青葉 2012-01-06 22:03:27 |
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「何処で会ったのかは分からないし、誰だかも分からないんです。だけど、その人が能力を使って僕に仕掛けてきたのは確かです。」
僕の言葉を聞き、日和は視線を落として間をとる。そして、
「一色君の言ってることがよく解らないな。もう何処かへ行っちゃうような感じだったけど、時間があるならちゃんと解るように説明してよ。」
再び目線を僕に戻して言った。
僕は時間がなくて去ろうとしたわけではない。日和が僕の質問に答えられる状態ではないと判断したのと、この屋上で一人日和が考え込んでいたのを邪魔して申し訳ないと思ったからだ。日和が僕に居ていいというなら僕が去る必要はない。
僕は再び日和に近づいて腰を据えて話をすることにした。
「誰だかも判らないのに能力を受けたのは解ったの?一色君はいつもそうなの。」
僕が話し出す前に日和はそう言う。いつもそうとは、僕にゼロが能力を仕掛けた時に、それを僕がいつも気づけるのかということだろう。日和は僕の能力をだいたいは把握している様だが、この質問はそれが間違っていないか確かめているのかもしれない。
「そうではないです。普通なら判らないと思います。でも日和さんを探しても見つからず、何処に行けば会えるのか考えているうちに気がついたんです。僕がゼロの影響下にあったことを。そしてそのゼロが日和さんの仲間であると。」
「何であたしの居る場所を考えていただけで、そんなことまで解るの?」
「日和さんが校舎内に見つけられず、僕は日和さんが屋上にいるとだろうと考えました。今日、一緒に登校したのを除けばいつも日和さんと会うのは屋上ですからね。」
「そうね。でも、屋上であったのも二回だけどね。」
「ええ、二回だけど校内で僕が日和さんと話したことがあるのは屋上だけです。だから、日和さんのいる場所と屋上が僕の頭の中ですぐに繋がっておかしくない。だけど、僕は校舎内で日和さんをみつけられないのに、すぐには屋上に日和さんがいるという考えには至らなかったんです。あくまですぐにではなかっただけで、そんなに時間がかかったわけではないですけど。」
「へえ、何ですぐにじゃなかったの?」
「過去二回、日和さんと屋上で会った時の状況を思い出したんです。今もそうですが、日和さんと僕が屋上にいる時は他に誰もいません。二人きりです。」
「だと何なの?」
きっと、ここまで言っただけで僕の言いたいことは日和には解っているのだろうと思う。ただ日和はまだ何も気づいてないふりをしている。
「何故いつも他に誰もいないのか?そう思いませんか?」
「別に思わないわ。まだ三回くらいだもん。偶然でしょう。一色君の観察力は大したもんだと思うけどね。」
「偶然?違います。必然ですよ。」
今の日和は頭脳的に不調だと僕は思う。普段の日和ならば、自分が隠したいことでも僕が真実を見抜いている時は、時間の無駄だと思うのだろう、しらばっくれることはしない。
「そう?必然なの?」
「この屋上は本来は閉ざされているんです。施錠されていて誰も好き勝手に入ることができません。僕が入学した時からそうでした。」
「じゃあ、今は何で開いてるの?前に一色君と会った時も何で開いていたの?」
「どうやって屋上を開放したのか、という意味での質問ならばそこは何故なのか解りません。例えば日和さんの仲間のゼロが何かしらの能力を使ったのかもしれません。」
屋上開放は日和と仲間の仕業だろう。どうやったのか僕が訊きたいくらいだ。
「一色君は、あたしの仲間の能力は扉の鍵を開ける能力だと思うの?」
面白いことを言う。僕にはない発想だ。どんな鍵でも開けられたら便利だろうと思う。でも用途は良からぬことになりそうだ。
