ゼロ 2012-08-12 16:50:55 |
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ブラッドクロス外伝
第二話 意識の海へ潜行せよ
賢者の海
遥か太古の時代、賢者達が持てる叡智の全てを、意識の集合体として後世に遺したという。
時の流れと共に、この海には新たな知識が注ぎ足され、膨大な量の情報が詰まっている。
ここには失われた時代の記憶も眠っているのだ。
地下にある賢者の海の上には、ドーム状の館が三棟建設されている。
そのうちの一つが海を管理している。
用事のあるガラージと別れ、一人で図書館のゲートをくぐる。
「賢者の海に入りたいんだけど」
カウンターの係員さんにそう伝える。
「では、こちらの書類にサインをお願いします
簡単に要約するとですね
賢者の海で精神障害をきたした場合は自己責任です、って内容の同意書です」
「せっ、精神障害ィ~!?」
「大丈夫ですよ、不安定な領域に近付くとか地下五階より下に行くとか、そのような事をしなければ」
おそるおそる書類に署名する。
「はい、ありがとうございます
一般の方のダイブは安全のため、二時間までです
何らかのトラブルで、それまでに離脱出来ない場合はこちらのベルを鳴らして下さいね」
係員さんの後についてカウンター奥のエレベーターに乗った。
エレベーターのドアが開いた。
整備された無機質な陸地と、濁った『青』の暗い海が広がっていた。
「あら、貴方はクラスメイトの」
時間を少しずらして来たのに、まさか…
声が聞こえた方向を向くとやはりアヴィス。
「確か名前は…きゅうりだかキウイだかだっけ?」
「キュリオ!キュリオ・メルクリルだ
野菜でもフルーツでもねえッ!」
「ああそんな名前だった
それにしてもこんな所に来るなんて、顔に似合わず学術に熱心だったのね」
「ヘッ!悪かったな
顔に違わずガクジュツ目的じゃねぇよ、人探しだ」
ったく、さっきから失礼な女だぜ。
そんな会話をしている間に係員さんは戻っていったようだ。
「奇遇ね、私も人を探してるの
ところで貴方ここは初めて?」
「ああ」
「やっぱり初心者か
危ないから私の後について行動なさい」
そう言ってアヴィスはおもむろに海に飛び込む。
水面は飛沫を上げる事はなく、トプンと静かにアヴィスを飲み込んだ。
「色々怪しい女だが、俺は海の事よく分からないし、ここはついていくのが得策か?」
後を追って俺も飛び込もうとすると、別の係員さんに呼び止められた。
「そこの人!そんなとこから入ったら危険です!
あっちの階段から入って下さい」
マジかよ…アイツ大丈夫か?
階段から海の中に入っていく。
海とは言うものの、スライムと空気の中間みたいな感じ、服も濡れないし息も出来るようだ。
抵抗や圧力もほとんど感じない。
上から見た時とは違って、中は澄んでいて視界良好。
普通に床があって、たくさんの本棚がキチッと並び、図書館が水没したようにしか見えない。
本棚の間を確認しながら進み、アヴィスを発見した。
「遅いじゃない、何してたのよ!」
フキゲンなご様子だがこっちも言う事がある。
「お前こそ飛び込むなんて調子に乗りやがって!
階段使えよ、廃人になっちまいてーのかッ!」
「階段~?そんなのあったのぉ?
初めてだから知らなかったわ」
「オイオイオイ、なんなんだァ~この女!
訳知り顔しといてお前こそド素人じゃあねーか!」
「ちなみに誰を探してるの?」
「うちのクラスのアルメリィ・オリアート」
「すごい偶然!私もよ
貴方も何かやられて?」
「なんもやられてないよ、ただ気になって来ただけで
お前の方は実際のところどうなんだ?」
「浅からぬ因縁…あれは忘れもしない一年生最後の模擬戦闘…」
「あーはいはい、その話はもういいよ
オリアートさんを見つければ真相も分かるな」
「本当の事なのに、みーんな真面目に聞いてくれない…」
すねちゃったみたいだけど、五秒で決着なんてあり得ないね。
もし本当ならめちゃくちゃ有名なはずだしな。
一階にはどうやらオリアートさんはいないようなので、二階に降りる事になった。
「お前さ、もしかして闇雲に探し回ってんのか?」
「そうよ、でも手掛かり無しは思ったより難儀ね」
「ハァー…こりゃため息も出ようもんだぜ」
「ちょっと訊いてみよ、すいません、そこの人ー」
初老の男性に聞き込みを開始するアヴィス。
そういやオリアートさんてどんな容姿なんだろう?
