ゼロ 2012-08-12 16:50:55 |
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ブラッドクロス
第二話 氷創のルキュ
時は数日前に遡り、武装の街ゲイル
ガストから北に山をふたつ越えた所に位置する街、ゲイル。
この街のとある屋敷に来訪者があった。
「信じてくれっ、本当なんだ!ガストに吸血鬼がいるっ、
俺達の仲間や………親父が殺されたんだ!」
「なるほど、あんな町に吸血鬼がねぇ。上手く隠れてたって訳か」
傷を負った男が二人、貴族風の立派な服装をした蒼い髪の若い女性と話をしている。
「頼むよ…みんなの仇を討ってくれ、アンタは氷爪の騎士団のリーダーなんだろッ…!」
「頼まれなくても行くよ、そんな悪魔がいるんじゃあほっとけないからなぁ」
女性は壁に掛けられていた剣を手に取る。
その護拳の装飾には雪の結晶が描かれていた。
「本当か!?」
「ああ、それに君たちの命懸けの勇気と執念には報いてやりたいしねぇ」
女性は彼らに笑いかけた。
「それにしてもあのバケモノめ…何が呪いだ、騙しやがって…!」
「他の人達にも協力してもらおう…!」
出ていこうとする二人を女性が呼び止める。
「ちょっと待ちなよ、ソイツの話をもっと詳しく聞かなくっちゃあさ」
女性はその緊張感の無い振舞いとは裏腹に、ある野望に燃えていた。
(黒き翼の悪魔、吸血鬼か…
私の名誉と権力のために、何としてもこの手で死んで貰わないとねぇ…!)
ザランがガストを発ち、北の方角へ移動中
馬が大地を蹴り上げ、やがて森へ入ってゆく。
「全く…僕の町の連中はなんだって黒き翼の悪魔なんかを受け入れたんだ…」
その馬の背に跨がるザランが憎らしげに呟く。しかしその本心は故郷を想ってのこと。
「周りの村やなんかと協力すれば悪魔の一匹ぐらい捕らえる事だって出来ただろうに…
そうすれば今頃は懸賞金で豊かに暮らせてるはずなんだッ!」
「だよねぇ、やっぱり君もそう思うかぁ」
「!?」
ザランは馬を止めさせ、声のした方向に振り返る。
馬車が二台、それとは別に勇ましい立派な馬が六頭。
鎧を纏った騎兵六人と蒼い髪の女性、
彼女に付き従う者と思われる屈強な男が四人と女が二人。
旨そうな匂いのする鍋が二つと全員分の食器。
「今お昼御飯してんだけど、君も一緒にどう?」
女性がザランを食事に誘う。
「いえ、先ほど食事を済ませて町を出たところですし、弁当もありますから」
その物々しい一団に不釣り合いな女性の雰囲気に引き込まれ、
ザランもつい、呑気な返事をしてしまう。
ザランはハッとして、然るべき質問を投げ掛ける。
「えっと、あの~…わざわざこんな辺鄙な所へピクニック…ってわけじゃあ、ないですよね?」
「まっさかぁ~、秘境巡りなんて疲れるだけで退屈な事、私の趣味じゃないなぁ」
一団のうちの1人が何やら反論したそうな表情をしている。
恐らく彼は秘境巡りが趣味なんだろうとザランは思った。
「本題に入らせてもらうけど、君の町に吸血鬼いるよねぇ」
「さぁ、何の事でしょう…」
「隠さなくて良いよ。協力してくれた方が町の為になるしさぁ」
ザランは少し躊躇った後、従う他無く承諾した。
「よし。あっそうだ、自己紹介がまだだったねぇ。
私の名はルキュ、氷創のルキュと言えばピンとくるだろう?」
ブラッドクロス 第二話 氷創のルキュ 終
次回 ザランとルキュ、二人の思惑
ブラッドクロス 設定解説
武装の街ゲイル
ガストから北へ山をふたつ越えたところにある。
腕の良い職人達による武器産業が盛んで、力を求める者達が集まる武力と金の街。
ゲイル(Gale)
暴風や台風に相当する強い風。
氷創のルキュ
蒼い髪の若い女性。氷爪の騎士団のリーダーである腕利きの傭兵として名高い。
余裕たっぷりなのか、能天気なのか、緊張感の無い口調で話す。
今回は仕事を引き受けた訳ではなく、ルキュの野望のための行動。
氷爪の騎士団
ゲイルに本拠地を構える傭兵部隊。メンバーは総勢25名。
リーダーのルキュに対する忠誠は堅い。
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