零零機工斗 2013-11-15 09:41:13 |
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・地の文を増やす
・上峰がカナチに「なにができるのか」と聞いた理由を追加
・というかこれ続くとしたら他のトリップ者捕獲と一緒になるのでは....
パート2は誰が書きますか?
順番通りだと他のトリップ者捕獲とごっちゃになるので....
>勇輝
返信遅れてすみません。
そうですね、SSを投稿した順番ですと勇輝さんが次ですが、その前に閑話を一つ投下しようと思ってます。
金薙さんより、改訂版を受け取りました。
――上峰達がアリスと遭遇する数日前――
「ん? ……にんげ…………ん?」
宵星煌太は、地面の上で倒れている人物を見て、驚かざるを得なかった。
まず、服装が変わっている。
大抵のホームレスすらTシャツとジーンズを着ているこのご時世、布を纏っただけの質素な服装はそうそう見ない。
どこかの国の古代から伝わる族の服だろうか。
短いが杖も握っているため、その可能性が高いと宵星は見た。
顔は、見たところ少年の様だ。
歳は中学生くらいだろうか、中性的な顔立ちをしている。
何より目を引くのは、その白い髪だ。
アルビノというやつなのだろうか。
それなら日本人の可能性もあるだろうが、やはり服装が日本人にしてはおかしい。
問題は、何故アスファルトなんかの上で倒れているのか。
そして何者なのか。
「うっ、つぅ……ここは……?」
少年が起きた。
それを見て宵星はハッとした。
少年が倒れている位置、それは道路の上だ。
車が来なかったから良かったものの、今来たら大変なことになる。
道路
そこ
にいたら危ない、と声をかけようと、宵星は走った。
少年はアスファルトをペタペタ触って何やら首を傾げていたが、宵星に気づく様子はない。
しかし、背後から近づくトラックには気づいた様だ。
「おい、危ないぞ!早くそこからどくんだ!」
これじゃあ走っても間に合うかわからない。
不安から少し速度が弱まったが、すぐに全速力に戻して宵星は走った。
しかし、少年が自分から動くことはない。
(もう駄目だ……!)
急ブレーキがかかっても、その慣性で少年の方向にトラックが吸い寄せられていた。
やはり、とても間に合いそうにない。
――ブォンッ!
突如、少年の姿が揺れた。
「あっぶねえええ!」
声のする方向を見ると、真横だった。
少年がこちらの歩道に飛んでいたのだ。
「え?」
飛んだこと自体は不思議じゃない。
生存本能が働いたのだろう。
ただ、あの距離で間に合うことはほぼ不可能だった。
少なくとも、それなりに運動してる宵星でもあれは無理だと確信していた。
「なんだったんだ今の!すっげえ速ぇええ!」
目をキラキラさせながら急ブレーキでやっと止まったトラックを見つめる少年。
数秒前に命の危険に晒されていた者の表情ではない。
「お、おい!大丈夫か!」
トラックの運転手であろう男性が降りてきて、声をかけてきた。
その視線の先には少年と、宵星がいる。
「け、怪我はないか?一応救急車呼んでおくぞ」
悪いのは明らかに道路の真ん中で座っていた少年の方なのに、随分とお人良しな運転手なのだろう。
その目に怒りはなく、純粋に心配だということが伝わった。
「なあ!今のなんだ!?馬車か!?でも馬がいないな、新種の魔物か!?」
「はあ?」
宵星は運転手の奇声と混乱に納得できた。
とても引き殺されそうになった人のものとは思えない、満面の笑みで引きそうになった自分に尋ねてくるからだ。
「……車を知らないのか?」
宵星が、気づいた様に呟いた。
それならその態度に納得……はできない。
死にかけたのだから。
だが、それほどの田舎なら服装も納得できる……かもしれない。
やはりおかしいことばかりの子供だ。
だが、何故か、宵星は咄嗟に対応ができた。
「あ、すいません、救急車は必要ないです、見た通りピンピンしてるので、この子」
