ゼロ 2012-08-12 16:50:55 |
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ブラッドクロス
第七話 紅蓮の花よりも紅く
私はやっとここまで漕ぎ着けたんだ。部下達を犠牲にしてまで万全を期したはずだった…
なのにこうも邪魔が入る…
だが、たとえ何が敵であろうとも私はやり遂げる…あの地獄の花に誓ったのだから…
「ぐわああああっ!」
「おや、その声はもしや夕方の彼かな?
大人しそうに見えてまさにとんだ猛獣だった訳だ」
獣が四肢に傷を負い、地に伏している。
「うぅ…お前に、吸血鬼は譲れないよ…!
富は、町の…ために!」
「だからそれは私に協力すればいずれ施してやるって言ったじゃん」
「信用、できないね…!」
「もういいや、話にならない
お前は吸血鬼の次に殺すから」
吸血鬼の方へ目を向ける。フリシアも殺られたか…
それにあの獣が出てきたって事はドルチ達も…
なんて今でも少しは感傷的なところが残っていたのか。
「夜明けが近いし、いい加減死んで貰うよ、吸血鬼」
「ねぇ、本当にそれだけで良いの?」
「充分だ…もともと大した量は入らんし、重要なのは量じゃない」
俺が槍の石突き(穂先と逆の先端)を回すとネジのように外れ、中から細い棒が出てくる。
それを手に取ると、血が滴っていた。
「流石は誉れ高き我が一族の槍だ…中までは凍っていなかった」
「なんか…あなたってナルシストなのかしら」
「あぁ!?」
「なっ、何でもないわっ」
「危ないからもう下がっていろ…」
「わかったわ…あっ!」
セラが声を上げた。俺はその視線の先を見やる。
「あの獣人、知り合いとかか?」
「ええ…」
「そうか…面倒だが頭に入れておこう」
敵は突然の乱入者の対処を済ませ、俺との戦いを再開しようと行動を開始する。
「まともに動けるのは六人…
もう乱戦の心配もないか、皆で行くよ」
「悪いがもう少し時間をよこせ」
俺は棒の血を舐め取る。
「トランス…ブラッククロウド…」
右腕をコウモリの群れに変化させる。
「自動化(オートメイト)…ブラックサーヴァント」
コウモリ達は広場を散り散りに飛んでいく。
「この窮地に右腕を飛ばしちゃって、何を企んでるのか知らないけど、もう手遅れだねぇ!」
騎士達の攻撃を槍で辛うじて受け流し、身を躱す。
「くっ…」
あと少しで…この国に通じる権力が手に入る…
そして変えるんだ、あんな死に方をしなくていいように…
あの夜は酷く寒かった…
「正しく力を持つべきは私なんだ…
苦しむ者の味方をしたいなら大人しく死になよ、吸血鬼!」
「誇りある限り命を諦めるべきではない…俺は**ない!」
偉くなって国を変えるんだって、頑張って働いて、勉強をしていたのに…
「この世界で生まれたなら…自ら苦境を受け入れるのは負け犬だからな!」
「!…お前は…
だったらこれを味わってから言え!」
憑冷剣の白い光が一層増し、周囲の者全てが無差別に冷気に晒される。
あまりの寒さに皮膚が裂けて、血が吹き出す。
「ううっ!…この冷気は…!?」
「これが…私が見た地獄さ…血と肉が紅い花を咲かせて…
私の兄はそうやって死んだ…
さぁ、苦境に抗う力を…渡せ」
「俺にも…為すべき目的がある…
この命は…力づくで奪え…!」
空から紅い光が降りてきた。見上げるとコウモリ達が図形を描きながら飛んでいる。
「…間に合ったようだな」
「さっきのコウモリは空中に魔法陣を描かせるためか!」
石突きで地面を打つと、魔力の衝撃波が生じ、周囲の敵を弾き飛ばす。
俺はコウモリの魔法陣の中央に立ち、再び地面を打つ。
翼を開いた槍が宙に浮かび上がり、それを中心に熱風が巻き起こり、
冷気を掻き消して氷を融かしていく。
「紅の破心槍よ、十の血の生け贄に導かれ、竜の翼の元に形を成し、顕現せよ!」
光が激しさを増し、槍へと降り注ぐ。
「お前の行いが善に繋がるとしても、殺される訳にはいかない…」
空の光が全て槍に注ぎ込まれ、集束した。
「イークイップ、ドラキュラフィスト」
コウモリを右腕に戻し、更に血と魔力で装甲を形成する。
そして、光迸る紅い槍を手に取る。
「くっ…お前が何をしようと私も立ち止まりはしないね!」
憑冷剣を地に刺し、氷柱の攻撃が放たれる。
氷柱が目前に迫る。
槍を大きく薙ぎ払う。
氷柱は触れずして砕け散り、熱を伴った空気の波が後に連なる氷を融かしていく。
「これ程の威力があるのか…!?」
俺は歩を進め、距離を詰めていく。
「…打開策を見つけて下さい…」
「何さ急に!?」
「うっ、うおおおおぉぉぉ!」
「待て、勝手なマネを…!」
騎士が二人駆け出してくる。一人が剣を振り上げ、俺は槍をかざす。
騎士の腕が完全に降り下ろされた。
「バカな…剣が…!?」
槍を軽く振るい、騎士の肉体を鎧ごと切断する。
二人目の騎士が盾を構える。
「リーダーッ!俺達の殺され方、しっかり見ていて下さいよッ!」
「なるほどな、そういう事か…」
槍は水が紙を破るように盾もろとも騎士を貫く。
「二人の覚悟に免じて教えよう…
この槍は使用者をも焼くほどの熱を持っている…
竜の肉体に匹敵する耐火性が無ければ触れる事すら出来ずに融解する」
そう告げて、投擲の構えを取る…
「標的を確実に死に至らしめるために創られた魔槍…
名は、心臓破り(ハートブレイカー)」
紅い閃光が夜の闇を切り裂いた。
第七話 紅蓮の花よりも紅く 終
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