青葉 2012-01-06 22:03:27 |
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青葉:本当にピンチだ。
木山:ナイトメアは微笑しながら、こう言った。
せっかく、あたしと話をしてくれる気になったんでしょう。何で行っちゃうの?
俺は小さな声で答える。
用事があるから……家に帰らないと……。
俺は、諦めずに逃げようとしていたんだ。
青葉:君らしい。
木山:そこから、俺とナイトメアの会話がしばらく続く。
青葉:うん。
木山:ナイトメアが、
あなた、あたしが何者か解っているのね。だから、そんな顔をしてるのね。あたしが怖いんでしょう?
と問う。よほど俺の顔は強ばっていたんだろうな。それには答えず、俺は
もう帰らないと……。伯母さんとお母さんに怒られるから……。
と言った。すると、ナイトメアは、
怖いのね。でも、今は心配しなくて大丈夫よ。あたしはね、人の中に入っていない時は狩りをしないの。入ってない時に殺しても命をエネルギーには出来ないから無意味なのよ。だから殺すのは人の中に入っている間よ。それにね、起きている人の中には入れないの。
と、訊いてもいないこと話し出した。
青葉:でも、話してくれたおかげでナイトメアの特質が解るね。それに、現状は思ったよりピンチじゃないことも。少し安心出来る。
木山:そうだな。ナイトメアは、さらに訊いてないことを言い続ける。
それに、もうこの国で狩はしないわ。他の土地に行くの。故郷には帰らないけど……違うわね、帰れないけど。
青葉:帰れない?
木山:そう言った。
青葉:理由は?
木山:その理由が最初の鐘の音に繋がるんだ。
それをナイトメアは喋り始めた。
青葉:あの、事件の始まりの鐘の音だね。存在しない鐘が山に鳴り響いた。
木山:そう。鳴ると人が命が消える鐘の音。
青葉:その鐘の音と、ナイトメアが故郷に帰れない理由の関係は?話が先に行けば解るんだろうけど。
木山:そういうことだな。ナイトメアと俺の会話に話を戻そう。
ナイトメアは俺に安心するように言ったけど、俺はまだ怯えていた。その様子を感じ取ってナイトメアは言った。
本当に怖がらなくていいのよ。あなたを狩るつもりなんてないんだから。
本当に人間は臆病ね……。人間はあたし達よりずっと強いのに。
少し呆れた顔をしてかもしれない。
俺は、
人間の方が強いの?
とビックリして訊いた。
そうよ。あたしが故郷から逃げてきたのは、人に追われたからなんだから。
と、ナイトメアが答える。
魔物が人から逃げるの?嘘だ。
魔物が人間より強いなんて聞いたことがなかったから、俺は信じなかった。
それに対してナイトメアは、
嘘じゃないわよ。あたし達ナイトメアは故郷では、悪魔とも呼ばれているけど、あたしは「悪魔祓い」という、人間から逃げて来たのよ。
と苦々しい表情で言った。
青葉:悪魔祓い?エクソシストのこと?
木山:そうは言ってなかったけど、そうかもしれない。その時の俺は、エクソシストの存在を知らなかったから訊くことはしなかった。それで、
なんで人間より強い悪魔の方が逃げるの?悪魔祓いってそんなに強いの?空手家やボクサーよりも?
そんなことを訊いた。
言っておくけど、悪魔や悪魔祓いと、空手家やボクサーの強さの質が違うことは当時の俺でも概ね解っていた。ずれた質問をしていると自分でも思ったんだけど、小学生だったからな。
青葉:適切な例えがみつからなかったんだね。
それで、ナイトメアは何と?
木山:ナイトメアは、彼女なりに丁寧に説明してくれた。
殴り合いのケンカをしたら、悪魔祓いは空手家やボクサーに負けるでしょうね。でも、あたしが狩りを始めたら、空手家もボクサーも命はないわ。だけど、そのあたしを悪魔祓いは殺すことができるの。
こんな感じで。
でも俺は解らなくて、つまり誰が一番強いのか、を訊いた。
ナイトメアは、
あたしが一番怖いのは悪魔祓いよ。そして、あたし達悪魔は人間には絶対かなわない。
と、悪魔より人間の方が強いことを再度言った。
だから、
悪魔の方が強いと思うけど……。
と俺は、口ごもりながら短く反論した。
ナイトメアが自信満々に悪魔は弱いと主張するから言いづらかったが、どう考えても悪魔の方が人間より強いと思えたんだ。
青葉:実際、そう言っているナイトメア本人が過去に山村で人間5人の命を簡単に奪っているんだからね。
木山:そうなんだよ。実績があるんだからな。
でも、ナイトメアは納得していない俺の態度にため息をつき、
あたしは人間のせいで故郷を捨てざるえなくなっというのに……人間に……悪魔祓いに追い回されて殺されそうな目に何度も遭ったというのに……人間は被害者づらするのよね。勝手なものなのよ、人間て。
と、俺を咎めるような口調になっていた。
じゃあ、僕の方が強いの?
俺はそう訊いてみた。俺は、連続殺人をした悪魔を前にして、命の危険を感じて怖がっているのに、犯人であるナイトメアから、被害者づらしている、と非難された。ナイトメアの言う通り、俺に怖がる必要がないのならば、ナイトメアより俺の方が強いということしかないと思った。
青葉:間違ってない考えだと思う。
木山:ナイトメアは、
あたしより、あなたの方が強いかって訊いてるの?
と言って、そして可笑しそうに笑ったんだ。それまでに微笑は見せたけど、表情が大きく変わったのは初めてだった。しばらく笑った後、ナイトメアはこう言った。
なるほどね。あたし、自分勝手なことを言ったわ。
あたしの息の根を止められるのは、人間でも悪魔祓いだけね。あなたは悪魔祓いではないから、命のやり取りをしたら絶対あたしに勝てないわよ。
だから、勝手なのはあたしも同じね。あなたが怖がるのは正当なことだわ。
でも、あたしは本当にあなたを狩るつもりがないから危険はないわ。
あたし、子供に諭されちゃったのね。
とな。俺は、諭したつもりなんか無かったけど。
青葉:悪魔も反省するんだ。
木山:すぐに俺は、悪魔祓いについて訊いた。そんなに強いのか、ということを。
ナイトメアは、
悪魔とは、あたし達ナイトメアだけでなく、いろいろな悪魔がいるんだけど、あたしよりずっと上級で強力な悪魔でも、みんな悪魔祓いに勝てないの。それはつまり、悪魔は人間に勝てないということよ。
と自分達の不利を自嘲しながら説明した。
悪魔祓いって凄いんだね。
と、俺は心の中で悪魔祓いを称えながら、そう言っていた。
俺にとって悪魔祓いは、恐怖のナイトメアが恐れる存在で、悪魔と闘う正義の味方だからな。
その様子がナイトメアは面白くなかったらしい。
あのね、悪魔祓いだって無敵じゃないのよ。それどころか、悪魔に負けた悪魔祓いもたくさんいる。あたしに狩られた悪魔祓いだっているのよ。
少しムキになって、そう言った。
俺は、ナイトメアの言葉に間髪入れずに反応する。
え!悪魔祓いを殺したことがあるの?
俺の悪魔祓いへの羨望の気持ちが崩れていった。
ナイトメアは、
ええ、あるわ。しかも、結構な数をね。
と今度は満足そうに言った。俺がガッカリしたのが解ったんだろうな。そして、続けて話す。
あたしはね、多数の悪魔祓いを狩ったわ。悪魔祓いが嫌いだったから、奴等を狙って狩ったの。でも、お陰で目だってしまって、あたしが悪魔祓いから狙われるようになってしまったのよ。でも、その頃は悪魔祓いに連戦連勝。狙われたって負けなかった。あたしを狙って近づいてきた悪魔祓い中に入り込んで、そいつの夢の中で狩りを始めてしまえば、それで勝負あり。あたしの勝ち……。でもね、悪魔祓いも、悪魔と同じでランクがあるのね。手強い悪魔がいて、仲間が殉職しているということで、上級の悪魔祓いがあたしの故郷に派遣されたのよ。
そして、あたしは、その悪魔祓いに負けた。
と、悔しそうに言った。
青葉:ナイトメアは結構、感情豊かだね。ナイトメアは上級の悪魔祓いと、どう闘って、どう負けたの?
木山:そこまで詳しくは話さなかった。
青葉:そう。
木山:でも、とうやら、本体が見つけられてしまたらしいな。
青葉:本体?
木山:ナイトメアは狩りをする時、精神だけ人の中に入り込むと言っただろう。その間は体は精神が離れているので動けないんだ。
青葉:無防備な本体を悪魔祓いに攻撃されたんだね。
木山:まあな。でも、本体も無防備ではないんだ。悪魔祓いだけが攻撃できるらしいな。
青葉:どういうこと?
木山:ナイトメアは、狩りをするために人の中に入り込んだ時、その周りに結界を張る。それによって誰からも狩りを邪魔されない。だけど本体は精神がないけら、動けない。
青葉:大きな弱点だよね。
木山:その弱点を補うようにナイトメアの体は出来ているんだ。
ナイトメアの体は何者も干渉出来ないようになっている。
青葉:誰もナイトメアには触れることが出来ないとか、そんな感じ?
木山:誰もというか、自然界にある全ての物質がだな。全てがナイトメアに干渉出来ない。
青葉:?
木山:ナイトメアの着ている服はひどく汚れていたと話しただろう。
青葉:うん。
木山:でも、ナイトメア自身は綺麗だった。髪は洗いたてのようだったし、顔とか腕とか素肌が出ている所も全然汚れていなかった。20年以上も精神が俺のおばあさんの中にいて、体は身動き取れなかったのに。
青葉:土や埃さえ、ナイトメアに触れることが出来ないのか。
木山:いや、触れることは出来るんだ。実際、俺はナイトメアに押されて岩に座らせられたんだから。
だから、
全ての物質はナイトメアに影響を与えることは出来ない、ということさ。
精神が抜けて無防備な状態でも何ら心配がない。だから防衛能力は高いと思う。
そして、逆にナイトメアからは何かに触れて影響を与えることが出来るんだ。便利だよな。
とにかく、ナイトメアは狩り中に本体が無防備になるという弱点を体の構造でカバーしているんだ。普通の人間には精神の抜けたナイトメアを見つけても、何も出来ない。
青葉:理解するのが難しいな。でも、全ての物質がナイトメアに影響を与えることが出来ないのならば、悪魔祓いだって手も足も出ないよね。
木山:そこを出来てしまうのが、悪魔祓いの悪魔祓いたる所以なんだよ。
青葉:う~ん。
木山:悪魔祓いには悪魔を攻撃する武器がある。
青葉:十字架?
木山:それもそうだが、ナイトメアが上級の悪魔祓いに、本体を見つけられた時は聖なる水での攻撃を受けたらしい。
青葉:聖水か。
木山:ナイトメアは狩りをしている途中だったが、本体が聖水を浴びると一気に精神が体に引き戻されたそうだ。
青葉:体が危険を察知して精神を呼び戻したのかな。
木山:そうみたいだな。それも一つの防衛能力だろう。そうでなければ消滅していた、とナイトメア自身が言ってたよ。
青葉:全ての物質がナイトメアに影響を与えることが出来ないのに、聖水は効くんだ。何でだろう。
木山:それは、そういうもんなんだよ。
青葉:どういうもんなの?
木山:だから、悪魔には聖水が効く。とか、悪魔には十字架か効く。とか、そういうもんなんだよ。決まっているんだ。そして、悪魔祓いは悪魔に干渉できることも決まっている。そのカラクリはこの話の核心をついてしまう。だから、このことは後にとっておこう。
青葉:カラクリという表現を使ったかか。何だか意味深だね。
木山:意味は深いさ。だけど、もう少しだけ後だ。
何はともあれ話を戻すよ。
ナイトメアは上級の悪魔祓いに本体を攻撃された。そして、精神が体に引き戻された。
その時のことをナイトメアは、こんなふうに話していたよ。
いきなり心が体に戻って、最初は何が起きたのか解らなかったけど、体が熱かった。熱かったのは聖水が掛かったところね。
その熱さによる痛みで、自分が危険であることが察知できたわ。そして悪魔祓いが目の前にいた。人の夢の中ならば絶対に敗けないけど、現実世界では逃げ出すしかなかったの。
とね。
青葉:聖水は熱いものなんだね。
木山:悪魔にとってはそうなんだろうな。
ナイトメアは悪魔祓いから逃れようとしたが、自分の強味を最大限に活かせる人の中にいるのと違い、逃げることすらままならなかったんだ。
青葉:人の夢の中という、最強になれるフィールドではないもんね。でも、振り切ったということだね。故郷から山村に逃げて来たんだから。
木山:そうだな。命からがら何とか逃げ切った、とナイトメア話してた。でも、命は拾ったものの鈴をつけられたでしまった、とつけ加えた。
青葉:鈴を?
木山:そう、鈴。
俺も意味が解らなくて何のことか訊いたんだ。そうしたら、
知ってるでしょう。あの鐘の音。
と忌々しそうな顔でナイトメアは言った。
俺は、
鳴ると人が死ぬという鐘の音?それなら伯母さんから聞いた。
と答えると、ナイトメアは頷いて、
そう。それよ。でも、正確には、鐘が鳴った時には既に人は死んでるわ。だって鐘は、あたしが人を食べ終り、命が尽きると鳴るんだから。
まあ、発見はどうしても後になるだろうから、鐘が鳴ると人が死ぬ様に思えるかもしれないわね。
と言った。それを聞き俺は、
それは鐘でしょう?鈴の話じゃないよね。
と訊いた。
まだその頃の俺は比喩が解らなかったんだな。
ナイトメアは、
音は鐘だけど、鈴をつけられたようなものってことよ。飼い猫と一緒でね。
食事をする度に、頭にくるほどの大きな鐘が鳴るんだから。
そして。あたしの位置が直ぐに悪魔祓いに分かってしまう。最悪よ。
と答えた。その時の俺がどう理解したのかは解らないけど、次の質問は、
鐘はどこにあるの?誰が鐘をならしるの?
だった。
青葉:いい質問だよ。答えは?
読んでくれて、ありがとう。
青葉はセイチャットで、
「目的ない潜考」
というトピを立てて小説を書いたんだけど、誰も感想をくれなかった(T-T)
で、そっちで書くモチベーションがなくなったんだよ。もう深く下に沈んでいるはず。やはり読んでくれる人がいないと続ける気力が出ないね。
気が向いた時は合いの手を入れてね。
それで続きが読めるなら
喜んでコメントしますw
創作にモチベーションって必須だよなぁと常々思う。あれは、楽しいんだけど、魂が削れる行為だと思う←
続き期待してますね!
そして「目的ない潜孝」を検索し、そっちも続きが気になってしまっている件…w
気が向いたらいつかは…←
もちろん、無理にとは言わないし言えないが…w
木山:答えは、
強いていうなら、鐘はあたしの中にあるわ。鐘を鳴らすのも強いていえば、あたしかしらね。あたしが人の命を食べれば勝手に鐘が鳴るのよ。
でもね、鐘は実在しないわ。実在するのは鐘の音だけよ。
だった。
鐘はないのに音はするの?
と続けて質問すると、
そういうものなのよ。 上級の悪魔祓いは、あたしを取り逃がして悔しかったろうけど、いつでも捕らえらることができるよう、鈴をつけることは成功していた。
上級の悪魔祓いは、有りえないことができるの。悪魔に対してだけにはね。あいつらは悪魔に鈴をつけたいと思ったら出来てしまうのよ。
と、やはり忌々しそうな顔で答えた。そして一息ついてから、こうつけ加えた。
最初あたしは、鈴をつけられたことを気づいていなかったの。だから、狩りをした後に大きな鐘の音が響いた時は本当にビックリしたわ。そして、その鐘に導かれて悪魔祓い達がやってきた。あたしに鈴をつけた悪魔祓いだけでなく、他の悪魔祓い達もよ。下級なのも上級なのもね。それからは、あたしは狩りが終わると直ぐにその場所を離れなければならなくなったの。狩がしずらくなったわ。狩が命懸けになったのよ。
それを聞いて、俺は弾んだ声を出した。
悪魔祓いって凄い!そんなこと出来るんだ!
と。
俺の悪魔祓いへの羨望が復活し、悪魔祓いは正義の味方だと思った。
俺の態度が気にくわないナイトメアは、
出来るわ。重ねて言うけど、あたし達、悪魔に対してはね。上級な悪魔祓いほど、そんな無茶苦茶なことが出来る。
と、吐き捨てるように言った。
どんな訓練すれば、そんなことできるんどろう。キツイ訓練なんだろうね。
俺は空気も読まずに、そんなこと言っていた。
大したことじゃないと思うわ。
と、ナイトメアの声は俺とは対照的で冷ややかだった。
なら、僕もできるようになる?
と、無邪気に俺は訊いた。
ナイトメアは、
あなたが、バカならば出来るようになるんじゃないかしら。
と素っ気なかった。
青葉:バカなら出来る?
