青葉 2012-01-06 22:03:27 |
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上げておきますね
ボイドは骸骨の騎士と因縁ありそうですよね
使徒はなんかメガネが埋まっている人?が気になります
読んでいて気分良かったのは黄金時代です
ジルの辺りも読み返したくなってきました
日和さんは印象薄いから忘れてしまうだろうって言ってましたよね
でも、覚えてるのに誰?って言ってしまうとは
僕は前に日和と会った時、特徴のない顔だと思いすぐに忘れてしまいそうだと感じ、実際に忘れかけた。 だが存在自体は覚えているので、こうして相対して顔を見れば日和が日和であることは思い出せる。しかし、こんなことがあるのだろうかと思う。日和は何も変わっていない。前に会った時と髪型も同じだ。なのに別人に見える。いや、見えるというよりも思えると言うべきだろう。視覚での認知は変わっていない。印象の問題だ。
「あら、忘れちゃった?日和よ。山梨日和。まあ、あたしは影が薄いから仕方ないか。よくあることね。」
だが、日和は違った捉え方をしたようで、笑いながらそう言った。前は笑顔を向けられても何とも思わなかったのに、今日はとても魅力的な笑顔だと思う。だから、前は誰からも相手にされない可哀想な人で、とるに足りない存在だと感じたが今は違う見解になっている。日和はとても整った顔立ちで可愛いとも綺麗だとも思える。僕だけではなく、多分大多数の人がそう思うはずだ。容姿だけでも存在感は充分にある。何で前とこんなにも印象が違うのだろうと不思議だし、学年は違うとはいえど同じ学校なのに日和の存在に今まで気づかなかったのも変だ。僕が気づかなくても、目を引く異性がいれば学年は関係なく人気になるはすだが、今まで日和が話題になったことは僕が知る限りない。
「ねえ、名前覚えたのよ。一色優君ていうんだね。この間、危険な目とかに遭ったせいで有名なっちゃたよね。でもね、一色君。幸島君のこともあなただと思うの。幸島君が図書室から落ちたのは、やっぱり一色君がやったんだと思う。」
僕が印象の違いに衝撃を受けていると日和はそんなことを言った。
人を不快にさせるい方は変わっていない。だが、僕の反応は前と違った。あの時は雪見の件の犯人にされても腹立つことはなかったが今日はそうはいかない。
「雪見だけじゃなくコウのことも僕が犯人だと言うんですか!」
印象の違いの不思議が吹っ飛び、抑えられない怒りが込み上げてくる。
「日和さん、あなたは人として欠陥がある。人の気持ちが全く解っていない。あなたがそこまで僕のことを言うなら遠慮は必要ない。あなたは最低だ!何か僕に恨みでもあるのか!?」
僕はあまり感情を出さないが、珍しく怒りを顕にした。それだけ今の僕の精神状態は悪いのかもしれない。
「一色君、もしかして怒ってる?」
日和は少し不安そうな顔をした。
「怒ってますよ!日和さんが僕を怒らせたんじゃないですか!」
そう僕が強い口調で言うと、日和は不安そうな顔から、恐怖の表情に変わった。それを見て僕まで狼狽えてしまう。何故なら日和は、まるで命の危険を感じてるかのように血の気の引いた顔をして僕を見ている。そこまで僕は脅威を与えているだろうか。まるで殺人者を前にして怯えているかの様だ。とはいえ日和は前から雪見の命を奪ったのは僕だと言っているので、僕という殺人者を最初から覚悟の上で目の前にしているはずではあるが。
「一色君。この学校で起こってること、思った通りあなたがやってるのね。あなたは何者なの?」
日和は大真面目な顔をして僕に訊く。大真面目というより思い詰めた顔だろうか。だけどこの質問には、僕は意味が解らないので答えようがない。
「僕はあなたを、最初に会った時にはどうでもいい人だと思いバカにしていました。そして今は怒りしか感じていない。でもそれは僕のせいじゃない。 もう何も訊かないで下さい。まともな話をしない人と僕は向き合う気はありませんよ。僕には日和さんの言葉は理解出来ない。 」
日和の外見が激変したように感じ、好印象になって存在がやや気になるようになったものの、内面はやはり可哀想な人という評価だ。やはり付き合っていられないと思った。
いま僕が相手にするべきは新里だ。そんなことを考えていると、
「あら!最初はちゃんとバカにしていたの?」
と、日和はおかしなこと言った。自分のことなのに、ちゃんとバカにしていたとは妙な言い回しだ。