「そ、そうか……俺もトラックも中に荷物はないし、無事だから何の問題もねぇな……よし、帰るか。すまねぇな坊主、怖がって……はなさそうだが」
「?」
状況が飲みこめずにいるのか、首を傾げる少年。
その後去っていくトラックを見送り、宵星は行動に出た。
宵星は事情を聞いてみようと決意した。
理由は単純な好奇心ではあるが、放ってはおけないというのもある。
「君、どこから来たんだい?」
「どこって……あ、ここどこだ?さっきまで森にいたのに……確か……銀色の狐!あいつか!あいつ、幻影魔法使えるのか!」
話が明らかに噛み合ってない。
「も、森?この辺りに森なんてないぞ」
「うるさい幻、俺をあの狐の元に返せ!早くあれを売って儲けるんだよ俺は!」
……噛み合うどころかこっちの話を聞いてくれない。
「俺は幻じゃないし、この辺りで狐なんて出ない。 一旦落ち着いてくれ」
「幻じゃ、ないのか……?」
案外あっさりと信じてくれた。
「じゃあ、ここはどこなんだ?」
「ここは紅陽町だよ」
「クレナイチョウ、聞いたことないな……国の名前は?」
「日本」
「全然知らない……」
「……え?」
流石の宵星もこれはおかしいと気づいた。
今いる国の名前すら知らないのではただの田舎者では済まないからだ。
「……ひとまず、うちに来ないか?」
「……うん」
本人はまだ知らないが、異世界人というとんでもない迷子を引き取った宵星であった。
――数日後のとある公園――
「待て待て―!」
そこには自分の住んでいた世界と違うという認識をしながらも無邪気に猫を追いかけまわしている少年――カナチの姿があった。
「やっぱりすばしっこいな。だけど速さなら負けないぞ!」
トラック(本人は何かの魔物と勘違いしているが)に轢かれそうになった時に使った加速魔法を使い猫の逃げ道を封じたカナチは容赦なく抱き上げた。
「全くこっちに来てから魔力が回復してないのと同じくらいなのに魔法を使わせやがって、このこの」
言葉では叱っているようだが、実際には撫でまわしたり、モフモフしたりと怒っている様子は全くない。
「煌太もいないから暇なんだよなー。と、なんだあれ?」
|猫(モフモフ)を存分に楽しんでいるとこちらに飛んでくる人の姿を発見して眺めていると目の前で急停止した。
「″にゃー″を発見。保護を開始する」
「ん?お姉さん誰?」
「アリスは固有名称アリス=|M(ミュー)=カタグラフィ、個体識別コードRDG79J23M8JD。アリスは固有名称の開示を要請する」
「固有名称?名前ってことか?」
「|肯定(ポジティブ)」
「なんかよく分かんないけど、僕はカナチって言うんだ」
「対象の固有名称を″カナチ″で登録。続いて個体識別コードの開示を要請する」
「個体識別コード?んなもん無いぞ」
「アリスは″カナチ″を″上峰達也″と同じであると仮定」
「他にも居たのか」
「|肯定(ポジティブ)。対象までの距離200m。近づいてきている」
アリスの指差した先を見るとこちらに向かってくる姿がいくつか見える。先頭はどうやら鳳楽のようだ。
「やっと見つけたー。もうアリスったら自分の状況分かってるの?」
「理解不能。説明を要求する」
「つーまーり。私たちは今あのキクトっていう神様のところにいないといけない訳だよ」
「それなら|肯定(ポジティブ)。アリスは帰還場所として″上峰達也″の家をマークしてある」
「それならいいんだけどー?で、この子何?」
「それなら僕が説明できますよ。その子も異世界人です」
「あ、キクトお疲れ―」
いきなり多くの人に囲まれて自分の今の状況が上手く掴めていないのか疑問符を頭の上に浮かべる。
「ん?何が起こってるんだ?」
「えぇっとですね。本来はその猫を探索していたんですが、偶然にもあなたを見つけたんですよ。それも異世界からの転移者を」
「ふーん。で、あんたらは何者?」
