榊 浩介 2013-08-04 19:50:20 |
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今日は曇り空で風通しが良くとても気分が良い、私は近所の公園から住宅街に抜けて、せまい道路の道脇を上機嫌で歩いていた。
草が所々アスファルトを突き破って生えており、何となく歩く横目に生命力の凄さを感じたりする。
今は平日の昼間、人の気配が無いこの道を歩きながら、私はある人の家へと向かっていた。
角を曲がり家が左右に建ち並ぶ住宅街を早足で歩き、周りを伺いながら私は目当ての家を見つけ、その家の塀に足の脚力を上手い具合に使い飛び乗り、そのままその家の庭に入ってある人に会いに行く。
途中であの女に見つかったら終わりだ、木や草陰に隠れながら慎重に歩みを進めた。
運良くあの女は外には居ないようで、気配が無い。
私は内心嬉しさに包まれながら、それでも気は抜かずにそろそろと庭を歩いた。
初めて来た時の第一印象は、広い家だ。という単純なものだった。和風の外観に庭があり、その庭もまた広い、私は此処の生まれではないが、見かける度にこの家が羨ましく思えた。飢えや寒さなど微塵も感じさせはしない、立派な家。
たまにその家のお婆さんが庭の隅にある小さな花壇を世話しており、その姿は微笑ましかった。
子供も遊んだりしていたから家族で住んでいるのだろう。
そんな事を何日か続けていたある日、いつものように気を付けて少し欠けた塀の下から見ていたつもりだったのだが、子供達に見つかってしまった。
突然私を見付けて声をあげながら掛けて来る子供達を見て、とても驚いてしまい咄嗟にその場から逃げ出した。こんな事で誇りたくはないが、足は結構速い方なのだ。
そして勢いのまましばらく逃げて後ろを振り返っても、幸運な事に子供達は追ってきては居なかった。
ホッと胸を撫で下ろし、また翌日の昼頃にこっそりと庭を見ていると、何時から居たのか分からない、こっそりと歩み寄って来ていた昨日の子供達に気付かず、私はそのまま捕まった。
そしてそれが縁で、私はこの家に出入りするようになったのだ。
子供達は全員合わせて四人居り、皆女の子だった。年は一番上の子が7歳らしい。
彼女達は私を大変気に入ったらしく、家の縁側まで私を連れて行き、私の方が年上だというのに頭を撫でてきたり、身体を触ったりと忙しそうにしていた。騒ぐと面倒なので黙っていると、一人の子が「あんまり触ると死んじゃうよ。」と私の身体を守るように自身へ引き寄せた。
すると他の子達は、「そっか、ごめんね。」と手を引き、座って黙ったままの私を見ていた。
一つ言いたかったのは、私は触られた位では死なないという事だけだった。
それからは子供達のおかげでお婆さんとも知り合えた。私を見たお婆さんは私の頭をふわりと優しく撫でて、「可愛いねえ。」と呟くように言って微笑み、おやつにクッキーをくれた。
私はますますその家が大好きになり、幸せを感じながら通い続けた。庭に来ればお婆さんの花壇の手入れを見守ったり、家に入れてもらってご飯を食べたり、子供達の遊びの相手をしたり。
幸せな日々が続いていたのである、あの時までは。
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