「……悪いけどバカにしてました。」
正直に言っていいものか迷ったが、そう答える。怒っていたはずなのに狼狽させられたり迷わせられたりと、どうも日和との会話は調子が狂う。
「そう。最初はちゃんと効いていたのね。でも、今日は違う。反感とはいえ、あたしの存在に関心があるということね。どういうことなの……。」
僕の返事を聞いた日和は、僕から目をそらして下を向きながら独り言を言う。
「………。」
僕は黙って日和の様子を見ていた。去っていいものか判らない。また、最初は効いていたという言葉が引っかかる。
すると日和は決意した顔で僕に問い掛けた。
「一色君、あたしはあなたを怒らせた。あなたはあたしをどうするの?」
「………。」
何を訊かれているのかが、やはり解らない。しかし次の言葉で少し理解出来る。
「あたしも雪見さんや幸島君のようになるの?」
日和は、雪見の件もコウのことも犯人が僕だと思っている。そんな僕を怒らせてしまった。だから恐怖を感じている。
「僕にとって雪見もコウも大事な存在ですよ。だけど、あなたのことはそうじゃない。日和さんの考えている通り、僕が大事な人達を攻撃しているのなら、あなたは安全だと思いませんか。」
僕は皮肉を言った。
「そうなのかもね。だとしたら安心ね。でも、どんな基準で人を攻撃しているのか一色君自身も解っていないのが現実。」
日和は僕の皮肉を意に介していないようだ。
「だから訊いたところで、あたしがどうなるかも答えようがないということね。」
そして、そう続ける。
「確かに怒ったけど、怒ったからといってどうもしないですよ。」
日和の恐怖心は一瞬で終わった様で、もう落ち着きを払っている。
「表層意識では、その言葉に嘘はないでしょうね。あくまでも表面の思考ではね。」
日和の態度が戻ったことで僕は安心した。何もしていないのに怖がられるのは良い気分ではない。だけど、日和の引っかかる言い方は気になる。日和にとって僕は、どうしても加害者のようだ。
「僕は雪見が爆死した時は家にいました。コウが四階の図書室から転落した時も昇降口にいました。それなのに日和さんは僕がやったと言う。不可能だ。これ以上話しても無駄でしょう。教室に戻ります。」
そう僕は言ったが、日和は僕を引き留めるように話しを続ける。
「そうね。普通では説明がつかない。でも、一色君も感じているでしょう?普通じゃない何かが起こっていると。それを起こしているのは一色君、あなたよ。雪見さんのことも幸島君のことも……自覚はないようだけどね。」
日和は一貫して僕にとって大事な存在二人を僕が襲ったと言っている。しかし、日和が普通じゃない何かを感じているなら、そんなことを言うのも解らないでもない。僕も普通じゃない何かが起こっていると感じているので、そこは意見が合っている。違いは日和が僕だと考えているのに対して、僕は元凶が新里だと思っていること。日和はその場にいなかった僕を犯人と思っているが、僕も同じようなことを考えている。コウが四階の図書室から転落した時、新里は校庭にいた。だからコウが転落したのは常識で考えたら新里がやったことではない。でも僕は新里しかいないと思っている。日和が言う普通じゃない何かとは、そういったことだろう。
「何故、僕だと思うんですか?」
では、意見の相違する部分は一体何だろうか。そう思って訊いてみる。
「この学校で起きている普通じゃないこと。その中心には一色君が必ずいるからね。」
「中心に僕が?」
「そうよ。幸島君が転落した日、あの日は幸島君のことで一色君が危険に遭ったことの印象は薄れてはしまったけど、幸島君の親友と皆が認めているあなたの存在はある意味とても際立った。親友が四階から転落するのを目の当たりにしたんだからね。あんなシチュエーション普通は有り得ない。主役は間違いなく、あなただったわ。そして、あの日あなたは何度も危険に遭いながら無傷だった。考えようによっては、あなたに何かと都合がいいのよね。雪見さんの件については、一色君がどう関わったのかはまだ謎だけど、あなたは雪見さんにとても近い存在なのよ。やはり、どこかであなたが絡んでるんだと思うわ。」
「コウのことが僕に都合よく?確かに僕は無傷だったけど、あの日の僕は本当に怖い思いと辛い思いをしました。コウがあんなことになったことが僕にとって都合が良かったとは思えません。」
日和の言うことは腹立たしいものだったが冷静に返す。さっきまで僕を怒らせて恐怖を感じていたのに、また怒らせるような発言をする日和の神経を僕は理解できない。
