主 2013-06-22 18:50:00 |
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…え、何でだ?
(カフェオレと化した元珈琲だったはずのそれをごくりと一口飲み下してから不思議そうに相手を見ると何故今このタイミングでそんなことを言われるのかどうやら自覚できていないらしく困惑したように僅かに首を傾けて。それから相手の視線をたどることでどうやらこのカフェオレ的物質がその発言の発端と理解したのか軽くカップを持ち上げながら口を開くと「俺、珈琲好きな人には悪いんだけどカフェオレ以上珈琲分?が多いの駄目なんだよ。苦いの苦手っつうか…なんつうの?珈琲だけのものの良さがいまいち分かんなくてさ。」などと説明すると苦笑したような微妙な表情で相手の黒々とした珈琲本来のそれを見つめ。自身甘党という訳ではないが苦いものは珈琲に留まらず基本苦手意識があり、だからこその珈琲に対しての暴挙に出たようなのだがどうやら珈琲好きに対してはこの行為があまり好かれないというか邪道だというか、いけないことだとは分かっているらしく僅かにしゅんと肩を落とし。先程からこちらを見て眉を寄せていた彼が気分を害してしまったのではと危惧したのかそっと様子を窺うように覗きこむような形で相手の顔を見ると「…ごめん、気ぃ悪くした?」などとどこかしおらしさの感じられる抑えた声で尋ねて。)
(己の発言に何故だと不思議そうに首を傾げる相手を少し細めた瞳で見つめる。何故周囲の人間から弄られるのか、何故周囲に人が集まるのか、何故これ程人を惹き付け夢中にさせるのか、こいつは全く理解していない。今もそう、珈琲本来の飲み方を否定された事に己が機嫌を損ねていると思い込み、そんな些細な事を馬鹿みたいに真剣に心配してくる。此方を覗き込んでくる相手の不安げで申し訳無さそうな表情と添えられた声音は妙にしおらしく、こんな部分も人を惹き付ける要素だと思うと彼の無自覚さと鈍感さに少々苛立ちを覚えてしまい)
してねぇよ。
(珈琲に関しての事にそう一言だけ素っ気なく返せば一足先に取り終えた朝食の食器を片付けるべく立ち上がり。それらをキッチンへと運んだ後何処からか救急セットのような物を手にし戻って来て。未だ何処か仏頂面のまま相手の傍に腰を下ろすと、足に巻かれた包帯を外しながら「…お前のそのお気楽さが気に入らねぇ」と、相手には訳が解らないであろう台詞を独り言のように呟き。それは嫉妬と独占欲を孕んだ完全な八つ当たりである事を自覚している為か、視線を合わせる事なく包帯の交換作業を淡々と進めて)
…はあ?何それ、つかなんでいきなり怒ってんだよ。
(珈琲好きに対しては良くないであろう行為をしたのは確かに自分だがどうやら相手の口振りから読み取るに怒りの矛先はそのことに対して向いているようではなく、何か別のことに対して怒っているのだろうとは分かったがだからといって何故いきなりお気楽などと言われなければならないのか少し理不尽だと思う節があり。不満げないつもより幾らか低い声でぽつりと呟くと不審がるような目付きでじろりと相手を見て。しかし見たからといって彼は怯えないだろうし何故かという理由を口にすることもないだろう、早々にそう諦めると視線を手当て中の傷の方に移し。)
――…。
