ゼロ 2012-08-12 16:50:55 |
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ブラッドクロス第二章
第三話 呪われし黒き血
俺は一体何と戦っている?
その亡骸は先ほどまでの相手と同じ者とは思えない。
むしろこれはまるで人間じゃないか…
「今は…考えている場合では…ないか」
コウモリ達の魔力も弱ってきたようで、鎖の拘束が緩んでいた。
血が身体に馴染み始めてきたのを感じる。
…だが、俺の身に何か異変が起こった。
痺れるような感覚が全身に広がっていく…頭が熱い…
ふと、右手を見ると黒い模様が浮かび上がっていた。
これは、何だろう…?
まずい、思考が鈍ってきた…しっかりしなくては…
目的は…敵の殲滅…黒い、敵…
そうだ、あいつだ…あいつを殺せ…
憎い…頭が熱い…敵を殺す…
しっかりしなくては…!
奴の血を排出しろ、あれは悪しきものだ!
右腕に噛みついて引き裂き、傷を作る。
「ドラキュラフィスト…」
傷口から流れ出る黒い血が、俺の腕に装甲を形作る。
「使い魔よ、我が肉体に還れ」
鎖の魔法を解除させ、コウモリを左腕に戻す。
拘束を解かれた敵が向かってくる。
そして身体全体を使って右腕を投げつけるように振り抜く。
俺は大振りな攻撃を潜り抜けて背後にまわり、後頭部を掴んで力づくで地面に叩き付けた。
普段以上に力が上がっている。
握り締めた右の拳を、敵の頭部に振り下ろす。
その拳は大地にまでヒビを入れ、破裂した肉塊と黒い血が辺りに飛び散った…
砕けた右手…己が身の傷つく事も厭わない破壊…奴らと同質の力…
夕暮れ
工事現場の作業員に背負われて町に向かう。
魔力による肉体の治癒促進能力をもってしても、おいそれと回復できるダメージではない。
「フラムロアさん…大丈夫ですか…?」
「…回復には手こずりそうだが、とりあえず大丈夫だ」
「無理はしないで下さいよ…」
「…おい、それより町の様子が妙だ」
町に近づくにつれて叫び声が聞こえてきた。
「もういい、俺が行く」
背中から降りて駆け出そうとする。だが、その場で崩れ落ちてしまう。
「ぐぅあっ…足が…」
レビの元へ右腕が差し出される。
「…すまない」
依然としてダメージが残る右足でなんとか走る。
通りを抜けて十字路に差し掛かると、右から黒い影が吹っ飛んでいった。
続いて白い狼が飛び掛かっていく。俺はそれを追う。
「ザラン!状況は!?」
狼が口から血が滴る肉塊を吐き捨てて答える。
「こっちは今片付いたところだ…
これから北側の自警団の応援に向かう!」
「わかった、俺も行く」
「…正直に答えてくれよ、あんたはその身体で戦えるのか?」
「魔法を使うには支障は無いが…足がこのザマだ」
「ちょっと気が進まないけど、僕の背中に乗りなよ、運んでく」
「頼む」
白い体毛は斑に血に濡れて硬くなっていた。それは返り血だけではないだろう。
「あの黒いヤツらの事、何か知ってる?」
「俺にもわからない…
だが獲物をいたぶるというか、苦痛を与える事に執着しているように見えた」
「こっちもだ、共通してそういう特徴があるって訳か…
とにかくまともな相手じゃない」
北方面
自警団による謎の敵への抵抗が続けられている。
しかし痛みを意に介さない敵に、苦戦を強いられていた。
ひとり、またひとりとなぶり殺しにされていく。
通りに敵が四体、各々の獲物を襲っていた。
「うわあぁあっあぁ、助けてくれぇ!」
「ちくしょう!そのきたねぇ手を放しやがれえぇ!」
男が斧を持ち、仲間を救いに駆け出す。
斧を大きく振りかぶり、敵の脳天に振り下ろす。
さすがに効いたようで敵が倒れ込む。
続けて拳銃を抜き、至近距離から頭部に連発する。
「ハァハァ…くたばったか、バケモノめッ!」
直後、別の敵が建物の壁を伝って男の背後に飛び下りた。
「クソッ、俺もここまでかよっ…!」
男は目を瞑る。しかしその瞬間は訪れず、代わりに声が聞こえてきた。
「ここで…最後だな…?」
「そうだ
皆さん、後は僕達に任せて下がって!」
レビはザランの背中を飛び下り、左手のハートブレイカーで近くの敵を蒸発させた。
ザランはその奥の二体に向かっていく。
自警団をいたぶる敵の腹に渾身の蹴りをねじ込み吹っ飛ばす。
家の壁に叩きつけられた敵に、間髪入れずに追い打ちをかける。
「貴様等に味あわされたみんなの苦痛、少しでも理解しろよ!」
右手で頭を、左手を肩を押さえつけて組み付く。
そして最大の武器である顎と牙をもって首を食い千切る。
残った一体はレビに狙いを定めた。
「そっちに行ったぞ!」
「あ、ああ…」
ハートブレイカーを構えるレビ。しかし、槍が纏う光が薄れて消えていく。
「くっ、時間切れか…!」
窮地に陥ったレビに、敵は一気に攻勢をかけようとする。
その直後、レビの目の前で、敵が紅い光の中に消え去った。
続いてコウモリの群れが現れ、レビを包み込む。
そして、コウモリ達が飛び去った後には誰もいなかった。
第三話 呪われし黒き血 終
次回 奪われたものは
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