常連さん 2024-10-29 22:26:54 |
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「んぇ……S2000……って無視!?」
そうしてしばらくあまり触れない夜風に当たって居ると、ここでは久しぶりに聞く他人のエンジン音が聞こえてきた。ここを使うのはいつも夕方からで、深夜帯にかけてはそう使うこともなく、まさか他にもここを使いに来る者が居たとは予想外だ。
さてそれならどんな相手が来るのだろうかと待っていれば、比較的小さなシルエットが心地良い音とともに現れた。赤い車体に鋭いノーズ、ホンダS2000とわかればこっちの排気量のほうが上だ、と鼻を鳴らしたい気分で、そろそろ帰ろうと思っていたがようやくバトルができるらしい。
と期待をしていたのだが声をかけられることもなく、目が合っただけでさっさとダウンヒルへと向かってしまって、まるで眼中にないと言われた気分だ。そんな態度をとられて、というか向こうがその気かは知る由もないが、孤独のホームコースで久方ぶりに出会った相手に対する興奮は冷めやらぬもので、すぐに愛車へ乗り込んでエンジンをかけた。ここのダウンヒルは序盤が低勾配高速コーナーの連続で、車両のパワーがモロに出てくる、こっちが出るまでのビハインドなんてすぐに帳消しにできるはずだ。勝負は追いついてからの中盤、ろくなストレートもなく低速コーナーが連続するストレス極まりない区間で、そこさえ抜ければ終盤のストレートになる。
「…っし、追いついた…!!」
あの赤い車体を捉えるまではそこそこ時間が必要だったが、中盤前のストレートでのアクセル全開が効いたのか、ようやく相手のリアをヘッドライトで照らしてやることができた。
……!さっきのシボレー……もう追いついて……!?
(普段と変わらぬ調子でのダウンヒル、好調とも言える走りを続けながらコースも中盤間近に差し掛かる頃には既に先程駐車場に居たシボレーとそのオーナーらしき少女のことは記憶の片隅からも消えており、改めてマシンとの対話に全神経を向けようとしたその時だった。高速の右コーナーを抜けた先の短いストレートで後背を照らすまばゆいヘッドライト、何事かとバックミラーにハッと目を向けるとそこにいたのは先程駐車場で見かけたシボレーで、いくら自身がここまで全開走行ではなく勾配も緩やかでパワー差がモロに出る区間だからといってあそこから追いついてくるというのは並大抵ではない、しかもわざとすぐ抜きに来ようとせず背中にピッタリ張り付くように執拗に煽ってきている。どうやらかなり厄介な相手に目をつけられてしまったらしい、目が合ったのに無視をしたのが良くなかったのかもしれない、挨拶ぐらいはしておくべきだったかなど思考を瞬時に巡らせ「……最初に礼を失したのは私……それがお望みなら私たちレーサーとしての礼儀でお応えしましょう」絡まれてバトルみたいな流れになるのが気乗りせず無視を決め込んだが、礼儀としてはなってないことをしたという自覚はあり、自らの非を認めた上で走りによる対話を望むというならここは一つ自身も全力でそれに応じようとハンドルを強く握り直し、アクセルを踏み込む。スーパーチャージャー特有のレスポンスの良さによる自然な加速力で次のコーナーのブレーキングポイントへ。久しぶりの対人で限界近くを引き出す走行、まずは感触を確かめるように普段よりもほんのワンテンポ早いブレーキングで低速コーナーへ、リアが若干滑るような感覚、破綻こそしないが若干外側へ膨らむのを感じ、まだスピードが乗りすぎていると次コーナーでの修正のイメージを思い描いて)
「なぁんだ、乗ってくれるんじゃん…!」
さっき一瞥だけで去っていった雰囲気から、もしかしたらハザードでも焚かれて譲られるのかとも思えたが、流石にそこまで冷たい奴ではないらしい。気になるご尊顔はちぎった後に拝むことにして、流れるテールが加速するのに合わせてアクセルを踏み込んだ。
「ぇっ?速くないっ…?」
S2000ならば立ち上がりで一気にお尻を叩けるくらいの相手であると思っていたが、甲高い高回転エンジンの音が響くとともに、こちらからテールが逃げていった。S2000がどんな車で何を積んでいるかなんて知らないとはいえ、あんな加速ができるような車な印象はない。さっき振ったリアもドッカンターボという訳でもないし、思わずきょとんとしながらも、馬力で対等という焦りがやってくる。
「面白いじゃんっ……!」
ただ、自分にとって焦りとは闘争心と表裏であって、闘争心は一気にこちらをハイテンションへと引き上げてくれる。負けじとアクセルを踏み続け中盤から伸びとなればこっちが上で、若干距離が狭まった。次は油断しまいと相手のブレーキポイントが何処だろうとアクセルを限界まで抜かずに、今度は右のコーナーへと入る。オーバースピードかつぶつからないギリギリでノーズを回せば、自然と車体は斜めにスライドする。ハンドリングで押さえつけてしまえば勝手に出口へ頭は向いていて、後は気持ち良くV6をふかし、赤い車体追いかけた。
車自体もそうですがこれは……!