(わけがわからないと彼が訝しげな視線を向けてくるのも当然だろう。具体的な対象や出来事があるわけでもないのにあれこれ気を揉み、下らない嫉妬と独占欲で自分の首を絞め、勝手に苛々している己が酷く馬鹿馬鹿しく思える。不機嫌な雰囲気を放ちながら無言で手当てをする最中、一度相手を軽く睨むように一瞥しては再び黙々と手を進め。この後相手がまたあの連中といつものように馴れ合うのを考えると、邪魔な理性などはね除け今此処で襲ってやろうかと思う程苛立ちは増し。しかしそれでは今まで何の為に堪えて来たかがわからなくなる。沈黙の中包帯の交換が終わると平静を取り戻すべく息を逃がし「さっさと用意しろ」と相手の額を軽く後ろに押し)
ッわ、かってるって…荷物は纏めてるし、身仕度終わればすぐ行ける。
(彼の態度に多少なりとも腹が立っているのか睨むように一瞬向けられた視線にも応じないようにと直ぐ様ふい、と視線を相手から逸らすと手当てが終わるまでじっと待ち。それが終わるなり与えられた僅かながらいつものやり取りのような軽さを感じられる額へのちょっとした悪戯に相手もこの悪い空気を変えようとしている姿勢が伺え、ならばこちらばかり拗ねていても仕方がないと割り切り少しだけ困ったように眉を寄せながらも薄く笑みを浮かべたような表情で立ち上がるとやれやれといった調子で言い返し。それから鞄より身仕度に使うらしい歯磨きセットやら洗顔用のタオルやらを取り出すと「じゃ、ちょっと洗面所借りるぞ。」などと一声掛けてからぺたぺたとリビングを出て洗面所に向かって。)
(此方に向けられる相手の困ったような笑みの可愛さに苛立ちも大分引いていき。洗面所を使うという相手に「ああ」と一言返すと、子供のような足音を立てながら洗面所に向かう相手の後ろ姿を見送りながらクク、と小さく吹き出してしまい。テーブルに残った食器と救急セットを片付け、学校へ向かう準備をある程度整えると相手に続いて洗面所へと向かって。余り広くもない洗面台は相手が未だ使用中。腕を組んだ姿勢で壁に寄り掛かり相手が使い終えるのを待つ間、洗面台の鏡に映る相手の顔を改めてまじまじと見つめる。彼に想いを寄せる事になった切っ掛けが“一目惚れ”というだけあって、綺麗に整った顔立ちはいつ見ても目を奪われてしまう。一つ一つのパーツをとってもどれも魅力的で、鏡越しに見つめる眼差しは次第に熱を帯びてきてしまい)
――…やっぱ男にしておくの勿体ねぇな。
(相手のその風貌に完全に魅了されたようなぼんやりとした面持ちで思った事をぽつり口にするも、ほぼ無意識だったのかハッとしたようで。自覚せざるを得ない程急速に熱を持ち始める顔、僅かに瞳を泳がせた後、相手に気付かれないように顔を逸らし)
(顔を水で洗いタオルで顔を拭いてから目を開けると洗顔している間にやってきたのか背後に相手の姿を見つけ。自分を待っているらしいその様子から早急に支度をしてしまわないと、とある程度髪を撫で付けて整えると歯ブラシを用意し。そうしてせかせかと急いで支度を進めていれば背後の彼からか呟くような一言が聞こえ。)
ーー…そんなに、俺の顔好き?
(そもそもの出会いが相手の一目惚れだったことは自分も忘れていない、けれど彼の言葉を聞くとどうしてももしかして自分は顔だけで好かれているんじゃないかなんて不安が込み上げてきてしまい少しだけ悲しがるように眉を寄せながら薄く笑みを浮かべるとぽつりと呟き。男を好きになるなんて非常な状況下なのだから顔だけ好き、なんて状態の方がまだ魔性のゲイなんてものよりもマシじゃないか。そうやって考えることで自分を落ち着かせようとはするもののどうも心がざわついてしまう、そんな心を静めるために今は早く彼と距離を取らなければと思い歯ブラシに歯磨き粉を付けて一旦洗面所から離れようと相手の横を通り過ぎようとし。ただ通りすぎればよかっただけだったのに、落ち着かない心がそうさせてしまったのか過ぎる瞬間「…なら、さ。わざわざ男なんか口説かないで、顔がいい女とでも付き合えばいいだろ…。」などと囁くようなか細い声で呟くと歯ブラシを口にくわえリビングへ足を向けて。)
