青葉 2012-01-06 22:03:27 |
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時間が経つのは早いけど、27ooも詰まった1年ですよね
そんな風に何か残せるのっていいなあと思います
たくさんの人とたくさんのストーリーが詰まった時間の記録で
これからもまだまだたくさん作ってほしいです
セイチャットさんも青葉さんも大好きです(^^)
活字大好きさん、セイチャ&青葉ファンさん、
ありがとう。一年、そして2700、二人が今もこうして来てくれているからだね。
確かに色々詰まった記録になった。読み返すと、楽しかったり、恥ずかしかったり(^-^)
では、変わらずゆっくりだけど続きを……
あの時の僕は日和側にとって、雪見爆死事件犯人の最有力候補だったはずだ。そんな僕が危険な目に遭うという動きがあったのに、家に帰そうとしてどうするつもりだったのだろう。そんなことがあったら、学校に留まらせて僕の動向を追うのが定石だと思う。それとも僕の考えが及ばない思惑が何かあったのだろうか。だいたい面倒とは、どういった意味なんだろう。面倒なのが嫌なのは万人に共通している。だから、そこはいい。原先生が何を面倒だと思っているかだ。
「僕が学校にいると何がそんなに面倒なんですか?」
「面倒なことになるかもしれないと思ったのよ。 一色君はあの時、危険な目に二回も遭ったんだから気持ちが動揺していたのは確かでしょう。そんな中で何かあったらことじゃない。」
どういった意味だろうか。何かとはなんだろう。
「僕はあの日、校長室に呼ばれた後も窓ガラスやコウが頭上に落ちてきました。それが解っていたんですか?そのことが面倒だと思ったんですか?でも先生はそんなことが判る能力はないはずですよね。」
「当然だけど判らなかったわ。そんなことじゃないの、一色君。全然違う。先生はね、一色君を直ぐに家に帰さなかったことで、一色君の保護者に苦情を言われるのが嫌だったのよ。」
ますます解らない。話がみえない。
「何で苦情を言われると思うんですか?あの日、先生が僕の家に電話して母と話したんですよね。それで、家に帰るか帰らないかは僕の判断に任せると母が言ったわけですよね。ならば母が文句を言う筋合いはないじゃないですか。それに帰らないと判断したのは僕です。何かあっても僕の責任になりますよ。」
「最近の保護者はね、自分の言ったことなんか簡単に覆して、理不尽にも文句を言ってくることがあるのよ。知ってるでしょう?」
「僕の母はモンスターペアレントではありませんよ。」
「そう一色君が言うならそうなんだろうけど、あの時は判らなかったから。起こるかもしれない危機を回避しようとするのは悪いことじゃないでしょう?」
僕の意思を顧みずに行おうとした危機回避を支持する気にはならなかったので訊かれても言葉が出ない。
「それに一色君。一色君に責任なんて取れないわ。生徒が責任をとるなんて余程のことじゃないとね。一色君はまだ子供なのよ。一人前に責任なんて言わないで。責任を取るのは大人。学校内のことならば何であれ生徒のことは教師が責任を取るのよ。」
それについては言ってる通りだと思う。僕はまだ子供だ。それは解るとして、いったい原先生は何者だろうか。ゼロなのに僕の母をモンスターペアレントじゃないかと怯える。その怯えから僕を家に帰そうと能力を使う。学校内の事件と向き合う姿勢と覚悟が日和とは全然違う。本当に日和の仲間なのだろうかと思う。考えてみればおかしい。原先生は今年に赴任してきたばかりだが、少なくとも雪見の事件の前からこの学校にいる。日和の仲間が事件前から学校にいるのは変だ。日和や原先生の仲間に予知の能力を持つ者がいて、事件を察知して予め原先生を潜入させたと考えることは出来る。しかし、どうもしっくりこない。そこまで出来るならば、事件自体を未然に防ぐことができるのではないか。それに、僕を犯人と疑うこともなかったのではないか。とにかく原先生は事件解決よりも、自分のことの為に能力を使っている様に感じてしまう。
「先生は山梨日和の仲間ですよね?」
僕は単刀直入に訊いてみた。すると、
「山梨日和と仲間?まさか!そんなわけないじゃない。やっぱり一色君は誤解しているわよ。」
と言って、日和と仲間であることをきっぱりと否定した。
「しかし、僕を屋上に誘って山梨日和と接触する機会を作ったのは先生ですよ。普通に考えれば仲間同士だと思いますよ。」
