青葉 2012-01-06 22:03:27 |
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夏休み、僕の心は浮かれていた。
お盆と正月は、母の実家である祖父の家に家族で数日間泊まるのが恒例になっている。
年の近い従兄弟達と会えるので、僕にとって最高のイベントだ。
祖父の家は、ものすごい田舎というわけではなかったが、すぐ近くに小さな山があり、そこには緩やかな川も流れていて、夏は僕や従兄弟達が遊ぶには最適の場所だった。その山は丸々祖父の土地で他の人が入ってくることもなかった。
従兄弟達と一緒に山で遊ぶのは本当に楽しいことだった。
今、まさに父、母、そして妹の円(まどか)と祖父の家に、父の運転する車で4時間かけて着いたところだ。
祖父や祖母、おじさんやおばさんと挨拶をした。そして、従兄弟達との再会。
従兄弟達といっても、人数は少ない。僕達兄妹と他に二人だけだ。
一人は神村(カミムラ)柚希(ユズキ)、僕の一つ年上の小学六年生。母の兄の子で、祖父達と一緒にこの家で住んでいる。
もう一人は、南(ミナミ)泰直(ヤスナオ)。妹の円と同じ年で、小学三年生。母の妹の子だ。
さて、従兄弟達と何をして遊ぼう。長時間車に乗った疲れも何のその。まだお昼過ぎ。僕の頭の中の大半がその事で占めた。
そう。大半が占める。が、他にも僕には興味が湧くことがある。
それは、毎回この祖父の家に来ると起こる事だ。
それが今回も起きるだろうか?
それは僕にとって、とても不思議なことだった。
その不思議なことは、ある条件で起きる。そして、それは今ではない。
「塁兄ちゃん、泳ぎにいこう!川に。」
僕になついている泰直が声をあげる。
僕も、弟の様に思っていてる。
塁とは、僕の名前だ。僕は酒見(サカミ)塁
(ルイ)という。
「そうだね、ヤス君。行こうか!」
泰直はヤス君と皆から呼ばれていて、僕もそう呼んでいた。
「あたしも行きたい!ユズちゃんも行こうよ!」
円が、ヤス君に同調して柚希ことユズちゃんを誘う。
円は、年上の女の子であるユズちゃんの事が大好きだ。ユズちゃんもそんな円を可愛がっている。
しかし、ユズちゃんは同意しない。
「天気予報をさっき見たんだけど、これから雨が降るんだって。マドちゃん、今日は家の中で遊ぼう。面白いゲームを買ったから、ね。ルイ君も、ヤス君も一緒にやろう。」
それを聞いて僕達三人は不満の表情をする。
「明日は晴れるから、明日は絶対に泳ぎに行こう。だから、今日は家であそぼう。本当に面白いゲームなんだから。」
ユズちゃんの言葉に説得されて、僕たちは柚希の部屋に行って夕飯の時間までゲームをした。
夜は、従兄弟達四人で、六畳の部屋で寝ることに毎回なっていた。
ヤス君は、最初の内ははしゃいでいたが、僕や円よりも遠方から来ているので、疲れて直ぐに寝てしまった。僕も、円やユズちゃんと話をしていたが、いつの間にか眠りに就いた。
よく晴れた日だった。
僕達従兄弟同士の五人は川に来ていた。
ヤス君が僕の背中に乗り掛かってくる。僕はヤス君を背負いながら、川の中を歩く。ヤス君の笑い声が背中越しに聞こえた。
川辺では円とユズちゃんは、ボールで遊んでいる。
「ねえー!せっかく持ってきたんだから乗ろうよ!」
円とユズちゃんの後方から、女の子の声が響く。
小桃(コモモ)の声だ。小桃は、モモちゃんと、呼ばれている。僕とは同級生だ。
モモちゃんは、祖父の家から皆で担いで持ってきたビーチボートを引きずりながら、川に入ろうとしていた。
「モモちゃん、僕も乗る!行こう、ルイ兄ちゃん!」
ヤス君は僕の背中から降りて川から上がると、モモちゃんとビーチボートの方に走り出す。そして、
「ルイ兄ちゃん、早く行こうよ!」
と、僕を促す。
円もユズちゃんの手を引っ張って、モモちゃんの所に走り出していた。
僕も急いで駆けつける。
「集まったわね!さあ、出発しよう!」
モモちゃんは、バランスを取りながらビーチボートと最初に乗る。僕を含む四人はその後に続き乗り込んだ。
緩やかな流れの川でスリルは物足りなかったが、冒険をしているようで楽しかった。
皆で笑い声を上げて、川下りを楽しんだ。ある程度下ると、ボートを川から上げて、元の位置まで皆で運び、また川下りをする。そんなことを全く飽きることなく繰り返した。
そこで僕は目を醒ました。
そして思う。
やはり不思議な事が起きた、と。
不思議なこと、それは、
僕は祖父の家に来ると、何故か祖父の家に来ている時の夢しか見ない。自宅や学校は出てこない。友達も近所の人も出で来ることはない。 そして、祖父の家の中で、祖父母やおじさんおばさんと話をしていたり、山の中で従兄弟達と遊んでいたりと、祖父の家にいる時の日常のことだけを夢に見る。
青葉さんの呟き、好評でしたね
3000まで後ちょっと!
