ナルガEX 2012-03-27 18:10:33 |
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お返事確認させていただきました~
それでは、この内容で進めさせていただきますね(^^) もう少し本編が進んでから掲載します
今日はこの辺で失礼しますね~
どうもこんばんは、NIGHTMAREです~
今回もご確認いただきたい話が書きあがりましたので、よろしくお願いします(出来れば二週間以内?)m(__)m
注:現在掲載しているものの一話先の話となります
=C rimson Blaze=
第八十八話 エグゼクター
「よし、ジェノスは勝ったみたいだね。この感じで囮に遭遇し無かったっていう事は、多分残りは通常戦力……」
ジェノスによる起現者、即ちシアーズの撃破を確認したウルは、彼が最進行した事に安心感を覚え、予定通りに索敵を続行する。他のメンバーの二倍以上を誇る巡航速度と裂く敵範囲を活かし、凄まじい効率で索敵を進めていたため、居場所についてほぼ当たりをつけていたウルは、その箇所を一つ一つ調べているところであった。
「ただ、これは喜んでいいやら悲しんでいいやら……」
ジェノスの勝利を喜んでいる心の片隅で、微妙な心境もウルは抱えていた。あのチンピラもどきコンビまでも障害を排除し、こちらを目指していたのである。彼らでさえ仮にも同じ部隊に所属する起現者なので、実力“だけ”は確かなのである。脅威を排除してくれたことは確かに助かることであり、実際それが彼らの唯一役に立ってくれるところではあるが、それ以外では何をしでかすか分かったものではない……
「まぁあんなの、相手に直接護衛してるのが居なければ、どうとでもなるか。……と、怪しげな反応見っけ」
とはいえ、そういう連中だからこそ手綱を引く手段は用意していると言うもの。元よりそのつもりだと心を切り替えた頃、センサーに多数の人間らしき反応を見つけた。彼らは付近の洞窟に隠れようとしているように動いており、ほぼ間違いなく当たりを引いたと確信する。瞬時に先回りするルートを構築し、ラージブーストを展開して動力伝達を集中、亜音速巡航を開始する。
「あの二人も近いなぁ…… ええい、ままよっ」
ウルの索敵情報は随時他の三人にも伝わっている為、当然ながら問題児共も接近していた。嫌がるように顔をしかめたが、寧ろ先に到着しておく事を最優先とした。
「もう少しで身を隠せるところに辿り着ける、正念場だぞ」
正面に巨大な岩を臨みながら、森の中をゆっくりと行軍している兵士達がいた。彼らの半数ほどは応急処置を施された負傷兵であるらしく、素早く行動をするのは困難であるようだ。彼らは一帯の地図を端末で表示しつつ、身をおける場所として選んだ洞窟を目指している、というところだ。
「隊長代理、本当に大丈夫なんですか? ここらの洞窟内は極寒だって聞いた覚えがあるんですが」
「シアーズ殿の話を信じるしかない。今はそれにすがらねば、彼らを助けられん」
戦闘にいる者のすぐ後ろに控えている兵士が、歩きながら不安そうな表情で口を開く。確かにメタペ湿密林の洞窟の多くは、内部気温が極めて低く、寒冷地での体温安定剤であるホットドリンクの類が無ければ逆に体力を消耗する事になる。しかし、隊長代理と呼ばれた兵士は気温による影響が無い場所を聞いているようで、今向かっている場所はまさにそこだった。
「周辺の偵察が完了しました、特に脅威は無い模様」
「解った、このまま行けば――」
一通りの受け答えを終えた頃に、斥候として放っていたと思われる兵士が合図をしながら正面から現れ、一帯に危険なモンスターなどは存在しないことを報告する。希望を見出せた隊長――便宜上こう呼称する――は安堵の笑みを浮かべ、案内を受けながら移動を始める。
――しかし、異変が起きたのはその時だった。
異常な量と圧力を伴った“水”が、突如彼らの目の前を掠めるように薙ぎ払ったのだ。これを目で認識した直後、衝撃波の余波である突風と爆音が彼らを襲う。音はともかく突風と自分自身の驚愕に身体を押し込まれた面々は、体勢を崩して尻餅を付いてしまう。
兵士たちの眼前に、飛び越えるなど無謀なほどの巨大な溝を作り出した水は炸裂し、周囲に雨のように降り注いでいた。すると、徐々に視界が晴れていき、何者かの姿が見えてくる。
そこいる者は人間大の大きさでありながら溝上を滞空しており、前にいる者たち、とりわけ隊長にとっては想像していた通り機動装甲を身に纏っていた。上半身は直線、下半身は曲線的なフォルムをもつ重厚な装甲、特に腰から広がっている巨大な花弁のようなスカートアーマーが特徴的であり、空中をブレずに滞空していることから、高性能な機動装甲を装備していると想定できた。
「……!」
「よせ、今の俺達じゃ機装兵は相手に出来ん。それに今のは、例の“力”だろう」
一部の兵士が突如現れた正体不明の存在に銃口を向けるが、隊長が立ち上がりながら後ろの兵たちに右手をかざして制止する。そして、彼はシアーズから受けていた伝言を思い出す。
――追っ手は恐らく君達では勝算の無い相手だ。遭遇したら投降したまえ、相手が人格者であることを祈ってな。
「こちらクルセイド、ドンドルマ方面軍第五一九二小隊隊長代理、アロフ・E・マクラーレン曹長。そちらの所属は?」
「PHADUO特殊作戦軍、第零独立多目的特殊部隊、第十機装兵隊“オルトロス隊”所属、ウルスラグナ・ジルクロフト中佐。こちらに攻撃の意思はない、直ちに武装を解除して投降せよ」
今となっては遺言となった彼の言葉に従う前に、隊長はまず所属を明らかにするためコンタクトを計る。それに対し、形式的ながらもやや安堵したような女性の声色で所属を明かす彼女は、当然と言えば当然、先行していたウルであった。相手の安心感を高める為、バイザーを上げて素顔を晒すと――
「了解、勧告に応じ、武装解除の後投降する」
「賢明な判断、助かるよ。安心しきるには早いけど」
ウルの降伏勧告に応じた隊長、アロフは、全員に武装解除を促して抵抗の意思がない事を表明する。しかし、その直後にウルは鋭い目つきになって彼らの左後方を睨み、同時に右腕のライトカノンを展開してそこへ砲口を向ける。
「ハッ、さっきは面倒だったが、今度はザコ共か!」
「ヒャッハー! 今度は楽しめるぜ兄弟!」
そこからは血走った目を投降した兵士たちに向けて、猛進している類人猿が二匹、もといセンチュリーチームが居た。ウルが降伏勧告を行うことは、各機のネットワークから伝わっているはずだというのに、己の狂気を剥き出しにしている。このままでは、彼らが持っている柄の長いトゲ付き鉄球と短く巨大なトゲ付鉄球が、兵士たちを虐殺の対象にしかねない…… 完全にウルの意向に添わない行動である。
だが、暴虐の徒が意向に沿わない以上、そこで何もしないウルではない。
「エイン君、“コード・コンドル”」
ウルが兵士たちの降伏勧告を行う少し前、作戦区域から十キロ近く離れた岩場の高台に伏せ、ウルたちの様子をつぶさに見ていた者が居た。そう、作戦の現場に一切姿を現さなかったもう一人の存在、エイン・レチェンドである。
「いつも思うが、機動装甲ってのはスゲェな…… こんなバカみてぇな距離なのに、楽に相手を追える」
彼は普段着で参加する羽目になった初戦とは違い、“こちら側”の装備で完全に染まっていた。装備しているのは、構成素材がモンスター素材である割合が多く、ハンター工房で受注生産される特殊な生産形態を持った、“ハンター用装備”のギルドウォリアーによる独自改良型。高い生存性と軍用機に近い兵装運用能力から、軍の一部上位部隊でも使用されている“ハプルXシリーズ”…… のみならず、鎧と言うより外骨格に近いスマートな構造を利用して、その上からフルフル亜種の素材を使った繊維装甲を主体とした、“フルフルZシリーズ”の装備を上から着込んでいる、二重装備状態である。ハプルXをフレームとして扱い、フルフルZを外装として利用しているのだ。
余談だが、長時間どころか数ヶ月単位の長期間の狩猟活動という過酷な運用に耐えることを前提とした“ハンター用装備”である為、連続稼働時間と信頼性に限って言えば、ジェノス達の装備をも凌駕するどころか、天地程も差があると言っても過言ではない。
「それにしてもこいつ…… どう見てもデカくして老山龍の皮を被せたバレットM82…… アンチマテリアルライフルだよな」
そして、伏せながらスコープを覗きつつ狙撃兵のように構えている、身の丈を遥かに超える大きさの得物…… こちらは老山龍が自主提供している素材をふんだんに使って造られた、三十ミリ大型ヘヴィカノン、“老山龍砲・極”を対オーバーG用に改良したものだ。とはいえ、元々が対超大型モンスター用の強力なものなので、こちらは素のままで充分すぎるほどで、使用する弾頭によっては戦場を瞬時に火の海にする事さえ可能である。
「にしても、アレはヤバいんじゃないのか? あの二人の考えガン無視する気満々じゃねぇか」
スコープでジェノスやウル、そしてあの二人の様子を見ていたため、ウルが敗残兵達を見つけたのも把握していたエイン。しかし、例のあの二人の動き方を見て勝手な行動を取り得るのはエインから見ても明白であった。
ここで、エインはブリーフィングルームで、最後にガルドに呼び出された時の事を思い出す。
「ロクでもないって、俺に何させる気だ?」
「……お前の役目は基本的に先ほどマキが言ったとおり、現場チーム四人のサポートだが、もう一つ仕事がある。これは俺のお前に対する“小手調べ”でもある」
時はブリーフィング直後、ガルドがエインを呼び出したところまで巻き戻る。ガルドとマキが猛獣二匹のことで愚痴りあっているところにエインが割り込み、本題に入ったところである。ガルドにはエインに命じることがあるようだが、表情はやや険しい。
「センチュリーチーム、まぁ柄の悪いあの二人が居ただろう。あいつらがジェノス達の意向に沿わない行動をした時の為に、お前に対して出すコードを用意している」
