とりとめない思考

日付がかわった。

佳境だし、今日中に終わるかな。

「手紙を書いて、引っ越しのことをお母さんに知らせれば？」
考えれば誰でも思いつくだろうが、名案を思いついた、とばかりに言う。

「お母さんに手紙を……かぁ……」
気を取り直した優子さんだったが、少年青葉の言葉の後、またも雰囲気が暗くなっていった。
「それはそうなんだけどね、無理なんだ。青ちゃん、無理なの。」
「何で？」
優子さんの口調は重くなる。
「あたしはお母さんの引っ越し先の住所を知らないからね……手紙を送れないよ。」
「知らないの！どうして？」
「どうして、って言われても……お母さんに教えてもらわなかったから。」
「訊けば良かったのに。」
「うん……そうだね。」
「離ればなれになるんだから訊いとけば良かったね。そうすれば手紙が書けたのに。お母さんも何で教えていてくれなかったんだろうね。」
少年青葉は自分の名案が実行できず残念な気持を、ストレートにぶつけた。
だが優子さんはそれを受け流す余裕はなかった。それができない程に優子さんの境遇は辛いものだった。

「訊いたの。」
優子さんは悲しそうな顔をして言った。
少年青葉はその顔を見て動揺した。
「え？」
「夏休みに入る前に訊いたの、お母さんに引っ越し先の住所を。でもお母さんは言わなかった。」
「………。」
「引っ越し先の住所を訊いた時にお母さんは困っていた。そして、必ず迎えに行くから心配しないで、と言った。そう言って教えてくれなかったの。何度も訊いたのに……」
「………。」
「お母さんは確かに泣いていたし、必ず迎えに来ると言ったけど、でも困りながら言ったの。」
「困りながら？」
「そう。お母さんはあたしを連れていく気はなかったし迎えにくる気もないの。それでも、あたしはお父さんよりお母さんと一緒にいきたかったから、連れて行ってくれるよう一生懸命に頼んだの。それが叶わないなら、せめて住所を聞こうとしたの。でも住所を知ったらあたしがそこへ来てしまうとお母さんは思ったのかな。教えてくれなかった。」
「何で迎えに来る気がないと判るの？」
「お父さんとお母さんが夫婦喧嘩をしている時の言い合いを聞いていたら判るよ。離婚後どうするかを言ってる時、お母さんは子供は二人しか連れていけないと言ったの。お父さんは三人共お母さんが連れて行くようにしたかったみたいだけど。」
「………。」
「結局お父さんに一人、お母さんに二人、となったけどね。お父さんにお母さんは、手の掛からないあたしを置いていくと言ったの。お母さん自らね。お父さんは男の子を置いていけ、みたいなことを言ってたけど、お母さんは、心配でそれは出来ないと言っていた。あたしのことは心配してくれないみたいだった。」

優子さんに、この様な話をさせてしまったのは少年青葉だが、話の内容から少年青葉は居心地の悪さを感じていた。
「青ちゃん、お母さんがあたしに住所を教えていかなかった理由はね、あたしに付きまとわれたくないからなの。」
そんなことを感じている時に、優子さんの口調は強くなった。さらに少年青葉は居づらい。
「でも、迎えに来るとお母さんが言ったんなら……」
少年青葉は何かを喋らなければならない気がして話し始めると、優子さんは言葉を遮った。
「言ったんなら、何よ！」
「………」
「親が子供に言うことをきかせる為につく嘘なんて直ぐに判っちゃうの！自分もやられたし、弟達に嘘をついてるのも、さんざん見てきたもん！」
優子さんは明らかに怒っている。少年青葉は、いつも優しく静かな優子さんが怒っていることに大きな衝撃を受けた。
「迎えに来る気がないことなんて判っちゃうの！
でも、それでも迎えに来るという言葉を信じたかった。そうじゃないと心が……お母さんに、必要ないと思われてるなんて……」
「………」
「やっと信じられるようになったのに、あたしはあたしを騙したのに……引っ越ししなくても、どうせお母さんは迎えに来ないけど、引っ越しすることでお母さんと会えなくなると思える程に騙せたのに！」
優子さんは泣き声混じりになっている。少年青葉は下を向いて固まってしまう。
「あんたが訊くから思い出しちゃったじゃない！
やめてよ！せっかく騙したのに！もう嫌！もう何にも訊かないで！」
少年青葉の質問に答えているうちに、辛い思い込み以上の辛い現実に戻ってしまった優子さんは、最後には叫び声に近い声を少年青葉に浴びせた。
少年青葉は、怒ることはないと思っていた優子さんに感情をぶつけられてしまい限界を超え、この家から出ることにした。しかし、あの優子さんが怒ったのだから、自分が悪いことをした、配慮のないことをしたと思った。
「ごめんなさい。」

