ナルガEX 2012-03-27 18:10:33 |
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大丈夫でーす!
確認するだけなのに、いつも楽しく読ませて頂いております(笑)
そろそろこっちも何か書き始めないとなぁ...。
近々、ストテラにうp予定です!
ナルガさんこんばんは~
書いている側としては嬉しい反応ですね
これからもそういう話をかけるように頑張ります♪
ナルガさんの小説も楽しみにしていますね、アーマードコアもやりつつ…(オイ
こんにちは、NIGHTMAREです。久しぶりに確認していただきたい話が出来上がりましたので参りました。
今回の部分はエインが主軸となる話になっております。期待しているものとは異なる内容とは思いますが、是非とも確認をお願いします。
二話分あるのでよろしくお願いしますね(^-^)
=C rimson Blaze=
第百一話 魔術師は現の隠者となりて
事は二大老、アベル・テルミナートル執務室から始まった。
一つの立体映像が立ち上がり、各所の詳細情報が表示されていくのだが、点々と隠れた砲台が存在するのと、何らかの人工構造物らしき不確定情報が映されるのみ。天然の視界効果と自然現象による磁気などにより巧妙に拠点そのものが隠されているのだ。だが、最近の起現力の発生数がここに集中していること、そして他のめぼしい拠点は制圧が完了したかさしたる脅威を示していない為、こちらに最も戦力が集まっていると断定するのは容易であった。
「アベル殿、多すぎると思いませんか?」
「ああ。そもそも、当初からクルセイドは起現者の総力が最初から異常なほど多い」
マキからのある指摘に、アベルは訝しげに答えながら、両手を後ろに組んで踵を返す。今の指摘はこの場所での推定できる起現者の数のことだったようだが、彼はそれ以上の事も思考し、それに必要な材料を記憶から取得していく。
「彼らが現れる前の、“起現者”の総数。確定ではないがそれに限りなく近いとされた情報を公開しよう」
アベルが過去、現在における己が手中に収めた状況を纏め上げて思索した後、マキに向き直って立体映像を片手で軽く操作する。すると、現情報の上に比率グラフのようなものが表示されるが、絞りきられるほどに纏め上げられたことが窺える極めて簡素であるものである。中には、ギルドウォリアーやPHADUO龍軍部に所属する者、判明はしたが所属を辞退し、要観察の対象者となっている者、そしてまだ発見されていないとされている者が表されており、その調査規模は世界規模であった。ここからクルセイドに一切含まれて居ない龍の数を除外し、更なる絞込みをかけた結果、そこにあったのは戦線に立つものにとって信じられない結果であった。
その総数は人類種全体とモンスター含め推定二百に届かない程度な上に、過半数がギルドウォリアーに所属しているというものである。
「クルセイド勢力は戦場の殆どに起現者、あるいはそれらのカテゴリーに位置する反応が検知されています。 同勢力から検知された反応とこれまでの戦績を見るに、戦力の質の差は歴然であると、私は思います」
アベルの提示したグラフや数字を確認したマキは、数回頷いた後に、これまでの敵勢力と認識されたエネルギー反応の累積を見て、これを全て起現者と仮定した上で戦力、特に質の差は油断ならないと反すのだった。
過去に渡る起現者の総数と現状の敵勢力の総数を比較し、それをPHADUO戦力と比較、これまで倒してきた起現者を数から外したとしても現状の敵予想戦力の方がまだ上回っているであろう事が伺える。
「そもそも、だ。一転攻勢に入る前、こちら側は平均的な起現者の能力差と、ガルドの采配…… これら要素によって戦力をほぼ損耗しないまま撃破には成功していた。つまりスコアレースではほぼ一方的だったわけだ。にもかかわらず何故反撃が出来なかったか? その度に起現者のみを出し、脅威となる数で波状攻撃を続けてきたからだ」
これを見たまえ、とアベルはマキに促しながら彼女に立体モニターの映像を転送する。そこには、彼女が赴任する前にギルドウォリアーが交戦・撃破した敵の総数が示されている。この時点でギルドウォリアーの全保有戦力の数倍という常識外れの数であり、亀のように身を固めるしかなかった様子がマキには簡単に想像する事ができた。このことから、アベルは最初からクルセイドの起現者の数と扱い方に疑問を持っており、今までつねに思索を続けて来た事が明らかとなる。
