宏太 2013-12-02 18:54:29 |
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繋がってはいけない者たち「人間とヴァンパイア」
ーーープロローグーーー
「ねぇ、おばあさま、何かお話をしてちょうだい」
丁度今日で12になったばかりの女の子が言った。
彼女は、幼いころに両親の亡くし、今まで母方の祖母に面倒を看てもらった。
そのため、随分と頭の固い頑固娘に育ってしまったが、友達も多く明るい子に育った。
「そうだねぇ、お前さんももう12になったのだから話してもいいころだろう」
こちらのおばあさんは、腰が曲がり始め、昔の面影、栄光は少しずつ薄れて来たがその眼は強い光を放っている。
「ねぇ、そのお話って前におばあさまが私に話そうとして止めた時のお話?」
女の子は目をらんらんと輝かせながら聞いてきた。
「いいかい、アンジェラ? 今までおばあさんが話した話はほとんど教会で牧師さんに教えてもらったじゃろう。
しかし、これは作り話でもおとぎ話でもないのだ。 これは、親から子へ受け継がねばならぬ話なのだが、
教会のようなところで、一度に一人の牧師さんが一度に20人もの人数に教えるのは大変な、事なんじゃ。
だから、わしらは家で長い時間を掛けながらゆっくりと話を教えなければならんのじゃ。
同じ過ちを繰り返さぬように。
お前は聡い子じゃ、本当なら16の成人のころに教えてもらうのじゃが、おまえさんには早う話たろう。
わしら、ポップ一族とライナー一族は特別なんじゃ。
だから、クレンも知っとるはずじゃ」
「えぇっ!?クレンもっ!?」
…クレンは、アンジェラにとって特別な存在である。
なにか言葉で言い表すことができないようなモヤモヤするこの気持ち。
それは、アンジェラに不快感を覚えさせた。
彼とは3か4つの時から知っている、いわゆる幼馴染というものだ。
昔は、2人で悪戯をしたり……、昔はいろんなことをしたものだ。
今までは、友達…遊び仲間であった。
でも、私は気づいてしまった。
モヤモヤして、不快感を感じ、目が合うとドキドキと心臓が跳ね上がる。
……これは恋‥‥だ。
クレンのことを考えていたがアンリーおばあさまの声により、現実に引き戻された。
「いいかい、その話というのは……」
ーーー開けてはならぬ扉ーーー
「早く、アンリー!」
「あーん、待ってよーう」
「早くしないと置いていくぞ」
「あぁっ!、あれが……」
「開けてはならぬ扉‥‥‥」
ーー数日前ーー
アンリネット.バーナー、フライゼ.ポップ、エンナ.ケリーン、アーリー.ライナーの4人は、
いつものように村長の家に忍び込んで悪さをしようとしていた。
しかしその途中、見たこともない小部屋があるのを見つけてしまった。
屋敷を知り尽くしていた(つもりの)4人は新たな部屋に興味を持ち、迷うこともなく、部屋に入った。
今思えば、それが悪夢の始まりであった。
その秘密の部屋というのは、普段村長のお気に入りの絵画の裏に隠されていたのだが、
今日はその絵画がなくなり、扉があらわになっていた。
「こんなところに扉があったなんて‥‥‥」
アンリネット、(愛称アンリー)が呟いた。
アンリーの家族は父が大工をやっており、この家の建設にもかかわったほどの腕のいい大工である。
そして、アンリーはというと、幼い時から護身用にカラテを習っており、小さい割に力が強い。
‥‥が、人見知りがひどくなかなか友達ができなかった。
しかし、エンナ達と知り合い、見違えるほど変わった。
図書館にこもるのを止め、外に遊びに行くことが増えた。
‥‥‥が、困ったこともある。 …悪戯好きになってしまったことだ。
その悪戯仲間の一人であるエンナ.ケリーンは、幼いころに母を亡くした義妹ポロネと、祖母のリリエーナの3人暮らしだ。
エンナもポロネと同じく、両親がいない。
理由は、2人共愛人が出来て家を出て行ったのだ‥‥‥幼いエンナを残して……。
それから、3日程経って祖母のリリエーナがエンナに会いに行った。
もしも、あと1時間でも遅ければ、彼女は命を亡くしていたかもしれない。
当時、住んでいた場所は寒いことに有名な村であった。
暖炉のつけ方も、上着の置き場所も、布団の置き場所も、ご飯の置き場所、作り方も知らないエンナにとって地獄であったに違いない。
リリエーナが部屋に入った途端、
「ばぁば? ばぁーばーー」
‥と、フラフラとした足取りで近寄ってきた。
リリアーネはエンナを抱きしめるやいなやギョッとした。
風邪で気持ち悪くなり、吐いたのだろう、ものすごい刺激臭がする。
それに‥‥熱い、この世の物なのだろうかと思うほど熱い。
幸い、家から病院は近く、ありがたいことに病院はあいていた。
しかし、そこからが問題であった。
長い間、高い熱のまま放置され、食事もせず、薬も飲まず、整った環境に居なかったエンナは、風邪をこじらせ肺炎になっていた。
特に、幼いエンナには沢山の薬を飲ます訳にもいかず、長期入院する事となった。
まぁ、薬をたくさん飲ますという話は、お金があればの話だが。
入院中、体中を激しい痛みが襲い掛かり、食欲は失せ、ひどい吐き気、めまい、だるさに支配された。
