ゼロ 2012-08-12 16:50:55 |
通報 |
ブラッドクロス
第六話 凍てつく刃
広場
ハルバード(槍)を操り、ピックを左肩に突き立てて装甲を貫通する。
ピックを引き抜きながら身体を時計回りに一回転させ、斧刃を脇腹に叩き込む。
砕けた鎧を貫き通し、止め。
「…うちの部下が十二人も殺られちゃうとはね、流石は黒き翼の悪魔か」
屋根の上から女の声。
「フゥー…お前はいつまで眺めているつもりだ?」
「そうだねぇ、そろそろ時間も無いし、頃合いかな」
その女ルキュが飛び降り、獲物の吸血鬼レビに向かって歩いてくる。
「皆は下がってなよ、観察はもう充分だ」
「その余裕ぶった態度なら教えてくれそうだな、あと何人いる?」
「これで何もトラブルが無ければ私を含めて十三人生還だねぇ」
「いや…全滅だ」
「それにしてもまるで悪魔の槍、似合う組み合わせだなぁ」
「…さっきから気に障るしゃべり方だ」
レビは穂先を左手に構えて駆け出し、右に振るう。
ルキュは身体を後ろに反らせ、斬撃を避ける。
追い撃ちの突きも剣で受け飛び退く。
「リーチじゃ不利だが、これならどうかな?」
ルキュの剣の腹に刻まれた文字が淡い光を放ち、白い冷気を吐き出す。
「その剣の刻印…氷のエレメントか」
剣を地面に突き立てる。すると地面から氷の柱が次々と突き出し、レビに向かっていく。
レビはそれを右側に避けるが、そこを狙ってルキュが剣を振るう。攻撃を槍の柄で受け止める。
「時間差攻撃も出来る訳か…」
「この『憑冷剣』は便利でねぇ、使い道は色々あるんだよ…こんな風にさ」
槍の柄が氷を覆っていく。レビは右足で蹴りを放ち、ルキュは飛び退いて再び距離をとる。
「チッ…」
氷は槍を伝ってレビの左手まで覆い固めてしまっていた。
「冷気は体力を奪い、氷は自由を奪う…身体中凍り漬けにして、最後は命を奪ってあげるよ」
「自由を奪うのは俺だ…クリムゾンチェーン!」
右手から二本の鎖を放つ。
「無駄だねぇ!」
憑冷剣に魔力が込められ、鎖を凍らせ、打ち砕く。
ルキュが距離を詰め、斬撃。レビは剣に触れるまいと身をかわす。
しかし続く連撃に次第に追い詰められ、傷を負っていく。
「長柄の武器は動きを制限されやすい…その固定された左手じゃあ尚更だろう」
レビは右手の爪で自らの胸を斬りつける。
「ブラッディ…」
「させるかっ!」
ルキュの突きが胸を掠め、傷口を凍らせる。
「君の血液を利用したトランスを封じるのだって簡単さ
私の氷は君にとって相性最悪だねぇ」
「相性最悪だと…?その言葉、覚えておけよ」
「それが遺言なら覚えておくよ」
ルキュが剣を振りかぶる。
その時、何かが飛んできた。それはルキュの後頭部に当たった。
「いたっ!…何だ、小石か?」
小石が飛んできた方へ注目が集まる。そこにはセラがいた。
「その人を殺すのをやめなさい!」
「ねぇフリシアー、その面倒なお嬢さんをてきとーに大人しくさせてて」
剣を持った女騎士がセラの方へ向かっていく。
「リーダーの邪魔した罪は重いぞ…」
「貴様等、そいつに手を出すな!」
レビが叫んだ。
「あれ、彼女が心配なのかい?
困るんだよなぁ…そういう事は先に言ってくれないとさぁ!」
ルキュの声に初めて怒りの色が見えた。
「部下を死なせなくて済むなら最初から人質使ってたんだからさぁ!」
「いや、どのみち俺を狙った以上は死人はでるぞ」
セラはナイフを取り出して構える。
「レビはこの町のために戦っているのよ…
私も、戦わなきゃ…」
女騎士が詰め寄り、セラも立ち向かっていく。
突然、セラとは反対側の通りから白い獣が現れ、騎士に体当たりして吹っ飛ばす。
それを見て、ルキュに一瞬隙が出来る。
「ゴウル!?今度は一体なっ…!」
レビはルキュを蹴り飛ばし、セラの元へ走る。
「白狼とは忌々しいな…だが今は助かったか」
レビの前に二人の騎士が立ちはだかる。
「チッ…あまり血液を飛ばす余裕は無いが、もうすぐ『溜まる』か…
チェーンスレイヴ!」
右手から二本の鎖を放つ。
鎖は根本で絡み合ってから、騎士達の腕を縛り、体に巻き付き、先端を地面に打ち込んだ。
そしてレビは右手の魔法陣から鎖を切り離し、騎士達を飛び越えて行く。
白い獣は遠方に見知った姿を認めた。
「セラ!?何でこんなところに…!
吸血鬼もセラを狙ってるのか!?」
ザランも走り出そうとするが、足を滑らせて転んでしまう。
「何者か知らないけどお前さ、何でこんなところには私の台詞だよ」
ルキュが憑冷剣で地面に氷を張っていた。
「今はあんたに構ってる場合じゃないのに!」
「ふざけた事ばっか言わないで欲しいんだけどねぇ!」
傭兵相手に一般人のセラが敵うはずもなく、その頭上から剣が振り下ろされようとしていた。
その間に鎖が割り込み、攻撃を食い止める。
「九人目、もらった…!」
レビは渾身の突きで女騎士の身体を貫く。
「妙なことをするな…危険を判らん女でもないだろう」
「ごめんなさい…でも、私も町のために戦わなくちゃと思って…」
「勇気と無謀を間違えるなよ…
ただ、今回は助かった
血を少しだけ分けてくれ…戦う意志は俺が引き継ぐ」
第六話 凍てつく刃 終
次回 紅蓮の花よりも紅く
トピック検索 |