青葉 2012-01-06 22:03:27 |
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休み時間になると僕は直ぐに教室を出て隣の雪見の教室に向かった。新里の教室は少し離れているので、すぐに会いに行けば少しだけでも雪見と話せるかと考えていた。新里が来るまでの短い時間でもいいと思った。そんなふうに思うということは、僕の本心がコウのことや次の犠牲者が出ないようにすることに徹しているわけじゃないということだろう。新里だって急いで雪見のところに来るはずだ。新里の情報を聞き出す時間などないのは判りきっている。遅れてやって来た新里が雪見に話し掛ける僕を見たら、これから今以上に警戒するだろう。だから本来は絶対に新里に邪魔されないチャンスを待ったほうが得策なはずだ。つまり僕は抑えがきかない程に雪見に会いということになる。でもコウのことを軽く考えているわけではない。亡くなったはずの雪見がそこにはいる。他ならぬ雪見がいる。
雪見の教室の前に立ち、中を見渡した。雪見の席は教室のほぼ中央。席に座っている雪見の姿を見つけると同時に、僕の目は新里まで確認してしまった。新里は既に雪見の傍に来ていて隣の席に座り込み、雪見に何か話しかけているようだった。
離れた所から来た新里が先に雪見の教室に来ているのは疑問だが、万能な新里なら出来るのだろう。
瞬間移動?
いや、授業が終わる少し前からこの教室に向かったというところか。きっと授業終了前に教室を出たところで、相手が新里なら先生は何も言わない。というか、言わせない能力が新里にはあるのだろう。それよりも新里がわざわざ早めに行動した理由が問題だ。
僕を警戒している 。
それ以外考えつかない。新里は僕の能力について何かしら掴んでいる可能性がある。そして、新里は僕が思っているより僕を意識し用心しているのかもしれない。
新里が来ている以上、残念ながら雪見に話し掛けることはできない。近づけば雪見を困らせるだけだ。仕方なく新里が僕に気づく前に立ち去ることにした。でも何だか物足りない気分で僕は教室に戻ることはせず、その足で三年生の教室がある方へ向かい日和を探すことにした。雪見が復活した状況をどう日和が見ているのか知りたかった。それとも誰かと話したいのかもしれない。雪見と話せない代わりに日和を探そうと思ったのかもしれない。どうあれ僕は何もせず自分の教室に戻る気にならなかった。
三年生の教室は二階の一部と一階全部だ。日和の教室は一階だろうと思い階段を降りて一階に行った。日和が一階のクラスだと思う根拠は、僕のクラスが二階であり二階で学校にいる時間の大半を過ごしながら日和を一度も見たことがないからだ。きっと日和は一階にいるのだろう。
一階は同じ学校ながら、知らない顔ばかりで二階とは違う雰囲気だった。廊下には、行き交う者や数人で立ち話している者達がいた。それら全員が三年生であり年上だと思うと何だか気後れしたが、休み時間は短い。僕は端の教室から順番に中を覗いていくことにした。が、結局端から端までの教室を回り、さらに二階の三年生の教室にも行ってみたが、この休み時間中に日和を見つけることは出来ず僕は虚しく教室に戻った。
二限目の授業の間に、僕は次の休み時間に日和をまた探してみようと決心した。どうせ新里が邪魔して次の休み時間も雪見と話すことはできない。ならば日和に会ってみようと思う。僕の心は雪見の復活で高ぶっている。雪見と話したいという欲求がある。しかし、それは新里の存在で叶わない。授業中は仕方ないが、自由がある休み時間に高ぶった気持ちで何もしないでいるのは耐え難い。
二時限目が終わると、僕は早々に席を立ち教室を出た。期待を込めて隣の雪見の教室を通りすがりに見たが、やはり新里が来ていた。なので僕はまた一階に降りる。今回は廊下にいる三年生に日和のことを訊くことにした。
「あの、山梨日和さんはどのクラスか知っていますか?」
