青葉 2012-01-06 22:03:27 |
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「ルイ君、太陽を早く沈めすぎだよ。現実の太陽はもっとゆっくり沈むものよ。まあ、夢だからルイ君は無意識のうちに夜が来るのを早めたんだろうけど。」
小桃はまたもおかしなことを言った。しかし、それについて話をする心境にはなれない。
「帰ろう。」
僕は再度促す。これで小桃が動かなければ僕は一人で帰ろうと思った。今の僕は、走り出したい衝動を懸命に抑えている。一歩でも動けば一目散に駆け出すだろう。
「ルイ君は、あたしが怖いんでしょう。きっと、その怖いと思う気持ちがこの夢の世界を暗くしちゃんだんだよ。だから夜になっちゃたんだよ。」
小桃は立ち上がり僕の真正面に立つ。それは、まるで僕の進路を塞ぐ様だった。
こちょこちょとくすぐられて
つい気になってしまう感じで
短くアゲるのもいいですね^ ^
3000越えてもまだまだ続けて欲しいです‼︎
それがまた恐怖を増長する。
「先に帰ってるよ。」
僕は小桃の横をすり抜けようとした。が、何故か身体が思うように動かない。酷く鈍い動きになってしまう。
おかしい。
そう思う。
この身体が動かない現象は小桃が起こしていることなのだろうか。そう考えると恐怖がさらに増す。
「待ってよ、まだ起きないで。話はまだ終わってないじゃない。ルイ君はあたしが何者か知りたいんでしょう?」
小桃が何者か?そんなことは、もう本当にどうでも良かった。早くこの場をさりたかった。小桃から逃れたかった。
しかし、ポツリポツリとあった街灯の灯りも遠くに見えた街の明るさも、気がつくとなくなっていた。
いつの間にか、僕は闇の中で小桃と向かい合っていた。その闇は絶望的で一歩も歩き出せないほどの暗さだ。なのに小桃の顔だけはハッキリと見える。
それは不気味な光景で、声も出なかった。
「ルイ君、あたしの正体は現実で教えてあげる。ルイ君とマドちゃん二人に教えるね。教えるから、二人に来てほしい所があるの。川に遊びに行く時、山に入ると最初の分かれ道をいつも右に行くでしょう。そこを左に曲がって欲しいの。そこを進めば、あたしの正体が分かるよ。一本道だから間違える心配はないからね。起きたらすぐに来てね。それから、必ずマドちゃんと二人で来て。二人だけでだよ。それと、ユズちゃんは絶対に連れて来ないで。ユズちゃんには内緒だからね。……起きたらすぐに来て……すぐに……」
僕は目を醒ました。
今回の夢は現実離れしていたが、これまでの現実の様な夢と同じくよく憶えている。
小桃は、僕に山に来るように言った。山で自分の正体を明かすと。山で小桃が待っているのだろうか。小桃は実在するのだろうか?
それから、小桃は円を連れて来ることとユズちゃんにはこの事を隠すように言いつけてきた。それには一体どんな意味があるのだろう。
別に意味なんかないのかもしれない。ただの夢に過ぎないというのが現実的な答えだと思う。
だけど、その答えが正解なのか確かめてみたいと思ってしまった。僕はさっきの夢に好奇心をくすぐられてしまった。特に小桃が来るように指定した場所が僕の心を揺さぶった。
川に遊びに行く時、山に入ると最初の分かれ道をいつも右に行くでしょう。そこを左に曲がって欲しいの。 そこを進めば、あたしの正体が分かるよ。一本道だから間違える心配はないからね。
そう小桃は言った。
その場所には行った記憶がある。
何年前だろう。まだ小学校にあがってなかった頃だったはずだ。
二人で歩いたことが思い出される。
幼かった僕は手を引かれながら山の中を歩いた。
辿り着いた場所は墓場だった。
僕の手を引いていたのは……
そう、ユズちゃんだった。
あの時、ユズちゃんは何で僕を墓場に連れて行ったのかは覚えていない。墓場で二人なにをしたのかも覚えていない。ただ怖かった。だから、帰りたいとユズちゃんに何度も訴えたのは思い出せる。
僕は寝ている円を見た。
円は寝息をたてている。
ごもっとも誘いに乗って行ってみよう。そう考えが傾いた。
「円、行こう。」
僕は自分の決心を固めるために声を出した。そして円の身体を揺すった。
円は、う~ん、と眠そうな声を出し僕と反対の方向に寝返りをうつ。
「円、出掛けよう。起きて。」
僕は円の身体を揺さぶり続ける。
ほどなくして円は覚醒した。
「何?お兄ちゃん。」
迷惑そうな声だ。
「これから二人で山に行こう。」
僕は立ち上がりながらそう答えた。
「何しに?」
「いいから。」
僕が立ち上がっても円は起き上がろうとしない。
「無理だよ、お兄ちゃん。お母さんから今日は出掛けないように言われてるもん。」
「だから、お母さんに内緒で行くんだよ。」
円は上半身を起こす。
「内緒で行くの?じゃあ、円は行かない。後でお母さんに怒らるの嫌だもん。」
上半身を起こしたが行く気にはなっていない様だ。僕は説得する。
「心配ないよ。お母さんに怒らるのはお兄ちゃんだけだよ。円は、お兄ちゃんに無理矢理連れていかれたと言えばそれで大丈夫。怒られないよ。」
円は僕の言葉を聞いて頷く。そして伸びをすると、
「わかった。じゃあ一緒に行ってあげる。でもお母さんに怒られたら、お兄ちゃんに無理矢理連れていかれたって本当に言うからね。」
と言った。
「いいよ。実際にそうなんだから。さあ、立って。直ぐに行こう。」
促すと円は動きだした。
「ヤス君も連れていく?起こす?」
円は立ち上がると、隣でヤス君が寝ていたことを思い出し、そう訊いてきた。
夢の中で小桃はヤス君については何も言わなかった。しかし円と二人で来るように条件をつけていた。
「ヤス君はそのまま寝せておこうよ。二人で行こう。」
僕と円は玄関に向かった。大人達に、特にお母さんに会わないように僕達は早足で廊下を移動する。
幸い誰にも会わずに玄関に着くことができた。素早く靴を履くと玄関を出た。家の中から大人達の話し声や笑い声が聞こえた。一際大きな声を出しているのは僕のお母さんだった。
誰も僕と円が家を出たことはきづいていない。
僕は円の手をとって小走りで門を抜けた。
大人達は全員一階にいる。ここまで来てしまえば家の塀が僕達を隠してくれる。見つかることはない。
「さあ、行くよ。」
円に声を掛ける。
円は悪戯が成功したというような楽しげな顔をしていた。
僕は小桃が出した条件を守って行動している。次は小桃が正体を僕に教える番だ。もちろん夢はただの夢なのだとも思う。だが、それならばそれでいい。何故なら、やはり小桃とは僕の夢の中だけに存在するということがそれで分かる。
僕は円の手を引いて歩き出す。と、その瞬間に僕は感じた。
見られている。
そんな気がして足を止める。
反射的に僕は家の方を見る。塀の上方。二階を見る。
二階の一室に人影があり僕達を見ている人がいる。
ユズちゃんだ。
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