異世界からの転移というワードを聞いても、反応が薄すぎる。本当に話を理解しているのか気になるが、今ここで説明しても時間がかかるということで自己紹介に移る事にしたキクトたち。
「アリスは先ほど名乗った」
「わたしは鳳楽ちゃん。なーんの変哲もない一般人だよー」
「嘘を言わないでください!あなたのような一般人はいません!僕はキクトという神様です」
「僕の住んでるところにあんたみたいな神様はいなかったと思うぞ」
「へぇ、神というのを疑わないんだね」
「ん?一流の召喚士で協会にいる人間なら普通に召喚してたぞ?」
「僕は少し違うんですよね。それで君の名前は?」
「僕はカナチっていうんだ。ここが異世界ならギイルって世界に住んでいたぞ」
「ギイルですか」
「それってどんなとこー?」
「簡単に言えば剣と魔法の世界ですね」
「ここにいたのか。やっと見つけたぞ」
「おや、割と早かったですね達也さん」
ここでようやく合流した達也。余談だがカナチは早いの言葉に少し反応した。
「あんたなんて言う名前なんだ?あ、僕はカナチな」
「俺は上峰達也っていうんだが、こいつもか?それとお前ら速すぎ迷ったじゃないか」
「はい。異世界人ですね」
「連れていかないといけないのか?」
「そうなりますね」
「連れて行くって?僕は煌太の所にいるんだけど」
「誰ですか?」
「んーと、営業マンとか言う宵星煌太っていう人のところだ」
「完璧に地球人ですね」
「ん?だったらもうそいつに任せちゃえばいいじゃんか」
「何もわかってませんね?あなたは例外ですがその煌太という人は一般人です。ですのでご都合主義的な神様の力で忘れるはずです」
「あぁ、そういえばそんなこと言ってたな」
「まぁ、強制的にこちらに巻き込むことにしますけど」
「おいこら駄神」
「いや、だってカナチ君を一時的とはいえ救って養っているのですよ?もう普通ではいられませんよ」
「ふ~ん、そんなもんなんだ~」
「それで、今その人はどこにいるんですか?」
「煌太だったら、そこにいるぞ?」
「え!?」
慌てて後ろを振り向くと、そこにはなにやら怪しい者を見る目つきでケータイを構える煌太の姿があった。
「あんたらは、何してんだ?」
「え、えぇっとですねー」
「こいつらはなんか神とか言ってたぞ」
何と言おうか考えていたところに特大級の爆弾が撃ち込まれた。
「ほぉ、その神様とやらがなんでこんなところに?」
問いかけは優しく聞こえるが、目は笑っておらず手に持っているケータイには110がすでに打ち込まれていた。
「ち、違うんです!いえ、実態的には違いませんが、この子に話しかけているのは全然別の事なんですぅぅぅ!」
「言い訳を聞こうじゃないか」
顔に笑みを張り付ける事すら止めた煌太が詰め寄る
「それはですね、カナチ君が異世界人だから、ではなくてその抱きかかえた猫がうちの猫なんですよ!」
「待て、今異世界人といったか?」
「え?あ、しまったぁぁぁぁ!!」
「落ち着け駄神」
「駄神言わないでくださいよ!」
「もしかしてカナチの不思議な力について何か知っているのか?」
「あぁ!もう何も聞かないで、って不思議な力?」
「妙に加速したり、変な物体を出してそれをぶつけたりとか。そんな感じの力だ」
「それは知りませんが、まぁ何か使えるというくらいは分かります」
話が妙な方向に飛んだという事を考えつつ状況を見守る達也。アリスと鳳楽はすでに猫と遊び始めている。
話の流れに追いついていけずにポカーンとなっているカナチに声をかけるキクト
「それで?カナチ君は何が出来るのです?」
「えっ、あ!魔法を使えるぞ!見せてやる!」
周囲の反応を見ないで、杖を前に構え、目を閉じて集中し始めるカナチ。
「行け!<スプリット>!」
杖から飛び出した白い弾丸状のエネルギーがポイ捨てされていた空き缶に命中する。
缶は凹みながら吹き飛び、近くのゴミ箱に入っていった。
速度としてはプロ野球選手の投げるボール並みである。
「どんなもんだ!」
「何今の?」