しかし、リリエーナの必死の看病と、エンナの生命力の強さにより一命は取り留めた。
だが、その時の後遺症で、視力7.0、嗅覚は犬並み、口に物を入れただけで調味料とその分量がわかる、
聴覚は、相手が1㎞離れたところでつぶやいた声さえ聞こえる、と人間離れした体を持ち、周りから気味悪がられた。
そんななか、その能力を気にせず接してくれたのが、アンリー、フライゼ、アーリー、であった。
フライゼ一家は旅人だ。
しかし、この町を気に入ってしまい、たまに短期の旅出る位だ。
父親や母親も、彼を気にして自分たちだけで旅に出かける。
そして、いかなる時もアーリー達に土産を買ってくる、どこにでも居る様な優しい家族だ。
フライゼは幼いころから旅に連れて行かれたため、サバイバル能力が豊富である。
そして、その横を金魚の糞のようについて回っているのがアーリーだ。
そして、そのアーリーはというと自分のことを語りたがらない。
そして彼はひどく変わり者ですぐに怒ってしまう。
しかし、冷静な判断力と大人顔負けの頭脳で一目置かれているのは確かだ。
アンリネットは頭の中でみんなのことを思い出していた。
どういう接点で知り合い、仲良くなったのかは忘れたが、仲良くなってからというものの、どんなにひどい喧嘩をしても仲直りする仲なのだから
とても強い絆で結ばれているのだろう。
ぼーっとしていたのだろう。 気が付くと下に寝かされていた。 というよりも、そんなことに気が付かなかった私もすごいと思う。
エンナはしきりに私の声を呼んでいる。 そして、アーリーが私の頬をぶった。
さすがにこれはこたえた。
まだ、焦点の定まらないままの重い頭を起こす。
エンナが心配そうに私の顔を覗き込み「アンリー、なんともない?」と、聞いてきた。
実際、なんともない事もなかったが一応、大丈夫だと答えた。
一体、何があったのだろうか。
確かに私はボーっとしていることが多いが、気づいたら寝かされていた‥‥なんて事は今までになかった。
「ここは、どこ?(村長の家?)」
でも、あたりは木が生い茂って家の中とは思えない。
そんなことを考えていると、さっきの私の呟きが気に食わなかったフライゼに
「おまえっ、なんも覚えとらんのか!?」‥‥と、怒鳴られた。
「シッ、前方から女と男が歩いてくる。 隠れてっ!」
エンナが突然叫んだ。
そういわれても周りには木、木、木。 木しかない。
「走れっ!」
そんなこと言われなくても、隠れられないのなら走るしかない。
4人ともそういった顔をしながら走っている。
しかし、先ほどの謎が解けたわけではない。
アンリーはそんなことを考えながら4人で走っていた。
―――友情のヒビ割れ―――
―――ホントの事―――
どれ位の時間がたったのだろう。
私はゆっくりと目を開ける。
いつの間にか辺りは暗くなっており、暗闇の中に炎が赤々と燃え上っている。
そして、微妙な木の配置を見てアンリーは、倒れたところからさほど動いてない事を知った。
フライぜが火を熾したのだろう、うまい具合に炎が上がっている。
そして、その火の周りにアーリー、フライゼが座っている。
「アーリー、今のはホントか? エンナが裏切っていたというのは……」
「シッ、」
そういうと、アーリーは私の顔を見て寝ているかどうかを確かめた。
私は咄嗟に瞼を閉じた。 ……おかげで起きていることはばれなかったようだ。
「そんな‥‥、あの優しいエンナが。」
「俺が知っている範囲ではエンナは八方美人って奴だ。 この前、アンリーの本がなくなったのもエンナが取ったんだ。
それも、なかなか手に入らなくてアンリーが1年半も探していた大切な本だ。
これもひどい話だが、こんなの軽いもんだ。 だいぶ前の話だがアンリーが転んで馬車に轢かれかけた事もあいつに仕業だ。
後ろからあいつが突き飛ばして……。
他にもエンナのお気に入りの服を破いたのも、みんなの前でアンリーの悪口を言ったり―――」
「うそ、」
私は気が付くと喋っていた。
そして、ポロポロと大粒の涙を流していた。
悲しかった、エンナがまさか私を裏切っていたなんて……。
彼女が裏切っているというのは薄々気づいていた。
しかし、現実とはすぐには受け入れられないものだ。
彼女との思い出が走馬灯となって甦る。
これは確か六つの時の思い出だ。
毎年、町で行われるお祭りでの事だ。
アンリーは1人ポツンと座っていた。
彼女は、彼女の周りの皆が家族の話をしている時に必ず顔をゆがめてみんなの話を聞いていた、
家族に恵まれている人を見ていると彼女の頬に涙がつたっていた。
だから、アンリーは気になって声をかけてみた。
「あなたはどうしてそんな顔してるの? そんな顔ばっかりしていると神様にあっという間にお迎えに来られちゃうよ。
だから、ねぇ、笑おうよ。 ほら、あなただけが悩んでいるんじゃないよ。 私もね、みんなと仲良くしたいのに
図書館にこもってばっかだから気持ち悪いって思われたりさぁ。 他にも、私ねお母さん居ないし兄弟もいないし
お父さんも仕事でなかなか帰ってこないしね、この前の嵐のときなんて一人で凄く怖かったんだからね!