周辺の人に危険を知らせるため、さらに悪魔を退治する悪魔祓いを呼び寄せるため、一石二鳥を考えた鐘の音。しかも、その鐘は実在しない。実在しない鐘を悪魔の中に存在させるなんて特殊技能中の特殊技能だよね。そういうことは能力の高い人の方が出来そうだけど。
木山:俺もそう考えた。だから、
バカにはできないよ。バカはバカだもん。
と子供らしい反論を投げた。悪魔祓いに羨望を感じていた気持ちも手伝ってな。
それには、ナイトメアはこう返してきた。
そうでもないのよ。悪魔祓いはバカじゃないとなれないの。上級になるとなおさらね。まあ、人間のあなたにとっては、バカとは思えないのかもしれない……
あなたもなりたいの?悪魔祓いになりたい?
俺の反論に対してのナイトメアの言葉は、よく意味が解らなかった。そして、俺に悪魔祓いになりたいのかを訊いてきた。
青葉:どうだったの?なりたいと思った?
木山:そんなことは訊かれるまで考えもしなかった。つまり、悪魔祓いになりたいと思ったことはなかった。だけど、俺は頷いた。
青葉:何故?
木山:何と言えばいいかな。その場の雰囲気というか……。迷った時に、つい頷いてしまうことってあるだろう。そんな感じさ。
青葉:ナイトメアはどんな様子だった?自分の天敵になりたいと言う子供に対して。
木山:特に怒ったりはしなかった。
あなたは悪魔祓いになって、あたしを消滅させる権利があるものね。
でも、この国では悪魔祓いの需要があまりないんじゃないかしら。将来のことを考えたら他の職を探した方がいいと思う。もしくは、あたしの故郷で悪魔祓いをやるのね。
そんなことを言った。
青葉:けっこう真剣に考えてくれている印象だね。人間味がある。
木山:そうなんだ。人間の将来を気にするなんて、悪魔のくせに悪魔らしくない。
青葉:それより気になるのは、
消滅させる権利がある
とはどんな意味?
木山:ナイトメアは俺のおじいさんの命を食べている。だから、孫の俺には復讐する権利があると言ったんだと思う。
あの時は俺も深く考えずに聞き流したけどな。
青葉:そういうことか。
木山:俺の将来の話はそれで終わった。
その後、ナイトメアは、狩りをする毎に悪魔祓いに追われることに命の危険を感じて、故郷を捨てたことを話した。鐘が鳴っても悪魔祓いの来ないような遠くの地に行こうと決めたが、あてはなくただ遠くに遠くに逃げて、たどり着いたのが日本だったと言っていた。
肌の色も目の色も髪の色も違う人間達を見て、ずいぶん故郷から離れたことを実感したとも言った。
ナイトメアは、都会より田舎を選んで、人里離れた山の中に入った。そして、伯母や母の住む山村で狩りを始めたんだ。一人目を狩って、鐘の音が山中に響いても悪魔祓いはやって来ない。二人目、三人目と狩っても同じ。四人目、五人目になっても悪魔祓いは姿をみせない。
これはいける!と、ナイトメアは思った。この国では悪魔祓いはいないと。山村の人達を皆殺しにして、またどこか同じような山をみつけて、同じことを繰り返して、この国に根を下ろそう。そう考えた。と言った。けど、
でもね、そう簡単にはいかなかった。
とトーンを落としてナイトメアは言った。
青葉:鐘の音は五回。快進撃は続かなかったわけだからね。
木山:ああ。
そしてナイトメアは、
まさか、あんな奴がこの国にはいるなんてね。
と言った。
その言葉を聞いて、俺はピンッときた。
あんな奴とは、地下の扉から出てきた、あの丸々太った男のことだと。
そして、あの男の正体は悪魔祓いなんだと。
俺は得意気に言った。
悪魔祓いはこの国にもいたんだね!地下の扉から出てきたデブの男の人は悪魔祓いだったんだ!
と。
するとナイトメアは、
この国で、あたしは悪魔祓いには、まだ会ったことがないわ。
あなたが言ってる男が誰を指しているかは分かるけど、奴は悪魔祓いじゃない。
と薄笑いを浮かべて答えた。
青葉:悪魔祓いではないんだ。
木山:青葉は、男の正体を何だと思う?
青葉:そうだな。日本にも昔から、武士や僧侶が、もののけとか悪霊、または妖怪を退治した話はいくらでもあるからね。
日本にも悪魔祓いのような人がいるんじゃないかな。
つまり、ただ呼び名の違いだけじゃないかと思うけど……能力的には同じような感じで……。
木山:それが、全然違うんだ。
男はナイトメアに続いて、二つ目の有り得ない存在だからな。
青葉:有り得ないということは、悪魔みたいな?
木山:そう。でも悪魔ではなく、霊獣。
青葉:レイジュウ?
木山:バクだよ。
男は霊獣、貘なんだ。
青葉:貘?
あの悪夢を食べる?
木山:そう。その貘だよ。
ナイトメアと貘が俺のおばあさんの中で何十年も戦った。これは、そういう話なんだ。
青葉:悪夢を見せて人を食べるナイトメアと、悪夢を食べる貘の戦いか。そして、 君のおばあさんの命を喰おうとしたナイトメアと、守ろうとした貘との戦いとも言えるね。
で、勝ったのはどっち?ナイトメアも貘も存命していたから、勝敗は君のおばあさんが生きているかどうかなんだろうけど。
木山:貘の勝ち。辛勝だけどな。
青葉:貘が勝ったんだ。じゃあ、おばあさんは生きていたんだ。
だけど、20年以上も戦い続けるなんて考えただけで気が遠くなる。
人間にはそんな気力ないね。
木山:悪魔と霊獣の戦いだからな、人間と比べるのは無意味だろう。
でも、ナイトメアは何十年も戦い続けたくはなかった、と言っていた。できるなら早くに降参して、おばあさんの中から出てしまいたかったらしい。
青葉:そうすれば良かったのに。
木山:それが出来ないんだ。ナイトメアの自分の特性によってな。
青葉:自らの特性によって閉じ込められた、という話だったね。
木山:ナイトメアは、中に入り込んだ人間からは、狩りが終わるまで出ることがてきないんだ。狩りの成功を確実にするために結界を張るけど、狩が終わるまでは結界を自分でも解けない。だから、自分で自分を閉じ込めてしまうことになった。
ナイトメアは人の中に入り込むと、その人は眠り続けることになる。ナイトメアは寝ている人間しか狩らないからな。
眠り続けていた俺のおばあさんが夢を見ると、ナイトメアは夢に登場して命を差し出すように、おばあさんを説得する。命を出せ、といわれる夢だから、当然おばあさんにとっては悪夢だろう。そして、おばあさんが説得される前に、その悪夢を貘が喰う。そしてまた、おばあさんが夢を見る。ナイトメアが説得する。貘が喰う。その繰り返し。いつまでもナイトメアの狩りは終わらない。だから、ナイトメアは外に出ることが出来なかった。
青葉:自らの特性によって閉じ込められたとはいえ、貘の存在があってこそだね。
だけど、外に出られたんだよね?君はナイトメアと山の中で会っているんだから。でもナイトメアは負けたんでしょう?
木山:例外があるんだよ。狩が終わらなくても、夢の中から出ることができる例外が。
青葉:それは何?
木山:ナイトメアに命の危険が生じた場合は出ることができるんだ。
ほら、ナイトメアが故郷で悪魔祓いに聖水を浴びせられた時、精神が本体に引き戻された、と話しただろう。
青葉:うん。
木山:そんなふうに、命の危険があると出られるんだ。
青葉:ナイトメアは、おばあさんの中で貘と戦い、危険な状況になったということか。戦いなんだから、そんなことはあるだろうけど、何がどうなったの?
木山:単にエネルギー不足だよ。ナイトメアは狩を邪魔されて食事がずっと出来なかったから疲弊したんだ。生命維持に関わると体が判断して、精神が体に引き戻されたということだな。まあ、20年以上も食事しなくても生きていんだから、やはり悪魔だよ。とんてもない生命力だ。
青葉:一方で、貘はずっと悪夢を食べていたわけか。貘にとってはエネルギー源の中で戦いをしているんだから、話にならないほど有利だね。
木山:そんでもないさ。辛勝と言ったろう。
青葉:そういえば。
木山:男は貘だったわけだけど、おばあさんの記憶の中では、男はあばらが見える程に痩せていた。だけど、俺が見た貘は丸々と太っていた。これ以上は太れないと思えるほど太っていた印象だ。いや、印象だけでなく、実際そうだったんだ。
青葉:ナイトメアと逆で、貘はエネルギー過剰摂取だったのか。
木山:そう。貘も限界がかなり近づいている状態だったんだ。食べたくなくても、おばあさんを救うには夢を食べ続けなければならなかった。
敗けるかもしれないと思った、と貘が言ったと聞いている。
それに貘は食事がそんなに好きではなかったらしい。だから、悪夢を食べ続けるのは苦痛だったようだ。まあ、その手の苦痛を20年以上も耐えるんだから、さすがは霊獣だよな。
青葉:おばあさん、ナイトメア、貘。
三者とも長い間辛い思いをしたね。
でも、ナイトメアは、エネルギー不足だったんでしょう?ならば、何故君を狩るつもりがなかったんだろう。それどころか、この国では狩りをしないと言ってたんだよね?普通に考えると、エネルギー補給のために直ぐにでも狩りをしたがるんじゃないかな。生命維持が難しくなってたくらいだし。
木山:出来なかったんだよ。貘はナイトメアを脅していたんだ。
青葉:へえ、どんな脅し。
木山:縄張りで狩りをするのならまた邪魔をする、と。次に邪魔されて、自分の能力で閉じ込められることになったらナイトメアはおしまいだからな。
青葉:それは脅しになるの?貘だって危険な状態だったんでしょう。貘はハッタリを言ったの?ナイトメアは貘も限界だったことに気付かなかったということ?
木山:気付いていたのかもしれない。でも脅しは成立する。何故なら貘は横の繋がりがあるんだ。つまり、邪魔するのは他の貘ということさ。
青葉:丸々と太ってしまった貘から選手交替してナイトメアに対するということか。ということは、貘っていうのは仲間意識が強くあるんだね。
木山:そうかもな。
そうだ、
ここで貘のことについて、少し話そうか。貘がどんな奴なのか、どんな奴らなのかが解るように。
これから話すことは後でおばあさんから聞いた話だ。貘は、おばあさんの中に20年以上いて長い時間を一緒に過ごしたから、おばあさんは色々と知っていたんだ。
青葉:おばあさんから話を聞いたということは、おばあさんは健在だったんだね。
木山:勝ったのは貘だからな。
青葉:そうだけど、おばあさんは何十年も寝たままだったんだから、色々と支障があったんじゃないかと思って。
木山:とにかく、おばあさんの知っている貘のことについてだ。
貘はこの国に散らばっていて、お互いに接触することはほとんどなく基本は独りで行動を取っている。ただ、離れていてもお互いの考えは何となく解り、何かがあれば全体の意思統一が出来るんだ。ただ、何かが起こることなんて本当に稀らしいけどな。でも、それが起きた。貘の「縄張り」に西洋の魔物が入って来た。この国の全ての貘がそれを感じ取ったらしい。
相手はナイトメア。貘達は警戒心を持った。西洋の魔物がただ縄張りに入ってきたとしても特に騒がないが、何せナイトメアは人の夢がなければ飯の種がないという、貘とは共通性のある奴だ。縄張りを荒らされないか不安が貘達にあった。でも、相手は単独。大挙して押し寄せた訳ではない。大した影響はないと思い、良い気はしなかったが、放っておくことにした。この国にいる貘、全体でそう決めたんだ。
青葉:貘はテレパシーが使えるの?
木山:そういった能力を持っているんだろうな。
おばあさんの知り合いの貘もナイトメアに干渉するつもりはなかった。だが、ナイトメアの所在地は気にしていた。貘は、ナイトメアが何処にいようと縄張りの中なら分かるんだ。
ナイトメアが俺のおばあさんが住む山に入ったのが分かり、とても気になったらしい。
そして、その山の中でナイトメアが狩りを始めた。貘は俺のおばあさんが狩られて命を落とすのではないかと危惧した。
青葉:貘はナイトメアが離れた所で狩りをしたことも分かるんだ。
木山:分かる。だから貘は山村に来たんだから。
貘は俺のおばあさんが狩られる前に山村に駆けつけた。俺のおじいさんは間に合わなかったが、とにかく、おばあさんが狩られる前に山村に辿り着くことができた。
貘は、おばあさんに会うより先にナイトメアを探しあて、お願いをした。
青葉:お願い?どんな?
木山:俺のおばあさんを狩らないでほしい。そして、これ以上おばあさんの家族を狩らないでほしい。と。
青葉:ナイトメアは何て答えたの?
木山:ナイトメアは貘の言葉に驚き、そして笑い出した。笑った後に、
この国の魔物は人の味方をするのね。驚いたわ。
と言った。そして、少しも考えることなくナイトメアは、
あたしは好きなようにするわ。
と続けた。
「セイチャの小説、なりチャを紹介するトピ」というトピックができてたんだけど、そこでここを紹介しても良いかな??
おすすめを教えてってことだったので、紹介したいと思ったんですが、勝手に別トピで名前をあげるのはどうかと思って←
青葉には嬉しい話だよ。
ありがとう。「目的ない潜考」も気に入ってくれて。
全く読者がつかなかった「目的ない潜考」も日の目をみられるかもね。
今の話が終わったら、続けてみる。
宣伝してきましたv
>今の話が終わったら、続けてみる
本当ですか!? 気になるところで止まっていたので…それなら、とても楽しみにしています!w
こちらもクライマックスの展開に期待していますね♪
宣伝、ありがとう!後で見てみる。
読んでくれる人が増えるといいな。
続きを書いてみるよ。
その前に、こっちを終わらせないとね。
青葉:貘は断られたんだね。
木山:そう。断られた。
貘は、
別に全ての人間の味方をしているわけではない。ただ、見逃してほしい人間がいるだけ。それに、短期間で5人も連続で人間を狩っている。人間もバカじゃない。存在を人間に知られると厄介になる。駆逐されてしまう危険が生じる。移動して他の狩り場を探した方が賢明だ。そして、これからは狩りを派手にしない方がいい。続けざまに人が死ぬと目立つ。それは自分の首を締めることに繋がる。
と、山村を離れるべきであることとナイトメアにとっての利になることを説いて気持ちを変えようとした。
が、
何故あたしが、あなたの様な長鼻の四本足の醜い東洋の魔物の言うことを聞かなければならないのよ?
だいたい、あなた偉そうよ。あたしだって長居してはいけないことは解ってる。
心配しなくても直ぐに去るわ。この山にいる人間を狩り尽くしたらね。そんなに時間は掛けないわ。
と、冷たくいい放たれてしまった。
青葉:長鼻に四本足か。ナイトメアは、人間の男の姿ではなく、貘を本来の形で見ているんだね。
木山:と言うよりは、貘は人間に姿を見せる時だけカモフラージュしているんだろうな。ナイトメアだってそうかもしれない。本来はどんな外見か分かったもんじゃないさ。
青葉:それで?
木山:貘はナイトメアに、
一人を喰うだけで精気は充分に吸収されるはずなのに、5人も喰っている。当面は狩りをしなくても問題ないのだから、この山を去ってほしい。どうしても、それがダメなら、俺のおばあさんと二人の娘だけは狩らないでほしい、と説得を続ける。
だけど、
好きにすると言ったでしょう。 次は、その女を狩ることにしたわ。あなたが大事にしているその人間をね。どうせ、この山にいる人間は全員狩るつもりだったから順番が変わるだけだけの話だけど。
と、頑なになってしまう。
何とか俺のおばあさんを守ろうとした貘は、
そんなことをしたら、この国の貘全てに宣戦布告したことになる。自分が負けても他の貘がやって来る。貘全体で阻止する。
と警告をした。
青葉:君のおばあさんを守りたいのは、その貘だけでしょう?それでも貘全体が戦ってくれるの?
木山:他の貘は、俺のおばあさんの為には動かないだろう。でも、仲間に何かがあれば黙ってはいない。つまり、その貘がナイトメアと戦うことイコール全ての貘を敵に回すということさ。
青葉:貘とはそういうもんなんだね。
木山:だけど、ナイトメアは全く怯む様子を見せずに、
人間から全く恐れられることのない、あなた達にあたしを止められるかしら。
まあ、せいぜい頑張って。
と余裕を見せて去ってしまったんだ。
青葉:余裕を見せてるけど、結果は単独の貘といい勝負をして、しかも負けたんだね。
木山:貘を見下してたけど、案外強かったんだろうな。まあ、今迄は接触がなかった相手だから力量が掴めなかったのも仕方ない。それと自分の力に自信もあったんだと思う。
青葉:過信じゃないかな。一対一で負たのに、全体を相手にするつもりだったなんて。
木山:そうかもしれない……
ナイトメアが去った後、貘は直ぐに俺のおばあさんのところに出向いた。ナイトメアは眠った人間にしか狩りを仕掛けない。まだ日は高い時間だったが、グズグズしてはいられない。おばあさんが眠ったらナイトメアは確実に狩りにくる。それまでに貘にはやることがあったんだ。
追記
当方、本日はほぼ快晴の海沿いの地に生息していますw
穏やかな波間に明かりを落とすスーパームーン…
それはそれは綺麗です。羨んでも良いですよ…?w
青葉:どんなこと?