「無属性魔法<スプリット>ですね。あんなに速いものでしたっけ?」
「僕は速い物が好きだからな!」
「これについて、何か知っているのか?」
「えぇ、というか異世界の魔法の一つで<スプリット>と呼ばれる魔力を固めて前方に打ち出す物ですね。初歩的な魔法だから使い手はあまりいませんのでここまでの速度を出すとは思いませんでしたが」
「ということは、カナチお前は動きを速くする魔法も使えるのか?」
「おう!というか最初の時に見せたじゃないか。名前は<フィジカルスピードアップ>って言うんだぞ!」
カナチとキクトの非現実的な説明を受けた煌太はいまだ信じられないような表情だが、手に持っていたケータイはすでに仕舞われていた。
「お前は本当に神なのか?」
「え、えぇ。ですがこの世界に描かれている万物を創造した存在ではなく、いろんな世界を管理する存在ですが」
目の前の神様(自称)の言葉を信じていいのかどうか悩んでいたが、カナチの魔法という存在を目の当たりにして自分を納得させた煌太は信じてみる気持ちになっていた。
「それで、お前らはカナチをどうするつもりだ?」
「子供とはいえ異世界人ですからね。一旦家で保護をしてから帰すことになります」
「帰すのか」
「世界の安定のためなんですよ。それで一つ提案なのですが」
「何だ?」
「普通でしたら異世界人とかかわった一般人の方の記憶は消去させてもらうのですが、あなたは特例ということにして偶にでいいのでカナチ君と会ってくれませんか?」
「何でそんなことを?」
「まだ子供ですからね。自分の知らないところにいきなり飛ばされて数日後には知らない人たちの所に行くというのも酷な話ですから、少しでも信頼されている人が時々でも来てくれるというのはそれなりに安心できるでしょうしね」
「そういうことなら、分かった。カナチもそれでいいのか?」
「んー、何となくだけど悪い奴らじゃないってのは分かるから問題ないぞ」
こうしてまた一人上峰の家に居候が増えたとさ。
「食費、どうなんだろ。」
ため息をつく達也に鳳楽が一言。
「そんなのわたしが何とかすればいいだけじゃん?何を悩んでいるのさ」
「だから、それを使うのがためらわれるって言うんだよ!」
「な んでよー。藁をもすがるって言うじゃない。気にしたら負けだよ」
「もういいや」
にぎやかな会話をする達也たちを見て、カナチは自分の家族や友達を思い浮かべるのであった。
編集完了です。ネムイ。。。
――上峰達がアリスと遭遇する数日前――
「ん?……にんげ…………ん?」
宵星煌太は、地面の上で倒れている人物を見て、驚かざるを得なかった。
まず、服装が変わっている。
大抵のホームレスすらTシャツとジーンズを着ているこのご時世、布を纏っただけの質素な服装はそうそう見ない。
どこかの国の古代から伝わる族の服だろうか。
短いが杖も握っているため、その可能性が高いと宵星は見た。
見たところ少年の様だ。
歳は中学生くらいだろうか、中性的な顔立ちをしている。
何より目を引くのは、その白い髪だ。
アルビノというやつなのだろうか。
それなら日本人の可能性もあるだろうが、やはり服装が日本人にしてはおかしい。
問題は、何故アスファルトなんかの上で倒れているのか。
そして何者なのか。
「うっ、つぅ……ここは……?」
少年が起きた。
それを見て宵星はハッとした。
少年が倒れている位置、それは道路の上だ。
車が来なかったから良かったものの、今来てしまったら大変なことになる。
道路そこにいたら危ない、と声をかけようと、宵星は走った。
少年はアスファルトをペタペタ触って何やら首を傾げていたが、宵星に気づく様子はない。
しかし、背後から近づくトラックには気づいた様だ。
「おい、危ないぞ!早くそこからどくんだ!」
これじゃあ走っても間に合うかわからない。
不安から少し速度が弱まったが、すぐに全速力に戻して宵星は走った。
しかし、少年が自分から動くことはない。
(もう駄目だ……!)
