青葉 2012-01-06 22:03:27 |
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角を曲がると学校の正門が見えた。そして僕はげんなりとする。毎朝、校門には交代で先生が一人立っている。今日は三年生の担任と柔道部の顧問をしている30くらいの熱い、いかつい男性体育教師がいた。それは別にいい。僕も一年生の時に体育を受持ってもらったが嫌いなタイプではない。問題は先生と校門の端に立って談笑している奴がいる。新里だ。
(せっかく時間稼ぎしたのに。)
僕は仕方なく二人の横を通り過ぎることにした。
(先生の前だし何か言ってくることもないだろう。)
そう思いながら僕は歩を進めていく。二人の様子を伺っていると、どうやら先生の方が新里に積極的に話しかけているようだ。他の生徒が門をくぐり抜けても挨拶そっちのけで新里に笑顔を向けている。近づいていくと、だんだんと先生の声が聴こえてくる。
「いやー、本当に先生も昨日の試合見たかったぞ。本当にお前は凄い!学校の宝だ!」
何やら新里は絶賛されている。
「こりゃあ、本当に甲子園あるかもしれないなあ。」
昨日は日曜だったし、どうやら野球部は試合を組んだようだ。そしてまた新里は抑えたのだろう。
新里は得意そうな顔をして
「甲子園はまだ早いよ、先生。それに野球は投手の総合力がものをいう。俺一人じゃあどうかな。打線もそんなに点とってくんないだ。」
と答えているが、自信溢れている感じだ。
僕の前を歩いていた女子生徒が先生に会釈をしながら「おはようございます」と言って二人の横を通り過ぎるが全く先生は気付かず、
「そんなもんか?でも昨日の結果を聞けば期待するぞ。お前なら皆を甲子園に連れて行けるさ!」
と、言って新里の絶賛を続けている。どうやら今は他の生徒は目に入っていないようだ。新里も先生に持ち上げられて良い気分になっている。僕には気付かないだろう。近くに先生がいるとはいえ気付かれないことにこしたことはない。
僕は蚊の泣くような声で先生に挨拶し二人の前を通り過ぎようとした。すると、
「おお、一色。おはよう。もっと元気な声で挨拶しろよ!」
先生は突然我にかえったかのように、僕を見て言った。新里もその言葉を聞き僕を見る。気付かれた。
(何で僕の挨拶には反応するんだよ!)
少し腹立たしさを覚えながら僕は、
「はい、すみません。オハヨウゴザイマス。」
と大きめな声を出して早足に門をくぐった。その瞬間
エンジン音が突然に耳に入ってきた。後ろからだ。
音から、かなりのスピードを出した車が接近してくるのが判る。恐怖を感じて振り向こうとした時、
「危ない!」
と先生の声が聞こえた。
次の瞬間、僕は背中に衝撃を感じていた。
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