(そんなに顔が好きか、と問う控え目な声に背けていた顔をそちらに向ければ、浮かべられたその笑みは何処か悲しげな色を帯びていて。彼が今どんな思いでいるかその問いと表情だけで察する事ができ。壁に預けていた背を離せば弁解でもするつもりなのか組んでいた手を下ろし、「椿…」相手の名を呼びゆっくりと歩み寄ろうとし。此方が声を掛けるより先に横を通過しようとする相手から発させたのは、案の定とでもいうべき言葉で)
――…本気でそう思ってんのかよ。
(リビングに向かおうとする相手の腕を咄嗟に掴めば、落ち着いてはいるが真意を探るような強めの声を掛けて。彼と接して来て、女装した“棗”ではなく“椿”としてのありのままの自分を見て欲しい、そんな切なる思いがこれまでの相手から感じられ、彼が放った言葉が本心でない事くらいは解る。しかし己が見ているのは彼自身で、彼そのものが欲しいのだと何度も伝えて来たにも関わらず、相手に少しでも不安や疑念を与えてしまう事は己にとって不本意でしかなく。ならば相手がそんな考えを起こさなくて済むように思い知らせる伝える必要があると考え。掴んだままの腕を引き寄せ、壁に背を預けさせるように押し付けては正面から相手を見据え。「椿…、お前今日休め。俺がお前の何処にどう惚れてんのか一日掛けて解らせてやるからよ」誤解されたままでは気が済まず、持て余している感情をぶつけるのに良い機会だとばかりに真顔で無茶な事を言い出して)
(咄嗟に出たという感じにいきなり自分の腕を掴んだ彼の真剣さを帯びた声での一言、きっと自分がこんな顔をしていればそうして真面目に尋ね返してくると初めから分かっていた。しかしそんな言葉に答えられる自信は今は自分になくてだからこそ口を封じるようにくわえた歯ブラシに手を掛けるとふい、と相手から視線を逸らしながらしゃこしゃこと控え目な音を立てて歯ブラシを動かして。そうして自分が黙ったままだったからか、乱暴ではないものの男としての力強さを感じるような手付きで壁へとなすがままに押し付けられて。)
…むり、らって。んな個人的な理由で受験生が休めないらろ。
(自分の不安を取り除こうとしてこうやって彼は言い出してくれたのかもしれないが自分にとって相手と共にいるのは「彼」という同性を見つめ直すことと同意、今は不安を除くどころか自分からしてみればどんどんその不安が膨らんでしまうような気がして。そうなると正直彼と今一緒にいるのは怖い、そんな感情がぽんと心の中にひとつだけ目立って感じられてしまう。どうにか避けなければと思ったのかわざわざ受験生だからなんて建前にしか聞こえないような、しかし自分たち高校生にとってはそれなりの強制力のある言葉で断ろうと思い歯ブラシを突っ込んだままの少しだけ呂律の回り辛い口でもごもごと答えて。こうしているうちにもじわじわと滲み出るような感覚で心に不安が溜まっていく、そんな感覚に耐えかねて彼に掴まれたままの腕を軽く振り払うように動かすとこの場を離れたい意思を示すように無理矢理壁際から出ようと体を動かして。)
…お前は何をそんなに怯えてるんだよ。何がお前を不安にさせる?
