ナルガEX 2012-03-27 18:10:33 |
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こんばんは、NIGHTMAREです。またも間を空いちゃいました
以前こちらに上げた話の後編が上がりましたので、確認をよろしくおねがいします~
~Peace Planet~
第九十四話 嫌な予感しかしない……
「あら、早速フェルミに懐いたのね」
フェルミをもふもふして頭が吹っ飛んでたら、いつの間にか銀髪? いや、微妙に違う…… まぁそんな感じの綺麗な髪を横で縦ロールにしてる、またいかにも美少女な子がもう向かいのソファで座ってた。エインに聞いたら、軽く十分ぐらいはもう経っていると言われて俺は慌てて正気に戻る。でも片手はフェルミから離せなかった。いわれていたように、本当にゲットされてしまったのかもしれない。
「わたくしの名前はアテナ・レオンハルト・ヴェリア、お見知り置いて頂戴」
「……ああ、仕事の時に資料で見せてもらったな」
あまり年は離れて無さそう…… アテナと名乗った子の自己紹介は、他の人の自己紹介と比べても結構丁寧な気がした。初対面のフェイも似たような風だけど、やっぱり人それぞれなのか、この子にしかない感じがある。
なんて事を、フェルミを撫で回しながら思っていると、隣のエインがやっぱりぶっきらぼうに自己紹介を返して、けどその後に何かを思い出したかのように呟いていた。直に会ったのは初めてだけど、別の意味では見覚えがあったんだね。
ついでにいうと、俺も自己紹介を返したときは最初に比べてあまり緊張しなかった。多分フェルミのお蔭でほぐれたって言うかゆるくなったのかもしれない。
「しかし、お前こういうのにそこまで弱いんだな。すげぇ意外なんだが」
「いや仕方ないじゃん、エインも触ったらわか――」
「……やめとく」
自己紹介をまたひとつ済ませると、珍しくエインが少し不思議そうな顔で俺を見てから、さっきまでの俺の事に驚いてたことを言う。こいつはフェルミがどんなにもふもふかわかってないと思って、ちょっと言い返してみたりしたんだけど、スルー。はっはーん、まさかキャラが崩れるのが怖いとか思ってるのか?
「さて、これで一通り紹介は終わりましたね。実は、ちょっと提案があるんですけど、いいですか?」
なにか打ち鳴らしたような音が聞こえたと思ったら、フェイが両手の平を合わせていた。そのときの目は俺の方に向いていて、どうも俺の事について話があるような気がしたので、つい自分に指を差す。
「自己紹介にあったようにエインさんは十七、トールさんは十四歳ですが、エインさんはすでに仕事もなさっているので問題ありません。しかし、向こうでも民間人同然だったトールさんは中等部の学校に編入させたほうが良いのではと思いますが……」
フェイは俺達の年をもう一度確かめると、エインはともかく俺はこの世界で学校に通って普通に暮らせるようにする、みたいなことを言ってる。そうか、普通俺くらいの年だったら、学校なんてとこに通ってるんだよな。でも俺は…… なんて思ったときにはもう、フェイが俺の身の上について話し始めていた。俺が元々貧しい場所で親兄弟も無く、エインに拾われるまでは盗人みたいなことをしなきゃ生きてはいけなかった、そんな感じで生き続けてきたこと。だから俺は、学校とかそういうのは何とか聞いた事があるくらいで、ぶっちゃけ通ったことなんてない。だから、どういうところなのかもほとんど知らないんだ。
「最低限、中等部程度の学校に通うための教養を積む必要があるんです。出来るだけ短期間で終わらせられればいいんですけれど……」
だから、まずはそこから知らないといけないという事を、周りの皆に話していた。ここに来た時、いやその前に元の世界から、何で俺達に対してそこまでしてくれるんだと声に出そうとしたとき、丁度フェイがアイコンタクトをしてきて…… それで向こう側で初対面の時に言われたことを思い出す。