急ブレーキがかかっても、その慣性で少年の方向にトラックが吸い寄せられていた。
やはり、とても間に合いそうにない。
――ブォンッ!
突如、少年の姿が揺れた。
「あっぶねえええ!」
声のする方向を見ると、真横だった。
少年がこちらの歩道に飛んでいたのだ。
「え?」
飛んだこと自体は不思議じゃない。
生存本能が働いたのだろう。
ただ、あの距離で間に合うことはほぼ不可能だった。
少なくとも、それなりに運動してる宵星でもあれは無理だと確信していた。
「なんだったんだ今の!すっげえ速ぇええ!」
目をキラキラさせながら急ブレーキでやっと止まったトラックを見つめる少年。
数秒前に命の危険に晒されていた者の表情ではない。
「お、おい!大丈夫か!」
トラックの運転手であろう男性が降りてきて、声をかけてきた。
その視線の先には少年と、宵星がいる。
「け、怪我はないか?一応救急車呼んでおくぞ」
悪いのは明らかに道路の真ん中で座っていた少年の方なのに、随分とお人良しな運転手なのだろう。
その目に怒りはなく、純粋に心配だということが伝わった。
「なあ!今のなんだ!?馬車か!?でも馬がいないな、新種の魔物か!?」
「はあ?」
宵星は運転手の奇声と混乱に納得できた。
とても引き殺されそうになった人のものとは思えない、満面の笑みで引きそうになった自分に尋ねてくるからだ。
「……車を知らないのか?」
宵星が、気づいた様に呟いた。
それならその態度に納得……はできない。
死にかけたのだから。
だが、それほどの田舎なら服装も納得できる……かもしれない。
やはりおかしいことばかりの子供だ。
だが、何故か、宵星は咄嗟に対応ができた。
「あ、すいません、救急車は必要ないです、見た通りピンピンしてるので、この子」
「そ、そうか……俺もトラックも中に荷物はないし、無事だから何の問題もねぇな……よし、帰るか。すまねぇな坊主、怖がって……はなさそうだが」
「?」
状況が飲みこめずにいるのか、首を傾げる少年。
その後去っていくトラックを見送り、宵星は行動に出た。
宵星は事情を聞いてみようと決意した。
理由は単純な好奇心ではあるが、放ってはおけないというのもある。
「君、どこから来たんだい?」
「どこって……あ、ここどこだ?さっきまで森にいたのに……確か……銀色の狐!あいつか!あいつ、幻影魔法使えるのか!」
話が明らかに噛み合ってない。
「も、森?この辺りに森なんてないぞ」
「うるさい幻、俺をあの狐の元に返せ!早くあれを売って儲けるんだよ俺は!」
噛み合うどころか、こっちの話さえ聞いてくれない。
「俺は幻じゃないし、この辺りで狐なんて出ない。 一旦落ち着いてくれ」
「幻じゃ、ないのか……?」
幻呼ばわりした割には案外あっさりと信じてくれた少年だった。
「じゃあ、ここはどこなんだ?」
「ここは紅陽町だよ」
「クレナイチョウ、聞いたことないな……国の名前は?」
「……日本だけど」
「全然知らない……」
「……え?」
流石の宵星もこれはおかしいと気づいた。
今いる国の名前すら知らないのではただの田舎者では済まないからだ。
「……ひとまず、うちに来ないか?」
「……うん」
本人はまだ知らないが、異世界人というとんでもない迷子を引き取った宵星であった。
――数日後のとある公園――
「待て待てー!」
そこには自分の住んでいた世界と違うという認識をしながらも無邪気に猫を追いかけまわしている少年――カナチの姿があった。
「やっぱりすばしっこいなっ、だけど速さなら負けないぞ!」
トラック(本人は何かの魔物と勘違いしているが)に轢かれそうになった時に使った加速魔法を使い、猫の逃げ道を封じたカナチは容赦なく抱き上げた。
