ゼロ 2012-08-12 16:50:55 |
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SS載せて俺も撤収
ブラッドクロス 第一章 ー黒き翼の悪魔ー
第一話 黒き翼の悪魔
夜の闇に閉ざされた森の中、無数の悲鳴と断末魔が響き渡る。
「うわああぁあぁぁああぁぁぁぁ………」
その叫びは急速に年老いていき、しわがれた声も途絶えると、
人が倒れるにはあまりにも軽い音をたてた。
朽ち果てた枯れ木のように乾燥しきった砂の像が崩れ行くなか、
まだ生命に潤ったままの声がいくつか上がる。
「来るなぁッイヤだ嫌だ死にたくないぃぃ!」
「たっ、助けてくれッ!命だけはッ!」
「…めんなさ…ゆる…て下…ぃ…ごめんなざい…」
葉を赤く染めた木々の隙間から月明かりが差した。
その幽かな灯りがひとつのシルエットが浮かび上がらせる。
「命乞いなど無駄だ。貴様等がこの俺の正体を知った以上…1人残らず、殺す」
それは人の姿のようでもあり、凶悪な骨格の魔獣のようでもあり、
…翼を持つ悪魔のようでもあった。
「わかったッ!おお俺の命はくれてやる!だからコイツらは…家族だけは見逃してくれ!」
「………そうか、ならばこうしよう」
そのシルエットの主は右手を血塗れの男の頭に向けた。
そして、その指先がやがて紅い輝きを放ち………
異界ーサイド・シャドウー
空は厚い雲に閉ざされ、強い風が吹き荒ぶ寒冷な気候、
大地は険しい地形と硬い地質に覆われ、魔獣が闊歩する
弱くては生き残れない世界。
そこに住む者達は強い肉体を、あるいは優れた技術を、あるいは身を守るための団結を、
あるいは絶対的な権力を、あるいは圧倒的な略奪を、あるいは研鑽された魔法を…
誰もが生き残るための力を常に追い求め、生き残るために何だってする。そうして息づいていた。
夜、辺境の町ガストの酒場にて
故郷へと帰ってきた1人の旅人が、地元の友人達と話を弾ませていた。
「それにしても、この町は随分暮らしが良くなったみたいだね」
「丘の上にある古城に『彼』が住み着いたおかげよ」
「そうだな、魔獣は追い払ってくれるし、略奪者も町に近づけなくなった」
旅人が話を振ると女が答え、男がそれに続けた。
さらに女が有り難そうに話を続ける。
「それに魔法で土地を豊かにしてくれたから、危険な狩猟や採掘に頼らなくても農作で食糧も採れるようになったわね」
「それはスゴいなぁ…!でも城の方には墓が沢山出来ていたけど、その彼はどういう人なんだ?」
「彼の事は町の外に漏らしちゃいけないんだけどね、秘密を守ってくれるなら教えるわ」
「ああ、いいけど。でも何で秘密にしなきゃいけないんだ?」
旅人は故郷を守ってくれているその人物に敬意を抱き、是非とも知りたいと思った。
しかし、同時に違和感を覚えていた。そして、その答えを知ると……
「吸血鬼よ、三年前にこの町に逃げてきたの」
「なっ、吸血鬼だって!?あんなヤツら、いつ何を仕出かすか分からないぞ!」
椅子から立ち上がって叫んでしまっていた。賑わっていた店内が一瞬静かになる。
「大声を出すな、ザラン!もし店に他所から来た客がいたら大変な事になってるだろうが!」
「いや、アンタもうるさいから…お楽しみのところをすみません、皆さん」
女が謝ると店内は元の雰囲気を取り戻し始める。
旅人=ザランはばつが悪そうに声を潜め、話を続ける事にした。
「なぁ、それってもしかして、町で吸血鬼を匿ってるって事か…?」
「アイツは世間や『教団』が言うような悪人じゃないぞ」
「彼は悪徳な領主のように理不尽な徴収みたいな事はしないし、合意なく血を吸う事も無いわ。
それどころか町のために魔石を採ってきてくれた事もある」
「何を呑気なこと言っているんだ、黒き翼の悪魔だぞ…!
お前らに信用させて騙そうとしてるに決まってるだろ…!」
「そう思う?三年間もかけてよ?」
「アイツらは寿命が長いんだ、三年ぐらい…
それにもし本当に良いヤツだとしても、きっといつかろくでもない事になるのは目に見えてるだろ」
ザランの言う事はこの世界において正論であった。
「確かにこの地域は教団の勢力圏外とはいえ、いつか『十字軍』がやってくるかもしれん…
そしてアイツを匿っていたこの町が罪に問われる…」
「それでもこの町が再びまともに暮らすためには必要な事なのよ…」
「僕はごめんだね、妙な事に巻き込まれないように明日にでもここを発つよ。
君たちも早く町を捨てて出た方が良い、これは忠告だよ」
そう言ってザランは友人達を残して酒場を後にした。
だが、この時点で既に彼の懸念が現実として町へ迫りつつある事は、
彼自身でさえも予想出来ていなかった。
第一話 黒き翼の悪魔 終
次回 氷創のルキュ
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