「いえ。能力を使って屋上を開放したというのは、一つの可能性であって実際は判りません。能力は使わずに他の方法で屋上の鍵を開けているとも考えられます。正直に言って、どうやって屋上を開放したかはあまり問題にしていません。それはいいとして、実は屋上は開放されているけど、誰もそれに気づいてない。そこが大事なところです。ここに人が来ないのは未だに誰もが屋上は閉鎖されていると思っているからです。」
「実際は開いているけど、心理的には閉まっているのね。それでいつも、あたしと一色君二人だけと言うのね。でも、一色君は何故ここが開いていることを知ったの?」
日和は、僕が開いているのを知らずに屋上に来たことを知っているはずだ。茶番だと思うが答えなければ話が進まない。
「知った訳じゃないんです。日和さんと初めてここで会った時、僕は開いているのを知らないのに屋上に来たんですよ。」
「開いてるのを知らないのに来たの?」
「そうです。」
「変なの。」
「そうなんです。変なんですよ。だからこそ僕は気づいたんです。ゼロの能力が関係していると。僕はあの日、泣きたくなって、一人になりたくて屋上にきました。でも本来、一人になるために屋上に来るという選択肢はなかったんです。何せ屋上は入学した時から閉まっていたし、来たこともなかったんですから。でも僕はあの日、何も疑問に感じずに閉ざされているはずのここに来た。それは何でか。僕は思考を誰かに干渉されていたんです。」
「誰かに思考を干渉?一色君の思考に介入してきたの?どう考えが変わったの?」
「最初から一人になろうとは思っていましたが、それがいつの間にか屋上に行って一人になろう、と変わっていたんです。これは僕が僕自身で考えを変えたなのではありません。僕の思考ではありません。行ったところで鍵が掛かっていて屋上には出られないと思っている。だから、一人になるために屋上に行こうと考えることが有りえない。そんな無駄なことは考えないんです。」
僕はあの時、雪見を喪った悲しさが込み上げてきて、一人になって泣こうとした。だが、僕が一人になりたかった理由は省いて話さなければならない。雪見が亡くなったことは今や日和の頭の中にはない。言ったところで日和は混乱するだけだ。
「一色君は、他人の思考に干渉できるゼロに能力を仕掛けられたと言うのね。でも、何でそのゼロがあたしの仲間だと思うの?」
「だって、僕の思考を変えて屋上に足を向けさせたんだから、それはつまり僕を屋上に呼んだことと同じですよ。そして、現れたのは日和さんです。日和さんの仲間が僕を屋上に誘導して、日和さんが僕に接触したんでしょう。」
「あたしが、その他人の思考に干渉できるゼロで、一色君をここに呼んだとは考えなかったの?他人の思考に干渉できるなら一人でもあなたをここに来させることはできるわ。どうして仲間がいるということになるの?」
青葉さん、活字大好きさん、こんにちはです
ラリイ・ニーヴンの短編「恵まれざるもの」に
意識操作のできる生物種の話がありました
その脅威が支配に繋がることから(短編では家畜管理や通訳に能力を平和利用してましたが)
ゼロがいたらゼロを消そうとする組織っていそうだな、と思いました
ゼロを利用する組織も、ですかね…それって怖いなぁ
怖い話だけど、続きが気になります
寒い寒い師走なので、お体に気をつけて!
面白そうな本ですね
確かに、通訳やらに利用できるなら素敵ですが、公然と知るには恐ろしい能力ですね
何も知らないでいる
か、
無かったことにする
かが最善策なんでしょうね
日和さんのゼロと仲間のゼロ……
一色くんは聡明だなぁ
「確かに、日和さんがその能力を持っていれば一人でできます。でも日和さんは、また別の能力ですからね。日和さんは僕と接触する前から僕のことを、能力は解らないものの、ゼロで全ての元凶だと疑っていました。能力が解らない得体の知れないゼロと相対するには、日和さんの能力はうってつけです。きっと日和さんと仲間のゼロは適材適所で僕に対峙したんだと思います。」
