鈴木園子 2024-11-26 21:13:47 |
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失礼、少し遅くなってしまいましたね。
鈴木財閥のお嬢様は相変わらずお元気のようで…。
先ずは場所のご用意とお相手の快諾に感謝を。
お恥ずかしい話…。少々不慣れなので、私が私らしくない部分もあるかもしれない。
そうならないよう精進しますが、許容出来ない場合は何なりと。
それでは…これから宜しくお願いしますね、お嬢様?
キッド様…!ううんいいの、キッド様忙しそうだもんね。会いに来てくれただけでもハッピーだから!
そんなに謙遜しないで?キッド様はいつだってイケてるし、と~っても素敵よ!
それで…早速決めなきゃいけないとこは決めちゃいたいんだけど、キッド様は何かある?ここはこーしたい!とか、こーゆーのはヤダ!とか。
見ての通り…って、キッド様がどれくらいわたしの事認知してくれてるかは分かんないんだけどさ。とにかくわたしは、もちろん既にキッド様ラヴなの。好感度で言えば最初っから断然MAX!ただ、恋愛ってよりかは大ファンってとこから初めて徐々に惹かれてく…みたいな感じでイメージしてたけど、問題あったら遠慮なく教えて。
ふ、貴女は言葉がお上手だ。そう思っていただけたなら何より。
そうですね…。貴女が誰より熱心に応援して下さっているのはよく見ていますので、貴女さえ宜しければファンから始めていく流れで私も賛成です。此方もイメージしやすいですし、ね。
反対に私から貴女への認識は鈴木財閥のお嬢様、相談役の姪御さん…くらいの認識で問題ありませんか?懲りずに挑戦状を叩きつけにいらっしゃる相談役との勝負の中で、貴女と私の仲を深めていく…なんて展開をイメージしていましたが定番過ぎ、でしょうか?勿論ただのイメージですので、相談役を絡めない全く別の切り口でも構いませんよ。
…あとは、空手最強の彼の存在をどのように扱えば良いか…。彼には悪いですが貴女が彼とは出会っていない世界線とするのか…、貴女のイメージをお聞きしても…?
よく見てるって…きゃー!恥ずかしーっ!でもでも、大好きなのはホントだから遠慮なくファンやらせてもらうわ。ガンガン応援しちゃおーっと!
そうね、キッド様から私への印象はそんな感じでオッケー。どうすればキッド様とお近付きになれるか…考えるだけでワクワクするわ!毎回次郎吉おじ様がキッド様を呼び寄せてくれるから、超ラッキーなのよねーん。わたしとしてはこんなおいしいチャンスを利用しない手はないし、きっかけはいつもみたいに次郎吉おじ様が勝負をしかけて──って流れに賛成よ!
真さんについては、空手絡みで名前だけは知ってる…くらいの関係って事でどーお?蘭を応援しに行った試合会場でチラッと見かけてるかもしれないし、有名な選手だからニュースで名前くらいは見た事あるかもだけど…それだけで直接接点はない、ってくらいが丁度いいんじゃないかしら。もちろん、顔まで知ってるとしたらイケメンな人だなぁとは思っちゃうけどね~っ!てへ。
それは良かった。ではそのように…。貴女と私の逢瀬の機会を下さる相談役にはお礼を言わなくては。…初めのうちは貴女からのアピールに頼り切りになってしまうのは否めませんが、私も貴女の心を頂戴できるよう試行錯誤してみせましょう。
ちなみに。関係を深めていく上で私の正体についても関わってくる…とは思うのですが、想いが成就するまで…又は成就してからも暫くは隠したままで居て欲しいとか、素性までは知らずとも素顔を晒す展開はあったりしても良いだとか…、そういった希望ももしあればお聞きしておきたいな、と。
彼についての解釈も、素晴らしい。違和感も何も無い、是非その関係性でお願いしたく。
おやおや…それは大変だ、彼に奪われてしまう前に攫ってしまわねばなりませんね?
アピールなら任せて!キッド様になら、いくらでも愛伝えまくっちゃう!わたし、キッド様のこといっぱい知りたいし!
正体に関しては、どんな展開になってもおいしいと思うからキッド様に…てか、流れに任せてもらっていいわよ。ただし、最初は超微妙な反応しちゃうと思うけどね~。それはそれで面白そうかも!夢が崩れる瞬間を乗り越えてこそ、真実の愛は育まれるものじゃない…!?
