永音 2012-11-21 18:41:17 |
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幼い頃には師について学んだもの、
長じては自ら学識を誇ったもの。
だが今にして胸に宿る辞世の言葉は――
水のごとくも来たり、風のごとくも去る身よ!
同心の友はみな別れて去った、
死の枕べにつぎつぎ倒れていった。
命の宴に酒盛りをしていたが、
ひと足さきに酔魔のとりことなった。
天輪よ、滅亡はお前の憎しみ、
無情はお前日頃のつとめ。
地軸よ、地軸よ、お前の懐の中にこそは
かぎりなくも秘められている尊い宝!
日のめぐりは博士の思いどおりにならない、
天宮など七つとも八つとも数えるがいい。
どうせ死ぬ命だし、一切の望みは失せる、
塚蟻にでも野の狼にでも食われるがいい。
一滴の水だったものは海に注ぐ。
一握の塵だったものは土にかえる。
この世に来てまた立ち去るお前の姿は一匹の蠅
――風とともに来て風とともに去る。
この幻の影が何であるかと言ったっても、
真相をそう簡単にはつくされぬ。
水面に現われた泡沫のような形相は、
やがてまた水底へ行方も知れず没する。
知は酒盃をほめたたえてやまず、
愛は百度もその額に口づける。
だのに無情の陶器師は自らの手で焼いた
妙なる器を再び地上に投げつける。
せっかく立派な形に出来た酒盃なら、
毀すのをどこの酒のみが承知するものか?
形よい掌をつくってはまた毀すのは
誰のご機嫌とりで誰への嫉妬やら?
この永遠の旅路を人はただ歩み去るばかり、
帰って来て謎をあかしてくれる人はない。
気をつけてこのはたごやに忘れものをするな、
出て行ったが最後二度と再び帰っては来れない。
土の下には友もなく、またつれもない
眠るばかりで、そこに一滴の酒もない。
気をつけて、気をつけて、
この秘密 人には言うな――
チューリップひとたび萎めば開かない。
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