「だから、それは校長先生から、山梨日和の言うことをきくようにと頼まれちゃったから。校長先生から頼まれたということは命令ということ。仲間だから山梨日和の言うことを実行したわけじゃないんだって。」
「校長先生から直接に僕を屋上に行かせるよう指示されたわけではなく、山梨日和の言うことを聞くように校長先生から指示を受けたんですね。そして、山梨日和が僕を屋上に誘導するよう先生に指図した。ならば、校長先生が山梨日和と仲間ということですか?」
「それは、解らない。先生はただ校長先生に従っただけで、何にも聞いてないから。」
失礼ながら原先生は小者の様だ。ゼロだが日和や校長先生に利用されているだけの存在に思える。それに能力を使う動機も、校長先生に命令されたからとか、あるかもわからない僕の母からの苦情を恐れてとか、卑屈さを感じる。ゼロという特別な存在であり、その能力が人の意思を操作できるという、僕の能力と違って能動的な力なのだから良く使うにも悪く使うにも、もっとスケールの大きなことを考えるもんじゃないだろうか。そんな風に感じる。
「そうですか。」
そう答えるしかない。
「校長先生の命令じゃなければ山梨日和なんて、あんな目立たない、取るに足らないような小娘の言うことなんか聞かないわ。」
原先生の印象が崩れていく。これまでの僕の中の原先生は不器用で気弱だが、人に対して肯定的で悪い評価は口にしない。どうやら今までは仮面を被っていたようだ。原先生は真の小者だと思う。
「そんなに山梨日和に従うのが嫌だったら、校長先生の気持ちを変えてしまおうとは考えなかったんですか?例えば、山梨日和のことを校長先生が嫌うとか疑いを持たせて二人を不和にさせるとか。それとも、能力をもつ先生が黙って言うことを聞くぐらいだから、校長先生も強力な能力をもっているということですか?」
「一色君、先生の能力は人の心を操作出来るけど、一時的なものなのよ。校長先生の心を操作して、山梨日和を嫌わせたり不信感を持たせたりすることはできるけど、その気持ちをずっと続けさせることは出来ないの。長く持ったとしても半日ね。短ければ数時間。本当の意味で人の意思を変えられることはできないのよ。先生の能力を知っている校長先生に能力を使ってしまったら、効果がなくなった時に校長先生は自分の心変わりを変に思い、結局は山梨日和に向けようとした不信感は自分に向かってくるだけ。いいことないわ。」
「そうですか、長時間に渡って効果があるわけじゃないんですか。なるほど。で、校長先生は何か能力を持っているんですか?」
「さあ、知らないわ。でも、校長先生が能力を使ってるのを見たことはないし、持っているなんて聞いたこともない。きっと持ってないんじゃない。」
「持って無いと思ってるんですね。」
「持っていると思ったことは一度もないけど。」
人生で初のインフルエンザを体験(×_×)
病院に行って薬を吸引して24時間くらいしたら完全に楽になった。今はいい薬があるね。
うつしてしまうので、外には出られない(..)
大丈夫ですか?
ゆっくり休んでくださいね
自分は毎年予防注射してますけど、今年はすごい流行っているようですね
人混みには気をつけています
組織立って動いているわけではなさそうで、日和さんの存在は謎ですね
校長もどう絡んでいるのか
結局雪見ちゃんはどうなのか
謎が謎を呼びますね
「いったい先生と校長先生はどんな関係ですか?能力を持っている先生と、持っていない校長先生。でも校長先生が主導権を握っているみたいですけど。」
「それはそうよ。上司と部下だもの。主導権を校長先生が握ってて当然でしょう。」
原先生は小者らしく従順な性格らしい。ゼロという現実から離れた存在でありながら、現実社会の序列に従ってしまう。ゼロではない校長先生に従ってしまう。例えば、新里が原先生の立場にいたら違う行動を取ったことだろう。とは思えど僕に能動的な能力があったとしても原先生と同じように現実社会の序列に従う気がする。僕も十分に小者だ。
「先生は、校長先生や山梨日和の指図に従って僕に能力を使い、そのことによって僕を怒らせたと思い命の危険を感じて、ここに僕を呼び出して誤解を解こうとしたわけですね。僕に能力を使ったのは自分の意思ではないと訴えるために。」
「そう。だから、先生は敵ではないわ。一色君の敵は山梨日和でしょう?一色君はこの学校で何かをしている。何をしているのか知らないけど、それを阻止しようとしてるのは山梨日和。先生はね、一色君の邪魔はするつもりはないわ。」