(多少のミスがあったとはいえ、対人向けにアグレッシブに攻めにいったにも関わらずそれほど突き放すことが出来ず、むしろ背後より感じるプレッシャーが大きくなっている。車自体はエンジンに手を加えたこのS2000と比べても少し上程度という見立て、しかしそんな事だけでは到底説明のつかない乗り手の巧さを強く感じて。中学入学したての頃から相当走り込んだコース、誰よりも上手いとまでは言わずともここで車を気持ちよく走らせるコツはしっかり熟知しているという自負はあって。幸いにも先程のコーナーでの攻防で全開走行におけるコーナリングの感覚は取り戻せつつあり、先程の失敗も踏まえ微調整をかけ再びブレーキング競争へ……。大きな差ではないとはいえパワー負けしている以上自分に勝ち筋を見出せるのはこの低速セクションのみ……そこまで考えたところで自分がいつになく熱くなり、余裕がなくなっているのを感じる。この勝負は譲りたくない、らしくもなくそんな想いが自身を突き動かす。それは相手が同年代ぐらいであると知ってしまったからか、慣れ親しんだコースでの自身の走りへの自信からくる矜持からか、兎に角負けたくなかった。先程より僅かに浅いポイントで調整したブレーキング、しかしリアを流さず高回転エンジンのパワーを路面にロスなく伝えられるようタイヤが滑るか滑らないかギリギリのところでグリップを最大限に活かし、今度は概ねイメージ通りのコーナリングを決めて「つけ入る隙があるとすればあそこですね……」運動性はフロントミッドシップによる理想的な前後バランスを実現したS2000の方が上、やはりつけ入る隙があるとするならテクニカルなコーナーセクションになってくるだろう、それにおあつらえ向きのコーナーがこの先にある、急勾配の短めの高速区間から続く大きくU字に切り込み出口にかけて狭くなる右コーナーからの緩やかな左から右へ続く滝澤峠名物(と勝手に思っている)『滝落としのスネークヘアピン(命名は春風)』勝負のポイントをラストの高速セクション直前の滝壺に潜む蛇に定めるとビッグアクションは起こさず堅実にバトルを進めて)
「っ……鼻につく感じ…!」
ドライバーとしての性格が如実に表れているのか、前を行く車に大きなブレはない。対してこちらはコーナーのたびに白煙をあげさせ、あくまでアグレッシブに相手を追い立てた。トップスピードならばこちらが上なのかぴったりと張り付く時間が長いはずなのに、オーバーテイクとなるとその余裕を相手は与えてくれない。
堅実、という言葉が似合う走りだが、同時にそれは自分に最も似合わないもので、ぐぬぬと文字通りの声を漏らしながらに後を追う。
「来るならこの先のヘアピン……っ、」
相手がコチラと同じでここをホームコースにしているのはコーナーへの切り込みでわかる。であるならばこの先のヘアピンが難易度が最も高く、それでいて最も勝負のつきやすいポイントであることも共通認識のはずだ。
なぜだか知らないが前の車の加速は序盤こそ速いが中盤以降はゆっくりと一般的なレベルに落ちてくる、それがスーパーチャージャーが起因しているとは気づかずではあるが、その弱点は見抜いた。であるならば、ここからヘアピンまでの高速区間で一気に並びかけるのがこちらの狙いだ。
高速区間一歩手前の左コーナーでアウトから仕掛け、ここで鼻っ面を無理矢理に差し込もうとアタック。半ばパワースライドで横を向いた車体ならば相手のラインを無理矢理に狭め、オーバーテイクはできずとも必ず相手とサイドバイサイドへと持ち込めるはずだ。後はオーバースピードだろうと相手がつくりたいラインに入り込んでしまえばこちらのもので、次の名物ヘアピンは横並びで突っ込んでやるつもりでオーバースピード覚悟にアクセルを踏み込んだ。
「ならその前に鼻頭へし折ってあげるっ…!!」
……!?
