青葉 2012-01-06 22:03:27 |
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木山:それは、あまり良いことにならないと貘は判断したらしい。でも、それはナイトメアとは関係なく、人間の都合でだけどな。
青葉:どういうこと?
木山:俺の曾祖父であるおばあさんの父親は、その時すでに亡くなっていて、おばあさんの兄が実家を継いでいた。その嫁さんは気の強く自己中心的で、姑である俺の曾祖母とは反りが合わず仲が悪かったんだ。それも酷く悪かった様で、曾祖母は家を出たいと、貘にこぼしていたらしい。
青葉:貘は、おばあさんの実家が世代交代しても家に来ていたんだね。
木山:ああ、来ていた。兄嫁は貘にも冷たい態度を取っていたと聞いてるけど、それは余談だな。さらに、兄嫁は、義理の妹であるおばあさんが家に帰って来ても露骨に嫌な顔をした。だから、おばあさんも実家から足が遠退いてしまっていた。
青葉:なるほど。つまり、両親が突然いなくなったからといって、おばあさんの実家は子供だった伯母さんとお母さん二人を預けるには適さない環境だったわけか。
木山:そう。それに、曾祖母を家から出してあげたいという気持ちが貘にはあったんだろうな。
青葉:でも、伯母さんとお母さんが残るのはリスクがあるよね。ナイトメアが勝ったら、次の狩りの標的は二人なんだろうから。
木山:貘には百パーセントの勝算があったんだと思う。自分だけでは判らないけど、貘全体と単独のナイトメアの戦いという構図を作ってあったからな。
青葉:二人に危険はないと判断した訳か。そして、君の曾祖母を家から出してあげた。
木山:慣れ親しんだ家を離れて、歓迎されない場所に行くよりは、伯母と母にとってもそれが最良だしな。
青葉:他に準備はあったの?
木山:あっただろうけど、しなかった。時間に限りがあって無理だったんだ。何せ、曾祖母に経緯を信じてもらうのも簡単ではないからな。おばあさんは曾祖母宛に、短い手紙と長い手紙を書いた。短い手紙は直ぐに実家に速達で郵送した。内容は、また大変なことが起きたので直ぐに来て欲しいというもの。
青葉:また?
木山:俺の曾祖父がナイトメアに狩られた直ぐ後のことだからな。
青葉:あっ、そうだったね。
木山:で、長い手紙は伯母に託して、曾祖母が家に来たら渡すようにした。内容は、その大変なことが何なのかを説明するもので、ナイトメアと貘のこと。自分は暫く眠り続けること。そして、この家に住んでほしいことと、自分が目覚めるまで二人の娘のことをお願いしたいこと。
青葉:信じてもらえたの?
木山:ああ。実際、それから曾祖母は二人と一緒に山村で暮らし始めたからな。それに伯母の話では、曾祖母は貘のことを元から神秘的な何かではないかと思っていた節があったようだ。きっと直感で貘の正体が人間ではないことを見抜いていたんだろうな。それに、家に住み始めてからは、ナイトメアの結界のせいで家の中に何故か近づけない場所がある妙な状態。手紙を信じる材料はあった。まあ、手紙を信じようと信じまいと、父親を喪い母親もいない状況の、まだ子供の孫娘二人を放ってはおけないだろうけどな。
青葉:確かに。
木山:そうそう。後は、おばあさんを行方不明者と世間ではすることに決めたことがあった。ナイトメアの結界が有る限り、おばあさんが外に出ることは出来ない。いつ結界が解けるかも判らないからそうしたらしい。
青葉:旦那さんを喪ったんだから、何処かに働きに行ったということにしても良かったんじゃない?
木山:閉鎖された山村。何の挨拶もなく、出稼ぎに行ったなんてことにするのは無理だった。大体、おじいさんは亡くなったけど、畑は残っている。それさえあれば、経済的に問題はないから、その理由では不自然なんだ。
青葉:いろいろあるんだね。
木山:そう、いろいろとあるのさ。
さて、いま話しているのは、貘とはどんな奴かということだったよな。
纏まりはないけど、貘とはそんな奴さ。
青葉:読み取れたのは、貘は人と交流を持つことがあり、人の敵にはならない。それは当然だよね。人の悪夢が食料なんだから人がいないと困る。だけど味方とも言えず、本来ならば人の為に何かすることはない。ただ、恩を受けたら律儀に返そうとする。そして、仲間意識は強い。ということかな。
木山:概ね、そんなところだな。
青葉:話を戻そう。君がナイトメアと話をしているところから。
木山:そうだな。
俺が貘を悪魔祓いだと勘違いしていて、そのことをナイトメアが指摘した所からか。
青葉:そうだね。
木山:ナイトメアは、俺の勘違いを薄く笑い、男の正体を貘だと明かした。
あの男は貘よ。
シンプルにそう言った。
俺は、
バクって?