「校長先生から、また山梨日和の言うことを聞くように頼まれたらどうします?」
「一色君が一番強いもの。誰につくのが得か、その計算は出来ているつもりだから。」
原先生は自分の為に強い方に見方すると言っている。だが、計算が間違っている。僕についても何ら良いことはない。それに、何とも意見が淡白だ。
「しかし、人間は損得だけではないでしょう?今まで築いてきた関係とかあります。そう簡単に割りきれるものですか?」
「築いた関係?校長先生との?そんなの大したことではないでしょう?誰につくか、この場合は命に関わることなんだから。それにね、一色君。人間は損得か恐怖で行動をするのよ。校長先生の言う通りに動いたのも損得を考えてだしね。」
教師が口にするにはドライな意見だと思う。
「仕事に対しての命令なら兎も角、いくら校長先生の命令でも、能力を生徒に仕掛けろなんていうのは断ることも出来たはず。そこを断らなかったのは損得なんでしょうね。」
「実際に命令してきたのは山梨日和だけど、山梨日和の言うことは何でもやるように言ったのは校長先生だから、一色君の言う通りね。生徒の事より今後の校長先生との関係を考えてた。でも、損得で動くならば一色君も計算し易くて安心でしょう。強い間は絶対に一色君を裏切ったりしないわ。」
原先生は僕が強い能力を持っていると計算間違いをしている。この状況での僕の計算は、能力がバレるまで原先生は僕にとってマイナスな行動はとらない、となる。
「確かに計算はし易いですが……。正直なことを言うと、先生の人間性に疑問を感じるようになりました。少しショックを受けてます。」
僕は、僕なりに言葉を柔らかく原先生の本性を責めた。
「先生はね穏やかに人生を過ごしたいのよ。波乱はいらない。既にたくさんの嫌な思いをしてきたから。そうなったのは、この性格の弱さによるものがあったろうけど、もう十分。心が気楽に生きれたらそれでいいの。一色君が何をしようと興味ないわ。」
自分に害がなければ良いらしい。性格の弱さを嘆く前に、利己的なことを嘆くべきかと思う。
「そんなに嫌な思いをしてきたんですか?」
「ええ、幼い頃から一杯ね。子供の頃から勉強はそこそこ出来たけど、運動神経はゼロ。性格は暗い。容姿に自信はないし、愛嬌もない。手先は不器用。大人に話し掛けられても喜ぶ反応が出来ないから可愛がられない。可愛がられるのはいつも隣にいる誰か。だいたい何かをすれば馬鹿にされるか怒られるかだった。大人になれば少しはマシなるかと期待してたんだけど、選んだ職業が悪かったのかしら、あまり変わらなかった。教師になっても、生徒にはからかわれるし、保護者からは文句を言われるし、同僚からは馬鹿にされるし、辞めようと教師になってからずっと考えてた。」
「でも、辞めなかったんですね。」
「辞めなかった。もう本気で辞めようかと思った時に自分の能力に気づけたから辞めないで済んだの。気づいたのは前の学校を去る頃のことだった。先生ね、自分で言うのも何だけど前の学校で凄く評判が悪かったの。生徒は完全に馬鹿にしていて授業を聞いてもくれない。どこのクラスで授業しても騒がしくなって、よく隣の教室で授業していた先生が怒鳴り込みに来たわ。先生の代わりに騒がしいのを怒ってくれたんだけど、それはね、針のむしろに座るような感じなのよ。授業をコントロール出来ない教師だと、生徒からだけでなく同僚の先生達にも言われてるように感じちゃって。他の先生からは実際に影でそう言われてただろうしね。」
「………。」
「それできっと飛ばされることになったのね。生徒を抑えられず授業をまともに出来ない教師と保護者からも突き上げられるようになってたから。きっと保護者からの圧力があったんだと思うわ。何人か激しい保護者もいたから。」
激しい保護者とはモンスターペアレントのことだろう。原先生は前の学校で評判が悪く、保護者からも非難されるようになり、それが理由か本当のことは解らないが、飛ばされることになった。それで、保護者の反応を過剰に意識するようになってしまったようだ。だから僕と原先生が校長室に呼び出された時、最悪の場合を想定して、つまり僕の母が理不尽なクレームを安易につけてくるモンスターペアレントだった場合を念頭に置いて、僕が家に帰るよう仕向けたのだろう。事前からなるべく事が大きくならないように予防線を張ったのだと思う。しかし、原先生は能力を持っている。自分の能力をどう思い、どう活用しているのだろう。