とりあえず廊下を歩いていた気弱そうな顔をした男子を捕まえて声を掛ける。
「え?」
気弱そうな顔に驚きがプラスされた。 質問が何かを聞き返しての、「え?」という言葉ではなく、知らない下級生から思いもよらず話し掛けられ、驚いて声を出したのは判っていた。が、相手の落ち着く時間を作るため僕は再度質問をした。
「突然に済みません。山梨日和さんを探してます。どこのクラスか知りませんか?」
少し考える素振りがあった後、
「山梨日和?……ああ、この前話をしたよ。でもクラスは知らないな。」
そう答えが返ってきた。
「そうですか。知らないですか。」
「あれ?顔が思い出せないな。でも、そんな名前を名乗ってたと思う。」
変わらず気弱そうな顔で、そう付け足してきた。
「どんな話をしたんですか?」
煮え切らない答えであり、日和がどのクラスかを聞き出すことは出来そうになかったが僕は興味を持った。日和の能力はやはり僕が思った通りだと思える内容だからだ。
「いや、よく覚えてないんだけど、何か誰かのことを訊かれたような気がする。二年生のことだったかな。知らないから、その通り知らないと答えたけど。」
二年生とは僕か新里のことだろう。
「そうですか。」
「何だか全てに存在が薄いんだよな。きっとこうして訊かれなければ名前すら思い出すことなく忘れてたかな。」
「分かりました。ありがとうございました。」
僕はお礼を言ってその場を離れた。
日和の能力は「よく覚えていない」というのがキーワードなんだと改めて感じた。
少し廊下を歩くと、正面から真面目そうな女子がつまらなそうな顔をして窓枠に腕を掛けて外を見ていた。声がかけやすい状況だ。しかし、知らない異性に話し掛けられてどんな反応をするかは判らない。
「あの、ちょと聞きたいことがあるんですが?」
僕は遠慮がちに話し掛けた。控えめな態度の方が警戒されないだろう。すると、
「あたし?」
自分を指差しながらそう訊いてくる。無視はされなかった。
「はい。山梨日和さんを知っていますか?探してるんです。」
表情には不快な感じがない。答えてくれそうだ。
「なんだ、あたしじゃない他の女の子を探してるのか。残念、ナンパかと思ったのに。」
顔は地味だが、外見とは裏腹に愛嬌ある性格の様だ。つまらなそうな顔を崩してそんなことを言った。
「すみません。期待を裏切って。」
確実に話をしてくれると思い、軽い感じで返してみた。
「山梨日和……さん、だっけ?……ああ、あの影の薄い転校生のことね。」
「転校生?」
それは初耳だ。
僕は続けて訊く。
「ただでさえ三年生なのに、しかもこの時期に転校して来たんですか?」
「そうみたいよ。自分でそう言ってたから。事情があるんだろうけど確かに珍しいね。でも、話した時は何とも思わなかったなぁ。」
珍しいことをそう感じさせないのも日和の能力かもしれない。
「いつ転校して来たんですか。」
雪見爆死事件の前か後かが気になる。
「けっこう最近だよ。同じクラスじゃないし気がついたらいた感じだから、正確にいつからかはちょっと分からないけど。」
最近とは人によって感覚が違う。残念ながら、雪見の事件の前後の確認はできなかった。
「話をしたと言ってましたけど、それは何か質問をされたんじゃないですか?」
僕が質問を変えると、少し考えている。きっとよく覚えていないのだろう。
「そうそう、二年生のことを訊かれた。最近話題の新里君のことだった。それと、もう一人。知らない名前の二年生の男の子のことも訊かれた気がする。」
知らない名前の二年生とは僕のことだろう。僕のことも新里のことも日和は真面目にリサーチしているようだ。
「そうですか。」
「うん。どこだか忘れたけど校内で友達と話をしてたら突然声を掛けられたんだよね。同学年なのに知らない顔だから変だなと思ってたら、転校生だと言ってた。」
「どのクラスなんですか?」