ガルドがエインを呼び出した理由は、モヒカンとスキンヘッドの両名に関係する事であるようだ。エインとしても予想の内にはあったが、あの連中を俺にどうしろと、という意思を目で訴えている。
「コード・コンドル…… これが発令されたときにお前が取る行動は一つ、奴らを行動不能にすることだ。……命を奪ってでもな」
「今回の作戦は、貴方が指令に対して躊躇無く行動に出るための痛みを緩和するための、いわば最後の試練です。 更に言えば、貴方への指揮権はこちらとウルスラグナ中佐、ジェノス中佐です。 持てる力を遺憾なく発揮して目標を撃破してください」
「本気、か? 仮にも味方なんだよな、アレでも」
しかし、その意思をほぼ流して淡々と説明を続けるガルドだった。だが、その内容は例の二人が命令違反、もしくはそれに準じた行動を取った際の、事実上の抹殺命令だった。恐らく、表情が険しいのはジェノス達と正式に組む初の任務で、いきなり汚れ仕事をやってもらうことになり得るという事が原因だろう。しかし、この命令を下す言葉そのものには全く躊躇が見られない。 マキすらも朱色の目を輝かせて嘲笑の下、確実に殺害するよう限り無くストレートに命令している。 この二人、気持ちは抹殺してほしい方向に傾いているであろうことは見て取れる。 マキはセンチュリーチームの機動装甲の弱点を表すシミュレート画像を見せ、確実に撃ちぬける部位を指差していた。
対するエインは雇われたばかりの部隊で、いきなりこのような命令が飛んできた事にやや戸惑っている様子だった。この手の任務遂行の経験があるかは不明であるが。
「連中を“味方”だと思うな。“人”であるとさえ思うな。奴らは強力なだけが取り柄のただの“力”、人の形をした兵器。最も簡単に言えば道具に過ぎん」
そこでガルドはエインの眼とマキの眼を交互に見据え、センチュリーチームのように平時は監禁状態にしている者たちに対しての見解を伝える。人の手で直接制御される銃器や戦車などと言うよりは、どちらかと言うと使い捨ての銃弾やミサイルなどといった存在として見ているようである。貴重ではあっても容赦なく切り捨てるところで一層強調している。
「じゃあ、あのぶっ飛んだ連中は基本的には敵でも味方でもなく、指揮権に服さないなら敵と見なして対処しろってとこか」
「概ねその認識で構わん」
「わかった、気乗りするって程じゃねぇが、身内の不安要素の対処と思えばやりやすい」
エインはガルドやマキの話を聞いて、自分なりにどう認識したかを命令の確認とあわせて話す。そして、問題ないというガルドの返答を受けた彼は指示を受諾、任務に向けて準備を進めるのだった。
――そして時は戻り、今。
「エイン君、“コード・コンドル”」
その不安要素が今まさに、無抵抗の敗残兵に対して猛進している中、エインの予想通りウルによるコード発令が行われた。瞬間、エインは老山龍砲を構え直し、ウルがネットワークを通して指定したターゲットに対して砲口を向ける。
(いいか、あのクラスには同格の者による牽制でもなければ、初撃で当てるのは物理的に不可能と言えるレベルだ。だが――)
「警戒が薄い相手なら…… だから小手調べか」
出撃前に聞かされたガルドの言葉を思い出しつつ、彼の言っていた小手調べの意味を理解するエイン。そして、マキに言われたとおり自分に出来る全てを懸けようと深呼吸をする。
「確実にブチ抜く…… エンチャント・アルムス(兵装・魔術強化)」
エインが呟くように言霊を唱えた時、手にしている老山龍砲が紫色に輝く。更にストックの方から銃身の先にかけてゆっくりと、内側からより強い光を放つようになり、それまでとは雰囲気を一変させていた……!
「加えて…… コッレクティオ(改装)、ブレット・アクセル(弾体加速)」
相手の位置情報を捉え続けながら、続けて詠唱を行い、可能な限り砲の強化を図るエイン。二度目の詠唱が掛かると砲口からうっすらとした紫色の光が伸びていき、一定の間隔を置いて弾道に沿った魔法陣を一つ一つ展開していく。やがてそれは、積層された魔法陣によるもう一つの砲身となるのだった。
「ターゲット・インサイト、時間停止…… くっ、やはり重い……」
発射する準備が整ったエインは、次に違反者の片割れを自分の力と火器管制システムの力を総動員してスコープの中央に納める。そして、限界まで集中する事によって自分の体感時間を刹那の世界に落とし、その上で時間を停止させる。久しぶりに感じる反動の重さを感じながらも、時間を止めた一瞬に全力を懸ける。
(後は、トリガーを引いて点火するのみ……!)
「照準固定、ディールプティオ(破壊する力)・シュート!」
エインが狙っている事…… それは、一瞬の間で少しでも砲弾を前に通過させることにより、相手の視点では“砲身の遥か先”から砲弾が撃ち出されているという状況を作り出すことである。相対的に着弾までの距離・時間が短縮されるので、命中率を底上げできると言うものである。
その準備が全て整い、停止している相手に完全に照準を固定したエインは、最後の詠唱と共にトリガーを引く……! 瞬間、砲口の光が眩い輝きを放ち、エインの魔術で強化された老山龍砲の砲弾が、周囲の岩盤を抉るほどの強烈な衝撃波を伴って射出・飛翔する!
「あ? この感じは…… ――あべし!」
猛獣の域すら凌駕する超反応で、何かの気配を察知したのは柄の短いトゲ付き鉄球を持ったスキンヘッドのほうだった。いや、反応そのものはモヒカンもしていたが、もう遅い。……首を一瞬傾けた時には、その首はおろか胴の上半分近くまで消し飛んでいた。断末魔を挙げる間もないはずなのに断末魔が聞こえたのは謎だが。
その一、二秒ほど間を置いてから彼の遥か先の場所で粉塵が巻き上がり、モヒカンが居るところまで炸裂音が鳴り響く! その振動に揺らされたかは不明だが、時を同じくしてスキンヘッドだったものはゆっくり膝を付き、その場に倒れ伏すのだった。
「ターゲット、ヘッドショット」
「一旦コード停止ね、ナイスキルだったよエイン君」
対象の撃破を確認したエインは、砲の右側に付いているボルト――ここではレバーの一種と捉えて差し支えない―ーを引き、役目を終えた薬莢を排出、弾薬の再装填を行う。老山龍砲に限らず大半のヘヴィカノンは、一発目を撃ってからの再発射時にトリガーを引く以外の動作が不要であるセミオート方式だが、彼はスライドストップ機能を使用して一部機構の稼動を抑制、現在の方式であるボルトアクション方式に切り替えていた。これは、発射サイクルの動作を簡略化し、少しでも精度を向上させる措置である。
曰く、兄弟であったものの無残な姿を見て固まった状態になっているモヒカンを見て、ウルは彼に砲口を向けたままエインへの命令を一旦解除する。そして、平時では到底聞けないであろう言葉でエインを労った。
「今の、まさかあの――」
「いつまでも喚くな駄犬、耳が腐る。安心しなさい、粒子は回収できてるから」
後から感情が追いついてきたモヒカンは、怒りの感情と共に自分の兄弟の命を奪った者を探そうとするが、そこでウルが心に杭を刺す勢いで辛辣な言葉を言い放つ。戦場に身を置いている上に狂気の塊を相手にしている彼女は、これ以上ないほど言葉に容赦が無かった。
「向こうに起現者が居ない以上、貴方を起現力も使わせずに終わらせてあの人達を確保するのは簡単だよ。……それでもまだやる?」
今の言葉で怒りの矛先を変えてきたモヒカンに対して、ウルは先程の射撃が味方のものであることを半ば明かし、一対一の実力差が大きい事も利用して、置かれている状況を思い知らせる。実際、それが真実であることが何よりの脅威であることを認めざるを得ない彼は、悪態を付くことしか出来なかった。ウルの考えとしては無駄な争いを避ける意図もあったが、それ以上にこのような下衆に使う弾が勿体無いと言うものだった。
「丁度ジェノス君も来たみたいだね。こちらオルトロス2、状況終了」
現状の現場責任者であるジェノスが来た事がトドメになったと判断し、ウルは回収部隊の要請を行う。そして、捕虜の負傷者が多いことを考慮し、合流地点の変更も要請するのだった。
それから暫く時間が経過し、捕虜の一団の収容、エイン及びモヒカンの回収まで完了し、残るはジェノスとウルの帰還を残すのみとなった頃。最後の回収機を待っていたジェノス達に、ガルドから連絡が入る。
「緊急事態だ。メタペタット付近に異常個体のラージャンが二頭確認された。移送部隊は、もう近いな。到着次第、急行してもらう」
やや急ぎ足の口調で、ガルドから市街地近くにモンスターが出現したという情報がもたらされる。このままでは市街地が巻き込まれる危険性があるとの事で、もっとも近い位置にいるジェノス達に緊急指令が下ったのだ。
「了解、ミッションアップデート。忙しくなりそうだ」
「えー、もう終わりだと思ってたのに~」
それをなにくわぬ顔で引き受けるジェノス。しかし、ウルは無線が切れた後に、ようやく戦場気分を抜け出したのに、とその場でへたり込んでしまうのだった。
第八十八話 終 To be continued…
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お返事確認しました、とても早い回答で助かりました(^^)
また新しい形での描写でしたが、エインの描写がうまくいっていれば何よりです
それではまた~(^-^)/
こんばんは、かなりご無沙汰してます~ 今回は少し質問があって来ました
今エインとトールが登場する話を描いているのですが、彼らはフェイの事をどう呼んでいるのでしょうか?
他にも特定の人物によって呼び方の指標などはどのようになっているでしょうか?
ご覧になっていましたら回答よろしくお願いしますm(__)m
ご無沙汰で〜す!
そこは、普通に「フェイ」で大丈夫だと思います!
他の人物に対しては......普通に苗字で大丈夫だと思いますw
最近はオフラインで文書の練習をしてます。
またいつか、一緒に何か書きましょう!w
返信ありがとうございます~ なるほど、呼び捨てなのですねぇ
とすれば名字で被る人は名前で呼ぶという感じで良いとして、もう少し詳しい質問をしても良いですか?
