青葉 2012-01-06 22:03:27 |
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「本当に優しい子。でも母さんのことで苦しまないで。母さんを母さんでいさせてちょうだい。」
「………」
「小さな頃から優しい子だったけど、いつの間にか強くもなったのね。優しいあなたが飛行機に乗って戦うことなんて出来るのか最初は心配したけど、あなたは今日まで戦って生き抜いてきたもの。」
「あなたは成績が良かったから本当は勉強をしたかったのに、父さんが亡くなって困っている母さんを助けようとして、勉強を諦めたのよね。知ってるわよ。母さんが病気じゃあなければ、他の道があったかもしれない……」
僕は首を振る。
「違うよ、母さん。僕は早く飛行機に乗りたかったんだよ。」
「あなたは母さんの自慢の息子よ。優しくて強い、自慢の……。だから母さんはあなたの自慢の母親でいたいの。この身体では、それは無理だけど、でも、子供の足を引っ張るような母親ではいたくないの。だから心配しないで。」
「それにね、あなたと母さんは、また必ず会えるわ」
僕は、その言葉にハッとした。この状況で、そんな言葉を出す母の意図をはかりかねた。
「必ずよ。」
「会える?」
僕は呟いていた。
「そうよ、今度生まれ変わったら母さんは、また父さんを見つけて必ずあなたを産むわ。だから、また会えるの……。今度はもう少し平和な時代がいいわね。でも、あなたに会えるならどんな時代でもいいわ。」
「………。」
「信じてない?母さんは自信があるのよ。また必ずあなたを産むの。」
沈黙している僕に、母は微笑んで言う。
「こんなに愛しいんだもの、出来ないはずがないわ。」
母の目を見ながら僕も少しだけ笑みがこぼれる。こんなに僕を大切に思ってくれる人がいる。僕の頬をひとすじの涙が伝う。
それを見て、
「泣かない!泣かない!男の子は泣かないの。」
母は小さな子を励ます様に言った。幼い頃、何度も聞いた覚えがある。
「ぐふっ!」
その母の言葉を聞き、僕の感情の堰は決壊した。嗚咽してしまう。僕は声を上げて泣いた。そんな僕を母は慈愛の顔で抱き締めた。
従妹が背を向けて、僕と母を見ないように配慮しながら肩をふるわせている。
僕は暫く母に抱き締められながら泣いた。
僕の前世の記憶は、10歳くらいからどんどん薄れていったが。母との記憶は何度となく思い出してきたので、記憶に定着した。
だが、それは失敗だった。忘れた方が良かったのだ。
おはようございます。
青葉さん、お疲れ様!
まだ続くの?
1783辺りのコメから涙がとまらないです((T_T))
悲しいというより、子を思う母の想いというのはこんなにも強いのか、という気持ちですね。
それが胸に響いて響いて…。
こーして書きながらも涙が…((T_T))
家で良かったです((T_T))
青葉さん、
チャットで泣かさないで下さいよぉ〜(←嘘です)チャットでこんな想いを届けられるなんて、青葉さん、すごい!!