そうは言ったものの、日和はどこまで僕の今の話についてこられるのだろう。日和は雪見が一度は命を喪いながらも復活したことを忘れ、自分が何故この学校に来ているのか解らなくなっている。雪見の事件を忘れ、当然ながら雪見が被害者だったことを忘れている。では、容疑者の一人とも疑った僕は日和にとってどういった存在なのだろうか。
「あたしの能力はを知ってるというのね。一色君にとって、あたしはどんな能力なの?」
僕は正解を言う自信がある。でも日和はそれを肯定するだろうか。それについては、例え日和の状態が良くても隠すことかもしれない。言い当てられても否定しておいた方が、言い当てた相手も少しは迷いが出る。認めてしまえば手の内を見せるようなものだ。
「日和さんの能力は、自身の存在感を操作することです。操作といっても一つの方向にしか向けることはできませんが。」
「一つの方向?その一つとはどんな?」
「存在感を薄くさせることです。薄くというより、軽くといった方が適当でしょうかね。」
日和は僕の回答に対して意外な反応をする。
「そうね、当たっている。でも少し不満があるわね。簡単に軽いとだけで表現してほしくないわ。インパクトも面白味もない能力だけど一応はゼロの能力なのよ。当たり前だけど、普通の人には真似できないほどに軽い存在になれるの。あたしが能力を使えば、ビックリするくらいに誰もがあたしに興味を持たないわ。顔を忘れたり過去に会ったこと自体を忘れたりするくらいにね。一色君は成績優秀なんだから、もっと豊かにあたしの能力を表現してほしわ。」
日和は認めた。能力を明かしてしまった。ゼロでかるかどうかさえ答えを保留していたのに。
「では日和さんの能力とは、本来は誰もが魅力を感じるほどの日和さんの外見を完璧に打ち消して興味を持たせずどうでもいいと思わせ、それだけではなく馬鹿にしたくなるほどの存在感のなさに憐れみを感じてしまい、話しかけられるとつい相手してあげないと可哀想だと思って付き合ってあげてしまう。でもそれも少しの時間しかもたない。何故なら実際はそんなことないんだろうけど、人への配慮が全然できない阿呆にみえてしまい、そのせいか頭の弱い人に見えてくる。頭が弱いように見えるので感じる力も鈍いと思えて、つまり鈍感だろうから相手をしなくても別に心を傷つけないんじゃないかと思えてくる。そうなると一緒にいる時間に何ら意味を見出だせず相手をする気持ちも失せてくる。でも憐れみが先立つのか不思議と敵意や怒りを感じさせない。といったところでしょうか。」
「一色君、あたしは表現を豊かにして、と言ったんであって馬鹿にしろとは言ってないわ。」
日和は気を悪くしたのかもしれない。不快そうな声を出している。
「僕には豊かな表現なんて出来ません。それで自分が日和さんの能力に触れた感想から述べたんですが、だいたい馬鹿になんかはしてませんよ。日和さんの能力は潜入捜査にはうってつけじゃないですか。顔を見られても印象にも残らないうえに、頭が弱く見えるし鈍感そうだから、潜入なんて高度なことをできると誰からも思われないでしょう。それに、憐れみこそ感じさせるけど敵意や怒りは感じさせない。敵の真っ只中でも潜入中だと気付かせない要素がそろっているから堂々とリスクなく敵地に入り込める。とても凄い能力ですよ。どうしても、という程でもありませんが身につけられるものならば、僕も欲しいくらいです。」
日和の能力に対して僕なりの賛辞の言葉を贈ると、日和は声だけでなく表情も不快感を現し始めた。
「あのね、一色君。あたしの能力は自分の存在感を薄くはさせるけど、そこに自分自身を頭が弱そうに見せたり鈍感に思わせたりする能力なんて含まれていないわ。 それに人への配慮が全然できない阿呆に見せるようなこともできないのよ。だからそこらへんのあなたの言葉は、あたしの能力に触れた感想ではなく、 あたしの人間性に触れた評価になってしまうのよ。」
笑った!