例えば、呼び捨てか敬称(さん、など)をつけるとかそういうものですね。目上、目下、年上、年下といった相手、尊敬できる相手などにどう呼んでいるのか教えていただけるとありがたいです~
こちらで決めたほうがいい状況があれば対応させていただきますね
それでは、練習頑張ってください^^ 共同執筆楽しみにしてますね~
遅れてすみません;;
エインの場合は、基本呼び捨て&タメ語ですかね?
こちらの頭の中のイメージでエインが敬語使ってる場面が思い浮かばないのでw
トールの場合であれば基本的に敬称(さん)&敬語ですね。
まぁ、細かい部分はそちらの方で決めてしまってもあまり問題は無いと思います。
ナルガさん、ご回答ありがとうございますm(__)m これで大体の指標が固まりました~
これならスムーズに進められそうですので、近いうち(うまくいけば明日)に一話ぶんのサンプルをこちらに提示しますね(^^)
それではまた~
こんばんは、多忙でかなり遅くなってしまいましたorz
例のストーリーが書き終わりましたので、一話こちらに置いていきますね
トールの視点による一人称なので、ナルガさんにとっては新鮮かも? 彼の設定を考慮し、敬称はつけますが敬語は使わずに描きました。少し後(多分二話あと?)になってから使わせようかと思います
それでは、ご確認お願いします
~Peace Planet~
第九十三話 脳裏を埋め尽くす毛力(もうりょく)
やあ。
え、いきなりそんな挨拶されてもわからない? あはは、俺なんて分からない事だらけさ。
自己紹介が遅れたね…… 俺はトール・マクライシスっていうんだ。元々は身寄りも無くて、食いつなぐ為に盗賊まがいのこともしていた身の上なんだけど、そこから何をどうしたのか……
色々と良く分からない事に巻き込まれて、挙句の果てには自分が住んでいた世界と別の世界に飛ばされてくるっていう破天荒な人生を、若くして送っちゃってますよ。詳しいことは思い出すだけで頭がぐちゃぐちゃになりそうだから勘弁してくれるかな。
しかも、元の世界とこの世界で同時にすごさなきゃいけないっていう意味分からない事になったもんだから…… で、住む場所が必要になったのをいろんな人が手を回してくれて、それで苦労せずにこの場所での家を見つけることができて、と言っててなんだか良く分からない感じになってきたけど、まぁそんな感じ。
それで、今ジェノスっていうコワモテなにーさんに連れられて、その家の前まで来たんだけど……
「思ったよりかなりでけぇ家だな……」
「うん、遠くからだと普通かと思ったけど」
思った事を先に言われた…… と思って俺は隣を見る。そこに居るのはエイン・レチェンドっていう、まぁ俺の連れ…… っていうか俺の方がエインの連れって立場なんだけど。夏日に厚着でこの世界に来たもんだから、脱いだ黒のジャンパーを肩にかけて暑そうにしてる。エインって基本的に無愛想だから、俺が上手く話を切り出さないとめんどくさいんだよなぁ。元の世界では世話になってるしありがたいんだけどさ。
それにしても、ほんとでかいなぁ。飾り気も無い三角屋根の家ってぐらいしか説明しようが無い、何の変哲も無い見た目だから分からなかったけど、近くに来るといわゆるえーっと、豪邸? みたいな大きさだから距離感がおかしくなるよ、この家。傍にある庭もものすごく広いし、さっきから空飛んでる龍が降りてきて普通に歩きまわれるくらいあるんじゃない?
「そいつも、ここに白羽の矢が立った理由だな」
「しらは……?」
「要するにここに決まったって意味だ」
俺達が家を見上げていると、前で案内してた赤コートのコワモテさん…… ジェノスが、こっちに少し振り向いてから、なんか難しい言葉で説明してきた。よくわからなかった言葉はエインがフォローしてくれたけど。なんか、今のジェノスってちょっと得意気な感じだった気がする。まるで自分の事みたいだ。
――なんてこと考えてる時だった。
「つっ!」
「うわぁ!?」
突然俺の身体の中を、一瞬で電気が走ったように痺れが走った。エインもそうだったのか、一瞬身構えてから辺りを警戒しながら、ジェノスにも食ってかかろうとしてるけど……
「ん? ああ、心配すんな。大した事じゃねぇから落ち着け」
なにこの全然余裕な顔。この様子だと、何か知ってるみたいなんだけど。なんて事を考えているうちに、ジェノスはさっさと家の玄関前まで歩いていって、呼び鈴を鳴らしていた。エインはあまり納得してないのか、舌打ちしながら渋々ついてってる。
「はーい。あら、ジェノス? 時間通りね」
呼び鈴を鳴らしてから少し待っていると、すぐに玄関が開いて誰か出てきた…… 女の人の声、と思ったらなんだか物凄い美人が出て来たんですけど!? なんていうか、若いんだけどとんでもなくボン、うぁぁ、説明できるかぁ! しかもそんな見た目を薄着なシャツとやたら短いスカートで見せ付けてるし……
「エルさん……」
「ああ、言おうとしてることは解ってるわよジェノス。まぁ、性分だから仕方ないっしょ。リオンも慣れてるんだし大丈夫」
「いや、エルさんが親だからでしょうそいつぁ」
俺の反応を見てから出てきた女の人に、呆れたような話し方で呼びかけていた。女の人も俺を一瞬面白そうなもののように見てから、ノリの軽い笑い声を交えてジェノスに手を振り、平気平気と返してる。いや、全然平気じゃないから勘弁してよ。
「あら、ジェノスにとってのお母さんでもあるつもりよ? いつでも遠慮なく甘えてきて良いんだから」
「いや、もうそんな歳じゃねぇつーか、話を摩り替えられても困るっす。……オイお前ら、挨拶ぐらいしねぇか」
「家族、か」
どうもジェノスもこの人にはたじたじみたいだね。楽しげに自分のペースに巻き込んじゃってるけど、今の話をしてるときは凄く優しそうな雰囲気だった。そういえばこの雰囲気と顔を見てると、頭の中でフェイとダブるなぁ。
フェイかぁ、そもそもあの人に元の世界で最初に会った時からして何から驚いて良いか訳がわからなかったな。青緑っぽい髪と目をした綺麗な人が出てきたと思ったら、バケモノみたいな強さを何度か見せ付けられたし、見透かしたようなわけ分からない事をいってくるし。お蔭で何度か助けられたこともあったけど。
そんなときに、ジェノスは俺達を逃げ道にするようにこっちを見て、小さく声をかけてくる。っていってもこんな人相手にまともに顔見て話せるか…… すると、さっき上を見ながら何か呟いてたエインが反応して、次にガチガチになってる俺の様子を見てからため息を付くと、代わりにと不遜な感じを変えずに女の人へ向く。立場が逆になっちゃったな、しかたないけどさ。
「今日からここで世話になる、エインだ。で、こいつはトール」
「話は聞いてるわ。私はエルグリアス・ヴェリア、ガルドの妻よ。面倒だと思うから、エルって呼んでね」
なるほど、どうりで。さっきこの人が言ってたガルドさんは、俺達の暮らしについて色々と協力してくれた人だ。確かあの人のフルネームがガルデリウス・ヴェリアだから、フェイと苗字が同じなわけで。あの人の奥さんなら顔が似てても少しは納得が行く。
気さくに愛称まで教えてくれると、ここで立ち話もなんだからと俺達みんなに家に上がるようにと、手で招きながら伝えてきた。まぁ俺はあの人を目に入れないようにしながら、エインたちについていくんだけどね。
「広っ!?」
中に入ってすぐにある居間を見て、俺は思わず思った事を思いっきり声に出してしまった。いや、だってホントに広すぎるんだから。“家”って言える建物でこんなに広いとこ、俺知らないんですけど。見るからに食卓っぽいでかいテーブル、奥にはくつろぐ為のソファがこれまたでかいテーブルを囲んでるところがあるし。それでもってなにあの真っ白なクッショ、ン……? にしてはやけにでかいような。
「あ、ジェノスお兄ちゃんっ」
「おかえりなさい」
「ただいまレナ、リオン。今日は客を連れてきてる」
いつも通り何から驚いて良いのか解らない気分でいると、ソファに座ってた二人の女の子がジェノスを出迎えようとしてた。片方はオレンジ色の長い髪で明るい感じ、金髪の方は大人しそうだけど柔らかい笑顔を浮かべて、どっちもいかにも美少女って感じ。どっちもフェイを思い出すような顔だけど、特に長い髪の方はフェイとあのエルさんを混ぜて小さくしたみたいな見た目だなぁ。
「……で、俺も初めて顔合わせるのがいるな」
「そうなの?」
こういう時、どうすれば良いのか分かっているみたいに二人は奥のソファに向かって行く。そんなときになんとなくジェノスを見上げると、ジェノスも見慣れないのがいたのか、少ししかめたような顔っていうのかな。そんなのになってる。
視線の先には、なんだかレナって呼ばれた女の子の髪に光沢が付いたような髪色の美人が後ろ向きで誰かと話して…… ってあれフェイじゃん!? フェイがその人の肩を叩くとこっち向いて…… え、なにあれ? 何ていえば…… とにかく美人だ。
っていうかさ。女子率高いどころじゃなくない? 今のところ男の人誰も居ないんだけど。ええぇぇ!?