「ゴメンね。それは知らない。たまに見かけるんだけど、どこのクラスだろう。正直に言っちゃうとあまり興味なくて。そういえば顔もよく思い出せないの。話をしたことも忘れてた。」
そうだろうと思う。日和の能力ならそうなるのだろう。
「話し掛けて済みませんでした。ありがとうございました。」
僕がお礼を言うと、
「お役に立てなかったね。山梨さんのこと好きなの?でも彼女は新里君のことを訊いてきたから新里君に興味があるのかもね。頑張って駄目だったらあたしが慰めてあげるから、またおいで。君はけっこうタイプだから。」
笑顔でおどけて僕を惑わせてきた。
「はい、そうさせてもらいます。」
僕はまた歩き出した。
その後、二人に声を掛けて日和のことを訊いたが、二人とも日和に話し掛けられたことがあったが印象薄い様なことを言った。そして、日和がどこのクラスかは知らなかった。
タイムリミットが迫り、この休み時間も日和に会うことができないまま教室に戻ることになった。
三限目の授業中、僕は次の休み時間も日和を探そうと思った。今度は確実に見つかるような方法を採ろうとも思った。急がなくても放課後に会う約束をしている。それに元々は雪見と話すことが出来ないことの代替として日和を探していた。が、少し気持ちが変わってきた。もちろん雪見と二人で話をしたいと思う気持ちが一番強いが、日和に疑念を持ち雪見の代わりではなく日和と話をしたい気持ちが強くなっている。
前からいたのではなく最近この学校に転校してきたということは、日和がゼロであることや三年生でありながらこの中途半端な時期に転校してきたことから考えると、日和は意図的にこの学校に来たのだろう。そうなると雪見爆死の前か後か、そこが気になった。前であれば雪見爆死の件について、日和は加害者として一枚噛んでいる可能性がある。日和自身の能力は僕同様に人を攻撃出来るものではないだろうが、日和にはおそらく仲間がいる。日和の目的はゼロの数をゼロにするというものだと自分で言っていた。そしてゼロの能力を消すことができると話していた。それはつまり、ゼロの能力を消滅する力を持ったゼロがいるのだろうと僕は考えている。その事を日和が知っているということは、そのゼロは日和の仲間だろう。しかし、どうやらそれは、つまりゼロの能力を消滅させることは簡単には出来ないようだ。だから僕も新里も未だに能力が消えていないし、日和も能力を消すにはいろいろと複雑なことがあると言っていた。では早急に能力を消す必要があるのにそれが簡単に出来ないならどうするか。それは存在自体を消してしまえばいいことだ。日和の言動から日和が過激なことを好むとは思えない。だから存在を消すことは最期の手段なのかもしれない。が、危険なゼロがいて、誰か犠牲が出る可能性があるなら必要悪で過激になる行動をとることはやるのではないだろうか。日和の仲間に人を爆死させる能力、もしくは爆死させたように見せる能力を持つゼロがいて、雪見の命を奪った。日和が雪見の命を奪ったのではなくても、日和と志を同じくする仲間が雪見を亡きものにした。
とはいえ日和の予想では雪見はゼロの能力を増幅させるだけのゼロだ。万能で危険なのは新里であり、本来のターゲットは新里のはずだ。なぜ新里ではなく雪見を狙ったのだろう。
それはきっと新里が手強いからだろう。新里を消すのはきっと簡単にはいかない。ならば新里の協力者で新里の能力を増幅している雪見を消して新里を弱体化させてから新里を狙う。そう考えたのかもしれない。人を攻撃出来ない雪見を亡きものにしてまでも新里を何とかしなければならないと考える程に新里を危険な存在と日和達は捉えた。危険な新里に協力する雪見の犠牲はやむを得ないこととした。
あくまで仮説だが、そんな風にも考えられると思う。そうなると日和が僕に近づいてきた理由は何だろう。僕の能力は使いようによっては有用だ。何せ新里の危険な能力が効かないのだから。だから最大限に僕を利用しようとしているのだろうか。