と、何のことか分からずに訊いた。
悪夢を食べる貘よ。知ってるでしょう?それくらい。
そうナイトメアはそう答えた。
俺は、悪夢を食べる貘につては聞いたことがあって、何となくは知っていけど、地下の扉から出てきた男が貘だというのは理解できなかった。だって、男は人間の姿をしていたんだから。それで、俺は思った通りのことをナイトメアに言ったんだ。あれは人間だ、と。
するとナイトメアは、
人間に見えるだけ。あいつは化けているのよ、人間に。それも、人間の中でも不細工な姿でね。元が不細工だと、不細工にしか化けられないのかしらね。
と貘を馬鹿にするような喋り方で言った。
そして、
でも、その不細工な貘にあたしは敗けたのね。そして、あなたはその不細工な貘に守られているのよ。貘がいるから、あたしはあなたを狩れないんだから。
と付け足した。
自嘲するナイトメアの言葉だった。それを聞いて俺は余計なことを口に出してしまった。余計なこととはいえ、本心だけどな。
青葉:何て言ったの?
木山:悪魔祓いに敗けて貘にも敗けて、悪魔って弱いんだね。
と言ったんだ。子供は正直だよな。
青葉:ナイトメアの反応は?
木山:本当のことを言われて、怒り心頭に発した様で、
腹の立つことを軽々と言ってくれるじゃない。あなたが寝るの待って狩りするのは貘が邪魔するから難しいけど、ここであなたを殺すのは簡単なのよ。夢の中での狩りでなければエネルギーにはならないから、あなたの命は無駄になるけど。でも、憂さ晴らしににはなるわ。
そう、怒りからか早口で言った。
青葉:冷静ではなかったわけか。自分で自分を貶めるのは良いけど、人に言われるのは嫌だったんだね。その気持ちは分かる。
木山:プライドを傷つけたんだろうな。
青葉:何とも人間味のある悪魔だよね。
木山:そうなんだよな。でも、悪魔に人間味があるのは当然なんだ。
青葉:どうゆうこと?
木山:悪魔を造った者の特性を引き継いでいるのさ。
青葉:悪魔を造った者?誰?
木山:その話はすぐだ。続けるよ。
青葉:うん。
木山:ナイトメアを怒らせたことに恐怖を俺が感じたとき、音もなく貘はやって来た。犬も全く吠えなかった。
青葉:貘が来たんだ。
木山:貘はいつの間にか俺のすぐ後ろに立っていた。そして、
子供の戯れ言。赦してやっておくんなさい。
と、俺の代わりに頭を下げた。
ナイトメアは貘を見て、
あら、いたの?
もう会いたくなかったのに。
と言って忌々しそうな顔をした。
貘は、
そう嫌わないでおくんなさい。長い付き合いの仲でやす。それに、もう戦いは終わりやした。
と、任侠調だが柔らかい口調で話した。が、ナイトメアはきつく、
じゃあ、何の用よ!
と怒鳴った。
貘は、
あんたに用はありやしません。あたしは、この坊っちゃんのお母さんに頼まれて、坊っちゃんを探しに来ただけでやす。
と変わらず柔らかく答えた。
青葉:貘は穏やかなんだね。
木山:それに対してナイトメアは激しかった。
馬鹿じゃないの!人間を守るなんて!
と怒声を響かせた。
貘はナイトメアの怒りなど気にした様子もなく、
あたしは正義の味方ではありやせんから、人間全てを助けることはしやせん。恩義がある人間だけでやす。あんたが恩義あるお嬢さんを狩ろうとしなければ、こんな長い戦いもしやせんでした。いや~、しかし本当に長い時間でやした。ここまでになるとは思いもよりやせんでした。
と、苦笑いを浮かべた。
ナイトメアには、苦笑いとはいえ貘の笑みが気に障ったようで、
あなたが長く外に出られなかったのは、人間の女なんか助けようとするからでしょう!人間なんかを!
と、不機嫌極まりないという声を出した。
青葉:そういや、貘は、「恩義あるお嬢さん」と言ったんだよね?
木山:ああ、そう言った。
青葉:「お嬢さん」とは、おばあさんのことだったよね。
木山:そうだな。
青葉:でも、貘にとって恩義があるのは「お嬢さん」ではないんじゃない?恩義があるのは、小金を呉れたり、寒い時季に家に呼んでくれて食事を出してくれたりして、何かと面倒をみてくれた君の曾祖父や曾祖母じゃないの?「お嬢さん」である、君のおばあさんは貘を面倒みるどころか、逆に子守りをしてもらってたんでしょう。
貘が、長い戦いをしたのは、おばあさんが恩義がある人達の娘だから、ということ?