「情報で見た限り、敵は戦術で言うところの陽動作戦を行い、通常戦力の消耗を抑えるため囮となる特殊な戦力、起現者を使い捨てています。 こちらの起現者は兵器で言うところの戦術クラス、それによる戦略的影響力を鑑みて丁重な扱い、敵は近いクラスの者を尖兵として惜しみなく使い、戦線を維持しない程に戦力を温存させています、それも通常戦力の方を大事にしているようにさえ見える……」
マキはアベルの話と情報を総合して頬杖を付きながら首を傾げる。 そして全体的に視点を広く見てから素直な感想を述べる、実際にクルセイドは重要な起現者をまるで掃いて捨てるように戦線へ送り込んでいる、逆にこちら側は尖兵を各個撃破する形で最小限の人数を向かわせている、この結果として敵の通常戦力を掃討戦に入る頃にやっとのところで特定できた。 それほどに起現者を前面に押し出した作戦を取っているという事になるのだが、それは戦略的に考えてみると、こちらと敵の方針は逆になっていると見える。 敵は通常戦力を大事に、起現者の存在を前提とした作戦案、逆にこちら側は起現者の存在を隠し、通常戦力とは完全に独立した通常戦闘基本の思想。 これは“起現者”の位置付けが逆で、クルセイドはその位置が尖兵という消耗を前提にした作戦から、数が無ければ使えない策なのだ。
「こちらからすれば、戦力の影響面で見れば大量生産できない戦略核を超える兵器を大量投入しているような、実に馬鹿げた発想だ。まるで子供の遊びのようにな。……そして、当初から現在までの結果から、私は三つの疑念を抱いた」
アベルはクルセイドの動き方に、肩まで手を挙げてから盛大にため息を付き、首を横に振っていた。敵に軍師というものが居るなら、あからさまに馬鹿にするように。しかし、全てが馬鹿な行動ではない事を見抜いていた彼は次の話題に移り、親指から指を立てていく。
「まず一つ、敵に元ギルドウォリアーがいること。これはガルドやジェノス中佐の交戦記録で確認された。そして二つ、敵はこちらに対して時間稼ぎを行い、何らかの目的を遂行しようとしている事。これもジェノス中佐が交戦した敵が仄めかす発言をした上に、一度は謎の手段で保護されたことから確定だろう。……目的までは知らんがな」
最初からこちらを押し留めて下手に動かせない状況を作る数を、巧妙に送ってきた手口から、一つ目の疑念を説明する。次に人差し指を立て、何故こちらを目の仇にした割にはわざわざ動けないようにするのみに留めたか、という点から二つ目の疑念を話していた。と、真面目に話していたかと思うと最後の言葉だけは飄々としたような軽い口調で、ジョークのように流してしまう。
「そして三つ目だが…… 敵には起現力を“創り出す”輩がいること。だがこれについては、フェイ様以外にそんなイカれてるバケモノがいてたまるかと言いたくなって来るんだがな」
そして、最後の疑念も同じような調子で語っていくのだった。あまりにも現実的ではないものであったために、出来ればこれまでは当たって欲しくないという考えの裏返しだろう。因みにフェイの名前が出たのはうっかりでは無い。この状況と言葉の流れならば問題ないはずだと意識してのことである。
「……では実際に、中身の分からない玉手箱を開けて、事実を見たいとは思いませんか? 玉手箱という程対価は大きくありませんよ」
フェイの名前が出て動じる他無いマキだが、ここでは例え話であるが故にため息一つで落ち着く事が出来た。 そしてここから本題に入っていくように立体映像を操作し、件の隠蔽された基地への作戦を提示する。
「潜入、囮捜査の類で基地へ潜入する策です。 運良くあちらのスパイを拾ったので、彼に取引としてこちらの情報をある程度提供します。そして基地の情報と身の安全を引き換えにして、潜入作戦の骨子を立てていきたいところなのですが……」
基地の情報を入手するために敵のスパイを捕まえた、とのことだが、スパイの情報は殆ど伏せられている。 そして作戦に就く人員はエインただ一人であり、兵員の動きが殆ど無いハイリターンだが、こちらの情報をわざとリークさせなければ成功は難しいというリスクを背負っていた。 マキは最初から裏工作の話をするためにアベルを訪ねたのだ。