「先生は前の学校にいる時には既に自分の能力に気づいたんですよね。なのに飛ばされてしまったということは、能力に気づいたのに何もしなかったんですか?」
「気づいた時には赴任先が変わることが既に決まっていたもの。どうしようもなかった。別に残りたいとも思わなかったしね。でも、能力に気づいてからは居心地が良くなっていった。授業中に騒ぎ出す生徒は片っ端から心を入れ換えさせて真面目に授業を聞かせたし、保護者がクレームを言いに来ても、保護者が頼りない先生と思っているのを、優しい良い先生と思わせた。まあ、それらの気持ちは長く続かないから次の日になれば元通りだけど、その場は確実に凌げるからね。それに生徒は兎も角、保護者は何度も同じように能力を仕掛けられるとクレームを言いに来なくなったのよ。忙しい中で来るのに、毎回いつの間にか丸め込まれていれば面倒になるみたい。この分なら次の学校では上手くやれると思ったわ。まあ、能力を使う時は嫌な思いをしている場面か、あるいは嫌な思いをしないための伏線で使うわけだから、使わないに越したことはないけどね。そして前の学校を去る最後の日は、一杯能力を使ってやったわ。目につく生徒全ての心を掻き乱してやった。」
「掻き乱した?どう心を操作したんですか?」
「すごく慕っている大好きな先生が、保護者の誤った認識による不当な理由で学校を去ると思わせたのよ。皆、先生行かないで!と言いながら泣いていた。わざと人目につく所で能力を使って、その姿を同僚の先生達にも見せてあげたの。こんなに人望があったのかと驚いていたみたい。いつも馬鹿にしてくれてたから、少し溜飲が下がったわ。」
僕に能力を仕掛けた時は、単純に屋上に行こうと思わせただけだったが、「保護者の誤った認識による不当な理由で学校を去ると思わせた」と言っている。けっこう複雑に考えを操作できるようだ。侮れない能力だと思う。が、それ以上に僕は感心したことがある。能力を使って生徒に慕われている自分を造り出し、同僚の先生達に見せつけて悦に入ったことなんて、他人に知られたくないと思うはずだ。 だが、原先生は惜しげもなく、みっともない心の内をさらけ出している。 なかなか出来ることではない。勘違いから原先生は今、僕を恐れピンチを迎えていると考えているが、僕がそんな状況になったら自分を良く見せようとするだろう。自分を良い人間にみせて相手から敵意を削ごうと考える気がする。だが、原先生は自分を飾らずにさらけ出している。
「醜いと思うでしょう?先生の心。」
原先生は勘違いもするが、鋭い所もある。僕の心を読んだかのように言った。
「美しいとは思いません。」
「解ってるわ。自分の心が浅ましいことくらい。」
「何故その心を僕には隠さないんです?」
「一色君は同じにおいがするのよ。だって心の闇を持っている同種でしょう。でなければ、あれだけ仲良くしている幸島君を四階から転落させることは出来ない。そんな人の心を信じられない人間から信用を得るにはね、人情に訴えるより自分の心が浅ましいことを認めて損得で動くことを明らかにした方が効果があると思ったのよ。」
「同類同種ですか。」
「心の闇を持っているという意味ではね。でも心の強さは全く違うと思うわ。一色君は強いと思う。」
僕のことを人情味ない人間と思っているは不快だ。 が、都合がいいのでこの状況を利用しているのだから腹を立てるのは筋違いだろう。
「先生は山梨日和の能力が何だか知っているのですか?」
「知らないわ。どうでもいいことよ。」
僕の質問に対して吐き捨てるように言った。
「先生は山梨日和が嫌いなんですね。」
「当然よ。あの子は一色君が危険人物と知りながら、それを教えずに能力を一色君に仕掛けるよう命令した。面倒な事に巻き込んでくれたのよ!」
「なるほど。山梨日和にそんな命令をされなければ、こんな風に僕と相対して誤解を解かなくても良かった訳ですからね。山梨日和が現れなかったら前の学校の頃とは違い、能力を使って不安のない職場での日々を送れているはずだった。」
「そうね。でも、この学校は安全ではないわ。何かがおかしい。おかしなことが起こってる。幸島君の転落は一色君がやったこととしても、もっと他に恐ろしい何かがあった気がするの。それが何だか思い出せない。思い出せないのも何かの力が働いている気がして恐ろしいわ。全てを一色君がやっていることならば腑に落ちないこともないけど。この学校でのことは全て一色君がやってることなの?」