「ささ、座って座って~ 別口からまた新しい家族が出来たし、まずは顔合わせと行きましょっ」
俺の頭がぐちゃぐちゃになりそうになるところで、エルさんの声が入ってきた。どうもあのソファでとりあえずは挨拶しようって事みたいだけどさ、俺ちゃんとできるかな。すっごい自信ない。
「改めて名乗らせてもらう。ここで世話になるエイン・レチェンド、聞いていると思うが魔術師だ」
「と、トール・マクライシス…… よろしく」
それでいつの間にかフェイが用意した飲み物とお菓子がテーブルにたっぷりと用意されて、それを囲んで皆ソファに座って自己紹介って流れに。俺は白い巨大クッションの隣に座って、その隣にエイン、ジェノスって続く感じ。他は大体反対側に座って俺達と向かい合ってる感じだ。エインは相変わらず愛想なしの自己紹介で通ってるけど、俺の方はこんな環境じゃ緊張して、まともに話が出来なかった。つ、辛い……
ここの家の人も順番に、あ、フェイはもう知ってるから無かったけど、していく。エルさんはいかにも気さくな感じで、レナって子は元気そうな雰囲気で名乗ってた。ただ、リオンって子は俺と同じように緊張してるのか、途切れ途切れに自己紹介してた。この子だけが俺より年下みたいだ。緊張してるのが俺だけじゃないって思うと、少し安心する。
「フェイさん、もしかしてあの時の――」
「あー、うん。あの時の」
そんな自己紹介の間にフェイの隣に座ってる人がこっち側を、たぶんジェノスの方を見ながらヒソヒソ話してる。 子供っぽいけど綺麗な笑顔で凄く楽しそうだけど、ちょっとだけ声が聞こえたから、たぶんジェノスが初めて見る人なんだと思う。 でもあっちの方は話しでも聞いてたんだな。 でも、受け答えてるフェイはなんか微妙な顔をしてるんだけど。なんだろう、この雰囲気は。
「俺まで名乗る事になるとは思ってなかったが、初顔合わせがいるんだったらしかたねぇ。俺はジェノス、ジェノス・ウェルナードだ。どれくらい顔を合わせるかはわからねぇが、よろしく頼む」
自分まで自己紹介するのは考えても見なかったみたいで、少し頭を掻いてからあの綺麗な人に向かい合うと、気を取り直して自己紹介と挨拶をする。流石にエインよりしっかりしてるなぁ、うん。
「初めましてっ、ここでお世話になっています、グレイス・アダム・ヴェリアです。 お話はかねがね伺っています、これからよろしくお願いしますっ!」
ジェノスの自己紹介が終わった瞬間ってくらいに反応した綺麗な人は、ソファから飛び上がる勢いで立ち上がると、まるで太陽みたいに眩しい笑顔で、でもしっかりした自己紹介で応えてきた。 声高いなぁ、ていうか髪ながっ! 上で留めてるけど膝くらいまであるんじゃない?
「ん……? 俺も少しウルから聞いてる。ま、これからもこいつらと仲良くしてやってくれ」
ジェノスはあんな綺麗な見た目の人相手でも平気な顔で話できるのか、って回りも凄いから当たり前…… ってエインもそうか。いや、エインは根本的に何か違ってる気がする。気を楽にしたのか、顔を緩めてあのレナさんとリオンさんを見渡してからソファにもたれる。見渡されたほうも嬉しそうに顔を見合わせてて、名字が違うけど、あの二人にとってジェノスはしっかりとした兄貴分なんだなぁ。ってあれ? 顔が違うけどこの人も同じ苗字って思ってたら、それを見透かしたみたいにあのエルさんが、この人がフェイと夫婦関係だからって言ってた。あぁ、だから同じなわけね。
「で、ここの男女比率ってどんなもんなんだ。一応聞いとく」
「え、エイン?」
「フェイの前例があるだろ」
向こう側の自己紹介も一通り終わったときに、エインが唐突に質問を投げつける。いきなりの流れだからつい呼んじゃったけど、ここでエインがフェイを見る。あ、そういえばフェイってあの見た目で男だったんだっけ…… だったら何人か居てもおかしく…… おかしいよね。
なんだか俺の中で何かが音を立てて壊れそうな気がするよ、うん。
「はっはーん、あのトールって子が縮こまってるのはそのせいなのね。えっと――」
「エルさんが言うとややこしくなりそうなので、私が。そうですね、この場では私を含めて三人が男性…… いえ、一人は両方ですか。ここに居ない面々まで含めると後一人。女性は三人ですね」
ここであのエルさんが嫌な予感全開のにやけ顔で反応すると、それをすぐにフェイが止めてくれた。うん、また助けられたね、ありがとう。そして、この中ではフェイとリオンさん、そしてガルドさんが男で、他が女の人。グレイスさんが両方って言ってたけど、両方って何? 考えたり口に出そうとしたけど、なんかヤバい気がしたので考えるのをやめた。ともかく、意外にも男女半々なのは安心だ、うん。
「エイン、助か…… ん? あれ、これ――」
一通り見渡してからエインに振り向こうとした直前に、隣にあったでかいクッションが見えたんだけど、なんかおかしい感じがした。それで、それが何かとおもって少し眺めていると、微妙に膨らんだり縮んだりして…… 息してないこれ?
「もう“一人”女の子が居ましたね、そういえば。フェルミ、お客さんだよ~」
「んきゅ、エインにトール、さっきさわった」
そこで、フェイが今思い出したかのように、左の手の平を握った右手でぽんと叩くと、この息してる毛玉に声をかけた。
そしたらでかいクッションが動いた! モサモサしたと思ったら猫みたいな顔が出てきて、凄いユルユルした声で喋った! え、これなんて生き物? というか女って…… 動物じゃないのこれ?
「フェルミは、フェルミっ! ビリビリもフェルミっ!」
とか思ってたらなんか電気ピリピリしながら高い声で叫んだ。 あ、もしかして入り口前でビリビリしたのってこれが?
「あの痺れは、フェルミの自己紹介代わりだ。好きに撫でてやれ、喜ぶから」
「手触りは保証しますよ、まさに見た目どおりです」
「天にも昇るって、あんな感じよねぇ」
「そうそう、まさにそれ」
「ふわふわ……」
ジェノスから始まって、フェイ、エルさん、レナさん、リオンさんが続いて、このフェルミって言う何かをもふもふする事を進めてくる。一斉に勧めてくるもんだから戸惑っちゃって、それでフェルミという名の毛玉の方も見たら……
にぱー。
こ、これはやるしかない、やるしかないんだ……!
……もふ。
――……
――――……
――――――……
「……なにこれしあわせ。そうか、ここが天国なんだ」
「にゃうー、トール、げっとだぜ」
フェルミに触れたその瞬間俺の頭はもふもふで支配された。埋め尽くされた。焼き尽くされた。癒された。もう俺なに言ってるのかわからない。しかもフェルミは擦り寄りながらのどを鳴らしたり、猫みたいに気持ち良さそうな鳴き声だしたり、耳動かしたりしてる。なにこれかわいい。あはは、あはははは。
第九十三話 終 To be continued…
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
いやぁ、流石ですね!
私にとってはとても新鮮な物でしたww
トール視線で物語を考えたとがありませんでしたからねぇ......。
参考にさせて頂きます!
あ、特に問題はないですよ!
こんばんは、NIGHTMAREです。またも間を空いちゃいました
以前こちらに上げた話の後編が上がりましたので、確認をよろしくおねがいします~
~Peace Planet~
第九十四話 嫌な予感しかしない……
「あら、早速フェルミに懐いたのね」
フェルミをもふもふして頭が吹っ飛んでたら、いつの間にか銀髪? いや、微妙に違う…… まぁそんな感じの綺麗な髪を横で縦ロールにしてる、またいかにも美少女な子がもう向かいのソファで座ってた。エインに聞いたら、軽く十分ぐらいはもう経っていると言われて俺は慌てて正気に戻る。でも片手はフェルミから離せなかった。いわれていたように、本当にゲットされてしまったのかもしれない。
「わたくしの名前はアテナ・レオンハルト・ヴェリア、お見知り置いて頂戴」
「……ああ、仕事の時に資料で見せてもらったな」
あまり年は離れて無さそう…… アテナと名乗った子の自己紹介は、他の人の自己紹介と比べても結構丁寧な気がした。初対面のフェイも似たような風だけど、やっぱり人それぞれなのか、この子にしかない感じがある。
なんて事を、フェルミを撫で回しながら思っていると、隣のエインがやっぱりぶっきらぼうに自己紹介を返して、けどその後に何かを思い出したかのように呟いていた。直に会ったのは初めてだけど、別の意味では見覚えがあったんだね。
ついでにいうと、俺も自己紹介を返したときは最初に比べてあまり緊張しなかった。多分フェルミのお蔭でほぐれたって言うかゆるくなったのかもしれない。
「しかし、お前こういうのにそこまで弱いんだな。すげぇ意外なんだが」
「いや仕方ないじゃん、エインも触ったらわか――」
「……やめとく」
自己紹介をまたひとつ済ませると、珍しくエインが少し不思議そうな顔で俺を見てから、さっきまでの俺の事に驚いてたことを言う。こいつはフェルミがどんなにもふもふかわかってないと思って、ちょっと言い返してみたりしたんだけど、スルー。はっはーん、まさかキャラが崩れるのが怖いとか思ってるのか?
「さて、これで一通り紹介は終わりましたね。実は、ちょっと提案があるんですけど、いいですか?」
なにか打ち鳴らしたような音が聞こえたと思ったら、フェイが両手の平を合わせていた。そのときの目は俺の方に向いていて、どうも俺の事について話があるような気がしたので、つい自分に指を差す。
「自己紹介にあったようにエインさんは十七、トールさんは十四歳ですが、エインさんはすでに仕事もなさっているので問題ありません。しかし、向こうでも民間人同然だったトールさんは中等部の学校に編入させたほうが良いのではと思いますが……」
フェイは俺達の年をもう一度確かめると、エインはともかく俺はこの世界で学校に通って普通に暮らせるようにする、みたいなことを言ってる。そうか、普通俺くらいの年だったら、学校なんてとこに通ってるんだよな。でも俺は…… なんて思ったときにはもう、フェイが俺の身の上について話し始めていた。俺が元々貧しい場所で親兄弟も無く、エインに拾われるまでは盗人みたいなことをしなきゃ生きてはいけなかった、そんな感じで生き続けてきたこと。だから俺は、学校とかそういうのは何とか聞いた事があるくらいで、ぶっちゃけ通ったことなんてない。だから、どういうところなのかもほとんど知らないんだ。
「最低限、中等部程度の学校に通うための教養を積む必要があるんです。出来るだけ短期間で終わらせられればいいんですけれど……」
だから、まずはそこから知らないといけないという事を、周りの皆に話していた。ここに来た時、いやその前に元の世界から、何で俺達に対してそこまでしてくれるんだと声に出そうとしたとき、丁度フェイがアイコンタクトをしてきて…… それで向こう側で初対面の時に言われたことを思い出す。
――上手くやっていきたいですから。
こんなことを言われていたら、もうぐうの音も出ない。しかもそれを解っているみたいに優しく笑いかけてくるし。くそ、あのときみたいにプレッシャーのあるときならともかく、今みたいな普通の時間でその顔は反則だっての。
「学力以前に礼節倫理道徳、常識と法律は一通り習わせた方が良さそうね。 貧しい空気が見るに耐えないわ……」
アテナさんはそんなフェイの顔を遮るように覗き込んで一通り俺達を見回すと、大きなため息を付きながらソファに戻っていった。 そしてかわいそうな者を見る目でもっと基本的に教える事が多いみたい、な事を言ってるんだけど…… わざとなのかな? 凄く馬鹿にされてるような言葉が聞こえたんだけど。
「僕はエインさんの方が心配というか、鉄と火薬と油の臭いを振り撒いてるのは……」
「ほっとけ」
そして誰も入る隙が無いくらいの勢いでグレイスがエインの事を話す、んだけど…… 隣に居てもそんな臭いしないんだけどな。 こっちの方も苦笑いって感じで微妙な空気になってた。 そういえばエインはいつも銃持ってるんじゃないかな。
「コイツはもう手遅れレベルだ、諦めたほうがいいかもしれねぇ」
「てめぇ…… いつか覚えてろ」
なんて思ってたら、いつの間にかジェノスはエインから銃をスってて、少しの間指で回しながらからかうように笑ってた。そして、エインが気付いて取り返そうと振り向いたら元の鞘に収まっている。カンペキに手玉に取られてたエインは気分のやり場がわからなくなるけど、やがてジェノスにドスの効いた声で唸っていた。お、重い……
「わたくしはあまり寛容ではないの、せめて家の中では持ち歩かないでほしいものね。 汚いし臭いし危険なのよ?」
「あ、アテナは潔癖症だから、ちょっと厳しいですよ」
アテナさんはエインにも言いたい放題って感じで銃を持たないように、少し不機嫌そうにして武器を指差していた。 グレイスさんはアテナさんがどんな人なのかを簡単に説明したみたいなんだけど、潔癖症ってなんだっけ?