それに、それに‥‥」
あまりに勢い込んで話し込む物だから、エンナは目を丸くしていた……と、思えば急に笑い出した。
「わ、笑ったぁ~。 ねぇねぇ、何て名前なの? 私はアンリネットって名前なんだけどね、パパはアンリーって言うの。」
「あ、あたしは……え、エンナ。」
「エンナちゃんかぁ、いい名前! ほら、エンナちゃんも何か話してよ。」
「えっ……」
サーっと、エンナの顔が変わった。
しばらく二人の間に沈黙が流れた。
「あ、あはは何かごめんね。 ちょっと調子に乗りすぎたかな? 私すぐに……」
「ううん、 今まで私の話を聞いた人はみんな気持ち悪がって離れて行っちゃったから。
ねぇ、アンリーちゃん…?は、私のことを嫌いにならない?」
「うん! どーんな事でもいいんだよ! 嬉しかった事、何でも無いような事でも、……他の人には言えないことも」
エンナは自分の生い立ちを話した。
幼いころに両親に捨てられ、義理妹と祖母と住んでいること、そのせいで友達にいじめられたこと、自分の特殊な能力について。
エンナは、泣いていた。
肩を震わせながら、静かに。
アンリーは そっとエンナの手をつないだ
今まで孤独であったアンリネットにとって、エンナの気持ちは痛いほど分かった。
「友達に……なってくれる?」
「もちろん! これからもずーっといっしょ!」
それから2人はすぐに仲良くなった。
次の日、アンリネットが通っている教会にエンナは祖母とやってきた。
今でこそ大きな町となったが、昔は名前もない様な小さな町であったため、新しい仲間であるエンナにみんな、興味を持った。
帰る時間に、エンナはみんなに取り囲まれてしまった。
「ねぇ、どっから来たのん?」
「何しに来たん」
「うーん、皆に言っても知らないようなところ、おばぁちゃんの故郷に戻ってきたの。」
沢山の質問にあたふたしながらもエンナは楽しそうに質問に答えていく。
そしてみんなで教会から出ようとしたときにエンナはこっちを見て手招きした。
すると皆の蔑んだ目で睨まれた。
そして、私をいじめていたリーダー格のサリヴァンがエンナに耳打ちした。
(――あいつに近づくな――)
そして、やっとその言葉の意味が分かったエンナはサリヴァンの言ったことを無視して私に声をかけた。
「アンリーも帰ろ!」
「ちょっとあんた、私に逆らうつもりなの!? こいつ、生意気っ!」
「エンナちゃん、私のことなんて放っておいて。 じゃないと、あなたがいじめられる」
「アンリーちゃん……」
「もう止めようよ!サリヴァン、みんなこんな事しても楽しくないんだよっ! あんたにホントの友達なんていないんだよ。
アンリネット、今までゴメン。」
「ごめん」
マトリシカの声を合図にみんなが頭を下げた。
「はっ? こんな奴にあやまんの? あんたらも随分落ちたわね。 いいわ、次はあんたらなんだがら――」
「いい加減にしな! 私たちは警告した。 それでも止めないんなら牧師さんとお父さんに言いつけるから」
「っ!?」
「みんなで帰るよ」
「…?………うん?」
突然の事であっけにとられていたがエンナのおかげで学校でのいじめはなくなった。
それからも、足りないことがあれば補い合い、励ましあい、助け合ってきた。
そのエンナは私にとっては友達であっても、彼女にとってはどうでもいい奴だったんだ。
涙があふれる。
抑えようとしてもあふれる。
すごくみじめだ。
ナンデ? ドウシテ? ワタシハナンデイキテイルノ? カミサマハザンコクダ ドウシテ?ドウシテ?ドウシテ?