とはいえど、僕は雪見爆死の件は新里を一番に疑っている。でも、引っ掛かっていることがないわけではない。新里は雪見を殺める理由がない。いや、殺めるのは自分を不利にすることだ。自分の首を絞めるようなことをするだろうか。そう思うからこそ、日和とその仲間が雪見を亡きものにしたという仮説を僕は考えてしまうのだろう。
とにかく日和とその仲間が雪見を亡きものにしたという仮説が正しいのならば、やはり新里はかなり手強いということになる。日和達に雪見を一度は葬られながら、見事に自分の能力増幅装置である雪見を意図も簡単に復活させたのだから。
三限目が終わり、雪見の教室に新里が既にいることを確認してから、僕はまた日和を探しに行った。今度は全ての三年生の教室の中に入り声を掛け易そうな顔を見つけては日和がクラスメートか訊いていった。
結論からいうと日和はどこのクラスにも所属していなかった。
その事に感じることは実はあまりなかった。心のどこかで予想していた。
日和は転校生と偽り、この学校に潜入して情報収集をしているということだろう。日和の能力は、そういうことに合っていると思う。
四限目は原先生の授業だった。今日は一限目から、雪見や日和のことを考えていてほとんど授業に集中していない。そして、四限目も僕は授業をそっちのけで考え事をしながら過ごした。
雪見に日和。どっちも話したいと思っているのに接触できない。新里が邪魔していて居場所は明確に分かっているのに雪見には近づけない。一方、会うことに障害はないはずなのに、日和は姿が見当たらない。フラストレーションの溜まる状況だ。だが、次の休み時間である昼休みには、雪見に会うのは絶対に無理だと思うが、日和には会える予感がしていた。きっと屋上に行けばいい。昼休みに、日和に何を訊こうか考えながら僕は時間を潰した。
チャイムが鳴り原先生が教室を出ていった。しかし、先生は教壇側の前の出入り口から出ると、廊下をつたって後ろの出入り口に歩いて来て、廊下側の一番後ろの席をに座っている僕の前に顔を出した。固く冷たい表情だ。
「一色君、もう大丈夫?ちょっとだけ話があるから放課後に職員室に来てくれる。」
抑揚ない声で、そう僕に話しかけてきた。何だか迫力があり、いつもの原先生とは違う感じがして変だと感じる。それに何が、もう大丈夫なのだろう。
「放課後ですか。分かりました。」
戸惑いながら僕が答えると、原先生は何も言わず頷いて職員室の方へ去っていった。明らかに原先生はいつもと違う。そう思うが、それより日和に会うことだ。そっちに気持ちがいく。
僕は日和に会いに行くため席を立った。すると、中野が僕を呼び止めた。
「一色、どうした?一色らしくなかったぞ。」
僕は中野が言っていることの意味が解らない。
「何のことだよ。」
「何のことだよ、じゃないよ。あれじゃあ、いくらなんでも先生が可哀想だ。」
中野が僕を責めているのは判るが、何について責めているのかは解らない。僕は原先生に何かした覚えがない。
「原先生?僕は原先生に何もしてないよ。」
「まあ、そんな言い方も出来るのだろうな。でも、何もしないから問題なんじゃないか。」
僕は授業そっちのけで考え事をしていた。それだけだ。その状況と中野の言葉から、僕が責められる理由を考えると答えは出てくる。
「僕は授業中に指された?」
「やっぱり気づいてなかったのか。そうなのかとも思ったけど、何回も先生は呼んだのに、全く反応しないから意図的に無視してんのかと思った。顔はしっかり前を向いていて、一見しっかりと授業を聞いているように見えたからな。」
裏目に出たか、と思う。あからさまに授業を聴いていないような姿勢は原先生に失礼かと思い、僕は授業に参加しているように見えるポーズで考え事をしていた。考えてみれば原先生は授業を聴いていないような奴を指すことはしないタイプだ。ならば正直に聴いていない姿勢をとればよかった。そうすれば原先生も僕を指さなかっただろう。つまらない配慮をして逆に原先生に迷惑をかけてしまったと反省する。
