永宮 京 2013-08-30 17:31:20 |
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編集長は悩んでいた。
突然に現れ次々とベストセラー小説を生み出す一人の青年が居た。
彼の描く物語はミステリーばかりで、その殆どが誰もの虚を突いた独特且つ大胆不敵な物ばかりだった。
幻想的にしてリアルな怪事件の数々、前代未聞のトリック、其れらはラストに主人公の口から全てが語られるまで読者に一切の推理を許さない。
そして大胆すぎる性描写。
彼の織りなす世界観に、それはそれは驚いた物だった。
正に鬼才と呼ぶべき才能。
人々を魅せるには十分な物だった。
然し、困った事に。
彼は一切取材陣の前に姿を現す事は無かった。
編集長の私でさえお目に掛かったのは挨拶に来た一度きり。
此方のプロフィールは一切非公開とし、今後も自分に関する事は一つとして公開しないで欲しい、と言う彼の要望を飲み全ての取材を断って来た訳だ。
何分彼自身のガードが堅すぎる。
世間では“謎の鬼才”と呼ばれ、故にファンも多く存在する。
だが流石にこうも連絡に乏しくては逐一彼の身が案じられる。
其処でだ。
私は新たな編集と託けて一人の青年を雇い、彼の健康管理及び彼に関する情報提供を行わせる事にした。
無論、住み込みで。
早速その話を彼に電話で持ち出してみた所、新しい編集、と説明をしただけなのに私の意図を見事に見抜いて見せた。
情報提供とやらを程々にするならば来てもらって構わないとの事。
やれやれ、取り敢えず落ち着いた、と言う所だろうか。
長々と失礼、簡潔に説明すれば彼のファンの一人である貴方は審査を通り編集長に雇われ、彼の自宅で彼の世話をする事になった、と言う訳です。
少しずつ彼は貴方に心を許し、何時しか貴方の事ばかりを考えてしまう日々。
彼の想いは許されるのか、将又貴方に届く日は来るのだろうか…?
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