あと少し。今日は休みだから、終わらせよう(^-^)
ちょっとだから休みじゃなくても終わりそうだけど。
匿名さん、ありがとう。心配なのは、文にして話の魅力を半減させてしまうことだったけど、胸に響いた人がいたのだから大丈夫だね。
なにが失敗だったかと言えば、僕が前世の母から愛情をたくさん貰った記憶があること、印象的な別れをしたこと、また会えると言われたこと、つまり、今を生きる僕にも強い影響を残してしまった。前世の母さんに会いたという気持ちが強く現世でもあった。
だから今の母親より、前世の母さんに心がいってしまう。
今の母親のことも好きだからこそ、何となく僕は負い目を感じていた。
今の僕を産んでくれたのは、今の母親なのに……。
そう思うが、どうしようもなかった。
前世母さんと現世の母親を、つい心の中で比べてしまう。そして、いつも前世の母さんに軍配が上がる。
普通に考えると、今の母親の方に軍配を上げても良さそうなことも、前世の母さんの方が良いと思ってしまう。
前世の母さんは病弱で痩せていたが、今の母親は病気ひとつせず、太ってはいないが?良い恰幅をしている。
二人のそんな所を比べて、
(やはり、母というのは、少し弱さを見せた方がいいよな。その方が子供は、しっかりしようと思い、成長できる)
などと理由をつけて、健康な今の母親より前世の母さんを勝たせてしまう。
また、今の母親はよく、「勉強しなさいよ。」と言うが、そんな時には、
(あんまり、勉強しろ勉強しろ、と言われるとヤル気なくすんだよな。もっと前世の母さんのように自主性に任せてほしいよ。)
と思う。
しかし、前世の母さんが勉強しろと口煩く言わなかったのは、前世の父さんにその言葉を僕がよく言われていたからかもしれない。前世の父さんが言っていなかったら前世の母さんも口煩く言ったのかもしれない。
そんな感じで、今を生きる僕が、前世の母さんを慕った。
これは良くないことだと僕も思っていたが、どうしようもなかった。前世の母さんに会いたかった。
ある日、事件が起こった。
母親が交通事故に遇い病院に運ばれたのだった。すぐに手術となる。高校一年だった僕は、学校を早退して病院にすぐに駆けつけた。先に来ていた父親から、母は頭を打ってしまい命が助かるか判らない、助かったとしても後遺症が残るだろうと医者は言っていた、と聞いた。
僕はショックを受けた。あの健康な母親が突然いなくなるかもしれない。今まで考えたこともなかった。
僕の後から来た、4つ下の妹が泣きながら言う。
「後遺症なんて残っていいから、面倒みるから死なないで。」
僕も同じ気持ちだった。
手術は終わり、母親は取りあえず一命をとりとめたが、数日経っても目覚めなかったし、まだ命の危険もあった。
僕の心は日に日に沈んでいった。
このまま母が死んでしまったらどうしよう……
そんなことをずっと考えていた。そんな中で、よく僕は自分を責めた。
僕は今の母親より前世の母さんの方を慕っている酷い息子だ。母親に申し訳なく思った。今までもそう思ったことはあったが、今回は心の底から申し訳なく思い、自分のことが赦せなかった。
(だいたい、前世なんてほんとうにあるのか?僕の記憶だって、ただの僕の空想に過ぎないかもしれない。僕が飛行機のパイロット?あるわけないよな。)
そして、そう考え始めるようになった。
(空想の母親像と比べて、僕は母親を疎ましく思ったり、体型をバカにしていたりしたのか……。そういや、中学の時には腹が立って怒鳴りつけたこともあったな。悲しそうな顔をしていたなあ。)
母子の関係で、一般的にもあるようなことでも、過去、母親にした僕の振る舞いを僕は悔いた。
父親が後から言うには、この時、小学生の妹より僕は憔悴していたそうだ。
掲示板ファンさん、こんにちは(^^)
青葉も、話し手のまえで、前半に泣き、実は後半でも泣いたよ。
本当に恥ずかしかった(+_+)
そろそろ終わらよう。
土曜日の午後に妹と一緒に病院に見舞いに行くと、伯母も来ていた。朝から来ていた父と何かを話していた。
その日も母親は目を覚まさなかったし、容態が悪くなることもなかった。
夕方、妹と家に帰ろうとすると、伯母が妹に言った。
「お兄ちゃんと一緒に家に来ない?うちの子達と遊んであげてよ。それで一日泊まっていきなよ。」
伯母は母の姉だが、二人の子供はまだ小学校の低学年と幼稚園児だ。伯母が晩婚だったのではなく、母親が早婚だった。そして十代で僕を産んでいる。
