青葉 2013-10-19 22:21:19 |
通報 |
僕がビックリする程の大きな声だった。寝ていた初穂にはさらなる驚きだっただろう。
初穂は飛び起き、膝枕で寝ていた体勢から早野君のとなりに行儀よく座る格好に納まった。
「何?どうしたの?」
寝起きの初穂は間の抜けた声を出している。
「あっ、掛井君……。そうだった、強引に連れてきたんだっけ。」
初穂は正面のソファーに座っていた僕を見つけて瞬きをした。
「初穂ちゃん、聞きたがってことを教えてあげるよ。」
早野君は、さっきとうって変わって穏やかな口調で初穂に話し掛けた。
初穂は隣にいる早野君の方に顔を向ける。
「翔太……。さっき大きな声を出したのは翔太?」
初穂は寝ぼけた顔をしている。
「そうだよ。ビックリさせちゃったかな。ごめんね。掛井君が来てくれて少し興奮しちゃた。」
「いいの。でも何て言ったの?寝てたらか判らなかった。」
「別に、起こしただけだよ。ありがとう、掛井君を連れてきてくれて。」
「そう。ならいいや。何か怒ってる声のような気がしたから。」
「そんなことより、僕と掛井君の間に何があったのか知りたがってたでしょう。」
「うん。知りたい。凄く興味ある。翔太のことは何でも知りたいの。」
初穂は覚醒してきたようで、ハッキリした顔つきになり始めた。
二人が会話する様子を伺っていると、何かが変だ。そんなふうに感じる。
「何があったのか、しっかりと初穂ちゃんにも聞いてほしい。僕が掛井君に何でお礼が言いたいのか、それと何で謝りたいのかをね。」
「うん。知りたい、知りたい。」
二人の会話を聞きながら僕は気づく。
おかしいのは初穂の目線だ。
初穂の顔は早野君の方を向いているが、早野君の頭一つ上に向けて話をしている。
早野君は正面に向き直る。
「掛井君、いろいろ疑問があるだろうね。例えば、初穂ちゃんは僕が死んでいるのに、こうしてここに僕が居ることに疑問を持たないのかとかね。」
なるほど。と思う。僕は自分のことばかり考えていて、そこまで考えていなかった。しかし、目の前で起きていることは現実離れしている。僕の頭も自分で思ってる以上に混乱しているのだろう。だが、そう言われればそうだと思うくらいは働いている。
少し考えると、早野君の言葉のうえで疑問が浮かぶ。
「早野君、初穂は何で小学生と付き合っている自分を受け入れているの?」
本人を前にして聞いて良いことなのか判らなかったが、そんなことは構っていられない。
「掛井君、呼び捨てにしないでよ。遠慮がなさすぎ。まあ、翔太がいいと言えば別にいいけどね。」
早野君より先に初穂が反応した。そして、
「それより、二人とも何を言ってるの?死んでるとか、小学生と付き合ってるとか。意味不明。解るように話してよ。」
と続けた。
だが早野君は初穂を無視して、僕の質問に答える。
「掛井君、初穂ちゃんは小学生と付き合ってるつもりはないんだよ。掛井君には当時の僕を見てもらっているけど、初穂ちゃんには成長したらこうなるだろうという僕の姿を見せているんだからね。」
そんなことが出来るのかと思うが、そうならば初穂の目線のことは納得がいく。
そして早野君は、
「それに、本当に付き合ってるわけじゃないからね。」
そう初穂の前で平然と言ってのけた。
初穂の顔が歪む。
「ちょっと翔太!どういう意味!?」
早野君は初穂を相手にせず、僕を直視している。
「初穂ちゃんが付き合っているのは、僕らの知らない他の誰かだよ。」
「翔太!ねえ、何の冗談なの!」
初穂が叫ぶ。だが早野君は初穂を見ようともしない。
僕は言う。
「でも初穂は話してた。早野君と付き合い始めた頃から最近のことまで。とてもリアルだった。作った話しとは思えなかったけど。」
これが思った通りの感想だ。
「それはそうだよ。初穂ちゃんは実際に体験したことを言ってるんだから現実味があるよ。ただ相手は僕じゃない。初穂ちゃんが今付き合ってる他の誰かだよ。僕は初穂ちゃんの記憶をすり替えたんだ。他の誰かと僕とをね。」
トピック検索 |