「ああなるほど、その件か。大方目星は付いていたから、すぐに手筈を整えよう。上手くやれよ」
多くをベールに覆われたこの話題が出た瞬間、アベルの口元の端が釣りあがり、マキとの奇妙な波長の一致が起きる。彼にとっては想像できた事であるようで、マキの切り出し方にしては随分とあっさりした返答である。それどころか後押しさえする始末、もしかすると二人は余程相性が良いのかもしれない。
「許可さえ頂ければ、彼が上手くやってくれるでしょう。 何せ彼の力は起現力ではなく“魔法”ですからっ」
「あ? 人を万屋みてぇに言ってんじゃねぇぞ」
アベルの許可が確信できていたマキは不敵な笑みで彼、エインの入室を許可して紹介する。 そうすると、エインは明らかに扱いに不満そうな荒げ気味な口調で部屋に入ってきて、今にも噛み付きそうな犬のようにマキを睨みつけている。無礼もへったくれもあったものではない。
だが、エインはそんなマキに逆らうことができず、彼女がアベルと話していたときに考案していたであろう任務を命令という名の圧力で押し付けられていた。事実、いくらか時が経った頃のエインはあの二人が話しているときに立体映像で映されていた場所に身をおいている状況にあった。
「――随分とあっさりたどり着けたもんだ。さて、始めるとするか」
初めてジェノス達と任務を共にしてからというもの、エインはマキの管轄下に置かれてからその多くの時間を諜報・破壊工作員などといった、まさに特殊部隊の一員同然の扱いを良くも悪くも受けて費やしていた。身体能力こそ、この世界の水準としては一般兵(元の世界の約三倍)に辛うじて到達したレベルであるが、ガルドが睨んだ通りの実戦経験と機動装甲を難なく扱うセンス、強大な異能の力を伴った特化型の総合力がガルド達の思惑通りに働き、今では多くの任務を成功させている。
攻略・制圧部隊に先立った拠点や基地へ潜入しての諜報活動、作戦に応じてその助けとなる施設破壊や、弾薬庫などの爆破。いかに厳しい状況でも起現者関連の偵察をこなしている。ジェノスらと同行しての狙撃支援以外にもこのような活躍を見せているあたり、元々あった実力を過酷な状況下でさらに磨いているようだ。
今回の任務も以前までと同様の潜入任務だが、拠点の詳細が特に明らかではない関係から少々事情が異なっている。ここに来るまでの間、エインはマキに同行するよう指示された人物と行動を共にしており、その者から案内や巧妙な根回しといった協力を受けてたどり着いている。さらに機動装甲の上から敵兵が使っている装備を着込んでおり、ある程度堂々と歩けるようにカモフラージュしているため、普段以上に潜入行動が楽になるように。今回の目標となる場所が特殊であるゆえに、事前準備をより万端にして任務に臨むことになったといえよう。
「さて、……っ! これは結構な数がいやがる。自然かつ慎重に、か」
エインは施設内に入る前に、一旦“時間停止”の力を使う。これは時間停止そのものを使う用法ではなく、範囲に入れた際に強い抵抗力による反動から起現者の位置と数を割り出すという、いわば起現者の“索敵”を行う為に使っている。
これ自体が起現者の数と配置という情報を入手する行為ではあるが、エインからすると身の安全を確保しやすくする目的が強い。流石に単独で遭遇してしまうと、いかにエインといえど捕捉されれば撤退さえ困難になる。彼らは洞察力も人外であるため、近づくこと自体が潜入行動においてはタブーといえるので、今入手した情報はエインの今後の行動の指標にもなる。
「普段ならこんなことは性に合わないが、そうも言ってられねぇ。……とか言ってるうちに妙な方向性に鍛えられたもんだ」
施設内への潜入を開始したエインは敵兵のフリをしつつ、前の世界での戦闘スタイルやこの世界に来てから今までのことを思い返しながらつぶやいていた。普段なら堂々と正面から大立ち回りをするのが彼の好むスタイルだったようだが、相手にする者の平均的な能力が跳ね上がっているこの場所ではそういうわけには行かず、ここに来てからはそれとはまるで逆の行動が大半を占めている。