えーっ、やだやだ。わたしのために争わないで~!園子困っちゃう!心配しなくても、キッド様が一番よ~!
えっと…他に決めておくことあったっけ?
えぇ。貴女の口から直接貴女のことを知っていけるのを楽しみにしていますね。
OK。では流れに身を任せて、未来の私達に託すとしましょう。しかし微妙な反応とは…これは手厳しい。私も幻滅されないよう頑張らなければ。
その言葉、確かに頂戴しましたよ。
そうですね…、私から気になっていた事柄は大体聞かせていただいたので。お嬢様からも他に何も無ければ、募集にあったように此方から始めさせていただく流れで問題ありませんか…?場面は…先程話した、いつものように私が予告状を出して、皆さんが待機されている辺り、などは如何でしょう?
折角ならばもう少し接点を持たせても良いかと思いましたので…そこまでは流れに任せつつ最終的に盗んだ宝石を返すのは貴女へ、という展開も一興かと。まあ、此方はあくまで私の好みですので、聞き流してもらっても構いませんので、ね。
うんうん。わたしからも他には特になさそうだから、早速初めちゃお!途中で何かあったら、呼んでくれればいつでも駆けつけるから。わたしも呼んじゃうかもだしね。
さっすがキッド様!リードしてくれる上にステキな提案まで…気に入ったわ!華麗に盗んだその宝石、ぜひぜひわたしに返しちゃって!わたしが責任持って次郎吉おじ様に渡しておくから~。わたしもわたしで、いいアピールが思いついたら暴れちゃうかもしれないけどヨロシクね!
ご快諾有難うございます。私も何かあれば直ぐにまた貴女の前へ参上いたしましょう。…改めてこの出会いに感謝と祝福を。それでは僭越ながら、始めさせていただきますね。続きを紡ぐのが難しく感じられた際は、何とか…上手く紡ぎ直すので何なりと。では一先ず失礼、必要な時にまたお会いしましょう。
( __予告時間は19時。鈴木次郎吉相談役が毎度の如く獲れるものなら獲ってみろ、と一面も二面も使って新聞広告を出すものだから乗らない訳にはいかない。まあ、今回展示されるのはビックジュエルだそうだから願ったり叶ったり。今日までに館内や警備体制の下調べ、それに脱出用の細工も済ませた。後は本番を待つのみ__。潜入の為に身につけていた警備服のまま周りの目から隠れる様に設備室へ滑り込む。予告時間に照明が落ちるよう細工を施し、そのまま天井裏へ。音を立てないよう慎重に、だが素早く目当ての部屋の真上まで来てちらりと時刻を確認すれば予告までもう間もなく…下の様子を窺えばガラスケースに囲まれた宝石と警備員、それにギャラリーも目に入り。腕がなるな、と息を潜めてその時を待ちつつ小さく呟きを零し )
__さあて、Showの始まりだ。
キッド様らしいステキな導入、ありがと!超イメージしやすかったわ。逆に、わたしの方がへっぽこかもって心配…。こっちこそ、やりづらかったりしたらいつでも言ってね。
んじゃ、わたしも引っ込ませてもらおっかな。特に問題なかったら、このまま蹴っちゃって!
ヤバ…!そろそろ時間じゃん!
