針金 2012-04-26 21:38:47 |
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「嗚呼アアアアアあアアァァァアアアアああアアアアアア!!!!」
それは2枚の羽だった。左の羽は下から上の羽にかけてだんだんと薄い水色から濃い青に
変わっている綺麗な羽だった。
もう一方の右の羽は左の羽とは真逆で、俺の眼と同じ色をしていて羽の先がとても鋭利な
醜い羽だった。まるで人を刺せ、と言わんばかりの鋭利さだった。
さっきの大声でなんだなんだと人が数人きた。どうやらここら辺にいる不良のようだ。
「オイオイ、ただのガキじゃねぇかよ。」
早速餓鬼扱いか。
「ちょっと僕ー?wうるさいんですけどぉ?」
「うるさい餓鬼にはおしおきが必要だな?」
一人が握りこぶしを作った。その姿が俺の母親の姿に重なった。
お前のせいでこんなことになったんだ。俺を捨てやがって。俺の事を馬鹿にしやがって。
・・・俺を生みやがって・・・!!
俺は爆発しそうなものに身を任せた。そうか。これは「怒り」だ。
殺したい。グチャグチャにしてやりたい。狂ってしまえば楽になる。楽に。
狂って狂って狂って狂って狂って狂って狂って狂って狂って狂って狂って狂って狂って狂って狂って狂って狂って狂って狂って狂って狂って狂って狂って狂って狂って狂って狂って狂って狂って狂って狂って狂って狂って狂って狂って狂って狂って狂って狂って狂って狂って狂って狂って狂って狂って狂って狂って狂って狂って狂って狂って狂って狂って狂って狂って狂って狂って狂って狂って狂って狂って狂って狂って狂って狂って狂って狂って狂って狂って狂って狂って狂って狂って狂って狂って狂って狂って狂って狂って狂って狂って狂って狂って狂って狂って狂って狂って狂って狂って狂って狂って狂って狂って狂って狂って狂って狂って狂って狂って狂って狂って狂って狂って狂って狂って狂って狂って狂って狂って狂って狂って狂って狂って狂って狂って狂って狂って狂って狂って狂って狂って狂って狂って狂って狂って狂って狂って狂って狂って狂って狂って狂って狂って狂って狂って狂って狂って狂って狂って狂って狂って狂って狂って狂って狂って狂って狂って狂って狂って狂って狂って狂って狂って狂って狂って狂って狂って狂って狂って狂って狂って狂って狂って狂って狂って狂って狂って狂って狂って狂って狂って狂って狂って狂って狂って狂って狂って狂って狂って狂って狂って狂って狂って狂って狂って狂って狂って狂って狂って狂って狂って狂って狂って狂って狂って狂って狂って狂って狂って狂って狂って狂って狂って狂って狂って狂って狂って狂って狂って狂って狂って狂って狂って狂って狂って狂って狂って狂って狂って狂って狂って狂って狂って狂って狂って狂って狂って狂って狂って狂って狂って狂って狂って狂って狂って狂って狂って狂って狂って狂って狂って狂って狂って狂って狂って狂って狂って狂って狂って狂って狂って狂って狂って狂って狂って狂って狂って狂って狂って狂って狂って狂って狂って狂って狂って狂って狂って狂って狂って狂って狂って狂って狂って狂って狂って狂って狂って狂って狂って狂って狂って狂って狂って狂って狂って狂って狂って狂って狂って狂って狂って狂って狂って狂って狂って狂って狂って狂って狂って狂って
・・・あ・・れ・・・
気がついたら俺は死体の山の上にいた。いや、覚えていない訳じゃない。
俺がこの右羽で不良たちを痛ぶって弄び、悲鳴を聴きながらながら殺していたのを。
それからもう一つ気づいた事がある。確かに俺の口角が上がり、頬が緩み、
生まれて初めて笑っていた事。
7.強心
翌日、俺は昨日の事を勿論誰にも話さず、彼にさえも黙っていた。
だが、少々事件にはなっているらしい。それもそうか。人が殺されたのだから。
いや、正しくは殺した・・・か。
さて今日は日曜日で何も予定は無いわけだが、離婚の話はまだ終わってないらしい。
今朝の朝飯はデザイア以外誰も言葉を発しなく、なんとも居心地の悪い空気が漂っていた。
それからというものの、俺が彼に触れても両親は何も返そうとはしなかった。