「表層意識ではね。でも、もっと深い所では違うんじゃないかしら?まあ、意識してない部分での話だから訊いても仕方ないけどね。」
その言葉を聞き、日和は何かを知っているような気がした。少なくとも僕よりは状況を理解しているように思える。僕は質問を変えることにした。
「日和さん、百歩譲って僕が雪見やコウを襲ったとして、何で?というのも疑問だけど、一番の謎は、どうやって?の方なんです。」
本当は百歩譲っても、僕は僕がやっているとは思わなかった。だが、僕以上にこの事態を感受していそうな日和に、どうやって?についての意見が聞きたかった。それによって僕が元凶と思う新里が、どう雪見やコウをあんな目に遭わせたのかを知るヒントが得られるのではないかと期待した。
「それは、あたしへの質問?訊かれても答えられないわ。当のあなたさえ解らないことなんだし。」
日和が簡単には答えないのは予測できていた。日和にとって僕は殺人者だ。自分の持っている情報を開示することを慎重になるのは当然だろう。だが、日和は僕が知らないことを確実に知っていると思う。
「でも、日和さんは僕に普通じゃない何かを感じたわけですよね。だから犯人だという。その何かを感じたのは、僕が雪見やコウと親しいのと僕が危険に遭いながらも無傷だったから、だけではないでしょう?それだけでは何かを感じないはずです。以前に何か似たようなことを経験したんじゃないですか?」
「似たようなことを経験?」
「つまり、日和さんが僕に何かを感じているのと同様に、以前にも何かを感じる誰かに会ったことがあるのではないですか?」
教室に戻ろうとしたが、今は日和の持つ情報を引き出す方に気持ちが傾いている。考えてみれば初めて会った時から日和は、雪見の事件の犯人は現場にいなかった僕だと言っていた。きっと日和は僕に会うずっと前から普通じゃない何かの存在を知っていたんだと思う。
「一色君は、それを新里君に感じているのね。さっきあたしが声を掛ける前に独り言でそんなことを言っていたもの。」
「そうです。僕は全て新里がやったことだと思っています。」
「何で新里君だと思うの?」
「新里は予言をしたんです。僕が大ケガすると。……結局ケガはしなかったから外れたけど。でも、大ケガすると新里が言うと教頭の車に跳ねられそうなり、その後に落下物で大ケガすると言うと缶ジュースや窓が落ちてくる。そして、最後にコウが僕を大ケガさせると言うとコウが僕の近くに転落してきた。」
僕は質問していたのに、何故か日和の質問に答えている。
「ふーん、新里君が予言をね。でも、大ケガすると予言しながら一色君は大ケガしなかった。その後、幸島君が一色君を大ケガさせると言ったけど、大ケガしたのは幸島君だった。と言うことよね?あまり新里君に予言力があるとは思えない話ね。」
確かに日和の言う通りだ。僕の主張は何とも説得力に乏しい。小学生の頃から新里を知っている人が聞いたら、日和以上にそう思うだろう。新里は元々、虚言癖のある奴だ。その範疇を越えていない話だと思うだけ。だいたい僕が大ケガしてないからには、この話に説得力が生じるはずがない。
「僕が大ケガするということは外れたんだけど、他は当たったというか、過程は的中したのは確かなんです。」
それでも僕は新里だと確信している。コウが転落したあの日を振り返ってみれば、そうとしか思えない。
「どうあれ予言で幸島君を転落させられんのかな?予言は未来を予測することでしょう。人を攻撃することじゃないわ。」
「いや、そうなんです。だから僕も新里が予言しているとは思っていません。確かに、予言をしているというには不完全過ぎる。」
「じゃあ、新里君は何をしているというの?」
日和は僕の話に興味を示している。顔つきが変わった。
「それより先に僕の質問に答えて下さい。日和さんは、僕より以前に何かを感じる誰かに会ったことがありますね?」
「あるわ。」
日和は短く答えた。
あまりにも簡単に日和が返事をしたので僕は意外に感じた。すると、
「隠したところで、もう一色君は気づいているみたいだものね。」
と付け足す。
「やっぱり、あるんですね。日和さん、教えて下さい。その普通ではない何かとは何なんですか?そして、それは雪見を爆死させたりコウを四階から転落させたりできるものなのですか?」
