針金 2012-04-26 21:38:47 |
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「きゃああああああああっ!!」
悲鳴が聞こえた。積み木を投げた奴は俺を見ながら顔を青白くしていた。
その時だった。ドアが勢いよく開いた。
「お兄ちゃん!!」
彼だった。俺の弟、デザイアだった。何しに来たんだ。
「お兄ちゃん!?」
なんだよ。
「お兄ちゃんに何してんだよ!」
怒っているのか。何故だ?何故俺が傷つくと彼が怒る?
彼は相手の胸倉を掴み、渾身の力で殴った。
すると、相手も抵抗し、彼を蹴った。あっという間に闘技場になった。
俺は俺の手から流れる真紅の血を見てから突き刺さっている積み木を引き抜いた。
一気に多量の血が吹き出したが、気にしない。
この騒ぎに先生達も来た。闘技場化としていることに唖然としているようだった。
周りから悲鳴が聞こえるのを気にも留めず
俺は
4.声
「デザイア」
教室中が静まり返った。まるで地球が静止したような、そんな静寂が教室を包んだ。
全員俺の方を見ている。それはそうか。俺は生まれて初めて
「声」を発したのだから。皆も彼も俺でさえも初めて聞いた、自分の、声。
「喋った・・・」
誰かがそう言った。いや喋りますよ。そりゃ俺だって一応、人間なのだから。俺は続けた。
「やめろ」
わずかなたった3語の単語だったが、意味は伝わる十分な言葉だと思う。
「なっ・・・どうして!?こいつはお兄ちゃんをっ」
「別に痛くない」
「え・・・」
勿論嘘だ。突き刺さった時も、引き抜いたときもとてもがつくほど痛かったし、今も痛い。
実を言うと立っているのも辛い。ガクガクする。倒れそうだ。
「嘘だ!だって血がものすごい出てるもん!」
その言葉で先生達は正気に戻ったのか、俺は抱えられて保健室に連れていかれ、
包帯を巻かれた。他はというと、長い長いお説教。だが彼だけは俺の傍に居ることを
許された。
「救急車呼ぶから待っててね」
と、先生は俺に告げ、出て行った。そして保健室には俺と彼、二人きりという形になった。
暫く沈黙が続いたが、彼が口を開いた。
「どうして、やめろって言ったの?」
首を縦や横に振る程度じゃ答えられない質問だったので、いつも通り無視しようかと
思ったが、彼があまりにも真剣な表情だったのでそれは出来ないようだ。
「別に当たってもよかったから」
俺の声は彼より少し低めの感じだった。
「何言ってるの!死んじゃうかもしれなかったんだよ!?」
何を必死になっているんだ。
「俺が死んでも別にいいだろ。というか、俺が**ば幸せになる人の方がたくさん・・・」
そう言いかけた時だった。
「なんでそんな事言うのさ!!!」
彼が発した声の中で一番大きい声量だった。驚いて彼の方を見た。
・・・泣いていた。
ひっくひっくとしゃっくりをしながら涙を流していた。
彼の涙を俺は初めて見た。
「そんな事・・・言わないでよっ・・・」
その声は泣き顔にふさわしいぐずった弱弱しい声だったが、どこか強みがあった。
「ダウトお兄ちゃんは、たった一人の俺のお兄ちゃんなんだよ・・・?」
たった・・・一人・・・
「だからなんだ。俺は兄というだけでお前とは・・・」
「違う!兄だからじゃない!家族だからじゃない!」
「じゃあなんだ!!」
声を上げていた。俺が。
「大好きだからぁ!」
「・・・!?」
大・・・・・・・好き・・・・!?
「俺はお兄ちゃんが、ダウトっていう一人の人間が好きだから!!」
そう言うと彼は顔を赤くして、眉をつり上げていた。そして、真っ直ぐ俺の方を見つめた。
なんだか、目の奥が熱くなっていた。何かが込み上げて目から溢れ出した。
温かい。
「ははっお兄ちゃんも泣くんだね」
泣く?俺が?・・・そうか。これが涙、なんだ。なんて温かくて綺麗なんだろう。
俺のこの死人のような目から、こんなのが出るなんて。
俺はそのまま布団で顔を拭いながら泣きじゃくった。
そして、深い眠りに堕ちた。
気がついたら俺は病院にいた。横に彼がいた。
「あっおはよう!」
俺は朝まで眠っていたのか。俺は彼にだけ心を許してもいい、と思った。その矢先、
母親が入ってきた。勿論、彼のだ。こちらを鋭い目で睨んでいた。
「全く迷惑かけさせないでよね。何であたしが・・・」
何かぶつぶつと言っているものが俺の事だと分かっていたが、いつも通り気にしない。
気がついたら腕にはギプスがはめられていた。あまり自由に動かせない。
「大丈夫?」
俺はこくりと頷いた。すると彼はニッと笑って俺のベッドの上にちょこんと乗っかった。
「駄目よ汚いから。」
いとも簡単にベッドから降ろされた彼は少し不機嫌そうな顔をしていた。
「ほら、帰るよ」
俺の手は縫ってあって、暫くしてから中にある糸をとるんだとか。
帰り道、いつも通り彼はこの間のアニメのオープニングを歌っていた。
母親は俺が気に食わないらしく、前をさっさと歩いていた。
「あっ!アリさん」
彼が見つけたものは蟻の行列だった。彼は見とれていて進もうとしないので
蟻の行列を踏みにじってやろうと思い、行動に移した。
数匹の蟻を踏み潰した。足を退けるとやはり、死んでいた。すると、
何物にも変えられない達成感が俺をいっぱいにした。
俺が、俺の力で蟻を息絶えさせた。俺が、殺したんだ。生き物の命を奪ったんだ。
・・・楽しい。
彼が目を輝かせていた。彼も踏み潰した。
俺の方を見てにっこり笑っていた。笑うと前に進み始めた。
6.殺意
「お母さん、お父さんは?」
「え?ああ・・・知らない」
・・・?様子がおかしい。何か確証がある訳ではないが、なにかあった、
と俺の直感が言っている。ただ、表情が強張っているというか少し怒っているような
顔をしていた。
その夜だった。彼が眠りに堕ちて暫く後
「なんなのよ!」
という罵声が聞こえた。リビングからだった。
「お前だってしてんだろうが!?」
子供が寝ていることなどお構いなしの大きな声だった。
「なんであんたの子供まであたしが育てなきゃいけないのよ!」
「お前が浮気したからだろうが!」
「はあ!?自分が先にしといて何言ってんの!?」
・・・なるほど。状況から解釈すればお互いの浮気がバレた・・・というところだろうか。
「あたしはあの人の所に行くから子供はあんた持ちね」
「ああ?ふざけんなよ。なんであんなクソガキ共を俺が・・・!」
「だったら捨てればいいでしょ!」
捨てる?俺は構わない。他人のする事に俺は口出しはしない。
捨てる?俺は構わない。他人のする事に俺は口出しはしない。
だが、デザイアにとっては実の母親なのだ。彼が捨てられたと分かったら彼は・・・
耐えられないだろう。なんだか急に心臓が高鳴った気がした。
気がついたら俺は震えていた。寒いとか、恐怖とかでも無い。
俺はこの胸にたまっているものを放出したかったので外に出た。
そして充分に吐き出そうとした。走った。走って走って走って街の外れに出た。
そして大声を出した。俺のこの体からこんな声が出るのかと言うくらい
低く、大きな声だった。すると背中に何か違和感があったと思ったら
背中の肉を突き破って何か出てきた。
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