「全く、こっちに来てから魔力が回復してないのと同じくらいなのに魔法を使わせやがって、このこの」
言葉では叱っているようだが、実際には撫でまわしたり、モフモフしたりと怒っている様子は全くない。
「煌太もいないから暇なんだよなー。っと、なんだあれ?」
猫モフモフを存分に楽しんでいるとこちらに飛んでくる人の姿を発見して眺めていると目の前で急停止した。
「″にゃー″を発見。保護を開始する」
「……お姉さん誰?」
空から見下ろされるという体験は初めてのカナチだが、そんなことで動じる器ではなかった。
「アリスは固有名称アリス=Mミュー=カタグラフィ、個体識別コードRDG79J23M8JD。アリスは固有名称の開示を要請する」
「固有名称?名前ってことか?」
「肯定ポジティブ」
もちろん、カナチの世界でも固有名称なんて単語はそうそう使われない。
しかし変な状況が続いてるカナチにとって、そんなことは些細なことでしかなかった。
「なんかよく分かんないけど、僕はカナチって言うんだ」
「対象の固有名称を″カナチ″で登録。続いて個体識別コードの開示を要請する」
「こたいしきべつ……何て?んなもん無いぞ」
「アリスは″カナチ″を″上峰達也″と同じであると仮定」
「他にも僕みたいなやつが居たのか?」
「肯定ポジティブ。対象までの距離200m。近づいてきている」
アリスの指差した先を見るとこちらに向かってくる姿がいくつか見える。
先頭はどうやら鳳楽のようだ。
鳳楽達の姿を確認すると、アリスはやっと空からゆっくり降りて着地する。
同時に、鳳楽がアリスに声をかける。
「やっと見つけたー。もう、アリスったら自分の状況分かってるの?」
「理解不能。説明を要求する」
「つーまーり。私たちは今あのキクトっていう神様のところにいないといけない訳だよ。場所わかる?」
「そのことなら肯定ポジティブ。アリスは帰還場所として″上峰達也″の家をマークしてある」
「それならいいんだけどー?で、この子、何?」
今更カナチの存在に気づく鳳楽であった。
気づかれてなかった本人は特に気にしてないが。
途中からやっと追い付いた少年、キクトが息を切らしながらもカナチの説明をしようとする。
「そ....それなら、僕が、説明できますよ....!その子も異世界人、です」
「あ、キクトお疲れ―」
いきなり多くの人に囲まれて自分の今の状況が上手く掴めていないのか疑問符を頭の上に浮かべる。
「何が起こってるんだ?」
「えぇっとですね。本来はその猫を探索していたんですが、偶然にもあなたを見つけたんですよ。異世界からの転移者を」
いつの間にか息を取り戻しているキクト。
体力回復も神様補正の一つらしい。
「ふーん。で、あんたらは何者?」
異世界からの転移というワードを聞いても、反応が薄すぎる。
本当に話を理解しているのか気になるが、今ここで説明しても時間がかかるということでキクト達は自己紹介に移る事にした。
「アリスは先ほど名乗った」
「わたしは鳳楽ちゃん。なーんの変哲もない一般人だよー」
ヘラヘラと笑っていながら当然のごとく嘘を吐く鳳楽。
「嘘を言わないでください!あなたのような一般人はいません!」
「ほらほら、キクトも自己紹介」
「う……僕はキクトという、所謂神様です。下っ端ですが」
神様というのを聞いても顔色一つ変えないカナチ。
「僕の住んでるところにあんたみたいな神様はいなかったと思うぞ」
「へぇ、神というのを疑わないんだね」
「ん?一流の召喚士で協会にいる人間なら普通に召喚してたぞ?」
厳密に言うとそれらはただの精霊で、力が強いから神と崇められているのだが、カナチがそれを知るはずもなかった。