(外側から並びかけてきた相手の自身より更に深い位置でのブレーキング、しかしそれは誰の目から見ても明らかなオーバースピードで、あれで追い抜きなどというのは到底現実的ではないだろう。しかし無策でこんな無茶なコーナリングを仕掛けてくる程稚拙な相手では無いはず……そこで初めて自分の走行ラインが既に相手の車体により限りなく限定されてしまっていることに気づく、この高速区間で完全に頭を抑えたまま仕掛けのポイントへと向かい圧倒的優位のイン側から勝負をかけるプランは完全に崩壊した。やはり相手は巧い、何より自分とは違いバトルにおいて踏んできた場数が違うのだろう、運転技術に関してはそこまで大差はなくともそこに明確な差があるように思う「完全にやられましたね……ですが」勝ち目はだいぶ薄くなってしまったものの、しかしながら闘志は潰えなかった、元より経験不足は承知していることであり今更驚くような事でも絶望するようなことでもない、自分はそれでもこれまでに積み重ねてきた愛車とコースとの対話、それに心血を注ぐことしかない、やるべき事は変わらないのだ。人事を尽くして結果的に負けるのならばそれは致し方のないことだが、ここで投げ出してしまえばこれまで自分のしてきた事全てを否定することになってしまう、それだけはダメだと針の穴を通すようなコントロールで限りなく狭められた走行ラインをロスなく抜ける。辛うじて前はキープしているがパワーで勝る相手にここでこちらがやれる事は何もない、唯一にして幸いなのはこの高速区間は決して長くは続かないということ、これがもう少し長ければパワー差を覆せずここで勝負は決まってしまっていただろう。急流を降るような急勾配はここまで、いよいよ勝敗を分けるこのコース最大の難所がやってくる……予想通り鼻面をインに差し込んでくる相手、しかしもはやそんなことは関係ない。横並びでのブレーキング勝負、相手の方は見ない……この状況自分に通せるラインは既に一本しかないからだ、心を乱さずマシンのコントロールにのみ執心し深く切り込む右を目測と寸分狂わぬライン上を滑らかに走らせる、勝負を捨てていないことを示すかのような接触スレスレの豪胆なラインどり、ここまでの走りで相手の技術を信頼しているからこそ出来ることであった)
「っうそ…!っ来るの!?ここで……!?」
体が前へと吹っ飛んで行きそうな程のブレーキの後、今度はシートへ縛り付けられるような加速が続き、相手に鼻を明かすことはできているみたいだ。無理やりなラインで失速した分は次のヘアピンでオーバースピードになろうとベタ踏みで解決したが、こんなサイドバイサイドのアウトから仕掛けるような奴は見たことがない。
だが、見たことはないだけでこんなにも身近に存在するものとは思うはずもなく、悠々自適なブレーキングの一瞬の隙を突かれてしまった。加速の分を受け止めていたブレーキの熱のせいか向こうよりもこちらは制動を長くとってしまい、赤い車体はコンマ数秒分前に出ている。その一瞬が大きな差になることは直感で理解していて、限界ギリギリのアタックには流石に目を見開かざるを得ない。
「っ゛……く…踏めないっ……!!」
ラインを塞ぐ側が今度は塞がれてしまえば、踏んだ結果最適な姿勢となるドライビングが発動をしない。ただでさえ踏むような場所じゃないキツいコーナーのインを外から押さえつけられればアクセルを抜かざるを得ず、一瞬にしてとてつもないフラストレーションが溜まってくる。
大きく凹んだ白いガードレールがここを抜けきる難しさを物語っていて、なんとか踏みたい気持ちを抑えて曲がりきる事だけに神経を集中させた。あと少し、あと少しでこのコーナーも終わって、立ち上がりで思い切り踏むことができる。相手だってラインを絞られているのは同じはずで、ここから立ち上がりならこっちにアドバンテージがあるのだ。それまでの一瞬が無限のように感じられて、息を自然と止めながらに相手との立ち上がり勝負へと入っていく。