そう僕が訊くと日和は黙りこんでしまった。何かを考えている。きっと僕にどこまで話していいのか考えているのだろう。僕も日和の思考を邪魔しないように口を閉ざす。下手に促すと日和が警戒してへの情報開示をためらってしまうと思うからだ。
沈黙が暫くあった後、日和は口を開いた。
「一色君、あなたは悪い人ではないわ。それに、あなたがこの学校で起こる不可解なことの犯人だとは思うけど、あたしとの会話で隠し事や駆け引きがないことから、あなたは今までのことを自覚なくやってることは確かみたい。だから、ある程度は答えてもいいと思う。」
僕は頷く。相変わらず僕が犯人だと言うのは多少腹立たしいが、少し慣れてきた。それより日和の知っていることを聞くことの方が大事だ。
「普通ではない何かとは、本来は人が持ち得ないと考えられている能力のこと。超心理学の分野かしらね。だいたい予想つくでしょう?それは、多種多様なのよ。だから能力によっては、雪見さんの身体を粉々にすることも、その場にいなくても幸島君を四階から突き落とすこともできるはず。でも雪見さんの件はどんな能力を犯人が使ったか予想も出来ない。まだまだ、知らない能力がたくさんあるんだと思うわ。」
ひと月前ならいざ知らず、今の僕には十分に受け入れることができる話だ。というより、それくらいでなくては受け入れられないと今は思っている。雪見もコウもそうでなければ、あんなことにはならない。
「多種多様ということは、そういった能力を持っている人に複数名に会ったことがあるんですね。」
「そうよ。 そう何人もと会ったわけじゃないけどね。」
「どんな能力を持った人がいるんですか?」
「そこまでは、ちよっとね。明かせないのよ。」
明かせない理由は何か訊こうとするが、日和はその時間を僕に与えず、
「一色君は、新里君が予言ではなく何をしてると思うの?」
と言う。
「僕が今の日和さんの話を受け入れたからには、新里が何をしているのかというより、新里がどんな能力を持っているのかという話になりますよね。」
「受け入れるも何も、気付きが早い一色君は最初からそういった話をしようとしてたんでしょう?そう思ったから、ある程度だけど深いところまで話したんだし。それで、新里君はどんな能力があると思うの?」
どうやら日和の情報開示は、既に僕が感づいただろうと思うことを話しただけのようだ。日和を侮ってはいけないと教訓になる。
「正直に言えば、よく解りません。最初は予言だと思ったんだけど、それが間違いだと気づいてからは答えがでてきません。それに、日和さんから聞くまでは、得体の知れない能力を新里に感じながらも、そんなのが存在するか半信半疑で、そんなに真剣に考えたことがないんです。」
僕ははっきりした考えがないことの言い訳を言う。
「そうかな?ほぼ確信に近かったんじゃないの。まあ、それは兎も角、あたしの話を聞いて確信を持てたんだし、今ここで新里君の能力を考えることができるわ。何だと思う?」
日和は僕に考えるよう促す。本当は、もっとゆっくりと一人で考察したいが、僕より情報をもっている日和の前で自分の考えたことを話し、そして意見を聞くのは悪いことではない。しかし、急なことなので頭を整理しながら話すことにした。
「あの日のことを思い出してみると、新里は僕が大ケガすると言いましたが、確か、僕が新里を長い間バカにしていた報復として僕に大ケガさせる。と、そんなようなことを言っていました。つまり、僕が大ケガするというのは未来を予測じゃなく、新里の願望をなんです。」
「そう。新里君はあなたに報復しようとしていたのね。」
「はい。その後、僕は命さえ危うくなりそうな危険に何度も遭ったんですが、大ケガをしなかったものの、さっき言ったように過程は新里のいう通りなりました。二つの落下物や、コウが僕に向けて自分の身体を落とすことで僕が大ケガする犯人になりそうだったことやら。」
「でも、一色君。あなたは無事だった。」
「ええ。幸運が連発して無事でした。」
「幸運が?どんな?」
日和の語気に力が入った。何か気になったようだ。
「あの日、まず教頭の車に跳ねられそうになったんですが、やたら身体能力が高いうえに度胸のある体育の先生が朝の校門に立つ当番だったお陰でこうして今ここにいられます。教頭の車はかなりの勢いで僕に向かって来ましたが、先生は自分の身の危険をかえりみずに僕を助けてくれました。校門に立っていたのが僕の担任の原先生だったら跳ねられていたでしょう。そう思うと幸運でした。」
「そして、逆に教頭先生が入院したのよね。」