切ない…
切な過ぎる(>_<)

こんばんは、常連さん。
そろそろ終わらせるよ。

心が動揺して中々声が出なかったが、辛うじてそう言えると、優子さんの家を飛び出し、全速力で走り出した。
すると後方から声がする。
「青ちゃん！ごめん！待って！」
優子さんの声に哀しみが混じっているのが分かるが構わず走る少年青葉。優子さんは少年青葉が止まる気が無いのを悟り、
「青ちゃん！明日ね！待ってるから！」
と、離れていく少年青葉に大きな声を出した。
少年青葉は十字路を曲がったが、その瞬間、後ろを見た。家から出てすぐの路地に立っている優子さんが視界に入った。遠くて表情は判らない。今日まで、それが優子さんの見た最後となった。

次の日少年青葉は、約束の時間に優子さんの家に着けるよう家を出たが、足が向かなかった。
行こうかどうしようか迷い、ウロウロしている間に時は過ぎていった。そのうち、もう行っても間に合わないと思い、迷うのを止めて自転車をとりに自宅に戻り自転車で遊びに出かけた。が、出掛けたもののお昼が近くなり直ぐに家に帰らなければならなかった。来た道を引き返す途中、甲州街道に出て信号待ちをしていた時、引っ越しのトラックが前を通った。
そのトラックは大型で、あまり荷物のない優子さんの家の引っ越しのトラックではないだろう。
引っ越しのトラック見ると、心が急に痛くなった。
信号が変わると少年青葉は自転車を飛ばして優子さんの家に向かった。間に合わないのは判っていたが、体が勝手に動いた。

優子さんの家に着くが、やはり人影はなかった。予想通り間に合わなかった。
少年青葉は、自転車を降りて家の敷地に入り、入り口の扉に手をかけたが鍵が閉まっていた。
ふっと縁側の前の猫の額程の庭をみる。
長い木の棒が落ちていて、そのすぐ横の地面に何かが書かれている。
近づいて確かめると、

「青ちゃんゴメンね　本当にゴメンね　サヨナラ」

と地面に書かれていた。
優子さんは待っていたのに、少年青葉は行かなかった。暫くそこを動けなくなってしまった。

この時、青葉の消えない後悔が始まった。

終わりです
m(_ _)m

お疲れ様。

誰にでも思い出すと苦い思い出がある。
自分にもある。
誰でもそういう想いを抱いてるんだな。

あえて文章にするのは勇気がいる。
例えフィクションでも痛い思い出を語るのは楽じゃないだろう。
だけど救われた気分だ。ありがとう。

お疲れ様でした!!
久しぶりにｺｺに来て…
青葉さんの話を読んで…色々な事を考えさせられました…!!
受験まで…あと少しなので頑張りたいと思います…(^^;)
青葉さんも大変なこともあると思いますが、頑張って下さいね!!♪
次回作…楽しみにしてますね☆((ﾆｺｯ

旅斗さん、いつも読んでくれて、ありがとう。
誰にでも心が痛くなる思い出があるんだろうね。旅斗さんにもあるんだ。
しかし、痛くなるから書き終わるまで時間がやたら掛かってしまった(^^)
覚悟が足りなかったかな。


水那穂さん、
水那穂さんが、つまらないと思わなくて良かった。楽しい話ではなかったからね。
受験勉強大詰めだね。本当の本当にあとちょっとだね。

「青ちゃん」とお別れか。
気に入ってたんだけど。

夜に外を歩いても、やりきれない寒さを感じない。

そろそろ３月だ。
別れの季節。

何か面白い話が転がってないもんかな……

また起きなくていい時間に起きてしまった。

青葉さん、お疲れ様でした(^-^)

まさかこんなラストが待ち受けていようとは…！読み始めた頃は想像もしませんでした(T_T)

決してぬぐい去ることの出来ない想い…。後悔…。誰にでもあるのかもしれないけど、まだ小学生だった青ちゃんには、想像出来ないほどのショックだったんだろうなぁ。
感情をあらわにしてぶつけてきた優子さんにも、優子が隠して来た想いにも…。

青葉さんは、ずっとその後悔を抱きながら成長してきたんだね。
だからそんなに優しいのかな(^-^)

きっと優子さんも、同じように後悔の気持ちや申し訳ない気持ちを抱きながら成長してきたと思うよ。
何処かでこのトピを読んでくれてるといいね(*^-^*)幸せに暮らしてることを願わずにはいられないよ。

青葉さんも優子さんも、幸せにならなきゃ！(^-^)