「人を探してるんですけど、
髪は長くて紫色、かったるそーな感じで、見るからに愛想の無いアルメリィ・オリアート、あっ性別は女なんだけど、知ってる?」
おいおい、半分は悪口言ってるだけじゃねぇか…
「深く潜ってる人の間ではそういう女の子を見たって噂があるようだが…
もしかしたら違うかも…
実はここに来る人達はみんな、自分の用のある階以外の事は詳しくないんだ
それに自分の作業に集中するから他人の事はわからない
すまないね、お嬢さん」
「ふ~ん、そうなの、気にしなくていいわ、ありがとう」
二階での聞き込みでは有力な情報は掴めなかった。
という訳で三階に降りた。
「しかし妙な構造だよな
階段って普通一ヶ所にあるだろ?
なんでここは階段がバラバラな所にあるんだろ?」
「私もよく知らないけど、ここは意識の海みたいなもんでしょ
だからきっと賢者が気まぐれなのよ」
「なるほど、なんか説得力あるな」
そんな気まぐれフィールドを苦労して四階まで制覇した俺達。
しかしオリアートさんはまだ見つからない。
立ち入り許可されている中で、残すは五階だけ。
「そもそも今本当にオリアートさんは潜ってんのか?
これでいなかった無駄骨だぜ」
「私はラシウス先生の言う事信じるわ
ここに来れば会えると言われたんだから、それはつまり居るって事よ、逆に考えて」
「なにそのよくわからない理屈と信頼」
カロンカロンカロンカロン
「なっ、なんだ?ベルが勝手に鳴り始めたぞ!?」
「私のも鳴ってるわ、共鳴してるのかしらね
非常時に使うベルが鳴ってるって事は、今が非常時なんじゃない?逆に考えて
そしてその事を全員に知らせる必要があって、そのために共鳴するベルを持たせてるんだと思う」
「なるほど、それはそれで筋が通ってるなぁ………
って、だったら冷静に分析しとる場合かァーッ!」
「対処法を説明されてないんだから、何もしなくていいんじゃない?逆に考えて
逆に考えるって偉大な言葉だわ」
こうして俺達は下の階からの凄まじい水流に飲み込まれていった。
第二話 意識の海へ潜行せよ 終
次回 不登校の賢者
ブラッドクロス設定解説
・賢者の海
太古の時代からの意識の集合体にして英知の宝庫。
その知識や記憶は本という形で具現化されている。
本は海の外へ持ち出す事は不可能。
必要な情報は紙とペンでメモしなくてはならない。
賢者の海に潜るという事は巨大な意識の中へ潜る事であり、精神に何らかの影響を及ぼす可能性大。
浅い階層は比較的安全で秩序の取れた姿を見せる。
なので五階までは一般人も制限付きで立ち入り可。
深くなるほど広大かつ複雑な迷宮と化し、不安定な部分も多くなり、精神への干渉も強まる。
また、海の中は一日毎に本棚の並びや配架、階段の位置等が変化する。
こうした様々な問題により、海に眠る情報の回収は困難を極める。
なお、賢者の正体は『青の民』の魔法使いではないかという説がある。
・賢者の館
賢者の海の研究や管理を目的に建造された。
蔵書庫部分は図書館として一般にも開放している。
豊富な古代資料や海から得られた情報を纏めた本を納めているのが特徴。
しかし深層に関する資料の正確性は保証できない。
なぜなら精神干渉により正気を保っていられるか確かではないため。
同一の事柄でも著者によって食い違いも多く、どれが正しいか判別もできない。
ごく一部には海に耐性のある者もいるようだ。
ブラッドクロス外伝改め『ブライトクロス』
第三話 不登校の賢者
俺は泡に包まれて海の上に浮かんでいた。
辺りを見回すと同じように何人も潜行者が浮かんでいる。
彼らの中には文句を言う人もいた。
「またコレかよ、ふざけんな!」
「いい加減他の方法があるだろ!」
また?よくある事なのか?