「僕は少し違うんですよね。それで、君の名前は?」
「僕はカナチっていうんだ。ここが異世界ならギイルって世界に住んでいたぞ」
「ギイルですか……」
「それってどんなとこー?」
「簡単に言えば剣と魔法の世界ですね」
そんな本題から逸れてきている何気ない会話を中断したのは、やっとのことで追いついた上峰達也の声だった。
「ここにいたのか。やっと見つけたぞ」
「おや、割と早かったですね達也さん」
ここでようやく合流した達也。
因みにカナチは「早い」という単語に少し反応を示していた。
「あんたはなんて言う名前なんだ?あ、僕はカナチな」
「俺は上峰達也っていうんだが……ひょっとして、こいつもか?」
「はい。異世界人ですね」
「連れていかないといけないのか?」
「そうなりますね」
「連れていく」という単語を聞いてしばらくし、やっと自分のことだと気づくカナチ。
「連れて行くって?僕は煌太の所にいるんだけど」
「誰ですか?」
突然知らぬ名を出され、少し驚くキクト。
「んーと、営業マンとか言う宵星煌太っていう人のところだ」
「地球人じゃねぇか」
「完璧に地球人ですね」
「ん?だったらもうそいつに任せちゃえばいいじゃんか」
「何もわかってませんね?あなたは例外ですがその煌太という人は一般人です。ですのでご都合主義的な神様の力で忘れるはずですが、それが何故か効いていないのです」
実際はキクトがその力をカナチに使用する前に既に達也との騒動があったため、彼はカナチのこの世界への影響を抑えることは殆どできていなかった。
キクトはそんな自分の失態を忘れ、なかったことにしているのだが。
幸い、宵星が保護したおかげで影響は最小限に抑えられているのだが、それを知る者はこの場にはいない。
「あぁ、そういえばそんなこと言ってたな」
「まぁ、強制的にこちらに巻き込むことにしますけど」
「おいこら駄神」
「いや、だってカナチ君を一時的とはいえ救って養っているのですよ?もう普通ではいられませんよ」
「ふ~ん、そんなもんなんだ~」
「それで、今その煌太さんとやらはどこにいるんですか?」
「煌太だったら、そこにいるぞ?」
「え!?」
慌てて後ろを振り向くと、そこにはなにやら怪しい者を見る目つきでケータイを構える煌太の姿があった。
「あんたらは、何してんだ?」
「え、えぇっとですねー」
「こいつらはなんか神とか言ってたぞ」
何と言おうか考えていたところに特大級の爆弾が撃ち込まれた。
しかもカナチには達也達全員が神様だと誤解されている。
「ほぉ、その神様とやらがなんでこんなところに?」
問いかけは優しく聞こえるが、目は笑っておらず手に持っているケータイには110がすでに打ち込まれていた。
「ち、違うんです!いえ、実態的には違いませんが、この子に話しかけているのは全然別の事なんですぅぅぅ!」
「言い訳を聞こうじゃないか」
顔に笑みを張り付ける事すら止めた煌太が詰め寄る。
「それはですね、カナチ君が異世界人だから、ではなくてその抱きかかえた猫がうちの猫なんですよ!」
「待て、今異世界人といったか?」
聞きなれないが、どこか辻褄が合うような気がした宵星はその言葉に目を見開いていた。
「え?あ、しまったぁぁぁぁ!!」
「落ち着け駄神」
「駄神言わないでくださいよ!」
「もしかしてカナチの不思議な力について何か知っているのか?」
「あぁ!もう何も聞かないで、って不思議な力?」
「妙に加速したり、変な物体を出してそれをぶつけたりとか。そんな感じの力だ」
「それは知りませんが、まぁ何か使えるというくらいは分かります」
話が妙な方向に飛んだという事を考えつつ状況を見守る達也。
アリスと鳳楽はすでに猫と遊び始めている。