(相手の言い分は無理矢理こじつけた建前にしか聞こえない。彼が己を受け入れる事を戸惑うのは自分の気持ちに未だ確信が持てないとか、そういう理由とは別に何かがある気がしてならない。彼は根が慎重で繊細な性格なのだろう、物事を深く考えてしまいがちな面が時折垣間見えるものの、その胸の奥に何を抱えているのかまでは読めず、己が軽く動きを封じている事で行き場を失った目の前の相手の胸の内を探るようにじっと見据えて。しかしこのやり方で彼が大人しく語り始めるとは思えず、暫し黙って見つめた後、身動ぎする相手を静かに解放してやり)
見た目だけならもっと別のやり方でとっくに迫ってるよ。こんなまどろっこしいやり方でいつまでも執着してねぇ。
(何処か危うげで不安そうな表情を滲ませる相手を直視したまま、相手は聞き飽きただろう相手への思いを伝え。「……俺が欲しいのは外見がいいお前じゃない、お前自身だ。その辺はいい加減理解しろよ」僅かに視線を伏せ最後に指先でそっと相手の左胸付近に触れればそこを軽く押し、すっと相手から離れては洗面所に向かって)
(口を歯ブラシで早々に塞いでおいて良かった、そう思ってしまうほど相手の言葉の其々は答え辛く何より胸に刺さるような強い力があり。拘束を解放されるなりまだやや覚束なさのある足取りでその場を後にし、リビングのソファの一番隅の方に腰掛けると膝を抱えて小さく蹲り。彼が自分を顔だけで好いているだなんてこれっぽっちも思っていなかったのに、相手の一言一言が自分の中で強く響き不意に不安の種を芽吹かせる。ずきずきと鼓動に呼応し体全体に痺れのように広がる胸の痛み、そんなものただの気のせいで本当に胸が病気な訳でもないのに恋という痛みはどうしてこうも苦しいのだろう。くわえた歯ブラシをがり、と噛み締め蹲った胸をきつく握るとこんなことで泣きそうな程に哀しくなってしまう脆くなった自分自身を押し留めようとし。それでも頭の中で響くのを止めない反論、言い訳、泣き言。仕方ないだろう、同性なんだから。女にいつか負けてしまわないか、不安なんだから。心だけの繋がりじゃ、心細いんだから。いつまで一緒に居られるかも分からなくて、怖いんだから。そんな言葉ばかりが頭の中を反響し思いばかりが詰まっていくことに体が追い付けなくなった瞬間、膝を抱えて伏せた顔からソファの布地へとぽたぽたと滴が染みを作って。)
(洗面所に戻ると歯磨きを済ませばしゃばしゃと顔を洗い始める。己の言動に一々ビクついていた頃と比べれば彼は随分慣れて来た。己との事を真面目に考えていると言っていた事からも、それなりに好意を持ち始めてくれているのだとは思う。ただ彼の中に彼を悩ませる迷いのような物がある事も確かで、それを取っ払ってやらない限り安心して己に委ねる事が出来ないのだろう。しかし恋愛経験など無いに等しい己がその辺の繊細な心情を読み取る事は難しい。相手が語ろうとしないなら尚更。己に寄って来る物好きな女を憂さ晴らし等に使った事はあっても、愛だとか恋だとかそういう感情を前提にした純粋な付き合い方は初心者同然で。初めての感情に困惑するばかりで何が正しいかなど自分でもわからないというのに。タオルで顔を拭き適当に髪を整えた後リビングに戻る。ソファーの隅で膝を抱え俯いている相手、先程己が発した言葉がまた彼を苦しめているのだろうか)
――…椿。
(近くへと歩み寄り、俯いたままの相手に声を掛けながら髪に触れる。未だ歯ブラシをくわえたまま蹲る相手が泣いている事を察すると、小さく息を吐き出しながら隣へと腰を下ろし。相手が泣く原因は己の先程の言葉にあるのだろうが、どれがどう彼を傷付けたのか、或いは苦しめているのか、追い詰めているのかさえ分からなくて。頭を片手で抱えるようにそっと抱き寄せると、「言いたい事があるなら遠慮なく言えよ。お前のタイミングで構わねぇから」とだけ伝えておき。何にしても途中のままの歯磨きを済ませるのが先だろうと、抱き寄せた相手の頭を軽くぽんぽん、と撫でてからソファーから立ち上がれば制服に着替えに自室に足を向けて)
ーー……ッ、!