「あ、あの、一体何が起こったんですか?」
俺は近くの男性に訊ねた。
「強制排出だよ、君は新顔だな
ベルを鳴らすとこうやって全員吐き出されるんだ
文句言う奴もいるけど、俺は結構好きだよ」
そうこうしているうちに、俺達を包む泡は岸辺に流れ着いた。
「具合の悪い奴がいるようだし、職員に連絡しなくっちゃあな」
陸にあげられた人々はまた海に戻る人や、精神薬を飲んで休憩を取る人など行動は様々。
俺はとりあえずアヴィスと合流した。
「さっき見たけどアルメリィの姿は無いようね」
「全員排出された訳だから、やっぱりいないって事か、あの先生も適当な事言うなぁ」
「それはどうかしら」
「どういう事だよ?」
「あの程度の事なら抵抗出来るはずよ、実力者ならね
さ、行きましょ、五階へ」
コイツの執念深さ、やっぱり気になる。
もう一度だけアヴィスについていく事にしよう。
「ところで今のセリフ、弱者宣言だよなァ~ww 」
「事前に知ってたら私だって楽勝だったわよッ!」
バシーン、ドボォーン
「ふう、五階まで降りるのも一苦労だったわね」
「問題は『髪は長くて紫色、かったるそーな感じで、見るからに愛想の悪いアルメリィ・オリアート、性別は女』なんてのが本当にいるかどうか」
「見つけたわ!」
「早いな
………え、マジで?」
オリアートさんは長机で本の書き写しをしていた。
「お久しぶりね~ぇ、アルメリィ・オリアートォ」
アヴィスが声をかけるが反応は無い。
「私は貴方と会った時の事、片時も忘れなかったわぁ~」
反応無し。
「あれからというもの私は反省してね、修行に励んだのよ」
反応無し。
彼女の顔を覗き込むアヴィス。
「今の私なら貴女なんて一捻りよ、フッフフフ…」
反応無し。
アヴィスの絡み方が悪いのは確実…
しかしなんか逆にアヴィスがかわいそうな気がしてきたぞ。
ついにオリアートさんが顔を上げた。
ここぞとばかりに悪役っぽい表情を見せつけるアヴィス。
正直それやる意味がわからない。
オリアートさんの方はペンを置いて両腕を上に…あっ、これはただの伸びですね。
そして何事も無かったかのように作業再開。
「ちょっとちょっとちょっとォー!
何とか言いなさいよアンタッ!」
深いため息をついてオリアートさんが口を開いた。
「………私、今忙しいから、用があるなら待ってて」
消え入りそうなか細い声だった。
「最初からそういう風に答えればよかったのよ
それで、どのくらい待てばいいの?」
「……………じゃあ、368年くらい」
「アンタねぇ!」
俺はアヴィスの肩に手を置く。
「お前じゃ埒が空かねぇ、ここは一旦退けよ」
「…ふん、だったらキュリオのお手並みを拝見させて頂くわ」
この俺様渾身の爽やかボイスで陥落させてやるぜ!
「やあ、初めまして、オリアートさん
僕は今年から同じクラスになったきゅり…」
「名乗らなくていい、興味ないから
私の邪魔しないで」
「おい、アヴィス何なんだこの女はよォ~~~!?
メチャクチャ態度最悪じゃあねーかッ!」
「何なんだって言われても知らないわよ
五秒の関係だもの、見た目と第一印象だけが情報」
「そりゃお前の妄想設定の話だろーがッ!」
「妄想ですってぇ!?
事実を認めた上で乗り越えようとしているこの私によくもそんな事を!
最大級の侮辱だわッ!」
「うるさいッ!!!