それは、彼にとって今までに無い技術の獲得を助けている。根本的に気配を消す能力の向上や潜入技術の獲得、彼の異能である魔術や能力の応用性が増し、戦術に幅広い柔軟性を持たせることができるようになった。以上のことから直接戦闘の選択肢も増え、多数を相手に派手な立ち回りをするだけでなく、今では一つ一つの相手を掻い潜りつつスマートかつ確実に各個撃破していくといった戦法をも扱う。マキに課された試練は大きな経験となって結実しているのは間違いなく、今の彼ならある程度の力の差など、今も鍛え続けられている技量で覆しうるだろう。
それが元の世界で大きく役立つようになる…… というのはまた別の話である。
「それにしても、やっぱ未来臭がすげぇな、っと」
エインがゆっくりと歩く廊下は地下であることもあり、内装は窓さえ存在しない、まさに殺風景という言葉が似合うほど無機質なものだ。しかしエインからすると文明の差が激しすぎるため、単純に洗練された雰囲気が形容し難い未来的な印象をもたらす。視線だけを向けて文字通り目移りしているが、完全には集中力を途切れさせてはおらず、奥から来る兵士の姿をしっかりと捉えている。
「ん? このあたりの巡回は俺だけのはずだが」
「他所から流れてきた負け組ってヤツさ、といえばわかるだろ?」
外に続く廊下から人が歩いてきたことに不思議そうな表情を見せた兵士は、案の定エインに声をかけてきた。しかし、エインはすでにこの手の潜入も訓練と実戦を何度も経て慣れている。戸惑う様子を欠片ほども見せずに応対してみせていた。
「あぁ、あの人が言ってた奴か。司令なら奥だ、案内は要るか?」
「いや、見取り図があればいい。下見もしておきたいしな」
早速根回しの効果が現れる。エインは制圧されたほかの基地からここに配属された者として扱われており、自然な流れでこの場をパスしていくのだった。それだけでなく、この基地の見取り図のデータもあっさりと入手していく。
「最近はPHADUO加盟国、ぶっちゃけ世界中から名を上げるための当て馬にされちまってるからな」
「クルセイドも、流石に終わりかも知れねぇな」
「ヘクス・ブレイン・フォートレスが潰されたのもまずかったんじゃね?」
「あぁ、タコウィンナーにされたやつか」
各エリアの境を見張っている警備兵も軽くやり過ごしていくエイン。次々とすんなり歩を進めていくが、これには今まで語ったこと以外にも理由はある。現状、クルセイドは今の警備兵が言っていた通り国際的なテロリスト扱いであり、今では世界を敵に回した挙句に連戦連敗を続けている。いくら起現者を多数擁するクルセイドでも通常戦力まで特別強大であるわけではない以上、局地的には対処できても大局的には押しつぶされているも同然。
それが原因で凄まじい勢いで軍事力を急速に失っており、敗残兵も残った基地に次々と流れていっている現状がある。あまりの流れの激しさに、この問題に対処できていないため、軍備の再編もままならず、組織の動きが精彩を欠いてしまっているのだ。これでは余程決定的な行動を取らない限り、余計にエインを侵入者だと判断する余裕は無い。
(負け続けて、士気が大分下がってるな。これなら連中も、ちっとは楽に戦えるか)
兵士達の目をすり抜けていくエインは、彼らの雰囲気をつぶさに見ながら情報を仕入れつつそれをつなぎ合わせ、クルセイドが如何な状況におかれているのかを把握していった。恐らく、通常の戦力で構成されている兵士達はすでに戦えるほどの士気はあまり残っていない。実際、脱走兵まで少なからずいるという話さえある。しかし、起現者などの強者はこういうときほど手負いの猛獣となりうると、エインは思考を巡らせている。
(さて、そろそろセキュリティがかかってきやがる。仮の打ち合わせの案内役とか、基地司令からパクるのはリスキーだからな、誰かほかのヤツを――)
さて、奥に行けば何らかの、より高度な認証が必要になってくるものである。入手した見取り図を見てそのエリアを確かめながら歩き回っていると、ちょうど良く士官らしい身なりの整った者がトイレに入っていくのが視界に映る。
「あいつは…… へっ、ちょうどいいぜ」
第百一話 終 To be continued…
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=C rimson Blaze=
