青葉 2012-01-06 22:03:27 |
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八月に入っていたと思う。夕方の少し前、少年青葉は疲れ果てていた。
少年青葉は夏の日差しの中、自転車で遠出をし過ぎてしまい家の近くまで戻って来た時にはヘトヘトになっていた。
縁側に座っていた優子さんは、家の前を自転車でゆっくり走り過ぎようとする少年青葉に気づいたようで声を掛けてきた。
「青ちゃん!」
少年青葉は自転車を止めて声がした方を見る。優子さんが縁側に座って手招きをしていた。少年青葉は手招きに応じて自転車を押しながら優子さんの家の敷地に入った。
少年青葉が縁側に座っていた優子さんの前に立つと、優子さんは言った。
「青ちゃん、顔が紅いよ。上がってお水飲んで行きなよ。あがって。」
ヘトヘトの少年青葉は頷き、そして靴を脱ぎ縁側からお邪魔した。
六畳の部屋に座ると、優子さんは氷水を出してくれた。一気に飲み干す。すると、
「もう一杯飲んだ方がいいよ。」
そう言ってくれて氷水のおかわりを出してくれた。結局もう一杯頂き、それによって少年青葉は生き返った思いがした。
少し落ち着き周囲の変化に気づく。
家具が減って以前よりガランとしている。
それは当たり前の変化だった。家族5人のうち3人が引っ越したのだから。
家の中を無遠慮に見回す少年青葉に、
「寂しくなっちゃったでしょう。この家の中。」
と、優子さんは少し笑いながら言う。その笑いは今の青葉が見れば痛々しいものだったかもしれない。
少年青葉の目が四畳半にいった。三面鏡がなくなっている。
「あ!鏡がない。」
思わず声が出る。
優子さんは存在しない四畳半の三面鏡の方を見ながら言った。
「あれはお母さんの三面鏡だから。引っ越しの時にお母さんが持って行ったよ。」
「ふーん、そうなんだ。じゃあ、もう鏡の中の本当の姿のお父さんとお母さんは見れないんだ。つまんないね。」
「そうね。見れないね。」
優子さんは淡々と答える。
「大事だったんでしょう?」
優子さんが淡白に答えたのでちょっと意表をつかれてしまう。確かに優子さんは鏡を大事にしていると言っていた。
「うん。でも、もう必要ないの。」
「どうして?」
「お父さんとお母さんが一緒に映らないなら意味がないから。」
「お父さんとお母さんが二人で映った時だけしか本当の姿を映さないの?」
「そうね。」
「他の人が映っても本当の姿はみえないの?」
「そうなるね。」
「何で?」
少年青葉は鏡が本当の姿を映しているところを見てみたかった。とても興味があった。しかし鏡はもうない。だから鏡のことは優子さんに訊くしかなかった。
だが、優子さんは青葉の質問を遮る。
「青ちゃん。あたしはね、三面鏡を必要としていたけど、本当は三面鏡が嫌いなんだ。」
青葉さん、
ひょっとしてお話は佳境?
うん。
青葉さん、どんどん書いて!(^-^)
吐き出すためでも、青葉さん自身のためでも、読むのを待ってる人は沢山いるから!(^_-)
匿名もその中の一人だよ(*^-^*)
匿名さんと狎擬さんが二人で書きこんでいてくれるのを見ると嬉しくなるね(^^)
匿名さん、まだ佳境とは言えないかも
(T_T)
でも一杯書いたような気がするけど、読み返すと短いもんだね。
狎擬さん、狎擬さんに興味深いと言われると嬉しいよ(^_^)
《その日優子さんが青ちゃんに話した内容のまとめ(現在の青葉の解釈)》
下の弟が生まれて一年くらいすると両親が大声で喧嘩をするようになった。それで喧嘩が始まると上の弟を連れて子供部屋の四畳半に行くことにした。下の弟はまだ小さくお母さんのそばにいた。
上の弟は両親の怒鳴り声を聞き、いつも泣いていた。なにもできなかったけど、せめて自分は泣かないようにしたが結局一緒に泣いてしまうことが何回かあった。でも一緒に泣くのも最初のうちだけだった。
とは言え自分が泣かなくても弟は泣く。外に連れだそうとしたけど、両親が喧嘩している六畳の部屋を通らないと玄関に行けない。喧嘩している両親の前を通る勇気はなかった。それに喧嘩をするのは夜が多い。為す術がなかった。
両親がいつも通り喧嘩していたある日、上の弟は三面鏡の前で椅子に座って泣いていた。後ろから近づき三面鏡の左右の鏡を動かした。大した意味なくやったことだったけど弟は鏡をじっと見ている。そして泣き止やんだ。三面鏡には喧嘩中の険悪な両親が映っているが、左右の鏡を動かすと二人は鏡の中で近づいたり離れたり、また合わせ鏡の特徴で4人になったり8人になったりした。
「二人で遊んでるみたいだね。踊ってるみたい。」
そう言うと。上の弟は笑った。そして、もっと鏡を動かしてとせがんだ。
自分と同じ様に両親が仲良くしているように見えたのではないのかもしれない。ただ初めて見た合わせ鏡が珍しかっただけなのかもしれない。何せ両親の罵り合いは続いていたのだから。でも笑ってくれたのが嬉しかった。この三面鏡は救いだと感じた。
その日から両親の喧嘩が始まると姉弟で三面鏡を見るようにした。そのうち上の弟は三面鏡の珍しさに飽きて見ることはなくなったが泣くこともなくなった。役割を終えた三面鏡を開くことはなくなった。
再度三面鏡が必要になったのは下の弟が少し成長して、両親が喧嘩になると兄弟3人で四畳半の部屋に行くようになった頃。
下の弟も喧嘩の時は泣き出した。しかも喧嘩の声以上のボリュームでワンワンと大声で泣いた。
何をしても泣き止まない。
しかし、上の弟と同じく三面鏡の前に座らせて左右の鏡を動かすと下の弟も笑った。二度も三面鏡は救ってくれた。下の弟も三面鏡の珍しさが薄らいだ頃には親の喧嘩に慣れ、自力で耐えられるようになっていた。
青葉さん、お疲れ様!(^-^)
優子さん、強いね。
っていうか、一生懸命弟たちの前で強いふりをしてるんだね。
例えふりでもしてれば、いつかそれがホントになる。
三面鏡の中の仲良しに見えるお父さんお母さんも、いつかホントになってくれれば良かったのにね。
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