(途轍もない集中状態で最初の攻防を優位な体勢で切り抜ける、この状況で相手の車体が半身でも前方に居ないのが何よりの証拠、細い細い勝ち筋の糸はどうやらまだ切れてはいないらしい。次の左は自身がイン側で若干こちらが有利、ここで勝利を手繰り寄せるためには立ち上がりの勝負で少なくとも互角以上のパフォーマンスが求められる「っ……しまった……!」このバトル勝てるかもしれない、そんな思いが芽生えたことでアクセルを少しでも踏もうという普段なら決して考えないような思考がよぎり、立ち上がりで一気にアクセルを踏み込む。応答よくリアタイヤへパワーが伝えられ路面を蹴っ飛ばし切れ味鋭い加速……しかし、勝負に逸ったアクセルワークの結果、らしくもないホイールスピンを起こしリアが大きく流れ軽くバランスを崩してしまう、スピンギリギリのところをなんとか押さえつけるもその一瞬のロスはこの限界ギリギリのバトルにおいては致命的だ、ここにきてつけ入る隙を与えたことで再び相手は先程のようにこちらの走行ラインを潰しにかかってくることだろう、しかも今回はこちらの方が明確に不利な状況にある、さっきのように無理矢理な攻めをせずとも悠々と相手のしたい事を通せるような状況に自分がしてしまった、悔しさを滲ませながら再び前を見据える。もうミスを挽回するチャンスは無いかもしれないがそれでも前を向き相手の全力にはこちらも最後まで向き合うのだと横に並びかける相手の車体一瞥し左コーナーへ)
(/尺稼ぎ描写失礼いたします、お互いのスタイルの対比みたいなのはここまでで上手く出せたかなと思っているのですが、このバトルの決着についてどんな形を考えているか確認しておく必要があるかなぁと思いまして、お考えをお聞かせいただければと)
「やった……!勝った!!」
突発的に始まったにしては限界ギリギリの勝負が立ち上がりで起きて、FR同士どちらがどれだけ恐れずに踏んだかで勝敗が決まる。隣の様子なんて気づかないまま両者ともにアクセルを踏み込んだが、2人仲良くホイールスピンを起こした。彼女はおそらくS2000特有の高回転のツケが回ってきて、こちらは横Gが抜けきる前に我慢ができずに踏み込んで、そんな互いに違う理由で同じような挙動を起こし、低速ながらも接触ギリギリのコーナーが終わった。
だがここからのトラクション勝負なら僅かにこちらに分がある。コーナリングマシンの短いホイールベースと違って、こちらの長い車体と重さが限界を引き上げてくれている。この勝負はこっちがもらった。
「――――ぇっ…?」
だが、そんなニヤついた顔を突然背後からライトに照らされる。さっきのS2000がそんなに早く後ろに行くわけがない。なら今後ろについた車は何だ。バックミラーで確認しようにも暗い峠ではそこにもう一台何かがいる、ということしかわからない。さっきまで二人分のスキール音しかしていなかったはずなのに、気づけばドロドロとした歪なエンジン音が後ろから迫ってきている。
只者ではない、そんなプレッシャーに普段のアクセル狂いも鳴りを潜めて、後ろから首元を噛みちぎられそうな圧倒的な威圧に冷や汗を浮かばせる。
車種はまだわからない、だがワイドなボディからして化け物地味た雰囲気を感じさせる。だからといってこんなところで譲るわけがなく、そのまま三つ巴のバトルが始まった。ここからは中盤の終わり際で、狭い道幅のせいで2台並んだ今、後ろの謎の車に抜かれる理由はない。だがここを越えて終盤のコースに入れば道幅は突然広くなり、高速道路整備用の二車線道路が現れる。そのうえ低速と高速コーナーが交互にやってくるここではライン取り次第で如何様にも配置が変わる場所で、車とテクニックの両方が求められる。
ならば尚更引く気にはなれず、少し癪だがアクセルを抜いてまたS2000の背後につけば、自分、そして後ろの車の一列となった。こっちはもうハイテンションゾーンには入っているのだ、何処の誰とも知らない2台にホームコースで負けてなるものか、とS2000のリアへ鼻先を接触寸前まで近づけた。
(/はい!まぁ見ての通りちょっと別のイベントを起こしました。ここからは三つ巴バトルになりますが……ひなのはすぐに離脱して、謎の車とのタイマンになります!)
一体何が……?