木山:戦いの前の準備だよ。おばあさんが眠りについたら勝負が開始される。そして、いつになったら終わるのか見当もつかない。だから、貘ではなく、おばあさんに準備が必要だったんだ。
貘は先ず、おばあさんに事情を話し、これからおばあさんの身がどうなるかを説明した。今度眠ったらナイトメアが狩りに来ることを。だけど、貘がそれを阻むことを。
青葉:事情を話しても信じてもらえないと思うけど。
木山:簡単にはいかなかっただろうな。でも、信じたんだ。
青葉:簡単とかどうとかではなく、どうやっても信じてもらえないような気がするんだけど。
木山:確かに普通に話したらそうだっただろう。ナイトメアが襲ってくるなんて話。
でも、おばさんは信じたんだ。もしかしたら貘は本来の姿をおばあさんに見せたのかもしれない。
青葉:本来の姿を見せたらパニックに陥りそうだけど、その手もあるか。それくらいのインパクトがないとね。
それで、おばあさんにどんな準備が必要なの?
木山:いつ終わるかもしれない戦いだからな、長期になった場合の準備をしなければならなかった。
先ずは、おばあさんの身の置き所だ。
青葉:身の置き所?
木山:自らが勝つにせよ、貘は長期戦を覚悟していた。その間、ナイトメアの結界に入るおばあさんは眠り続けることになる。そして、結界の範囲は誰も入れない。おばあさんには家族がいるから、家の中に結界を張られるのは迷惑なこと。でも、幸い家の地下に部屋があった。貘はそこで、おばあさんを眠りに就かせることにした。
青葉:結界の影響を最小限にする場所を先ず選んだわけか。
木山:次に貘は、おばあさんのお母さんを家に呼び寄せるよう提案をした。
青葉:君の曾祖母だね。何故そんな提案を?
木山:おばあさんには二人の娘がいたからさ。伯母と母のことだけど。二人は、父親をナイトメアに狩られている。そのうえ母親も次に眠りに就いたらいつ目覚めるか分からない状況。二人はまだ子供だったから保護者が必要だったんだ。
青葉:二人がおばあさんの実家に行くという方法もあったんじゃない?
木山:それは、あまり良いことにならないと貘は判断したらしい。でも、それはナイトメアとは関係なく、人間の都合でだけどな。
青葉:どういうこと?
木山:俺の曾祖父であるおばあさんの父親は、その時すでに亡くなっていて、おばあさんの兄が実家を継いでいた。その嫁さんは気の強く自己中心的で、姑である俺の曾祖母とは反りが合わず仲が悪かったんだ。それも酷く悪かった様で、曾祖母は家を出たいと、貘にこぼしていたらしい。
青葉:貘は、おばあさんの実家が世代交代しても家に来ていたんだね。
木山:ああ、来ていた。兄嫁は貘にも冷たい態度を取っていたと聞いてるけど、それは余談だな。さらに、兄嫁は、義理の妹であるおばあさんが家に帰って来ても露骨に嫌な顔をした。だから、おばあさんも実家から足が遠退いてしまっていた。
青葉:なるほど。つまり、両親が突然いなくなったからといって、おばあさんの実家は子供だった伯母さんとお母さん二人を預けるには適さない環境だったわけか。
木山:そう。それに、曾祖母を家から出してあげたいという気持ちが貘にはあったんだろうな。
青葉:でも、伯母さんとお母さんが残るのはリスクがあるよね。ナイトメアが勝ったら、次の狩りの標的は二人なんだろうから。
木山:貘には百パーセントの勝算があったんだと思う。自分だけでは判らないけど、貘全体と単独のナイトメアの戦いという構図を作ってあったからな。
青葉:二人に危険はないと判断した訳か。そして、君の曾祖母を家から出してあげた。
木山:慣れ親しんだ家を離れて、歓迎されない場所に行くよりは、伯母と母にとってもそれが最良だしな。
青葉:他に準備はあったの?
木山:あっただろうけど、しなかった。時間に限りがあって無理だったんだ。何せ、曾祖母に経緯を信じてもらうのも簡単ではないからな。おばあさんは曾祖母宛に、短い手紙と長い手紙を書いた。短い手紙は直ぐに実家に速達で郵送した。内容は、また大変なことが起きたので直ぐに来て欲しいというもの。
青葉:また?
木山:俺の曾祖父がナイトメアに狩られた直ぐ後のことだからな。
青葉:あっ、そうだったね。
木山:で、長い手紙は伯母に託して、曾祖母が家に来たら渡すようにした。内容は、その大変なことが何なのかを説明するもので、ナイトメアと貘のこと。自分は暫く眠り続けること。そして、この家に住んでほしいことと、自分が目覚めるまで二人の娘のことをお願いしたいこと。
青葉:信じてもらえたの?
木山:ああ。実際、それから曾祖母は二人と一緒に山村で暮らし始めたからな。それに伯母の話では、曾祖母は貘のことを元から神秘的な何かではないかと思っていた節があったようだ。きっと直感で貘の正体が人間ではないことを見抜いていたんだろうな。それに、家に住み始めてからは、ナイトメアの結界のせいで家の中に何故か近づけない場所がある妙な状態。手紙を信じる材料はあった。まあ、手紙を信じようと信じまいと、父親を喪い母親もいない状況の、まだ子供の孫娘二人を放ってはおけないだろうけどな。
青葉:確かに。
木山:そうそう。後は、おばあさんを行方不明者と世間ではすることに決めたことがあった。ナイトメアの結界が有る限り、おばあさんが外に出ることは出来ない。いつ結界が解けるかも判らないからそうしたらしい。
青葉:旦那さんを喪ったんだから、何処かに働きに行ったということにしても良かったんじゃない?
木山:閉鎖された山村。何の挨拶もなく、出稼ぎに行ったなんてことにするのは無理だった。大体、おじいさんは亡くなったけど、畑は残っている。それさえあれば、経済的に問題はないから、その理由では不自然なんだ。
青葉:いろいろあるんだね。
木山:そう、いろいろとあるのさ。
さて、いま話しているのは、貘とはどんな奴かということだったよな。
纏まりはないけど、貘とはそんな奴さ。
青葉:読み取れたのは、貘は人と交流を持つことがあり、人の敵にはならない。それは当然だよね。人の悪夢が食料なんだから人がいないと困る。だけど味方とも言えず、本来ならば人の為に何かすることはない。ただ、恩を受けたら律儀に返そうとする。そして、仲間意識は強い。ということかな。
木山:概ね、そんなところだな。
青葉:話を戻そう。君がナイトメアと話をしているところから。
木山:そうだな。
俺が貘を悪魔祓いだと勘違いしていて、そのことをナイトメアが指摘した所からか。
青葉:そうだね。
木山:ナイトメアは、俺の勘違いを薄く笑い、男の正体を貘だと明かした。
あの男は貘よ。
シンプルにそう言った。
俺は、
バクって?
と、何のことか分からずに訊いた。
悪夢を食べる貘よ。知ってるでしょう?それくらい。
そうナイトメアはそう答えた。
俺は、悪夢を食べる貘につては聞いたことがあって、何となくは知っていけど、地下の扉から出てきた男が貘だというのは理解できなかった。だって、男は人間の姿をしていたんだから。それで、俺は思った通りのことをナイトメアに言ったんだ。あれは人間だ、と。
するとナイトメアは、
人間に見えるだけ。あいつは化けているのよ、人間に。それも、人間の中でも不細工な姿でね。元が不細工だと、不細工にしか化けられないのかしらね。
と貘を馬鹿にするような喋り方で言った。
そして、
でも、その不細工な貘にあたしは敗けたのね。そして、あなたはその不細工な貘に守られているのよ。貘がいるから、あたしはあなたを狩れないんだから。
と付け足した。
自嘲するナイトメアの言葉だった。それを聞いて俺は余計なことを口に出してしまった。余計なこととはいえ、本心だけどな。
青葉:何て言ったの?
木山:悪魔祓いに敗けて貘にも敗けて、悪魔って弱いんだね。
と言ったんだ。子供は正直だよな。
青葉:ナイトメアの反応は?
木山:本当のことを言われて、怒り心頭に発した様で、
腹の立つことを軽々と言ってくれるじゃない。あなたが寝るの待って狩りするのは貘が邪魔するから難しいけど、ここであなたを殺すのは簡単なのよ。夢の中での狩りでなければエネルギーにはならないから、あなたの命は無駄になるけど。でも、憂さ晴らしににはなるわ。
そう、怒りからか早口で言った。
青葉:冷静ではなかったわけか。自分で自分を貶めるのは良いけど、人に言われるのは嫌だったんだね。その気持ちは分かる。
木山:プライドを傷つけたんだろうな。
青葉:何とも人間味のある悪魔だよね。
木山:そうなんだよな。でも、悪魔に人間味があるのは当然なんだ。
青葉:どうゆうこと?
木山:悪魔を造った者の特性を引き継いでいるのさ。
青葉:悪魔を造った者?誰?
木山:その話はすぐだ。続けるよ。
青葉:うん。
木山:ナイトメアを怒らせたことに恐怖を俺が感じたとき、音もなく貘はやって来た。犬も全く吠えなかった。
青葉:貘が来たんだ。
木山:貘はいつの間にか俺のすぐ後ろに立っていた。そして、
子供の戯れ言。赦してやっておくんなさい。
と、俺の代わりに頭を下げた。
ナイトメアは貘を見て、
あら、いたの?
もう会いたくなかったのに。
と言って忌々しそうな顔をした。
貘は、
そう嫌わないでおくんなさい。長い付き合いの仲でやす。それに、もう戦いは終わりやした。
と、任侠調だが柔らかい口調で話した。が、ナイトメアはきつく、
じゃあ、何の用よ!
と怒鳴った。
貘は、
あんたに用はありやしません。あたしは、この坊っちゃんのお母さんに頼まれて、坊っちゃんを探しに来ただけでやす。
と変わらず柔らかく答えた。
青葉:貘は穏やかなんだね。
木山:それに対してナイトメアは激しかった。
馬鹿じゃないの!人間を守るなんて!
と怒声を響かせた。
貘はナイトメアの怒りなど気にした様子もなく、
あたしは正義の味方ではありやせんから、人間全てを助けることはしやせん。恩義がある人間だけでやす。あんたが恩義あるお嬢さんを狩ろうとしなければ、こんな長い戦いもしやせんでした。いや~、しかし本当に長い時間でやした。ここまでになるとは思いもよりやせんでした。
と、苦笑いを浮かべた。
ナイトメアには、苦笑いとはいえ貘の笑みが気に障ったようで、
あなたが長く外に出られなかったのは、人間の女なんか助けようとするからでしょう!人間なんかを!
と、不機嫌極まりないという声を出した。
青葉:そういや、貘は、「恩義あるお嬢さん」と言ったんだよね?
木山:ああ、そう言った。
青葉:「お嬢さん」とは、おばあさんのことだったよね。
木山:そうだな。
青葉:でも、貘にとって恩義があるのは「お嬢さん」ではないんじゃない?恩義があるのは、小金を呉れたり、寒い時季に家に呼んでくれて食事を出してくれたりして、何かと面倒をみてくれた君の曾祖父や曾祖母じゃないの?「お嬢さん」である、君のおばあさんは貘を面倒みるどころか、逆に子守りをしてもらってたんでしょう。
貘が、長い戦いをしたのは、おばあさんが恩義がある人達の娘だから、ということ?
木山:いいや。貘は、おばあさんに恩義があったんだ。曾祖父や曾祖母にも恩義を感じていたかもしれないが、誰よりもおばあさんに恩義があった。
青葉の疑問と同じことを、おばあさん自身も感じ、その事について貘に訊いたことがあった。その時の貘の答えを、俺は後でおばあさんから聞いた。
その答えは、
あたしら貘はそんなに食事を必要としやせん。何ヵ月かに一度だけ悪夢を喰えば充分でやす。あたしは、お嬢さんの家に泊めてもらいやした時に、寝る前にお嬢さんやご兄弟さん達に怖い話を聞かせました。そうすると子供でやすから、誰かしら、あたしの話に誘発されて悪夢を見てくれたもんでやす。お嬢さんは特に怖がりでよく悪夢を見てくれやした。あたしは、それを頂いていやしたんです。お嬢さんは、あたしの話を聴いても悪い夢を見ないと言ってやしたが、本当は見ていたんでやす。ただ、あたしが早めに悪夢を喰っていやしたので、記憶には残らなかっただけでやす。お嬢さんには、あたしは世話になったのでやす。旦那様や奥様は、あたしに、よく人間の食事を恵んでくれやしたが、あたしにはそれは意味のないものでやした。あたしは悪夢喰くらいでやすから。
というものだったそうだ。
青葉:なるほど。貘はおばあさんを利用して、悪夢を食べていたのか。一番に食べ物を提供してくれてたのは、おばあさんだったんだね。
ごめん、また話を脱線させた。
木山:ナイトメアと貘の会話に戻るよ。不機嫌な声を出したナイトメアに対して貘は、
人間なんか、と言いやすが、あんたもあたしも人間をもっと大事にするべきでやしょう。人間あってこそのあたしらでやすから。
と言った。
ナイトメアは不満この上ないように、
あなたは人間から悪夢を恵んでもらってるから、そう考えるだろうけど、あたしは人間の命を食べているのよ!大事に出来るはずないじゃない!
と不愉快そうに声をあげた。
貘は頭を掻きながら、
いや~、確かに。とはいえ、人間を乱獲しては、あんたのためになりやせんよ。
そんなふうに話した。
それに対してナイトメアは、
人間なんて、次から次に産まれてくる。狩っても狩っても、いなくなったりしないわよ。あたしの食糧は無くならないわ。
と貘の言葉を鼻で笑う。
すると、
そういうことではありやせん。あたしらは、目立ち過ぎると良いことがありやせん。あんたは人の命を奪うだけに、あたしら貘以上に気を付けないといけやせん。人間には結局勝てやしないのでやすから。人間に目をつけられるような真似は極力避けるのが正解でやす。
と、貘が諭すように言った。
青葉:貘も人間が強いと思ってるんだね。
木山:そう。どうやら、貘も人間には敵わないと思っていた。
貘は続けて言う。
これからは、目立つことなく必要最低限の狩りだけをしていくことでやす。目立てば逆に狩られてしまいやす。人間は、あたしらを創りやしたが、当然ながら人間以上に強い存在としては創造してくれやせんでしたから。
青葉:「あたしら」とは、ナイトメアと貘のこと?
木山:ああ。
青葉:ナイトメアも貘も、人が生みの親ということ。
木山:そうなんだよ。人間が創ったんだ。だから、ナイトメアに人間味があって当然なんだ。人間が考え出した存在だから似た感覚があるんだよ。
で、ナイトメアと貘の話を聴いていた俺も、つい口を挟んでしまった。
人間が創ったの?
と、俺は声をあげてしまった。
俺には、ナイトメアも貘も超人的な存在にみえた。その時は、弱い人間が創ったなんて考えられなかった。
俺の言葉にナイトメアが直ぐに反応して、
そうよ。残念だけどね。
と、本当に残念そうに言った。
俺の顔は納得していなかったようで、ナイトメアは、
人間があたし達を創ったのでは不満なの?だとしたら、あたしと同じね。
と訊いてきた。
人間がナイトメアも貘も創ったということは、当然だけど人間の方が歴史があるはということだろう。でも、俺には両者とも人間が生まれる前から存在していたと思いこんでいたんだ。特にナイトメアは……というよりは悪魔は、人間の歴史が始まった頃より遥か昔から絶対的な悪として存在していた。そんなふうに思っていたんだ。
青葉:まあ、普通は悪魔も霊獣貘も人間より先に存在していたと思うよね。
木山:俺は、それを訊いた。
人間より、ナイトメアも貘も先にいたんじゃないの?人間の方が後なんじゃないの?
と。
すると、ナイトメアは、
ナイトメアは人間を悪夢に引きづりこんで、狩りをして人間の命を食べる。貘は人間の悪夢を喰らう。人間とあたしたち、どっちが先に生まれたかなんて少し考えれば明確でしょう。 人間よりあたし達が先に存在していたとしたら、人間が存在する前、あたし達は何をエネルギー源にしていたというの?人間がいなければ、あたし達は存在出来ないのよ。
と俺に説明した。
小学生の俺はナイトメアの言ってること全てを理解したわけではなかったが、人間の存在が先だと自信を持って言っているのは分かったので、単純に信じ、
人間の方が先なんだ……。
そう呟いた。
すると、今度は貘が口を開いてこう言った。
そう。あたしらを創ったのでやすから、当然ながら創った人間が先でやす。悪魔も霊獣も妖怪も神獣も、そんな類いの者は全て人間が作り出しやした。
青葉:人間は何故、ナイトメアや貘を創ったの?