(一人いじけたようにソファの上で踞っていれば少ししてから傍に人の気配を感じ、相手が自分を心配してくれて来たのだろうと涙を拭いて顔を上げようとし。しかし相手の何気ない溜め息にびくりと震えると、まさか女々しくめそめそと悩む姿に呆れられてしまったのではと一瞬にしてどっと不安がまた込み上げてきてしまい。結局顔を上げられないまま彼の一挙一動に酷く怯えながら注意をこらす、そうしていれば不意に頭を引き寄せるように抱かれ。僅かに触れ合う体温は過剰に不安になった心をゆっくりと落ち着かせ、気が付けばぼろぼろと零れていた涙すら止まっていて。彼が去った後撫でられた部分の髪をくしゃりと握り何かが相手の言葉で踏ん切りがついたのか何だか決心がついたようなすっきりした表情で顔を上げると歯磨きを終わらせるため洗面所に向い。そうして口の中を綺麗に濯いでからリビングへ戻ると彼が戻らないうちにさっさと着替えてしまおうと着替えのシャツを取りだしごそごそと服を脱いで。その際ぺたりと自分の左胸に手を当て暫く動きを止めるが、それほど長く固まることもなくすぐまた着替えを始めるとすぐに制服に身を包み直すことを完了し。それから荷物を完全に纏め、それを背負って立ち上がるとそろそろ相手も戻る頃だろうと思ったのかそのまま立った状態で彼を待って。)
(寝室にて制服に着替えながらまた軽い溜め息が漏れる。相手の涙を見たのはもう何度目になるのだろうか。好きだという感情を伝える事でこんな風に何度も相手を泣かせる事になろうとは。ずっと下らないと思っていた恋愛というものは想像以上に厄介で難しい。彼は未だ泣いているだろうか。次はどんな言葉を掛ければいいかさえ分からず荷物を持ちリビングに向かうと己を待つかのように立つ相手、その表情は心なしか先程のものとは一変し、清々しささえ感じられて)
……行くぞ、泣き虫。
(小さく笑みを浮かべるとそちらへ歩み寄り、相手の髪をくしゃりと撫でるように触れてから玄関に向かい。一見貶すような言葉も、そんなお前も好きだという愛しさを込めたもの。相手がこの部屋に再び来る日は何時になるのだろうか。たった一晩という短い時間は己にとってかけがえのないものとなり、様々な思いが胸に広がっていく。名残惜しさを感じながら玄関の扉を開けては相手を待ち)
(扉が開く音に弾かれたかのような速度でそちらに目をやるという少々過剰に反応を見せ。リビングにやってきた彼は早々に自分の心情の変化に目敏くも気付いたらしい、小さく笑みながらくしゃりと自分の頭を撫でる彼にほのかに口許を緩めると撫でられた部分を押さえるように頭に手を当て。)
ーー…うっせ、ばーか。
(彼らしい少しだけ意地が悪い響きではあるものの優しさを感じさせるような柔らかな空気を纏った言葉、それに僅かに苦笑するもののそんな言葉にめげるほどもう柔ではないと先程との自身の違いを見せようとしてか応酬のような乱暴な言葉で返して。それからリビングを出る相手についてこちらも部屋を後にしようとする、扉を通る前に一度だけ名残惜しむかのよいに少しだけ眉を寄せながら部屋を振り返り。短い時間だがそうしていつもの現実に戻ってしまうことを僅かに惜しんでから相手の待つ玄関に行き少々靴を履くのに手間取るもののそうして玄関を出ると自分を待っていてくれた彼の方をちらりと一瞥、薄く微笑みながら口を開くと「…ありがと、色々と助けてくれて。」と、か細い声で呟き。その"色々"が泊めてくれたことに対してなのか先程のやり取りのことを言っているのかは定かではなあもののすっきりした表情でそう呟くとお礼と言うには実にぞんざいだがポケットからだしたガム一枚を相手のスラックスのポケットにぐいと押し入れるようにして突っ込んで。)
(返された言葉は少しばかり乱暴なものではあるが普段の相手らしさを思わせるもので、調子を取り戻した事にほっとしたのかくすりと笑みが零れ。扉を開いたまま少し視線を落とし靴を履く様子を見守り、立ち上がる相手と同時に視線を上げては相手を先に外に出してから扉を閉めて。鍵を掛けている最中向けられたのは、控え目な笑みとか細い声音ながらも素直な言葉。同時にポケットに突っ込まれた物に一瞬きょとんとするも、直ぐにふっと笑みを浮かべて)
んな大した事してねぇよ。下心もあったしな。