木山:いいや。貘は、おばあさんに恩義があったんだ。曾祖父や曾祖母にも恩義を感じていたかもしれないが、誰よりもおばあさんに恩義があった。
青葉の疑問と同じことを、おばあさん自身も感じ、その事について貘に訊いたことがあった。その時の貘の答えを、俺は後でおばあさんから聞いた。
その答えは、
あたしら貘はそんなに食事を必要としやせん。何ヵ月かに一度だけ悪夢を喰えば充分でやす。あたしは、お嬢さんの家に泊めてもらいやした時に、寝る前にお嬢さんやご兄弟さん達に怖い話を聞かせました。そうすると子供でやすから、誰かしら、あたしの話に誘発されて悪夢を見てくれたもんでやす。お嬢さんは特に怖がりでよく悪夢を見てくれやした。あたしは、それを頂いていやしたんです。お嬢さんは、あたしの話を聴いても悪い夢を見ないと言ってやしたが、本当は見ていたんでやす。ただ、あたしが早めに悪夢を喰っていやしたので、記憶には残らなかっただけでやす。お嬢さんには、あたしは世話になったのでやす。旦那様や奥様は、あたしに、よく人間の食事を恵んでくれやしたが、あたしにはそれは意味のないものでやした。あたしは悪夢喰くらいでやすから。
というものだったそうだ。
青葉:なるほど。貘はおばあさんを利用して、悪夢を食べていたのか。一番に食べ物を提供してくれてたのは、おばあさんだったんだね。
ごめん、また話を脱線させた。
木山:ナイトメアと貘の会話に戻るよ。不機嫌な声を出したナイトメアに対して貘は、
人間なんか、と言いやすが、あんたもあたしも人間をもっと大事にするべきでやしょう。人間あってこそのあたしらでやすから。
と言った。
ナイトメアは不満この上ないように、
あなたは人間から悪夢を恵んでもらってるから、そう考えるだろうけど、あたしは人間の命を食べているのよ!大事に出来るはずないじゃない!
と不愉快そうに声をあげた。
貘は頭を掻きながら、
いや~、確かに。とはいえ、人間を乱獲しては、あんたのためになりやせんよ。
そんなふうに話した。
それに対してナイトメアは、
人間なんて、次から次に産まれてくる。狩っても狩っても、いなくなったりしないわよ。あたしの食糧は無くならないわ。
と貘の言葉を鼻で笑う。
すると、
そういうことではありやせん。あたしらは、目立ち過ぎると良いことがありやせん。あんたは人の命を奪うだけに、あたしら貘以上に気を付けないといけやせん。人間には結局勝てやしないのでやすから。人間に目をつけられるような真似は極力避けるのが正解でやす。
と、貘が諭すように言った。
青葉:貘も人間が強いと思ってるんだね。
木山:そう。どうやら、貘も人間には敵わないと思っていた。
貘は続けて言う。
これからは、目立つことなく必要最低限の狩りだけをしていくことでやす。目立てば逆に狩られてしまいやす。人間は、あたしらを創りやしたが、当然ながら人間以上に強い存在としては創造してくれやせんでしたから。
青葉:「あたしら」とは、ナイトメアと貘のこと?
木山:ああ。
青葉:ナイトメアも貘も、人が生みの親ということ。
木山:そうなんだよ。人間が創ったんだ。だから、ナイトメアに人間味があって当然なんだ。人間が考え出した存在だから似た感覚があるんだよ。
で、ナイトメアと貘の話を聴いていた俺も、つい口を挟んでしまった。
人間が創ったの?
と、俺は声をあげてしまった。
俺には、ナイトメアも貘も超人的な存在にみえた。その時は、弱い人間が創ったなんて考えられなかった。
俺の言葉にナイトメアが直ぐに反応して、
そうよ。残念だけどね。
と、本当に残念そうに言った。
俺の顔は納得していなかったようで、ナイトメアは、
人間があたし達を創ったのでは不満なの?だとしたら、あたしと同じね。
と訊いてきた。
人間がナイトメアも貘も創ったということは、当然だけど人間の方が歴史があるはということだろう。でも、俺には両者とも人間が生まれる前から存在していたと思いこんでいたんだ。特にナイトメアは……というよりは悪魔は、人間の歴史が始まった頃より遥か昔から絶対的な悪として存在していた。そんなふうに思っていたんだ。
青葉:まあ、普通は悪魔も霊獣貘も人間より先に存在していたと思うよね。
木山:俺は、それを訊いた。
人間より、ナイトメアも貘も先にいたんじゃないの?人間の方が後なんじゃないの?