貘は悪夢を食べてくれて人間にメリットがあるから、まだ少しは解るとして、ナイトメアを含む悪魔なんて創る必要がないんじゃない?
木山:当然の疑問だと思う。けどな、俺は違った質問をした。それは、
誰が創ったの?
だった。
青葉:確かにそれも気になるね。
木山:それについての話の口火を切ったのはナイトメアだった。
その昔に人間の誰かが、ナイトメアという存在を想像したのよ。それが誰なのかは判らないわ。でも、それは想像以上の何物でもない。本当の意味であたし達ナイトメアを生み出したのは、想像にすぎなかったあたし達を必要とした人間達ね。必要として、あたし達ナイトメアを具現化した人間がいる。人間の中には、悪魔という負の存在が必要なのもいるのよ。
まず、ナイトメアがそう言った。
青葉:ちょっと待った!
いくら必要だからといって、想像上の悪魔を現実に創り出せるものなの?それに、悪魔を必要とする人間って、どんな人なの?
木山:必要だとそんなことが人間には出来るんだよ。現実に無いものを有るものにする能力が人間にはあるんだ。例え、それが悪魔のような存在でもな。
青葉:どうやって?
木山:それは俺には解らないさ。でも、創ろうと意識しているわけではないんだろうな。と言うか、創った本人達も自分達が生み出したとは思ってないんだろう。思いが強ければ、そして思う人数が多ければ、それだけで出来るんだと思う。
青葉:よく解らない。
強く存在して欲しいと思うと、実際に存在するの?それが人間の能力?
木山:もしかすると悪魔を必要としているたげてなく、存在を一切疑うことなく信じていると、具現化させることが出来るのかもしれない。
青葉:それが、人間の能力?
木山:ナイトメアとの会話のどこかで、
想像と創造はイコールになる時がある。それが、あたし達には真似できない人間の能力ね。
と、言っていた。この言葉から考えて、俺はそうだと思ってるんだ。
青葉:とりあえず、それはそうだして、悪魔を必要とする人間って?どんな人達?
木山:それは、たくさんいるだろうな。
悪魔祓いの類いは世界中のどこにでもいる。悪魔祓いは、悪魔がいると信じているから悪魔祓いをやってるんだ。つまりそれって、悪魔祓いは悪魔を必要としているということになるだろう。本人達がそれを意識はしていないだけで。いなければ存在意義がない。需要がないからな。
青葉:全ての悪魔祓いが、悪魔の存在を信じてるわけじゃないと思うよ。金稼ぎの為に悪魔を信じている人を相手に悪魔祓いをやってる輩もいると思う。
木山:それは、いるだろうな。でも、そんな奴は悪魔祓いではなく、詐欺師の類いだ。それは、また別の話だろう。
それから、悪魔祓いだけでなく、悪魔を必要としてる人達はいる。世界にはたくさんの信仰があるけど、悪魔信仰だってあるんだから。
青葉:悪魔祓いは無意識に悪魔を必要としているのか。そうかもしれない。でも、多人数が、必要としていて存在を疑わないだけで想像したものを具現化なんて本当に出来るのかな?
木山:ナイトメアはそう言った。そう俺は思っている。それに、貘もその意見を否定はしなかった。それどころか同調して話をしていたんだ。
青葉:でも、人間にそんな能力があるなんて信じられないな。
木山:それは、仕方ない。非現実的な話だと普通は思うだろうな。でもな、青葉が信じないのは、人間にその能力があるかどうか、ということじゃないと思うな。
青葉:?
木山:別に責めているわけじゃないけど、青葉は悪魔や貘の存在を信じていないんじゃないか?ひいてはこの話を信じてないということじゃないか?
青葉:そうかな。
木山:青葉は、あり得なさそうな話でも理解があるスタンスでいるけど、結局は自分の常識の中で判断しているんだと思う。
青葉:信じられないと思う話を何度か今まで聞いてきたよ。その中には創作もあったと思う。だから、納得いかないことは訊いて納得したいんだよ。信じたいからこそね。
でも、自分の常識で聞いた話の真実味を測っているのは確かだね。
木山:現実に悪魔を感じている人達はいる。その人達にとっては悪魔が存在することが常識だ。
例えば、アフリカの中では悪魔祓いの権威が非常に高い地域がある。医療さえも悪魔祓いが司っている。そこでは病気は悪魔の仕業と考えられているからな。白人の医師がそこで医療活動をしていても、地域の人達は悪魔祓いの言葉の方を信じて病人を悪魔祓いの所に連れていく。白人の医師の所に行けば直ぐに治るかしれないのに、悪魔祓いを頼る。それは、つまり悪魔を日常感じているからじゃないか?
青葉には青葉の常識があるけど、その人達にはその人達の常識がある。誰の常識が真実かなんて判断できることじゃないだろう。それどころか、月並みなセリフだけど、真実なんてあるのかすら判らないと思う。
青葉:そうだね。ならば、疑問を感じるより話を聴くのが正解だね。
人間の中には悪魔という負の存在が必要な人もいる、とナイトメアが言ったところから。
木山:そうだったな。
そして、俺がそこで口をだす。
悪魔なんて必要ないよ!悪魔は、人を殺しする悪い奴なんだから。悪い奴なんていなくていいんだよ!
と。
青葉:ちょっと前にナイトメアを恐れたのに、勇敢に発言をしたもんだね。
木山:その時は貘がいたからな。貘は俺の味方をしてくれると解ったから言えたんだ。将に、虎の威を借る狐といったところさ。
すると、俺はナイトメアに、
あなたが子供だから、そんな馬鹿なことを言うのかしら?それとも人間がみんな馬鹿だからかしら?
と、嘲るように言われた。
そしてナイトメアは、
まあ、今の場合は子供だからかしらね。
ねえ、人殺しするから悪魔はいなくていいと思うの?
と質問をしてきた。
俺が頷きながら、
人殺しをする悪魔なんか、みんな死んじゃえばいいんだよ!
と、ナイトメアを責めた。だが、
あなたは知らないの?人間にだって悪い奴がいるのよ。人間が人間を殺すことなんてよくあることだわ。
と言って、ナイトメアは笑った。
当時の俺もそれは正論だと思えた。人間にも悪人はいる。次の言葉が出てこない。俺の拙い反論がなくなりナイトメアは饒舌になる。
人間はね、自分達に悪の一面があるのを知っているのよ。だから、自分達以上に悪い存在が必要だった。それで、あたしは生まれたの。悪魔が生まれたの。
人間は権力や利権が欲しいもの。それを手に入れ長く維持するには、従える大衆に悪人と思われない方が都合がいいのね。善人と思われていれば、とって代わろうとする者は少ないし、大衆の支持を得られるもの。さらに大衆に、自分達を脅かす何かから守ってくれる存在と思ってもらえば、さらに権力と利権は磐石になるわ。脅かす何かとは、例えば悪魔という人より圧倒的に強く無慈悲な存在ね。自分達を悪魔から守ってくれる存在となれば誰もが従うでしょう?
だから、最初に悪魔を生んだのは、権威を欲しがった人間だと思うわ。
あたし達は権威を欲しがった人間あってこその存在よ。人間に都合がいいように悪役をやっている。 それ以外を演じることを許されない前提での。
あなた、あの女の娘の子供でしょう?あたしは、あの女の旦那の命を奪ったわ。つまり、あなたのお爺さんを殺したの。でもね、人間があたしを創ったのだから、あなたのお爺さんを殺したのは人間ともいえるのよ。人間を狩るように、人間はあたしを創ったのだから。
人間は、自分の利権のためなら、人間を犠牲にできるのよ。
でもね、人間の能力は大したものよ。その想像力からの創造力。自分を偉大なものにするために、自分達より優れたものを産み出し。そして、それに打ち勝つシナリオを描いた。悪魔は人間に最後はに負けるのよ。 そうできているの。
そう話した。
すると貘が、
そんなことを子供相手に話しても仕方ないと思いやすが、しかし共感できるところはありやす。
悪魔が人間にとって都合の良い存在だから、人間の想像を創造にする能力によつて悪魔は生まれたのでやしょう。しかし、人間を超えた存在である悪魔を退治できる悪魔祓いとは何者でやす?あたしら貘は人間と敵対しないので、そういった類いの人間と接触がありやせん。悪魔祓いの特殊な力も、人間の想像を創造にする能力によるものでやすか?
そんな質問をした。
ナイトメアは、
同じ能力によるものでしょうね。
悪魔祓いとは、悪魔の存在を確信しさらに自分に強い能力があると信じることができる人間じゃないとなれないのよ。つまり信仰心強く、自分を特別視できないと無理ね。人間はバカだけど、その最たる者があいつらだわ。
と答えた。
それを聞いた貘は、
自分が悪魔を攻撃する力を持った人間だと想像し力を創造する、というところでやすか。想像というより盲信し、思いが強くなり力を創造するということでやすね。
と呟くようにいった。
それを聞いてナイトメアは、
バカの骨頂でしょう。ナルシストどころの話ではないわ。自分は悪魔を滅する特別な力を持っていると思い込むだけで能力を得られるんだから。だから、能力といっても鍛錬とかして、努力して獲得するわけじゃないわ。本人達は信仰心を高めることと、鍛練をすることで能力が得られると本気で思って、何か訓練してるみたいだけど、本当は鍛錬なんて無意味なものよ。実際は妄想だけで得られる能力だもの。あいつらは意味ない鍛錬なんてしないで妄想力を鍛えるべきだわ。
そう話した。
青葉:妄想力とは何?
木山:さあ。よく解らない。でも、皮肉なのはよく解る。
ナイトメアの皮肉の後に貘が口を開く。
本来は存在することがない悪魔が、本来は人間が持つことがない能力に脅かされているわけでやすな。
全くもって、人間の自作自演でやす。
そこ言葉にナイトメアは応えて、
その通りよ。 悪魔は人間が想像から作り出したもの。その弱点さえも。だから、十字架も聖水も効果がある。もちろん、強さもくれたけどね。だけど人間対悪魔の勝敗は人間の勝ちと決まってる。悔しいことに人間の中でもバカの骨頂である悪魔祓いに、悪魔は最後には勝てないようにできているのよ。
と言った。
貘は、
そんなに悪魔祓いとはバカでやすか。
と笑って訊いた。
ナイトメアは、
バカね。しかも上級の悪魔祓いほどバカなのよ。下級の悪魔祓いは、祈りを込めた、ただの水を聖水だと思い込んで、あたし達に浴びせる程度だけど……まあ、それでも悪魔祓いというバカが聖水と信じてるからには、あたし達には効いてしまうけど……でも、悪魔に効力がある古典的なその程度の方法のみで戦いを挑んでくるわ。でも、上級の悪魔祓いになると、悪魔に効果的な方法を新たに作り出して、悪魔を攻撃してくる。自分が高い能力を持ってると信じてるから出来ることよ。ただ思い込みが人並み以上なだけなのにね。上級の悪魔祓いとは、想像すればそれが新たな能力になるんだから楽なものよ。
とにかくあいつらは、知らずに権力者が権力を維持するための駒になって、そいつらが創り出したとも知らずに悪魔を消して、自分が正義だと陶酔している。自分が優秀な悪魔祓いだと酔いしれている。
どう、バカでしょう?
そう貘に答え、同意を求めた。
貘はそれに対しては応えずに、
あんたに鈴をつけたのも、上級の悪魔祓いでやしたね。
と言った。
ナイトメアは、
そうよ。上級の悪魔祓いでないとそんなこと出来ないもの。あいつは、あたしが狩りをすると物凄い音で鐘が鳴るようにしてくれたわ。存在しない鐘の音がね。ない鐘を鳴らすなんてバカにしか発想できないわ。でも、本来ならできるはずかないこなのに、自分ならできると確信したのよ、あのバカは。悪魔祓いは、相手が悪魔であれば、そんなことも出来ると確信すればできてしまう。本当に腹立たしいわ。バカのくせに。
と言って怒った。
貘は話を変え、
ところで、これからどうするのでやす?もう、あんた、この国で狩りをするのは無理でやす。戦ったことで、結果的にあたしを長い時間拘束したのでやすから、他の貘は、あんたを貘の敵として認めていやす。次にあんたが狩りを始めたら、仲間の貘が必ずや狩りの邪魔をするでやしょう。人間を守るためではなく、あんたを仕留めるために。
あんた、あたしとの攻防で体力はほとんどない状態でやす。次に狩りを邪魔されて、人間の中に閉じ込められたらお仕舞いでやす。
と言った。
ナイトメアは溜め息をつくと、
貘のいない土地に行くわ。
バカな人間を守るような、バカな貘のいない土地へね。
と言った。
>2884
コメントをありがとうございますw
ただいま、青葉さん(^o^)
※匿名さんのお帰りコメントに
対抗(?)してみましたw←
匿名さん、
ただいま。待ってる人がいるのが有難いよ。
不在の間に「目的ない潜考」の続きを書いてみたので、そのうち上げるね。
やしろさん、
お帰りなさい!戻ってきたね。
何だか嬉しい。やしろさんのトピもいつもチェックしてるよ。
izmさん、
久しぶり!また読んでくれて有難う!
青葉:他に選択肢はないもんね。
木山:そうだな。
それを聞いて貘は、
直ちにこの国を出て行くのが良いでやしょう。あんた早く狩りをしないと命が持たない程に衰弱しているとみやした。まあ、だからこそ出られたんでやしょうが。
とにかく、直ぐに出発することでやす。
と、ナイトメアに早急に立ち去ることを促した。
ナイトメアは、
言われなくたって、解ってるわよ。でも、あと一、二週間は保つわ。長く閉じ籠っていたんだから、少しくらい落ち着いて外の空気を吸ってからでいいでしょう?そんなに急かさないでよ。
口を尖らせて、そう言った。
青葉:ナイトメアも外の空気を吸いたいもんなんだ。
木山:そこも、人間が創ったから人間らしさがあるんだろうな。
貘は、
そならば何も言いやせん。あたしは、この坊っちゃんを連れて、もう行きやす。坊っちゃんのお母さんは心配していやすし、家で待ってるお嬢さんも、まだ会ったことのない孫に早く会いたいでやしょうから。
と言って俺の横に並び立ち、俺と手を繋いだ。話を終わらせて去る、という姿勢をナイトメアに見せた。
ナイトメアはそれを悟り、
あたしは敗者。敗者は命を取られるか、そうでなければ従属するか去るしかないもの。直ぐにこの国を出るわ。
さよなら。もう二度と会うことはなあでしょうね。
と、別れの言葉を言った。
貘は、
差しでの戦いでやしたら確実にあたしの敗けでやした。
道中、お気をつけて。
と返すと、俺の手を握りながらナイトメアに背を向け、伯母の家の方に歩き出した。突然にナイトメアとの別れがきた。
貘に手を引かれながら歩き出した俺は、ナイトメアを最後に一目みようと振り向いたが、姿はどこにもなかった。それは忽然と消えたという表現が一番しっくりくる程に見事な去りかたで、まるで最初からそこに居なかったかのように思えた。それは、貘が音もなく突然に現れたことと類似することに俺には思えた。
貘は、
もう、姿を見ることは出来やしやせんよ。振り向いても無意味でやす。
と言った。
青葉:差しの勝負なら確実に敗けていた、と貘は言ったんだ。でも、いい勝負をしていたんだよね?確実にではないじゃない?貘は、去り行くナイトメアへの手向けの言葉を言ったつもりだったのかな。
木山:いや、心から思ったことを言ったんだと思う。差しでの勝負ならば貘は敗けていたんだ。
青葉:貘には後続の二番手三番手、それ以降も控えていたけど、君のおばあさんの中では一対一で戦ったんでしょう?差しの勝負だよ。
木山:そうだな。でも貘は後続の貘達を含めての個対団体という意味で言ったんじゃないんだ。
青葉:どういうこと。
木山:この奇妙な戦いは、貘の言う通り差しの勝負ではなかったんだ。貘には援軍がいたのさ。いや、ナイトメアの方にに足手まといがいたというべきかな。
青葉:さらに解らなくなった。
何だか嬉しいって…
むしろ、嬉しいコメントを
有難うございます!(;_;)
自トピについて、
皆のお陰でもってるトピですw
もし、おすすめがあったら
紹介してくださいな(^^)
小説、またまた今後も
楽しみにしています♪
木山:俺は貘に手を引かれながら伯母の家に向かった。家が見えてくると、家のすぐ外に伯母と母が立っているのが遠目ながら分かった。俺を心配して外に出て待ってくれていたようだった。だが、よく見ると立っているのは三人。伯母と母、それからもう一人女性がいる。誰だろうと思い、歩きながら顔を見つめ記憶を辿るが見覚えはなかった。ただ、段々と近付くにつれて、その女性は伯母や母と良く似ている顔立ちなのが分かった。
そして、その女性がナイトメアにとっての足手まといだったんだ。
青葉:その女性とは、君のおばあさんだよね?