( ど真ん中に仰々しく宝石が飾られている展示室にて、ごくりと息を呑む。今回に限っては、大ファンである怪盗が間もなく目の前に現れる事への期待感だけではない緊張で胸が押し潰されそうになっていた。普段なら傍にいるはずの少年も親友も近くにはおらず、大量のギャラリーの中その内の一人として予告時間を今か今かと待ち侘びている。彼らとの同行を断った理由など、やましい事情があるからに他ならない。数日前の放課後、親友と交わした些細な会話。もうすぐクリスマスだの、彼氏に何を渡そうかだの。聞き役に徹している内につい、ふと芽生えてしまった出来心。数日後の予告日に愛しのキッド様に会えたなら、あわよくばクリプレを渡したい──。親友や少年にバレたら絶対に猛反対されるであろう密かな魂胆を胸に秘め、丁寧にラッピングされた小箱を忍ばせた鞄をちらりと見遣った。最も、いくら同行を断ったとはいえあの少年の事だから館内の何処かには居ると思うが…。まずはこのギャラリーの中どうやって見つけてもらおうか、そんな事を考えながらガラスケースをじっと見つめ。 )
あまりに素敵で、しかもサプライズまで仕込まれていたので思わず一言を。へっぽこだなんて滅相もない、投げたボールを素敵な物に変えて投げ返していただいた様で胸が躍ってしまいました。それだけお伝えしたかっただけですので、今度こそ退散いたします。此方はどうぞお気になさらず、蹴って下さいね。…あぁそれと、盗むトリックだったりはかなりご都合主義な所があるのでお許しを…。
( 人々が今か今かとざわめき出した頃__かちり、と時計の針が刻まれ予告時間になった事を知らせる。それを確認したと同時。床に叩きつけるように煙玉を落としガラスケースの周り一帯を白く、濃く染め上げ視界を遮らせれば、予め用意しておいた天井の穴から身をすり抜けさせる。突然の煙に噎せるギャラリーや騒然とする警備員達を横目に見遣りながらすと、と耳で捉えるのが難しい程微かな音を鳴らしガラスケースの上へ直接降り立ってみせ。まだ煙の残る内に、宝石を取り出せる程の穴を空け何事も無かった様にぴったりと元に戻し接着させておいた細工を利用し、ガラスケースから宝石を取り出し台座へは何時ものキッドカードを設置して、また最初から穴など無い様に円形のガラスをはめ直すという作業を手早く行う。獲物を手中に収めた事を確認する頃には辺りの煙幕もそろそろ晴れるかといった所で。人々には突然現れいつの間にか宝石を手に入れている、という状況に見えるだろう__ガラスケースの上に片膝をついた体勢のまま、顔を俯かせてはいるが口元に笑みを乗せて人々が此方に注目するのを待ち )
きゃーっ!キッド様!すご~い!
( 突然立ち込めた煙に反射的に目を瞑り、暫し顔を覆う様な体勢で怯んでいれば次第に周囲のざわざわとした声が歓声に変わり始める。恐る恐る顔を上げて皆が注目している方へと視線を向けるとそこには、ガラスケースの上に華麗に佇むお目当ての怪盗の姿が。それだけでも感動するには十分だが、更に驚くことにその手中にはケース内にあるはずの宝石がすっぽりと収められていたのだから興奮せずにはいられない。同じ様な感想を抱いたであろうギャラリー達がキャーキャーと黄色い声を上げる中、負けじと声を張り上げて。それでもこの人混みでは、似た様な声に簡単に埋もれてしまうだろう。今回は今までとは一味違うのだから、もっとアピールしなければ…。分かってはいても憧れの怪盗による完璧なイリュージョンをいざ目の当たりにすれば、宝石とケース内に現れたカードとを見比べながら呆気に取られるばかりで。そうしているとすぐさま「おのれ、キッドめ~!」というやけに威勢の良い聞き慣れた警部の声とドタバタした足音が聞こえてきてガラスケースの方へ向かおうとしているのが分かり、思わずその声を掻き消す様な声量で叫んでしまって。 )
ま、まだ捕まえちゃダメーっ!!
