青葉 2012-01-06 22:03:27 |
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「悪い、○○(自分の名前)。ちょと時間をくれ」
友人が言うので了承した。
車はさっきまで来た道を反対に進む。
友人の顔は僅かに怒気を含んでいるように見える。本当に僅かに。
彼女の表情は見えないが、何だか不安そうな感じが空気で伝わってくる。
自分の表情ははどうだろう?
そんなことを考えていた。
車内の雰囲気は張りつめてはいないが、居心地が悪かった。
友人がハンドルをきる。
彼女が声をあげた通りに戻ってきた。
もう少し走れば、声を出した辺りだ。
急に車内の雰囲気が変わる。
(あれ?)
前の二人は楽しそうに話をしている。何事もなかったかのように仲良く話をしている。
急変に戸惑う。そして窓の外を見てさらに戸惑う。
車は、前に既に通り過ぎた道を走っている。彼女が驚いた声を出した所より前の場所を。さらにUターンしたのに、車は彼女が声を上げた場所の方に、さらに進めばUターンしたコンビニの方に向かっている。
ああ面倒なことになっている、とやりきれなくなる。
彼女が声を上げた通りに再び入った。
少しすると、活発だった会話が鈍くなる。友人の話かけに対して彼女は生返事になっている。そして自分からは話そうとしていない。
彼女は助手席の窓越しに外を見ている。明らかに何かを気にしている。通りすぎた後ろを首を回して、じっと見ていることが二度ある。
必然的に彼女が声を上げた。
今回は、ここからの会話を聞き逃す気はなかった。
「なんで!?何?今の!」
彼女が驚く声。
交差点で友人がハンドルをきりながら、
「何かあった?どうしたんだよ!」
と言う。
「さっき外を見てたら女の子が正面から歩道を歩いてきてたの。最初は遠くだったけど、すごく見覚えがある気がした。距離が近づいて、通りすがりに顔をみたら、その女の子の顔はあたしだったの。一瞬だし横顔を見ただけだけど、確かにあたしだった。ビックリして風景と一緒に後ろに流れていくあたしを目で追ったけど、直ぐに見えなくなっちゃったの。それで目線を前に戻すと、また前方から女の子が歩いて来る。とても見覚えのある女の子が。そして通りすがりに顔を見たら、またあたしだったの。でも前と同じじゃないの。今度のあたしは、私の方を見ていた。歩くのを止めて、この車の方に体を向けてこっちを見てたの。自分と目が合ったのよ!また、あたしはあたしを目で追ったけどすぐに見えなくなった。前を向いたらね、そしたらね、三回目があったの。三回目のあたしは通り過ぎる時に、笑いながらあたしに手を振っていた…………何?あれは何なの?あたし4人もいるの?」
彼女は低い小さな声で一気に話した。
「どうしたんだよ。何を言ってるんだよ。その手の冗談を巧く切り返すセンスは持ってない。」
友人はそんな風に返答した。
「冗談なんて話して無いわよ!信じてよホントのことよ!」
友人は今度は返事に窮し困惑している。
その後は押し問答となる。
そして、コンビニの駐車場へ。
「わかった!戻って確かめよう。」
友人は彼女にそう言った後に
「悪い、○○(自分の名前)。ちょと時間をくれ。」
と、こちらに一言投げ掛けた。
そしてまた来た道を引き返すことになった。
しばらく走り交差点を曲がると、車内の重い雰囲気が突如に明るくなる。
一回り体験した。いや気づいていないだけで何回りかしているんだろうけど。
このスパイラルからどう脱け出せばいいか?それを考えることにした。
青葉:随分と冷静だね。
話人:追い込まれた時に冷静でいられるのが強い人間だと思い、実践しているのさ。
青葉:この普通じゃない状況で、いくら強くても冷静は難しい。凄いね。
話人:いや、昔からオカシナことにはよく遭った。慣れているから冷静だっただけかもな。
青葉:昔から?こんな様なことを何度も経験してんの?
話人:まあな。
青葉:へえ、凄いね。
話人:凄いかもしれないけど、人にはあまり言えないな。変な奴だと思われる。今回は青葉(仮名)が面白い話はないか聞くから特別に話したけどな。聞いてみると、青葉も俺のことオカシナ奴と思ってんじゃないのか?
青葉:思わないよ。だって本当なんでしょう?
話人:聞いた奴は皆さ、その場では信じたフリをするんだよ。
青葉:( ̄~ ̄;)
話人:お前が信じると言っても、その言葉を俺は信じないよ。
青葉:気を悪くするかもしれないけど、あまり嘘か本当かは重要と思わないよ。面白ければ、そこに価値があると思う。
話人:まあ、いいさ。話始めたんだし最後まで貫こう。
この話は今まで一番のオカシナ経験の中のオカシナ経験だったんだ。そして一番のピンチだった。オカシナ事は二つ同時に起きていたからな。
前では彼女が驚きの声を上げている。
さあ、考えければ。スパイラルから出るには…………
そもそもこのスパイラルの状況に前の二人は気づいていない。状況を知ってもらわないと。と思う。
しかし、できない。この状況を説明しようとしても、彼女が騒ぎ始めてしまう。そして、押し問答が始まり、こっちの話を聞こうとはしない。
コンビニの駐車場に車が入る前に友人に、用があるので早めに帰りたい、と言ってみたが、
「悪い。すぐに済むから、確認に戻らせてくれ。ゴメンな。」
謝っているが、絶対に戻るという意思を感じる。
お互いに協力して状況を打開しなくてはならないのに、向いている方向が違う。
自分一人がスパイラルの問題を考え、前の二人は三人の彼女のことを考えている。
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