――上手くやっていきたいですから。
こんなことを言われていたら、もうぐうの音も出ない。しかもそれを解っているみたいに優しく笑いかけてくるし。くそ、あのときみたいにプレッシャーのあるときならともかく、今みたいな普通の時間でその顔は反則だっての。
「学力以前に礼節倫理道徳、常識と法律は一通り習わせた方が良さそうね。 貧しい空気が見るに耐えないわ……」
アテナさんはそんなフェイの顔を遮るように覗き込んで一通り俺達を見回すと、大きなため息を付きながらソファに戻っていった。 そしてかわいそうな者を見る目でもっと基本的に教える事が多いみたい、な事を言ってるんだけど…… わざとなのかな? 凄く馬鹿にされてるような言葉が聞こえたんだけど。
「僕はエインさんの方が心配というか、鉄と火薬と油の臭いを振り撒いてるのは……」
「ほっとけ」
そして誰も入る隙が無いくらいの勢いでグレイスがエインの事を話す、んだけど…… 隣に居てもそんな臭いしないんだけどな。 こっちの方も苦笑いって感じで微妙な空気になってた。 そういえばエインはいつも銃持ってるんじゃないかな。
「コイツはもう手遅れレベルだ、諦めたほうがいいかもしれねぇ」
「てめぇ…… いつか覚えてろ」
なんて思ってたら、いつの間にかジェノスはエインから銃をスってて、少しの間指で回しながらからかうように笑ってた。そして、エインが気付いて取り返そうと振り向いたら元の鞘に収まっている。カンペキに手玉に取られてたエインは気分のやり場がわからなくなるけど、やがてジェノスにドスの効いた声で唸っていた。お、重い……
「わたくしはあまり寛容ではないの、せめて家の中では持ち歩かないでほしいものね。 汚いし臭いし危険なのよ?」
「あ、アテナは潔癖症だから、ちょっと厳しいですよ」
アテナさんはエインにも言いたい放題って感じで銃を持たないように、少し不機嫌そうにして武器を指差していた。 グレイスさんはアテナさんがどんな人なのかを簡単に説明したみたいなんだけど、潔癖症ってなんだっけ?
「ちっ、そういう事情か…… 場所が場所でもあるか、努力はする」
エインは解ったみたいだけど、そういうわざわざ突っ掛かるような言い方とか、直らないのかな…… と思ってたら、ちょうど目が合ったジェノスは目を閉じて黙って首を横に振る。無駄に楽しそうな感じだけど。まぁ、時々見るお人好しが出てきた分まだましかもしれない。なんだかんだ言って、困った人はほっとけないらしいからね、元の場所で他の人から聞いたんだけどさ。
「さて、教養というものが必要なトール・マクライシス君、わたくしとフェイでしっかりと人としての基礎を叩き込んで差し上げるわ、といっても、わたくしもこの世界の事をそこまで知らないのだけれど」
「ふふ、お呼ばれされちゃいました。というわけで、改めてよろしくお願いします」
今度は話が俺に戻ってきて、意地悪そうな目で勉強を教えるって言ってるけど、後で冗談みたいに表情が柔らかくなっていた。 この人達も別世界から来たってことなんだ。さっきまでは正直気圧されて、苦笑いするしかなかったんだけど、今の顔を見ると思ったよりはきついことにはならないのかもしれないって思える。さりげなく呼ばれてたフェイもなんか嬉しそうにしてるし。
いや、そもそもきついことだったとしたって…… もしかしたら向こうに居る時よりは気持ちよく生きられるかもしれない。正直、ろくな目に遇ってなかったし…… 向こう側では、ずっと。
「“普通”に生きる、かぁ」
俺はそんな風に、エインに拾われる前の事を思い出しながらそんな事を考えていた…… 時だった。
「軽々しく普通という言葉を使わない方が良くてよ。 あなたの世界の普通はイコールこの世界の普通ではないのよ?」