ドウシテ?ドウシテ?ドウシテ?ドウシテ?ドウシテ?ドウシテ?ドウシテ?ドウシテ?ドウシテ?ドウシテ?……
「なんで?どうして?くるしいよ?さみしいよ?ゴホッ、ゴボッ―――」
涙が、止まらない
「もうやめろよ。」
アーリーは子供みたいに泣きじゃくる私をまるで幼い子供をあやすように抱きしめた。
「お前の悲しむ顔なんて見たくねえんだよ」
「うわぁ~ん、えんなぁ~っ」
2人の周りだけが音を立てて、静かな夜に空回りしていた。
――― ―――
「ぉぃ! ぉぃ! おいっ!」
「ぅん? なによ…… あぁ!」
毎度の事であるが、気づくと知らない場所に居た。
しかし、前と違うのはフライゼも同じと、いうことだ。
あと、木にロープで縛られている。
ありえない。
すると、向こうから顔がパンパンに膨れ上がり、口の端から血を流しているアーリーが兵隊服を着た男に連れてこられた。
その後ろにはエンナがいる。
「アーリー! その顔どうしたんだ!? おぃ……」
「私が説明するわ、私はあんた達と居て――――」
「もう、全部知ってるわ。 もうあんたの声なんて聴きたくない。 私の前から消えて」
私はなるべく低い声で言った。 これには、さすがのエンナもビビったのか焦った声で言った。
「そ、そう。 なら、状況だけでも説明させてあげる。
ここは、サンドゥブ国と言って、人間の代わりにヴァンパイアの栄える国。
この国には大まかに2つの土地に分かれていて、今私たちが居るのはタンバドンラックという
崖の多い土地よ。
そして、この土地には「ランアモック」と、言って「地に狂う」という意味のヴァンパイアが居るの」
「ちょ、待て、は? 全然、呑み込めねぇぞ!? ってか、ヴァンパイアって全員人間の血を吸うんだろ?」
フライゼがパニックになり、口からよだれを出している。
みっともないな、とアンリーは思った。
「あ、そこに関しては、血を吸うバンパイアの、ランアモック族と、血を吸わないパザモック族が存在するの
それで―――」
「あーもうゴダゴダうるせぇんだよ! しかも、おまえの説明じゃ意味わかんねぇから俺が説明する。
だから、離せ!」
アーリーがエンナに向かって叫んだ。
「わ、分かったわよ! 離せばいいんでしょ!? なによ、私の説明は完璧よ? なんで……」
そういうと、エンナは兵隊服を着た男たちに何かを命令した。
すると、男たちはエンナ達を木から降ろし担ぎ上げると歩き出した。
気が付くと布団に寝かされていた。
今までの事は夢だったのかな?
でも、自分のよく知った布団ではないと知るとアンリーは急に、さっきの事がホントならいいのに…と、思った。
昨日はいろんな事がありすぎた。
「私は謝らないからね!」
エンナの冷たい視線が甦る。
「お前の悲しむ顔なんて見たくねえんだよ」
アーリーが私を抱きしめながら言った言葉……。
これは、本音だったのだろうか。
知りたい……けど、もし嫌われたら……。
ダメだ、そんな勇気など私には無い……。
さっきから、アーリーの事ばかりが頭の中を回っている。
私をかばってくれたアーリー。
私を思って言ってくれた言葉。
私、一人に向けた言葉。
今まで、アーリーの事が好きな自分に気が付くたび、モグラ叩きのように自分を押し込めてきた。
でも、今エンナと言う大きな存在を失ったアンリーに感情を押し込めるというのは無理な話であった。
会いたいよ、 今すぐ……、 会いたいよ……。
私はモソっと布団から起きた。
改めて部屋を見回してみる。
木彫の壁、ベッド、クローゼット、ドレッサー、タンス、床、時計もだ。
そして、時計の時刻を見る。
まだ、朝5時だ。
アンリーは自分の来ているネグジェリを着替えるためにクローゼットに近づいた。
クローゼットを開けたアンリーは沢山の赤い服に驚いた。
そして、アンリーは、赤のロングスカートに黒のキャミソール、赤のブラウスを着てみた。
そして、手を器用に動かして、頭の上で大きなお団子を作る。
――なかなかの出来だ。
ルンルン気分で部屋を出たアンリーはアーリーの部屋を探し始めた。
彼の部屋はすぐに分かった。
彼も、朝早くに目が覚めたようで出かけたようだ。
扉が開きっぱなし……。
アンリーは一応その部屋に入ってみた。
そこには脱ぎ散らかしたままの、愛しい彼の服があった。
そして、置手紙には
「すこし、庭に出ていきます」
と、言う文章が書いてあった。
さっそく、アンリーは庭を探してみた。
案外と、庭は簡単に見つかった。
アーリーの部屋を出てすぐに右に曲がると庭があった。
庭と言っても、小説に出てくるような迷路になっている庭であった。
そしてアンリーは少しためらってから迷路に足を踏み入れた。
中はとても複雑で迷子になりそうで怖かったが、アーリーに会えると思うと、アンリーの中の不思議に恐怖心は消えてった。
右、左、右、右、と曲がる。
と、そのうちに、大きな場所に出た。
「あ、」
と、アンリーは小さく声を漏らした。
それも当然、この広間に繋がる他の道から同時にアーリー、フライゼが出て来たからだ。
そして、アンリーはいつもとアーリーの様子がおかしいのに気が付いた。
いつもは黒を基準に服を着ているアーリーが緑系統の服を着ていたからだ。
白のノースリーブ(白と言っても裾と襟には緑のラインが入っているが……)に、指先の空いた、手首丈の緑の手袋をはめている。
ズボンは緑の強いアースカラーのズボン、首にはスカーフを巻いている。
「アーリー、服が違うね……」
「お、俺の趣味ではねえんだが……、クローゼットの中、こういう色の服しかなかったから、し・か・た・な・く・!だ」
「でも、似合ってんじゃない?」
私が本音を口にしたところ、
「ちょ、おまえ頭の方は大丈夫か? いつものお前なら マジか!? ついにお前も終わったな!……とか言ってんだろ?