じゃあ、青葉さんに質問しちゃいます
最近よかった本や映画はありました?
大雪で孤立した町の人には何が起きそうですか?
ゲラシメンコ彗星が唄ってたのはどんな歌だと思います?
あれ、変な質問になっちゃいました…
スルーして吉ですね(笑)
最近は「海賊と呼ばれた男」を読んだよ。一番最近は観た映画は同じ著者の「永遠の0」だね。
大雪で孤立したら、町の人に起きるのは、互助じゃないかな。
そういうことを訊いた訳じゃないのかな。
ゲラシメンコ彗星か
あの彗星は「歌う彗星」とロマンチックに呼ばれているけど、凄い悪臭らしいから……。孤独な嫌われものみたいな歌かなぁ。
う~ん、あまり広がりそうにない返答だね。せっかく面白い問題提起してもらったのに……
内容が日常だなんて、夢だというのに夢らしくないと思う。もちろん日常ありそうな夢を自宅にいる時にも見ることはあるけど、そんなに多くはない。どこか突拍子もないことが大体の夢にはある。だけど、祖父の家いる間は、日常のような夢だけなのだ。現実に有り得ないような内容は一度も見たことがない。さらに、夢らしくないと思うのは、必ず内容を覚えていることだ。しかも鮮明に。自宅にいる時は、夢など直ぐに忘れることが多いのに。
とはいえ、ひとつだけ夢らしいところがある。
しかし、おかしな話だと思うかもしれないが、その、ひとつだけ夢らしいところが、僕にとって一番の不思議なことだった。
どうしてこんなことが僕の身に起こるのだろう……
考えていると、隣で寝ていた円が起きたようだ。
「お兄ちゃん、おはよう。今日は晴れだから、泳ぎに行けるね。」
起きたばかりなのに爽快な顔つきだった。円は直ぐにユズちゃんを起こして、今日は何があろうと川に絶対に行くと宣言した。
御飯は皆で食べる。三家族いるので人数が多く、普段はあまり使っていないという和室の広間に食事の時は集まる。
ガヤガヤとした雰囲気の中で朝食を摂っているとヤス君が、
「早く食べて、川に行こうよ!」
と、僕に言った。ご飯を食べている途中だというのに待ちきれない様子だった。
「ヤス君、ビーチボートに空気を入れてから行こう。去年も乗ったやつ。楽しかったから今年も持って行こうよ。」
ユズちゃんが、そう提案する。
「あっ!去年乗ったあのボート?乗りたい!持っていこう!」
ヤス君はさらに、待ちきれなくなる。
僕達はヤス君に強く促され、朝食をゆっくりと食べることは出来なかった。
朝食が終わると、祖父に庭の倉庫を開けてもらった。そこにはビーチボートか仕舞ってあった。
ヤス君のお父さんがビーチボートに空気を入れてくれる。入れ終わると、僕達四人は、それを担いで川へと向かって走り出す。
山までは近く、二、三分で着いたが、山中の川までは、急ではないが登り道を行くことになり、30分程度掛かる。いや、ビーチボートを担いでいるとはいえ、小走りをしているので、もう少し早いだろうか。
ボート担ぎながら、このボートに乗るのは一年ぶりだけど、
今日、二度目のボート遊びだ、
と僕は思う。
ボートには夢の中で既に乗っている。夢のことは鮮明に覚えているので、ついさっきまでボートで遊んでいたような気がした。ボートに乗るのは楽しいので嫌な気持ちは全くない。夢も現実も楽しくて、むしろ得をした気分だ。
ボートを担ぎながら、起きて直ぐ考えていたことを再び思う。どうして、現実みたいに感じる夢を祖父の家に来ると、いつも見るのだろうか。そして、それを考えていると、その夢の中で唯一の夢らしいところなのに、それが一番不思議な感じがすること、必ずそれに考えが行き着く。
それは、
現実では僕達は四人なのに、夢では五人になることだ。
夢の中では、小桃という僕と同じ年の女の子が出てくる。皆から「モモちゃん」と呼ばれていて、僕達は従兄弟同士なのだ。
僕は夢の中で、小桃が従兄弟であることを自然に思っている。だから当然、小桃がいることに違和感がない。小桃がそこにいることを当たり前と思っている。
まあ、夢とはそんなものだろう。全く知らない人がいても受け入れる。夢ならばよくあることだ。だからこそ、唯一夢らしいところと思える。
そんな中、不思議なのは、夏と冬に祖父の家に来ると、夢には必ず小桃が出てくることだ。絶対にだ。本来、存在しない人が、そんなに頻繁に夢に出てくるだろうか?普通、二度出てきただけでも不思議に思うだろう。しかも、祖父の家に来ている間だけ限定で、自宅にいる時に小桃が出てくる夢を見たことはない。
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