彼は異変を感じないのだろうか。それともかなり鈍感なだけか。
「お兄ちゃーん」
彼は俺に積極的に話しかけるようになった。今回は何の用事だろうか。
「買い物行こー」
か・・・買い物?俺は通学の時以外は外に出ない。人が居るところは苦手だから。
彼は俺が首を縦に振るまでグイグイと俺の袖を引っ張った。行くしかないようだ。
俺たちが住んでいる所は結構な都会だった。ギリシャという狭い国なのだが人口は多い。
外に出てみると冷たい風が頬を撫でた。外は眩しい。
目を開けてみると数え切れないほどの人が俺の前を往復していた。そんな人ごみの中に、
彼は迷わず飛び込んでいった。手をつないでいたので俺が迷う余地はなく、気がついたら
人ごみの中を歩いていた。すると、
「おじさーん」
と、彼が言った。おじさん?俺たちはおじさんなどに会った事は無いと思うのだが。
「やあ、デザイア君。またおつかいかい?えらいねえ」
これがおじさんなのか?随分慣れ慣れしい。また、ということは彼とは過去に数回会った
ことがあるのか。
「うんっ!八百屋のおじさん、キャベツちょーだい」
・・・なんだ、八百屋か。なんでキャベツなんだ。
「あいよ。ほい。重いからね」
少し小さめのキャベツをその八百屋のおじさんは持ってきた。
「お金は少しまけるよ。小さいからね」
な・・・なんと心が広い・・・この世の中にこんなにいい人がいるとは。
「そっちの子は・・・お兄ちゃんかい?」
俺が彼より身長が高めなことに気がついたためだろうか。兄ということを理解していた。
俺が頷くとニッコリと笑って
「デザイア君からお話は聞いてるよ。いいお兄ちゃんなんだね」
いいお兄ちゃん?俺は彼に優しくしてやったことがあっただろうか。
そもそも、俺の話をしたのか彼は。
気になって彼の方を見ると、少し照れているように見えた。
彼はそれを隠すようにお金を払い、俺の手を引っ張っていった。
彼がそこらじゅう歩き回ってばかりいるので、次の目的地を聞いてみることにした。
口を開かなかった俺だが、あの日を境にして俺は彼とは口を訊くようになった。
「次は何処にいくんだ」
今度はどこの店に付き合わされるのだろうと思っていたが違った。
「公園ー」
と、彼は言った。遊びたいのだろうか。それにしては行ったり来たりを繰り返している。
「道が分からないのか?」
と聞くとコクン、と小さく頷いた。公園なら幼稚園へ通学する途中にあったはずだ。
とりあえずそこに連れて行くと彼は満足そうな顔をしていた。が、
その顔はすぐに崩れた。
彼は猫背のまま、ブランコに乗った。元気が無い。
暫くすると彼が口を開いた。
「なんでお父さんとお母さん、けんかしてるの?」
・・・気づいていたのか。さすがに馬鹿ではなかったようだ。
だが、その質問には答えられない。何故なら。その喧嘩の原因は彼にはとても言えないことだったからだ。両親が浮気し、口論。その上俺達を捨てようとしていることなんて
彼には言えない。言ってはならない。
「どうして?俺はお父さんにもお母さんにも笑って欲しいよぅ・・・」
そんな気持ちを抱えて朝食であんなに必死に話しかけていたのか。
彼はただ平和に、家族で団欒したいだけなのだ。ただ、楽しくしたいだけなのだ。
よくも今まで弱音を吐いて来なかったものだ。彼をほんの少し見直した。
俺は黙って彼の頭を撫でた。すると彼は俺の方を見て笑ってみせた。
「帰ろっ!へへっ」
嬉しそうな顔をしていた。
8.狂気
彼と一緒に家に帰って来たのはいいが、まだあのねっとりと纏わり着くような嫌な雰囲気が立ち込めているままだった。
彼は一度は元気になったものの、また落ち込んでしまっているようだった。
家の中をよく見ると荒らされているようだった。母親がストレス発散でもしたのだろうか。
彼はそれに気付いたのか、突然泣き出してしまった。
俺はそんな彼を自分の部屋まで誘導すると、まず落ち着かせようと彼の好きな玩具の車を出してみた。
だが彼は興味も示さず泣き続けていた。
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