しかも、フライゼもいるんだぜ!? そういうのは2人だけの時にしとけ! ブツブツ……ったく、なんなんだよ」
すると、ずっと黙っていたフライゼが、こっちをニヤニヤしながら聞いてきた。
「さっきから聞いてりゃよ、似合ってんじゃない?、とか2人の時だけにしとけ! とか、付き合ってんの君ら?
え? え?え? どうなのどうなの? どうなの?」
そう言っているフライゼは、白の長そでTシャツの上に、腰のあたりまである青のノースリーブの服を着ている。
そして、クリーム色のもさっとしたズボンをはいていて、靴は青のブーツを履いている。
なんだか、今日のみんな服は色が統一されている気がする。
アンリーがそんなことを考えていると、いきなりアーリーが「しっ」と叫び、私たちの口を押さえて近くの茂みに飛び込んだ。
私は口と微妙に鼻も塞がれているのと、アーリーに触れているという事の恥ずかしさの2つで、真っ赤になってしまった。
「アーリーやめて、息が苦しいの!」と、目で合図すると
「あっちを見ろ」 と、目で合図をされたのでアーリーの視線の先をたどっていくと……
「んんんっ!? ヴァンパイア!? これがエンナの言ってた……ラ、ラーモック? だっけ? て、はぁ!?」
もちろん声が出せないので声は出していないが、頭の中のアンリーはぶっ飛んでしまった。
そして、ラー、ラー……もう、ヴァンパイアでいいや、ヴァンパイア達の人数は5,6人である。
顔は青白く、犬歯は顎まで伸びていて、服はボロボロの物を身に着けている。
さっきからキョロキョロと辺りを窺っている。
そして運悪く、アンリーはヴァンパイアの目が合ってしまった。
【キエェェェェ!!】
ヴァンパイアはアンリーの方を見て奇声を発しだした。
「にげろ!!」
アーリーが叫ぶと、フライゼとアーリーが、茂みから飛び出した。。
しかし、アンリーは動くことができなかった。
アンリーが動けないでいると、アーリーが戻ってきてアンリーを背負った。
「てめぇ、なに考えてんだ!? 死にてぇのか!?」
【キエェェェェ!!】
そんなことは構わず、奴らが奇声を発して追いかけて来る。
「走るぞ!!」
そう言うとアンリー達は迷路の庭を逃げ回った。
アンリー達は足に自信があったが奴らも、だいぶ速い。
アンリーも正気に戻って自分で走り出したが、さっきから聞こえる足音のせいで、足がすくんでなかなか動けない。
脇に植えている薔薇がさっきから腕に引っかかり、切り傷を作っている。
角を曲がったとき
「あぁっ!」
フライゼが突然叫んだ。
そう、目の前が行き止まりだったからだ。
【クェックェッキエェェー!!】
もう奴らはすぐそばに迫ってきている。
その瞬間、アンリネットは叫んでいた。
「プレスティエルポダー、ポダーデルフェゴ!!」
すると、彼らの目の前に炎が現れた。
ヴァンパイア達の2人は炎に巻き込まれて消えたが、
残りの5人はこちらに走ってくる。
次はフライゼが叫んだ。
「プレスティエルポダー、ポダーデルアクァ!!」
すると今度は地面から水が飛び出した。
と、思うと水が奴らを飲み込んで地面に消えてった。
残ったのは一匹。
【ガルルル……キュエウ! キエェェ!!】
奴が飛んできて、もうダメだ……。
そう思った瞬間、
「プレスティエルポダー、ポダーデルベルデ!!」
アーリーが叫ぶと、今まで周りにあった草や薔薇たちが動き出してヴァンパイアを掴んだ。
そして、薔薇の1つがまるで生き物のように動き始め、口のようなものを開けた。
あ、と言う間もなく、ヴァンパイアは呑み込まれた。
そして、完全にヴァンパイアを飲み込むと周りの草木とともに、跡形もなく消えて行った。
………………。
何があったんだ?
3人が3人共、同じことを考えていた。
そして、そろそろその沈黙に耐え切れなくなったアーリーが口を開いた。
「いまの……なんだったんだ……。」
「………………」
みんなが座ったまま立ち上がりもし無ければ、誰も話さないでいると自分たちの頭の上で声が聞こえて来た。
「お見事じゃ」
「へっ!?」
いきなりの事にみんなはビックリして上を見上げると……
髭がもさもさ生えたオジサンが笑っていた。
アーリーは疲れきった顔、しかし声色を変えずにこういった。
「誰だ、てめぇ……」
「てめぇ、とは何事じゃ? まぁ、こちに来たまえ」
そう言うとオジサンはスタスタと歩いて行った。
「しょうがないから付いて行こ……」
アンリーがそう言うと他の2人も立ち上がり、オジサンの後に続いた。
そしてオジサンの後に続くと、またさっきのあの家に戻ってきた。
「まぁ、ひとまずは疲れたじゃろうから、元の部屋に戻って休みなさい」
オジサンにそう言われてアンリー達は、自分たちがさっきまでいた部屋に戻った。
部屋に入ってベッドに倒れ込んだとたんに、疲れが襲てきた。
さっきの事が気になって仕方がなかったが、疲れの力の方が強く、夢の世界に引きずり込まれてしまった。
夢の中――――
「……か……おま…え……すく…う…だ……けが」
「だれ?」
アンリーが尋ねる。
しかし、応答はない……。
しばらくすると、またあの声が聞こえてきた。
「だ、…れも……、出来な、……お前らが、…」
先ほどよりは声も安定した高さになり、だいぶ文章が聞こえるようになってきた。
でも、何を言っているのかは、さっぱり分からない。
お前、救う、だけが、誰も、出来な(い?)お前らが?