「ちっ、そういう事情か…… 場所が場所でもあるか、努力はする」
エインは解ったみたいだけど、そういうわざわざ突っ掛かるような言い方とか、直らないのかな…… と思ってたら、ちょうど目が合ったジェノスは目を閉じて黙って首を横に振る。無駄に楽しそうな感じだけど。まぁ、時々見るお人好しが出てきた分まだましかもしれない。なんだかんだ言って、困った人はほっとけないらしいからね、元の場所で他の人から聞いたんだけどさ。
「さて、教養というものが必要なトール・マクライシス君、わたくしとフェイでしっかりと人としての基礎を叩き込んで差し上げるわ、といっても、わたくしもこの世界の事をそこまで知らないのだけれど」
「ふふ、お呼ばれされちゃいました。というわけで、改めてよろしくお願いします」
今度は話が俺に戻ってきて、意地悪そうな目で勉強を教えるって言ってるけど、後で冗談みたいに表情が柔らかくなっていた。 この人達も別世界から来たってことなんだ。さっきまでは正直気圧されて、苦笑いするしかなかったんだけど、今の顔を見ると思ったよりはきついことにはならないのかもしれないって思える。さりげなく呼ばれてたフェイもなんか嬉しそうにしてるし。
いや、そもそもきついことだったとしたって…… もしかしたら向こうに居る時よりは気持ちよく生きられるかもしれない。正直、ろくな目に遇ってなかったし…… 向こう側では、ずっと。
「“普通”に生きる、かぁ」
俺はそんな風に、エインに拾われる前の事を思い出しながらそんな事を考えていた…… 時だった。
「軽々しく普通という言葉を使わない方が良くてよ。 あなたの世界の普通はイコールこの世界の普通ではないのよ?」
「うーん、よくわからないや…… ってあれ、この手は?」
「普通以前に、この家で暮らしていけるよう、早急に享受してもらいたい事が山のようにあるのよ、さ、わたくしの部屋ですぐに始めるわよ?」
俺の手にアテナさんが触るような感じで掴んで軽く引っ張り始めた。 それからアテナさんの目を見て、触るくらいにしか握っていない手を絶対に離せなくなった。 この人は俺を良く思っていないのかもしれない、その気に入らない部分を叩き直してやろうと怒っている…… そうだ、ピリピリしてるって感じなんだこれ。
「え、こういうのって普通、一日間を置いたりとかそういうのってないの!?」
「あぁ、アテナに火がついていますから、諦めるしかないと思いますよ」
「そ、そんな、気持ちの整理くらいさせてぇぇ」
うぅ、ジェノスとエインが鉢合わせするのを見るのが少なくなりそうだから、重い空気とはおさらばと思ったのに。いきなりこれじゃ先が心配だよ。これからどうなるのさ、俺は……
とか思ってても、この手はもう俺を離してくれず、そのまま地下の部屋まで引き摺られていくのだった。
トールの奴が引き摺られていった――いや、一応は歩いて行ったんだが抵抗出来無かったってとこか――あたりで一旦解散って話になった。トールがここに居ねぇから、俺一人が予定されていた個室に案内されて、そのせいであいつの荷物まで俺が持っていく羽目になっちまった。何で俺がこんなことを……
だが、部屋に俺を案内した奴が、色々と想定外だったことには気付くべきだったかも知れねぇ……
「――といった感じで、僕から説明できることはこれくらいです。 これから一緒に生活する家族としてよろしくお願いしますっ」
まずおかしいと気付いたのは、俺達の居た世界とこの世界の文明の違い、そして俺の生活の仕方だ。 アテナって奴の方は仕事先の上司からも聞いていたから、多分あいつの方も知っててトールだけ連れていったんじゃないか、と思う。 でもこいつ、グレイスは初対面のはずだ、何で俺とトールの荷物とか気になってるとこ全部に説明が入るんだ? あっちの世界で会ったフェイならともかく、どう考えても出来過ぎだろ。
俺の荷物を整理した頃にはトールの荷物は片付いてるし……
「ところで、エインさんはいつも武器を持っているんですよね? どんな武器を持っているんですかっ?」
振り向いたらグレイスは鼻がくっ付きそうなくらい密着していた。 俺が後ろを取られたってのか! っていうか俺の武器がそんなに気になるのか、満面の笑みって顔でストレートに聞いてきやがった。 この見た目で武器に興味があるのか……?
「近ぇ。……まぁ、そんなに見てぇなら好きにしろ」
とにかく、考えたことが顔に出ないように振舞うことにする。俺は今まで相槌を打つか、最低限の返事をするだけだったが、喋る、といえるほどに物を言ったのは今が初めてかもな。本当ならおいそれと見せるなんざ、その気はさらさら無かったんだが、この妙に強烈な“押し”の感覚を覚えてからは考えが変わった。口に出して居ない時でこれじゃあ、下手な断り方をすると後が面倒になるのは間違いねぇ。
俺は表情一つ変えねぇのを意識してこいつから一旦離れて、とりあえずは常に携帯しているやつを近くのテーブルに適当に置いておく。持ってきている物を考えれば、こいつを一丁、護符を一枚出しときゃ良いだろ。
「わぁ、ありがとうございますっ! これが魔法の武器で、こっちが機械の武器ですね。 対人戦用の武器ってこんなに小さいんですか」
俺の返事を聞いてまた満面の笑み。 で、早速護符の方を先に見る。ま、普通は銃より魔術の方が興味あるはずだ。 特にこいつは表から見てもお花畑だし、中身もファンタジーな想像でもしてんだろうな。 これだから付いていけない、想定内さ、銃の話なんてこの家じゃタブーってやつか。
「そいつは滅多に使わねぇがな。ただ使うだけなら礼装だ、媒体だなんてのは要らん」
見た目と文字通り、マジになったときの切り札みたいなもんだしな。つっても、そこまでやってもまともにぶつかれねぇ奴が居るってのはたまったもんじゃねぇんだが。
適当にグレイスに返しながら、俺はこれからどうするかだとか、この先の仕事だとか、そんなもんに考えが移っていた。生きている時間の大半を戦場で生きてきた俺にとっちゃ、民間区域で長期間暮らすなんて状況には、正直まだ慣れてねぇからな。まぁ、下手に慣れ合わねぇのが最善なのはハナからわかってるし、性分としてそんな気は最初からねぇ。
そんなことを考えていたわけだが、グレイスの独り言が妙に耳に入ってきたんで、俺は椅子に座ったままグレイスを見てみる……
「弾倉はこれで外れて、入れるだけで再装填とはではなさそうですね。 あ、やっぱりここが後ろにスライドして排夾、スプリングの力で戻る時に給弾…… スライドが最初に引っ掛かるような感じになるのは、弾丸が銃身から射出されるまで銃身を固定するための抵抗なんですね。 弾倉が空になったらこのレバーが弾倉のスプリングで押し上げられてスライドを引いたまま固定、弾倉を再装填してこのレバーを引けば初弾が膨張室に装填されて素早く射撃ができるんですね。 後ろのレバーがハンマーになっていて、引き金を引くとハンマーが薬莢の信管を叩き着火、爆発して発射…… 銃身は六条螺旋の施条式ですか」
想定外だった。 こいつ、初めて見るはずのハンドガンを物凄いスピードで理解してやがる……! 銃自体は多少知っていたらしいからマガジンを最初に抜いて安全を確認、スライドを引いてその動きが何を意味しているのか、っていうか俺の銃っていう機械って奴を見て解るスピードで使いこなしていく!
「少し見ただけでそこまでわかったのかよ……」
物を言う手間は省けてんのはいいんだが、流石に注釈一つ入れる間すら殆どねぇレベルまで行かれると、何とも言えねぇ気分だ。見た目格好との滅茶苦茶なギャップまであるしな。銃にまで尋常じゃねぇ興味を抱くに飽きたらず、その構造をいじり倒してあっさり理解するとか、信じられねぇ。
「妙ないじり方して壊すなよ。パッと見でそこまでわかるなら、心配するだけ無駄だと思うが」
「あはっ、すみません、機械のことになるとつい」
まぁ、考えれば別に何か言う必要は無いわけだ。そういう風に頭を切り替えて、適当に釘を刺した後にもう一度物思いに耽ってみる。
「あ、ここに刻みの合いマークが――これが引き金とハンマーの機構で――あ、やっぱり撃針があるんですね――それにしても、部品点数が多くて繊細ですね、だから鉄と油の臭いが出ちゃうんですねっ」
「……マジで大丈夫か不安になってきた」
さっき止めておいた方が良かったかもしれんな…… まさかこの着飾った人形みたいな奴が、こんなスピードで銃をバラすとかまでやっちまうなんて思ってもみなかった。 もう一度振り返った時には…… 俺の銃は完全に分解され尽されてた。 工具使わないとバラせないところまで完全に外されてテーブルに並べられ、何故か艶が出るくらい磨き上げられて…… 新手の手品か?