「優等生の一色に無視されては原先生も立場がない。」
中野がわざわざ言いにくるくらいだから、端から見て僕はかなり失礼だったのだろう。
「そうか。教えてくれて、ありがとう。原先生には謝っておくよ。」
「それがいい。教室内も、声は誰も出さなかったけど異様な雰囲気になったんだ。先生をあの一色が無視してたからな。先生には謝って誤解を解くのが正解だな。」
教室内をそんな雰囲気にさせてしまっていたとは全く気づかなかった。僕のいつもと違う様子を心配して原先生も珍しく僕に放課後に職員室に来るように言ったのだろう。とは思うが、本当にそれだけだろうか。何だか引っ掛かる。教室の後ろの出入り口から顔を出した時の原先生は、どうもいつもと違う感じがする。
ともあれ、原先生に謝るのは放課後することにして、僕は中野と別れて屋上に向かった。原先生のことより日和だ。
屋上に着くと、予想通り日和はいた。
日和はフェンスの土台のコンクリートに腰を掛けていた。僕が近づいても気づかない。悩んでいるようで、膝に肘をついて頭を抱えている。下を向いているため顔を見ることは出来ない。
「日和さん。」
話し掛けては悪い気もしたが、せっかく見つけたのに声を掛けずに戻る気にもならなかった。
僕の声を聞き、日和はゆっくりと顔を上げた。 長いこと目を瞑っていたのだろうか、陽光を眩しそうにしながら僕を見た。表情は冴えない。
「あら?一色君だ。」
かすれた声だ。声も長い間出してないようだ。日和は、僕が話掛ける前の格好でそれなりの時間思案に暮れていたのだろう。
「一色君、会うのは放課後のはずよ。」
かすれ声でつれないことを日和は言う。しかし、考え事をしている時に声を掛けたのだから、そんな態度をとられても仕方がないと思う。
「済みません。でも、どうしても話がしたくなって。」
すると「別にいいけど」という感じで日和は笑った。でも何とも力ない笑顔だ。
「ねえ、一色君。あたしは何でここにいるんだっけ?」
僕が授業中に考えた質問する前に日和がそう言った。
「それは僕には分からないです。随分と考えているようですけど、ずっとそのことを考えているんですか?」
僕は日和との質問する先陣争いに負けてしまい、まずは用意した質問でないことを訊くことになった。
「そう。ずっと考えている。今あたしは何故この学校にいるのだろう?本当に一色君は知らないの?あたしがここにいる理由を。」
用意した質問の解答ではないが、日和の答えは心を引かれる。
「知りません。僕は人の心を読む能力はありませんから。」
「そう。一色君なら解るんじゃないかと思ったんだけどな。」
日和の声のかすれはなくなっていたが、いつもよりトーンが低い。
「何でそんな大事なこと、というか基本的なことを忘れたんですか?」
きっとそれは雪見の復活のせいだろう。僕はそう考えた。
「解らない。何でだろう。朝、一色君に会ってた時には考え込むようなことなんてなかったのに。」
僕は日和にヒントを出してみる。
「知ってますか?雪見が学校に来たんです。」
日和は僕の言葉を動揺なく受け止めた。
「そう。」
短く答えた後に、「だから何?」と表情で付け加えてくる。僕のヒント何の効果もなかった。
「雪見が学校に来てるんですよ。」
僕は重ねて言う。
「それは解ったわよ。雪見さんはこの学校だもん。そりゃ来るでしょう。それで?」
日和は、亡くなった雪見が学校に来たことに他の生徒や先生と同じく疑問を抱いていない。日和も新里の能力の影響下にあることが解った。そして、もう一つ解ったわことがある。それは僕が授業中に考えた、日和とその仲間が雪見の命を奪ったという仮説が間違いだったということだ。 日和は自分が来た理由は解らなくなっている。もし、雪見を亡き者にする目的を持っていたのならば、再び雪見を狙うはずだ。自分が学校にいる理由を見失うことはないだろう。日和は雪見が爆死した後にこの学校に来たということだ。