………分かってたまるかクソ野郎……。
そこで、夢は終わる。
「う~~~~~~~~~む、よく分からん夢を見ちゃったので私は寝起きが悪いのだ!!と、呟いて起き上がった]
「ん、エンナ……」
呟いて後悔した。
今にも涙があふれそうだ。
ずっと、そばに居てくれて起きるのが遅い!!とか寝相が悪いだとか…
いつもいつも、からかわれる度に言い返していたことが懐かしい。
ぽた、ぽたと涙がこぼれ落ちた。
顔を何度拭っても涙が後から後から涙がこぼれ落ちる。
声を出しちゃいけない……そう思うほど悲しさが溢れてくる。
涙を袖で拭う度悲しさが積もる。
コンコン、「エンナ、入るぞ?」
その声の主は―――
「雲雀君…」
「やぁ、よく眠れたかい?」
「それが、そうでもなくってね…」
「僕もだ、妙な夢を見てしまってね」
「わ、私も変な夢見た……」
「え?…」
私の見た夢の内容を雲雀君に伝えると彼も同じ夢を見たという。
「う~ん、不思議だね。 取りあえず、番(つがい)に相談してみるよ。」
「つがい?」
「うん、君も昨日見た茶髪の子だよ。
そっか、雲雀君には番ちゃんがいるんだ………
「そっか、じゃあ私もうちょっと寝るね…」
「そうか、1人で大丈夫?」
もう、止めて…… そんな優しい声かけられたら…私……。
「もう、大丈夫だよ!! いつまでも子供じゃないんだから!! ほっといてよ!!」
はぁ、言っちゃった。
でも、これで雲雀君が私の事を嫌いになってくれれば良いの。
そうしたら、嫌でも諦められる。
今まで、私はそうやって人との付き合いに距離を置いてきた。
大好きな雲雀君に嫌われるのはとても辛い。
でも、それが1番傷つかない方法。
さよなら、雲雀君……… そんな風に思っていると
ガバッ
反抗する暇を与えずに、雲雀君の大きな手が私の腕を掴んだ。
「じゃぁ、なんでこんなに袖が濡れてるんだよ!!」
「あ、あぁ……」
「ばれちゃった…みてえな顔してんじゃねえよ!! そんなに俺が嫌いか!? どうしてだよ!?
俺はこんなにもお前の事が好きなのに!! アーリーとかいう奴もお前の事が好きなんだろ!?
お前はどっちなんだよ!? なぁ!?」
ん? 今、私の事が好きって言ったの? ハハ、またまたご冗談を……
「冗談じゃねえんだ!!」
え、私今喋ってなかったのに、心が読めるの? ドウシテ……
「お前の事が好きでっ、夜も眠れなくって、でも、こっちに気があるフリしてアーリーに懐いてるお前とか見たら正気じゃいられねえんだよ!!」
一気にしゃべったせいか息が切れている。
しかし、深呼吸するとこう言った。
「お前の、気持ちが知りたい」
ドキッっ!!
「あたしの、気持ち……?」
「そうだ、アンリーの気持ちだ…」
「すぐにじゃなくって良いんだ、返事を待つよ……」
そういうと雲雀は部屋から出て行った。
(さっきから何なのよ……)
俺はお前が好きだとか、お前の返事がほしいだの――――
「もう、ちょっとは私の気持ちに気づいてよっ!!」
そう叫ぶとアンリネットはベッドにダイブした。
その時の勢いでベッドがギギと数センチ動いてしまった。
あぁ、なんでリアルの世界はこうも残酷なのだろう。
私みたいのを非リア充っていうんだっけ?
お母さんは幼い時に他界。 父はアルコール中毒で頭がおかしくなった後、他界。
親戚たちにたらい回しにされ、挙句の果てには両親の保険金だけを手に入れて、私を殺そうとした人もいた。
その人たちは血の繋がりなんて無いような親戚であった気がする。
親戚ではなく、あの針のような目でこちらを見るあいつらは「針戚」
お前なんて居なければ…… 気持ち悪い、吐き気がするよっ! お姉ちゃんはバッチイってママが言ってたよ!!