「うーん、よくわからないや…… ってあれ、この手は?」
「普通以前に、この家で暮らしていけるよう、早急に享受してもらいたい事が山のようにあるのよ、さ、わたくしの部屋ですぐに始めるわよ?」
俺の手にアテナさんが触るような感じで掴んで軽く引っ張り始めた。 それからアテナさんの目を見て、触るくらいにしか握っていない手を絶対に離せなくなった。 この人は俺を良く思っていないのかもしれない、その気に入らない部分を叩き直してやろうと怒っている…… そうだ、ピリピリしてるって感じなんだこれ。
「え、こういうのって普通、一日間を置いたりとかそういうのってないの!?」
「あぁ、アテナに火がついていますから、諦めるしかないと思いますよ」
「そ、そんな、気持ちの整理くらいさせてぇぇ」
うぅ、ジェノスとエインが鉢合わせするのを見るのが少なくなりそうだから、重い空気とはおさらばと思ったのに。いきなりこれじゃ先が心配だよ。これからどうなるのさ、俺は……
とか思ってても、この手はもう俺を離してくれず、そのまま地下の部屋まで引き摺られていくのだった。
トールの奴が引き摺られていった――いや、一応は歩いて行ったんだが抵抗出来無かったってとこか――あたりで一旦解散って話になった。トールがここに居ねぇから、俺一人が予定されていた個室に案内されて、そのせいであいつの荷物まで俺が持っていく羽目になっちまった。何で俺がこんなことを……
だが、部屋に俺を案内した奴が、色々と想定外だったことには気付くべきだったかも知れねぇ……
「――といった感じで、僕から説明できることはこれくらいです。 これから一緒に生活する家族としてよろしくお願いしますっ」
まずおかしいと気付いたのは、俺達の居た世界とこの世界の文明の違い、そして俺の生活の仕方だ。 アテナって奴の方は仕事先の上司からも聞いていたから、多分あいつの方も知っててトールだけ連れていったんじゃないか、と思う。 でもこいつ、グレイスは初対面のはずだ、何で俺とトールの荷物とか気になってるとこ全部に説明が入るんだ? あっちの世界で会ったフェイならともかく、どう考えても出来過ぎだろ。
俺の荷物を整理した頃にはトールの荷物は片付いてるし……
「ところで、エインさんはいつも武器を持っているんですよね? どんな武器を持っているんですかっ?」
振り向いたらグレイスは鼻がくっ付きそうなくらい密着していた。 俺が後ろを取られたってのか! っていうか俺の武器がそんなに気になるのか、満面の笑みって顔でストレートに聞いてきやがった。 この見た目で武器に興味があるのか……?
「近ぇ。……まぁ、そんなに見てぇなら好きにしろ」
とにかく、考えたことが顔に出ないように振舞うことにする。俺は今まで相槌を打つか、最低限の返事をするだけだったが、喋る、といえるほどに物を言ったのは今が初めてかもな。本当ならおいそれと見せるなんざ、その気はさらさら無かったんだが、この妙に強烈な“押し”の感覚を覚えてからは考えが変わった。口に出して居ない時でこれじゃあ、下手な断り方をすると後が面倒になるのは間違いねぇ。
俺は表情一つ変えねぇのを意識してこいつから一旦離れて、とりあえずは常に携帯しているやつを近くのテーブルに適当に置いておく。持ってきている物を考えれば、こいつを一丁、護符を一枚出しときゃ良いだろ。
「わぁ、ありがとうございますっ! これが魔法の武器で、こっちが機械の武器ですね。 対人戦用の武器ってこんなに小さいんですか」
俺の返事を聞いてまた満面の笑み。 で、早速護符の方を先に見る。ま、普通は銃より魔術の方が興味あるはずだ。 特にこいつは表から見てもお花畑だし、中身もファンタジーな想像でもしてんだろうな。 これだから付いていけない、想定内さ、銃の話なんてこの家じゃタブーってやつか。
「そいつは滅多に使わねぇがな。ただ使うだけなら礼装だ、媒体だなんてのは要らん」