第百二話 要の知と識を開示する
相手はエインをよく見ていなかったが、逆にエインは風貌までしっかり記憶に落とし、自分が得ている情報と示し合わせていた。今現れていたのは流れ着いたばかりの人間、しかしその位は高く、確保できれば比較的見返りの大きい相手だ。
「いただく……!」
エインはすぐに周囲の目を確かめ、すぐさま身のこなしを変化させると、まるで豹のように瞬発力のある、それでいて静かな動きで素早く中に入り、士官の背面を取る。そして、懐に忍ばせていた何かを彼に向け――
「……っ!」
「はいおやすみ、と」
――引き金を引いた。何も知らず銃撃を受けた士官は成す術も無く、全身から力を失って床に倒れ伏す。彼が向けていたのは拳銃と呼ぶには大きく、サブマシンガン…… 短機関銃と呼ぶにもやや小さめで拳銃に近いスタイルの銃。試験運用も兼ねて彼のために作られたそれは、“L-PDW”と呼ばれていた。それが意味するのは軽量型・個人防衛火器で、マシンガンのようにフルオートで連射できる拳銃、マシンピストルよりも高い威力と射程を、それと同様に扱うことができるところから来ている。
弾薬が強力になれば反動が大きくなるのが自然なことだが、なぜそのように扱えるのか、その秘密は弾丸を放つ銃身の位置にあった。普通に構えて撃つ場合、銃身の位置は持つ場所(グリップ)より上になり、腕より上にずれた位置になる。そのため、銃は撃つ度に反動で上に跳ねるのだ。
「相変わらず扱いやすいなこいつは」
だが、L-PDWは銃身の軸線にグリップが並び、拳の先から銃身が伸びるような形になる。真っ直ぐに持てば自然と腕と銃身の軸が同じ位置になるのだ。こうすると反動は腕に向かってまっすぐ向かうため吸収しやすく、特定の箇所に跳ねることも押さえられるので、単発、連発問わず安定した銃撃を行うことができる。このような構造の銃は一世紀以上に渡って洗練され続けられており、彼が持つのは最新型の一種。拳銃をはるかに上回る威力・射程・精度・連射性能を拳銃のように扱える強力な火器だ。総弾数は扱う弾薬によるが平均四十発から五十発で、それが詰まった弾倉は寝かせた形で銃身の上に装填される。
「カードキー確保、指紋・網膜情報取得、こんなもんか」
「……zzz」
今回、その弾倉には麻酔弾が使用されており、直撃した対象に束の間の眠りをもたらしていた。この方が、殺傷するよりも異変と判断されるリスクを抑えられる、それ故の選択。その間に、しめしめとエインは横たわった彼の持ち物を調べて、セキュリティを突破するための物と情報を取得していく。用が済めば、自らの足跡をより隠蔽するため、適当な個室の中に座らせてから閉じ込め、何事も無かったかのようにその場を後にした。
「ん? お前、何でここにいる」
(さすがにごまかしが聞く場所じゃねぇ。後ろにも一人、か)
しかし、さすがに相手の兵士の姿をしているとは言っても、配置や構造の問題で全てをパスできるとは限らない。他の兵士がいること自体が不自然な場所に踏み入れれば怪しまれるのは必定。
「ふっ――」
「なっ」
「お……!」
新たに手に入れた情報から、より詳細な情報を手に入れていたため、エインはそのような箇所も把握している。承知で乗り込んだ彼はすぐさま前の兵士のわき腹を掠めるように懐に飛び込み、後ろに回りこみながら後ろにいた兵士を左手のL-PDWで銃撃……! と思えば、同時に回り込んだ対象の兵士もゆっくりと倒れていく。
「コッレクティオ(改装)、ソムヌス(睡眠)…… 仲良くねんねしてな」
同時に、もう一つの銃をエインは懐から引き出していた。右手にあるこちらは彼が元の世界から持ち込んでいた正真正銘の拳銃“Cz75”である。こちらは銃身の先にサイレンサーを装着して音を消しただけで、弾薬は変わっていないはずだが、なぜかどちらも普通に眠っており、この銃から放たれた弾丸は相手に触れた後にすぐ下に転がっている。これは、彼が魔術により殺傷効果を消滅させて麻酔効果を付与したためだ。起現力とは異なるこの力によって、エインはガルドやマキから重用されているのである。
「さて、こいつらはこんなところでいいか」