人一倍危機回避に尽力している原先生は、雪見の事件をどこかで覚えているようだ。さすがは危機を想定しながら日々を過ごしているだけのことはある。普通より鋭い。日和も感づいていたが、日和の場合は事件を探りに学校へ潜入してきた。その事件の存在自体がなくなってしまったのだから、何かを感じて当然だろう。
「きっと全て一色君よね。そんなことが出来る強い力を持った一色君が学校に生徒でいることが不安なことよ。でも一色君が先生を敵ではないと思ってくれれば解決。先生は、安心したいの。一色君、誤解を解いてくれたかしら?先生は一色君の敵ではないのよ。」
今は敵でないだろう。しかし、本当に強い能力を持っているのが新里だと気づいた時には確実に敵になると思う。そんな時が来るのか来ないのか。何はともあれ、僕はまだ原先生を安心させる訳にはいかない。まだ疑問が残っている。
「まだ訊きたいことがあります。」
「何?何でも答えるつもりよ。それで疑いが晴れるなら。」
「先生は、山梨日和に能力を利用されたと言ってますけど、何で仲間でもない山梨日和が先生の能力を知っているんですか?」
「それは校長先生が山梨日和に話したんでしょうね。」
「それはつまり、先生は校長先生に自分の能力のことを話していたということですか?」
「そうよ。」
何でも無いことの様に原先生は答えるが、僕は釈然としない。能力を使って努力なしに楽な教師生活を送ろうとしているのに、学校のトップである人にその能力を喋るだろうか。
「どうして校長先生に能力を教えたんですか?」
「だって、校長先生は信頼出来るから。」
「それにしたって……」
「一色君が言いたいことも解るのよ。でも、校長先生はこの学校に赴任してからとても良くしてくれたの。いろいろ親身になってくれた。困ったことがあったら直ぐに相談に来るように言ってくれたし、いつも気に掛けてくれてるし。本当に信頼できるから。」
校長が、特別に気に掛けてくれたのならば、原先生が自分で言う通り保護者からのクレームで飛ばされたのが真実かもしれない。校長も何か厄介なことが起きる前に原先生をフォローしようと当然考えるだろう。だか、それは本人も気づいていたようだ。
「それで、この学校に赴任することになったのは、やっぱり前の学校の評判が悪かったからだと思ったわ。そうでなければ、あんなに親身にならないもの。先に心配があってこそ手厚くバックアップしてくれてるんだと思った。」
「なるほど。」
「だからね、最初は鬱陶しいと思ってたし、校長先生と話しているとイライラもした。だけど、暫くしたら嫌じゃなくなってたの。校長先生は学校のためではなく、自分の立場のためではなく、一人の人間を心配してくれているんたと気付いたから。真心を感じたのよね。」
一人の人間として原先生が心配になるのは判る気がする。そして、校長は学校のことも心配する気持ちもあったと思う。学校を統べる存在が、一人の教師だけを心配しているだけでは失格だ。一人の教師が全体にどんな影響を与えるかを考えて接したんだと思う。
「それで、どうして能力のことを喋ったんですか?」
「不安だったのよね。不思議な能力を持ったことを、幸運だと素直に喜べない心境って同じ境遇なんだから解るでしょう?ねえ、一色君は能力を持ったことが怖くなったことない?」
あり得ない能力を持ってしまった恐怖。能力の性質からか僕は今まで恐怖を感じたことはなかったが、原先生の様な能力を持つと不安や恐怖を感じるのかもしれない。想像するしかないが、例えば自分が能力を使うことで人の人生を変えてしまう恐怖。または、能力に溺れて自分を見失う恐怖あたりだろうか。
「ええ、まあ。有ることはあります。」
僕は原先生の感じる恐怖の見当をつけて、そう答えた。すると原先生は険しい顔で頷き、
「そうでしょう。怖いわよね。よく小説やマンガにあるじゃない。超能力者が能力を使うことによって、驚く程の早さで脳細胞が死滅するとか、急速に老いていくとか。そんなことが自分の身に起こるかもしれないと思うと眠れない夜もあるわ。」
と言った。
僕はまだアルコールを口にしたことはないが、原先生と僕の思考はシラフと酔っぱらい位の差があるのだろう。さらに校長を本当に信頼していると言っていたが、簡単に裏切れる。僕の味方に簡単になることができる。命の危機を感じているのだから仕方ないとも言えるが、軽い信頼だったのだろうと思えてしまう。
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