私の邪魔しないでって言ってるでしょッ!」
さっきまでの様子からは信じられない程の大声。
俺もアヴィスも完全に呆気にとられてしまった。
「いいかしら、二人共
先に用事を聞く事にした
だから済んだら大人しく帰りなさい」
「単刀直入に言うと、ライバルとして貴女にリベンジしてあげるから学校に来なさい、という話よ」
「前半余計だけど、まぁそういう事だな」
「リベンジというのは模擬戦闘の事だと思うけど、一応試験日には登校する
後はマッチング次第ね」
「だから試験で当たらないかも知れないから、普段もちゃんと学校に来なさいと言ってるのよ」
「そもそもそれは貴方の都合、私が合わせる義理は無い」
「私に勝っておいてよくそんな言葉が…!」
「話が進まないからアヴィスは引っ込めぇ~
で、君の方こそ何で学校に来ないんだ?」
「初めは行ってたけど、何故か先生に試験結果だけ良ければ来なくていいって言われた
それが理由、だからここで過ごしてるの」
「なんだそりゃ?家庭の事情だとか、学校生活自体には問題無かったわけ?」
「家族はいないし、生徒達も作業中の私に絡んでくる点以外は恐らく善良だったはず」
「つまり来なくていいって言われた『だけ』で不登校って事かしら?」
「そう、おかげで好きなだけこの海にいられるわ」
「あっそ、じゃあ目的変更
貴女と賢者の海の関係は知らないけど、こんな情けない奴に勝ったところで何の意味も無いわ」
「私にこだわるのをやめてくれるのは非常に助かる」
「まったく、愚か娘ね…逆よ!
新しい目的はお前を真人間に叩き直す事!
徹底的にこだわってやるわ、リベンジはそれから!
キュリオも手伝いなさい」
「え~、何で俺がそんなめんどくさそうな…」
「その目的、すごくやめてほしいんだけど」
「アルメリィ、明日の朝はどこにいるの?」
「ここにいるわ、最近は五階に戻ってきたから」
「七時に迎えに来るから明日から登校よ
キュリオもこっちによりなさい
てことで今日はもう帰るわ
さようなら、また明日」
「さようなら、願わくば永遠に」
「じゃ、俺も帰るかー」
「貴方も永遠にさようなら」
「俺も永遠かよ…
あ、そうだ、最後に訊くけど、アイツとどんな関係?」
「さあ?覚えてないけど、多分模擬戦闘で当たったみたい」
「ちなみに君どのくらい強い?」
「戦闘、好きじゃないから早めに終わらせてるわ
一撃だから、だいたいいつも五秒くらい」
偶然の一致………に、しちゃあ………かといって現実的でもねぇし………
真実はこの目で確かめるしかない訳で、そのためには結局アヴィスの手伝いをするハメになるなぁ…
第三話 不登校の賢者 終
次回 押し付けがましい救い主
ブライトクロス設定解説
・ブライトクロス
ブラッドクロスがタイトルに相応しくないため変更。
brightは「明るい」「輝いている」等の意味。
・模擬戦闘
スクールで授業の一環として行われる訓練。
倫理指導もあり、厳しい規則が敷かれている。
進級とは無関係だが試験もあり、戦績が悪い場合は課題が追加される。
対人戦と幻影相手のシミュレーション戦がある。
対人戦は戦績を元にマッチングされる。
内容は一対一の決闘や同人数のチーム戦、少数対多数の変則戦など様々。
フリーの自主訓練も可能で、スポーツ感覚で打ち込む生徒も多い。
装備は鎧衣、魔操輪、光剣、光盾、風靴が支給され、好みにカスタマイズ可能。
・鎧衣
全身を覆うタイトなスーツ状の装備で身体能力も向上する。
身体強化のパラメーターを調整可能。
模擬戦闘で使用出来る装備なら、衝撃と痛みを完全にシャットアウトする。
ただし一定以上のダメージを受けるとダメージ箇所が硬質化し重量も増加、身動きが困難になる。
行動不能に陥ると敗北と判定される。
・魔操輪
魔力を増幅し、コントロールを補助する指輪。
また、魔力弾の発射が可能。
・光剣
実体は柄のみで、刀身をバースト(魔力放出)で形成する剣。