(礼など要らないといった調子でさらりと述べ、相手も何となく気付いていただろう事を最後に添えれば軽く悪戯っぽい視線を向け。「待ってろ」と一声掛けた後、彼の友人から借りていた自転車を取りに向かい)
ッお、ま…そういうのは一応黙っとけよ…。
(相手の立場上確かに下心という言葉はつっかかりなく受け入れられる言葉だが、彼の親切をその言葉で表すのは何だか少しだけ下品じみている気がして思わず口を出すと僅かに顔を歪め微妙そうな表情をし。それから自転車を取りに行く相手を軽く手を振り見送ってから壁に凭れるように寄り掛かるとそっと顎に手を当て何やら考え始めた様子で動きを止め。先程の彼の慰めというか気遣いというか、リビングで言われた言葉がまだ頭を回っているのか悩むかのように僅かに視線を揺らしながら唇をきゅ、と噛むと深いため息をついて。そろそろ答えを出しても良いんじゃないか、そうでなくともせめて彼に自分が悩む理由を伝えるくらいしても良いんじゃないか。打ち明けることについて気持ちは前より少しだけ上向きになり、何より彼に胸のうちを話した上で卑怯かもしれないが頼らせて欲しいなどという思いが生まれており。)
…大丈夫かよ、また難しい顔してるぜ。
(いつの間に自転車を取ってきたのか相手の目の前に立ち表情を覗くようにしていて。何やらまた難しい事を考えていると思わせるような表情を浮かべている相手の眉間を軽く指で後ろに押し。相手がこんな表情をする時は大抵己との事を考えている。自惚れているわけでもなく、一緒に居れば自然と解るようになってしまった事。己が相手の事で悩むように相手も己の事で悩んでいる。彼の不安や迷いを直ぐ様取り払って安心させてやりたい、しかし此方の言いたい事は大方伝えた故、今は相手が答えを出すまで待つべきなのだろう。行くぞ、というように相手の肩を軽く叩くと、近くに停めていた自転車に跨がり相手が後ろに乗るのを待ち)
ッ、うお…俺、そんなに難しい顔してたか?
(ふと視線を上げた時には既に目の前には彼が戻っており、何か声を掛けようと思ったときにはもう相手の指に押されることにより上体を少しだけ後ろに仰け反らせていて。驚いたような小さな声を漏らしながら体勢を立て直し、軽く眉間を押さえたまま緩く首を傾げて尋ねると恐らく自分のいつもの長考してしまうところを緩和しようとしてくれた眉間への行為が少しだけ不服だったのか、僅かに唇を尖らせていて。しかしながらそれほど気にとどめることもなく自転車に跨がる相手の後ろに特に反発することもなくすとんと腰掛けると、行きで訪れた時より少しだけ体の密着を強めるようきつめに抱き付いて背中に額をくっつけ。「…今日、放課後空けといて。…そ、の…話したいこと、あるから。」どうやら漸く彼にも話してみようという踏ん切りがついたらしく密着した体勢のまま小さな声で呟くと少しだけ力を緩め。さあ行けとばかりに数回軽く相手の背中を叩くと強引に約束を取り付けようとしてしまったことが自分にしては中々大胆な行為だったこと、何よりその内容自体が自身にとって気恥ずかしいと感じぜざるおえないものだったためか彼の背中に凭れるように寄り掛かりほのかに赤くなった頬をくっ付けると少しだけ恥ずかしそうに眉を寄せて。)
(後ろから抱き着くように回される腕に行きと同じように心臓が反応し、ハンドルを握る腕に無意識に力が入る。慣れるどころか相手への想いに比例するように騒ぎ出す心臓、己の意思に従わないそれを煩わしく思うも、今更隠すつもりもないのかそのままの体勢で小さく呟かれる相手の声を聞き)
……例えどんな用事があろうがお前を優先してやるよ。
(了承の意味でそう返すと、行けとの合図のように背中を叩かれるがままにペダルを踏み走り出し。話の内容がどうあれ、放課後少しでも相手を独占出来る事の嬉しさに薄く笑みを浮かべながら、背中に感じる相手の温もりに意識を集中させ自転車を走らせて。やがて学校近くになり登校中の生徒達がちらほらと見えてくれば、周囲の目を気にする相手を気遣ってか緩くブレーキを掛けて止まり「…降りるか?」と、そちらを振り返りつつ訊ねてみて)
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