と。
すると、ナイトメアは、
ナイトメアは人間を悪夢に引きづりこんで、狩りをして人間の命を食べる。貘は人間の悪夢を喰らう。人間とあたしたち、どっちが先に生まれたかなんて少し考えれば明確でしょう。 人間よりあたし達が先に存在していたとしたら、人間が存在する前、あたし達は何をエネルギー源にしていたというの?人間がいなければ、あたし達は存在出来ないのよ。
と俺に説明した。
小学生の俺はナイトメアの言ってること全てを理解したわけではなかったが、人間の存在が先だと自信を持って言っているのは分かったので、単純に信じ、
人間の方が先なんだ……。
そう呟いた。
すると、今度は貘が口を開いてこう言った。
そう。あたしらを創ったのでやすから、当然ながら創った人間が先でやす。悪魔も霊獣も妖怪も神獣も、そんな類いの者は全て人間が作り出しやした。
青葉:人間は何故、ナイトメアや貘を創ったの?
貘は悪夢を食べてくれて人間にメリットがあるから、まだ少しは解るとして、ナイトメアを含む悪魔なんて創る必要がないんじゃない?
木山:当然の疑問だと思う。けどな、俺は違った質問をした。それは、
誰が創ったの?
だった。
青葉:確かにそれも気になるね。
木山:それについての話の口火を切ったのはナイトメアだった。
その昔に人間の誰かが、ナイトメアという存在を想像したのよ。それが誰なのかは判らないわ。でも、それは想像以上の何物でもない。本当の意味であたし達ナイトメアを生み出したのは、想像にすぎなかったあたし達を必要とした人間達ね。必要として、あたし達ナイトメアを具現化した人間がいる。人間の中には、悪魔という負の存在が必要なのもいるのよ。
まず、ナイトメアがそう言った。
青葉:ちょっと待った!
いくら必要だからといって、想像上の悪魔を現実に創り出せるものなの?それに、悪魔を必要とする人間って、どんな人なの?
木山:必要だとそんなことが人間には出来るんだよ。現実に無いものを有るものにする能力が人間にはあるんだ。例え、それが悪魔のような存在でもな。
青葉:どうやって?
木山:それは俺には解らないさ。でも、創ろうと意識しているわけではないんだろうな。と言うか、創った本人達も自分達が生み出したとは思ってないんだろう。思いが強ければ、そして思う人数が多ければ、それだけで出来るんだと思う。
青葉:よく解らない。
強く存在して欲しいと思うと、実際に存在するの?それが人間の能力?
木山:もしかすると悪魔を必要としているたげてなく、存在を一切疑うことなく信じていると、具現化させることが出来るのかもしれない。
青葉:それが、人間の能力?
木山:ナイトメアとの会話のどこかで、
想像と創造はイコールになる時がある。それが、あたし達には真似できない人間の能力ね。
と、言っていた。この言葉から考えて、俺はそうだと思ってるんだ。
青葉:とりあえず、それはそうだして、悪魔を必要とする人間って?どんな人達?
木山:それは、たくさんいるだろうな。
悪魔祓いの類いは世界中のどこにでもいる。悪魔祓いは、悪魔がいると信じているから悪魔祓いをやってるんだ。つまりそれって、悪魔祓いは悪魔を必要としているということになるだろう。本人達がそれを意識はしていないだけで。いなければ存在意義がない。需要がないからな。
青葉:全ての悪魔祓いが、悪魔の存在を信じてるわけじゃないと思うよ。金稼ぎの為に悪魔を信じている人を相手に悪魔祓いをやってる輩もいると思う。
木山:それは、いるだろうな。でも、そんな奴は悪魔祓いではなく、詐欺師の類いだ。それは、また別の話だろう。
それから、悪魔祓いだけでなく、悪魔を必要としてる人達はいる。世界にはたくさんの信仰があるけど、悪魔信仰だってあるんだから。
青葉:悪魔祓いは無意識に悪魔を必要としているのか。そうかもしれない。でも、多人数が、必要としていて存在を疑わないだけで想像したものを具現化なんて本当に出来るのかな?
木山:ナイトメアはそう言った。そう俺は思っている。それに、貘もその意見を否定はしなかった。それどころか同調して話をしていたんだ。
青葉:でも、人間にそんな能力があるなんて信じられないな。
木山:それは、仕方ない。非現実的な話だと普通は思うだろうな。でもな、青葉が信じないのは、人間にその能力があるかどうか、ということじゃないと思うな。
青葉:?
木山:別に責めているわけじゃないけど、青葉は悪魔や貘の存在を信じていないんじゃないか?ひいてはこの話を信じてないということじゃないか?