「お前、戻すこと考えてんだろうな……」
「――組み立ても面白そうですねっ、では、これから組み立ててみますかっ!」
ふと不安の原因になっていたことを実際に口にして見たんだが、夢中になりすぎて何も考えてなかった。 絶対そんな顔で俺を見た…… そして間を置いてまたお花畑な笑顔に戻って、俺を不安にさせる一言を言い放ったんだ……
グレイス・アダム・ヴェリア、こいつがヤバいってことは覚えておこう。
しかし、一つでも話題が合う奴だということは…… いや、また嫌な勘が働いてきた。やめとくか。
第九十四話 終 To be continued…
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大丈夫でーす!
確認するだけなのに、いつも楽しく読ませて頂いております(笑)
そろそろこっちも何か書き始めないとなぁ...。
近々、ストテラにうp予定です!
ナルガさんこんばんは~
書いている側としては嬉しい反応ですね
これからもそういう話をかけるように頑張ります♪
ナルガさんの小説も楽しみにしていますね、アーマードコアもやりつつ…(オイ
こんにちは、NIGHTMAREです。久しぶりに確認していただきたい話が出来上がりましたので参りました。
今回の部分はエインが主軸となる話になっております。期待しているものとは異なる内容とは思いますが、是非とも確認をお願いします。
二話分あるのでよろしくお願いしますね(^-^)
=C rimson Blaze=
第百一話 魔術師は現の隠者となりて
事は二大老、アベル・テルミナートル執務室から始まった。
一つの立体映像が立ち上がり、各所の詳細情報が表示されていくのだが、点々と隠れた砲台が存在するのと、何らかの人工構造物らしき不確定情報が映されるのみ。天然の視界効果と自然現象による磁気などにより巧妙に拠点そのものが隠されているのだ。だが、最近の起現力の発生数がここに集中していること、そして他のめぼしい拠点は制圧が完了したかさしたる脅威を示していない為、こちらに最も戦力が集まっていると断定するのは容易であった。
「アベル殿、多すぎると思いませんか?」
「ああ。そもそも、当初からクルセイドは起現者の総力が最初から異常なほど多い」
マキからのある指摘に、アベルは訝しげに答えながら、両手を後ろに組んで踵を返す。今の指摘はこの場所での推定できる起現者の数のことだったようだが、彼はそれ以上の事も思考し、それに必要な材料を記憶から取得していく。
「彼らが現れる前の、“起現者”の総数。確定ではないがそれに限りなく近いとされた情報を公開しよう」
アベルが過去、現在における己が手中に収めた状況を纏め上げて思索した後、マキに向き直って立体映像を片手で軽く操作する。すると、現情報の上に比率グラフのようなものが表示されるが、絞りきられるほどに纏め上げられたことが窺える極めて簡素であるものである。中には、ギルドウォリアーやPHADUO龍軍部に所属する者、判明はしたが所属を辞退し、要観察の対象者となっている者、そしてまだ発見されていないとされている者が表されており、その調査規模は世界規模であった。ここからクルセイドに一切含まれて居ない龍の数を除外し、更なる絞込みをかけた結果、そこにあったのは戦線に立つものにとって信じられない結果であった。
その総数は人類種全体とモンスター含め推定二百に届かない程度な上に、過半数がギルドウォリアーに所属しているというものである。
「クルセイド勢力は戦場の殆どに起現者、あるいはそれらのカテゴリーに位置する反応が検知されています。 同勢力から検知された反応とこれまでの戦績を見るに、戦力の質の差は歴然であると、私は思います」
アベルの提示したグラフや数字を確認したマキは、数回頷いた後に、これまでの敵勢力と認識されたエネルギー反応の累積を見て、これを全て起現者と仮定した上で戦力、特に質の差は油断ならないと反すのだった。
過去に渡る起現者の総数と現状の敵勢力の総数を比較し、それをPHADUO戦力と比較、これまで倒してきた起現者を数から外したとしても現状の敵予想戦力の方がまだ上回っているであろう事が伺える。
「そもそも、だ。一転攻勢に入る前、こちら側は平均的な起現者の能力差と、ガルドの采配…… これら要素によって戦力をほぼ損耗しないまま撃破には成功していた。つまりスコアレースではほぼ一方的だったわけだ。にもかかわらず何故反撃が出来なかったか? その度に起現者のみを出し、脅威となる数で波状攻撃を続けてきたからだ」
これを見たまえ、とアベルはマキに促しながら彼女に立体モニターの映像を転送する。そこには、彼女が赴任する前にギルドウォリアーが交戦・撃破した敵の総数が示されている。この時点でギルドウォリアーの全保有戦力の数倍という常識外れの数であり、亀のように身を固めるしかなかった様子がマキには簡単に想像する事ができた。このことから、アベルは最初からクルセイドの起現者の数と扱い方に疑問を持っており、今までつねに思索を続けて来た事が明らかとなる。
「情報で見た限り、敵は戦術で言うところの陽動作戦を行い、通常戦力の消耗を抑えるため囮となる特殊な戦力、起現者を使い捨てています。 こちらの起現者は兵器で言うところの戦術クラス、それによる戦略的影響力を鑑みて丁重な扱い、敵は近いクラスの者を尖兵として惜しみなく使い、戦線を維持しない程に戦力を温存させています、それも通常戦力の方を大事にしているようにさえ見える……」
マキはアベルの話と情報を総合して頬杖を付きながら首を傾げる。 そして全体的に視点を広く見てから素直な感想を述べる、実際にクルセイドは重要な起現者をまるで掃いて捨てるように戦線へ送り込んでいる、逆にこちら側は尖兵を各個撃破する形で最小限の人数を向かわせている、この結果として敵の通常戦力を掃討戦に入る頃にやっとのところで特定できた。 それほどに起現者を前面に押し出した作戦を取っているという事になるのだが、それは戦略的に考えてみると、こちらと敵の方針は逆になっていると見える。 敵は通常戦力を大事に、起現者の存在を前提とした作戦案、逆にこちら側は起現者の存在を隠し、通常戦力とは完全に独立した通常戦闘基本の思想。 これは“起現者”の位置付けが逆で、クルセイドはその位置が尖兵という消耗を前提にした作戦から、数が無ければ使えない策なのだ。
「こちらからすれば、戦力の影響面で見れば大量生産できない戦略核を超える兵器を大量投入しているような、実に馬鹿げた発想だ。まるで子供の遊びのようにな。……そして、当初から現在までの結果から、私は三つの疑念を抱いた」
アベルはクルセイドの動き方に、肩まで手を挙げてから盛大にため息を付き、首を横に振っていた。敵に軍師というものが居るなら、あからさまに馬鹿にするように。しかし、全てが馬鹿な行動ではない事を見抜いていた彼は次の話題に移り、親指から指を立てていく。
「まず一つ、敵に元ギルドウォリアーがいること。これはガルドやジェノス中佐の交戦記録で確認された。そして二つ、敵はこちらに対して時間稼ぎを行い、何らかの目的を遂行しようとしている事。これもジェノス中佐が交戦した敵が仄めかす発言をした上に、一度は謎の手段で保護されたことから確定だろう。……目的までは知らんがな」
最初からこちらを押し留めて下手に動かせない状況を作る数を、巧妙に送ってきた手口から、一つ目の疑念を説明する。次に人差し指を立て、何故こちらを目の仇にした割にはわざわざ動けないようにするのみに留めたか、という点から二つ目の疑念を話していた。と、真面目に話していたかと思うと最後の言葉だけは飄々としたような軽い口調で、ジョークのように流してしまう。
「そして三つ目だが…… 敵には起現力を“創り出す”輩がいること。だがこれについては、フェイ様以外にそんなイカれてるバケモノがいてたまるかと言いたくなって来るんだがな」
そして、最後の疑念も同じような調子で語っていくのだった。あまりにも現実的ではないものであったために、出来ればこれまでは当たって欲しくないという考えの裏返しだろう。因みにフェイの名前が出たのはうっかりでは無い。この状況と言葉の流れならば問題ないはずだと意識してのことである。
「……では実際に、中身の分からない玉手箱を開けて、事実を見たいとは思いませんか? 玉手箱という程対価は大きくありませんよ」
フェイの名前が出て動じる他無いマキだが、ここでは例え話であるが故にため息一つで落ち着く事が出来た。 そしてここから本題に入っていくように立体映像を操作し、件の隠蔽された基地への作戦を提示する。
「潜入、囮捜査の類で基地へ潜入する策です。 運良くあちらのスパイを拾ったので、彼に取引としてこちらの情報をある程度提供します。そして基地の情報と身の安全を引き換えにして、潜入作戦の骨子を立てていきたいところなのですが……」
基地の情報を入手するために敵のスパイを捕まえた、とのことだが、スパイの情報は殆ど伏せられている。 そして作戦に就く人員はエインただ一人であり、兵員の動きが殆ど無いハイリターンだが、こちらの情報をわざとリークさせなければ成功は難しいというリスクを背負っていた。 マキは最初から裏工作の話をするためにアベルを訪ねたのだ。
「ああなるほど、その件か。大方目星は付いていたから、すぐに手筈を整えよう。上手くやれよ」
多くをベールに覆われたこの話題が出た瞬間、アベルの口元の端が釣りあがり、マキとの奇妙な波長の一致が起きる。彼にとっては想像できた事であるようで、マキの切り出し方にしては随分とあっさりした返答である。それどころか後押しさえする始末、もしかすると二人は余程相性が良いのかもしれない。
「許可さえ頂ければ、彼が上手くやってくれるでしょう。 何せ彼の力は起現力ではなく“魔法”ですからっ」
「あ? 人を万屋みてぇに言ってんじゃねぇぞ」
アベルの許可が確信できていたマキは不敵な笑みで彼、エインの入室を許可して紹介する。 そうすると、エインは明らかに扱いに不満そうな荒げ気味な口調で部屋に入ってきて、今にも噛み付きそうな犬のようにマキを睨みつけている。無礼もへったくれもあったものではない。
