黎貴 2011-11-25 19:32:29 |
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なるほど確かに、膨らまされたガムには不気味な顔と共に「暇」の文字が浮かび上がっている。
目尻に黒いペイントを施し、緑の髪を持つ男は、視線をさまよわせ溜息を吐くと、壁に描かれた黄色い丸目掛けて何かを投げた。
よく見れば、それは針が剥き出しになった注射器で。
廃材に刺さるとはとても思えないのだけれど、的を外したとはいえ廃材に刺さっているのを見る限り、この男はとんでもない力を持っていることが伺える。
「……外したかぁー」
あまり残念そうではない顔で、そうだと呟いて右手に持っていた金属バットを左手に持ち直し、人差し指で模様と化しているこびりついた血の跡をなぞればうっすらと赤が移った。
それを黄色い丸に宛がって線と円を描けば、的基い、ダーツ盤の出来上がり。
黄色いダーツ盤に注射の針とは何ともシュールな図である。
「なーんか起きないかねぇー……」
2、3回注射器を投げた跡、ガムをわざと破裂させて、口周りに付いたガムを欝陶しそうに指で掻き集めながら近くにあったホームベースに腰を下ろす。
それと同時にもう一人、バットを持った男と同じく目尻に黒いペイントを施し、ピンクの髪を持つ男は水分の抜けきった「リンゴ」を片手に空間に足を踏み入れた。
「……ありゃ、居たの」
「居たよぉー?いやぁ、お互い引き寄せられるものなのかねぇー……」
双子ってやつはさぁー?
「バット振り回すなんて趣味じゃないよ?」
「あは、俺もそのリンゴ食べる様な趣味はないかなぁー?」
「「ふふ、」」
顔を見合わせて空気を二人で震わせること数分。
何を隠そう、この二人は双子なのである。そしてこの空間は、ただの基地であって家ではない。だから二人してここに来ることに必要性はない。
「あ、そうそう
家に置いてあるあの狂った絵画もどき何とかならないの?
バットの模様は綺麗だけど展覧会じゃあるまいしさぁ」
「じゃあ、君の気味の悪いカニバリズムも何とかしたらどうかなぁー?人食文化なんて現代じゃあ浮くでしょーに」
「えぇ?じゃあじゃあ、女の子型のアンドロイドは捨てちゃうべきだと僕は思うな」
「ばぁーか。拾った者は大切にしなきゃ駄目だよぉー?」
「だって寝起きで見たら怖いしさー………あ、そうそう」
思い出したようにラジオのスイッチを入れれば犬が吠えたようなノイズ混じりの音が流れ出す。
それに耳を傾けていると聞こえてきたのは、相場はオピウムの種一粒という言葉だった。
「今日もまた、変わりない様だねぇー……」
「一つ頼んでもいいかな?」
「ん?なーにかなぁー?」
クスリと笑ったリンゴを持った男はバットを持つ男にリンゴを差し出して、さぁ何処にもいけないな、と呟いた。
風に舞い上がる砂埃に目を細めつつ、バットを持つ男はルールなんて無い様で、それでもどこか成り立っている野球にピンチヒッターとして参加する為少年達の下へ向かっていた。
「やっと来た!」
「遅いよパンダヒーロー!」
「はいはーい、煩いよぉー」
打たれたボールは高い位置まで飛んで行く。
ボールを追う少年達は太陽の眩しさに目が眩んでいる様だ。
「走って!」
「早く早く!」
男は、今度はピンチランナーかぁー、と溜息混じりに走りだす。セカンドベースで今か今かと待っていたランナーも、バットを投げ捨てた男も、無事に得点を入れたために2点ビハインドだ。
「やった!ありがとう!」
「流石パンダヒーロー!」
「ふふー、じゃー次は俺がお代を貰う番だねぇー?」
愉しげに歪められた口元に恐ろしく思いながらも、パンダヒーローの楽しみを奪ったら命が危ないと知っている少年達は固唾を呑んで立っていた。
後に残ったのは傷だらけの少年達。