青葉:そうかな。
木山:青葉は、あり得なさそうな話でも理解があるスタンスでいるけど、結局は自分の常識の中で判断しているんだと思う。
青葉:信じられないと思う話を何度か今まで聞いてきたよ。その中には創作もあったと思う。だから、納得いかないことは訊いて納得したいんだよ。信じたいからこそね。
でも、自分の常識で聞いた話の真実味を測っているのは確かだね。
木山:現実に悪魔を感じている人達はいる。その人達にとっては悪魔が存在することが常識だ。
例えば、アフリカの中では悪魔祓いの権威が非常に高い地域がある。医療さえも悪魔祓いが司っている。そこでは病気は悪魔の仕業と考えられているからな。白人の医師がそこで医療活動をしていても、地域の人達は悪魔祓いの言葉の方を信じて病人を悪魔祓いの所に連れていく。白人の医師の所に行けば直ぐに治るかしれないのに、悪魔祓いを頼る。それは、つまり悪魔を日常感じているからじゃないか?
青葉には青葉の常識があるけど、その人達にはその人達の常識がある。誰の常識が真実かなんて判断できることじゃないだろう。それどころか、月並みなセリフだけど、真実なんてあるのかすら判らないと思う。
青葉:そうだね。ならば、疑問を感じるより話を聴くのが正解だね。
人間の中には悪魔という負の存在が必要な人もいる、とナイトメアが言ったところから。
木山:そうだったな。
そして、俺がそこで口をだす。
悪魔なんて必要ないよ!悪魔は、人を殺しする悪い奴なんだから。悪い奴なんていなくていいんだよ!
と。
青葉:ちょっと前にナイトメアを恐れたのに、勇敢に発言をしたもんだね。
木山:その時は貘がいたからな。貘は俺の味方をしてくれると解ったから言えたんだ。将に、虎の威を借る狐といったところさ。
すると、俺はナイトメアに、
あなたが子供だから、そんな馬鹿なことを言うのかしら?それとも人間がみんな馬鹿だからかしら?
と、嘲るように言われた。
そしてナイトメアは、
まあ、今の場合は子供だからかしらね。
ねえ、人殺しするから悪魔はいなくていいと思うの?
と質問をしてきた。
俺が頷きながら、
人殺しをする悪魔なんか、みんな死んじゃえばいいんだよ!
と、ナイトメアを責めた。だが、
あなたは知らないの?人間にだって悪い奴がいるのよ。人間が人間を殺すことなんてよくあることだわ。
と言って、ナイトメアは笑った。
当時の俺もそれは正論だと思えた。人間にも悪人はいる。次の言葉が出てこない。俺の拙い反論がなくなりナイトメアは饒舌になる。
人間はね、自分達に悪の一面があるのを知っているのよ。だから、自分達以上に悪い存在が必要だった。それで、あたしは生まれたの。悪魔が生まれたの。
人間は権力や利権が欲しいもの。それを手に入れ長く維持するには、従える大衆に悪人と思われない方が都合がいいのね。善人と思われていれば、とって代わろうとする者は少ないし、大衆の支持を得られるもの。さらに大衆に、自分達を脅かす何かから守ってくれる存在と思ってもらえば、さらに権力と利権は磐石になるわ。脅かす何かとは、例えば悪魔という人より圧倒的に強く無慈悲な存在ね。自分達を悪魔から守ってくれる存在となれば誰もが従うでしょう?
だから、最初に悪魔を生んだのは、権威を欲しがった人間だと思うわ。
あたし達は権威を欲しがった人間あってこその存在よ。人間に都合がいいように悪役をやっている。 それ以外を演じることを許されない前提での。
あなた、あの女の娘の子供でしょう?あたしは、あの女の旦那の命を奪ったわ。つまり、あなたのお爺さんを殺したの。でもね、人間があたしを創ったのだから、あなたのお爺さんを殺したのは人間ともいえるのよ。人間を狩るように、人間はあたしを創ったのだから。
人間は、自分の利権のためなら、人間を犠牲にできるのよ。
でもね、人間の能力は大したものよ。その想像力からの創造力。自分を偉大なものにするために、自分達より優れたものを産み出し。そして、それに打ち勝つシナリオを描いた。悪魔は人間に最後はに負けるのよ。 そうできているの。
そう話した。
すると貘が、
そんなことを子供相手に話しても仕方ないと思いやすが、しかし共感できるところはありやす。
悪魔が人間にとって都合の良い存在だから、人間の想像を創造にする能力によつて悪魔は生まれたのでやしょう。しかし、人間を超えた存在である悪魔を退治できる悪魔祓いとは何者でやす?あたしら貘は人間と敵対しないので、そういった類いの人間と接触がありやせん。悪魔祓いの特殊な力も、人間の想像を創造にする能力によるものでやすか?