(スピン寸前の車体のコントロールを戻すのに集中していたことで背後で起きている異変に気づけなかった、ここで必ずこちらの頭を押さえつけるようにような形であのシボレーは仕掛けてくる事だろうと踏んでいたその目算は大きく外れ、後方に引いていったことに戸惑ってしまう。もしや、ここは敢えて譲って高速セクションでぶち抜くシナリオなのだろうか……いや、それはないだろう、ここまでの走りで他人をおちょくったり侮ったり、そんな事をするようなドライバーには見えなかった、むしろ気持ちの良い走りっぷりに他人との競争に然程興味のなかった自分が珍しく熱くなれる、そんな相手だった。だとすればマシントラブルか、それとも想定外の何かが起きたかの二択だ「……もう一台、いる……?」冷静に気を取り直し改めてバックミラーへと視線を向ける、そこでようやく後方にもう一台いることに気づく、いつの間にそこに?という疑念を抱くと同時に、このハイペースのバトルに軽々割って入れるその尋常ならざる気配に息を呑む「無粋な真似をしてくれますね……」只ならぬ強敵の登場への驚き、しかし同時に自分たちのバトルに水を差す存在への怒りがふつふつ込み上げてくる、礼儀を重んじる性格故に礼をあまりにも欠いた乱入は許せなかったのだ。一度深く深呼吸、先頭は譲らない……そう決意を固めると不思議と頭の中がクリアになっていく気がする。車体がフラッと揺れる、そんな挙動すら掌握し完全にコントロール仕切っているかのように走行ラインを遮るものがないS2000は水を得た魚のように甲高いスキール音響かせながら左コーナーをこれまで以上の切れ味でクリアしていく)
(/了解しました!ちなみにですが、後からキャラの設定を付け足していくのってアリですか?当方、話しを進めていく中でライブ感で設定を盛っていくのが好きなたちでして、現状追加予定なのはもう一人の別人格に近いものなのですが……一応その片鱗だけ覗かせつつ、ただの極限集中状態のどちらともとれる描写でお返事書かせていただきました)
「……離れないっ、全然乗れてるはずなのに…!」
三つ巴のバトルは3台が縦に並んで続く地味な絵面になるが、ドライバーとしては最高のテンションで乗れている。前のS2000もやはり良い腕なもので、こっちが全力で飛ばしていても追いつき離されを繰り返してくれるくらいには実力がある。おそらく突出している能力が違うのかある一部分で勝ってもある一部分の技量ではしっかりと負けていて、悔しいが手放しに称賛もできる相手だ。
だが後ろからかけてくる圧はどこか違う。バトルで煽られるようなそれというより、道行く先の障害物としてカウントされているような走りが背中越しですら伝わってくる。バックミラーを見れば相手のヘッドライトが見えることはなく、リアの真後ろから照らされているらしい。ということは接触ギリギリまで詰められているということであり、その上何度ミラーを見てもずっとそれを維持している。コーナーだろうとストレートだろうと関係なく、延々と同じ間隔で追い詰めてきているのだ。そんなポテンシャルが車にあるのかドライバーにあるのか、どちらにせよこちらのハイテンションに焦りを一滴垂らして、歯車を狂わせるには十分すぎる威圧だ。
ここからは中盤も終わり道幅が広くなる。代わりにキツイ左と緩い右が交互に繰り返されるテクニカル区間で、前も後ろの車も一筋縄で勝負が決まるところじゃない。寧ろラインが自由になれば強いのはこっちのマッスルエンジンで、中盤最後のコーナーは後ろの車を引き剥がそうと思い切り踏み込んでコーナー出口へと向かう。
「へっ……消えた? っな゛っ…!?」
こちらのタイヤの限界ギリギリのグリップをしっかりと路面に伝えながらアクセルを踏み込めば、心地良いスキール音とともにトラクションがかかる。我ながら良いコーナリングで、道幅がゆっくりと広くなるここならある程度のスライドも許される。
そんな思いでバックミラーを見たが、さっきまで後ろに張り付いていた影は少しも見えず、代わりに右からヘッドライトが切り込まれた。ここは車3台も並べないコーナーの出口、いつインを差されたか知らないが、コーナーの途中で無理やりラインを変えてきたとしか思えない。なのにこっちよりも遥かに安定した様子で曲がっていくし、今気づかされたが隣の車はさっきからほんの少しもスキール音をあげていない。つまり、加速とタイヤから出るロスが0に近いのだ。
隣の車体を見る余裕もないが、ここで踏まなければ次のコーナーでカウンターをもらい負ける。何処の誰とも知らない相手に煽られたあげく負けてたまるか、と闘争心からアクセルをさらに踏み込んだが、これは明らかに悪癖だった。