少し笑いも取り入れてみようと思ったんだ。
でも、笑いは書いたことないし自信もなかった。
笑ってくれて嬉しいな(^^)
「それは違いますよ。初めてここで会った時、日和さんの仲間のゼロの能力だけでなく日和さんの能力の影響下にも僕はありました。その時の日和さんは存在感の薄さ軽さは当然ながら、頭の弱さや人への配慮のなさを確実に感じました。でも、日和さんの能力の呪縛から逃れた後からは、僕はそれらのことを全く感じません。むしろ日和さんは頭が切れると思っています。日和さんの能力だけど、だからこそ日和さんは自分の能力を自身で体験できない。でも僕は体験者です。能力者本人が解らないことも受けた側の僕だからこそ解ることもあるんです。日和さんには、頭が弱そうに見せたり鈍感に思わせたり、さらに人への配慮が全然できない阿呆に見せる能力があります。日和さんの能力は日和さんが思っている以上に真の姿を隠す凄いものですよ。」
僕は日和に自身の能力の気づかない部分を教えてあげようと説明したが、怒られてしまう。
「しつこいわね、一色君。あたしの能力にはそんなの含まれてないないわよ!あたしは一色君がもっと思慮深いかと思っていたけど買い被っていたと今のいま思ったわ。あたしはその時の記憶が漠然としていて何を話したかよく覚えていないけど、初めて会った時にきっとあなたにあたしが不躾な質問をしたんでしょう。だから配慮ができなし、頭が弱く鈍感だと感じたんだろうけど、あたしの能力とあたしが潜入しているのを見抜いているならば少し考えれば解るでしょう。何であたしがあなたに配慮ない質問をしたのか。それに気づければ、配慮できないだの頭が弱いだの鈍感だの、というのはあたしの能力じゃないというのが解るはずよ。」
確かに日和が不躾な質問をしてきたことで、配慮ができない、頭が弱い、鈍感と評価をしていったのかもしれない。僕は言われた通りに少し考える。そして呟く。
「なるほど。配慮なく質問するのは当然か。」
日和はただ能力を存分に活用している。日和は能力を発揮すると存在が憐れになるほど薄く軽いので何を言っても相手は怒る気にも敵意も感じない。だから、どんなことでも訊くことができる。普通なら訊きづらいことも、相手が気を悪くするようなことも訊いて大丈夫なのだ。
もちろん軽い存在なので訊いてもあしらわれて話してくれないこともあるだろうが、軽い存在だからこそ言わなくていいことを言ってしまう輩もいるはずだ。それに答えてくれなくても反応は見ることができる。とにかく怒りも買わず敵意もいだかれず怪しまれず、その後の潜入捜査に何ら影響が出ないんだから何でも訊いて損はない。日和はそれを計算して意図的に配慮ない質問をしている。
「あたしは能力によって皆に配慮なんかしないでズケズケと何でも訊けるわ。でも存在感を薄く、そして軽くはできるけど、それ以外にはない。だから一色君があたしを、頭が弱く鈍感で配慮ができないと思ったのは能力のせいではなく、一色君が思うべくして思ったことよ。でも本来はそこに考えつくまで誰もあたしに興味を持たないけどね。そこまで感じ取れるのは否定してるけど一色君がゼロで、その能力によるものなのよ。」
二度目にこの屋上で日和に会った時のことを思い出した。日和がコウを四階から転落させたのが僕だと言った。僕は自分の能力によって日和の能力が効かずダイレクトに日和の言葉を捉えた。それによって僕が怒りをみせると短時間ではあったが日和は恐怖を感じて動揺していた。今まで何を言っても怒りを買うことはなかったらのだろうから動揺があったのも頷ける。しかも日和にとってあの時の僕は幼馴染みさえ殺める凶悪犯だ。
「ええ、そうですね。否定しませんよ。僕はゼロです。」
「あら、思わぬことを言うわね。」
日和はびっくりした顔になった。
「僕はゼロの能力が効かないゼロです。」
「そう。そんな感じの能力だとあたしも思う。だから能力が発動しているあたしと、能力が効かず普通の状態のあたしを一色君は比べることができる。あたしに興味を持つこともできるし怒りも感じる。だけど、一色君の能力を説明するには、ゼロの能力が効かない、それだけではおかしいわよね。」
「そうです。おかしいんです。」
わぁ、日和さんが怒った!
一色くんすごい(笑)
青葉さんも登場人物も活字大好きさんも、みんな聡明ですね
自分には聡明さもないので、日和さんの能力が欲しいです
一色くんの独立した強さもいいですね
展開にもゼロの能力にも興味津々です!
