ゼロ 2012-08-12 16:50:55 |
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ブラッドクロス
第三話 ザランとルキュ、二人の思惑
夜、ガストの広場
ガストは氷爪の騎士団の支配下におかれた。
「さて、町の皆さん、私達に協力してもらうよ。
そうすれば君達の事は教団には黙っていてあげるからねぇ」
教団…この国で王族に次ぐ権力を持つといわれる組織。
この地域は教団の目は届いていないものの、吸血鬼の情報があれば十字軍を寄越す事は間違いない。
吸血鬼と事実上の共生関係を築いていたこの町も粛清の対象である。
「本当に…町の秘密は守られるのですか…?」
町長がおそるおそる質問した。
「だから君達次第だけど…秘密を知っている部外者は私達だけ、これは確実だねぇ」
四日前、私の元にボロボロの姿の二人の男が現れた。
怪我もさることながら、衰弱の色濃く、ほんの二、三日もすれば息絶えそうだった。
執念が命を繋ぎ止めているような状態だった。
彼らは家族を含めた仲間と旅をしていて、ガストに寄った時に吸血鬼に襲われたと言った。
彼らの仲間達は無慈悲に殺されていったそうだ。
父親の命と引き換えに自分たち二人だけは助かったが、口止めとして吸血鬼に呪いを掛けられたとも話してくれた。
この出来事を誰かに伝えようとすれば、頭の中に埋め込まれた鎖が内側から頭を突き破る呪いを。
彼らの父親はその呪いのデモンストレーションとして、目の前で頭を破裂させられて死んだ事を。
それでも彼らは吸血鬼の存在を私に教えてくれた。
つまり、自分が父親と同じ凄惨極まる死に方をしようとも、その復讐を私に託そうとしたのだった…
死の恐怖に耐え、命と引き換えの一度きりのチャンスを使って。
仲間と父親の惨たらしい死…そのための復讐…命懸けの訴え…
でもね、そんな彼らの決死の物語なんてすべてどうでも良かった。
私にとっては吸血鬼という夢のような獲物の事しか興味がなかったよ。
私が英雄としてこの世界の特権階級にのし上がる未来だけが何よりも最優先だった!
そしてその先に私の目的が…
しかし彼らは呪いで死ぬ事はなかった。
だから私がこの手で彼らを殺した。
彼らは私に幸運を運んで来てくれた。
だが、それは彼らにとって一度きりのチャンスだから、
復讐が成功する可能性の最も高い私が選ばれただけの事だ。
呪いの心配がなくなった彼らが次に取る行動は、言うまでもない。
私はこの幸運を逃す訳にはいかないのだ。どんな手を使っても…
「ザラン、本気で奴らを出し抜くつもりなのか?」
「当然だろ、他に道は無いんだから」
僕の故郷は吸血鬼がいる限り表面上は平穏かもしれない。
だが吸血鬼がいる限り教団に背く事になる…
氷爪の騎士団の目的は吸血鬼の討伐、僕は彼女はと出会えて良かったと思っている。
彼女達は腕利きの傭兵部隊、見事ヤツを仕留めてくれるだろう。
『吸血鬼に支配されていた哀れな住民に助けを求められた騎士団は吸血鬼に勝利し、町を開放した』
…そんなストーリーをルキュが語り、僕達が口裏を合わせれば、
彼女達は晴れて英雄の仲間入りを果たし、町の秘密は葬り去られる。
もしこれを疑う者ががいても英雄がそう言えば、それが真実になる。ゼピュロはそういう国だ。
さて、ここに僕の目論見を加えさせてもらおう。
何故なら、これだけでは結局町に未来が無いからだ。
今の町の生活は吸血鬼に頼っている部分が多い。ヤツが**ば、それが失われる。
ルキュは協力すれば町の生活を向上させると言っているが、信用できない。
では他の誰かがその穴を埋めてくれるだろうか?
英雄を飾る美談の中で語られるだけ、現実のこんな町には誰も興味を示さない。
だから吸血鬼を殺すのは僕だ。
そうすれば立場は逆転、実際に英雄として讃えられるのは僕ら、騎士団は単なるオマケ。
重要なのは誰が止めを刺したか、だからだ。
騎士団には頑張ってもらうが、手柄は横取りにする。
そのために彼女達と剣を交えようとも、彼女達の命を奪おうとも…
第三話 ザランとルキュ、ふたりの思惑 終
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