そんな質問をした。
ナイトメアは、
同じ能力によるものでしょうね。
悪魔祓いとは、悪魔の存在を確信しさらに自分に強い能力があると信じることができる人間じゃないとなれないのよ。つまり信仰心強く、自分を特別視できないと無理ね。人間はバカだけど、その最たる者があいつらだわ。
と答えた。
それを聞いた貘は、
自分が悪魔を攻撃する力を持った人間だと想像し力を創造する、というところでやすか。想像というより盲信し、思いが強くなり力を創造するということでやすね。
と呟くようにいった。
それを聞いてナイトメアは、
バカの骨頂でしょう。ナルシストどころの話ではないわ。自分は悪魔を滅する特別な力を持っていると思い込むだけで能力を得られるんだから。だから、能力といっても鍛錬とかして、努力して獲得するわけじゃないわ。本人達は信仰心を高めることと、鍛練をすることで能力が得られると本気で思って、何か訓練してるみたいだけど、本当は鍛錬なんて無意味なものよ。実際は妄想だけで得られる能力だもの。あいつらは意味ない鍛錬なんてしないで妄想力を鍛えるべきだわ。
そう話した。
青葉:妄想力とは何?
木山:さあ。よく解らない。でも、皮肉なのはよく解る。
ナイトメアの皮肉の後に貘が口を開く。
本来は存在することがない悪魔が、本来は人間が持つことがない能力に脅かされているわけでやすな。
全くもって、人間の自作自演でやす。
そこ言葉にナイトメアは応えて、
その通りよ。 悪魔は人間が想像から作り出したもの。その弱点さえも。だから、十字架も聖水も効果がある。もちろん、強さもくれたけどね。だけど人間対悪魔の勝敗は人間の勝ちと決まってる。悔しいことに人間の中でもバカの骨頂である悪魔祓いに、悪魔は最後には勝てないようにできているのよ。
と言った。
貘は、
そんなに悪魔祓いとはバカでやすか。
と笑って訊いた。
ナイトメアは、
バカね。しかも上級の悪魔祓いほどバカなのよ。下級の悪魔祓いは、祈りを込めた、ただの水を聖水だと思い込んで、あたし達に浴びせる程度だけど……まあ、それでも悪魔祓いというバカが聖水と信じてるからには、あたし達には効いてしまうけど……でも、悪魔に効力がある古典的なその程度の方法のみで戦いを挑んでくるわ。でも、上級の悪魔祓いになると、悪魔に効果的な方法を新たに作り出して、悪魔を攻撃してくる。自分が高い能力を持ってると信じてるから出来ることよ。ただ思い込みが人並み以上なだけなのにね。上級の悪魔祓いとは、想像すればそれが新たな能力になるんだから楽なものよ。
とにかくあいつらは、知らずに権力者が権力を維持するための駒になって、そいつらが創り出したとも知らずに悪魔を消して、自分が正義だと陶酔している。自分が優秀な悪魔祓いだと酔いしれている。
どう、バカでしょう?
そう貘に答え、同意を求めた。
貘はそれに対しては応えずに、
あんたに鈴をつけたのも、上級の悪魔祓いでやしたね。
と言った。
ナイトメアは、
そうよ。上級の悪魔祓いでないとそんなこと出来ないもの。あいつは、あたしが狩りをすると物凄い音で鐘が鳴るようにしてくれたわ。存在しない鐘の音がね。ない鐘を鳴らすなんてバカにしか発想できないわ。でも、本来ならできるはずかないこなのに、自分ならできると確信したのよ、あのバカは。悪魔祓いは、相手が悪魔であれば、そんなことも出来ると確信すればできてしまう。本当に腹立たしいわ。バカのくせに。
と言って怒った。
貘は話を変え、
ところで、これからどうするのでやす?もう、あんた、この国で狩りをするのは無理でやす。戦ったことで、結果的にあたしを長い時間拘束したのでやすから、他の貘は、あんたを貘の敵として認めていやす。次にあんたが狩りを始めたら、仲間の貘が必ずや狩りの邪魔をするでやしょう。人間を守るためではなく、あんたを仕留めるために。
あんた、あたしとの攻防で体力はほとんどない状態でやす。次に狩りを邪魔されて、人間の中に閉じ込められたらお仕舞いでやす。
と言った。
ナイトメアは溜め息をつくと、
貘のいない土地に行くわ。
バカな人間を守るような、バカな貘のいない土地へね。
と言った。
>2884
コメントをありがとうございますw
ただいま、青葉さん(^o^)
※匿名さんのお帰りコメントに
対抗(?)してみましたw←
匿名さん、
ただいま。待ってる人がいるのが有難いよ。
不在の間に「目的ない潜考」の続きを書いてみたので、そのうち上げるね。
やしろさん、
お帰りなさい!戻ってきたね。
何だか嬉しい。やしろさんのトピもいつもチェックしてるよ。
izmさん、
久しぶり!また読んでくれて有難う!