木山:そう。その通り。
俺と貘が伯母の家に着いた時は、三人で涙の再会をしながらも、山の中で俺がナイトメアと遭遇しないか、遭遇したら何かされないかを心配して三人とも複雑な心境でいたらしい。
青葉:喜びと心配が両方あるから、そうだろうとは思うけど、先ず何で君のおばあさんがナイトメアの足手まといになるの?君のおばあさんはナイトメアに命を狙われてたんでしょう?
木山:足手まといという表現がここで適当なのかは判らないけど、それでも、やっぱり足手まとい、という言葉しか俺には出てこないんだ。
で、
母は貘に手を引かれて帰ってきた俺に気づくと、直ぐに駆け寄ってきて、
良かった。
と呟きながら地面に膝をついて、まだ背の低かった俺を抱きしめた。そして、貘にお礼を何度も言った。
伯母もそばに来て、同じく貘にお礼を言った後に俺の顔を見て、
お帰りなさい。無事で良かったわ。ほら、あの人が哲くんのおばあさんよ。会うの初めてでしょう。こんな日が来るのを待ってたのよ。
と言って、家のそばに立つもう一人の女性を指さした。母に抱きしめられながら俺は、女性の顔を再び見た。だが、その女性が自分のおばあさんだとは、どうしても思えなかった。
青葉:急にそんなことを言われても実感が湧かなかったんだろうね。初対面なんだし。
木山:そういうことじゃないんだ。さっき話した通り、顔は伯母や母と似ていた。だから、血の繋がりは視覚的情報からは充分にあり得そうに思えた。でも、確実に自分のおばあさんではないと思った。
青葉:というと?
木山:伯母が指さす女性は、伯母や母と同世代だったんだよ。当たり前の話だけど、俺のおばあさんなんだから伯母と母の親だろう。でも親子なのに同じ年くらいにしか見えなかったんだ。もし、親ではなく姉妹ということならば疑念なく直ぐに納得できたろうな。
青葉:若作りだったとか?
木山:いいや。作ったんじゃない、本当に若かったんだ。
青葉:じゃあ、その人は誰?
木山:だから、俺のおばあさんだよ。
青葉:何だか話が噛み合わないな。
木山:俺には、その女性が自分のおばあさんには思えなかったんだけど、結局は俺のおばあさんだった。その自然の摂理から外れた若さこそ、おばあさんがナイトメアの足手まといだった理由なんだ。
青葉:?
木山:俺が訝しげに、家のそばで立っているおばあさんを見ていることに、伯母は直ぐに気づいた。そして、
ああ、哲くんもビックリするわよね。あたし達だって地下の部屋から出てきたお母さんを見て、本当にお母さんなのか疑ったくらいだもの。だって、20年以上も経ってるのに、地下の部屋に入った頃のままのお母さんなんだから。
と言った。さらに伯母は、
若いけれど、間違いなく俺のおばあさんだと、確言した。
それを聞いた母も立ち上がり、
そうよ。わけあって長い間、年を取らかったけど、あの人が、あなたのおばあさんよ。
さあ、挨拶に行きましょう。
そう言って、俺の背中を押した。俺は背中を押されながら前進する。
おばあさんは、段々と近くに来る俺を何とも言えない顔で見ていた。そんな表情をしていたのは、その時のおばあさんの心境が喜びと哀しみが混ざりあってたからだろう。でも、哀しみの方が強かったと俺は思う。
青葉:喜びは解る気がするけど、哀しみのはどんな哀しみ?
木山:喜びは、おばあさん自身が眠りから目を醒ますことができたこと、娘達がナイトメアに狩られることなく無事だったこと。そして、俺のこともかな。孫という存在がいること。
哀しみは、長い時間が経っていること。それに尽きるだろうな。長い間、眠ることを強制されたおかげで、おばあさんは家族と離れることになってしまった。きっと思ったより長い期間だったんだろうな。娘達は大人になってしまっていた。母親である自分が育てることなくな。しかも、自分は何故か年を取っておらず、娘達は自分と同じ年くらいになっていた。それは、哀しいことだと思う。それから、母親が亡くなっていたことも知った。これは何よりショックだったはずだ。
青葉:母親?
木山:俺の曾祖母だよ。おばあさんの母親のこと。
曾祖母は、おばあさんが地下の部屋に入って眠りに就いてから、伯母と母と一緒に暮らしていたんだ。
青葉:おばあさんに、娘二人を託されたんだよね。
木山:そう。それで、農家をしながら曾祖母は伯母と母を育て上げたんだ。
青葉:苦労したろうね。
木山:まあ、曾祖母にとっては慣れない土地だし、まだ子供の二人の孫を育てるには年齢的にもきつかっただろうから、苦労はあっただろうな。でも、元々が富農の娘で貯蓄はある程度あったみたいだから、どうやら金銭面での苦労はなかったみたいだけど。
青葉:そうなんだ。
木山:その曾祖母は、伯母が成人した頃に亡くなってしまっていたんだ。
おばあさんにとっては、深い哀しみだっただろうな。後におばあさんは、ナイトメアに、夫の命だけではなく母親も奪われた、と言っていた。
何せ、おばあさんが眠りを強制されている間に曾祖母は亡くなったわけで、本来は一緒にいられる時間をナイトメアに取り上げられたんだからな。
青葉:確かに、母親が亡くなっていたことを知った後では、いくら孫の顔を初めて見ても複雑な心境だろうね。
木山:俺が挨拶をすると、おばあさんは俺の頭に手を置いてくれたけど、言葉は出なかった。変わらず、何とも言えない表情をしていたよ。
青葉:伯母さんとお母さんは、おばあさんか年を取ってないことに何で直ぐに納得出来たの?
木山:最初は混乱したし疑ったみたいだけど、直ぐに貘からの説明があったんだ。それを聞いて本当に自分達の母親だと確信できたみたいだな。
青葉:その説明とは?
木山:おばあさんは、ナイトメアから年を取らないようにされていた。という説明さ。
青葉:ナイトメアか何でそんなことをするの?おばあさんは狩りの獲物なのに。
木山:ナイトメアが意識してそうしたんじゃないんだ。それもナイトメアの能力だよ。
青葉:どんな能力?
木山:狩りを確実にするための能力さ。
ナイトメアは、人の夢の中に入り込み、夢の主に命を渡すよう説得する。ほとんどの人は直ぐに諦めてしまい、ナイトメアに自らの命を差し出す約束をしてしまう。が、たまに精神力が強く諦めの悪い者もいるんだ。夢の主は眠っているから、食べることも飲むこともできない。だから、諦めの悪い者はそのうち衰弱して眠りながらあの世へ逝ってしまう。そうなるとナイトメアは、エネルギーを自身に吸収できず無駄骨を折るだけになってしまうだろう。そんなことを防ぐ為に、ナイトメアには入り込んだ人間に自分のエネルギーを与え続ける。そんな能力があるんだ。
青葉:うーん。
木山:ナイトメアは人間を狩ると、その人間のエネルギーを吸収する。だから狩りをしていれば永遠に生きられるんだ。老いはなく、エネルギーが切れるまで生きられる。俺たち人間とは栄養の取り方も体の造りも根本的に違うんだよな。
それで、ナイトメアは自分が前に狩りで得たエネルギーをおばあさんに与え続けていた訳だ。でも、人間が必要なビタミンとかカルシウムといった栄養素を与えることはできない。ナイトメアには不必要なものだから持ってないし、与えることは出来ないんだ。でも、ナイトメアが持っているエネルギーは人間が必要な栄養素なんかより効果覿面。ナイトメアの送るエネルギーは人間には不老という形で現れるんだ。だから、おばあさんは年を取らなかった。とにかく、それは貘との戦いにおいてナイトメアを苦しめた。エネルギー補給ができない状態で、自分の生命維持だけでなく、おばあさんの不老の為にもエネルギーも消費しなければならなかったからな。戦いに入る前に蓄えていたエネルギーを自分の為だけには使えなかった。エネルギーをおばあさんに送らなければいいと思うだろうけど、それは狩りを確実にするために勝手に発動してしまう能力で、ナイトメアの意思ではどうしようもないんだ。
青葉:それが、おばあさんがナイトメアの足手まといになった、ということの理由なんだね。そして、差しの勝負ではなかったという理由だね。ナイトメアはおばあさんにエネルギーを費やし疲弊が早かったわけか。
しかし、エネルギーを奪おうとする相手にエネルギーを与える能力なんてね。
木山:普通なら、いくら精神力が強い相手でも二週間もすれば諦めて狩られてくれる。その間、エネルギーを分け与えたところで微々たるもの。狩ってしまえば何年分ものエネルギーを吸収できるわけだからな。本来なら有効な能力だよ。ただ、このケースは特別で、ナイトメアにとって能力が足枷になってしまった稀有な例になったんだ。
青葉:まあ、稀なケースだろうね。貘との戦いなんて想定外だろうから。しかし、ナイトメアにとって、この戦いは自らの能力が裏目に出ることばかりだ。
木山:伯母と母は、貘からそんな内容の説明を受けたんだ。そして、母親を救ってくれた恩人の言葉なので安心して信じた。いや。人ではないけど……。それまでも、母親が地下の部屋で何十年も眠りに就いていたり、その地下室に結界が張られて近付けなかったりと、不思議なことには慣れていたから、納得も早くできたようだな。
青葉:ああ、なるほどね。
木山:おばあさんへの挨拶を終えた後のことだけど、伯母は貘を含めてその場にいた全員を家の中に招き入れたんだ。貘は去ろうとしていたが、伯母は強く引き留めた。
青葉:貘は、おばあさんだけでなく家族の恩人だもんね。簡単に帰すわけにはいかないと考えたのかな。
木山:当然その気持ちはあっただろうな。だけど伯母は貘に訊きたいこともあったんだ。
青葉:それは?
木山:ナイトメアのことだよ。
青葉:どんなこと?
木山:ナイトメアはどこに行ったのか、もう戻ってくることはないか、そんなことだよ。
つまり、家族がまたナイトメアの脅威に晒されることはないか心配で、貘に確認したかったということだな。
青葉:当たり前の思考だとは思うけど。それで、貘は?
木山:安心していい、と答えた。
が、伯母も母も不安があったようで、ほとぼりが冷めたらまた戻ってくるかもしれない、なんて言って貘に訴えるように心配事を繰り返した。おばあさんは黙っていたが、やはり不安はあったと思う。そこで、貘はこう言った。
心配しなくても、二度とこの国には戻ってきやせん。あのナイトメア、今後は長く存在しないでやしょう。近いうちに消されやす。きっとまだ産まれて百年くらいしか経ってない若い悪魔でやしょうが、調子に乗って少し暴れすぎでやす。故国では悪魔祓いと対立して鈴をつけられ、この国ではあたしら貘と対立的しやした。あまり利口とは言えやせん。他の土地に行くらしいですが、またそこでも、人間か、あたしらのような者と悶着を起こしすでやしょう。運が尽きるのも遠くはないと思いやす。本来、あたしらみたいな者は目立たずにいるべきなのでやす。目立つ者は破滅が早いのが常でやすから。 それに、ほとぼりは簡単には冷めやせんよ。いや、貘は寛大でやすから、あのナイトメアが消滅しなければ近い将来に赦しはしやすが、近い将来とはいえ、それは人間が赤ん坊から棺桶に入る時間を軽く超える期間はありやす。あたしらの寿命は人間のそれとは比べものになりやせん。時間の感覚は全く違いやす。でやすから、あのナイトメアを恐れる必要はありやせんよ。それから、お礼をあたしにいう必要は、もうありやせん。 あたしらにとっては、20年や30年は大した年月ではありゃしやせんから。まあ、長かったと言えば長かったでやすが、皆さんに比べれば、もうあたしは長いこと生き抜いてきやした。ナイトメアと何十年と戦ったとはいえ、あたしにとっては微々たる時間でやす。そして、あたしは創造主である人間と対立することはありやせんから、悪魔祓いに消される心配もありやせん。これからも長く生き抜いていくことでやしょう。だから気にすることはありやせんよ。
と。
青葉:寛大だね。
木山:本心でのセリフだろうから、その通りだな。
青葉:しかし、ナイトメアが人間の負の感情から産まれたというこので説明がつくとして、貘は何で生まれたの?
木山:人間は負の思考ばかりじゃない ということさ。悪魔を利用しようとする思考とはかけ離れた考えもできる者がいる。誰かが想像した悪夢を食べてくれる貘という霊獣に魅力を感じた人間が、きっと多くいたんだと思う。
青葉:そうかもね。
木山:貘は、伯母と母を安心させると、おばあさんに引き留められるのを振り切って去っていった。長い期間を戦いで拘束されていたから、早く自由になりたかったんだろうな。何処に行ったのかは判らないけど、自分の居心地の良い所に帰ったんだと思う。
貘がいなくなった後は、おばあさんが戻ってきたことを祝ったが、それは内輪のこと。割愛するよ。
青葉:わかった。
木山:おばあさんは地下の部屋からやっと出たものの、20年以上もかかり本人として世間に出ることはできず、伯母と母の従姉として、山村で伯母と一緒に二人で住むことにした。山村の人達はおばあさんを見て伯母に、
行方不明になったお母さんに良く似ている。生き写しだ。
と皆、口々に言った。
青葉:本人だからね。
木山:伯母は、
母方の従姉だから、母に似てるところがあって当然。
という返答をその都度したらしい。山村の人達も、それ以上は何も言わなかった。年齢が合わないから、まさか本人が戻ってきたとは思わなかっただろうしな。
青葉:だろうね。
木山:その後も、俺は夏休みになると毎年おばあさんと伯母が住む山村を、母と訪れた。 それは今も続いていて、今年の夏にも行ってきた。同じ年くらいになった、おばあさんと伯母がいつも迎えてくれる。もちろん、来年も行くつもりだ……。
これで俺の話は終わりだよ。
青葉:ありがとう。話してくれて。
木山:この話、青葉は信じるか?
青葉:昔のことになるほど、記憶は不確かなもの。現実とは違うところが何処かにあるとしても、君が言ってることは、君にとって嘘はないと思うよ。
木山:遠回しな言い方だな。どっちだよ?
青葉:君は嘘をついていない、そう思っている。
木山:じゃあ、信じるんだな。
青葉:そうだよ。
木山:実は俺はな、本当にあったことか確信が持てないでいるんだ。青葉のことを疑っておきながら、こんなこと言うのは自分のことを棚に上げていると自覚している。いや、体験したことだし現実だとか非現実だとか考えることもなく、現実だと思ってたんだ。でも、それは中学生くらいまでだった。そのうち自信は揺らぎ、今は自信は何処にもない。それどころか、現実にはなかったことだと思う気持ちの方が強くなってるんだ。
青葉:何故?
木山:うん……。
おばあさんは、地下の部屋を出られたが、20年間以上のギャップがあり、本人にとって未来の世界に来たみたいだったらしい。慣れるまでには時間が必要だった。それに山村の人達も20年経つと世代が交代しているところもある。馴染みの人達が鬼籍に入ってしまていたり色々と戸惑ったと本人がいっていたよ。でも、あの件から翌年の夏に、母と俺が山村に行った時は、少しずつ慣れてきたようで明るくなり、俺のことも凄く可愛がってくれた。そして、よく話をしてくれたんだ。話とは、ナイトメアや貘のことだ。
青葉:ナイトメアの話をしてくれたんだ。嫌な記憶だと思うけど。
木山:俺も小学生だったから配慮ができなかったんだな。だから、伯母や母にはよくたしなめられた。ナイトメアと貘の話をおばあさんに訊くと、伯母と母に止めるよう注意されたな。でも、おばあさんはそこまで嫌がってはいなかった。伯母や母が気を回しすぎていたと俺は思っている。だって、おばあさんは俺の訊くことを嫌がらずに答えてくれたんだ。それどころか、おばあさんの方からナイトメアのことを俺に話してくれることも多々あった。だから、俺はナイトメアや貘のことを、自分で体験してないこともたくさん知っているんだ。
青葉:おばあさんは気持ちの整理ができていたのかな。達観というか。
木山:どうだろう。おばあさんも誰かに話したい気持ちがあったのかもしれないな。
青葉:おばあさんと、ナイトメアや貘の話をしていたのならば、現実にあったことか違うのかを何で疑うの?むしろ現実にあったんだと確信するのでは?
木山:それが、段々と状況が変わった。
俺が中学に上がった頃から、おばあさんはナイトメアや貘のことを話さなくなったんだ。それまで毎年ナイトメアや貘の話をおばあさんは話していたし、同じことを話すことも多くなっていたから、俺の方も訊かなくなってきてはいたんだけど、おばあさんからは本当にパッタリと話さなくなった。
青葉:へえ、それで。
木山:それで、中学も最上年になると、もう全く変わってしまった。
青葉:何が?