当然さっきまでスライドをしていた車体は横Gと絡み合って必要以上に回頭し、気づけば車体がスピンをしていた。ブレーキとクラッチで姿勢を立て直すまでに2周くらいはしていたはずで、もうこの差は埋められない。だが、せめてあの車がどんなドライビングをしてどんなヤツなのかを見届けようと再び加速し、その背中を追った。
とてつもなく速いそれはまたs2000の後ろにぴったりと張り付いていて、かなり距離が空いてもその勝負の行く末だけはなんとか見ることができる。背後からみたあの車はブレーキランプが真横にまっすぐと伸びて、どこか丸いシルエットの下からリアタイヤがほんの少しも見えている。巨大なウイングに大きな車体、コーナーで減速したその姿を見れば、また圧倒的な格の違いに息を詰まらせた。
「ポルシェ……911 ”GT……3”!!」
(/全然大丈夫でございますよ!ここから負けイベントみたいにはなってしまいますが、是非やっちゃってください
ちなみにこのポルシェが現れた時のBGMはSpirit of the nightのイメージです()
……っ
(背後から感じるプレッシャー……などと生優しいものではない、これはもっと異質なもの、根本的に何かが自分たちとは違う。シボレーのドライバーも文句のつけようの無いぐらいの強敵だったが、その印象すらも霞んでしまうほどの存在感を放ち続けている。後ろなんて見なくてもピッタリ張り付いてきているのはシボレーではないのは明白であった、たったの1コーナーの攻防で背後で何が起こったのかはわからないがあれほどの実力を持ち合わせているシボレーのドライバーがオーバーテイクを許したのだということだけは事実で。しかし、不思議な事に背後の車からは攻撃性、闘争心が全く感じられない、ただその場に在るというだけでこの場にいる両者を呑まんとする迫力があるのだ「!?しまっ……」全くの未知との遭遇への動揺、途切れる集中力、そこでようやく明らかに自分が車両の限界を明らかに超えたような領域に踏み込みかけていることに気がつく。普段の自分なら決してしないような無茶苦茶でアグレッシブな走りが齎す未体験のゾーン、視覚的に狭まっていく道路に本能が警鐘を鳴らし、そこから更に踏み込む胆力は無かった。意識的にアクセルを緩め減速するがそれでも普段の自分からすれば明らかなオーバーペース、ヘアピン最後の右コーナーでインにつかなければいけないところが車体はアウト側へと膨らんでいき、そこを突くようにインへとノーズをやすやすと差し込まれてしまって)
(/了承いただきありがとうございます!とりあえず負けイベントということで魔物の目覚めは先送りで(流石に一度目は勝てるレースで出したいので)もう1ステージ上の可能性を匂わせる程度でここはフィニッシュとさせてください。それとももう少し引っ張った方が良かったですかね?)
「なんでこんな所に……こんな車…!」
ポルシェ911といえば言わずと知れたモンスターマシンで、車に詳しくないこっちだって知っているものだ。それでいてあの独特なワイドボディとウイング、それに加えてわざとらしいGT3だなんてエンブレムがあれば、今目の前にいる車がまったく別次元の相手だと言うのがわかる。このままプロドライバーのサーキットに持っていったて良いような車がどうしてこんな辺境の峠にいるのかはわからないが、あの車からは心底つまらなそうなオーラがにじみ出ている。
私達がつまらないというよりも、レースそのものに対する情熱やテンションというのがまったく感じられず、寧ろどこか悲しげなようにも見えてくる。なのにその車は異常な程に速い、S2000がこっちの付いていくのがやっとの領域に入ったというのにまだぴったりと張り付いていて、そこに限界の雰囲気は微塵もない。世界一の車メーカーが作った最強の車両、そのダウンフォースとサスペンションにかかればこの程度のコーナーはスキール音も鳴らさずにぬるりと、不気味なほどよく曲がっていくらしい。
エンジン音だけを響かせながら、物理法則を無視して走っていく銀色の車体は、哀愁漂う背中も相まってまるで幽霊を見ている気分だ。そんな姿もコーナー一つ抜けた先ではもう消えてしまっていて、どうやらオーバーテイクされたS2000のテールランプだけが見えていた。
「……ふぅ、まんまと幽霊にやられたね、私達。」