話の流れに追いついていけずにポカーンとなっているカナチに声をかけるキクト。
「それで?カナチ君は何が出来るのです?」
「えっ、あ!魔法を使えるぞ!見せてやる!」
周囲の反応を気にせず、杖を前に構え、目を閉じて集中し始めるカナチ。
「行け!<スプリット>!」
杖から飛び出した白い弾丸状のエネルギーがポイ捨てされていた空き缶に命中する。
缶は凹みながら吹き飛び、近くのゴミ箱に入っていった。
速度としてはプロ野球選手の投げるボール並みである。
「どんなもんだ!」
「何今の?」
「無属性魔法<スプリット>ですね。あんなに速いものでしたっけ?」
「僕は速い物が好きだからな!」
「これについて、何か知っているのか?」
「えぇ、というか異世界の魔法の一つで<スプリット>と呼ばれる魔力を固めて前方に打ち出す物ですね。初歩的な魔法だから使い手はあまりいませんのでここまでの速度を出すとは思いませんでしたが」
「ということは、カナチ。お前は動きを速くする魔法も使えるのか?」
「おう!というか最初の時に見せたじゃないか。名前は<フィジカルスピードアップ>って言うんだぞ!」
カナチとキクトの非現実的な説明を受けた煌太はいまだ信じられないような表情だが、手に持っていたケータイはすでに仕舞われていた。
「お前は本当に神なのか?」
「え、えぇ。ですがこの世界に描かれている万物を創造した存在ではなく、いろんな世界を管理する存在ですが」
目の前の神様(自称)の言葉を信じていいのかどうか悩んでいたが、カナチの魔法という存在を目の当たりにして自分を納得させた煌太は信じてみる気持ちになっていた。
「それで、お前らはカナチをどうするつもりだ?」
「子供とはいえ異世界人ですからね。一旦家で保護をしてから帰すことになります」
「帰すのか」
「世界の安定のためなんですよ。それで一つ提案なのですが」
「何だ?」
「普通でしたら異世界人とかかわった一般人の方の記憶は消去させてもらうのですが、あなたは特例ということにして偶にでいいのでカナチ君と会ってくれませんか?」
「……また、何でそんなことを?」
「まだ子供ですからね。自分の知らないところにいきなり飛ばされて数日後には知らない人たちの所に行くというのも酷な話ですから、少しでも信頼されている人が時々でも来てくれるというのはそれなりに安心できるでしょうしね」
「そういうことなら、分かった。カナチもそれでいいのか?」
「んー、何となくだけど悪い奴らじゃないってのは分かるから問題ないぞ」
こうしてまた一人上峰の家に居候が増えたとさ。
「食費、どうなんだろうなぁ……」
ため息をつく達也に鳳楽が一言。
「そんなのわたしが何とかすればいいだけじゃん?何を悩んでいるのさ」
「だから、それを使うのがためらわれるって言うんだよ!」
「なんでよー。藁をもすがるって言うじゃない。気にしたら負けだよ」
「もういいよ……」
にぎやかな会話をする達也たちを見て、カナチは自分の家族や友達を思い浮かべるのであった。
次は勇輝さんの番ですね。その前にちょっとした閑話を書きます。
上峰の変化した日常を書きたいのですが、どんな感じで書きましょう?
家を拠点に、達也くんの日常を芯に変わったところを強調するように書くといいと思います。平和的な部分で異世界人の能力を有効活用してしまう達也くんもいいかもですね。アリスやキクトは使いやすそうですし
>詩歌さん
なるほどです
書いてみます!
その前に、勇輝さんが担当する回の序盤を書いて閑話と本編、同時進行で書くのはどうでしょうか?
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