だが、エインはそんなマキに逆らうことができず、彼女がアベルと話していたときに考案していたであろう任務を命令という名の圧力で押し付けられていた。事実、いくらか時が経った頃のエインはあの二人が話しているときに立体映像で映されていた場所に身をおいている状況にあった。
「――随分とあっさりたどり着けたもんだ。さて、始めるとするか」
初めてジェノス達と任務を共にしてからというもの、エインはマキの管轄下に置かれてからその多くの時間を諜報・破壊工作員などといった、まさに特殊部隊の一員同然の扱いを良くも悪くも受けて費やしていた。身体能力こそ、この世界の水準としては一般兵(元の世界の約三倍)に辛うじて到達したレベルであるが、ガルドが睨んだ通りの実戦経験と機動装甲を難なく扱うセンス、強大な異能の力を伴った特化型の総合力がガルド達の思惑通りに働き、今では多くの任務を成功させている。
攻略・制圧部隊に先立った拠点や基地へ潜入しての諜報活動、作戦に応じてその助けとなる施設破壊や、弾薬庫などの爆破。いかに厳しい状況でも起現者関連の偵察をこなしている。ジェノスらと同行しての狙撃支援以外にもこのような活躍を見せているあたり、元々あった実力を過酷な状況下でさらに磨いているようだ。
今回の任務も以前までと同様の潜入任務だが、拠点の詳細が特に明らかではない関係から少々事情が異なっている。ここに来るまでの間、エインはマキに同行するよう指示された人物と行動を共にしており、その者から案内や巧妙な根回しといった協力を受けてたどり着いている。さらに機動装甲の上から敵兵が使っている装備を着込んでおり、ある程度堂々と歩けるようにカモフラージュしているため、普段以上に潜入行動が楽になるように。今回の目標となる場所が特殊であるゆえに、事前準備をより万端にして任務に臨むことになったといえよう。
「さて、……っ! これは結構な数がいやがる。自然かつ慎重に、か」
エインは施設内に入る前に、一旦“時間停止”の力を使う。これは時間停止そのものを使う用法ではなく、範囲に入れた際に強い抵抗力による反動から起現者の位置と数を割り出すという、いわば起現者の“索敵”を行う為に使っている。
これ自体が起現者の数と配置という情報を入手する行為ではあるが、エインからすると身の安全を確保しやすくする目的が強い。流石に単独で遭遇してしまうと、いかにエインといえど捕捉されれば撤退さえ困難になる。彼らは洞察力も人外であるため、近づくこと自体が潜入行動においてはタブーといえるので、今入手した情報はエインの今後の行動の指標にもなる。
「普段ならこんなことは性に合わないが、そうも言ってられねぇ。……とか言ってるうちに妙な方向性に鍛えられたもんだ」
施設内への潜入を開始したエインは敵兵のフリをしつつ、前の世界での戦闘スタイルやこの世界に来てから今までのことを思い返しながらつぶやいていた。普段なら堂々と正面から大立ち回りをするのが彼の好むスタイルだったようだが、相手にする者の平均的な能力が跳ね上がっているこの場所ではそういうわけには行かず、ここに来てからはそれとはまるで逆の行動が大半を占めている。
それは、彼にとって今までに無い技術の獲得を助けている。根本的に気配を消す能力の向上や潜入技術の獲得、彼の異能である魔術や能力の応用性が増し、戦術に幅広い柔軟性を持たせることができるようになった。以上のことから直接戦闘の選択肢も増え、多数を相手に派手な立ち回りをするだけでなく、今では一つ一つの相手を掻い潜りつつスマートかつ確実に各個撃破していくといった戦法をも扱う。マキに課された試練は大きな経験となって結実しているのは間違いなく、今の彼ならある程度の力の差など、今も鍛え続けられている技量で覆しうるだろう。
それが元の世界で大きく役立つようになる…… というのはまた別の話である。
「それにしても、やっぱ未来臭がすげぇな、っと」
エインがゆっくりと歩く廊下は地下であることもあり、内装は窓さえ存在しない、まさに殺風景という言葉が似合うほど無機質なものだ。しかしエインからすると文明の差が激しすぎるため、単純に洗練された雰囲気が形容し難い未来的な印象をもたらす。視線だけを向けて文字通り目移りしているが、完全には集中力を途切れさせてはおらず、奥から来る兵士の姿をしっかりと捉えている。
「ん? このあたりの巡回は俺だけのはずだが」
「他所から流れてきた負け組ってヤツさ、といえばわかるだろ?」
外に続く廊下から人が歩いてきたことに不思議そうな表情を見せた兵士は、案の定エインに声をかけてきた。しかし、エインはすでにこの手の潜入も訓練と実戦を何度も経て慣れている。戸惑う様子を欠片ほども見せずに応対してみせていた。
「あぁ、あの人が言ってた奴か。司令なら奥だ、案内は要るか?」
「いや、見取り図があればいい。下見もしておきたいしな」
早速根回しの効果が現れる。エインは制圧されたほかの基地からここに配属された者として扱われており、自然な流れでこの場をパスしていくのだった。それだけでなく、この基地の見取り図のデータもあっさりと入手していく。
「最近はPHADUO加盟国、ぶっちゃけ世界中から名を上げるための当て馬にされちまってるからな」
「クルセイドも、流石に終わりかも知れねぇな」
「ヘクス・ブレイン・フォートレスが潰されたのもまずかったんじゃね?」
「あぁ、タコウィンナーにされたやつか」
各エリアの境を見張っている警備兵も軽くやり過ごしていくエイン。次々とすんなり歩を進めていくが、これには今まで語ったこと以外にも理由はある。現状、クルセイドは今の警備兵が言っていた通り国際的なテロリスト扱いであり、今では世界を敵に回した挙句に連戦連敗を続けている。いくら起現者を多数擁するクルセイドでも通常戦力まで特別強大であるわけではない以上、局地的には対処できても大局的には押しつぶされているも同然。
それが原因で凄まじい勢いで軍事力を急速に失っており、敗残兵も残った基地に次々と流れていっている現状がある。あまりの流れの激しさに、この問題に対処できていないため、軍備の再編もままならず、組織の動きが精彩を欠いてしまっているのだ。これでは余程決定的な行動を取らない限り、余計にエインを侵入者だと判断する余裕は無い。
(負け続けて、士気が大分下がってるな。これなら連中も、ちっとは楽に戦えるか)
兵士達の目をすり抜けていくエインは、彼らの雰囲気をつぶさに見ながら情報を仕入れつつそれをつなぎ合わせ、クルセイドが如何な状況におかれているのかを把握していった。恐らく、通常の戦力で構成されている兵士達はすでに戦えるほどの士気はあまり残っていない。実際、脱走兵まで少なからずいるという話さえある。しかし、起現者などの強者はこういうときほど手負いの猛獣となりうると、エインは思考を巡らせている。
(さて、そろそろセキュリティがかかってきやがる。仮の打ち合わせの案内役とか、基地司令からパクるのはリスキーだからな、誰かほかのヤツを――)
さて、奥に行けば何らかの、より高度な認証が必要になってくるものである。入手した見取り図を見てそのエリアを確かめながら歩き回っていると、ちょうど良く士官らしい身なりの整った者がトイレに入っていくのが視界に映る。
「あいつは…… へっ、ちょうどいいぜ」
第百一話 終 To be continued…
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=C rimson Blaze=
第百二話 要の知と識を開示する
相手はエインをよく見ていなかったが、逆にエインは風貌までしっかり記憶に落とし、自分が得ている情報と示し合わせていた。今現れていたのは流れ着いたばかりの人間、しかしその位は高く、確保できれば比較的見返りの大きい相手だ。
「いただく……!」
エインはすぐに周囲の目を確かめ、すぐさま身のこなしを変化させると、まるで豹のように瞬発力のある、それでいて静かな動きで素早く中に入り、士官の背面を取る。そして、懐に忍ばせていた何かを彼に向け――
「……っ!」
「はいおやすみ、と」
――引き金を引いた。何も知らず銃撃を受けた士官は成す術も無く、全身から力を失って床に倒れ伏す。彼が向けていたのは拳銃と呼ぶには大きく、サブマシンガン…… 短機関銃と呼ぶにもやや小さめで拳銃に近いスタイルの銃。試験運用も兼ねて彼のために作られたそれは、“L-PDW”と呼ばれていた。それが意味するのは軽量型・個人防衛火器で、マシンガンのようにフルオートで連射できる拳銃、マシンピストルよりも高い威力と射程を、それと同様に扱うことができるところから来ている。
弾薬が強力になれば反動が大きくなるのが自然なことだが、なぜそのように扱えるのか、その秘密は弾丸を放つ銃身の位置にあった。普通に構えて撃つ場合、銃身の位置は持つ場所(グリップ)より上になり、腕より上にずれた位置になる。そのため、銃は撃つ度に反動で上に跳ねるのだ。
「相変わらず扱いやすいなこいつは」
だが、L-PDWは銃身の軸線にグリップが並び、拳の先から銃身が伸びるような形になる。真っ直ぐに持てば自然と腕と銃身の軸が同じ位置になるのだ。こうすると反動は腕に向かってまっすぐ向かうため吸収しやすく、特定の箇所に跳ねることも押さえられるので、単発、連発問わず安定した銃撃を行うことができる。このような構造の銃は一世紀以上に渡って洗練され続けられており、彼が持つのは最新型の一種。拳銃をはるかに上回る威力・射程・精度・連射性能を拳銃のように扱える強力な火器だ。総弾数は扱う弾薬によるが平均四十発から五十発で、それが詰まった弾倉は寝かせた形で銃身の上に装填される。
「カードキー確保、指紋・網膜情報取得、こんなもんか」
「……zzz」
今回、その弾倉には麻酔弾が使用されており、直撃した対象に束の間の眠りをもたらしていた。この方が、殺傷するよりも異変と判断されるリスクを抑えられる、それ故の選択。その間に、しめしめとエインは横たわった彼の持ち物を調べて、セキュリティを突破するための物と情報を取得していく。用が済めば、自らの足跡をより隠蔽するため、適当な個室の中に座らせてから閉じ込め、何事も無かったかのようにその場を後にした。
「ん? お前、何でここにいる」
(さすがにごまかしが聞く場所じゃねぇ。後ろにも一人、か)