青葉ファンさん
日和は青葉ファンさんに似たキャラクターかもしれないね。
活字大好きさん、
言葉のやり取りは、言葉なくして話を進めるより楽なことに気づいたよ。
進みは遅くなるかもしれないけどね。
二人はこの話に興味を持ってくれた人。感性は近いのかも。
「自分でもそう思うのね。」
「思います。僕の能力はゼロの能力が効かないと言いましたが、効いてしまうこともあるんです。例えば日和さんに初めて会った時は日和さんの存在感を全く感じなかったし、その少し前には日和さんの仲間に思考を変えられて行くつもりのない屋上に足を運んだ。言いかえると僕は能力が使える時と使えない時とがあるんです。何故そうなるのか解りません。」
何か能力を使うには条件があるのだろうか。
「いつ自分がゼロだと実感したの?」
冴えない顔をしていた日和が、時間と共に表情が生き生きとしてくる。自分が何故この学校に来ているのか考えているのを僕と話すことで止めているからだろうか。
「今日です。今日の朝、日和さんと別れて学校に来てからです。」
「そう。じゃあ能力の発動を一色君が意識するかしないかは関係ないわね。あたしと二度目にここで会った時は一色君にあたしの能力は効かなかったもんね。意識しなくても能力は発動できるということね。」
「そうなります。」
「じゃあ、あなたが能力に目覚めたのが最初にあたしに会った時と二度目に会った時の間ということじゃない?」
そうかもしれない。それは僕も考えたことだ。だがもっと期間を限定できる。最初に日和と会った後からコウが転落した日の朝までの間だ。あの日、僕は新里からの連続攻撃を受けたが全てかわした。可能性のある考えだとは思う。しかし、それはあまりにも僕にとって都合のいいタイミングだ。新里を迎え撃つために能力を得たみたいで何だかしっくりこない。だけど、
「そうかもしれません。」
と、僕はそう答えた。僕にとって都合がいいだけでは否定するには弱い。だが、日和は僕の釈然としない表情を読み取った様で別の可能性を提示してくる。
「そうでなければ、一度はゼロの能力を受けて影響下に身をおかないと能力が発動しないんじゃない。ゼロの能力を細菌とすると一色君の能力は抗体みたいな感じで。正しい例えなのかは自信がないけど。」
一度は能力を受けその影響に服するが、二度目からは影響を受けないということだろう。しかし、それは違うと断言できる。新里は僕を本気で攻撃してきた。新里ほどの力があれば一度能力を受けた時に、新里の狙い通り僕は大ケガをしていただろう。
そうならば今ごろ病院にいるはずだ。本気の新里を相手にして二度目から能力の影響を受けなくても意味がないと思う。だが僕は否定をしない。
「そんな可能性もありますね。」
やはり僕は釈然としない顔をしていたのだろう。またも日和は僕の表情を読み取ったみたいで、
「納得いかないみたいね。あま、いいか。一色君は自分がゼロと気づいたんだし。それに、完全に解ったと言えないかもしれないけど能力を理解したわけだからね。自分の現状を理解するのは良いことじゃない。」
そう言った。
だが僕は気になる。自分の能力がどうすれば使えて、どんなときは使えないのかが。僕の能力がゼロの能力の影響を受けないことと気づいて一度は新里と戦える気持ちになったが、能力が使えない時があったことにも気づいてしまい甚だ不安になっている。僕の能力が開花した時期の問題ならばそれでいいが、何か条件があるのならばそれを知らないと新里と対峙するうえで命取りになりかねない。僕にとって死活問題かもしれないことだ。日和と話ながら突き詰めたい気持ちもある。でもそれは難しいと僕は判断している。そのことに踏み込むには過去に起きたことの考察をしなければならない。しかし今の日和は雪見爆死の事件がない。そこを避け、かつ新里の能力の影響下にある日和と話をしたところで真相には至らないだろう。それについては新里の能力の影響下にない日和と話すべきだ。僕は話を変えることにした。
「ところで、最初に会った時に僕と何を話したか覚えてないんですか?さっきそんなことを言ってましたよね。」
この質問に日和は悩むように頭を抱えた。
「初めて一色君とここで会ったことは覚えている。でも、何を話したか記憶が漠然としているのよね。」
日和はあの時、僕が雪見の件の犯人だと疑い、のっけからそのことを訊いてきた。しかし雪見が復活し、新里が雪見が生きているのを当然と宣言してからは雪見の爆死を忘れている。このことは日和に限らず僕の他は皆が雪見の事件のことはなかった様に振る舞っている。きっと誰もが、何かの拍子で思い出しそうになっても今の日和の様に記憶が不明瞭になってしまうのだろう。
「そうですか、漠然としちゃっているんですか。」
「ええ、でもそれは今現在あたしが何かしらの能力の影響下にあるという可能性が高いということなのよね。」
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