この調子でエインは必要な相手を眠らせていき、足がつかないよう対処していくわけだが、たまに彼の遊び心がここで出てしまうことがある。普通ならどこかの部屋に適当に隠しておいたり、サボって寝ているように見せかけるが、他の者があまり寄り付かない、影響の薄い場所では、眠らせた相手をロッカーに幽閉したり、ダンボールをかぶせて荷物と紛れ込ませてしまったりと面白い目に遭わせてしまう。無論やられた相手からすれば脱出に苦労したり恥をかいたりと散々なことになる。
そんなこんなで、順調に潜入任務をこなしていくのだが……
「なんか見覚えのあるデータばかりだな…… やっぱり、該当データばっかだ。簡単にシステムに侵入できる時点で怪しかったが、ここ自体はそれほど重要じゃないのか?」
幾人の兵士達を眠りに誘った後、エインは各所の情報集積施設を手当たり次第に漁っていた。だが、さしたる収穫は無いようでエインの表情はどこか不満げである。起現者が最も集まっていると目されている場所のはずがこの手ごたえ、施設の重要度としては空振り感を強く受けている。
「ここは陽動だってのか? いや、情報網の形態も含めて、連中の基地の位置情報からして考えにくい…… いや、そこは俺の考えるところじゃねぇな」
あまりにも肩透かし過ぎて逆に怪しく思えてきていたエインだが、とにかくここでできることは完了したと判断し、作戦の最終段階へと移る。すぐにその場を後にし、自然に、かつ速やかに上へと向かっていった。
「クソッ、俺にこんなことをしたのは誰だ!? 誰か出してくれ!」
「お前、何でダンボールに隠れてんだ」
「んぉ…… おお!?」
エインが移動を続けていく中、一部のものは目が覚めたようで、それが小さな騒ぎを起こしていた。身に覚えの無いサボりを叱咤されるもの、内側から開かないロッカーで喚くもの、置かれた状況が原因で恥さらしに遭うもの…… 一部では侵入者の疑惑を挙げているものもいるが、そういう点では大きな騒ぎになっていなかった。
「さて、最後の仕上げだな。ファラゴラ(爆発)」
無事に外に出たエインは、施設に背を向けたまま歩きながら、得意気な笑みを浮かべて何かをつぶやく。途端に地響きのような音が連続で轟き、かすかに大地を揺らしていた。情報収集をするために各所を回ると同時に、弾薬庫を中心に護符を貼り付けておいてあり、これを爆薬代わりにして施設内の武装や連絡網などを爆破したのである。大体、エインは必要な場合のみ潜入の締めにこの手を使っているが、今回の相手はただでさえ事態が錯綜しているため、更なる混乱は回避できないだろう。
「よし、じゃあ――」
「じゃあ? 次はどうするつもり」
施設内の爆破工作も完了、次の行動に移ろうとしたその時だ。突然女性らしき声が、エインの背後から聴覚を冷たく突き刺す。初めてクレイズたちと戦ったときと同じような、途端に周囲の景色が遅くなるような感覚を覚えながら、エインが恐る恐る視線を向けていくと、そこにはエインな身の背丈と、羽衣を纏う和装が特徴的な女性がいた。しかし、猫のような目と耳、毛に覆われた手を見る限り……
(あの姿は、“ボレアス”!? 俺の手に負えるヤツじゃねぇ……!!)
「妙な手品を使うけど、それも終わり。はじめまして、そしてさようなら」
一瞬だけ時間を止めてわずかに距離を離すエインだったが、すでに能力の負荷は限界まで来ていた。それを見越していた相手、チェフィは刃の見えない剣を抜いて戦闘体勢に入っていた。
(クソッ、どうする、どうすれば――)
時の流れを遅くしたエインは、この中でどうすべきかを考えていた…… だが、実状ではチェフィに遭った時点でほとんど“詰み”に近く、エインも持っている情報から知り得るチェフィの戦闘能力でそれを悟っていた。もはや奇跡でも待つしかないのか、そう考えたとき。
いきなり二人の間を飛竜らしき影が尋常ではない速度で通り抜けてきて、それ自体が周囲に突風を巻き起こした。しかし、問題はその後である。
「“逃れ得ぬ死の宿命(グングニル)”!!」
「きゃあ!?」
「うぉぉ!!」
猛々しい叫び声が聞こえてきたと思えば、その飛竜らしきものの背後から瞬時に巨大な“光の槍”が飛び込み、辺りを空間ごと揺るがすような衝撃と閃光で掌握する!! 直撃した飛竜は肉の一片すら残らず、周囲の空気や大地と共に巨大な光となって、盛大に砕け散る……!!
