か苦しげな声にも構わず抱き締め、無論その表情に気付く事の無い己は相手が同様に抱擁を返してくれる事が嬉しく終始頬を緩めっ放しで。家宝にするのは拒否されてしまったが保護なら許されるらしい相手の言葉に頷いて応じ、へらへらと自らの周りに花を飛ばさんばかりに幸せそうな笑みを浮かべているが肩を叩かれ着席を促されれば素直に離れて椅子に座り。紹介する、と告げられ其方に視線を向ければそこに座っていたのは先程散々相手から怒鳴り散らされていた男性で、何処と無く申し訳無く思うものの相手が彼を“馬鹿”と揶揄するのを聞けば途端に目を輝かせて。幼馴染みから馬鹿呼ばわりされている事で謎の親近感と仲間意識を抱いてしまったらしく「へぇ、馬鹿なんだ!!仲間だな!!」と彼が馬鹿である事をあっさり認めると共に自らが馬鹿である事さえも認め、見るからに嬉しそうな満面の笑みで告げ)
……こいつは湊、俺にこのバー紹介した張本人で悪友的なポジションの奴な。…あ、因みに"湊"っつーのは偽名だ。俺も此処等では本名じゃなく"那智"って名乗ってるから、あんま本名で呼ぶな。
(馬鹿という単語に共感を持ったのだろう、嬉しがるようなものでもないはずなのに満面の笑みで話す相手を苦笑を浮かべながら見ると一先ずその件には触れずにさらりと軽い説明をし。どう反応してやればいいやら、と苦笑を浮かべた自分とは違い腹に手を当てながら爆笑し『ッあははは!君ほんとに馬鹿なんだねぇ、面白い!宜しくねー?』などと話し、握手を求めるように手を差し出した湊のその手を相手がとる前に早々に手痛く叩き落とすと何食わぬ顔で湊が運んできたカクテルを一口含み。それを飲みながらはた、と何か思い出したように目を開くとグラスを置いてから自分達が偽名を使用している旨を口にすれば、今まで見逃してきた本名で呼ぶことを禁じて。)
宜しくー。俺等は幼馴染みでー、親友的なポジションだから!!
(何故笑われているのかがわからずキョトンとして彼を見詰めるも相手からの互いの関係性を聞くと頬を緩ませつつ宜しく、と言われれば同様な言葉を返し。徐に相手の方へ身を寄せ半ば凭れ掛かるようにすると心成しか得意気な口調で先程の説明を真似て目の前の彼に告げにぃっと口角を上げて見せ。手を差し出されると握手を求められているのだろうと察し嬉しそうに笑みながら彼の手を握るべく手を伸ばそうとした刹那、手早く相手により叩き落とされれば半ば驚いたように目を瞬かせ一先ず手を引っ込め。その彼が偽名なのだと聞かされ更には幼馴染みまでもが偽名だと知れば本名で呼ぶ事を制限され「わかった!!」と果たして本当に分かっているのか危ぶまれる返答をした後、不意に眉を寄せると首を傾げて)
…何で偽名?
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