バッチイバッチイ!! キャハハ! 1つ1つの言葉の針が胸に突き刺さる。
ある親戚の家では暴力を受けた。
「あなたは、とっても可哀そうな子……。
伯母さんの所へおいで」
そう言ってくれたのは母の姉、ミルチェさんだった。
沢山の酷い出来事の中で唯一の希望の光であった。
すでに信じる力を失っていた私は
すぐに打ち解けられなくっても、日を追うごとに仲良くなっていった。
それが罠だと分かった日――――
「あなたがとっても可哀そうな理由はね、疫病神が付いているからよ……。
疫病神を追い出さなくっちゃね!!」
「いや、いや!!」
「うふふふ、そんなこと言わないで~~。 きっとあなたのその綺麗なお顔を潰してしまえばいいのよ!
あははは、あははは!!!!」
そう言っている伯母さんの顔はまるで悪魔が取りついてしまったような、恐ろしい顔であった。
「いやぁぁぁぁぁぁぁっっ!!!!」
伯母さんは、毎日殴った。
蹴ったり、タバコの火を押し付けたり、ご飯を抜いて虫を食べさせられたこともあった。
そして、あの日、大量にお酒を飲んだ伯母さんが私をバルコニーから突き落とそうとした。
「やめてっ、やめてっ!!」
必死で叫んでいるのに、伯母さんは私の体をひょいっと持ち上げて落そうとする。
あぁ、もうダメだと思った瞬間に記憶が飛んだ。
目が覚めると………
自分はバルコニーで倒れていた。
下を覗くと伯母さんが倒れている。
後から聞いた話では、伯母さんは酔っぱらった勢いでバルコニーから落ちたらしい。
即死――――
私はそんな事はどうでも良かった。
助かった、
もう、誰も信じない。
自分の力で―――――
生きてゆくのだからっ!
この頃から人を信じなくなった。
信じる→裏切られる→信じる→裏切られる→信じない→社会的にやり辛い→信じたふりしてうまくやる→社会的にやりやすい女
感情がなくて、目標に向かって駆け抜けてゆき、障害物は情を入れずに空気を読んで破壊。
「友達」と言う存在は、人を信じないアンリネットにとって、使いようによってキングになるポーンとしてみてきた。
だから、自分の社会的存在のため他人を陥れる事に何とも思わない。
そんな時、ふと思う。
ほかの奴らはすぐ死ぬってのに、ほかの他人を思いやるとか…子供のために命を捨てる母親とか…
それが、生きる生き甲斐だとか…そんな風にほざいてる奴はキレイ事でしかないけれど、それがホントに正しい生き方なのかと、
でも、ずたぼろのハートは判断力を鈍らせていった。
もう、針や針戚に捨てられた時のように惨めな思いはしたくない。
そんな思いは砕かれた。
セリーヌ、アレーン、ラナザー達にだ。
そんな考え方、もったいないっしょ!
みんな一緒に居ることが楽しいんだよ?
確かに、アンタの言ってることは正しいよ。
この世に平等なんて存在しないし、傷つかないように生きるためにはいい方法だね。
でも、そんなんじゃーずっと不幸なままなんだよ。
生きるためには、食費とか金が必要だけど、この体は神か何かからタダでもらってんだから。
楽しむのに金が要りますか??
ただもんはもらっておけ!!
みんな、いい奴だった。
ブスッとして愛想もクソもない私を四十六中構ってくれた。
かけがえのない友達。
妖艶
ユフィーナ
」
「みんな、久しだね」
「はは、ユフィネは実家に帰ってたからなぁ」
ユフィネと呼ばれた少女は妖精のように微笑んでいる。
「ユフィネが居ない間、色んな事があったよねっ」
「ああ、例えばアレですか、アレ」
「アレ? って何?」
「教えねえよ、ってか聞いたらアンリー絶対に損するぞ」
「私が知りたいんだから良いでしょ!!」
「なら言ってやろう。 ユフィが実家に帰っている間、アンリーがコナンに告白された」
「んな!? こ、コザァート……///」
アンリーという少女は顔を真っ赤にしながら口をぱくぱく開けている。
コザァートと言う少年は無邪気に笑う。
「お、楽しそうじゃねえか……って、ユフィネじゃねえか!」
「久しぶり、レオン! 相変わらず元気そうね」
レオンと言われた少年は健康的に日焼けさせた顔をニヤッとさせた。
きっと、どこの国や地域でもあるような会話。
幸せそうな顔。
まさか、この後大変なことになるなんて、誰が予想しただろう?