( 宝石を既に盗み終えた事に気づいたギャラリー達から次々に歓声があがるのが耳に入り、まだ脱出という仕上げが残っているが一先ず第一段階をクリアした愉悦感に浸りながらゆっくりと顔をあげる。ギャラリーの目に入る様、手にある宝石を顔の横辺りの高さまで持ち上げ、シルクハットのつばを片手で軽くつまみながら宝石が我が手にある事をしっかりと見せ付ける。…さて、後は華麗にこの場を退散するだけなのだが、流石にそう簡単にはさせてくれないらしい。あのボウヤ程手強くはないがしつこさに関しては誰にも負けない警部も現状に気づき近づいてきているのが窺えた。先程仕掛けた照明を切る細工を使えば再びこの場を錯乱させ、それに乗じて人混みに紛れる事ができるな__と、警部の怒号をよそにそんな考えを巡らせているとは微塵も思わせないポーカーフェイスを保っていればギャラリーの中から一際目立つ一声が届き。一瞬呆気にとられながら声の主へ視線を動かし、見れば鈴木次郎吉から挑戦状を受けた際によく見かけるだけでなく、その身内である女性だと分かり。彼女の声はよく通るよな…と今までの記憶も掘り返しつつ彼女へ向けた目線はそのままに、唇の前に人差し指を立てて内緒話をする様な仕草をして見せ )
そう簡単に私は捕まえられませんので…ご安心を、お嬢さん。
ウソ、こっち見た!?で、でも……。
( 考えるより先に言葉を発してしまって、しまったという顔で慌てて手で口を塞いでももう遅い。予想以上に声が響いてしまったことを内心気まずく思いながら恐る恐るガラスケースの方に向き直ると、愛しの怪盗と目が合ったような気がした。都合の良い様に捉えて期待しそうになるが、この人数の中此方を見るはずなどないのだからきっと勘違いだろう──そう納得しようとしたのに。次いで掛けられた言葉とやけに色っぽい仕草は、状況を考慮すればどう考えても自身に向けられたもので。その美しい姿にも自信に満ち溢れた言動にも胸は高鳴るばかりで、本来の自身ならばもっとはしゃいでいたに違いないのだが…。今回ばかりはそう喜んでもいられない。憧れの大怪盗様が、簡単に捕まるような器でないことは百も承知。きっとこの後も、難無く警部から逃げ仰せてしまうのだろう。ただ、今日はそれだけでは駄目なのだ。このまま逃げられてしまったら、鞄に潜ませたそれが無駄になってしまう。今警部が飛び掛かろうものなら、絶対にキッド様はこの場から居なくなってしまう。先程の失言だって、それを恐れてこそだった。珍しく不安げに眉を下げ浮かない表情を浮かべながら、どうすればお目当ての怪盗を引き留められるのだろうかと必死に悩み。 )
…お別れをしたばかりなのにすぐまた戻ってきてしまって忍びない思いではあるのですが、この先の展開についてご相談が。
一つ。先程の「まだ捕まえちゃダメ」発言をキッドの仲間が確保阻止させようとして言ったのではないかと誤解した中森警部が貴女に接近。警部から遠ざけるため仕掛けを発動させ暗闇に乗じて貴女を人気の無い場所へ一時連れ去る。
二つ。このまま仕掛けを発動させ暗闇に乗じて私のみとんずら。…その後宝石返却へ…?
この二つが浮かんでしまい…、この中にお好みの展開はおありですか?もし異なる展開を想定されていたならば是非其方もご教授願いたく…。お返事の停滞と度々の確認どうかお許しを。
ううん、むしろキッド様にこんなに何度も会えちゃうなんて超ツイてる~!
せっかく思いついてくれたなら、前者の展開でお願いしよっかなぁ。キッド様の方からいきなり愛の逃避行を提案してくれちゃうなんて、積極的すぎてもうドッキドキ!
あ。基本的にわたしはこーいう展開じゃなきゃヤダ!みたいなの全然ないから、思いついたらどんどん取り入れてくれて問題ないからね!かくいうわたしも、クリプレとか勝手に盛り込んじゃったし。あはは。
これからも、何かあったら遠慮しないで声かけてね。キッド様のためなら地の果てまでもお供するから!問題なければ、このお返事は蹴っちゃってオッケー。
( 周りのファン同様、世間を騒がしているこのこそ泥のマジックショーをまだ観ていたいが故の発言だと思ったのだが。此方が安心するように声を掛けても彼女は何やら浮かない表情…。何か、あるのだろうか?まさか、今は我が手にあるが、この宝石の元持ち主の身内である彼女だからこそ知り得た己を捕まえる秘策がまだ存在する、だとか__。警戒心を僅かに高め辺りを探る様に視線を滑らせた所でぱちり、警部と目が合う。ギャラリーに埋もれ未だ上手く此方へ進めていない様だが、先程の発言を警部も怪訝に思ったのか『まだ捕まえるなだあ?っまさかお前!キッドの仲間じゃないだろうな!?』と、的外れも良い所の迷推理を披露していて。偶に物凄く核心をついた事を言うが今回はいつものへっぽこ推理だったようで苦笑が漏れる。…が、そのまま真に捕らえたい筈の此方ではなく彼女の方へ進路変更をし始めたのだから呆れもする。毎回こうする訳でもないし、特別な思いも無いのだが…今しがた見た浮かない顔が何だか気になって。それに、今の状況だと女性でも構わず変装していないか顔を引っ張りそうな勢いがある警部からは遠ざけた方がいいだろう__、そう考え先ずは照明をおとす仕掛けを作動させねばと、いつでも指を鳴らせる状態の手を作り意味ありげに大仰な身振りでその手を前に差し出して )
……はぁ!?わたしよ、わたし!何度も会った事あるでしょうが!ったく、何とぼけた事言って──え?ちょ…なに!?何でこっち来て……きゃあーっ!