そうして一幕の勝負が終わり、すっかりスローダウンした二台でこの峠を走りきった。ここのゴールラインは廃小学校を過ぎたところで、ちょうどよくここには広いグラウンドに車を停めておける。S2000もお誂え向きのここに駐車しているはずで、お互いを讃えるとともにあの化け物の話をすぐにでも共感したい思いで車を降りた。
降りるなり小さく息をつき、車に張り付いた夜桜の花びらをつまみながら、バツの悪そうな顔でS2000の方へと声をかけた。
(/いえいえ!ちょうどいい感じでございます。覚醒イベントは楽しみですねぇ。
この後は自己紹介でお互いを認知してもらいましょうっ)
お化けではなくポルシェでしたよ?911 GT3……改めて初めましてですね、私は邑崎春風と申します。はるかぜと書いて春風です
(結局バトルは完全に水を差された形となり有耶無耶な決着に終わる、あの銀色のモンスターマシンを駆るドライバーは自分たちのことなど歯牙にもかけていなかった、戦う土俵にすら上がれていなかった自分たちが勝敗を語ることすらおこがましいことだろう。悔しさよりも一気に脱力感が押し寄せてくれば、あのシボレーのドライバーと示し合わせたわけではないが廃小学校のグラウンド内に愛車を停めて降りては側にある桜の木の下に立ち、少し遅れて入ってくるその車体を視線で追い。やがて停車した車内から降りてきたのはやはり遠目に見た印象どおり自分と同年代ぐらいの少女で、開口一番あのポルシェについて触れてくる彼女へ向けてそれが比喩表現とはなんとなく頭で理解しつつもゴーストや魔物の類ではなくれっきとした実在する車種であると、キチンと車名を口にして訂正をしてしまったのは元来の真面目さ故か、そんな風になんとなくズレたやり取りをしながら、無粋な乱入者が現れるまで共に熱いドッグファイトを演じた彼女へと改めて感謝と敬意を示し恭しくお辞儀をして名乗って)
「んぐ……あぁんなのお化けみたいなものでしょ」
降りてきた彼女は如何にも大和撫子といった様子で、堅実な走りをしていた姿から想像していた通りの見た目だ。ただうちに秘めるスピリットはさっきのバトルでしっかり感じさせてもらって、最後に見せたアグレッシブなドライビングの片鱗からして、気は合いそうではある。まぁちょっと冗談が通じないタイプらしいのでお堅い話にはついてけそうにないけれど。
「私はひなの、昼間はここで走り込んでるの。」
と彼女の姿をじっと見るのもほどほどにして、こちらも向き直ればしっかりと名前を伝えておくことにした。周りじゃ同じホームコースでのバチバチのライバルで険悪な子達も多いけれど、こんなド田舎の廃道で出会える人に対して突き放すようなことはできない。寧ろこの難しいコースを知る仲として、そして珍しい同年代のドライバーとして、快活な笑みとともに挨拶を交わした。
「あっ、そーだ、そのS2000……速いよね…どこか弄ってるの?」
そうですね……確かにあの物理法則を無視したような挙動は超常現象と言ってもいいぐらいではありましたが……
(一度は否定してみたが実際に目の当たりにしたあのポルシェの走りを改めて思い返して見ればあまりにも規格外、まるで空想上の伝説の生き物を実際に目の当たりにしたかのようなインパクトがあり、お化けという表現も強ち全くの出鱈目という訳でもないかもしれないと思い直しながら、彼女の言葉に耳を傾ける。話を聞けばやはりこのコースをかなり走り込んでいるらしい、そうであればスタイルは違えど走っていて思考がところどころでリンクするような、抑えるべきポイントは抑えたあの走りにも合点がいくというもの。そしてあの気持ちのいい走りっぷりから感じた印象そのままの快活で裏表のない気のいい少女といった雰囲気で個人的に人間として好感を持て「機械式過給機……一般的にはスーパーチャージャーと呼ばれるものを搭載し、応答性と中低速域での出力を高めてあります。コーナリングマシンとしての側面を持つこれ(S2000)には最適なチューニングであるかと。最高出力を高めても限度はありますし何よりターボエンジンは少々音が……」自身にとって関心の強いメカニック分野への質問、饒舌になってエンジンのチューニングについて話しはじめ、利点を話すが単純に他者より速く走らせるための拘りというよりは最後に付け加えた一言が本音であるようで)
「ぉ?お、おぉ、う、うん。音……」
彼女の車について尋ねればぱっと彼女の顔色が変わった気がして、次の瞬間には熱く改造を語られていた。スーパーチャージャーくらい私でもわかるし、たしかターボと違って低速域でも安定した出力が得られるものだった気がする。たしかにこのS2000はこんなスリムな格好をしながらもドカンと加速をしていったし、あの異常な加速はそういうことらしい。