そう、今は知らなくていい。
まだ、知るときではない。
今は……まだ…………。
「そうだ、今日は久しぶりにあの場所に行かない?」
「「「行く!」」」
「あんたらっ、うひゃひゃ、は、ハモりすぎだろ!!」
「アンリーもそんな笑い方しないでよぉ」
「ま、そんだけ仲がいいってことだな!」
「あったりまえじゃんっ!」
四人でベラベラと駄弁りながら歩いていく。
「確かこの木の先だったよね?」
「あったぞ!!」
「……やっぱり、何度見ても綺麗だな、生命の泉ってのは」
そう、私たちの言っていた場所というのは村の外れにある森の茂みに隠された泉。
私たちは生命の泉とよんでいる。
水はターコイズブルーに輝き、底の方にいる魚だって見ることができる。
「ここに来ると癒されるよねえ」
アンリーはうーんと背伸びをして近くの岩にもたれ掛かった。
「お前は……食うことと寝ること以外にすることねえのかよ……」
「うるさいなぁ、私だってダイエットしてますよーだ。 べぇ?」
「あ、ゆったな?」
わーきゃー言いながら二人でくすぐり合いを始めた。
〈〈 だいたい最近の物語の始まりってこうだよね。〉〉
俺が…………今見ている光景の意味を知りたい。
少女1はロリータ?服を着てぬいぐるみの中に埋もれている。
少女2は巫女さんのコスプレ?を着ていて、ペロペロキャンディーを食べている。
少女3は…………まだ来ていなかった。
ここは「休憩所その1」という学校にある部屋だ。
皆が廊下に溜まったりしないように、使えるようになっているのだが…………酷い。
酷すぎる。
ああ、俺は一刻も早くリア充になりたいのに、こんなやつらといたら………… 。
そのとき、最後の一人の少女が
「おっくれてすみませぇぇぇんっっ!!」
と、超音波飛ばしながら部屋に入ってきた。
もう、やめてくれ…………
〈〈日常てこんなもの?(。・ ω<)ゞてへ。〉〉
まず、俺の置かれている状況を説明しよう。
とある理由でこの学校にやって来た。
とある理由でこの部屋にいる。
とある理由で彼女達といる。
といる………………とありゅ?
まあ、とりあえず俺の隣に座っている少女は冬菜。
年がら年中ロリータ服を着ており、ぬいぐるみを持ち歩いている。
家はお金持ちだとかどうとか。
以上。
それから冬菜の隣の少女は秋恵だ。
彼女は日毎に少しずつ違うが、巫女装束を着ている。
前髪がいつも顔にかかっており、口しか見えない。
またその口も口角が上がりっぱなし、つまりずっと笑っているのだ。
いじめられても、ヘラヘラ。
ご飯の時も、ヘラヘラ。
さらには寝るときまで、ヘラヘラ。
…………ミステリアスすぎる。
そして秋恵の隣の三人目の少女は春華。
夏でもブレザーを着ており、右目には眼帯をしている。
なんでも幼い頃に事故で片目と両親を亡くしたらしい。
いまは最近テレビにも出ている親戚の龍博士と暮らしている。
頭は賢く運動もできるのだが、なにせ一般常識が理解できていない。
天然というかKYだ。
以上。
まあ、こんなものだろうか。
これで大体…………いや、俺の紹介がまだだったな。
「俺の名前は夏鈴、名前が女みたいだが立派な男子中学生だ。
今はリア充でなくともいつかきっとリア充になれる、いやリア充なんだ、俺は。
仲間が全然リア充じゃないけど、普通の暮らしさえしていればリア充だったはずだったんだ。
ま、俺はすごい秘密があってそれをどうにかしない限りはリア充にはリア充…………
りゃ充、りゃじょう、りゃずる…………
そんなことはどうでもよい。
俺は顔はカッコいいし、勉強は出来なくても運動できるし、皆が告白して来ないだけで告白されたらモテモテなんだ!!
だから………………」
「………………」
「………………」
「………………」
俺って、今声に出して…………?
…………時は戻せない。
冬菜はマジでドン引きしてる。
秋恵は鞄から「悪霊退散」とかかれた紙袋をとりだした
さよなら、人生。
さよなら、リア充……………………。
「と言って現実逃避しちゃダメですよ?」
バチバチッと音がして俺の体に電気が走る。
スタンガン いつも持ってる 冬菜さん_____
575を読み上げた俺は意識が遠のいて行くのを感じていた。
〈〈
「ふあぁ、眠い…………」
あくびをしながら起き上がる。
見慣れた光景?が広がっている。
見慣れた壁紙、見慣れた美少女たち。
見慣れた非リア充…………
語っていて悲しくなってきた。
スタンガンだよ?スタンガン。
まぁ、いいや。
「春華ー、今何時だ?」
「えっと、よじです」
(もう4時か、今日は短縮授業だったしそろそろ帰るかな?)
「まちがえました、じゅうにじにじゅっぷんです」
春華、短針と長針なんて今どき幼稚園の子でもできるよ?
「久しぶりにゲーセンでもいくか?」
「あんたが誘うなんて珍しいわね」
「わたしも、りゅうはかせにおこづかいもらった」
「秋恵も行こうぜ!」
「んじゃ、皆で……………………」
「「「「レッツゴー!!!」」」」
俺は抹茶クレープ、冬菜はべりー×2ストロベリーみるく、秋恵はチョコバナナ、春華は
『三十分以内に当店のメニュー27種類を全て食べたらお連れ様の会計もすべてタダになるチャレンジコース』を頼んでいた。
春華はとんでもない大食いで食べだしたら止まらない。
本人は満腹感というものがないようで、毎回購買で売れ残って処分に困っているパンをすべて食べている。
もちろんタダで。
そんな晴夏さんなので、開始10分くらいにはもう17種類を食べ終えていた。
(クレープ屋さん、すまない……)
心の中で軽く謝っておきながら俺は抹茶クレープを頬張る。
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