妹が父親を見ると、
「行っておいで、明日の昼には迎えにいくから。」
と父親は優しくて言った。
妹は、
「じゃあ、行こうかな。……うん、行く。」
と言った。
僕は、今の心境では幼い従兄弟達と遊ぶ気になれず辞退した。
僕は一人で帰ろうとすると、父親が、自分も今日は家に帰るから一緒に帰ろうと言った。父は有給をとって母親にずっと付き添っていたのだった。
僕は父と病院を出た。
父はとても穏和な人で、僕は注意をされたことはあっても、感情的に怒られるたことは一度もなかった。そして口数は少ないが、いつもニコニコしている人だ。
父は、夕飯を外食にしようと言った。そして僕の好きな物を食べていいと言ったが、僕は何せ沈んでいたので、あまり食欲がない。正直にあまり食べたくないないことを話した。すると父は、
「じゃあ、いきつけの所で一杯やるから付き合ってくれるかい?お前はジュースでものんで、食べられそうな物だけを食べればいいから。な。」
そう言って僕を家の近くの小料理屋に連れて行った。
カウンター席だけの店だった。父はカウンターの一番奥の席に僕を連れていき座る。店主や他の客と挨拶をして僕を紹介し、母の事を少し話し、今日は子供と静かにやるからと言った。
僕は父のお酒と、コーラで乾杯をした。
父は話し始める。
「お前、心配するなと言うのは無理だろうけど、心配し過ぎては、お前が周りに迷惑を掛けてしまうよ。」
僕の沈み具合が父は気になっているようだ。
「………。」
「お前が、母さんの事が好きで心配するのは、よく解るよ。でも……」
「違うんだ。」
僕は父の言葉を遮った。
「僕は、お母さんのことを大事にしていなかった。酷い奴なんだよ。僕は空想とお母さんを比べてたんだ。」
僕は、そんなことを言っていた。
「何だかよくわからないな。」
父はお酒を飲みながら言う。
「僕は、お母さんに申し訳ない……」
僕がそう言うと二人の間に沈黙の世界が広がった。父はお酒を飲みながら何かを考えている。
父は暫くして、口を開いた。
「お前がお母さんに、申し訳ないないなんて思うとは可笑しな話だよ。お前はお母さんにとって、かなりの孝行息子だ。」
「僕は何もしていないよ。」
「いや、している。間違いなくしている。」
「僕が?何を?」
父は頷き、
「何、と言われると言い表すのは難しいんだけど……まあ、お父さんの話を聞きなよ。」
父は話し始める。
「初めてお母さんに会ったのはお見合いだったんだ。」
そのことは以前に僕は母から聞いていた。
「お母さんは数ある見合い写真の中から、お父さんを選んだそうだ。お父さんは、自分の容姿が優れていない事を自覚しているから驚いたよ。でも、もっと驚いたのはお母さんの年齢だったな。その頃お父さんは32か33になっていたが、お母さんは高校卒業したての18歳。これは冷やかしかと思った。一応、見合いすることになって、会ってみると、とても線の細い女の子が現れた。」
「線の細い?お母さんが?」
僕は口を挟む。
「そう。今とは体型が少し違うんだな。写真があれば見せてやりたいが、体型が変わってから昔の写真は、お母さん自身が捨ててしまったからなあ。見られると、太ったことを必ず冷かされて嫌だからと言って。」
「何でお母さんは体型が変わったの?」
「お母さんは、線が細いだけでなく食も細く病弱だった。お前が産まれてから、体質改善すると言ってな。いろいろ本を読んで体質改善の研究をしたり、栄養価の高い物を食べたりしていたよ。無理に食べていたから吐きそうになったりもしていたなぁ。体質改善する前に体が壊れるんじゃないかと思ったから、もう止めるように言うと、母になったからには健康な体じゃないとダメなのよ、この子の為に。つまりお前の為にと言ってな、体質改善を止めようとしなかった。結局、お母さんは食事がしっかり摂れるようになり、あまり病気をしないような身体を手に入れたんだよ。」
「………。」
「話は戻るが、まあ、一度はお見合いして会ってみた。年齢差もあるし、容姿の見栄えの良さがないのも解っただろうし、もう連絡は無いだろと思っていたが、見合いの次の日には、お母さんは電話をしてきた。とにかくお母さんは積極的だった。」
「お父さんはどう思ったの?」
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