青葉:他に選択肢はないもんね。
木山:そうだな。
それを聞いて貘は、
直ちにこの国を出て行くのが良いでやしょう。あんた早く狩りをしないと命が持たない程に衰弱しているとみやした。まあ、だからこそ出られたんでやしょうが。
とにかく、直ぐに出発することでやす。
と、ナイトメアに早急に立ち去ることを促した。
ナイトメアは、
言われなくたって、解ってるわよ。でも、あと一、二週間は保つわ。長く閉じ籠っていたんだから、少しくらい落ち着いて外の空気を吸ってからでいいでしょう?そんなに急かさないでよ。
口を尖らせて、そう言った。
青葉:ナイトメアも外の空気を吸いたいもんなんだ。
木山:そこも、人間が創ったから人間らしさがあるんだろうな。
貘は、
そならば何も言いやせん。あたしは、この坊っちゃんを連れて、もう行きやす。坊っちゃんのお母さんは心配していやすし、家で待ってるお嬢さんも、まだ会ったことのない孫に早く会いたいでやしょうから。
と言って俺の横に並び立ち、俺と手を繋いだ。話を終わらせて去る、という姿勢をナイトメアに見せた。
ナイトメアはそれを悟り、
あたしは敗者。敗者は命を取られるか、そうでなければ従属するか去るしかないもの。直ぐにこの国を出るわ。
さよなら。もう二度と会うことはなあでしょうね。
と、別れの言葉を言った。
貘は、
差しでの戦いでやしたら確実にあたしの敗けでやした。
道中、お気をつけて。
と返すと、俺の手を握りながらナイトメアに背を向け、伯母の家の方に歩き出した。突然にナイトメアとの別れがきた。
貘に手を引かれながら歩き出した俺は、ナイトメアを最後に一目みようと振り向いたが、姿はどこにもなかった。それは忽然と消えたという表現が一番しっくりくる程に見事な去りかたで、まるで最初からそこに居なかったかのように思えた。それは、貘が音もなく突然に現れたことと類似することに俺には思えた。
貘は、
もう、姿を見ることは出来やしやせんよ。振り向いても無意味でやす。
と言った。
青葉:差しの勝負なら確実に敗けていた、と貘は言ったんだ。でも、いい勝負をしていたんだよね?確実にではないじゃない?貘は、去り行くナイトメアへの手向けの言葉を言ったつもりだったのかな。
木山:いや、心から思ったことを言ったんだと思う。差しでの勝負ならば貘は敗けていたんだ。
青葉:貘には後続の二番手三番手、それ以降も控えていたけど、君のおばあさんの中では一対一で戦ったんでしょう?差しの勝負だよ。
木山:そうだな。でも貘は後続の貘達を含めての個対団体という意味で言ったんじゃないんだ。
青葉:どういうこと。
木山:この奇妙な戦いは、貘の言う通り差しの勝負ではなかったんだ。貘には援軍がいたのさ。いや、ナイトメアの方にに足手まといがいたというべきかな。
青葉:さらに解らなくなった。
何だか嬉しいって…
むしろ、嬉しいコメントを
有難うございます!(;_;)
自トピについて、
皆のお陰でもってるトピですw
もし、おすすめがあったら
紹介してくださいな(^^)
小説、またまた今後も
楽しみにしています♪
木山:俺は貘に手を引かれながら伯母の家に向かった。家が見えてくると、家のすぐ外に伯母と母が立っているのが遠目ながら分かった。俺を心配して外に出て待ってくれていたようだった。だが、よく見ると立っているのは三人。伯母と母、それからもう一人女性がいる。誰だろうと思い、歩きながら顔を見つめ記憶を辿るが見覚えはなかった。ただ、段々と近付くにつれて、その女性は伯母や母と良く似ている顔立ちなのが分かった。
そして、その女性がナイトメアにとっての足手まといだったんだ。
青葉:その女性とは、君のおばあさんだよね?
木山:そう。その通り。
俺と貘が伯母の家に着いた時は、三人で涙の再会をしながらも、山の中で俺がナイトメアと遭遇しないか、遭遇したら何かされないかを心配して三人とも複雑な心境でいたらしい。
青葉:喜びと心配が両方あるから、そうだろうとは思うけど、先ず何で君のおばあさんがナイトメアの足手まといになるの?君のおばあさんはナイトメアに命を狙われてたんでしょう?
木山:足手まといという表現がここで適当なのかは判らないけど、それでも、やっぱり足手まとい、という言葉しか俺には出てこないんだ。
で、
母は貘に手を引かれて帰ってきた俺に気づくと、直ぐに駆け寄ってきて、
良かった。
と呟きながら地面に膝をついて、まだ背の低かった俺を抱きしめた。そして、貘にお礼を何度も言った。
伯母もそばに来て、同じく貘にお礼を言った後に俺の顔を見て、
お帰りなさい。無事で良かったわ。ほら、あの人が哲くんのおばあさんよ。会うの初めてでしょう。こんな日が来るのを待ってたのよ。
と言って、家のそばに立つもう一人の女性を指さした。母に抱きしめられながら俺は、女性の顔を再び見た。だが、その女性が自分のおばあさんだとは、どうしても思えなかった。
青葉:急にそんなことを言われても実感が湧かなかったんだろうね。初対面なんだし。
木山:そういうことじゃないんだ。さっき話した通り、顔は伯母や母と似ていた。だから、血の繋がりは視覚的情報からは充分にあり得そうに思えた。でも、確実に自分のおばあさんではないと思った。
青葉:というと?