「……くっ、逃がした。あと少しだったのに」
「すまんな、異常個体に逃げ込まれた上、手が滑った」
「普通、手と一緒に口も滑るかしら、ウォーダン?」
選考が晴れたその時には、既にチェフィが捉えていたはずのエインの姿は既になかった。先ほどの現象に巻き込まれていないのは気配で理解していたので、何らかの手段で脱出に成功したのだろうと推測する。代わりに姿を現したのは白麒に跨ったウォーダンで、先ほどの攻撃を見舞ったのは彼であるようだ。チェフィからすれば非常に悪いタイミングでの出来事で、ウォーダンを睨み付けていたが、彼は外見に似合わずひらひらとチェフィの追及をかわしていくのだった。
「てなわけで、起現者の数は恐らく十と少し。うちアネモイ級が二つ。普通の兵のやる気もだいぶ磨り減ってたし、そこら辺を投降させるのは楽だろうよ」
潜入作戦から命辛々舞い戻ってきたエインは、いつもの如く礼儀も何もない態度で、しかし重要な点から内容を伝えていくのだった。両手を頭の後ろに組みながら、正面の卓に足を乗せており、行儀すらお世辞にもいいとは言えない。
ちなみにその場所は二大老であるアベルの執務室であり、当然アベル本人も居るわけで、いわばミナガルデの首長、即ち国際連合の元首に足を向けているのである。
「……空振りですね」
「らしいな。微妙に無視出来んのは中々のやり口だが」
それを完全無視している二人は、エインの機動装甲で録画された映像と分析資料を前にして、清々しいほどあっさりと失敗であると結論付ける。 だが、全てが的外れでもないために、真剣な面持ちで次の判断に思考を巡らせる。 この二人はエインの苦労を全く考慮していないのは、半ば彼の態度へのお返しと言える。
「で、帰っていいか?」
二人の態度で、最早己の役目がないと悟ったエインは、天井に向いていた顔をマキに向けて、投げやりに退室許可を求める。どうせこの連中はこんなヤツだと心の中で思っている彼は、慣れていると言うより最初からそういう人格だと認識しているようだ。
「ん? ああ、任務そのものは成功しているので構いません、報酬は帰還した時点で送金しているので、理容店にでも行って身なりを整えてみては?」
マキとしても既にエインが眼中に無かったらしく、今気付いたとばかりに彼を見て少し思考が停止する。 そしてようやく言葉の意味を知って頷いて許可を下すが、一瞬だけアベルと姿を見比べてから、苦笑しつつ理容店に行くことを推奨する。 それだけにエインの髪が乱れている事を物語っている。
「ヘイヘイ、いつもボサボサですんませんね。……面倒くせぇ」
マキの言葉を半分聞き流すようにしながら足を下ろし、両膝に手を当てて立ち上がる所作は、いかにもここに居るのが面倒というのを物語っている。更には理容店の話も適当に返す形で遠まわしに蹴り飛ばしながら、出口に向かってまっしぐら。彼は身なりには割りと気を使っているが、髪は伸びすぎたときに切るくらいにしか考えていないので、最初から興味などないのであった。
第百二話 終 To be continued…
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NIGHTMAREさん
お久しぶりですw
いやあ、なんかもう。凄いw とにかく情景描写凄いw
しかも、メタギアめいた潜入方法www
内容としては大丈夫です。問題ありません。
あ、あと、ストテラでまた連載を始めようとプロット作成中。各話の箱書きまで進行しています。
もしよろしければ、また昔のように批評をしていただけないでしょうか?
最近はエースコンバットで空を飛んでいるNIGHTMAREです。お久しぶりです~
確認を確認いたしました。やっぱり気づきましたね~ メタルなギアっぽい雰囲気はわりと意識して描写してましたw
こちらではまさに諜報・工作員が板に付いてきてますw エインの新装備、そして戦術や魔術の開拓が進んでおりますが、いかがでしょう? そちら側で力に慢心した相手(以前出てたもう一人の自分みたいな相手とか?)に鍛え抜かれた技量で勝利する展開も見てみたいですねぇ(^^)
描写の幅が増えたエインを、生みの親であるナルガさんにぜひ使いこなしていただきたいm(__)m
以前にやったことがあるのはどちらかというと監修のような気がw 堅苦しいのは苦手なのでそのあたりご容赦いただければ喜んで(^-^)/
それでは、また近いうち確認の依頼をすると思いますのでそのときによろしくお願いしますね(^.^/~~~
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