しかし、さすがに相手の兵士の姿をしているとは言っても、配置や構造の問題で全てをパスできるとは限らない。他の兵士がいること自体が不自然な場所に踏み入れれば怪しまれるのは必定。
「ふっ――」
「なっ」
「お……!」
新たに手に入れた情報から、より詳細な情報を手に入れていたため、エインはそのような箇所も把握している。承知で乗り込んだ彼はすぐさま前の兵士のわき腹を掠めるように懐に飛び込み、後ろに回りこみながら後ろにいた兵士を左手のL-PDWで銃撃……! と思えば、同時に回り込んだ対象の兵士もゆっくりと倒れていく。
「コッレクティオ(改装)、ソムヌス(睡眠)…… 仲良くねんねしてな」
同時に、もう一つの銃をエインは懐から引き出していた。右手にあるこちらは彼が元の世界から持ち込んでいた正真正銘の拳銃“Cz75”である。こちらは銃身の先にサイレンサーを装着して音を消しただけで、弾薬は変わっていないはずだが、なぜかどちらも普通に眠っており、この銃から放たれた弾丸は相手に触れた後にすぐ下に転がっている。これは、彼が魔術により殺傷効果を消滅させて麻酔効果を付与したためだ。起現力とは異なるこの力によって、エインはガルドやマキから重用されているのである。
「さて、こいつらはこんなところでいいか」
この調子でエインは必要な相手を眠らせていき、足がつかないよう対処していくわけだが、たまに彼の遊び心がここで出てしまうことがある。普通ならどこかの部屋に適当に隠しておいたり、サボって寝ているように見せかけるが、他の者があまり寄り付かない、影響の薄い場所では、眠らせた相手をロッカーに幽閉したり、ダンボールをかぶせて荷物と紛れ込ませてしまったりと面白い目に遭わせてしまう。無論やられた相手からすれば脱出に苦労したり恥をかいたりと散々なことになる。
そんなこんなで、順調に潜入任務をこなしていくのだが……
「なんか見覚えのあるデータばかりだな…… やっぱり、該当データばっかだ。簡単にシステムに侵入できる時点で怪しかったが、ここ自体はそれほど重要じゃないのか?」
幾人の兵士達を眠りに誘った後、エインは各所の情報集積施設を手当たり次第に漁っていた。だが、さしたる収穫は無いようでエインの表情はどこか不満げである。起現者が最も集まっていると目されている場所のはずがこの手ごたえ、施設の重要度としては空振り感を強く受けている。
「ここは陽動だってのか? いや、情報網の形態も含めて、連中の基地の位置情報からして考えにくい…… いや、そこは俺の考えるところじゃねぇな」
あまりにも肩透かし過ぎて逆に怪しく思えてきていたエインだが、とにかくここでできることは完了したと判断し、作戦の最終段階へと移る。すぐにその場を後にし、自然に、かつ速やかに上へと向かっていった。
「クソッ、俺にこんなことをしたのは誰だ!? 誰か出してくれ!」
「お前、何でダンボールに隠れてんだ」
「んぉ…… おお!?」
エインが移動を続けていく中、一部のものは目が覚めたようで、それが小さな騒ぎを起こしていた。身に覚えの無いサボりを叱咤されるもの、内側から開かないロッカーで喚くもの、置かれた状況が原因で恥さらしに遭うもの…… 一部では侵入者の疑惑を挙げているものもいるが、そういう点では大きな騒ぎになっていなかった。
「さて、最後の仕上げだな。ファラゴラ(爆発)」
無事に外に出たエインは、施設に背を向けたまま歩きながら、得意気な笑みを浮かべて何かをつぶやく。途端に地響きのような音が連続で轟き、かすかに大地を揺らしていた。情報収集をするために各所を回ると同時に、弾薬庫を中心に護符を貼り付けておいてあり、これを爆薬代わりにして施設内の武装や連絡網などを爆破したのである。大体、エインは必要な場合のみ潜入の締めにこの手を使っているが、今回の相手はただでさえ事態が錯綜しているため、更なる混乱は回避できないだろう。
「よし、じゃあ――」
「じゃあ? 次はどうするつもり」
施設内の爆破工作も完了、次の行動に移ろうとしたその時だ。突然女性らしき声が、エインの背後から聴覚を冷たく突き刺す。初めてクレイズたちと戦ったときと同じような、途端に周囲の景色が遅くなるような感覚を覚えながら、エインが恐る恐る視線を向けていくと、そこにはエインな身の背丈と、羽衣を纏う和装が特徴的な女性がいた。しかし、猫のような目と耳、毛に覆われた手を見る限り……
(あの姿は、“ボレアス”!? 俺の手に負えるヤツじゃねぇ……!!)
「妙な手品を使うけど、それも終わり。はじめまして、そしてさようなら」
一瞬だけ時間を止めてわずかに距離を離すエインだったが、すでに能力の負荷は限界まで来ていた。それを見越していた相手、チェフィは刃の見えない剣を抜いて戦闘体勢に入っていた。
(クソッ、どうする、どうすれば――)
時の流れを遅くしたエインは、この中でどうすべきかを考えていた…… だが、実状ではチェフィに遭った時点でほとんど“詰み”に近く、エインも持っている情報から知り得るチェフィの戦闘能力でそれを悟っていた。もはや奇跡でも待つしかないのか、そう考えたとき。
いきなり二人の間を飛竜らしき影が尋常ではない速度で通り抜けてきて、それ自体が周囲に突風を巻き起こした。しかし、問題はその後である。
「“逃れ得ぬ死の宿命(グングニル)”!!」
「きゃあ!?」
「うぉぉ!!」
猛々しい叫び声が聞こえてきたと思えば、その飛竜らしきものの背後から瞬時に巨大な“光の槍”が飛び込み、辺りを空間ごと揺るがすような衝撃と閃光で掌握する!! 直撃した飛竜は肉の一片すら残らず、周囲の空気や大地と共に巨大な光となって、盛大に砕け散る……!!
「……くっ、逃がした。あと少しだったのに」
「すまんな、異常個体に逃げ込まれた上、手が滑った」
「普通、手と一緒に口も滑るかしら、ウォーダン?」
選考が晴れたその時には、既にチェフィが捉えていたはずのエインの姿は既になかった。先ほどの現象に巻き込まれていないのは気配で理解していたので、何らかの手段で脱出に成功したのだろうと推測する。代わりに姿を現したのは白麒に跨ったウォーダンで、先ほどの攻撃を見舞ったのは彼であるようだ。チェフィからすれば非常に悪いタイミングでの出来事で、ウォーダンを睨み付けていたが、彼は外見に似合わずひらひらとチェフィの追及をかわしていくのだった。
「てなわけで、起現者の数は恐らく十と少し。うちアネモイ級が二つ。普通の兵のやる気もだいぶ磨り減ってたし、そこら辺を投降させるのは楽だろうよ」
潜入作戦から命辛々舞い戻ってきたエインは、いつもの如く礼儀も何もない態度で、しかし重要な点から内容を伝えていくのだった。両手を頭の後ろに組みながら、正面の卓に足を乗せており、行儀すらお世辞にもいいとは言えない。
ちなみにその場所は二大老であるアベルの執務室であり、当然アベル本人も居るわけで、いわばミナガルデの首長、即ち国際連合の元首に足を向けているのである。
「……空振りですね」
「らしいな。微妙に無視出来んのは中々のやり口だが」
それを完全無視している二人は、エインの機動装甲で録画された映像と分析資料を前にして、清々しいほどあっさりと失敗であると結論付ける。 だが、全てが的外れでもないために、真剣な面持ちで次の判断に思考を巡らせる。 この二人はエインの苦労を全く考慮していないのは、半ば彼の態度へのお返しと言える。
「で、帰っていいか?」
二人の態度で、最早己の役目がないと悟ったエインは、天井に向いていた顔をマキに向けて、投げやりに退室許可を求める。どうせこの連中はこんなヤツだと心の中で思っている彼は、慣れていると言うより最初からそういう人格だと認識しているようだ。
「ん? ああ、任務そのものは成功しているので構いません、報酬は帰還した時点で送金しているので、理容店にでも行って身なりを整えてみては?」
マキとしても既にエインが眼中に無かったらしく、今気付いたとばかりに彼を見て少し思考が停止する。 そしてようやく言葉の意味を知って頷いて許可を下すが、一瞬だけアベルと姿を見比べてから、苦笑しつつ理容店に行くことを推奨する。 それだけにエインの髪が乱れている事を物語っている。
「ヘイヘイ、いつもボサボサですんませんね。……面倒くせぇ」
マキの言葉を半分聞き流すようにしながら足を下ろし、両膝に手を当てて立ち上がる所作は、いかにもここに居るのが面倒というのを物語っている。更には理容店の話も適当に返す形で遠まわしに蹴り飛ばしながら、出口に向かってまっしぐら。彼は身なりには割りと気を使っているが、髪は伸びすぎたときに切るくらいにしか考えていないので、最初から興味などないのであった。
第百二話 終 To be continued…
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NIGHTMAREさん
お久しぶりですw
いやあ、なんかもう。凄いw とにかく情景描写凄いw
しかも、メタギアめいた潜入方法www
内容としては大丈夫です。問題ありません。
あ、あと、ストテラでまた連載を始めようとプロット作成中。各話の箱書きまで進行しています。
もしよろしければ、また昔のように批評をしていただけないでしょうか?
最近はエースコンバットで空を飛んでいるNIGHTMAREです。お久しぶりです~
確認を確認いたしました。やっぱり気づきましたね~ メタルなギアっぽい雰囲気はわりと意識して描写してましたw
こちらではまさに諜報・工作員が板に付いてきてますw エインの新装備、そして戦術や魔術の開拓が進んでおりますが、いかがでしょう? そちら側で力に慢心した相手(以前出てたもう一人の自分みたいな相手とか?)に鍛え抜かれた技量で勝利する展開も見てみたいですねぇ(^^)
描写の幅が増えたエインを、生みの親であるナルガさんにぜひ使いこなしていただきたいm(__)m
以前にやったことがあるのはどちらかというと監修のような気がw 堅苦しいのは苦手なのでそのあたりご容赦いただければ喜んで(^-^)/
それでは、また近いうち確認の依頼をすると思いますのでそのときによろしくお願いしますね(^.^/~~~
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