「あーあ、感情制限って難しいねぇー……」
早く基地に帰って、またダーツをやろうと決めて足早にグラウンドを立ち去った。……のだけれど。
「こっちに来い!」
「いや、!」
「んんー?」
「止めて!や、」
「暴れるとその顔、傷がつくぞ!」
少しやっかいな現場を目にしてしまった。
大人に連れていかれそうになっている少女の目は、確かに助けを求めていたけれど、
「俺の管轄外かなぁー?」
直接言われたわけではないし、と正義とは反対の台詞をもごもごとガムを口に放りながら呟いた。
膨らまして浮かんだ文字は、
「悪」だった。
「ただーいまぁー?」
「あ、女の子が誘拐されてるところ見過ごしたでしょ」
「…………ありゃ」
バットを持った男が空間に入り込んだ瞬間、待っていた男はリンゴを放り捨てて厳しい視線を投げ掛ける。元売女はどうやら情に厚いらしい、と溜息を吐いて謝罪の言葉を振り撒いた。
「あー、もう
ブラウン管壊し回っていいから少女誘拐事件の犯人、ボコボコにしに行くよ?
僕らには関係ないけど、依頼だからね」
後、入口近くにいる猫助けてあげてくれない?
「注文多いなぁー……
分かった分かった、それじゃー行こうか」
白黒曖昧な正義のヒーローは矛盾した動作言動を繰り返しながら、今日も人の為に働くのです。
その代価は、
バットで殴られるか、
リンゴを差し出すか、
およそ人のすることではないのです。
第一章 MCR(Military combat robot) 第二話 モーツァルト 交響曲40番 第一楽章
ザーーーー、、、、、
雨が降りしきるゴラガス帝国第一地区。
俺は奴らが来るのをジッと待ち構えていた。
シュミレーション通りならここを確実に通る筈だ。
「来た♪」
中距離戦闘型のMCR4体と長距離戦闘型が6体、俺が居る場所を通り過ぎようとしていた。
俺は携帯音楽プレイヤーのスイッチを入れた。
モーツァルト 交響曲40番 第一楽章。
これが3番目に落ち着く曲だ。
俺は機体操作様のグリップを持ち直した。
スナイパーライフルに弾を装填する。
「風速5m/分、雨粒4m/秒、敵の移動速度40km/時………。」
ライフルスコープを除く。
曲を楽しみ、呼吸を合わせ、トリガーを引いた。
ガーーーーン!!!!
もの凄い発砲音が響き渡り、銃弾は敵ロボットの頭を貫き、倒れた。
長距離型の敵MCRは直ぐに俺のサーチに取り掛かったが、
「……ムダダ………」
ダーーーン ダーーーーン!!!!
トリガーを引く。また倒れる。
ダーーン ダーーーン!!!
俺は長距離型を殲滅させると、中距離型の料理に取り掛かった。
「メインシステム、MDG(Mitigation devices gravitation:万有引力軽減装置)をONにせよ。」
コンピュータに話しかけた。
『メインシステム。MDGをONにしました。』
すぐさま機会音声で返答が来た。
俺は匍匐(ほふく)状態の機体を起き上がらせ、跳躍をした。
「メインシステム、通常戦闘モードからOSATA(Operating system authentication type attack:動作認証型攻撃システム)に切り替える」
『メインシステム、切り替えに成功しました。』
すぐさま保護装置が外され、コクピットが一つのバーチャル空間の様な所になった。
丁度、地面に着地したのがその時だった。
俺はスナイパーライフをパージ。サブマシンガンに武器を切り替えた。
曲がれていたモーツァルト 交響曲40番 第一楽章が終わり、交響曲「惑星」の火星という曲が流れ始めていた。
◆
ナイス。
面白い。
いつからグミが男になったかは知らんかったが。
面白い。
話が見事に成立してる。
因みに私はリンゴを出すぞ。
絶対に。
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