青葉 2012-01-06 22:03:27 |
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Aさん
「きっと逃散した人達は、生活の危うさ以上の生命の危うさを感じていたのよ。だから逃散に踏み切れた。」
青葉
「なんで生命の危うさを感じたの?」
Aさん
「逃散したのは、男のいた集落と女のいた集落、さらにその周辺の集落なの。あぁ、男の集落と女の集落は近くだったみたい。」
青葉
「それで。」
Aさん
「そこら辺の人達は男が刑死しなければならない人間ではないことをよくよく知っていたし、評判が良い女が罪人で人柱になるなんて受け入れられなかった。男と女が近い存在だっただけに領内で理不尽さを一番感じた人達だった。」
青葉
「男と同じ集落なら、親兄弟はもちろん親族もたくさんいただろうね。女の集落でも同様に。」
Aさん
「身近な者が領主によって不幸になったことを目の当たりにして、落ち度がなくてもいつ自分も罪人として命を落とすことになるか……という恐怖を感じたんだと思うのよ。」
青葉
「二人が近い存在だから人事とは思えないのか。」
Aさん
「妄言で領民を陥れる長女と、公平なジャッジをする能力がない上に領民の命を大事にしない領主。そんな奴等が統治している土地に未練はないんじゃないかしら。いつ命を落とすことになるやら分からないからね。」
青葉
「男の刑死と、女が人柱になること。この二つのことを決めた領主のもとで暮らしてゆくのは危ういと。」
Aさん
「逃散した人達にとっては、その二つのことで十分危険を感じることができたんでしょうね。簡単に言えば領主を見限ったのよ。そして、他の集落に恐怖が伝染したのか、他のでも逃散の兆候が出てくる。」
青葉
「恐怖の伝染か。」
Aさん
「伝染したのは恐怖だけど、女を助けたい気持ちと男の命を奪った憎しみもあるよね。きっと。」
青葉
「他でも兆候かあるとは、いよいよ領主はピンチだね。裏目に出ている。」
Aさん
「そうね。領民達がそんな手段にでるとは思ってなかったから。噂より怖い逃散という手段に。」
青葉
「しかし領民は完全に領主を見限ったのかな?逃散とは領主に訴えをして、聞き入れて貰えば、また領民は自分達の土地に戻るよね?」
Aさん
「そうよ。だからその後の逃散は防ぐことができた。領主が領民の訴えを聞き入れたから。」
青葉
「じゃあ、良かったね。男は可哀想だったけど、訴えは女の助命でしょう?領民も、領主が女を助けると計算しての逃散や、逃散の計画だったんじゃない?土地を離れるのは、やはりリスクがあるからね。」
Aさん
「それは違うわよ。領民は完全に勝負に出たわ。それだけ恐怖していたし、怒ってもいた。」
青葉
「そうなの?」
Aさん
「領民は、女の助命だけではなく他にも領主に訴えをしたの。聞き入れられなかったら領内には戻れない内容だわ。」
青葉
「何を訴えたの?」
Aさん
「その訴えを領主である父親が聞き入れることによって次女は命の落とし、そして二つ目のノロイが始まるのよね。」
青葉
「何なになに?何を領民は訴えたの?」
Aさん
「それはね、人柱の交換よ。」
青葉
「女のかわりに、人柱を誰かにやれと?」
Aさん
「そう。」
青葉
「誰に?次女に?」
Aさん
「違う。男が刑死となった元凶の長女によ。女は罪人ではない、長女こそ無実の罪を作り出した罪人だって感じでね。」
青葉
「受け身ではなく攻撃に領民はでたのか。しかし命を落としたのは次女でしょう?」
Aさん
「亡くなったと偽り、本当は座敷牢に匿われている長女を人柱に出せ、と領民は訴えたわ。」
青葉
「ああ!その時に座敷牢にいたのは病気の次女か。」
Aさん
「そう。」
青葉
「次女が長女の代わりに人柱になったの?」
Aさん