( 愛しの怪盗を引き留める事にばかり気を取られていたら、いつの間にか先程よりも近い距離まで来ていた警部に突然あられもない疑いをかけられギョッと肩を跳ねさせる。警部とは何度も会っているだろうと呆れそうになるものの、変幻自在な怪盗の仲間ともなればどんな手を使って姿を変えていたとしても不自然では無いのかもしれない…。と納得しかけたが、つまりそれを認めるということは弁解の余地が無いということでもある。此方が必死に反論している間にも進路を変えてドタバタと接近して来る警部を目の当たりにすれば、身の潔白を冷静に説明する余裕などあるはずもなく。焦りは増すばかりで、同じ空間に憧れのキッド様が居るという状況も忘れて令嬢らしからぬ必死の形相と激しい身振り手振りで抵抗を試みる。しかしそれも虚しく、とうとう手の届く距離までやって来た警部の「んな戯言に騙されるか!悪党め、覚悟しろ!」という怒鳴り声と同時に容赦ない勢いで腕が伸びてきて──これはもう確実に顔の痛みを覚悟しなければいけないやつだなと悟り、諦め混じりにぎゅっと目を瞑って。 )
( 予期した通り、警部は一度疑えば相手が女性でも、例えそれが知り合いであったとしても容赦はしない様子。警部の仕事は疑う事だし其れ自体は間違いじゃないけど流石に見境無さ過ぎだろ…。悟られない様にはあ、と一つ息を吐いてからシルクハットの下で挑戦的な笑みを浮かべ準備しておいた指をパチン__と鳴らし。その音が響き渡ると同時、衣装の中に潜ませていた遠隔式のスイッチを押し照明を切る仕掛けを作動させる。途端館内全体の明かりが消え失せ、その全てが暗闇に包まれて。ギャラリーや警備員、警部も含め『一体何だ!?』と皆一様に驚き混乱し始めたのを見計らい、マントを翻してガラスケースから飛び降りギャラリーに紛れる。人の間を風の如く駆け抜け音も無く彼女の傍へ近づき。トランプ銃をワイヤーが出せる様に切り替えておきながら、警部から見えない位置、彼女の背中側へ回る。周囲の人々に気付かれない内に、彼女だけにしか聞き取れないだろう極めて小さな声音で__形式上は問い掛けだが答えを聞く気は無く、攫ってしまうのは確定であるとしか感じさせない様な文言をその耳元へ囁きかけて )
__…警部の魔の手から貴女を攫ってしまっても良いですか?…お嬢さん
っ!?キ……!
( 覚悟していた痛みは全く感じる事なく、代わりに周囲と目の前の警部までもがざわめき出す。今度は一体何だと疑問に思いながら目を開ければ、確かに開いているはずの目に映ったのは…否、何も映らなかったと言う方が正しいのかもしれない。辺り一面に広がる暗闇に動揺して周囲を見渡そうとキョロキョロしていると、ふいに至近距離で聞こえた微かな声に鼓動が激しく脈打った。直接言葉を交わした事など数える程しかないが、それでもずっと応援してきた相手の、予告現場やニュース映像で何度も聞いてきたその声色を聞き間違える筈がない。何も見えはしないが、目を丸くして声の聞こえた方へ顔を傾ける。名前を呼びそうになってしまったが、咄嗟に口を塞ぎ何とか思い留まった。距離の近さや囁かれた言葉、そして目の前に自身を疑っている警部がいるというこの現状に、驚きと緊張と僅かな期待と困惑と不安──様々な感情が一気に押し寄せてきて何も言葉が出てこない。あまりにも現実味のない状況に理解が追いつかず、夢でも見ているのではないかと疑いたくなってくる。それでも有無を言わさぬ様なその問い掛けに、相手が憧れの人物であるならば尚更答えは決まりきっていた。声を出せば警部に聞かれてしまうかもしれず、無言で頷いたところでこの真っ暗闇では伝わるかどうか定かではない。少しの思案の後、衣装の端でも掴んで合図しようかと躊躇いがちに手を動かして。 )
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