黎貴 2011-11-25 19:32:29 |
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目を開けると、真っ暗な部屋。ぼんやりと見える電灯と天井が、いつも寝ている和室だということを認識させた。
そして、右腕に違和感。違和感とはいうものの、原因は判りきっていた。一歳を過ぎた娘の重さだ。
彼女は甘えん坊なのか、不安なのか、夜は腕枕をしないと寝てくれないという、困ったちゃんなのだ。朝起きた時に腕が痺れている、ということはまさに日常茶飯事だ。
よく見えないが、隣からは規則正しい寝息が聞こえてくる。彼女の寝息を聞きながら、また寝ようと目を閉じた。
しばらくして、妙なことが起きた。和室の扉が開いていくような気配がするのだ。私達は和室の入口側に頭を向けて寝ているので、それが良くわかる。そして、こんな真夜中に訪問者がいるわけがない。
早鐘のように鳴り出した心臓。恐怖と葛藤しながら薄目を開ける。
そこには何故か、実家にいるはずの父が居た。いつの間にか、私達の枕元に置いてある、大型の日めくりカレンダーを持っていく。そこには大きく『8』という数字が書いてあった。
(7月か8月のカレンダーか……)
混乱した頭で、そんな訳のわからない事を考えた。
父が居なくなったあと、しばらくして、また気配がした。
今度は真っ黒な仏像だ。全身が黒光りしているそれは、入口から部屋の中を伺っている。
(これはヤバイ!)
霊感ゼロの自分が嫌な気持ちになってくる。相当ヤバイ。怖い。娘よ起きてくれ、助けてくれ。
そんな都合よく、起きてくれる訳も助けてくれる筈もない。起きたところで一体何が出来るというのか。
そんな葛藤を知ってか知らずか、それは部屋を眺めているだけで入っては来なかった。
しばらくして、玄関が開く気配がする。アレが帰っていく気配だ。
途端に体が動いた。
部屋を飛び出し、玄関を開ける。
外は薄明るくて、靄がかかっていた。
黒い後ろ姿が視界に映る。私は後ろ姿に向かって叫んだ。
「いやなもの全部持って行って下さい!」
それは、ゆっくりと振り返った。
振り返ったそれは、仏像では無かった。頭からすっぽり黒いマントで包み、顔の部分だけ丸く抜かれている。抜かれた顔の部分には顔は無く、たくさんの布の端切れのようなものが覆っていた。
それは振り向いたまま頷くと、ゆっくりと去って行った。
私はそれを見送った。
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