出力調整や特殊効果の追加が可能。
・光盾
実体は腕に装着する装置部分のみで、バーストにより形成される盾。
盾の形状を変化させる事が可能。
・風靴
周囲の空気を集束する事が出来る靴。
風圧のコントロールで浮遊や飛翔を行うのだが、非常に難しく使いこなす者は少ない。
圧縮した空気を一気に解放して瞬発力や跳躍力を高めるという、本来の目的とは異なる使い方が浸透している。
ブライトクロス
第四話 押し付けがましい救い主
朝七時 賢者の館
「おはようキュリオ、ちゃんと来たわね」
「ふあ~あ…おはよ
館が通学路からあんまり外れてたら来なかったよ
てか七時集合って早すぎだろ、眠いぜ」
「時間には余裕を持つの、五分前行動って奴よ」
「俺とお前の間で『五分』の認識がこれほど違ってるとは思わなかった」
賢者の海、五階
「おはようアルメリィ、ちゃんと起きてたわね」
「別に貴女を待ってた訳じゃないけど
それに、そもそも寝る必要って無いし」
「どう考えてもあるだろ、ありまくる
ちゃんと寝ろ
俺はむしろ足りてない、アヴィスが予定繰り上げさせたせいで」
「アルメリィ、制服は?」
「どっかいった」
「まぁ、不登校だもんな」
「そう、その事はあとでいいわ、お弁当は?」
「用意してない」
「行く気ないもんな」
「予想して貴女の分も用意してあるわ、朝ご飯は?」
「食べてないし用意もない」
「それも予想して持ってきたわ」
「俺も食べてないんだがな、アヴィスが予定繰り上げさせたせいでぇ~」
「それも予想して貴方の分も」
「よし、お前を嫁に貰ってやってもいいぜ
………なんだ、その本気で嫌そうな顔は
冗談で言ったけど、そんな反応されたらちょっと傷つくじゃねーか」
「そもそも私、食事って必要無いんだけれど」
「いやどう考えてもあるだろ、ありまくり過ぎる
ちゃんと食えッ!」
「アンタどんだけ非常識な生活してんのよ、身体大丈夫ゥ?」
アヴィスがアルメリィの身体を撫で回す。
「ああっ、なんて嫌らしい手つき…」
「何これ!?アンタ痩せすぎ!骨よ、骨!
あっ…ボーンよ、ボォオーン!」
「わざわざ言い直す必要はあったのか?」
「語感が良いじゃない、ボーン!力強い感じで」
「アルメリィに力強さなぞ微塵も無い訳だが?」
「まっ、とにもかくにも皆で朝食にしましょ
炊いた白米と焼いた魚と焼いた卵と味噌のスープ」
「ほう、これは和食だな(何故か)
いただきま~す、ぱくっ」
「別に要らないのだけれど、うるさく言われそうだから私も大人しく摂取しておくわ、ぱくっ」
「………ん!」
「………むむ!」
「この焼いた卵ッ!…アヴィス貴様ァ~~ッ!」
「ふふっ、美味しいでしょ
当然よね、なにせこの私が直々に…」
「これは一体どこの総菜屋で買ったんだァーーー!?」
「………」
「教えろッ、今度買い占める!」
「そうねぇ~、たしかぁ~、晴れの海の方だったかしらぁ~?」
「マジかよ…そこは遠すぎるぜ…」
「ごちそうさま
久々に食事するのは良かったわ、感謝する」
「貴女にも少しはそういう心が残ってて嬉しいわ
さて、卒業した姉さんの制服持って来たから、ひとまずこれに着替えなさい」
「えぇ~…着替えないし、行かないし…」
「強引にでも着替えさせるし、連れてくし」
「ちょっ!やだ!脱がさないで!」
「俺の事は構うなッ!そのままやるんだアヴィス!
自分の使命をまっすぐに全うしろォオオオッ!!」
「起きなさいクズ
登校するわよ」
「ん…ああ…何故だろ、顔がすごく痛むんだが…
あとなんか…重大なものを見逃した気がする…
あっ、 意外と制服似合うなアルメリィ」
「行きましょうか」
「ああ、そーだな」
「今日からは余分に頑張らないとね」
「しょうがないから少しは手伝ってやるよ」
「良い心がけよ、流石は我がしもべ」
「誰がしもべだ、ふざけんな」
「行ってらっしゃい、二人共気をつけて」
「いてきま~」
「はーいママ、行ってきまーす!