まぁそれよりも私は彼女のギャップに気圧されていて、あんなに凛とした様子で物腰柔らかって雰囲気だったのが一気にこんな早口になるのは想像がついていなかった。この世界にいるのだから車に対する情熱は人一倍あっても不思議ではないが、こういう見た目でこんなタイプなのは初めて見た。
「音?音なんてあってなんぼじゃない?」
と彼女の印象の話はさておいて、彼女のいう音が……というのはどういう意味でかとまた尋ねた。私はエンジンが吹き上がる音やタービンが空気を飲み込んでいく音なんかは大きければ大きい程テンションがあがるタイプだ。減速時にアフターファイアが鳴る時だって高揚するもので、彼女はそういう所は見た目に違わずおしとやかなんだろうか。
いいえ、確かにエンジンサウンドは運転を楽しむ上で気分を高揚させてくれる良きスパイスになりますが、過ぎれば車との対話を阻害する劇毒となってしまいます
(表面上だけではわからない深い部分での仲間意識のようなものを感じたものの、どうも価値観に関しては彼女とは一致とはいかないらしい、むしろ真逆であるとすら言える意見の対立に彼女が初対面の相手だということも忘れていつになくムキになって自分が愛車に求めるのがあくまでも自然なフィーリングであることなのだということなど持論を熱く語ってしまい「……コホン、失礼いたしました。っと、もう、こんな時間……明日は入学式だというのに少し羽目を外し過ぎてしまいました……明日に支障が出ますので私はこれにて失礼いたしますね」熱く語り終えてから、ふと相手は友人でもなんでもないのにこんなにも自分の意見を押し付けるように語って何をしているのかと、自らの行いを恥じるよう気まずそうに小さく咳払い。それからチラリとスマホで現在時刻を確認すると結構ないい時間で、流石に入学式前日ぐらいは控えるべきだったかとも思うがどうしても日課をこなさずにはいられず、ポツリと入学式について独り言のように呟くと改めて相手に向き直り一つお辞儀をして踵を返そうとして)
「た、対話?ど、毒……?」
こっちがきょとんとした様子で何気なく尋ねたことは彼女にとって深い拘りがある部分らしく、さらに勢いを増して返事が返ってきた。なんだか難しい表現をするもので、こんな綺麗な見た目をしているのにもしかして相応の変人なんじゃないかと早くも気づいてしまった気がする。いやだいたいS2000にスーパーチャージャーなんて見たことないし、静かで落ち着いた雰囲気から繰り出される高回転はまさしく車の印象とぴったりだ。
「て、ぉわ、こんな時間…!う、うん、じゃあまた!」
と彼女が時計に目を落とせばこちらも携帯の画面に映る時間を確認して、気づけば日を跨いで随分経ってしまった。こっちは明日入学式というのになんの準備もしていなくて、彼女が踵を返したのと同時にこっちも慌ててドアを開けた。窓越しに手を降ってまたの再会を願って、そのまま走りだした瞬間にさっきの彼女の発言を独り思い出した。
「ん……?入学式…??」
(この辺で場面転換しますね。
翌日、入学式も終わってホームルームも終わり、下校の時間になります。ただ大部分の生徒は部活動見学にいくので、2人はそこで出会う流れになります。
第二話みたいな形になりますので、こちらが後ほど書き出します!)
「ぇ゛っ、昨日の……」
なんとか間に合った入学式を終えて新しい学校生活がはじまれば、初めての刺激にワクワクが止まらない。身長に合わせたら少し胸のキツイ以外はセーラーもなかなか悪くないもので、新しい友達もできそうでのあり、これなら必死に勉強してここに入った甲斐があるものだ。
ただもっとこちらが楽しみににしているのはもちろん部活動で、この田舎の区で数少ない自動車部のために入学をしたのだ。ホームルームが終わって各々好きな部活動の見学に知り合った子は行くみたいだが、残念ながら私はテニスもダンスも興味はない。一目散に向かうは自動車部で、さっき運動場の隅にあったガレージっぽい建屋を目指して歩みを進めた。
ただ大きなガレージの前に人はおらず、古びたシャッターが閉まっているだけだ。どうにも人気がないのが気になるけれど、もっと気にするべきは見覚えのある顔が同じくシャッターの前にいる事だ。文字通り昨日の今日で忘れる顔でもなく、制服で雰囲気が変わっているがあのS2000のハンドルを握っていた彼女だろう。
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