「そう。」
青葉
「しかし領主は、いや父親は、自分の娘を人柱にできたの?」
Aさん
「そりゃあ苦汁の決断よ。自分の娘なんだから。でも、そうするしかなかったから。」
青葉
「どうして、そうするしかないの?」
Aさん
「逃散した領民が逃げ込んだのは、領主の娘婿の実家である豪族の領内だったから。計算して逃げ込む場所をきめたのかもね。」
青葉
「豪族の領内に逃げ込むとどうなる?」
Aさん
「領内に逃散者達が入ってきたとなれば、すぐに豪族の耳に入るわ。そして豪族は三男を送り込んで婚姻関係を結んだ、つまり同盟関係を結んだ領主の統治能力に不信感を抱く。」
青葉
「まあね。」
Aさん
「自分にメリットあってこその同盟よ。お荷物は要らないわ。喰うか喰われるかの世なんだから。」
青葉
「そうなんだろうね。」
Aさん
「領民と対立するような不安定な土豪との同盟は要らない。豪族は豪族で、他の強力な豪族との対立関係があったからね。」
青葉
「でも自分に刃向かうことがないなら、それだけでもいいんじゃない。」
Aさん
「そんなに甘くないわ。婚姻関係をむすんだのよ。領民と敵対する領主との婚姻関係なんてマイナスに決まってるわ。」
青葉
「まあ、そうか。」
Aさん
「婚姻関係がマイナスなら、自領にした方がいいと豪族は考えるわよ。領民は味方になりそうだから、攻め込んでも犠牲は少なくて済むだろうし。豪族は国力アップのチャンスと捉えるかもしれない。」
青葉
「そりゃあピンチだ。」
Aさん
「だから父親としてでなく、領主として娘を人柱にするしかなかったのよ。状況を早期に少しでも良くするために。」
青葉
「大したことは起きてないよ~って豪族に思ってもらうようにか。」
Aさん
「父親も苦しんだと思うわ。何の落ち度もない次女を人柱にしなければならないんだから。」
青葉
「座敷牢にいたのが次女とはいえ、領民の言う通りに長女を人柱にしようとは思わなかったの?次女があまりに不憫だ。」
Aさん
「その線はないわよ。解るでしょう。」
青葉
「長女が人柱になると跡継ぎを望むことができなくなる。」
Aさん
「そう。最悪のシナリオよ。長女には跡継ぎを生んでもらわないと血が絶えるわ。血を残せるのは唯一、不治の病の次女ではなく次女に成り済ましている長女よ。座敷牢にどっちがいようと最初から次女を人柱に出すしかなかったのよ。」
青葉
「そりゃあ、次女ものろいたくなるね。」
Aさん
「次女には再起が見込めないだけ、領主としても決断は辛いながらも早くできたわ。」
青葉
「我が娘の命を奪うにしても、娘に明るい未来はないから?」
Aさん
「苦しみから解放してあげられるんだと考えたかもしれない。領主が自分を納得させるために。」
青葉
「次女には何て言ったの。」
Aさん
「正直に言ったのよ。お家が窮地だから長女と代わってくれってね。そして領民のために神となってくれと。」
青葉
「神?」
Aさん
「人柱のことよ。人柱は神になることでしょう。」
青葉
「へえ。」
Aさん
「神を数える時には柱と数える。」
青葉
「あぁ、確かに。」
Aさん
「人柱の柱は神の意らしいから。」
青葉
「人柱は人で神か。」
Aさん
「よくは知らないんだけどね。それで、次女の病気は進行性だけど、すぐにどうということはないから、最初は絶望の淵にいたものの仏教に救いを見いだして写経なんかをしながら穏やかに最後の時を待って過ごしていたわ。」
青葉
「静かに待つ心境になってたのか。ならば人柱も、のろいなんかかけないで受け入れるんじゃないの?」
Aさん
「そう簡単にいかないのよね。」
青葉
「人柱になるのを嫌がった?」
Aさん
「激しく拒んだわ。」
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