木山:俺がナイトメアと貘のことを訊くと、おばあさんは俺の顔を不思議そうに見つめて、
ナイトメアとか貘とか、何のこと?若い人の流行の話はよく分からないのよ。
と言った。それは、とぼけている感じではなかった。とはいえ、記憶してないのは有り得ないことだろう。自分の人生を変えてしまった一大事を忘れるはずがない。
俺は暫く食い下がったけど、その結果おばあさんに、
ごめんね、その、ナイトメアとかいう悪魔の話はついていけないわ。
と謝られてしまった。
ナイトメアや貘の話をしたくないというわけではなく、本当に記憶がないんだと俺は直感した。これはおばあさんの体に異変が起きたのだと思った。ハッキリいえば、当時の浅はかだった俺は認知症だと思った。
俺は伯母に直ぐに報告した。おばあさんがおかしいことを。
すると、伯母は、どうおかしいのか訊いてきたので、おばあさんにはナイトメアや貘の記憶がないことを伝えた。
だが、なんと伯母にもナイトメアや貘の記憶がなかった。俺が何の話をしているのか分からず、おばあさんと同じように不思議そうな顔をして俺を見つめていた。俺は必死にナイトメアと貘のことを伯母に思い出させようとしたが無駄だった。まあ、忘れるはずないことを忘れている時点で、思い出させようとすることが無理なことにも気づいていたけどな。俺は最後の砦である母をの所に行って、二人の異変を告げたが、母にもナイトメアと貘のことの記憶は抜け落ちていた。
もう来年には高校生になるんだから、夢みたいなことを言ってないで、しっかりしなさい。
なんてことを言われてしまった。
青葉:どうしてそんなことに?
木山:解らない。全く解らない。
そして、異変はそれだけで終わらなかった。
青葉:他に何があったの?
木山:おばあさんは、外では伯母や母の従姉ということにしていたから、家では普通に「お母さん」と伯母や母から呼ばれていたけれど、山村の人達の前では、伯母も母も、「姉さん」と呼んでいた。俺も、家の中では「おばあさん」だったけど、外では「おばさん」と呼んでいたんだ。だけど、おばあさん達の記憶がおかしくなった翌日、家の中でおばあさんに、「おばあさん」といつも通り呼び掛けると、
あら、やめてよ、まだおばあさんなんて呼ばれたくないわ。
と、不快そうに言われてしまった。
それ迄は何年も何も言われなかったのにだ。確かに外見はおばあさんではなかったけど、立場としては俺のおばあさんであることに変わりはないだろう。だから不満に思って俺はその後直ぐ、母にその事を話した。すると、
それは失礼なこと言っちゃったわね。姉さんに謝っておきなさいよ。
と怒られた。怒られたのは兎も角、母は家の中なのに、自然におばあさんのことを「姉さん」と呼んだんだ。そして、伯母もおばあさんのことを「姉さん」と呼び始めていることにその後すぐに気付くことになった。
どうなっているんだろう?何だか変なことになっている。そう思ったよ。
そして、おばあさんは伯母や母を娘だと思っているのだろうか。逆に、伯母や母は、おばあさんを自分たちの母親だと思っているのか?そんな疑問が一番に浮かんだ。俺はそれを確かめることにした。
母と二人になった時に、
おばあさんは、今は何処にいるの?
と訊いてみた。
母は、
何度も話したじゃない。行方不明になって分からないのよ。
と答えた。俺は目を瞑る。思った通りの答えだが、期待した通りではない。
俺は、
おばあさんに会ってみたい。
と、希望を込めて言った。
希望とは、母の「いつも会ってるじゃない。ふざけてるの?」という言葉だったが、
「お母さんも、あなたに会わせたいと思っているの。いつか会えるわ。きっと帰って来てくれるわよ。」
と、少し悲しそうな顔をして言った。希望は砕かれたんだ。
その事に、伯母にも似たようなことを言ってみたが、やはり同じようなやり取りになってしまった。
俺は、とても怖くなった。おばあさん、伯母、母、三人ともおかしくなっていると思った。ナイトメアと貘に関しての記憶が丸でない。それどころか、三人は親子関係だったはずが、従姉妹関係になってしまっている。恐ろしいことが起きていると思ったよ。
でも、よく状況をみてみると、逆に三人は俺のことをおかしいと感じているようで、俺の言動が普通ではないと心配していた。
俺はそこに気づき、思ったんだ。
三人同時におかしくなるより、俺が一人おかしくなっている方が現実的だと。
おかしいのは俺だけだと。
そう考え、今度は自分がどうかしてしまったことに言い様のない恐怖を覚えた。
青葉:おかしくなってる人が、自分がおかしくなっていると気づくものなのかな?
木山:さあ、どうだろう。
兎に角、俺は自分の考えを捨てて、三人が感じている現実を受け入れることにした。受け入れれば、俺も普通に戻れるとその時は考えたんだ。受け入れられなくても納得できなくても、三人に合わせることにした。合わせると、三人は俺を心配しなくなった。
青葉:簡単には納得できないよね。おばあさんの写真と、おばさんを見比べてみるとかしたの?
木山:それは、見比べてみたさ。おばあさんとおばさんは、とても似ていたよ。でもな、おばあさんとおばさんは、生き写しと山村で評判になるほど似ていることに最初からなっていただろう。あまりにも似ているとは思ったけど、血の繋がりは有るわけだから、あり得ることなんだよな。
青葉:おばあさんが、おばさんだという証拠にはならない訳か。
木山:俺は今でもおばさんを、伯母や母の従姉妹ではなく、俺のおばあさんをだと思っているけど、三人の前ではその気持ちを隠しているんだ。それは釈然としないことだけど、日常生活に特に支障がないことでもあるんだ。俺は自分がおかしくなっていると心配もしたけど、自分の家に帰り、学校に行っても誰も俺をおかしいとは思わず、いつも通りに接してくれるしな。俺はおかしくなっている訳ではなかったんだ。だから迷う。俺は本当にナイトメアや貘と遭遇したのだろうか、とな。
青葉:何でそんなことになっているんだろう。
木山:さあ。俺にも解らない。ただ、こう貘は言っていたんだ。
青葉:何?
木山:ナイトメアと別れ、貘に手を引かれて歩き出したあと、俺は直ぐに振り向いたけど、ナイトメアはいなかったと言っただろう。そして、そんな俺に貘が振り向いても無駄だと言った。
青葉:うん。
木山:その後に貘は言ったんだ。
ナイトメアは何処かに旅立ちやした。ですが、それもどうでやしょうかね。本当にナイトメアはいたんでやしょうか。
あたしらは不確かな存在なんでやす。塵あくたの方が存在は確実なほどでやす。あたしらは霞みみたいなもんでやすから。本当にあたしは存在しているのか?あたし自身がそう思っているのでやす。
人間には、想像を創造する能力がある。それは本当でやしょうか?もしかしたら、人間には、想像をどうしようもない程に実際にあると思い込む能力がある、というだけなのでは?あたしらは人間の思い込みの産物ではないでやしょうか?坊っちゃんは、今あたしと一緒に歩いていると思っているでしょうが、本当は、あたしはいなくて、後ろを着いてきている犬だけが坊っちゃんの傍らにいるだけなのかもしれやせんよ。
と。
青葉:ナイトメアと貘は本当は存在しない、ということだね。でも、だからと言って、三人の記憶が変化する理由になるの?
木山:貘の話は続くんだよ。
あたしらは、人間にとって願望を叶える理由になるだけの存在なのかもしれやせん。
とな。
青葉:?
木山:これは俺の解釈だけど、
山村で突然に五人もの死者が出た。伯母と母は、その犠牲者の中に父親がいた。そして、直ぐに母親が失踪した。幼い二人には耐え難い衝撃的なことだよな。両親が突然いなくなってしまうんだから。だから、受け入れられない現実を変更するために、自分の都合のいい現実を作る為に、ナイトメアと貘を産み出した。
父親は遺体を見ているから自分達を騙せなかったけど、母親はどこかで生きている可能性がある。そして母親が自分達を見捨てる筈がないと思う。
父親が亡くなったのはナイトメアのせい。母の失踪は、ナイトメアと貘の戦いで地下の部屋に閉じ込められたせい。そんなことにしたんじゃないかな。きっと考えたのは伯母だと思う。考えて、そして自分で信じ込み、さらに母にも信じさせたんだ。母も幼かったから姉の言葉を抵抗なく信じた。いや、信じたかった。そして時が経ち、幼い俺も素直に大人の二人の話を信じた。
ナイトメアと貘は伯母の、母親に捨てらてはいないという哀しい思い込みの産物なのかもしれない。
青葉:でも、山村で突然五人亡くなったのは本当でしょう?
木山:ああ。でもな、当時のことを調べてみたら、確実ではないとしながらも山中で人体に有害なガスが発生し、五人はその犠牲になったのだろう、と警察の発表が出ていたんだ。それから鐘の音のことだけど、山村の人が皆聞いたという話は、俺は伯母と母からしか聞いたことがないんだよな。鐘の音が本当にあったのかどうか。
青葉:でもでも、おばあさんは地下の部屋から出てきたわけだし……。と言うか、君のおばあさんだか、君の伯母さんやお母さんの従姉妹だか判らないけど、兎に角、地下の部屋から出てきた人は今でも存在してるんでしょう?
木山:おばあさんだか、おばさんだか俺にも判らないけど、その人は存在はしている。でも確かではないかもしれないじゃないか。
青葉:?
木山:存在していると、伯母、母、俺が信じ込んでいるだけかもしれないだろう。つまり、あの人はナイトメアや貘と同じような存在かもしれない。
青葉:だけど、何で最初おばあさんだったのに、君の伯母さんとお母さんの従姉妹である、おばさんにならくちゃならないの?
木山:それは、伯母と母の母親である役割が終わったんじゃないかな。母親に捨てられたという思いが、もう昇華されたんだよ。そうなると、自分達と同じ年くらいの母親では矛盾が生じるだろう。だから、役割を変えて母親から従姉妹になった。のかもしれない。ともすると、その内あの人はいなくなるのかもしれない。
青葉:………。
木山:でもな、この考えは一つの可能性に過ぎないんだ。俺が独断で考えた不確かな考えでしかないんだ。そんなことを自分で考えながら否定を自分でもするくらいにな。だって、やっぱり夏に俺が山村を訪れれば、おばあさんは、おばさんとして存在してるんだからな。
青葉:わけが解らなくなってきたよ。
木山:さあ、今度こそ俺の話はおわりだ。
青葉、俺はナイトメアと貘に本当に遭遇したと思うか?してないと思うか?
…凄く良かったです…!!!
伏線から回収迄、
とても良かった!面白かった!
文庫で読みたいw
大作の執筆、お疲れ様です。
有難うございました!!
すごく面白かったです!
素材から構成、余韻まで素敵ですね( ´ ▽ ` )ノ
楽しく読ませて頂きました!
素敵な話にもっと会ってみたいです
次回作も楽しみにしてますね♪
寒くなってきたので
お体には充分気をつけて下さい☆
匿名さん、
この話の最初のコメントを匿名さんがくれたので、書き上がったよ。目的ない潜考も、書き上げられそう。
izmさん、
お気遣い、ありがとうございます。
余韻か……。この話は、最後に青葉が、ナイトメアと貘か本当にいたのか、またはいないのか、考えを話して終わりにするパターンもあったのだけど、それを書かないことで余韻が生まれたのかも。
コメントありがとう!
いろんなパターンを考えついて、さらにそれを選ぶセンスも才能なんでしょうね
表に出たがってるお話がたくさんありそう♪
青葉さんが楽しめるペースで続けていって下さいね☆
才能や創作活動って
一種の脳の過活動なのかもしれないですね
青葉さんにはきっと
お話の種が眠ってると思います
インスピレーションが閃くのを
気長に待ってますね
余計な事かもですが、
沈んでたら時々アゲてみます^^;
izmさん、
ごめんね。もう1つのトピて小説を書いていたので、こっちは見てなかった。
今は脳ミソが平常運転。
まあ、枯渇したのならばそれで良いんだよ。
あまり人が来なくて、暇で書いてみた。
そんな感じ始めたことだから。
よく続いたと思う。
でも、ここまで来たら3,000迄はいきたいな。
呟きで持っていこうと思ってる。
夏休み、僕の心は浮かれていた。
お盆と正月は、母の実家である祖父の家に家族で数日間泊まるのが恒例になっている。
年の近い従兄弟達と会えるので、僕にとって最高のイベントだ。
祖父の家は、ものすごい田舎というわけではなかったが、すぐ近くに小さな山があり、そこには緩やかな川も流れていて、夏は僕や従兄弟達が遊ぶには最適の場所だった。その山は丸々祖父の土地で他の人が入ってくることもなかった。
従兄弟達と一緒に山で遊ぶのは本当に楽しいことだった。
今、まさに父、母、そして妹の円(まどか)と祖父の家に、父の運転する車で4時間かけて着いたところだ。
祖父や祖母、おじさんやおばさんと挨拶をした。そして、従兄弟達との再会。
従兄弟達といっても、人数は少ない。僕達兄妹と他に二人だけだ。
一人は神村(カミムラ)柚希(ユズキ)、僕の一つ年上の小学六年生。母の兄の子で、祖父達と一緒にこの家で住んでいる。
もう一人は、南(ミナミ)泰直(ヤスナオ)。妹の円と同じ年で、小学三年生。母の妹の子だ。
さて、従兄弟達と何をして遊ぼう。長時間車に乗った疲れも何のその。まだお昼過ぎ。僕の頭の中の大半がその事で占めた。
そう。大半が占める。が、他にも僕には興味が湧くことがある。
それは、毎回この祖父の家に来ると起こる事だ。
それが今回も起きるだろうか?
それは僕にとって、とても不思議なことだった。
その不思議なことは、ある条件で起きる。そして、それは今ではない。
「塁兄ちゃん、泳ぎにいこう!川に。」
僕になついている泰直が声をあげる。
僕も、弟の様に思っていてる。
塁とは、僕の名前だ。僕は酒見(サカミ)塁
(ルイ)という。
「そうだね、ヤス君。行こうか!」
泰直はヤス君と皆から呼ばれていて、僕もそう呼んでいた。
「あたしも行きたい!ユズちゃんも行こうよ!」
円が、ヤス君に同調して柚希ことユズちゃんを誘う。
円は、年上の女の子であるユズちゃんの事が大好きだ。ユズちゃんもそんな円を可愛がっている。
しかし、ユズちゃんは同意しない。
「天気予報をさっき見たんだけど、これから雨が降るんだって。マドちゃん、今日は家の中で遊ぼう。面白いゲームを買ったから、ね。ルイ君も、ヤス君も一緒にやろう。」
それを聞いて僕達三人は不満の表情をする。
「明日は晴れるから、明日は絶対に泳ぎに行こう。だから、今日は家であそぼう。本当に面白いゲームなんだから。」
ユズちゃんの言葉に説得されて、僕たちは柚希の部屋に行って夕飯の時間までゲームをした。
夜は、従兄弟達四人で、六畳の部屋で寝ることに毎回なっていた。
ヤス君は、最初の内ははしゃいでいたが、僕や円よりも遠方から来ているので、疲れて直ぐに寝てしまった。僕も、円やユズちゃんと話をしていたが、いつの間にか眠りに就いた。
よく晴れた日だった。
僕達従兄弟同士の五人は川に来ていた。
ヤス君が僕の背中に乗り掛かってくる。僕はヤス君を背負いながら、川の中を歩く。ヤス君の笑い声が背中越しに聞こえた。
川辺では円とユズちゃんは、ボールで遊んでいる。
「ねえー!せっかく持ってきたんだから乗ろうよ!」
円とユズちゃんの後方から、女の子の声が響く。
小桃(コモモ)の声だ。小桃は、モモちゃんと、呼ばれている。僕とは同級生だ。
モモちゃんは、祖父の家から皆で担いで持ってきたビーチボートを引きずりながら、川に入ろうとしていた。
「モモちゃん、僕も乗る!行こう、ルイ兄ちゃん!」
ヤス君は僕の背中から降りて川から上がると、モモちゃんとビーチボートの方に走り出す。そして、
「ルイ兄ちゃん、早く行こうよ!」
と、僕を促す。
円もユズちゃんの手を引っ張って、モモちゃんの所に走り出していた。
僕も急いで駆けつける。
「集まったわね!さあ、出発しよう!」
モモちゃんは、バランスを取りながらビーチボートと最初に乗る。僕を含む四人はその後に続き乗り込んだ。
緩やかな流れの川でスリルは物足りなかったが、冒険をしているようで楽しかった。
皆で笑い声を上げて、川下りを楽しんだ。ある程度下ると、ボートを川から上げて、元の位置まで皆で運び、また川下りをする。そんなことを全く飽きることなく繰り返した。
そこで僕は目を醒ました。
そして思う。
やはり不思議な事が起きた、と。
不思議なこと、それは、
僕は祖父の家に来ると、何故か祖父の家に来ている時の夢しか見ない。自宅や学校は出てこない。友達も近所の人も出で来ることはない。 そして、祖父の家の中で、祖父母やおじさんおばさんと話をしていたり、山の中で従兄弟達と遊んでいたりと、祖父の家にいる時の日常のことだけを夢に見る。
青葉さんの呟き、好評でしたね
3000まで後ちょっと!