見た目と文字通り、マジになったときの切り札みたいなもんだしな。つっても、そこまでやってもまともにぶつかれねぇ奴が居るってのはたまったもんじゃねぇんだが。
適当にグレイスに返しながら、俺はこれからどうするかだとか、この先の仕事だとか、そんなもんに考えが移っていた。生きている時間の大半を戦場で生きてきた俺にとっちゃ、民間区域で長期間暮らすなんて状況には、正直まだ慣れてねぇからな。まぁ、下手に慣れ合わねぇのが最善なのはハナからわかってるし、性分としてそんな気は最初からねぇ。
そんなことを考えていたわけだが、グレイスの独り言が妙に耳に入ってきたんで、俺は椅子に座ったままグレイスを見てみる……
「弾倉はこれで外れて、入れるだけで再装填とはではなさそうですね。 あ、やっぱりここが後ろにスライドして排夾、スプリングの力で戻る時に給弾…… スライドが最初に引っ掛かるような感じになるのは、弾丸が銃身から射出されるまで銃身を固定するための抵抗なんですね。 弾倉が空になったらこのレバーが弾倉のスプリングで押し上げられてスライドを引いたまま固定、弾倉を再装填してこのレバーを引けば初弾が膨張室に装填されて素早く射撃ができるんですね。 後ろのレバーがハンマーになっていて、引き金を引くとハンマーが薬莢の信管を叩き着火、爆発して発射…… 銃身は六条螺旋の施条式ですか」
想定外だった。 こいつ、初めて見るはずのハンドガンを物凄いスピードで理解してやがる……! 銃自体は多少知っていたらしいからマガジンを最初に抜いて安全を確認、スライドを引いてその動きが何を意味しているのか、っていうか俺の銃っていう機械って奴を見て解るスピードで使いこなしていく!
「少し見ただけでそこまでわかったのかよ……」
物を言う手間は省けてんのはいいんだが、流石に注釈一つ入れる間すら殆どねぇレベルまで行かれると、何とも言えねぇ気分だ。見た目格好との滅茶苦茶なギャップまであるしな。銃にまで尋常じゃねぇ興味を抱くに飽きたらず、その構造をいじり倒してあっさり理解するとか、信じられねぇ。
「妙ないじり方して壊すなよ。パッと見でそこまでわかるなら、心配するだけ無駄だと思うが」
「あはっ、すみません、機械のことになるとつい」
まぁ、考えれば別に何か言う必要は無いわけだ。そういう風に頭を切り替えて、適当に釘を刺した後にもう一度物思いに耽ってみる。
「あ、ここに刻みの合いマークが――これが引き金とハンマーの機構で――あ、やっぱり撃針があるんですね――それにしても、部品点数が多くて繊細ですね、だから鉄と油の臭いが出ちゃうんですねっ」
「……マジで大丈夫か不安になってきた」
さっき止めておいた方が良かったかもしれんな…… まさかこの着飾った人形みたいな奴が、こんなスピードで銃をバラすとかまでやっちまうなんて思ってもみなかった。 もう一度振り返った時には…… 俺の銃は完全に分解され尽されてた。 工具使わないとバラせないところまで完全に外されてテーブルに並べられ、何故か艶が出るくらい磨き上げられて…… 新手の手品か?
「お前、戻すこと考えてんだろうな……」
「――組み立ても面白そうですねっ、では、これから組み立ててみますかっ!」
ふと不安の原因になっていたことを実際に口にして見たんだが、夢中になりすぎて何も考えてなかった。 絶対そんな顔で俺を見た…… そして間を置いてまたお花畑な笑顔に戻って、俺を不安にさせる一言を言い放ったんだ……
グレイス・アダム・ヴェリア、こいつがヤバいってことは覚えておこう。
しかし、一つでも話題が合う奴だということは…… いや、また嫌な勘が働いてきた。やめとくか。
第九十四話 終 To be continued…
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