木山:伯母が指さす女性は、伯母や母と同世代だったんだよ。当たり前の話だけど、俺のおばあさんなんだから伯母と母の親だろう。でも親子なのに同じ年くらいにしか見えなかったんだ。もし、親ではなく姉妹ということならば疑念なく直ぐに納得できたろうな。
青葉:若作りだったとか?
木山:いいや。作ったんじゃない、本当に若かったんだ。
青葉:じゃあ、その人は誰?
木山:だから、俺のおばあさんだよ。
青葉:何だか話が噛み合わないな。
木山:俺には、その女性が自分のおばあさんには思えなかったんだけど、結局は俺のおばあさんだった。その自然の摂理から外れた若さこそ、おばあさんがナイトメアの足手まといだった理由なんだ。
青葉:?
木山:俺が訝しげに、家のそばで立っているおばあさんを見ていることに、伯母は直ぐに気づいた。そして、
ああ、哲くんもビックリするわよね。あたし達だって地下の部屋から出てきたお母さんを見て、本当にお母さんなのか疑ったくらいだもの。だって、20年以上も経ってるのに、地下の部屋に入った頃のままのお母さんなんだから。
と言った。さらに伯母は、
若いけれど、間違いなく俺のおばあさんだと、確言した。
それを聞いた母も立ち上がり、
そうよ。わけあって長い間、年を取らかったけど、あの人が、あなたのおばあさんよ。
さあ、挨拶に行きましょう。
そう言って、俺の背中を押した。俺は背中を押されながら前進する。
おばあさんは、段々と近くに来る俺を何とも言えない顔で見ていた。そんな表情をしていたのは、その時のおばあさんの心境が喜びと哀しみが混ざりあってたからだろう。でも、哀しみの方が強かったと俺は思う。
青葉:喜びは解る気がするけど、哀しみのはどんな哀しみ?
木山:喜びは、おばあさん自身が眠りから目を醒ますことができたこと、娘達がナイトメアに狩られることなく無事だったこと。そして、俺のこともかな。孫という存在がいること。
哀しみは、長い時間が経っていること。それに尽きるだろうな。長い間、眠ることを強制されたおかげで、おばあさんは家族と離れることになってしまった。きっと思ったより長い期間だったんだろうな。娘達は大人になってしまっていた。母親である自分が育てることなくな。しかも、自分は何故か年を取っておらず、娘達は自分と同じ年くらいになっていた。それは、哀しいことだと思う。それから、母親が亡くなっていたことも知った。これは何よりショックだったはずだ。
青葉:母親?
木山:俺の曾祖母だよ。おばあさんの母親のこと。
曾祖母は、おばあさんが地下の部屋に入って眠りに就いてから、伯母と母と一緒に暮らしていたんだ。
青葉:おばあさんに、娘二人を託されたんだよね。
木山:そう。それで、農家をしながら曾祖母は伯母と母を育て上げたんだ。
青葉:苦労したろうね。
木山:まあ、曾祖母にとっては慣れない土地だし、まだ子供の二人の孫を育てるには年齢的にもきつかっただろうから、苦労はあっただろうな。でも、元々が富農の娘で貯蓄はある程度あったみたいだから、どうやら金銭面での苦労はなかったみたいだけど。
青葉:そうなんだ。
木山:その曾祖母は、伯母が成人した頃に亡くなってしまっていたんだ。
おばあさんにとっては、深い哀しみだっただろうな。後におばあさんは、ナイトメアに、夫の命だけではなく母親も奪われた、と言っていた。
何せ、おばあさんが眠りを強制されている間に曾祖母は亡くなったわけで、本来は一緒にいられる時間をナイトメアに取り上げられたんだからな。
青葉:確かに、母親が亡くなっていたことを知った後では、いくら孫の顔を初めて見ても複雑な心境だろうね。
木山:俺が挨拶をすると、おばあさんは俺の頭に手を置いてくれたけど、言葉は出なかった。変わらず、何とも言えない表情をしていたよ。
青葉:伯母さんとお母さんは、おばあさんか年を取ってないことに何で直ぐに納得出来たの?
木山:最初は混乱したし疑ったみたいだけど、直ぐに貘からの説明があったんだ。それを聞いて本当に自分達の母親だと確信できたみたいだな。
青葉:その説明とは?
木山:おばあさんは、ナイトメアから年を取らないようにされていた。という説明さ。
青葉:ナイトメアか何でそんなことをするの?おばあさんは狩りの獲物なのに。
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