………じゃなくてッ、アンタも行くのよ!」
アルメリィの手を引っ張るアヴィス。
「あぁ~ん、離してよぉ~」
「軽い!軽いわよボーン!楽ぅに引っ張れるわぁ~
食事を軽視した結果よ、反省なさい、アハハハ♪」
地上
「疲れた……だいたい私、スクールなんて行く気なかったのに、こんなとこまで連れ出して…」
「この期に及んでまだそんな事言ってんのか、潔くねえな…てか、疲れんのはえぇよ」
「どうせボーンは口だけよ、言ってるだけで抵抗してないもの」
ハッとしたように顔を背けるボー…アルメリィ。
「ゴチャゴチャ言ってても、ほんとは戻りたい気持ちがあるんでしょ?」
「貴女に私の何がわかるの…」
「別に?そこはスクールに通いながら追い追い…」
「私なんかがね!あそこに行ったって誰が喜ぶっていうのよッ!?
誰も得なんかしやしないんだからほっといてッ!」
そういう展開やめてくれ、俺が気まずい。
「誰が得するってぇ…?私に決まってんでしょッ!
『私が』アンタを必要を必要だと判断したの!
アンタは私の大事な目標なの!
そこに『アンタの』意志も都合も関ッ係無い!
アンタは私のためにスクールへ来ればいいのよッ!」
「………!」
「なんか文句ある?」
バカなのか、文句しかねーだろ、常識で考えろ。
「………貴女、今の私を完全否定してくれたわね
確か貴女の目的は真人間の私を倒す事…
私がそんな風になると、本気で思っているの?」
「本気で思ってるし、私がそうさせるのよ」
「………そこまで言うのなら、やれるだけやってみるわ、変われるように」
オイオイ…アヴィスは地雷踏んで、逆ギレして、暴論振りかざしただけだ。
よく考えると別にそんな良い話じゃないんだぜ?
なのにな~んでこのアルメリィは感化されてんだ?
ついてけねぇ…俺だけ置いてきぼりだぜ。
「それで良いのよ、ボーン…いえ、アルメリィ・オリアート」
道中
「ハァッ、ハァッ…き、休憩…」
「またかい、体力無さすぎるだろ、流石に」
「フゥフゥ…海の中じゃ…肉体の負担…軽いから…」
「そうは言っても生活は海の上だろ」
「フゥー…フゥー…いや…ずっと、潜ってる…」
「なにぃ!?」
「アルメリィはむしろあそこが生活の中心なんでしょ」
「でも、あの海は精神に影響するって…」
「個人差があるんでしょ、多分私も結構平気
細かい事でビビって、情けないしもべだわ」
「ああ、そうだった…
コイツら最初からまともな神経してねえんだったな」
「それにしても、まだ時間はあるとはいえ、正直じれったいわ」
「フフフ…いいのよ、見限ってくれても…」
自虐的な笑みを浮かべるアルメリィ。
「バッカねえ、私は決めた事を途中放棄するような女じゃないんだから
出番よキュリオ、おぶってやんなさい」
「やだね
真人間にさせるなら自力でなんとかさせるべきだろ」
「なるほど、それもそうね
お前の視点もたまには役に立つじゃない」
「俺はこのままゆぅっくり登校していいぜ
遅刻しそうになったら置いてくけどな」
「私も今はゆっくりで構わないけど、移動が全部このペースじゃ絶対どこかで困るから、何か手段を考えないと」
「そうだな、時間のある時に体力つけさせるとして
すぐに出来て、なおかつ自力の移動手段が必要だな
でもそんなのあるかぁ~?」
「う~ん………
そうだわ、素直に長所を活かせばいいじゃない!
アルメリィ、貴女翔べるでしょ」
「何言ってんだ?風靴も無いのに」
「やったこともない…」
「出来るわよ、私に勝てる貴女ならね」
第四話 押し付けがましい救い主 終
次回 三つの民と二つの星
ブライトクロス設定解説
内容が無いよう(笑)
今後もこのようなケースが有り得る
第零話は今回で回収
ちなみにアルメリィ・オリアートはとあるキャラのパロディ
食事を不要にする方法も、賢者の海に眠っていたのだろう
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