じゃあ、青葉さんに質問しちゃいます
最近よかった本や映画はありました?
大雪で孤立した町の人には何が起きそうですか?
ゲラシメンコ彗星が唄ってたのはどんな歌だと思います?
あれ、変な質問になっちゃいました…
スルーして吉ですね(笑)
最近は「海賊と呼ばれた男」を読んだよ。一番最近は観た映画は同じ著者の「永遠の0」だね。
大雪で孤立したら、町の人に起きるのは、互助じゃないかな。
そういうことを訊いた訳じゃないのかな。
ゲラシメンコ彗星か
あの彗星は「歌う彗星」とロマンチックに呼ばれているけど、凄い悪臭らしいから……。孤独な嫌われものみたいな歌かなぁ。
う~ん、あまり広がりそうにない返答だね。せっかく面白い問題提起してもらったのに……
内容が日常だなんて、夢だというのに夢らしくないと思う。もちろん日常ありそうな夢を自宅にいる時にも見ることはあるけど、そんなに多くはない。どこか突拍子もないことが大体の夢にはある。だけど、祖父の家いる間は、日常のような夢だけなのだ。現実に有り得ないような内容は一度も見たことがない。さらに、夢らしくないと思うのは、必ず内容を覚えていることだ。しかも鮮明に。自宅にいる時は、夢など直ぐに忘れることが多いのに。
とはいえ、ひとつだけ夢らしいところがある。
しかし、おかしな話だと思うかもしれないが、その、ひとつだけ夢らしいところが、僕にとって一番の不思議なことだった。
どうしてこんなことが僕の身に起こるのだろう……
考えていると、隣で寝ていた円が起きたようだ。
「お兄ちゃん、おはよう。今日は晴れだから、泳ぎに行けるね。」
起きたばかりなのに爽快な顔つきだった。円は直ぐにユズちゃんを起こして、今日は何があろうと川に絶対に行くと宣言した。
御飯は皆で食べる。三家族いるので人数が多く、普段はあまり使っていないという和室の広間に食事の時は集まる。
ガヤガヤとした雰囲気の中で朝食を摂っているとヤス君が、
「早く食べて、川に行こうよ!」
と、僕に言った。ご飯を食べている途中だというのに待ちきれない様子だった。
「ヤス君、ビーチボートに空気を入れてから行こう。去年も乗ったやつ。楽しかったから今年も持って行こうよ。」
ユズちゃんが、そう提案する。
「あっ!去年乗ったあのボート?乗りたい!持っていこう!」
ヤス君はさらに、待ちきれなくなる。
僕達はヤス君に強く促され、朝食をゆっくりと食べることは出来なかった。
朝食が終わると、祖父に庭の倉庫を開けてもらった。そこにはビーチボートか仕舞ってあった。
ヤス君のお父さんがビーチボートに空気を入れてくれる。入れ終わると、僕達四人は、それを担いで川へと向かって走り出す。
山までは近く、二、三分で着いたが、山中の川までは、急ではないが登り道を行くことになり、30分程度掛かる。いや、ビーチボートを担いでいるとはいえ、小走りをしているので、もう少し早いだろうか。
ボート担ぎながら、このボートに乗るのは一年ぶりだけど、
今日、二度目のボート遊びだ、
と僕は思う。
ボートには夢の中で既に乗っている。夢のことは鮮明に覚えているので、ついさっきまでボートで遊んでいたような気がした。ボートに乗るのは楽しいので嫌な気持ちは全くない。夢も現実も楽しくて、むしろ得をした気分だ。
ボートを担ぎながら、起きて直ぐ考えていたことを再び思う。どうして、現実みたいに感じる夢を祖父の家に来ると、いつも見るのだろうか。そして、それを考えていると、その夢の中で唯一の夢らしいところなのに、それが一番不思議な感じがすること、必ずそれに考えが行き着く。
それは、
現実では僕達は四人なのに、夢では五人になることだ。
夢の中では、小桃という僕と同じ年の女の子が出てくる。皆から「モモちゃん」と呼ばれていて、僕達は従兄弟同士なのだ。
僕は夢の中で、小桃が従兄弟であることを自然に思っている。だから当然、小桃がいることに違和感がない。小桃がそこにいることを当たり前と思っている。
まあ、夢とはそんなものだろう。全く知らない人がいても受け入れる。夢ならばよくあることだ。だからこそ、唯一夢らしいところと思える。
そんな中、不思議なのは、夏と冬に祖父の家に来ると、夢には必ず小桃が出てくることだ。絶対にだ。本来、存在しない人が、そんなに頻繁に夢に出てくるだろうか?普通、二度出てきただけでも不思議に思うだろう。しかも、祖父の家に来ている間だけ限定で、自宅にいる時に小桃が出てくる夢を見たことはない。
小桃に、何か特別なことを感じてしまうのも仕方ないと自分で思う。
しかし、小桃は必要以上に存在を主張してくることはない。
本当に自然に、夢の中にいるだけだ。
僕とヤス君が庭でキャチボールをしていると、その横を円と走り抜けて行ったのをチラリと見ただけで、その日の夢にはそれ以上は出てこない様なことも珍しくなかった。
川に着くと、小桃のことは頭の中から何処かへ行ってしまい、僕達ははしゃぎながら川で水遊びをした。そして夢と同じ様に、何度もボートで川下りをした。
十二時近くになるとユズちゃんが、
「そろそろ帰ろう。お母さん達がお昼ご飯作って待ってるから。」
と言った。
だが、僕達はまだ遊び足りない。
「ユズちゃん、もう一回だけ川下りをしよう。」
僕がそう言うと、円とヤス君かうなずく。
「また、午後に来ればいいんだよ。早く食べて、戻ってこよう。」
ユズちゃんは、僕達を説き伏せた。
戻ると、既に昼ご飯はできていて、僕達は大人達を待たせていた。
出掛ける前、12時には戻ってくるように、きつく言われていたので、僕達は叱られることになってしまった。
それぞれの母親が中心になってガミガミと説教をする。僕達は大人達の怒りがおさまるまで待つことにした。
程なくすると、
「皆そろそろ反省したでしょう。ご飯も冷めてしまいますし、これくらいで勘弁してあげて下さい。」
と、温厚なヤス君のお父さんが説教を止めに入ってくれた。
三名の母親達はそれで矛を収めるが、僕のお母さんは怒り足りないようで、
「今日はもう外に出ないで、家にいて反省していなさい。」
と鼻息を荒くしながら、とんでもないことを言った。こんなに楽しみにしているのに大人は横暴だ。
「お母さん、ボートを置いて来ちゃったんだ。取りに行かないと無くなっちゃうよ。」
僕は、何とか午後も川に行けるよう、突破口を開こうとするが、壁は厚かった。
「一晩くらい置いておいても誰も盗ったりしないわ。だいたい、あの山には誰も来ないわよ。どうせ明日も行くんでしょう。」
僕達は失意の中で昼食を摂ることになった。
食後、外を見ると太陽が燦々と照りつけ、川で泳ぐには最良の午後だった。
しかし、外には出られず暇をもて余した。
ユズちゃんは、夕方からやるつもりだった夏休みの宿題をもう初めていた。
円とヤス君は、陽当たりのない部屋で扇風機をかけながら昼寝をしていた。午前中に川で泳いだ疲れが出たのだろうと最初は思ったが、ふて寝だということに直ぐに気づいた。僕も二人に倣い、ふて寝をすることにした。タオルケットを持ってきて、二人に並んで横になった。
暑い日だったが、風通しの良い部屋で不快感はあまり感じなかった。
眠れそうだ。そう思った。
考えてみると、現実で嫌なことがあったら、ここでの僕は寝てしまえばいいのだ。寝てしまえば、非常に現実味のある夢が待っている。きっと、現状より夢の中の方がマシだろう。いや、マシどころか川に行って遊べるかもしれない。
少しの間、横になっていると眠気がやって来た。
眠れば、小桃がいるだろうな。
そんなことを考えた。
小桃は、いたい何者なのだろう。
僕の夢の中に出てくるだけの、僕の無意識が作り出した人物、というのが正解だとは思う。だけど、それだけてはない様な気もするし、それだけではないことを期待する気持ちもあった。
最初に小桃の夢を見たのはいつだろうか。ちゃんとは覚えていない。きっと、物心がつく前、この家に僕が初めて来た時から、僕は小桃に夢の中で会っているのだろう。そう思う。
僕にとって小桃は、ある意味、とても当たり前の存在だ。物心がついた時からの同じ年の従兄弟。
僕は幼いころ、小桃が現実にいるのか夢の中だけにいるのか区別をつけていなかった。いや、区別出来ていなかった。
僕は覚えていない事だったが、お父さんが、こんな話を何度かしてくれたことがある。
それは、円がまだ小さく手が掛り、祖父の家に来ても、お母さんは常に円の世話をしていて、僕とお母さんとの距離が開き、逆にお父さんとの距離が近くなった頃のこと。
祖父の家に来ると、僕はお父さんにこう訊く、
「モモちゃんと遊びたい。どこにいるの?」
と。
お父さんは当然、小桃のことを知らない。だから逆に質問する。
「モモちゃん?誰のこと?」
「イトコのモモちゃんだよ。いないの?」
「塁の従兄弟は、柚希ちゃんと泰直君だけだろう?」
「あと、モモちゃんがいるよ。どこにいるの、モモちゃん。」
そう言って僕は祖父の家の中を歩き回り小桃を探す。
そんなことが何度かあったらしい。
お父さんは、まだ幼い僕が、円にお母さんを取られてしまい、寂しさからそんな言動が出たのだろうと分析した様だった。お父さんがこの話をする時は、僕への、からかいが少なからず感じられた。お父さんの分析が当たっていたとしても、子供を冷やかすのが父親のすることだろうか。それはいいとしても、お父さんの考えは間違っていると思う。お父さんの考えた通りの感情が僕にあったとしても、それと小桃とは関係ない。親の気を引こうとして小桃という存在を産み出したとしたら、もう小桃は役割を終えて、とっくに消えているはずだ。それに、小桃が祖父の家のだけ現れるのはおかしなことだ。
新作♪
懲りるも何も..ww
自分もまた、
追わせて下さいね♪
目的ない~の方は
最後迄、拝読できて
大変に嬉しかったですw
支援も兼ねてあげ(^o^)
全国二名の「目的ない潜考」の読者から感想を貰えて良かった。
やしろさん、
ありがとう。
そして、こっちも追ってくれてありがとー
だが僕はそんな反論を心の中に秘めている。言ったところで大人にそういった自分に理解出来ないことは、相談したところで無駄だと知っているからだ。無駄どころか悪くすると、僕が嫌な思いをすることも過去に学習している。
数年前お父さんに、祖父の家の来ると夢に現実にはいない従兄弟が現れること、つまり小桃のことを相談した。
すると、
まだ、そんなことを言っているのか?もう小学生なんだから、そんなこと言ってないでちゃんと勉強するんだぞ。最近成績が下がっているそうじゃないか。
と、本気で相談しているのに取り合わず、何故か勉強するようにと怒られた。だいたい僕の成績が下がっているとは僕自身が初耳だった。つまりお父さんは、子供に相談されたが上手く答えることに自信がなかった。それでも父親の威厳を守ろうとして僕の成績の浮き沈みなんか知らないくせに尤もらしく、勉強するように注意する、というその場しのぎの道を選んだ。簡単に言えば逃げたのだ。
僕はお父さんに失望し、次に血の繋がりはないが叔父であるヤス君のお父さんに相談した。
ヤス君のお父さんは、
それはよくあることで、不思議なことはないよ。
と切り出した。そして、
人間、環境が変わればいつもと違う感じの夢をみるもんだよ。それに現実にはいない人が夢に何度も出てくることは特別なことじゃない、よくあることだよ。
そう話した。
理解出来ない話でも逃げずに答えを出してくれたので、お父さんとは比べ物にならない程の信頼を感じる。が、僕を納得させることはできなかった。
現実にはいない人が夢に何度も出てくるのは不思議ではないと僕も思う。だけど、それが同じ人となれば不思議だと思う。
二人の反応から大体は大人が何を言うかは分かった。そして、もしお母さんに話したねらばお父さんに話した時より、僕は嫌な思いをするのは想像がついた。家はお父さんよりお母さんの方がキツイ性格なのだから。
だから僕は、二年前に大人ではなく、一つ年上のユズちゃんに小桃のことを訊いたことがある。根拠はなかったが、もしかしたらユズちゃんは小桃のことを知っているのではないかと思った。
「モモちゃんのこと知ってる?小桃と言うんだけど。」
そんな訊き方をした。
するとユズちゃんの顔が強ばる。その表情を見て、僕はユズちゃんか小桃を知っているのではないかと期待した。
「……モモちゃん?小桃?」
そう少し間を置いて僕に訊き返してきた。
「僕の夢に出てくるんだよ。ユズちゃん、モモちゃんのこと知らない?」
ユズちゃんは困った顔で、
「そう。ルイ君の夢に出てくるの人なのね。でも、あたしは知らないの。」
と、優しいユズちゃんは済まなそうに答えた。
ユズちゃんの顔が強ばったのは、僕が突拍子もないことを訊いたからの様だ。僕はユズちゃんを困らせてしまい申し訳ない気持ちになった。
この家に来ると夢の中で会う小桃。一体、小桃は何者なんだろう。ただの夢の登場人物にすぎないのだろうか?
隣で寝ている円に問いかける。
「円……、円が今見ている夢にモモちゃんはいないの?」
円はただ寝息をたてて寝ている。
僕も寝よう。
そう思った。
夕暮れ時だった。カラスの鳴き声が聞こえる。
僕と小桃は二人で神社に来ていた。
「ルイ君、あたしのことが気になるみたいじゃない。」
小桃は石段に座りながら飛んでいるカラスを見上げる。
僕もつられて空を見ると、飛び去るカラスとオレンジ色の空があった。
「さっき、寝ているマドちゃんにあたしのこと訊いていたでしょう?」
「え?」
僕は小桃が何を言ってるのか解らない。
「そうそう、ここね、夢の中なんだよ。ルイ君の夢の中。」
そう言って小桃はクスクスと笑う。
「何をいってるの、モモちゃん。そんなわけないよ。」
僕は現実にいる。夢はこんなに現実味はない。
「ねえルイ君、あたしが何者知りたいんでしょう?教えてあげてもいいよ。」
幸せな年越しです…(^^*)
青葉さん作品を拝読して、
まったり(´`*)
手前のトピックへのコメントも
有難うございました..♪
やしろさん、
明けましておめでとうございます!
いつの間にか寝ていた。
起きたら年が明けていた。
もう少し書こうと思ってたんだけど(^^;
「モモちゃんが何者かなんて知っているから、いいよ。僕のイトコだよ。」
僕は小桃の隣に座る。
「ずっと夢の中でそう演じていたからね。でも違うよ。あたし、ルイ君のイトコなんかじゃないよ。」
小桃は僕の顔を見て、またクスクス笑う。
「何を言ってるの?イトコだよ。」
小桃はいつもと違って様子が変だ。
「ルイ君はあたしのことをイトコと言うけど、あたしの名前も知らないじゃない。」
小桃はおかしなことを言った。
「知っているよ。モモちゃんの名前は小桃というんだよ。」
「ああ、そっか。ごめん、名前じゃなかった。名字だね。ルイ君、あたしの名字は?それからあたしの親は誰?」
小桃は改めて僕に質問をした。
僕はハッとする。
分からない。
小桃の名字も誰が親なのかも。
何とも言い表せない気持ちが込み上げてくる。恐怖という言葉が一番しっくりくるだろうか。
そう。小桃が突然得体の知れない人になってしまったことで、僕は小桃に恐怖を感じ始めている。
「ね、ルイ君はあたしが何者か知らないでしょう?」
僕の全身は固まってしまい言葉が出ない。しかし僕は何故今までおかしいと思わなかったのだろう。僕だけじゃない。あの家に集まる親戚達は全員が小桃を受け入れていた。祖父も祖母も伯父さんも伯母さんも皆だ。何で全員が全員、他人である小桃が我が物顔で家に居座っていることをおかしいと思わないのだろう?
黙っている僕に小桃が言う。
「ルイ君が何を考えているのかだいたい分かるよ。でも頭を混乱させる必要はないんだよ。だって、ここは夢の中だから。」
夢の中だから何が起きても不思議ではないということだろう。だけど僕は夢だとは思えない。
明けまして
御目出度う御座います(^o^)
早くも今後の展開が
気になっていますよ(>< )
支援で上げさせて
頂きますね..*
izmさん、
明けましておめでとうございます!