「そうです。翌日には退院したらしいですけど。次に、最初の落下物の缶ジュースが四階の一年生の教室から落ちてきた時は、コウが二階の教室から下を歩いている僕を呼び止めてくれて助かりました。そのまま歩き続けたら僕は缶に当たっていたはずです。コウは危険を察知して僕に声を掛けたわけではないので、やはり幸運でした。」
「幸島君に助けられたのね。」
「コウに助けられたのは、一度ではないんです。二つ目の落下物、視聴覚室の窓が落ちてきた時も偶然だけどコウが僕を昇降口から出る一歩手前のところで肩を掴んで止めてくれた。そうでなければ、落ちてきた窓にぶつかっていたでしょう。やはり幸運でした。」
「さすがは親友。意識しないで二度も一色君を救うなんて。羨ましい関係ね。」
日和はそう言ったが、何だか僕には親友という響きが心地悪かった。コウが親友だと言われるのが嫌なわけではないが、僕とコウはお互いをあえて親友と言ったことがない。なのに僕とコウのことをよく知らない日和にそう表現されるのと、不思議と安っぽい関係になるような気がして不快だった。
「そして、あの日の最後の危険な出来事で僕を助けたのは新里でした。最後の危険な出来事とはコウの転落事故のことですけど、あの時、僕は丁度昇降口から外に出ようしていたんです。でも校庭から新里が僕を見ていることに気付き、僕は足を止めたんです。その後すぐ、目の前にコウが図書室から落ちてきた。もし新里が校庭にいなかったら僕は外に出て、落ちてきたコウと激突していました。コウがあんなことになったのは僕にとって痛恨のことだったけど、僕の身体が無事でいられたという意味では、新里がそこにいたのは幸運でした。」
「そう。新里君にとって皮肉なことに、大ケガさせようとしていた一色君を、新里君自身が助けることになったのね。」
「ええ、そうなります。そんな感じで僕は幸運の連発で無事だったんです。」
僕に起きた幸運の説明を話し終えると、日和は思索しているような顔付きになった。そして、
「幸運がその都度起きて、四度もの危機を乗り越えるなんて出来すぎてるわ。一色君、あなたはいつも運がいいの?人より幸運に恵まれていると自分のことを思う?」
と訊いてきた。
「思いませんよ。比べたことないけど人並みだと思いますよ。だから、あの日の僕には幸運が連発したと思うんです。日頃からそうなら幸運が連発したなんて思いません。」
僕がそう答えると、
「ああ、なるほどね。そうか。まあ、幸運があなたの能力では雪見さんや幸島君はあんなことにはならないもんね。それで?新里君の能力のことに話を戻しましょう。」
そんなことを言う。
日和は僕に新里の能力が何か考えるように言いながら、日和自身は僕のことを考えているようだ。日和が僕に新里の能力を考えるように促したのは何でもいいから僕に喋らせて手掛かりをみつけ、持っていると疑っていない僕の能力が何かを導きだそうとしているからかもしれない。
「新里の目的は僕を大ケガさせることなのに、教頭の車や落下物という手段を使っています。だから直接人を傷つける能力ではないと思います。」
「そうなると?」
「そうなると、これは今考えたことじゃないんですが、新里は人の行動を思い通りにできる、つまり人の心を操れるんじゃないかと思ったんです。」
「人心を操るの?」
「まず教頭の心を操って僕に向けて車を暴走させた。教員の駐車場は裏門なのに正門に猛スピードで突っ込んでくるのは普通の精神状態ではあり得ない異常なことだと思いませんか?心神喪失でもしていなければ考えられないことです。でも操られていたなら納得できます。それから缶ジュースを僕に向かって落としたのは林という一年生ですが、新里が林を操って缶ジュースを投げさせたと考えることができる。コウについては、同じように心を操って本当の自分の意思とは関係なくコウを図書室から飛び降りさせた。そう考えついたんです。でも窓が落ちたことについては説明がつかない。あの時は視聴覚室には誰もいなかったと、窓が落ちてきた時に最初に駆けつけた学年主任の矢嶋先生が言っていました。だから間違いですね、この説は。窓は誰も落としていない。操られた人間はいない。」
僕は学校を休んでいる間に家で考えたことを話した。さて、ここから頭を使って新里の能力を考えなければと思った時、
「一色君、間違いとは言い切れないんじゃない。その説。」
そう日和が言った。
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