「いえ、それだけです……。そうですね。雪見が来るのは当然ですよね。」
僕は日和にそう言った。
「一色君らしくない無駄な発言ね。」
今の状態の日和とは話をしても無駄だと思うし、日和の思考を邪魔するのも気が引けた。それに日和は自身を、学校にいる時は思考が変わり僕に否定的になるから気をつけろと言っていた。訊きたいことや確かめたいことがあっても放課後を待つのが良いのだろう。ここで出てくる疑問は、僕と放課後会う約束は日和にとってどういた意味合いになっているのだろうということ。日和は僕に、野球部の部員が新里をどう扱うか様子を探るよう依頼し、そして放課後にその結果を報告することになっている。だけど、その依頼も雪見爆死の事件があってこそだ。その容疑者が新里であるからこそだ。でも、雪見が爆死したことは今やなかったことになっている。放課後、僕に会う理由が日和にあるのだろうか。
「邪魔して済みませんでした。また、後で会いましょう。」
僕は教室に戻ることにした。日和にとって僕に会う理由があるのかないのか判らないが、さっき日和自身が、会うのは放課後のはずだと言った。だから理由は兎も角、少なくとも日和は僕に会う気に変化がないということだ。それでいいと思う。
「もう行くの?」
(^^)
怖い?
ホラー的に?心理的に?活字好きさんは、そんなの嫌いかな? 怖い系統かは秘密だけど。
そろそろ半分は来たかなという感じ。まだまだ付き合ってね。
日和は優れない表情に、一体僕が何しに来たんだろうという顔を上乗せしている。
「はい、失礼しました。また放課後に。」
僕は日和に背を向けて階段の方に歩きだした。
「ねえ、一色君。」
後ろから日和の声が聞こえたので僕は立ち止まり振り返る。
「はい。」
「あたしに会いたくて探したんでしょう?何であたしが屋上にいると分かったの?何度か屋上で会ったから?」
自分が今ここにいる理由が解らず悩んでいても、そんなことが気になるのかと思う。
「そうです。他をあたっていたんですが見つからないので、考えたんです。きっとここだろうという結論になりました。」
「そう。」
「そして、考えたお陰で日和さんの仲間の能力が解りました。日和さんの仲間の一人というべきかもしれませんが。」
日和とその仲間が雪見の命を奪ったということは間違いだったが仲間がいるのは確かだ。一人は日和が自ら存在を示唆したゼロの能力を消滅させるゼロ。そして他にも仲間がいる。仲間が何人かは解らないが絶対にもう一人はいる。ゼロの能力を消滅させるゼロは日和の口から出ただけで、まだ僕は会ったことはないだろう。誰かが能力を失ったような事実は見いだせない。が、もう一人の仲間には僕は会っている。この学校に来ている、誰だかは判らないが僕はその日和の仲間と既に接触し、そしてその仲間の能力の影響下にあったことがある。
「あたしの仲間の能力が解ったの?」
日和は不可解そうな面持ちになる。日和の怪訝そうな顔に一瞬だけ僕は自分の考えに間違いがあったのではないかと不安になったが、すぐに自信を取り戻す。僕は授業中にいろんなことを考えた。そしてそれについては先生に指されても気づかない程に熟考した。おそらく原先生に迷惑をかけた時は、このことについて考えていたと思う。
「はい。解りました。」
僕の返事に日和は不可解そうな顔を崩さずに言う。
「あたしに仲間がいるのは否定しないけど、一色君が既に知ってるかしら……?まあ、それはいいとして、一色君が考えるあたしの仲間はどんな能力だと思うの?だいたい何処で会ったの?」
自分の感情が知らない内に誰かに支配されているのかも、と考えると怖い話かもと思いました
気づかないから知ることもできないのだけれど
なるほど。そんな意味か。
これはそんな話だね。自分で書きながら、言葉にはならなかった。
活字大好きさんは、確信を突いてくる(^^)
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