今回は一回一回を短くして、少し書いたらあげられるようにしたよ。その方が自分自身、飽きないような気がする。
やしろさん、
興味を持って読んでくれて、ありがとう。まだ終わりが確定してない。3パターンくらい頭にあるけど、書いている内に決まるんだろうね。
「まあ、今はあたしの言ってることが分からないだろうけど、目が醒めたら理解できるよ。」
言っていることは分かるが、信じることが出来ない。でも今それを言い争っても平行線に終わるだろう。そんなことよりもすぐに知りたいことがある。
「モモちゃん、モモちゃんは誰なの?」
「やっとルイ君は夢の中と現実の疑問が同じになったね。……教えてあげる。あたしが何者なのか。」
小桃はそう言ったのに言葉を発しない。ただ山の合間に陽が沈んでいくのをじっと見ている。
急激に辺りは暗くなってゆく。
僕は不安を感じ始める。
何も言わずに小桃の言葉を待っていたが、陽は完全に沈んだのに小桃はまだ山の方を見ている。
「帰ろう。モモちゃん。」
小桃の答えを聞いてはいなかったが、僕は小桃そう促す。
僕はとにかく早く帰りたい気持ちになっていた。
夏の日は長い。それが完全に暮れてしまったということは、確実にお母さんに怒られる時間だ。普段ならばそれだけで緊急事態だが、それはどうでもいい。 今はそれ以上の事態に陥っている。怒られていいから早く人のいる所に行きたい。
この神社の周りは街灯がほとんどなく夜は本当に暗い。その状況で小桃と一緒にいるのは、今までに感じたことのない恐怖だ。
得体の知れない小桃。
イトコだと思っていたけど違う。きっと違うと思う。
では、いったい何者だろう?
「ルイ君、太陽を早く沈めすぎだよ。現実の太陽はもっとゆっくり沈むものよ。まあ、夢だからルイ君は無意識のうちに夜が来るのを早めたんだろうけど。」
小桃はまたもおかしなことを言った。しかし、それについて話をする心境にはなれない。
「帰ろう。」
僕は再度促す。これで小桃が動かなければ僕は一人で帰ろうと思った。今の僕は、走り出したい衝動を懸命に抑えている。一歩でも動けば一目散に駆け出すだろう。
「ルイ君は、あたしが怖いんでしょう。きっと、その怖いと思う気持ちがこの夢の世界を暗くしちゃんだんだよ。だから夜になっちゃたんだよ。」
小桃は立ち上がり僕の真正面に立つ。それは、まるで僕の進路を塞ぐ様だった。
こちょこちょとくすぐられて
つい気になってしまう感じで
短くアゲるのもいいですね^ ^
3000越えてもまだまだ続けて欲しいです‼︎
それがまた恐怖を増長する。
「先に帰ってるよ。」
僕は小桃の横をすり抜けようとした。が、何故か身体が思うように動かない。酷く鈍い動きになってしまう。
おかしい。
そう思う。
この身体が動かない現象は小桃が起こしていることなのだろうか。そう考えると恐怖がさらに増す。
「待ってよ、まだ起きないで。話はまだ終わってないじゃない。ルイ君はあたしが何者か知りたいんでしょう?」
小桃が何者か?そんなことは、もう本当にどうでも良かった。早くこの場をさりたかった。小桃から逃れたかった。
しかし、ポツリポツリとあった街灯の灯りも遠くに見えた街の明るさも、気がつくとなくなっていた。
いつの間にか、僕は闇の中で小桃と向かい合っていた。その闇は絶望的で一歩も歩き出せないほどの暗さだ。なのに小桃の顔だけはハッキリと見える。
それは不気味な光景で、声も出なかった。
「ルイ君、あたしの正体は現実で教えてあげる。ルイ君とマドちゃん二人に教えるね。教えるから、二人に来てほしい所があるの。川に遊びに行く時、山に入ると最初の分かれ道をいつも右に行くでしょう。そこを左に曲がって欲しいの。そこを進めば、あたしの正体が分かるよ。一本道だから間違える心配はないからね。起きたらすぐに来てね。それから、必ずマドちゃんと二人で来て。二人だけでだよ。それと、ユズちゃんは絶対に連れて来ないで。ユズちゃんには内緒だからね。……起きたらすぐに来て……すぐに……」
僕は目を醒ました。
今回の夢は現実離れしていたが、これまでの現実の様な夢と同じくよく憶えている。
小桃は、僕に山に来るように言った。山で自分の正体を明かすと。山で小桃が待っているのだろうか。小桃は実在するのだろうか?
それから、小桃は円を連れて来ることとユズちゃんにはこの事を隠すように言いつけてきた。それには一体どんな意味があるのだろう。
別に意味なんかないのかもしれない。ただの夢に過ぎないというのが現実的な答えだと思う。
だけど、その答えが正解なのか確かめてみたいと思ってしまった。僕はさっきの夢に好奇心をくすぐられてしまった。特に小桃が来るように指定した場所が僕の心を揺さぶった。
川に遊びに行く時、山に入ると最初の分かれ道をいつも右に行くでしょう。そこを左に曲がって欲しいの。 そこを進めば、あたしの正体が分かるよ。一本道だから間違える心配はないからね。
そう小桃は言った。
その場所には行った記憶がある。
何年前だろう。まだ小学校にあがってなかった頃だったはずだ。
二人で歩いたことが思い出される。
幼かった僕は手を引かれながら山の中を歩いた。
辿り着いた場所は墓場だった。
僕の手を引いていたのは……
そう、ユズちゃんだった。
あの時、ユズちゃんは何で僕を墓場に連れて行ったのかは覚えていない。墓場で二人なにをしたのかも覚えていない。ただ怖かった。だから、帰りたいとユズちゃんに何度も訴えたのは思い出せる。
僕は寝ている円を見た。
円は寝息をたてている。
ごもっとも誘いに乗って行ってみよう。そう考えが傾いた。
「円、行こう。」
僕は自分の決心を固めるために声を出した。そして円の身体を揺すった。
円は、う~ん、と眠そうな声を出し僕と反対の方向に寝返りをうつ。
「円、出掛けよう。起きて。」
僕は円の身体を揺さぶり続ける。
ほどなくして円は覚醒した。
「何?お兄ちゃん。」
迷惑そうな声だ。
「これから二人で山に行こう。」
僕は立ち上がりながらそう答えた。
「何しに?」
「いいから。」
僕が立ち上がっても円は起き上がろうとしない。
「無理だよ、お兄ちゃん。お母さんから今日は出掛けないように言われてるもん。」
「だから、お母さんに内緒で行くんだよ。」
円は上半身を起こす。
「内緒で行くの?じゃあ、円は行かない。後でお母さんに怒らるの嫌だもん。」
上半身を起こしたが行く気にはなっていない様だ。僕は説得する。
「心配ないよ。お母さんに怒らるのはお兄ちゃんだけだよ。円は、お兄ちゃんに無理矢理連れていかれたと言えばそれで大丈夫。怒られないよ。」
円は僕の言葉を聞いて頷く。そして伸びをすると、
「わかった。じゃあ一緒に行ってあげる。でもお母さんに怒られたら、お兄ちゃんに無理矢理連れていかれたって本当に言うからね。」
と言った。
「いいよ。実際にそうなんだから。さあ、立って。直ぐに行こう。」
促すと円は動きだした。
「ヤス君も連れていく?起こす?」
円は立ち上がると、隣でヤス君が寝ていたことを思い出し、そう訊いてきた。
夢の中で小桃はヤス君については何も言わなかった。しかし円と二人で来るように条件をつけていた。
「ヤス君はそのまま寝せておこうよ。二人で行こう。」
僕と円は玄関に向かった。大人達に、特にお母さんに会わないように僕達は早足で廊下を移動する。
幸い誰にも会わずに玄関に着くことができた。素早く靴を履くと玄関を出た。家の中から大人達の話し声や笑い声が聞こえた。一際大きな声を出しているのは僕のお母さんだった。
誰も僕と円が家を出たことはきづいていない。
僕は円の手をとって小走りで門を抜けた。
大人達は全員一階にいる。ここまで来てしまえば家の塀が僕達を隠してくれる。見つかることはない。
「さあ、行くよ。」
円に声を掛ける。
円は悪戯が成功したというような楽しげな顔をしていた。
僕は小桃が出した条件を守って行動している。次は小桃が正体を僕に教える番だ。もちろん夢はただの夢なのだとも思う。だが、それならばそれでいい。何故なら、やはり小桃とは僕の夢の中だけに存在するということがそれで分かる。
僕は円の手を引いて歩き出す。と、その瞬間に僕は感じた。
見られている。
そんな気がして足を止める。
反射的に僕は家の方を見る。塀の上方。二階を見る。
二階の一室に人影があり僕達を見ている人がいる。
ユズちゃんだ。
3,000全て読んでみた。
いろんな人が来てくれてた。
もう一度話してみたい人ばかり。
でも、難しいね。来なくなって、また来るようになる人は稀。
だけど楽しかった。
物語を作るより話が出来て楽しかったな。
3000おめでとうございます!
色んな歴史が詰まってるんですね
家の事でバタバタして中々来れませんでしたが
お話がすすんでいてうれしいです
駅の話も面白そうですね
次は4000目指して下さい‼︎
まだ寒い日が
続いているけれども
青葉さんは
体調を崩されては
いないかな..(><)
久方振りに自分も
上げさせて頂きます..*
やしろ殿、
いつも気にかけてくれて、ありがとう。
izmさん、
izmさんは、どういう関係だと予測してくれただろう。興味があるよ。
>>3010 青葉さん
何故、殿付けになって
しまったのですかΣ('';)
敬称を付けて
頂けるのであれば
せめて、さん付けで
お願いしますよ~(///)
過去レスを拝見しましたw
麦チョコの噺と三面鏡の噺が特に読んでいて楽しかったです。
螺旋の噺も不思議で良かったです。
最新作も続きをお待ちしています。
やしろさん、
やしろさんの小説を楽しみにしています。
izmさん、
桜の季節。桜は散り急ぐなんて言うけど、日本の桜は散り際が一番。そろそろだね。
匿名さん、
三面鏡のはなしを気に入ってくれて、ありがとう。あの頃が一番楽しく書いていたような気がする。
また、そんな気持ちになれるかな……
こういう場で小説を書くなら楽しく書きたいですよね。
いる限り待っているので、気が向いた時に続けてほしいなw
重圧に思わず、自分なりにねw
このトピックは雑談の内容も面白かったんだね。
今はセイチャに人が少なくなってしまったから、淋しいものだな。汗
桜は確かに散り際が見事ですね
今も様々な花が咲いてて
生命をこうも育む季節の力はすごいです
青葉さんも気持ちよい時間を^ ^
違うお話でもお話以外でも何でも
青葉さんが楽しめるといいですね
3,000まで引っ張って行く為に、勢いで書き始めて、3,000に来たら途端にモチベーションが無くなった。
最初から3,000までのモチベーションしか無かったんだね。
しっかりと書いていくモチベーションがないので、
どんな話を考えていたのか、あらすじだけ書いていこう。
これならば終わりまで書けそう。
そして、どんな話を考えていたのか忘れるくらいになってしまった。
過去のスレを読んでみた。
懐かしかったな。
みんなどうしてるだろう。
楽しかった過去が思い出される。
「私は夢の中から出られないのです。」
そう彼女は言った。可笑しなことを言うものだ。
彼女は、ずっと覚醒することなく眠っていて、長い間、夢の中をさ迷っている。そう思っているようだ。
「夢の中?でも僕とこうして話しているではありませんか。」
僕は彼女に同情しながら、優しく声を掛けた。
彼女は少し精神が病んでいるようだ。
妄想にとりつかれているのだ。
「ええ、話しています。でも、それが何だと言うのです?至極当然のことです。夢の中だって会話はするでしょう。ここは夢の中です。」
彼女はこの現実を、夢の世界だと頑なに信じている。
まあ、それが妄想というものだろう。
「もちろんそうですね。夢を見た時に会話することはあります。しかし、僕らは現実にいます。ここは夢の中ではありません。」
何を言っても無駄なことは分かっている。が、だからといってこんなとき何を言えばいいのだろう。
彼女は言う。
「ここが現実だと言いますが、本当にそうだと証明出来ますか?出来るならばやってみせて下さい。そうしたら、あなたの言うことを信じます。……出来ないでしょうね。何せここは夢の中ですから。」
何だか小馬鹿にされた気分がした。
が、彼女は病気なのだから仕方ない。それに彼女は馬鹿にしたつもりはなかっただろう。彼女にとって現状を理解してないのは僕の方なのだから。
「ここが貴方の夢の中ならば、どうして僕はここに居るのです?僕はどうやって貴方の夢の中に入り込んだのですか?人の夢の中に入るなんて不可能なことですよ。」
さて、彼女はこの至極まっとうな話を理解出来るだろうか。普通の人ならば反論はできないだろう。しかし、妄想の中にいる彼女にとってはどうだろうか。きっと抗ってくるだろう。
そう思いながらも、期待することはある。
彼女はどんな言葉を出すだろう。どう反論してくるのだろう。きっと、突拍子もない面白いことを言い出すはずだ。
そんな期待は失礼だとは思う。妄想を面白がるなど飛んでもないことだ。
だが、そう考えてしまったのだから仕方がない。要は彼女に僕の心の内が悟られなければいい。彼女に不愉快な思いをさせなければいいのだ。
「ごめんなさいね。」
彼女はそう言った。出だしは謝罪だった。そして言葉を続ける。
「いつだったか思いだせないけど、あたし、誤って階段を踏み外してしまったの。それは覚えている……。それで頭を強く打ったんでしょうね。それから、目覚めてないのよ。おそらく今は病院のベッドの上ね。ずっと夢を見続けているの。いえ、見続けているとは言えないかしら。深い眠りの時は夢をみていない。浅い眠りになると夢をみている。きっとね。頭を打ったあの日以来たくさんの夢をみたわ。そして夢の中でたくさんの人と会ってきたの。あなたは、その内の一人ということね。」
なるほど、と思う。
彼女の妄想がどんな設定なのかが理解出来た。
「ごめんなさいね。」
そして彼女はもう一度そう謝罪した。
だから僕は訊く。
「何を謝っているのですか?」
彼女は本当に済まなそうな顔をした。
「だって、あなたは自分の存在を何の疑いもなく信じてるもの。未来があると思っているもの。なのに、あなたはもう消えなければならない運命。この夢が終わったら、あなたを無に帰さなければならない。」
まあまあかな。
そう思った。
期待したほどではないが、そこそこの面白さはある。
「夢が終わると僕の存在を消すことになる。それを謝罪していたのですね。」
妄想は彼女にとっての現実だ。彼女は真剣に謝っているのだろう。
「 夢なんて無意識に作るでしょう。だから、あなたを作り出したのも無意識なのよ。 赦してね。」
彼女は真剣に申し訳なさそうな表情をしている。
その顔を見ると、何とも可哀想になってくる。
何もしていないのに僕に対しての罪悪感を背負ってしまっている。
「あなたは何も悪くないです。気にしないで下さい。」
とにかく彼女を安心させようと、そう言った。が、 僕の言葉など意味はなかった様で、彼女の表情は全く変わらなかった。
「そろそろね。この夢が終わるのも……、わかるものね。つまり、あなたの命も尽きるわ。」
何故か彼女は上を見上げて目を瞑っているいる。
「…………。」
何を言えばいいのか分からず沈黙してしまう。
どうやら、この夢終わりが近づいているようだ。
しかし、彼女はどうするのだろうか?
ここは現実だ。だから、彼女の言うような夢の終りは来ない。
終わりが来ないことをどう説明するのだろうか。どう理由をつけるのだろうか。
暫く彼女もそのままの姿勢を保ちながら口を開かなかった。
目を瞑っているのは無意識に理由を考えているのだろうか?
「夢が終わるのが分かるのですか?深い眠りが来そうなのですか?」
沈黙が嫌でそう声を掛けた。
「いいえ、どうやら目覚めるみたい。現実の音が……、声が聴こえるの。あたしを呼んでる。あたしの名前を誰かが……。あたしの名前を呼ぶ声が微かに聴こえるの。現実に帰れる。」
目を瞑っているのは、耳を澄ましているかららしい。
その時、僕の背筋が凍る。
名前!
名前!名前!
名前!名前!名前!
自分の名前が思い出せない!
僕は僕の名前が思い出せない。
「もう、目覚めるみたい……」
彼女の言葉に恐怖する。
待って!!
名前が思い出せない!!
彼女の言ってることは本当?
だとしたら僕の存在の方が……
そんな訳がない!!
待って!!
いま思い出すから……
「サヨウナラ」
辺りが暗くなる。
待って!!
完全なる闇が来た。
そこで、目覚めた。
物語風に書くとこんな感じの夢。
夢だから確かじゃない所は作ったけど。
記憶をなくしたのは青葉の方。
夢の中で自分の名前が思い出せなかった。自分が誰かも解らなかったかもしれない。
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